説明

ディスクブレーキ

【課題】信頼性を向上させることができるディスクブレーキの提供。
【解決手段】パーキングブレーキ機構のカートリッジ190とシリンダ35との相対回転を規制する回動規制部140が、カートリッジ190に形成され曲面を有する凸部130と、シリンダ35に形成され曲面を有する凹部72とからなり、凸部130と凹部72との間には、シリンダ35の内周に弾性的に嵌合し、凹部72と同形状の弧状部202を有するステンレス鋼製のスペーサ200が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンを機械的に突出させることでパッドをディスクに押圧させて制動力を発生させるパーキングブレーキ機構を備えたディスクブレーキがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−286202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャリパのシリンダをアルミニウム合金製とした場合、パーキングブレーキ機構の回り止めのための凸部により、凸部に係合するシリンダの凹部が削られてしまうおそれがあり、ディスクブレーキの信頼性が低下する可能性がある。
【0005】
したがって、本発明は、信頼性を向上させることができるディスクブレーキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、パーキングブレーキ機構とシリンダとの相対回転を規制する回動規制部が、前記パーキングブレーキ機構に形成され曲面を有する凸部と、前記シリンダに形成され曲面を有する凹部とからなり、前記凸部と前記凹部との間に、前記シリンダの内周に弾性的に嵌合し、前記凹部と同形状の弧状部を有するステンレス鋼製のスペーサが配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ディスクブレーキの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す平面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す正面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す側断面図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキの要部を示す部分拡大側断面図である。
【図5】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディと前部分割体との回り止め状態を示す図3のX−X線に沿う断面図である。
【図6】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのスペーサを示すもので、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。
【図7】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのスペーサの中間成形品を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は正断面図である。
【図8】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキを示す側断面図である。
【図9】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキの要部を示す部分拡大側断面図である。
【図10】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキの固定ランプ部材を示すもので、(a)は正面図、(b)は下面図である。
【図11】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキのスペーサを示す正面図である。
【図12】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキのカートリッジを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0011】
図1に示すように、第1実施形態のディスクブレーキ10は、キャリア11と、一対のパッド12と、キャリパ13とを備えている。図2に示すように、キャリア11は、制動対象となる図示略の車輪とともに回転するディスク14の外径側を跨ぐように配置されて図示略の車両の非回転部に固定される。一対のパッド12は、ディスク14を介して両側に配置されディスク14の両面に対向配置された状態でディスク14の軸線方向に摺動可能となるようにキャリア11に支持される。キャリパ13は、ディスク14の外径側を跨いだ状態でディスク14の軸線方向に摺動可能となるようにキャリア11に支持されてパッド12をディスク14に押圧することによりディスク14に摩擦抵抗を付与する。なお、以下においては、ディスク14の半径方向をディスク半径方向と称し、ディスク14の軸方向をディスク軸方向と称し、ディスク14の回転方向をディスク回転方向と称す。
【0012】
キャリア11は、車両への取付穴27が形成された基板部22と、インナ側のパッド12を一対のパッドガイド28を介して摺動可能に支持する一対のインナ側パッド支持部23と、アウタ側のパッド12を一対のパッドガイド28を介して摺動可能に支持する一対のアウタ側パッド支持部25と、図1に示すようにインナ側パッド支持部23とアウタ側パッド支持部25とを連結する一対の連結部24と、図2に示すように一対のアウタ側パッド支持部25を連結するビーム部26とを有して一体的に構成されている。
【0013】
図1に示すように、キャリア11には、ディスク回転方向の両端におけるディスク半径方向外側となる一対の連結部24の位置に、ディスク軸方向に摺動可能となるように支持ピン30がそれぞれインナ側から摺動可能に嵌合されている。これら支持ピン30を介してキャリパ13がキャリア11に取り付けられる。なお、一対の支持ピン30のキャリパ13とキャリア11との間部分は伸縮可能なブーツ31でそれぞれ被覆されている。
【0014】
キャリパ13は、ディスク14を跨いだ状態でキャリア11に支持ピン30を介して支持されるキャリパボディ34を有している。
【0015】
キャリパボディ34は、図3に示すように、有底筒状のシリンダ部(シリンダ)35と、ブリッジ部36と、爪部37とを有してアルミニウム合金で一体的に構成されている。キャリパ13は、そのキャリパボディ34が、ディスク14の一方の面側にシリンダ部35が設けられ、ディスク14の他方の面側に爪部37が設けられ、爪部37とシリンダ部35とを接続するブリッジ部36がディスク14を跨いで設けられるフィスト型となっている。
【0016】
図1に示すように、キャリパボディ34のシリンダ部35におけるディスク軸方向の中間部には、ディスク回転方向両側に突出する一対のピン取付部40が形成されている。これらピン取付部40に上記した支持ピン30が固定されることになる。
【0017】
キャリパボディ34には、これらピン取付部40よりも爪部37側に、上記したブリッジ部36が、ディスク14の外周面に沿って湾曲する略板状をなして形成されている。ブリッジ部36には、ディスク半径方向に貫通する窓部42がディスク回転方向の中央位置に形成されている。この窓部42はパッド12の摩耗状態を目視確認するためのものである。
【0018】
また、キャリパボディ34には、ブリッジ部36のシリンダ部35とは反対側に、上記した爪部37が、図2に示すように、板状をなしてディスク回転方向に略一定幅をなすように形成されている。爪部37には、シリンダ部35を加工するための工具を挿通するリセス44が略半円状に凹んでディスク軸方向に貫通して形成されている。
【0019】
図3に示すように、キャリパボディ34のシリンダ部35は、筒状のシリンダ筒部50とシリンダ筒部50の軸方向の一端を閉塞するシリンダ底部51とを有し、インナ側のパッド12に対してシリンダ開口部52を対向させる有底筒状をなしている。ここで、シリンダ筒部50の内周面及び底面56をシリンダボア55と呼ぶ。また、シリンダ筒部50とシリンダ底部51とのシリンダ部35の軸方向における境界は底面56となっている。
【0020】
キャリパボディ34のシリンダ底部51には、底面56から離間してシリンダ部35の軸方向に対し直交方向に沿って断面円形状のカム穴58が形成されている。また、シリンダ底部51には、底面56の中央位置からカム穴58までシリンダ部35の軸方向に沿って貫通する断面円形状の底部孔59が形成されている。
【0021】
また、図4にも示すように、キャリパボディ34のシリンダ筒部50の内周(シリンダボア55)には、最もシリンダ底部51側に略円状断面をなす奥位置穴65が底面56と同心に形成されている。キャリパボディ34のシリンダ筒部50には、シリンダ部35内にブレーキ液を導入する流入孔64が、奥位置穴65の内周面に開口して形成されている。キャリパボディ34のシリンダ筒部50の内周(シリンダボア55)における、上記奥位置穴65よりもシリンダ開口部52側には、奥位置穴65よりも大径の断面円形状をなす摺動穴66が奥位置穴65と同心に形成されている。この摺動穴66の奥位置穴65側の端部近傍には、摺動穴66よりも大径の円環状のリング溝67が摺動穴66と同心に形成されている。さらに、シリンダ筒部50の内周(シリンダボア55)には、この摺動穴66のシリンダ開口部52側の端部近傍に、摺動穴66よりも大径の円環状のシール溝68が摺動穴66と同心に形成されており、このシール溝68よりもシリンダ開口部52側に、摺動穴66よりも大径であって大径の部分と小径の部分とからなる段差状の円環状のブーツ溝69が摺動穴66と同心に形成されている。加えて、シリンダ筒部50の内周(シリンダボア55)のシリンダ開口部52の位置には、ブーツ溝69と隣り合ってテーパ状の面取り部70が摺動穴66と同心に形成されている。
【0022】
キャリパボディ34のシリンダ筒部50には、摺動穴66のリング溝67よりも若干シリンダ開口部52側に開口するブリーダ穴71が、ディスク半径方向に沿ってブリッジ部36側に開口するようにシリンダ筒部50を貫通して形成されている。
【0023】
そして、キャリパボディ34のシリンダ筒部50の奥位置穴65の内周面には、その半径方向に凹み軸方向に延在する凹部形状の軸方向溝(凹部)72が形成されている。この軸方向溝72は、奥位置穴65と摺動穴66との段差面74からシリンダ底部51側へ底面56の手前まで延びて形成されている。軸方向溝72は、シリンダ部35の軸直交断面が軸方向位置によらず一定で、図5に示すように、湾曲面状をなす内面72aを有しており、奥位置穴65の円周方向の180度異なる二カ所に同形状で形成されている。図4に示すように、軸方向溝72の底面56側の端部は、シリンダ部35の軸直交方向に沿っており、軸方向溝72よりも底面56側には底面56側ほど徐々に断面積が狭くなる溝73が軸方向溝72と連続するように形成されている。
【0024】
第1実施形態において、奥位置穴65の内側には、ステンレス鋼板製のスペーサ200が配置されている。このスペーサ200は、図6に示すように、半円より大きい円弧状(つまりC字状)をなす基板部201と、この基板部201の中間所定位置から径方向外方に半円状に突出する、軸方向溝72と同数の二カ所の同形状の弧状部202とからなっている。なお、基板部201は、弧状部202の位置で分断されており、よって、弧状部202と弧状部202との間の中間湾曲板部203と、各弧状部202の中間湾曲板部203とは反対側の一対の同形状の端側湾曲板部204とからなっている。両側の端側湾曲板部204の対向端部間は開口部205となっている。
【0025】
スペーサ200は、その軸線方向の幅が一定とされており、その主部である基板部201がC字状をなすことで全体がC字状をなしており、その一部に弧状部202が形成された形状をなしている。スペーサ200の基板部201には、両弧状部202の両側近接位置における幅方向の中央に、径方向つまり板厚方向に貫通する貫通孔206がそれぞれ形成されている。具体的に、一方の端側湾曲板部204の弧状部202側と、中間湾曲板部203の両弧状部202側と、他方の端側湾曲板部204の弧状部202側とに貫通孔206が形成されている。なお、弧状部202は、その外面202aにおいて軸方向溝72の内面72aに密着状態で嵌合可能な形状となっている。
【0026】
このようなスペーサ200は、まず、一定板厚で一定幅の直線状のステンレス鋼板が、プレス成形で各所定位置に4カ所の貫通孔206が円形状に打ち抜かれるとともに、半円状の弧状部202が各所定位置に板厚方向同側に突出するように二カ所形成されることで、図7に示す中間成形品200’が形成される。そして、この中間成形品200’が、弧状部202が径方向外側に突出するように、板厚方向に円弧状に湾曲されることで形成される。なお、スペーサ200の幅寸法は、後述するプッシュロッド101の凸部の軸方向長さにプッシュロッド101の移動ストロークを足した長さよりも長く、軸方向溝72の軸方向長さと同等か、軸方向溝72の軸方向長さよりも短く設定されている。
【0027】
なお、自然状態にあるスペーサ200の基板部201の径は、これが配置されるキャリパボディ34の奥位置穴65の径よりも大きくされている。そして、スペーサ200は円周方向両側の端側湾曲板部204同士を近接させるように、言い換えれば開口部205を狭めるように弾性変形させられた状態で奥位置穴65に挿入されることになり、その際に、一方の弧状部202が一方の軸方向溝72に、他方の弧状部202が他方の軸方向溝72にそれぞれ嵌合されることになる。そして、スペーサ200は弾性変形の戻りで奥位置穴65に接触し自身の弾性力で奥位置穴65に保持されることになる。つまり、スペーサ200はシリンダ部35の内周に弾性的に嵌合するようになっている。
【0028】
スペーサ200は、この保持状態で、図5に示すように、弧状部202が軸方向溝72の内面72aと同形状をなすことになり、両側の弧状部202がそれぞれの外面202aにおいて軸方向溝72の内面72aに全面的に接触する。また、この保持状態で、中間湾曲板部203は、その円周方向の中央部が奥位置穴65の内周面から離間し、各弧状部202に近づくほど奥位置穴65の内周面に近接し、各弧状部202側の端部が奥位置穴65の内周面に接触する。さらに、この保持状態で、各端側湾曲板部204は、互いの間に開口部205を形成しつつ、それぞれ、円周方向の中央部が奥位置穴65の内周面から離間し、弧状部202あるいは開口部205に近づくほど奥位置穴65の内周面に近接し、弧状部202側の端部および開口部205側の端部が奥位置穴65の内周面に接触する。
【0029】
ここで、スペーサ200は、奥位置穴65内に保持されることで、図4に示す流入孔64の奥位置穴65の内周面に開口する開口部を覆ってしまうことになるが、スペーサ200には、図6に示すように径方向に貫通する貫通孔206が複数形成されているため、これら貫通孔206が、流入孔64を介してのブレーキ液のシリンダ部35内への流入出量を確保することになり、流入孔64を介してのブレーキ液のシリンダ部35内への流入出性能を維持する。
【0030】
図4に示すように、キャリパ13は、円筒状の筒部75と円板状の蓋部76とを有する有蓋筒状に形成されたピストン77を有している。ピストン77には、蓋部76側の外周部に半径方向内方に凹む円環状のブーツ溝79が形成されており、このブーツ溝79内に開口するようにその半径方向に沿って筒部75を内外に貫通する抜穴80が形成されている。ピストン77は、筒部75側をシリンダ底部51側に向けてキャリパボディ34のシリンダ部35の摺動穴66に摺動可能に嵌合される。
【0031】
また、キャリパ13は、シリンダ部35の上記したシール溝68に保持されて、ピストン77とシリンダ部35のボア55との隙間をシールする円環状のピストンシール82と、一端がシリンダ部35の上記したブーツ溝69に嵌合され、他端がピストン77のブーツ溝79に嵌合される伸縮可能なブーツ83とを有している。ブーツ83は、ブーツ溝79に嵌合することで抜穴80を閉塞するようにピストン77に取り付けられている。
【0032】
キャリパ13は、流入孔64を介して、シリンダ部35とピストン77との間に導入されるブレーキ液圧によって、ピストン77をシリンダ部35の摺動穴66内で摺動させてシリンダ部35から図3に示すパッド12の方向に突出させることによって、このピストン77と爪部37とで一対のパッド12を両側から把持することにより円板状のディスク14にこれらパッド12を接触させて押圧するものである。
【0033】
ピストン77は、ブレーキペダルへの踏み込み操作による通常制動時には、図示せぬマスタシリンダからシリンダ部35内に導入されるブレーキ液圧で、上記のようにシリンダ部35内を摺動してシリンダ部35から爪部37の方向に突出させられることにより一対のパッド12をディスク14に接触させて制動力を発生させるものであるが、シリンダ部35内には、ピストン77をこのようなブレーキ液圧ではなく機械的に突出させることにより一対のパッド12をディスク14に押圧させて制動力を発生させるパーキングブレーキ機構91が設けられている。
【0034】
パーキングブレーキ機構91は、カム機構92を有している。
このカム機構92は、上記したキャリパボディ34のカム穴58に嵌合される円弧状のベアリング93と、このベアリング93を介してカム穴58に回転可能に支持される略円柱状のカム本体94とを有している。カム本体94には、半径方向の外周面から中心方向に向けて略V字状に凹むカム凹部95が形成されている。このカム凹部95は、最も凹んだ位置をカム本体94の中心軸線に対しオフセットさせている。
【0035】
カム機構92は、カム凹部95に一端側が挿入されるとともに他端側が底部孔59内に配置されるカムロッド98を有しており、このカムロッド98は、シリンダ部35の軸直交方向に沿う軸線回りにカム本体94が回転駆動されるとカム凹部95の形状によってカム本体94からの突出量を変化させる。つまり、カム凹部95は、その底部がカム本体94の中心に対してオフセットしていることにより、カム本体94が回転するとその底部の位置が底部孔59に対して進退して、底部に当接するカムロッド98の突出量を変化させる。なお、カム本体94は、図示せぬパーキングブレーキレバーの手動操作や電動のケーブルプラーのモータ駆動等により図示せぬ連結レバーを介して回転するようになっている。
【0036】
また、シリンダ部35内には、カム機構92のカムロッド98で押圧されてシリンダ部35の軸方向に移動するプッシュロッド101が設けられている。プッシュロッド101は、前進時前側すなわちピストン77側の鉄製の前部分割体102と、前進時後側すなわちシリンダ底部51側の鉄製の後部分割体103とに、軸方向に二分割されている。
【0037】
図4に示すように、プッシュロッド101の後部分割体103は、シリンダ底部51の底部孔59内に挿通される円柱状の軸部105と、この軸部105の一端側から軸部105と同軸をなして半径方向外方に広がる円板状のフランジ部106とを有する形状に一体成形されている。
【0038】
軸部105は、フランジ部106側の一部がそれ以外の大径部107よりも小径の小径部108とされており、大径部107には、その軸方向の中間位置に、径方向内方に凹む円環状のシール溝109が同軸状に形成されている。
【0039】
さらに、軸部105には、フランジ部106とは反対側の端面からその中心軸線上において略V字状に凹むカム凹部115が形成されている。このカム凹部115にカムロッド98の他端側が挿入される。また、フランジ部106の軸部105とは反対側の外周側には、軸方向に段差状に凹む円環状の段差部116が同軸状に形成されている。フランジ部106の段差部116を除く先端面は軸直交方向に沿う平坦面となっている。
【0040】
この後部分割体103は、その軸部105がシリンダ底部51の底部孔59に摺動可能に挿通されることになる。その際に、後部分割体103のシール溝109にはリング状のプッシュロッドシール118が配設されて保持されることになり、このプッシュロッドシール118が後部分割体103の軸部105とシリンダ部35の底部孔59との隙間を常時密閉する。
【0041】
プッシュロッド101の前部分割体102は、略円柱状の軸部120と、この軸部120の一端側から同軸状をなして半径方向外方に広がる略円板状の段部121と、この段部121の軸部120とは反対側から同軸状をなして半径方向外方に広がる略円板状のフランジ部122とを有する形状に一体成形されている。
【0042】
軸部120の半径方向における外周面には段部121側の一部を除いてオネジ123が形成されている。また、軸部120の段部121とは反対側の端面の径方向の中間範囲内には、軸方向に凹んで径方向に延在する工具溝124が形成されている。
【0043】
フランジ部122には、軸部120とは反対側の面に、軸方向に凹む溝125が形成されている。フランジ部122の軸部120とは反対側の面は、溝125を除いて軸直交方向に沿う平坦面となっている。
【0044】
そして、前部分割体102には、フランジ部122の外周部に、その半径方向外方に突出する凸部130が一体に形成されている。凸部130は、フランジ部122の半径方向における外端側が軸方向において軸部120とは反対側に若干出っ張っている。凸部130は、図5に示すように、前部分割体102を軸方向から見た場合に、フランジ部122の外周部からその半径方向に沿って互いに平行に突出する一対の延出面部131と、これら延出面部131の突出先端側同士を連結させる湾曲形状の先端面部132とを有しており、フランジ部122の円周方向の180度異なる二カ所に同形状をなして形成されている。
【0045】
この前部分割体102は、フランジ部122の外径がシリンダ部35の奥位置穴65の内径よりも小さくされていて、奥位置穴65内に配置されることになる。このとき、一対の凸部130の両外端部を直径の両端とする円の直径が奥位置穴65の内径よりも大きく、一対の軸方向溝72に嵌合するスペーサ200の一対の弧状部202の内面202bにおける最も底位置を直径の両端とする円の直径よりも小さくなっている。よって、前部分割体102は、一対の凸部130を一対の弧状部202内にそれぞれ一対一で配置した状態でフランジ部122が奥位置穴65内に配置されることになり、その結果、一対の凸部130の一対の弧状部202へのそれぞれ一対一の当接で、一対の弧状部202が嵌合する一対の軸方向溝72が形成されたシリンダ部35に対しての回転が規制されることになる。言い換えれば、シリンダ部35は、前部分割体102から凸部130を介して導入される回転力をスペーサ200の弧状部202を介して軸方向溝72で受けることにより、前部分割体102の回転を規制する。さらに言い換えれば、凸部130を内側に入り込ませることで前部分割体102の回転を規制するシリンダ部35の軸方向溝72と、凸部130との間に、スペーサ200の弧状部202が配置されている。なお、凸部130は、湾曲面形状の先端面部132で弧状部202の湾曲面形状の内面202bに当接する。
【0046】
前部分割体102は、このようにしてシリンダ部35の奥位置穴65に挿入されると、図4に示すように、フランジ部122を後部分割体103のフランジ部106に当接させることになり、また、上記のように凸部130がスペーサ200の一対の弧状部202内に配置されることでシリンダ部35に対する相対回転が規制される。なお、一対の凸部130がスペーサ200の一対の弧状部202内でシリンダ部35の軸方向に摺動することで、前部分割体102は、シリンダ部35内において、シリンダ部35に対し軸線回りの回転が規制された状態でシリンダ部35の軸方向に移動可能となり、シリンダ底部51に対して離間および近接可能となる。ここで、前部分割体102の凸部130とシリンダ部35の軸方向溝72とが、プッシュロッド101の前部分割体102を、シリンダ部35に対し、シリンダ周方向の回転を規制しつつ軸方向に移動可能とする回動規制部140を構成しており、その凸部130および軸方向溝72の間にスペーサ200の弧状部202が配置されている。
【0047】
パーキングブレーキ機構91は、シリンダ部35内においてプッシュロッド101の前部分割体102のオネジ123に、内径側に形成されたメネジ145で螺合される筒状のクラッチ部材146を有している。
【0048】
ここで、ピストン77の内径側は、蓋部76側が小径の小径内径部150とされるとともに、小径内径部150よりも開口側がこれより大径の中間内径部151とされており、さらに中間内径部151よりも開口側がこれより大径の大径内径部152とされている。小径内径部150および中間内径部151の間には、小径内径部150側から順に、小径内径部150と連続して中間内径部151側が大径となるように傾斜するテーパ面部153と、テーパ面部153の大径側より大径で円環段差状をなす段差部154と、段差部154と連続して中間内径部151側が大径となるように傾斜し中間内径部151に連続するテーパ面部155とが、小径内径部150および中間内径部151と同軸状に形成されている。
【0049】
また、ピストン77の内径側には、大径内径部152と段差部154とを繋ぐように、中間内径部151およびテーパ面部155を貫通する連通溝158がこれらの形状に倣いながら軸方向に形成されている。中間内径部151には、円環状の係止溝159が形成されており、小径内径部150の蓋部76側に上記した抜穴80が形成されている。
【0050】
クラッチ部材146は、先端側がピストン77の小径内径部150に嵌合する嵌合部163とされており、この嵌合部163と隣り合って径方向に延出するフランジ部164が形成されている。フランジ部164の嵌合部163側には、ピストン77のテーパ面部155に当接するテーパ部165が同軸状に形成されている。また、クラッチ部材146の嵌合部163には円環状のシール溝166が形成されており、このシール溝166には、リング状のクラッチ部材シール167が保持されている。このクラッチ部材シール167は、クラッチ部材146の嵌合部163とピストン77の小径内径部150との間の隙間をシールする。クラッチ部材146は、内周部の嵌合部163とは反対側にメネジ145が形成されており、内周部の嵌合部163側の端部が蓋体168で閉塞されている。
【0051】
ここで、図3に示すカム機構92を回転運動させることにより、カムロッド98でプッシュロッド101の後部分割体103を押圧すると、後部分割体103が軸方向に直動移動し、この後部分割体103で押圧されてプッシュロッド101の前部分割体102が軸方向に直動移動する。すると、この前部分割体102で押圧されてクラッチ部材146が軸方向に直動移動して、図4に示すテーパ部165においてピストン77のテーパ面部155に当接してこのピストン77をシリンダ部35に対しパッド12側に強制的に摺動させる。つまり、プッシュロッド101は、図3に示すカム機構92のカムロッド98で押圧されてその押圧力をピストン77に伝達することになる。
【0052】
なお、図4に示すプッシュロッド101のオネジ123とクラッチ部材146のメネジ145とは、プッシュロッド101とクラッチ部材146との間に互いに回転せずに所定量軸方向に移動可能なクリアランスを有している。
【0053】
また、ピストン77の蓋部76側の上記した抜穴80は、ピストン77とクラッチ部材146との隙間をブーツ83を介して大気開放させるためのものである。
【0054】
パーキングブレーキ機構91は、シリンダ部35内においてクラッチ部材146とプッシュロッド101との位置調整を行うアジャスト部171を有している。このアジャスト部171は、ピストン77の中間内径部151に形成された係止溝159に係止されるC字状の止め輪172によってピストン77とクラッチ部材146のフランジ部164との間に支持されるもので、ピストン77がシリンダ部35内に導入されたブレーキ液圧によって軸方向に移動する際には、実質的には停止状態にあるプッシュロッド101の前部分割体102に対し、クラッチ部材146を回転させながらメネジ145とオネジ123との螺合によりピストン77に追従させて軸方向に移動させる。また、アジャスト部171は、プッシュロッド101が軸方向に直動する際には、クラッチ部材146をプッシュロッド101に対し回転させることがなく、その結果、オネジ123とメネジ145とによってクラッチ部材146をプッシュロッド101と一体に直動させる。プッシュロッド101の前部分割体102は、シリンダ部35の軸方向に延びる軸部120がクラッチ部材146の軸方向位置調整のための、言い換えればクラッチ部材146と合わせた全体の長さ調整のためのオネジ123を有している。
【0055】
パーキングブレーキ機構91は、プッシュロッド101が挿入されるカバー部材(スプリングカバー)175と、このカバー部材175内に挿入されるとともに内側に前部分割体102の段部121を配置しつつ前部分割体102のフランジ部122とカバー部材175のピストン77側との間に介装されて前部分割体102を後部分割体103の方向に向けて付勢する一定径のプッシュロッド付勢スプリング176と、シリンダ部35のリング溝67に嵌合されてカバー部材175をシリンダ部35に係止してシリンダ開口部52の方向の移動を規制するC字状の止め輪177とを有している。これらカバー部材175、プッシュロッド付勢スプリング176および止め輪177もシリンダ部35内に配置されている。
【0056】
カバー部材175は、内側にクラッチ部材146が挿入されるリング状底部180と、このリング状底部180の外周端縁から軸方向一側に略円筒状をなして延出する円筒状部182とを有している。また、カバー部材175には、円筒状部182から円周方向に略一定幅でリング状底部180とは反対側に軸方向に沿って延出する延出部184が、円周方向の均等位置に複数(図4では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。なお、円筒状部182には軽量化および組み付け時の内部目視等のための抜穴183が複数形成されている。
【0057】
各延出部184の円筒状部182とは反対側の端部が径方向内側に折り曲げられて内側係止片部185となっており、円周方向に隣り合う延出部184の間位置には、円筒状部182のリング状底部180とは反対側の端部から、径方向外側に折り曲げられる外側係止片部186が複数(図4では断面とした関係上1カ所のみ図示)形成されている。互いに周方向にずれて形成されている内側係止片部185および外側係止片部186は、いずれもリング状底部180と平行をなしている。
【0058】
カバー部材175は、複数の外側係止片部186において、シリンダ筒部50のリング溝67に保持された止め輪177のシリンダ底部51側に係止されることになり、その結果、シリンダ開口部52方向への移動が規制されることになる。また、カバー部材175は、複数の延出部184の内側係止片部185が、プッシュロッドの後部分割体103のフランジ部106を係止可能となっている。
【0059】
プッシュロッド101を構成する前部分割体102および後部分割体103と、プッシュロッド付勢スプリング176と、カバー部材175とが、予め組み立てられて一つの組立体としてカートリッジ化された状態で、キャリパボディ34のシリンダ部35に組み込まれることになる。
【0060】
例えば、カバー部材175として、上記形状に対し、内側係止片部185のみが延出部184に対して折り曲げられていない状態のものを準備し、このカバー部材175の内側にプッシュロッド付勢スプリング176を挿入しリング状底部180に当接させる。そして、プッシュロッド101の前部分割体102を、軸部120を先頭にしてプッシュロッド付勢スプリング176の内側に挿入し、凸部130をカバー部材175の隣り合う延出部184の間に挿入する。そして、前部分割体102のフランジ部122をプッシュロッド付勢スプリング176に当接させる。次に、プッシュロッド101の後部分割体103のフランジ部106を、前部分割体102のフランジ部122に当接させる。そして、この状態で、後部分割体103のフランジ部122よりも前部分割体102とは反対側にて、すべての内側係止片部185をカバー部材175の径方向内側に折り曲げて形成する。これにより、後部分割体103のカバー部材175からの抜けを規制し、その結果、前部分割体102およびプッシュロッド付勢スプリング176のカバー部材175からの抜けを規制する。なお、凸部130がカバー部材175の隣り合う延出部184の間に挿入されることで、カバー部材175は、前部分割体102に対し相対回転が規制された状態となる。
【0061】
以上のようにして、プッシュロッド101を構成する前部分割体102および後部分割体103と、プッシュロッド付勢スプリング176と、カバー部材175とからなる、一つの組立体のカートリッジ190が組み上がる。なお、カバー部材175の内側係止片部185の折り曲げ位置は、カートリッジ190に一体化されたときのプッシュロッド付勢スプリング176の長さが自由長よりも短い長さとなるように設定されている。
【0062】
次に、上記のようにして組み立てられたカートリッジ190を図3に示すキャリパボディ34のシリンダ部35内(シリンダボア55)に挿入する。その前に、キャリパボディ34には、シリンダ底部51のカム穴58にベアリング93を介してカム本体94が配置されており、カム本体94のカム凹部95を底部孔59側に向けた状態で、シリンダ開口部52側からキャリパボディ34の底部孔59およびカム本体94のカム凹部95にカムロッド98が挿入されている。また、スペーサ200が、奥位置穴65に挿入され、一対の弧状部202を一対の軸方向溝72に嵌合させた状態で、自身の弾性力で奥位置穴65に保持されている。
【0063】
カートリッジ190のシリンダ部35内への挿入に当たって、カバー部材175から突出する後部分割体103の軸部105のシール溝109にプッシュロッドシール118を嵌合させる。次に、後部分割体103側を先頭にしてシリンダ開口部52側からシリンダ筒部50内にカートリッジ190を挿入する。その際に、まず、後部分割体103の軸部105をシリンダ底部51の底部孔59に挿入する。これにより、カートリッジ190がシリンダ部35の径方向の移動が規制された状態になる。
【0064】
さらに、後部分割体103の軸部105の底部孔59への挿入が進むと、通常、カートリッジ190の径方向外側に突出するように形成された前部分割体102の凸部130がシリンダ筒部50の摺動穴66の底面74に当接する。この状態から工具溝124にマイナスドライバ等を挿入して、前部分割体102を回転させ、一対の凸部130の位相を、一対の軸方向溝72に嵌合するスペーサ200の一対の弧状部202の位相に合わせる。すると、カートリッジ190のさらなる挿入が可能となり、スペーサ200の一対の弧状部202内で一対の凸部130をシリンダ部35の軸方向に移動させながら、カートリッジ190のさらなる挿入が行われることになり、後部分割体103のカム凹部115がカムロッド98に当接してカートリッジ190が停止する。なお、このとき、カートリッジ190は、カバー部材175が一対の凸部130によって前部分割体102に対して回り止めされており、一対の凸部130がスペーサ200の一対の弧状部202内に配置されることでこれら弧状部202が嵌合する一対の軸方向溝72を有するシリンダ部35に対して回り止めされる。その結果、カバー部材175と前部分割体102とがシリンダ部35に対して相対的な回転が規制されることになる。
【0065】
回動規制部140は、前部分割体102の凸部130とシリンダ部35の軸方向溝72とからなることから、カートリッジ190の径方向外側に設けられており、前部分割体102を含むカートリッジ190とシリンダ部35とのシリンダ周方向の相対回転を規制する。そして、凸部130と軸方向溝72との間に、シリンダ部35の内周に弾性的に嵌合し、軸方向溝72と同形状の弧状部202を有するステンレス鋼製のスペーサ200が配置されている。
【0066】
上記のようにしてシリンダ部35にカートリッジ190を挿入した後、シリンダ部35に止め輪177を装着する。つまり、図4に示すシリンダ開口部52から、止め輪177を挿入し、止め輪177でカバー部材175の外側係止片部186を押圧して、カバー部材175を含むカートリッジ190を、シリンダ底部51側に押し込む。すると、まず、後部分割体103のカム凹部115と図3に示すカム本体94のカム凹部95との間にカムロッド98が突っ張る状態となって後部分割体103が停止することになる。さらに、プッシュロッド付勢スプリング176の付勢力に抗してカバー部材175をシリンダ底部51側に押し込むと、図4に示すように、止め輪177が、リング溝67に嵌合してシリンダ部35に装着され、カバー部材175の外側係止片部186を係止することになる。このようにして、カートリッジ190が止め輪177によりシリンダ部35から抜け止めされた状態となる。この状態で、カートリッジ190の内側係止片部185はシリンダ底部51の底面56と当接しないようになっている。また、この状態で、カムロッド98との当接によって後部分割体103および前部分割体102がプッシュロッド付勢スプリング176を縮長させ、その長さを所定の設定長とするとともに、後部分割体103のフランジ部106とカバー部材175の内側係止片部185との間にクリアランスを生じるようになっている。このように構成することにより、プッシュロッド101の位置決めがなされるとともに、プッシュロッド付勢スプリング176は、前部分割体102を後部分割体103から所定のクリアランスの分、離間させることができるように設定されている。
【0067】
一方で、クラッチ部材シール167が装着されたクラッチ部材146をピストン77に嵌合させるとともに、アジャスト部171を止め輪172でピストン77に係止させることで、ピストン77、クラッチ部材146およびアジャスト部171を別のピストン組立体191としておく。
【0068】
そして、キャリパボディ34において、シリンダ開口部52から挿入したピストンシール82をシリンダ筒部50のシール溝68に嵌合させるとともに、ブーツ83の一側をシリンダ部35のブーツ溝69に嵌合させてから、上記のピストン組立体191を、ピストン77の開口側を先頭にしてシリンダ筒部50の摺動穴66内に嵌合させ、そのクラッチ部材146のメネジ145にカートリッジ190のプッシュロッド101のオネジ123を螺合させる。これにより、ピストン組立体191がシリンダ部35内に配置される。そして、ブーツ83の他側をピストン77のブーツ溝79に嵌合させる。
【0069】
以上のようにして、キャリパ13が組み上がる。
【0070】
このような構成のディスクブレーキ10では、図示せぬパーキングブレーキレバーあるいはパーキングブレーキペダルが操作されることによりカム機構92のカム本体94が回転すると、カム部材39のカム凹部95がカムロッド98の突出量を小から大へ変化させることになり、これにより、後部分割体103および前部分割体102が当接状態のままディスク14側に直動移動する。すると、プッシュロッド101の前部分割体102はその一対の凸部130を、シリンダ部35の一対の軸方向溝72に嵌合するスペーサ200の一対の弧状部202内で移動させながら、シリンダ部35に対し非回転でディスク14の方向に移動する。すると、この前部分割体102と一体にクラッチ部材146が移動して、ピストン77をディスク14の方向に移動させて、機械的に一対のパッド12をディスク14に押し付ける。
【0071】
他方、通常のブレーキペダルによるブレーキ操作でブレーキ液圧がシリンダ部35とピストン77との間に導入されると、ピストン77にはピストンシール82による受圧面積に対し液圧が作用してディスク14の方向への推進力が発生することになるが、クラッチ部材146にもクラッチ部材シール167による受圧面積に対し液圧が作用してディスク14の方向への推進力が発生し、初期においてはメネジ145およびプッシュロッド101のオネジ123における螺合のクリアランス分回転せずに軸方向に移動してピストン77を押すことになる。
【0072】
そして、さらにブレーキ液圧がシリンダ部35内に導入されて、所定液圧以上になると、クラッチ部材146へ作用する液圧でクラッチ部材146がピストン77に押し付けられることになり、ピストン77に液圧が作用してディスク14の方向への推進力が発生することになり、クラッチ部材146にも液圧が作用してディスク14の方向への推進力が発生することになる。
【0073】
このとき、一方で、プッシュロッド101の後部分割体103にも、プッシュロッドシール118による受圧面積に対し液圧が作用して、ディスク12に対し反対方向への推進力が発生することになるが、プッシュロッド101が、上記のように前部分割体102と後部分割体103とに二分割されていることから、後部分割体103のディスク12に対し反対方向の推進力を、前部分割体102に生じるディスク12の方向への推進力から分離する。このようにして、高液圧時のピストン出力の損失を抑制するようになっている。
【0074】
ここで、上記した特許文献1のディスクブレーキでは、パーキングブレーキ機構を構成する一つの組立体のカートリッジに設けられた凸部が、キャリパのシリンダに形成された凹部に入り込み、これら凸部と凹部とが当接することで、カートリッジとシリンダとのシリンダ周方向の相対回転を規制するようになっている。このため、軽量化を主目的としてキャリパの少なくともシリンダをアルミニウム合金製とした場合、パーキングブレーキ機構の凸部によりシリンダの凹部が削られてしまい、ディスクブレーキの信頼性が低下する可能性がある。
【0075】
これに対し、第1実施形態のディスクブレーキ10によれば、アルミニウム合金製のキャリパボディ34のシリンダ部35と、パーキングブレーキ機構91を構成するカートリッジ190とのシリンダ周方向の相対回転を規制する回動規制部140が、カートリッジ190に形成され曲面である先端面部132を有する鉄製の凸部130と、シリンダ部35に形成され曲面である内面72aを有する軸方向溝72とからなり、これら凸部130と軸方向溝72との間に、シリンダ部35の内周に弾性的に嵌合し、軸方向溝72と同形状の弧状部202を有するステンレス鋼製のスペーサ200が配置されている。したがって、凸部130に大きな回転力が作用しても軸方向溝72に凸部130が直接当接することがないため、鉄製の凸部130でアルミニウム合金製のシリンダ部35が削られてしまうおそれがなくなり、削り取られる異物のコンタミを防止して、信頼性を向上させることができる。
【0076】
また、スペーサ200は、ステンレス鋼以外の鋼板やこれに適切な表面処理を施したものでも良いが、ステンレス鋼を用いることで、プッシュロッド101の摺動性が良くなり、パーキングブレーキ機構の応答性が向上する。
【0077】
しかも、スペーサ200は、シリンダ部35の内周に弾性的に嵌合し、その弧状部202が軸方向溝72と同形状をなしているため、軸方向溝72に対して弧状部202がシリンダ周方向に移動することがなく、弧状部202でアルミニウム合金製のシリンダ部35が削られてしまうこともない。よって、信頼性をさらに向上させることができる。
【0078】
また、スペーサ200は、全体がC字状に形成されており、その一部に弧状部202が形成されているため、シリンダ部35の内周への弾性的な嵌合を容易かつ確実に行うことができる。よって、信頼性をさらに向上させることができる。
【0079】
また、シリンダ部35のスペーサ200の嵌合部位である奥位置穴65に作動液であるブレーキ液の流入孔64が開口しており、スペーサ200は、この流入孔64を覆ってしまうことになるが、スペーサ200には、複数の貫通孔206が設けられているため、これら貫通孔206が、流入孔64を介してのブレーキ液のシリンダ部35内への流入出量を確保することになる。したがって、流入孔64を介してのブレーキ液のシリンダ部35内への流入出性能を維持することができる。
【0080】
また、凸部130が、カートリッジ190内を軸方向に移動するプッシュロッド101に形成されているので、凸部130によりシリンダ部35の軸方向溝72の湾曲面状内面72aが削れてしまったり、そこに圧痕が生じてしまったりすると、プッシュロッド101の軸方向の摺動性が阻害されることになる。この場合でも、スペーサ200を設けることによるプッシュロッド101の軸方向の摺動性を確保することができる。
【0081】
なお、上記第1実施形態において、カートリッジ190は、前部分割体102と、後部分割体103と、プッシュロッド付勢スプリング176と、カバー部材175とにより構成されるようになっているが、このうち、後部分割体103を除いて前部分割体102と、プッシュロッド付勢スプリング176と、カバー部材175とによりカートリッジを構成するようにしても良い。また、プッシュロッドとプッシュロッド付勢スプリング176とカバー部材175とをカートリッジ化する必要はなく、別々にシリンダ部35へ組み込むようにしてもよい。
【0082】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図8〜図12に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0083】
第2実施形態においては、図8に示すように、パーキングブレーキ機構91が相違している。第2実施形態のパーキングブレーキ機構91は、図9に示すように、シリンダ底部51の底部孔59から一部を外側に突出させてキャリパディ34のシリンダ部35内に配置されるボールアンドランプ機構220を有している。
【0084】
ボールアンドランプ機構220は、回転力を直動推進力に変えるもので、シリンダ部35内に配置されてシリンダ底部51に当接する非回動の固定ランプ部材221と、固定ランプ部材221のシリンダ底部51とは反対側に設けられたボール222と、ボール222を固定ランプ部材221との間に介装するように設けられた回動可能な移動ランプ部材223とを有している。
【0085】
固定ランプ部材221は、鉄製であって主に鍛造で成形されるもので、シリンダ底部51に当接する板状の円板部225と、この円板部225の外周縁部から軸線方向一側に全体として円筒状をなして一定高さ立ち上がる側壁部226とを有するカップ状に形成されている。円板部225には、その中央に軸線方向に貫通する貫通穴227が形成されている。また、円板部225の側壁部226側の面には、貫通穴227と側壁部226との間位置に、ランプ溝228が円周方向の均等位置に複数(図8において一カ所のみ図示)形成されている。ランプ溝228は、図示は略すが、円板部225の円周方向における中央を中心とした鏡面対称形状に形成されており、円板部225の円周方向における中央部が最も深く円板部225の円周方向における両側ほど浅くなる形状をなしている。固定ランプ部材221においては、これらランプ溝228にボール222が配置される。
【0086】
そして、固定ランプ部材221の円板部225の外周部に、その半径方向外方に突出する凸部230が一体に形成されている。凸部230は、図10(b)に示すように、固定ランプ部材221を軸方向から見た場合に、円板部225の外周部から半円状に突出する湾曲形状の外面部231を有しており、円板部225の円周方向の120度異なる三カ所に同形状をなして形成されている。
【0087】
図9に示すように、第2実施形態においても、キャリパボディ34のシリンダ筒部50の奥位置穴65の内周面に、第1実施形態と略同様の軸方向溝72が形成されている。第2実施形態の軸方向溝72は、一定断面形状でシリンダ底部51の底面56まで形成されている点と、奥位置穴65の円周方向の120度異なる三カ所(図9において一カ所のみ図示)に形成されている点とが、第1実施形態に対して相違している。
【0088】
また、第2実施形態においても、奥位置穴65の内側には、ステンレス鋼板製のスペーサ200Aが配置されている。第2実施形態のスペーサ200Aは、第1実施形態のスペーサ200と略同様であり、図11に示すように、径方向外方に半円状に突出する弧状部202が、軸方向溝72と同数の三カ所形成されている点と、それに伴って中間湾曲板部203が二カ所形成されている点と、基板部201の外周面の全体がシリンダ筒部50の奥位置穴65の内周面に接触する点とが第1実施形態に対して相違している。
【0089】
図9に示すように、固定ランプ部材221は、側壁部226の外径が、シリンダ部35の奥位置穴65に嵌合された状態のスペーサ200Aの基板部201の内径よりも若干小さくされており、スペーサ200A内に略隙間なく嵌合されることになる。このとき、三カ所の凸部230の外端部を通る円の直径が、スペーサ200Aの基板部201の内径よりも大きく、軸方向溝72に嵌合するスペーサ200Aの三カ所の弧状部202の内面202bにおける最も底位置を通る円の直径よりも小さくなっている。よって、固定ランプ部材221は、三カ所の凸部230を三カ所の弧状部202内にそれぞれ一対一で配置した状態で奥位置穴65内にスペーサ200Aを介して嵌合されることになり、その結果、三カ所の凸部230の先端面部231の弧状部202の内面202bへのそれぞれ一対一の当接で、これらの弧状部202が嵌合する三カ所の軸方向溝72が形成されたシリンダ部35に対しての回転が規制されることになる。言い換えれば、シリンダ部35は、固定ランプ部材221から凸部230を介して導入される回転力をスペーサ200Aの弧状部202を介して軸方向溝72で受けることにより、固定ランプ部材221の回転を規制する。さらに言い換えれば、凸部230を内側に入り込ませることで固定ランプ部材221の回転を規制するシリンダ部35の軸方向溝72と、凸部230との間に、スペーサ200Aの弧状部202が配置されている。なお、凸部230は、湾曲面形状の外面部231で弧状部202の湾曲面形状の内面202bに当接する。
【0090】
固定ランプ部材221は、このようにスペーサ200Aを介してシリンダ部35の奥位置穴65に嵌合されると、凸部230がスペーサ200Aの弧状部202内に配置されることでシリンダ部35に対する相対回転が上記のように規制される。ここで、固定ランプ部材221の凸部230とシリンダ部35の軸方向溝72とが、固定ランプ部材221を、シリンダ部35に対し、シリンダ周方向の回転を規制する回動規制部232を構成しており、その凸部230および軸方向溝72の間にスペーサ200Aの弧状部202が配置されている。
【0091】
固定ランプ部材221の側壁部226には、図10(a)に示すように、円周方向に一定幅で軸方向に延在し円板部225とは反対側に抜ける形状の軸方向穴233が、円周方向の均等位置に複数形成されている。また、円周方向に隣り合う軸方向穴233のすべての間位置には、鉤状穴234が形成されている。つまり鉤状穴234も軸方向穴233と同数の複数形成されている。
【0092】
鉤状穴234は、側壁部226の円板部225とは反対側から軸方向に円板部225の手前まで形成された軸方向穴235と、この軸方向穴235に連続的に円周方向に隣接して側壁部226の軸方向の中間部に径方向に貫通形成された径方向穴236とからなっている。言い換えれば、軸方向穴235は側壁部226の軸方向にて円板部225とは反対側に抜ける形状をなし、径方向穴236は側壁部226の軸方向にて円板部225とは反対側に抜けない形状をなしている。
【0093】
上記した軸方向穴235および径方向穴236によって、鉤状穴234は、円板部225とは反対側が円周方向に幅の狭い一定幅の幅狭部237とされ、円板部225側がこの幅狭部237よりも円周方向に幅の広い一定幅の幅広部238とされており、また、幅広部238と幅狭部237とは側壁部226の円周方向における一側の位置を合わせており、逆側が段差状をなしている。これにより、側壁部226は、幅狭部237および幅広部238の連続する側と、軸方向穴233との間にあって固定ランプ部材221の軸線方向に立設された円周方向に一定幅の立壁部239と、幅広部238および幅狭部237の段差状をなす側における幅広部238と軸方向穴233との間にあって固定ランプ部材221の軸線方向に立設された円周方向に一定幅の立壁部240と、この立壁部240の円板部225とは反対側の端部から幅広部238を一部覆うように円周方向に延出して幅狭部237を形成する係止延出壁部241とを有している。係止延出壁部241の立壁部240とは反対側の端部には、円板部225の方向に突出する係止突出部242が形成されている。幅広部238の底面および係止延出壁部241の下面は、円板部225の底面と平行をなしている。
【0094】
ここで、固定ランプ部材221において、一定幅の立壁部239よりも、係止延出壁部241が上部に形成された立壁部240の方が円板部225からの高さが高くなっており、係止延出壁部241の円板部225側の端部である下面と、一定幅の立壁部239の円板部225とは反対側の端部である上面との固定ランプ部材221の軸線方向における位置が一致している。また、鉤状穴234は、軸方向に穴形成した軸方向穴235がボール222の直径よりも大きくされており、ボール222は、側壁部226側からこの軸方向穴235を介して固定ランプ部材221内に挿入可能となっている。
【0095】
移動ランプ部材223は、図9に示すように、軸部245と、軸部245の一端から軸部245と同軸をなして径方向に広がる板状の円板部246とを有しており、円板部246の軸部245側の面には、ランプ溝247が、円周方向の均等位置に複数(図9において一カ所のみ図示)形成されている。ランプ溝247は、図示は略すが、円板部246の円周方向における中央を中心とした鏡面対称形状に形成されており、円板部246の円周方向における中央部が最も深く円板部246の円周方向における両側ほど浅くなる形状をなしている。移動ランプ部材223においては、これらのランプ溝247に、ボール222が配置される。
【0096】
移動ランプ部材223の円板部246の軸部245とは反対側には、外径側に面取り部248が、中央に逃げ凹部249が形成されている。移動ランプ部材223の軸部245は、円板部246側が一定径の挿通部251とされ、挿通部251の円板部246とは反対側に円環状の逃げ溝252が形成され、この逃げ溝252よりも挿通部251とは反対側に全周にわたってセレーション253が形成されている。
【0097】
この移動ランプ部材223は、固定ランプ部材221のランプ溝228にボール222を配置した状態で、ボール222をランプ溝247に配置するようにして、軸部245を固定ランプ部材221の貫通穴227に挿通させることになり、軸部245をさらにシリンダ底部51の底部孔59に挿通させて、シリンダ底部51よりも外側に突出させる。ここで、シリンダ底部51の底部孔59は、外側の主穴部59aと、ボア55側にあって主穴部59aより大径の大径穴部59bとからなっている。底部孔59には、一端にフランジ部257が形成されたカラー258がフランジ部257を大径穴部59bの主穴部59a側に当接させて嵌合されており、大径穴部59bのフランジ部257よりボア55側にOリング259が嵌合されている。移動ランプ部材223は、軸部245の挿通部251において、固定ランプ部材221の貫通穴227、Oリング259およびカラー258の内側に挿通されることになり、Oリング259が移動ランプ部材223とシリンダ部35との隙間をシールする。
【0098】
移動ランプ部材223の軸部245のセレーション253は、シリンダ部35から外側に突出することになる。キャリパボディ34のシリンダ底部51の軸方向外側には、このセレーション253に嵌合することで、移動ランプ部材223を電動で回転させる電動駆動装置部260が設けられている。
【0099】
キャリパボディ34のシリンダ底部51の軸方向外側の外周側には、円環状の段差部261が形成されており、電動駆動装置部260は、この段差部261に嵌合してキャリパボディ34に取り付けられるケース262を有している。このケース262には、段差部261に嵌合するキャリパボディ取付穴263が形成されており、ケース262のキャリパボディ34側の端面には、このキャリパボディ取付穴263を囲むようにシール溝265が形成されている。このシール溝265には、ケース262とキャリパボディ34との隙間をシールするシール部材266が配置されている。ここで、キャリパボディ取付穴263は、キャリパボディ34から順に、段差部261に嵌合する嵌合穴部268と、図8に示すように、嵌合穴部268よりも若干小径のストッパ保持穴部269と、ストッパ保持穴部269よりも若干小径のリテーナ保持穴部270と、リテーナ保持穴部270よりも小径の端穴部271とが形成されて構成されている。ストッパ保持穴部269には、リテーナ保持穴部270とは反対側に円環状のリング溝272が形成されている。
【0100】
ケース262には、キャリパボディ取付穴263と平行をなして、モータ取付穴275が形成されている。このモータ取付穴275には、モータ276がそのボディ277をキャリパボディ34側に突出させた状態で、ボディ277の軸方向一側に形成されたフランジ部278において嵌合されている。ここで、モータ276のボディ277のモータ取付穴275から突出する部分にはモータブラケット279が固定されており、このモータブラケット279がケース262のキャリパボディ34側の端面に取り付けられることで、モータ276のボディ277がケース262に固定される。モータ276のボディ277とモータ取付穴275との間には、これらの隙間をシールするシールリング280が介装されている。モータ276は、その回転軸281をケース262内に突出させており、この回転軸281には外歯車282を有するモータピニオン283がその中央の嵌合穴284において嵌合固定されている。
【0101】
ケース262には、キャリパボディ34とは反対側にも開口部288が形成されており、この開口部288を塞ぐように端板289が取り付けられている。ここで、ケース262のモータ276とは反対側の端面には、開口部288を囲むように環状のシール溝290が形成されており、このシール溝290内には、ケース262と端板289との隙間をシールするシール部材291が配置されている。
【0102】
ケース262のモータ取付穴275とキャリパボディ取付穴263との間位置には、端板289に対向するように嵌合穴294が形成されている。端板289における嵌合穴294と対向する位置には、ケース262とは反対側に凹む嵌合凹部295が形成されており、嵌合穴294と嵌合凹部295とに、支持軸296がその両端において嵌合固定されている。この支持軸296は、モータ276の回転軸281と平行をなしており、この支持軸296には、合成樹脂製の段付ギア297がその中央の嵌合穴298において回転可能に保持されている。この段付ギア297には、モータピニオン283に常時噛み合う大外歯車299と、大外歯車299よりも端板289側にある、大外歯車299よりも歯数の少ない小外歯車300とが同軸に形成されている。
【0103】
端板289には、移動ランプ部材223の軸部245と同軸をなして移動ランプ部材223とは反対側に凹む嵌合凹部303が形成されており、この嵌合凹部303に、支持軸304がその一端において嵌合固定されている。この支持軸304は、上記した支持軸296と平行をなしており、この支持軸304には、合成樹脂製の段付ギア305がその中央の嵌合穴306において回転可能に保持されている。この段付ギア305には、上記した段付ギア297の小外歯車300に常時噛み合う大外歯車307と、大外歯車307の端板289とは反対側にある、大外歯車307よりも歯数の少ない小外歯車308とが同軸に形成されている。
【0104】
キャリパボディ取付穴263のリテーナ保持穴部270には、円筒部311と、円筒部311の軸方向一端側から径方向内側に突出する環状係止部312とを有するリテーナ313が環状係止部312を端穴部271側に配置して嵌合されており、リテーナ313の円筒部311の内側には内歯車314が形成されたリングギア315が環状係止部312に当接するように嵌合固定されている。
【0105】
ここで、上記した移動ランプ部材223のセレーション253には、外歯車318が形成された円板状のベースギア319がその中央のセレーション穴320において、軸方向に相対移動可能かつ相対回転不可に嵌合されている。このベースギア319には、外歯車318とセレーション穴320との間に、セレーション穴320と平行に保持穴321が形成されており、この保持穴321にピン322が挿通され、このピン322に、外歯車323を有するプラネタリギア324がその中央の嵌合穴325において回転可能に保持されている。つまり、ピン322には、軸方向の一端にフランジ部328が、他端にリング溝329が形成されており、フランジ部328においてベースギア319のプラネタリギア324とは反対側に当接し、リング溝329に嵌合されるC字状の止め輪330がプラネタリギア324のベースギア319とは反対側に配置されたスペーサ331に当接することで、ピン322がベースギア319にプラネタリギア324を保持する。プラネタリギア324の外歯車323は、上記したリングギア315の内歯車314と段付ギア305の小外歯車308とに常時噛み合う。
【0106】
キャリパボディ取付穴263のストッパ保持穴部269には、円筒部334と、円筒部334の軸方向一端側から径方向内側に突出する環状抜止部335と、円筒部334の軸方向他端側から径方向内側に環状抜止部335よりも大きく突出する環状規制部336とを有するストッパ337が、環状抜止部335をリテーナ保持穴部270側に配置して嵌合されている。このストッパ337は、環状抜止部335がリングギア315に当接してこれを保持するリテーナ313の抜けを規制することになり、環状規制部336がベースギア319のプラネタリギア324とは反対側に当接することで、ベースギア319のキャリパボディ34側への移動を規制する。なお、ベースギア319の段付ギア305側には、スペーサ339が配置されており、このスペーサ339が段付ギア305用の支持軸304に当接することで、ベースギア319のキャリパボディ34とは反対側への移動が規制される。
【0107】
そして、キャリパボディ取付穴263のストッパ保持穴部269に形成されたリング溝272にはC字状の止め輪340が嵌合されることになり、この止め輪340でストッパ337が抜け止めされる。
【0108】
以上の、ケース262、モータ276、モータブラケット279、端板289、モータピニオン283、支持軸296、段付ギア297、支持軸304、段付ギア305、リテーナ313、リングギア315、ベースギア319、ピン322、プラネタリギア324、ストッパ337、スペーサ339および止め輪340等が電動駆動装置部260に含まれる。
【0109】
そして、運転室内に設けられたパーキングブレーキ操作部が操作されると、モータ276が、その回転軸281を回転させ、モータピニオン283を回転させる。すると、モータピニオン283の外歯車282に大外歯車299で噛み合う段付ギア297が回転し、その小外歯車300に大外歯車307において噛み合う段付ギア305が回転する。すると、この段付ギア305の小外歯車308に外歯車323で噛み合うプラネタリギア324が回転(自転)することになるが、他方でプラネタリギア324は、その外歯車323が回転不可なリングギア315の内歯車314に噛み合っていることから、リングギア315上を旋回(公転)することになり、ベースギア319を回転させる。これにより、ベースギア319のセレーション穴320にセレーション253にて嵌合している、ボールアンドランプ機構220の移動ランプ部材223が、ベースギア319の回転に応じて回転することになる。すると、図9に示すように、非作動状態で、固定ランプ部材221のランプ溝228の最深部分と移動ランプ部材223のランプ溝247の最深部分とでボール222を保持していたボールアンドランプ機構220は、移動ランプ部材223の回転に応じて、ボール222が、固定ランプ部材221のランプ溝228および移動ランプ部材223のランプ溝247を、それぞれの浅い側に移動することになり、これによって、移動ランプ部材223が、そのセレーション253をセレーション穴320に対し移動させながら、軸線方向に直動作動することになる。つまり、ボールアンドランプ機構220によって、モータ276の回転運動を移動ランプ部材223の直動運動に変換する。
【0110】
パーキングブレーキ機構91は、シリンダ部35内において、ボールアンドランプ機構220の移動ランプ部材223の円板部246の軸部245とは反対側に配置される滑動円板351と、この滑動円板351を円板部246とで挟持するように、滑動円板351を介して円板部246に当接し、移動ランプ部材223の直動押圧力を受承してシリンダ部35の軸線方向に移動するプッシュロッド352とを有している。つまり、プッシュロッド352は、シリンダ部35内に配置されて、ボールアンドランプ機構220の直線運動で同方向に移動する。なお、滑動円板351には中央に貫通穴353が形成されている。
【0111】
プッシュロッド352は、図8に示すように、略円柱状の軸部356と、この軸部356の一端側から同軸状をなして半径方向外方に広がる略円板状の段部357と、この段部357の軸部356とは反対側から同軸状をなして半径方向外方に広がる略円板状のフランジ部358とを有する形状に一体成形されている。軸部356の半径方向における外周面には段部357側の一部を除いてオネジ359が形成されている。
【0112】
図9に示すように、フランジ部358は、移動ランプ部材223の円板部246の軸部245とは反対の端面と略同径をなし、移動ランプ部材223の直動押圧力を滑動円板351を介して受承する。フランジ部358には、その外周部から径方向外方に突出する円周方向に一定幅の突起360が、円周方向の均等位置に複数(図9において一カ所のみ図示)形成されている。突起360は、移動ランプ部材223の円板部246の面取り部248に沿うように、径方向外側ほど移動ランプ部材223側に位置するように傾斜する傾斜部361と、傾斜部361の先端から径方向に沿って外方に突出するスライド部362とを有している。また、プッシュロッド352には、フランジ部358の中央に、移動ランプ部材223側に突出する位置決め凸部363が形成されている。この位置決め凸部363は、移動ランプ部材223との間に滑動円板351を挟持する際に、滑動円板351の貫通穴353に嵌合されて移動ランプ部材223の逃げ凹部249に入り込み、滑動円板351を中央に位置決めして保持する。なお、プッシュロッド352には、突起360が三カ所以上形成されており、これら突起360の傾斜部361が、移動ランプ部材223の面取り部248に沿っていることで、そのフランジ部358側がこの移動ランプ部材223と同軸を維持可能となっている。
【0113】
なお、プッシュロッド352は、複数の突起360が、先端のスライド部362において固定ランプ部材221の複数の軸方向穴233に一対一で摺動可能に嵌合することになる。その結果、プッシュロッド352は、固定ランプ部材221に対して軸回りの回転が規制された状態となり、また、軸方向穴233をスライド部362が摺動することで軸方向に移動可能(つまり離間および近接可能)となっている。ここで、プッシュロッド352の複数の突起360と固定ランプ部材221の複数の軸方向穴233とが、固定ランプ部材221とプッシュロッド352との間に設けられて、移動ランプ部材223の回転方向において互いに当接して固定ランプ部材221とプッシュロッド352との相対回転を規制しつつプッシュロッド352の直線運動を許容する回止機構365を構成している。
【0114】
そして、図8に示すように、プッシュロッド352の軸部356に形成されたオネジ359に、第1実施形態と同様のクラッチ部材146がそのメネジ145において螺合している。
【0115】
よって、ボールアンドランプ機構220の移動ランプ部材223を回転運動させることにより、移動ランプ部材223をプッシュロッド352側に直動移動させると、移動ランプ部材223で押圧されてプッシュロッド352が軸線方向に直動移動し、このプッシュロッド352で押圧されてクラッチ部材146が軸線方向に直動移動して、第1実施形態と同様に、ピストン77をシリンダ部35に対しパッド12側に強制的に摺動させる。
【0116】
第2実施形態のパーキングブレーキ機構91は、プッシュロッド352の一部を覆うように設けられたカバー部材370(スプリングカバー)と、プッシュロッド352のフランジ部358とカバー部材370のピストン77側との間に介装されてプッシュロッド352をボールアンドランプ機構220の方向に向けて付勢する第1実施形態と同様のプッシュロッド付勢スプリング176と、シリンダ部35のリング溝67に嵌合されてカバー部材370をシリンダ部35に係止する第1実施形態と同様の止め輪177とを有している。
【0117】
カバー部材370は、内側にクラッチ部材146が挿入されるリング状底部371と、このリング状底部371の外周端縁から軸線方向一側に延出する側壁部372とを有するカップ状をなしている。側壁部372は、図12に示すように、リング状底部371に繋がる部分が軸方向に一定長さの円筒状をなす円筒基部373とされている。また、側壁部372には、この円筒基部373から円周方向に一定幅でリング状底部371とは反対側に軸方向に沿って延出する長延出部374が、円周方向の均等位置に複数(具体的には三カ所)形成されており、円筒基部373から円周方向に一定幅でリング状底部371とは反対側に軸方向に沿って長延出部374よりも短く延出する短延出部375が、円周方向の均等位置に複数(具体的には三カ所)形成されている。
【0118】
長延出部374のリング状底部371とは反対側の端部が径方向外側に折り曲げられて長位置係止部380となっており、短延出部375のリング状底部371とは反対側の端部も径方向外側に折り曲げられて短位置係止部381となっている。互いに周方向にずれて形成されている長位置係止部380および短位置係止部381は、いずれもリング状底部371と平行をなしている。なお、上記したように、長延出部374の延出長さは短延出部375の延出長さよりも長いことから、長延出部374の長位置係止部380のリング状底部371からの距離が短延出部375の短位置係止部381のリング状底部371からの距離よりも長くなっている。
【0119】
カバー部材370は、図8に示すように、短位置係止部381において、シリンダ筒部15のリング溝67に保持された止め輪177のシリンダ底部51側に係止されており、その結果、シリンダ開口部52方向への移動が規制されている。また、カバー部材370は、図12に示すように、長延出部374の長位置係止部380が、固定ランプ部材221の鉤状穴234に挿入・係止可能となっている。具体的に、長延出部374の長位置係止部380は、固定ランプ部材221の鉤状穴234の径方向穴236内に配置されて、側壁部226の係止延出壁部241に係止されるようになっている。
【0120】
ボールアンドランプ機構220、滑動円板351、プッシュロッド352、プッシュロッド付勢スプリング176およびカバー部材370は、予め組み立てられてカートリッジ化された状態で、キャリパディ34に組み込まれることになる。
【0121】
つまり、まず、固定ランプ部材221を円板部225を下側にして配置し、円板部225の図9に示すランプ溝228にボール222を入れる。次に、上側から、移動ランプ部材223をその軸部245を下側にして固定ランプ部材221の側壁部226の内側に挿入し、軸部245を固定ランプ部材221の貫通穴227に挿通させ、ボール222上に円板部246を搭載する。このとき、必要により移動ランプ部材223を回転させることで、固定ランプ部材221のランプ溝228からずらすことなくボール222を移動ランプ部材223のランプ溝247に当接させる。この状態で、移動ランプ部材223の円板部246が固定ランプ部材221の円板部225に対向する。次に、滑動円板351を移動ランプ部材223の円板部246上に、逃げ凹部249に貫通穴353の位置を合わせて敷設した後、プッシュロッド352をフランジ部358側を下側にして、突起360のスライド部362を固定ランプ部材221の軸方向穴233に挿入し、また位置決め凸部363を貫通穴353および逃げ凹部249に挿入しながら、滑動円板351の上に搭載する。次に、図12に示すプッシュロッド352の軸部356を内側に挿入させるようにしてプッシュロッド付勢スプリング176をプッシュロッド352のフランジ部358上に搭載する。次に、カバー部材370を、長位置係止部380および短位置係止部381を下側にして、側壁部372の内側にプッシュロッド352の軸部356およびプッシュロッド付勢スプリング176を挿入し、プッシュロッド352の軸部356をリング状底部371の内側に挿入するようにして被せる。
【0122】
以上のようにして、固定ランプ部材221に、ボール222、移動ランプ部材223、滑動円板351、プッシュロッド352、プッシュロッド付勢スプリング176およびカバー部材370を、この順番で組み付け、長延出部374の位相を、固定ランプ部材221の鉤状穴234の幅狭部237に合わせて、カバー部材370を固定ランプ部材221側に押圧し、プッシュロッド付勢スプリング176を縮長させながら、長延出部374の長位置係止部380を、図10に示す幅狭部237に挿入し、長位置係止部380が、係止突出部242よりも下側に位置したところで、カバー部材370を固定ランプ部材221に対して相対回転させて、長位置係止部380を幅広部238内で係止延出壁部241の鉛直下側に位置させて、押圧を解除する。
【0123】
すると、カバー部材370は、図12に示すように、プッシュロッド付勢スプリング176の付勢力で長位置係止部380を係止延出壁部241に当接させる。これにより、プッシュロッド付勢スプリング176の付勢力でカバー部材370の長延出部374の長位置係止部380が、固定ランプ部材221の係止延出壁部241に当接した状態を維持することになり、固定ランプ部材221の鉤状穴234に係止されることになる。しかも、長位置係止部380は、固定ランプ部材221の係止突出部242および立壁部240で回転が規制されることになって、カバー部材370が固定ランプ部材221に取り付けられる。そして、この状態で、短延出部375の短位置係止部381の位相が、固定ランプ部材221の幅狭部237に合い、短延出部375の短位置係止部381が幅狭部237内に挿入可能となる。なお、上記の取り付けが可能となるように、長延出部374の長位置係止部380の位相を幅狭部237に合わせた状態で、短延出部375の短位置係止部381の位相は、高さの低い立壁部239に合うことになり、この立壁部239の高さは、長延出部374の長位置係止部380を幅狭部237に挿入して係止突出部242よりも下側に位置させてから短延出部375の短位置係止部381を当接させる高さとなっている。
【0124】
以上によって、ボールアンドランプ機構220、滑動円板351、プッシュロッド352、プッシュロッド付勢スプリング176およびカバー部材370が、予め一つの組立体としてのカートリッジ390とされ、パーキングブレーキ機構を構成する。
【0125】
上記のようにして組み立てられたカートリッジ390をキャリパボディ34のシリンダ部35内(シリンダボア55)に組み込むことになるが、その前に、キャリパボディ34の図9に示す底部孔59にカラー258およびOリング259が配置され、スペーサ200Aが、三カ所の弧状部202を三カ所の軸方向溝72に嵌合させた状態で奥位置穴65に保持される。
【0126】
そして、図8に示すキャリパボディ34のシリンダ部35内の奥位置穴65に、カートリッジ390を、その軸方向に突出する移動ランプ部材223の軸部245側を先頭にしてシリンダ開口部52側からシリンダ筒部50内に挿入する。その際に、まず、図9に示す移動ランプ部材223の軸部245をシリンダ底部51の底部孔59内のOリング259およびカラー258内に挿入する。これにより、カートリッジ390がシリンダ部35の径方向の移動が規制された状態になる。
【0127】
さらに、移動ランプ部材223の軸部245の底部孔59への挿入が進むと、通常、カートリッジ390の径方向外側に突出するように形成された、固定ランプ部材221の凸部230がシリンダ筒部50の摺動穴66の底面74に当接する。この状態からカートリッジ390を回転させ、三カ所の凸部230の位相を、軸方向溝72に嵌合するスペーサ200Aの三カ所の弧状部202の位相に合わせる。すると、カートリッジ390のさらなる挿入が可能となり、スペーサ200Aの三カ所の弧状部202内で三カ所の凸部230をシリンダ部35の軸方向に移動させながら、カートリッジ190のさらなる挿入が行われることになり、固定ランプ部材221がシリンダ底部51の底面56に当接することで、カートリッジ390が停止する。なお、このとき、カートリッジ390は、プッシュロッド352が突起360によってボールアンドランプ機構220の固定ランプ部材221に対して回り止めされており、固定ランプ部材221は、三カ所の凸部230がスペーサ200Aの三カ所の弧状部202内に配置されることでこれら弧状部202が嵌合する三カ所の軸方向溝72を有するシリンダ部35に対して回り止めされる。つまり、三カ所の凸部230と三カ所の軸方向溝72とからなる回動規制部232が、カートリッジ390の径方向外側に設けられてカートリッジ390とシリンダ部35とのシリンダ周方向の相対回転を規制することになり、三カ所の凸部230と三カ所の軸方向溝72との間に、シリンダ部35の内周に弾性的に嵌合し、三カ所の軸方向溝72と同形状の三カ所の弧状部202を有するステンレス鋼製のスペーサ200Aが配置されている。
【0128】
次に、シリンダ部35に止め輪177を装着する。つまり、シリンダ開口部52から、止め輪177を挿入し、止め輪177でカバー部材370の短位置係止部381を押圧して、カバー部材370を含むカートリッジ390を、シリンダ底部51側に押し込むと、プッシュロッド付勢スプリング176を縮長させながらカバー部材370がシリンダ底部51側に移動する。止め輪177が、リング溝67に嵌合してシリンダ部35に装着されると、止め輪177がカバー部材370の短位置係止部381を係止することになる。このようにして、カートリッジ390が止め輪177によりシリンダ部35から抜け止めされた状態となる。
【0129】
その後、第1実施形態と同様のピストン組立体191を、そのクラッチ部材146のメネジ145にプッシュロッド352のオネジ359を螺合させるようにして、シリンダ部35内に配置する。以後、第1実施形態と同様の組み立てが行われることによって、キャリパ13が組み上がる。
【0130】
このような構成の第2実施形態のディスクブレーキ10では、図示せぬパーキングブレーキ操作部が操作されることにより電動駆動装置部260のモータ276が回転しボールアンドランプ機構220の移動ランプ部材223が回転すると、ボール222を、固定ランプ部材221のランプ溝228の深さの浅い側まで移動させると同時に、移動ランプ部材223のランプ溝247の深さの浅い側まで移動させることになり、その結果、移動ランプ部材223はボール222で押されて直動移動する。すると、移動ランプ部材223は、プッシュロッド352をその突起360のスライド部362を、シリンダ部35に固定された固定ランプ部材221の軸方向穴233で移動させながら、シリンダ部35に対し非回転でディスク14の方向に移動させる。すると、このプッシュロッド352と一体にクラッチ部材146が移動して、ピストン77をディスク14の方向に移動させて、機械的に一対のパッド12をディスク14に押し付ける。
【0131】
他方、通常のブレーキペダルによるブレーキ操作でブレーキ液圧がシリンダ部35とピストン77との間に導入されると、第1実施形態と同様に、ピストン77がディスク14の方向へ移動して、一対のパッド12をディスク14に押し付ける。
【0132】
なお、本第2実施形態においても、ボールアンドランプ機構220、滑動円板351、プッシュロッド352、プッシュロッド付勢スプリング176およびカバー部材370が、予め一つの組立体としてのカートリッジ390とする必要はなく、別々にシリンダ部35へ組み込むようにしてもよい。
【0133】
以上に述べた第2実施形態のディスクブレーキ10によれば、アルミニウム合金製のキャリパボディ34のシリンダ部35と、カートリッジ390とのシリンダ周方向の相対回転を規制する回動規制部232が、カートリッジ390に形成され曲面である外面部231を有する鉄製の固定ランプ部材221の凸部230と、シリンダ部35に形成され曲面である内面72aを有する軸方向溝72とからなり、これら凸部230と軸方向溝72との間に、シリンダ部35の内周に弾性的に嵌合し、軸方向溝72と同形状の弧状部202を有するステンレス鋼製のスペーサ200Aが配置されている。したがって、凸部230に大きな回転力が作用しても軸方向溝72に凸部230が直接当接することがないため、鉄製の凸部230でアルミニウム合金製のシリンダ部35が削られてしまうおそれがなくなり、削り取られる異物のコンタミを防止して、信頼性を向上させることができる。
【0134】
また、カートリッジ390内には、ボールアンドランプ機構220が設けられ、このボールアンドランプ機構220のうち、非回動の固定ランプ部材221に凸部230が形成されているため、凸部230の軸方向移動がなく、スペーサ200Aの軸方向幅を短くすることができ、軽量化を図ることができる。
【0135】
上記の第1,第2実施形態によれば、ディスクを介して両側に配置される一対のパッドと、ピストンを有底筒状のアルミニウム合金製のシリンダに摺動可能に嵌合させるとともに前記ピストンの摺動によって前記一対のパッドをディスクに接触させるキャリパと、前記ピストンを機械的に突出させることで前記パッドを前記ディスクに押圧させて制動力を発生させるパーキングブレーキ機構と、を備えたディスクブレーキにおいて、前記パーキングブレーキ機構は、プッシュロッドとプッシュロッド付勢スプリングとが挿入されるスプリングカバーを備え、該パーキングブレーキ機構の径方向外側には該パーキングブレーキ機構と前記シリンダとの前記シリンダ周方向の相対回転を規制する回動規制部が設けられ、該回動規制部は、前記パーキングブレーキ機構に形成され曲面を有する凸部と、前記シリンダに形成され曲面を有する凹部とからなり、前記凸部と前記凹部との間には、前記シリンダの内周に弾性的に嵌合し、前記凹部と同形状の弧状部を有するステンレス鋼製のスペーサが配置されている。これにより、アルミニウム合金製のシリンダに形成された凹部に凸部が直接当接することがないため、凸部でアルミニウム合金製のシリンダが削られてしまうことがなくなり、信頼性を向上させることができる。
【0136】
また、スペーサが、シリンダの内周に弾性的に嵌合し、凹部と同形状の弧状部を有するため、凹部に対して弧状部がシリンダ周方向に移動することがなく、弧状部でアルミニウム合金製のシリンダが削られてしまうおそれもない。よって、信頼性をさらに向上させることができる。
【0137】
また、第1,第2実施形態によれば、スペーサは、全体がC字状に形成されており、その一部に弧状部が形成されているため、シリンダの内周への弾性的な嵌合を容易かつ確実に行うことができる。よって、信頼性をさらに向上させることができる。なお、スペーサは、C字状に限らず、例えば、図6(a)における一対の端側湾曲板部204を削除した半円形形状や、逆に一対の端側湾曲板部204を延ばして重ね合わせた円形形状でも良く、また、全体を円形ではなく多角形としてその一部に開口部を形成し、軸方向溝72に対応する箇所に弧状部を形成するようにしても良い。
【0138】
また、第1,第2実施形態によれば、シリンダのスペーサの嵌合部位に作動液の流入孔が開口しており、スペーサは、この流入孔を覆ってしまうことになるが、スペーサには、複数の貫通孔が設けられているため、これら貫通孔が、流入孔を介してのブレーキ液のシリンダ内への流入出量を確保することになる。したがって、流入孔を介してのブレーキ液のシリンダ内への流入出性能を維持することができる。なお、貫通孔は、作動液の流入孔に対応させて1箇所でもよく、また、流入孔をシリンダのスペーサの嵌合部位以外の部位に開口させた場合には、上記複数の貫通孔を省略することができる。
【0139】
また、第1実施形態によれば、凸部は、カートリッジ内を軸方向に移動するプッシュロッドに形成されているが、スペーサを設けることで、プッシュロッドの軸方向の摺動性を確保することができる。
【0140】
また、第2実施形態によれば、カートリッジ内には、ボールアンドランプ機構が設けられ、このボールアンドランプ機構のうち、非回動の固定ランプ部材に凸部が形成されている。このため、凸部の軸方向移動がなく、スペーサの軸方向幅を短くすることができ、軽量化が図れる。
【0141】
上述のように、凸部はプッシュロッドまたは非回動の固定ランプ部材に設けるようにしているが、これに限らず、凸部をカートリッジのスプリングカバーに設けてもよい。この場合には、カートリッジ内の回り止めが必要な部材をスプリングカバーに軸方向移動可能に係合させるようにする。
【符号の説明】
【0142】
10 ディスクブレーキ
12 パッド
13 キャリパ
14 ディスク
35 シリンダ部(シリンダ)
64 流入孔
72 軸方向溝(凹部)
77 ピストン
91 パーキングブレーキ機構
101,352 プッシュロッド
130,230 凸部
140,232 回動規制部
175,370 カバー部材(スプリングカバー)
176 プッシュロッド付勢スプリング
190,390 カートリッジ
200,200A スペーサ
202 弧状部
206 貫通孔
220 ボールアンドランプ機構
221 固定ランプ部材(ランプ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを介して両側に配置される一対のパッドと、
ピストンを有底筒状のアルミニウム合金製のシリンダに摺動可能に嵌合させるとともに前記ピストンの摺動によって前記一対のパッドをディスクに接触させるキャリパと、
前記ピストンを機械的に突出させることで前記パッドを前記ディスクに押圧させて制動力を発生させるパーキングブレーキ機構と、
を備えたディスクブレーキにおいて、
前記パーキングブレーキ機構は、プッシュロッドとプッシュロッド付勢スプリングとが挿入されるスプリングカバーを備え、
該パーキングブレーキ機構の径方向外側には該パーキングブレーキ機構と前記シリンダとの前記シリンダ周方向の相対回転を規制する回動規制部が設けられ、
該回動規制部は、前記パーキングブレーキ機構に形成され曲面を有する凸部と、前記シリンダに形成され曲面を有する凹部とからなり、
前記凸部と前記凹部との間には、前記シリンダの内周に弾性的に嵌合し、前記凹部と同形状の弧状部を有するステンレス鋼製のスペーサが配置されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記スペーサは、全体がC字状に形成されており、その一部に前記弧状部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記シリンダの前記スペーサの嵌合部位に作動液の流入孔が開口し、前記スペーサには、複数の貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記凸部は、前記カートリッジ内を軸方向に移動する前記プッシュロッドに形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記カートリッジ内には、ボールアンドランプ機構が設けられ、該ボールアンドランプ機構のうち、非回動の固定ランプ部材に前記凸部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−137482(P2011−137482A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296046(P2009−296046)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】