説明

ドラム式洗濯機

【課題】共振時の水槽の振動が外箱や床面に伝わることを少なくできて、騒音の発生を低減できるようにする。
【解決手段】ダンパが、磁気粘性流体を内蔵し、その磁気粘性流体に対して磁界を変化させることで減衰力を変化させるものであって、水槽の振動を検知する振動センサによる共振時の振動の検知結果に基づき、水槽の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくする。それにより、水槽の下向きの振動がダンパを介して外箱に、更には床面に伝わるのを少なくでき、騒音の発生を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽の振動をダンパで吸収するドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドラム式洗濯機においては、水槽を外箱の内部で弾性支持するスプリングを具えると共に、水槽の内部で洗濯物を収容して回転するドラムの振動、ひいては水槽の振動を吸収するダンパを具えたものが供されている。中でも、ダンパには、磁気粘性流体を内蔵し、その磁気粘性流体に対して磁界を変化させることで減衰力を変化させ得るものがあり(例えば特許文献1参照)、このものでは、水槽の振動に伴って洗濯機全体が大きく振動する共振時の減衰力を大きくし、共振点の√2(この√2は「ルート2」を意味する。以下同じ)倍以上の周波数域(ドラム高回転域)では減衰力をできる限り小さくすることで、振動の伝達を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−57766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振時の水槽の振動の振幅を小さくするには、ダンパの減衰力をできる限り大きくした方が良い。水槽の垂直方向の振動には、上向きと下向きとがあり、従来では、その両方の振動に対してダンパの減衰力を大きくしている。その結果、水槽の下向きの振動がその減衰力を大きくしたダンパを介して外箱に伝わり、更には洗濯機を設置した床面に伝わって、騒音を大きく発生するという問題点を有していた。
【0005】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、従ってその目的は、共振時の水槽の振動が外箱や床面に伝わることを少なくできて、騒音の発生を低減できるドラム式洗濯機を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のドラム式洗濯機においては、外箱と、この外箱の内部に位置する水槽と、この水槽の内部に位置して回転駆動されるドラムと、前記水槽を前記外箱の内部で弾性支持するスプリングと、前記水槽の振動を減衰するダンパと、前記水槽の振動を検知する振動センサとを具備し、前記ダンパが、磁気粘性流体を内蔵し、その磁気粘性流体に対して磁界を変化させることで減衰力を変化させるものであって、前記振動センサによる共振時の振動の検知結果に基づき、前記水槽の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくするようにしたことを特徴とする(請求項1の発明)。
【発明の効果】
【0007】
上記手段によれば、水槽の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくすることで、水槽の下向きの振動がダンパを介して外箱に、更には床面に伝わるのを少なくでき、騒音の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例を示す特性図
【図2】洗濯機全体の模擬的縦断面図
【図3】ダンパの部分縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例(一実施形態)につき、図面を参照して説明する。
まず、図2はドラム式洗濯機の全体構成を模擬的に示しており、外箱1の内部に水槽2を配設している。水槽2は、この場合、横軸状で、その内部には回転槽であるドラム3を同じく横軸状に配設しており、このドラム3を回転駆動する駆動装置であるモータ4を、水槽2の背部に取付けている。
【0010】
水槽2の下方には、水槽2を弾性支持するスプリング5と、水槽2の振動を減衰するダンパ6を、ともに外箱1の底部との間に配設している。このほか、水槽2の下面部には、水槽2の振動を検知する振動センサ7を取付けており、一方、外箱1の内隅部には制御部8を配設していて、この制御部8に振動センサ7から振動検知信号を信号線9により入力するようにしている。なお、制御部8は例えばマイクロコンピュータを主体に構成したもので、上記振動センサ7から入力された振動検知信号に基づき前記ダンパ6を後述のように制御するようになっている。又、図2において、10は洗濯機を設置した床面を示している。
【0011】
次いで、図3は、前記ダンパ6を詳細に示しており、筒状のシリンダ11と、このシリンダ11の内周部に取付けた磁場発生装置である筒状のコイル12、コイル12の軸方向両端部である上下に配設したそれぞれリング状のヨーク13,14、ヨーク13,14及びコイル12の内部に挿通した直棒状のシャフト15、シリンダ11の内部に充填してシャフト15と上記ヨーク13,14及びコイル12との間の隙間にも充填した磁気粘性流体(MR流体)16から成っている。磁気粘性流体16は、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化するもので、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散混入させたものであり、磁界が印加されると、その強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇するものである。
【0012】
このダンパ6において、シリンダ11を前記水槽2に取付け、シャフト15を前記外箱1の底部に取付けている。従って、この場合、シリンダ11が水槽2と動きをともにする部品であり、シャフト15が固定部品であるが、それとは逆に、シャフト15を水槽2に取付けて水槽2と動きをともにする部品とし、シリンダ11を外箱1の底部に取付けて固定部品としたものであっても良い。又、コイル12とヨーク13,14とをシャフト15に取付け、このコイル12及びヨーク13,14とシリンダ11との間に隙間をあけて、この隙間に磁気粘性流体16を充填したものであっても良い。
更に、スプリング5とダンパ6は別々の部品として記載したが、これらは通常一体に組合わせて複数組設けるものであり、従って、本実施例においてもそのようにしても良い。
【0013】
次に、上記構成のドラム式洗濯機の作用を述べる。
運転が開始されると、洗濯時及び脱水時のいずれにおいても、洗濯物を収容したドラム3が回転駆動されることに伴い、スプリング5で弾性支持された水槽2が垂直の上下方向を主体に振動する。この水槽2の上下振動に応動して、ダンパ6では、水槽2に取付けたシリンダ11が、コイル12及びヨーク13,14を伴って、シャフト15の周囲を図3に矢印Sで示すように上下方向に振動する。
【0014】
このようにシリンダ11が上記各部品を伴ってシャフト15の周囲を上下方向に振動するとき、シャフト15の外周面と上記各部品との間に充填された磁気粘性流体16が、その粘性による摩擦抵抗で減衰力を与え、水槽2の振幅を減衰させる。
【0015】
このとき、コイル12に通電すると、磁場が発生して、磁気粘性流体16に磁界が与えられ、磁気粘性流体16の粘度が高まる。図2は、その様子を示しており、コイル12に通電したことで、シャフト15−磁気粘性流体16−ヨーク13−シリンダ11−ヨーク14−磁気粘性流体16−シャフト15の磁気回路Mが発生し、磁束が通過する箇所、特に磁束密度の高いシャフト15とヨーク13との間、並びにヨーク14とシャフト15との間の、各磁気粘性流体16の粘度が大幅に高まり、摩擦抵抗が大きく増加する。かくして、シリンダ11が前記各部品、特にはコイル12とヨーク13,14を伴って上下方向に振動するときの、摩擦抵抗が増加することにより、減衰力が大きくなる。
【0016】
コイル12は流される電流値に応じた磁界を発生して上記磁気粘性流体16の粘性を制御するものであり、その発生する磁界は電流値により可変で、磁気粘性流体16の粘性を可変に制御し、減衰力を可変に制御できる。
【0017】
それにより、上記構成のドラム式洗濯機においては、制御部8が、共振時に、振動センサ7による水槽2の振動の検知結果に基づき、水槽2の振動の方向を判定し、その判定結果から、ダンパ6を、水槽2の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくするように制御する。
【0018】
図1はそのことを表しており、同図の(a)に、水槽2の振動の上下方向の変化を表し、同図の(b)に、ダンパ6における減衰力の変化制御を表している。上記構成のドラム式洗濯機においては、基本的には、同図の(a)に線Aで示すように水槽2が上向き及び下向きに交互に振動を繰り返す中で、水槽2の振動の方向が上向きのときには、同図の(b)に線Aで示すように、ダンパ6における減衰力を大きく制御し、水槽2の振動の方向が下向きのときには、ダンパ6における減衰力を小さく制御する。
【0019】
そして更に、上記構成のドラム式洗濯機においては、共振時に、前記振動センサ7による水槽2の振動の検知結果に基づき、水槽2の振動の振幅を判定し、その判定結果から、水槽2の振動が許容される最大の振幅となるまで、水槽2の振動の方向が下向きのときの減衰力を小さくするように制御する。ここで、水槽2の振動が許容される最大の振幅とは、図1の(a)に線Bで示すように、上方向には水槽2が振動で外箱1に接触する直前の振幅(外箱1に接触する振幅未満で最大の振幅)を指し、下方向にはダンパ6でシリンダ11が下降ストロークの限界位置に達する直前の振幅(ダンパ6の下降ストロークの限界位置に達する振幅未満で最大の振幅)を指す。水槽2が振動しても、外箱1に当たらず、ダンパ6でシリンダ11が下降ストロークの限界位置に達しなければ、外箱1の振動並びにその振動の床面10への伝達の点で問題がないので、図1の(b)に線Bで示すように、水槽2の振動の振幅がこれらの位置に達するまで、水槽2の振動の方向が下向きのときに、ダンパ6における減衰力を小さく制御する。
【0020】
なお、共振点の√2倍以上の周波数域(ドラム3の高回転域)では、ダンパ6による減衰力を水槽2の上向き振動及び下向き振動のいずれにおいてもできる限り小さくすることを、従来同様に行う。
【0021】
このように上記構成のドラム式洗濯機においては、ダンパ6が、磁気粘性流体16を内蔵し、その磁気粘性流体16に対して磁界を変化させることで減衰力を変化させるものであって、水槽2の振動を検知する振動センサ7による共振時の振動の検知結果に基づき、水槽2の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくするようにしており、それによって、水槽2の下向きの振動がダンパ6を介して外箱1に、更には床面10に伝わるのを少なくでき、騒音の発生を低減することができる。
【0022】
更に、上記構成のドラム式洗濯機においては、ダンパ6が、振動センサ7による振動の検知結果に基づき、水槽2の振動が許容される最大の振幅となるまで、水槽2の振動の方向が下向きのときの減衰力を小さくするようにしており、それによって、水槽2の下向きの振動がダンパ6を介して外箱1に、更には床面10に伝わるのをより少なくできて、騒音の発生をより低減することができるし、ダンパ6の制御をより効率良く行うこともできる。
【0023】
なお、このような制御は、振動センサ7による振動の検知結果に基づき、水槽2の振動が許容される最大の振幅となるまでの範囲で、水槽2の振動の方向が下向きのときのダンパ6の減衰力を漸次小さくする内容で行うようにしても良い。
又、上記構成のドラム式洗濯機において、共振時の水槽2の振動振幅を小さくするのは、水槽の振動の方向が上向きのときにダンパの減衰力を大きくしたことで充分に実現できる。
本発明は上記し且つ図面に示した実施例にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0024】
図面中、1は外箱、2は水槽、3はドラム、4はモータ、5はスプリング、6はダンパ、7は振動センサ、12はコイル、13,14はヨーク、16は磁気粘性流体を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外箱と、
この外箱の内部に位置する水槽と、
この水槽の内部に位置して回転駆動されるドラムと、
前記水槽を前記外箱の内部で弾性支持するスプリングと、
前記水槽の振動を減衰するダンパと、
前記水槽の振動を検知する振動センサとを具備し、
前記ダンパが、磁気粘性流体を内蔵し、その磁気粘性流体に対して磁界を変化させることで減衰力を変化させるものであって、前記振動センサによる共振時の振動の検知結果に基づき、前記水槽の振動の方向が上向きのときより下向きのときの減衰力を小さくするようにしたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
ダンパが、振動センサによる振動の検知結果に基づき、水槽の振動が許容される最大の振幅となるまで、水槽の振動の方向が下向きのときの減衰力を小さくするようにしたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−104038(P2011−104038A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260860(P2009−260860)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】