説明

ディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構

【課題】テコ式ブレーキ摺動型リンク機構に摩擦部材により所定のフリクションを与えておくことにより、リンク機構のふらつきを防止できるテコ式ブレーキ摺動型リンク機構を提供する。
【解決手段】基体と、その基体2に対して球面軸受を介して全方向に自由度を有して旋回および揺動可能に支持された一対のブレーキアーム1と、基体側に設けたアクチュエータ6と、前記アクチュエータにより作動するリンク機構5を備え、前記アクチュエータの作動によりリンク機構を介して前記一対のブレーキアームの一端部を揺動・押圧し前記ブレーキアームの他端部に設置されたブレーキパッドをディスクロータに押圧するように構成されたディスクブレーキにおいて、前記リンク機構のストラッドロッド9に摩擦部材13を配置したことを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体側に設けたアクチュエータの作動によりリンク機構を介して一対のブレーキアームの一端部を揺動・押圧し前記ブレーキアームの他端部に設置されたブレーキパッドをディスクロータに押圧挟持するように構成されたディスクブレーキにおいて、前記ブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構に摩擦部材により所定のフリクションを与えておくことにより、リンク機構のふらつきを防止できるディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置にあって、特に鉄道車両用のディスクブレーキ(鉄道車両用キャリパブレーキ)では、ブレーキが取り付けられるばね上とディスクロータが取り付けられるばね下との相対移動が大きいことから、これに対応できる機構が要求され、一般的には大きな相対移動に容易に適応できるリンクの連結による梃子式のブレーキが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−315422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来例について、図5を参照して構成を簡単に説明すると、この鉄道ディスクブレーキ装置(鉄道車両用キャリパブレーキ)は、ディスクDを挟圧するところのブレーキパッドを取着したブレーキヘッド207、207がそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバー(ブレーキアーム)206、206と、進出方向または退避方向の少なくともいずれか一方へ駆動される可動ロッド215を備えるアクチュエータ214を備えており、また、このディスクブレーキ装置201は、可動ロッド215に枢結される回転伝達アーム216と、この回転伝達アーム216に係合する伸縮軸210を備えている。この装置では、アクチュエータ214の進出に伴う回転伝達アーム216の押出し回転により、ネジ機構によってネジ体213が外方へ押し出されて、ブレーキアーム206、206を支持ピン205の回りにて揺動させ、ブレーキパッドを取着したブレーキヘッド207、207がディスクDを挟圧して、ブレーキ動作が行われる。ブレーキパッドが摩耗すると、回転伝達アーム216の超過ストロークにより、基体に固定された隙間調整棒221にカム板219の切欠部220の端部が接触して、ウォームギヤ217が回転し、隙間調整ギヤ218が回転して自動隙間調整がなされる。
【0005】
前記従来例のものでは、可動ロッド215の進出動作は、回転伝達アーム216を介して伸縮軸210の伸張動作に変換され、かつ、その力を増力されてキャリパレバー206、206に伝達されることとなっている。しかも、増力変換機構を構成する回転伝達アーム216に、カム板219、切欠部220、ウォームギヤ217、隙間調整ギヤ218等からなる隙間調整機構が設けられているため、ディスクDとブレーキパッドとの隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置201のコンパクトな構成が提供できる。
【0006】
前記した従来型鉄道車両用キャリパブレーキは、ブレーキパッドが取りつけられるバネ上とディスクが取りつけられるバネ下との相対変位が大きいため、ボディ(基体)とキャリパレバー(ブレーキアーム)の支点(テコ部)に球面軸受けを設けて自由度を持たせ、ディスクの倒れ等に対応している。
また、現在のテコ式ブレーキ(テコ支点を中心にブレーキアームを揺動させてブレーキを働かせるブレーキ方式)は、車輪中心とキャリパ中心のズレをキャンセルする方法として、キャリパブレーキ全体を揺らす方式が採用されている。
【0007】
しかし、この方式では、ディスクロータが軸方向に移動した場合、ブレーキパッドがディスクロータにより叩かれることになり、その力はブレーキアームを介してアクチュエータに伝達され、時にはアクチュエータに思わぬ障害を生ずる恐れがある。このため現在では、アクチュエータを保護するためにアクチュエータとブレーキアームとの間に平行四辺形リンクを介在させ、アクチュエータへの衝撃を緩和する方策が取られている。
しかしアクチュエータとブレーキアームとの間にリンク機構を介在させると、リンクの揺動によりテコ部のセンタリングが出来ないという問題が生じてきた。
【0008】
そこで本発明は、アクチュエータとブレーキアームとを連結するリンク機構を構成するストラッドロッドに摩擦部材を設け、その摩擦力により、リンク機構のふらつきを無くし、テコ部およびブレーキパッド部の振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明は、本発明が採用した課題を解決するための手段は、
基体と、その基体に対して球面軸受を介して全方向に自由度を有して旋回および揺動可能に支持された一対のブレーキアームと、基体側に設けたアクチュエータと、前記アクチュエータにより作動するリンク機構を備え、前記アクチュエータの作動によりリンク機構を介して前記一対のブレーキアームの一端部を揺動・押圧し前記ブレーキアームの他端部に設置されたブレーキパッドをディスクロータに押圧するように構成されたディスクブレーキにおいて、前記リンク機構のストラッドロッドに摩擦部材を配置し前記摩擦部材によりストラッドロッドの移動を制限したことを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構である。
また、前記摩擦部材は、ストラッドロッドを挟持するすり板で構成したことを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構である。
また、前記すり板は、弾性部材でストラッドロッドに押圧されていることを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構である。
また、前記すり板には摩擦材が設けられていることを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、
アクチュエータの取り付けズレやブレーキパッドの偏摩耗等により、ブレーキパッドとディスクロータの隙間が左右で均一にならないような場合、ブレーキ制動毎にストラッドロッドが左右に移動した状態を摩擦部材により保持することによりリンク機構のふらつきを防止できる。
またアクチュエータ作動時にリンク機構が左右に広がることによって、ストラッドロッドが上下に移動してしまう。そのため、ストラッドロッドを摩擦部材で挟みこむような形状とすることで、ストラッドロッドが上下動してもストラッドロッドに対して有効な摩擦力を与えられることができる。
等々の特有の優れた作用効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、アクチュエータとブレーキアームとを連結するリンク機構を構成するストラッドロッドに摩擦部材を設け、その摩擦力により、リンク機構のふらつきを無くし、テコ部およびブレーキパッド部の振動を抑制する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明に係るディスクブレーキの好適な実施例を図面に基づいて説明すると、図1(イ)は本発明のディスクブレーキの概略正面図であり、(ロ)は同ブレーキの側面図、(ハ)は同ブレーキの平面図(すり板を取り付けるボルトは省略)、図2(a)はディスクブレーキのブレーキパッドアッシイを取り除いた斜視図、(b)はブレーキパッドアッシイの斜視図、(c)はブレーキパッドアッシイを取りつけた状態のディスクブレーキの斜視図(すり板を取り付けるボルトは省略)、図3はストラッドロッドに摩擦を与えるためのすり板の斜視図、図4は、図1(ハ)中のA−A断面図である。
【0013】
図1、2を参照して本発明に係るディスクブレーキの概略的な構成を説明すると、同ブレーキは、図示せぬディスクロータに対向して配置された一対のブレーキアーム1を備えており、このブレーキアーム1は基体2に設けた支点(テコ部)3を中心に基体2に対して揺動できるように軸支持されている。支点3には球面軸受が配置され、この球面軸受によりブレーキアーム1は基体2に対して自由に揺動できる構成となっている。ブレーキアーム1の図中下端にはパッド保持部材4が取り付けられており、このパッド保持部材4に公知のブレーキパッドアッシイ4aが取りつけられている。またブレーキアーム1の図中上端には基体2上に配置したリンク機構5が結合され、リンク機構5にはブレーキアーム1を拡開作動するための公知のアクチュエータ6が結合されている。
【0014】
図2においてリンク機構5は、図示の如く基体2の上面に配置されており、このリンク機構5は第1リンク7、第2リンク8、ストラッドロッド9、アクチュエータ6に連結したアクチュエータロッド10から構成されている。第1リンク7、第2リンク8は一端側にストラッドロッド9がストラッドロッドピン11により連結され、また、第1リンク7、第2リンク8の他端側は、アクチュエータロッド10に当接または図示せぬピン等により連結され、全体として平行行四辺形リンクとして構成されている。また、第1リンク7、第2リンク8にはアクチュエータ6からの力を各ブレーキアーム1に伝達するロッド12が取り付けられている。
【0015】
第1リンク7、第2リンク8に連結されているストラッドロッド9の中間部にはストラッドロッド9を挟むように2枚の摩擦部材13(すり板:図3、図4参照)が配置されており、このすり板13は、図4に示すように弾性部材(バネ等)14を介して基体に螺合するボルト15によりストラッドロッド9を挟持している。すり板13には図3に示すように摩擦材13aが設けられており、この摩擦材13aがストラッドロッド9に対向するように配置されている。すり板13はストラッドロッド9を摩擦材13aの摩擦力により保持するが、摩擦力に打ち勝つ力がストラッドロッド9に作用すると、ストラッドロッド9はすり板13の間で摺動することになる。即ち、ストラッドロッド9は摩擦材13aの作用により、軸方向への自由な移動が制限されることになる。
【0016】
以上に構成からなるリンク機構5の作動を説明すると、先ずブレーキを作動させるためにアクチュエータ6を作動する。このアクチュエータ6の作動により第1リンク7、第2リンク8がストラットピン11を中心に左右に揺動し、この揺動によりロッド12を介して左右のブレーキアーム1先端に力が作用する。左右ブレーキアーム1の先端に力が作用すると、各ブレーキアーム1は支点3を中心に揺動し、各ブレーキアーム1の下端に取り付けたパッド保持部材4に設けたブレーキパッドアッシイ4aがディスクロータに押圧され、左右ブレーキパッドアッシイ4aによりディスクロータを挟持し、ブレーキが働く。
【0017】
この作動中、アクチュエータ6の取り付け位置がズレていたり、パッド保持部材4に設けたブレーキパッド4aに偏摩耗があってブレーキパッドとディスクロータの隙間が左右で均一にならないような場合、ブレーキ制動毎にストラッドロッド9がすり板に設けた摩擦材の摩擦力に抗して左右に移動する。そして、ブレーキを開放すると、その時のストラッドロッド9の位置がすり板13により保持される。こうしてブレーキ作動時に、常に前回ブレーキ作動時のストラッドロッド9の位置が保持されることになり、車輪中心とキャリパ中心のズレをキャンセルすることができる。また、すり板13の作用によりリンク機構5のふらつきによるテコ部(支点)およびブレーキパッド部の振動を抑制することができる。
【0018】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、すり板の形状、すり板に設ける摩擦部材の材質、形状等は設計時に適宜選定することができる。またリンク機構5のふらつきを防止するために、第1リンク、第2リンクにすり板を配置しても同様の作用効果を達成することができる。また各リンクの連結方法も自由なリンクの動きを実現できるものであれば、種々の連結方法を採用することができる。さらに、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ディスクブレーキに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(イ)は本発明のディスクブレーキの概略正面図であり、(ロ)は同ブレーキの側面図、(ハ)は同ブレーキの平面図である。
【図2】(a)はディスクブレーキのブレーキパッドアッシイを取り除いた斜視図、(b)はブレーキパッドアッシイの斜視図、(c)はブレーキパッドアッシイを取りつけた状態のディスクブレーキの斜視図(すり板を取り付けるボルトは省略)である。
【図3】ストラッドロッドに摩擦を与えるためのすり板の斜視図である。
【図4】図1中のA−A断面図である。
【図5】従来の鉄道ディスクブレーキ装置の説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ブレーキアーム
2 基体
3 支点
4 パッド保持部材
4a ブレーキパッドアッシイ
5 リンク機構
6 アクチュエータ
7 第1リンク
8 第2リンク
9 ストラッドロッド
10 アクチュエータロッド
11 ストラッドロッドピン
12 ロッド
13 すり板
13a 摩擦材
14 弾性部材(バネ等)
15 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、その基体に対して球面軸受を介して全方向に自由度を有して旋回および揺動可能に支持された一対のブレーキアームと、基体側に設けたアクチュエータと、そのアクチュエータにより作動するリンク機構を備え、前記アクチュエータの作動によりリンク機構を介して前記一対のブレーキアームの一端部を揺動・押圧し前記ブレーキアームの他端部に設置されたブレーキパッドをディスクロータに押圧するように構成されたディスクブレーキにおいて、前記リンク機構のストラッドロッドに摩擦部材を配置し前記摩擦部材によりストラッドロッドの移動を制限したことを特徴とするディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構。
【請求項2】
前記摩擦部材は、ストラッドロッドを挟持するすり板で構成したことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構。
【請求項3】
前記すり板は、弾性部材でストラッドロッドに押圧されていることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構。
【請求項4】
前記すり板には摩擦材が設けられていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のディスクブレーキのテコ式ブレーキ摺動型リンク機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68622(P2009−68622A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238757(P2007−238757)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】