説明

ドラムブレーキ装置

【課題】 バッキングプレートの捩り剛性を向上させて、強度や耐久性の向上を図ることができるドラムブレーキ装置を得る。
【解決手段】 ドラムブレーキ装置31において、車体に取り付けられるマウントブラケット35は、中心の筒状部41からドライブシャフトの径方向外方に張り出してアンカーピン11が固定される第1フランジ部43の外周縁の一部を更にドライブシャフトの径方向外方に延長する形態で第2フランジ部45を形成して、第1フランジ部43及び第2フランジ部45の筒状部41の中心からの張り出し方向を略一致させると共に、筒状部41の中心とアンカーピン11とを通る仮想線49を、前記マウントブラケット35上の車体固定用の複数の取付穴45aの間を挿通するように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォークリフトのような産業用車両に好適なドラムブレーキ装置に関するもので、詳しくは、板厚増大等に頼らずに、強度や耐久性の向上を実現するための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3及び図4は、フォークリフトの前輪制動用のドラムブレーキ装置の従来例を示したものである。
このドラムブレーキ装置1は、下記特許文献1に開示されたもので、有底円筒状を成して前輪3と一体回転するドラム5と、このドラム5内に対向配置される一対のブレーキシュー7,8と、これらのブレーキシュー7,8をドラム5の内周面に向けて拡開するシュー駆動機構9と、制動時にブレーキシュー7,8の端部に当接して制動トルクを受けるアンカーピン11と、各ブレーキシュー7,8の側縁7a,8aが摺動する円盤部13aとこの円盤部13aの外周から軸線方向に延出してドラム5の外周部を覆うカバー部13bとを備えるバッキングプレート13と、このバッキングプレート13の取り付け部を有して車体に固定されるマウントブラケット15とを備えた構成である。
【0003】
マウントブラケット15は、前輪3のドライブシャフトが挿通する筒状部15aと、この筒状部15aの一端からドライブシャフトの径方向外方へ張り出した所定厚さの第1フランジ部15bと、第1フランジ部15bの外周縁よりも更にドライブシャフトの径方向外方に延出した第2フランジ部15cとを鋳造等により一体成形したものである。
第1フランジ部15bは、アンカーピン11の締結固定部となるもので、筒状部15aの中心から垂直上方に向かって張り出している。
第2フランジ部15cは、車体への締結固定部となるもので、第1フランジ部15bとは張り出し方向が異なっている。第2フランジ部15cは筒状部15aの中心から斜め上方に向かって張り出していて、その外周側には、周方向に所定間隔で、複数個の取付穴15dが形成されている。そして、これらの取付穴15dを挿通するねじ部材によって図示せぬ車体側のフレームに締結・固定される。
【0004】
図示例のシュー駆動機構9は、一対のブレーキシュー7,8の一方の対向端間に配置されて油圧で作動するホイールシリンダ9aで、一対のブレーキシュー端部を互いに離間する方向に付勢することで、一対のブレーキシューの拡開を行う。
ホイールシリンダ9aは、バッキングプレート13の円盤部13aに、固定されている。
【0005】
一対のブレーキシュー7,8は、シューホールドダウン装置7b,8bによってバッキングプレート13の円盤部13aに拡開動作可能に支承されている。
一対のブレーキシュー7,8や、シュー駆動機構9が取り付けられたバッキングプレート13の円盤部13aは、図4に示すように、スタッドボルト23を介してマウントブラケット15の筒状部15aの一端面に一体的に固定されている。
バッキングプレート13のカバー部13bは、外部からドラム5内に異物が侵入することを防止するダストカバーとして機能する。
【0006】
アンカーピン11は、バッキングプレート13の円盤部13aと、マウントブラケット15の第1フランジ部15bとの双方を挿通した状態で、ねじ部材25により締結・固定されている。
【0007】
以上のドラムブレーキ装置1は、バッキングプレート13が肉厚で強度の高いマウントブラケット15に一体的に締結され、制動トルクを受けるアンカーピン11がマウントブラケット15に固定されることから、アンカーピンをバッキングプレートのみに固定していた従来のものと比較すると、アンカーピンの支持剛性が向上し、バッキングプレート13の薄肉化や軽量化を図ることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−201203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記ドラムブレーキ装置1では、筒状部15aの中心とアンカーピン11とを通る仮想線27は、第2フランジ部15cの最もアンカーピン11側に位置する取付穴15dからも比較的に大きな角度θで離反していて、アンカーピン11に制動トルクが作用した時に、その制動トルクによってバッキングプレート13を捻る方向の力が生じる結果、バッキングプレート13や第1フランジ部15bに捩り変形が生じ易いという問題があった。
【0010】
この問題を解決すべく、バッキングプレート13や第1フランジ部15bの厚肉化を図ると、大幅な重量増加となってしまい、当初のマウントブラケット15への一体的な締結によるバッキングプレート13の薄肉化や軽量化が損なわれてしまう。
【0011】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することにあり、バッキングプレートやマウントブラケットの第1フランジ部を厚肉化せずとも、制動トルクに対するバッキングプレートの捩り剛性を向上させて、強度や耐久性の向上を図ることができるドラムブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は下記構成により達成される。
ドライブシャフトが挿通するマウントブラケットを介して車体に取り付けられるドラムブレーキ装置において、
前記マウントブラケットは、前記ドライブシャフトを挿通する円筒部とこの円筒部から前記ドライブシャフトの径方向外方へ張り出してアンカーピンを固定する第1フランジ部とこの第1フランジ部の外周縁から更に前記ドライブシャフトの径方向外方へ張り出して車体への固定部となる複数の取付穴を有する第2フランジ部とを一体に備えると共に前記筒状部の中心と前記アンカーピンとを通る仮想線が、前記マウントブラケット上の車体固定用の前記取付穴の間を挿通するように設定したことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【発明の効果】
【0013】
そして、上記構成によれば、マウントブラケットの筒状部の中心とアンカーピンとを通る仮想線が、マウントブラケットの第2フランジ部上の車体固定用の複数の取付穴の間を挿通するようにしたもので、アンカーピンが固定される第1フランジ部と車体に固定される第2フランジ部との径方向への張り出し方向が略一致しているため、制動トルクは、第2フランジ部を車体に固定している複数個の締結部材の剪断力として作用し、第2フランジ部を車体に固定している複数個の締結部材を介して車体側に効率良く伝達される。
即ち、制動トルクが作用しても、バッキングプレートを捻る方向の力が生じ難くなり、その結果、バッキングプレートやマウントブラケットの第1フランジ部に捩り変形が生じ難くなる。
そして、このようにアンカーピンが固定される第1フランジ部と車体に固定される第2フランジ部との径方向への張り出し方向を略一致させた構成は、アンカーピンの装備位置を周方向にずらすことによって得たものであるから、バッキングプレートやマウントブラケットの第1フランジ部を厚肉化せずとも、制動トルクに対するバッキングプレートの捩り剛性を向上させて、強度や耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は本発明に係るドラムブレーキ装置の一実施の形態を示したもので、図1は本発明の一実施の形態のドラムブレーキ装置の正面図、図2は図1に示したドラムブレーキ装置のB−B線に沿う断面図である。
【0015】
この一実施の形態のドラムブレーキ装置31は、フォークリフトの前輪制動用のデュオサーボ式のドラムブレーキ装置で、有底円筒状をなして前輪3と一体回転するドラム5と、このドラム5内に対向配置される一対のブレーキシュー7,8と、これらのブレーキシュー7,8をドラム5の内周面に向けて拡開するシュー駆動機構9と、制動時にブレーキシュー7,8の端部に当接して制動トルクを受けるアンカーピン11と、各ブレーキシュー7,8の側縁7a,8aが摺動する円盤部33aとこの円盤部33aの外周から軸線方向に延出してドラム5の外周部を覆うカバー部33bとを備えるバッキングプレート33と、このバッキングプレート33の取り付け部を有して車体に固定されるマウントブラケット35とを備えている。
【0016】
マウントブラケット35は、前輪3の不図示のドライブシャフトが挿通する筒状部41と、この筒状部41の一端からドライブシャフトの径方向外方へ略円形状に張り出してバッキングプレート33の円盤部33aに重なる第1フランジ部43と、この第1フランジ部43の外周縁の一部を更に不図示のドライブシャフトの径方向外方に延長した形態に形成された第2フランジ部45とを一体形成したもので、第1フランジ部43にアンカーピン11が固定される。また、第2フランジ部45は、車体への締結固定部となるもので、筒状部41の中心から斜め上方に向かって張り出すように装備されていて、その外周側には、周方向に所定間隔で、複数個の取付穴45aが形成されている。そして、図2に示すように、これらの該取付穴45aを挿通するねじ部材46によって車体側のフレーム47に締結・固定される。
【0017】
本実施の形態の場合、第1フランジ部43上のアンカーピン11の取付位置は、第2フランジ部45の張り出し方向に合わせて、筒状部41の中心から斜め上方の位置に選定している。これによって、アンカーピン11を支持する第1フランジ部43の筒状部41の中心からの張り出し方向と、車体フレーム47に固定される第2フランジ部45の筒状部41の中心からの張り出し方向を略一致させている。
そして、図1に示すように、筒状部41の中心とアンカーピン11とを通る仮想線49が、マウントブラケット35の第2フランジ部45上の車体固定用の複数の取付穴45aの間を挿通するように設定している。
【0018】
なお、バッキングプレート33の円盤部33aは、スタッドボルト23を介してマウントブラケット35の筒状部41の一端面に一体的に固定されている。
また、アンカーピン11は、バッキングプレート33の円盤部33aと、マウントブラケット35の第1フランジ部43との双方を挿通した状態で、ねじ部材25により締結・固定されている。
【0019】
なお、デュオサーボ式のドラムブレーキ装置としての一般的な構造の補足説明となるが、一対のブレーキシュー7,8をシューホールドダウン装置7b,8bによってバッキングプレート33の円盤部33aに拡開動作可能に支承する構造や、一対のブレーキシュー7,8をドラム5の内周面に向けて拡開するシュー駆動機構9の構成は、従来と同様で良い。また、対向配置された一対のブレーキシュー7,8は、一方の対向端相互がアンカトゥシュースプリング61,62によって互いに接近する方向に付勢され、また、一対のブレーキシュー7,8の他方の対向端は、シュートゥシュースプリング64によってアジャスタユニット66に当接した状態に付勢されている。
【0020】
アジャスタユニット66は、ブレーキシュー7,8の拡開動作に連動するアジャスタレバー67の回動によって、調整歯車68が回転駆動されることで、伸長して、各ブレーキシュー7,8とドラム5との間のクリアランスを一定に維持する。
【0021】
以上のドラムブレーキ装置31の場合、マウントブラケット35の筒状部41の中心とアンカーピン11とを通る仮想線49が、第2フランジ部45上の車体固定用の複数の取付穴45aの間を挿通するように設定したもので、アンカーピン11が固定される第1フランジ部43と車体に固定される第2フランジ部45との径方向への張り出し方向が略一致しているため、制動トルクは、第2フランジ部45を車体に固定している複数個のねじ部材46の剪断力として作用し、第2フランジ部45を車体に固定している複数個のねじ部材46を介して車体フレーム47に効率良く伝達される。
即ち、制動トルクが作用しても、バッキングプレート33を捻る方向の力が生じ難くなり、その結果、バッキングプレート33やマウントブラケット35の第1フランジ部43に捩り変形が生じ難くなる。
そして、このようにアンカーピン11が固定される第1フランジ43部と車体に固定される第2フランジ部45との径方向への張り出し方向が略一致させた構成は、アンカーピン11の装備位置を周方向に所定角度(例えば45°)ずらして設定したことによって得たものであるから、バッキングプレート33やマウントブラケットの35第1フランジ部43を厚肉化せずとも、制動トルクに対するバッキングプレート33の捩り剛性を向上させて、強度や耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の一実施の形態の正面図である。
【図2】図1に示したドラムブレーキ装置のB−B線に沿った断面図である。
【図3】従来のドラムブレーキ装置の正面図である。
【図4】図3のA−A線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0023】
5 ドラム
7,8 ブレーキシュー
11 アンカーピン
31 ドラムブレーキ装置
33 バッキングプレート
33a 円盤部
33b カバー部
35 マウントブラケット
41 筒状部
43 第1フランジ部
45 第2フランジ部
45a 取付穴
47 車体フレーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブシャフトが挿通するマウントブラケットを介して車体に取り付けられるドラムブレーキ装置において、
前記マウントブラケットは、前記ドライブシャフトを挿通する円筒部とこの円筒部から前記ドライブシャフトの径方向外方へ張り出してアンカーピンを固定する第1フランジ部とこの第1フランジ部の外周縁から更に前記ドライブシャフトの径方向外方へ張り出して車体への固定部となる複数の取付穴を有する第2フランジ部とを一体に備えると共に前記筒状部の中心と前記アンカーピンとを通る仮想線が、前記マウントブラケット上の車体固定用の前記取付穴の間を挿通するように設定したことを特徴とするドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−2909(P2007−2909A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183341(P2005−183341)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】