説明

ナノ構造体作製用型体及びその製造方法

【課題】ナノ構造体作製用型体の陽極酸化皮膜の膜厚を調整することで、耐傷性や耐久性等を有するナノ構造体作製用型体とそのナノ構造体作製用型体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体であって、アルミニウム材料の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有し、該ポアは、テーパー形状部とその下部にある細孔形状部とからなり、該テーパー形状部は、陽極酸化皮膜の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっており、該細孔形状部は、実質的に等しい径の細孔形状となっており、該テーパー形状部を有するテーパー形状層の下側に連続して細孔形状部を有する細孔形状層を有することを特徴とするナノ構造体作製用型体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造を利用したナノ構造体作製用型体に関するものであり、詳細には、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための、強度、耐久性等が向上したナノ構造体作製用型体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(以下、「FPD」と略記する)等は、その視認性確保のために、反射防止膜等の反射防止体の装着は必須である。また、陳列棚、額等の前面板;標本箱等の蓋板;窓、戸等の建築材料;オブジェ等の構造体の表面;等において、不要な反射の抑制が必要になる場合がある。
【0003】
かかる反射防止体としては、(1)一般にドライ法と言われている方法、すなわち、誘電体多層膜を気相プロセスで作製し、光学干渉効果で低反射率を実現したもの、(2)一般にウエット法、すなわち、低屈折率材料を基板フィルム上にコーティングする方法で作製したもの等が知られている。また、これらとは原理的に全く異なる技術として、(3)表面にナノ構造を付与することにより、低反射率を発現させたものも知られている。
【0004】
上記(3)のナノ構造を表面に付与した反射防止体等のナノ構造体について、その反射防止性能等を向上させる方法として種々検討されており、例えば、アルミニウム材料に対して、陽極酸化による陽極酸化皮膜の形成と、その陽極酸化皮膜のエッチングとを組み合わせたものを型として、その形状を反射防止体等のナノ構造体に転写する方法が知られている(特許文献1〜特許文献6)。
【0005】
かかるナノ構造体は、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化と孔拡大処理を交互に繰り返すことによりテーパー形状の孔を有する鋳型を作製し、この鋳型をナノ構造体形成材料に転写させることによって得られる。すなわち、少なくとも、特許文献2、4〜6には、下記の工程を有する、陽極酸化ポーラスアルミナからなる鋳型の製造方法が記載されている。
(1)アルミニウム基材に陽極酸化を施してアルミナ層を形成する工程。
(2)前記アルミナ層を除去する工程。
(3)前記工程(2)の後、再び陽極酸化を施して細孔を形成する工程。
(4)細孔に孔径拡大処理を施す工程。
(5)前記工程(4)の後、再び陽極酸化を施す工程。
(6)前記工程(4)および工程(5)を交互に繰り返す工程。
【0006】
しかしながら、型体(鋳型)にナノ構造体形成材料を埋め込み、次いで、その型体(鋳型)を剥離するという操作(転写操作)を繰り返すことに対する耐久性の向上については、ほとんど検討がなく、ましてや、転写操作の繰り返し後に得られるナノ構造体の性能変化に気付き、そこに着目して、型体の構成と形態を検討したものはなかった。
【0007】
上記の陽極酸化ポーラスアルミナからなる鋳型を用いる方法において、鋳型としてナノ構造体の表面に必須な最適なテーパー形状を生成するために、工程(6)では、孔径拡大処理で終了することが記載されている。
【0008】
しかしながら、該鋳型はアルミニウムが基材であるため、鋳型として柔らかく、その鋳型を用いて、型を繰り返しナノ構造体形成材料に転写すると、鋳型表面に傷がついたり、鋳型表面が摩耗したりして、かかる鋳型の耐久性は極めて劣るものであった。該鋳型の表面の陽極酸化ポーラスアルミナ層は、本来、硬度は高いが薄いために、応力によって亀裂、剥離等を生じ、結局、下地のアルミニウムの柔らかさが影響を及ぼし、耐久性が劣るものと考えられる。
【0009】
一方、アルミニウムの陽極酸化皮膜の膜厚を厚くする技術は知られている(例えば、特許文献7)。しかしながら、表面にナノ構造を有するような型体(鋳型)、すなわち、「ナノ構造を利用した反射防止体等のナノ構造体」を作製するための型体としての種々の性能を維持しながら、型体としての耐久性を向上させるべく、陽極酸化皮膜の膜厚を厚くする技術は知られていない。更に言えば、ナノ構造体を作製するための型体(鋳型)に、繰り返し使用に十分耐えられるような耐久性を持たせようとする課題自体が殆ど存在しなかった。
【0010】
一方、表面にナノ構造を有するような型体(鋳型)、すなわち、「ナノ構造を利用した反射防止体等のナノ構造体」を作製するための型体を作る方法としては、エッチングで終了することが良好なテーパー形状を得るために好ましいと考えられており、最後のエッチングの後にたとえ陽極酸化を施したとしても、テーパー形状の底部を小さくするために、最後に陽極酸化を短い時間で行なう程度であり、そこでの陽極酸化によって形成された陽極酸化皮膜に耐久性を要求するようなものではなかった(特許文献4、6)。
【0011】
すなわち、型体として陽極酸化皮膜の膜厚を厚くする技術は知られておらず、ましてや、通常は表面のみの硬度に依存すると考えられる型体において、その陽極酸化皮膜の膜厚を厚くすることによって、型体自体の耐久性が向上し、ナノ構造体の型体として繰り返し使用後に、その型体から得られたナノ構造体の形態や物性が良好なまま維持できることは全く知られていない。
【0012】
耐久性を向上させるため、陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型とし、金属等の材料により同一の形状を有する新たな鋳型を得ることで、耐久性、耐摩耗性、剥離特性を向上させることも知られているが(特許文献2、4〜6)、新たな鋳型を作ることは、工程が煩雑で、コストがかかる等の問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開2003−043203号公報
【特許文献2】特開2005−156695号公報
【特許文献3】特開2007−086283号公報
【特許文献4】特開2009−299190号公報
【特許文献5】特開2009−258743号公報
【特許文献6】WO2006/059686公報
【特許文献7】特開昭62−185898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、本発明者は、まず、全体の工程数の減少、ナノ構造体1つあたりのコストの削減等のために、ナノ構造体を作製するための型体」に耐久性を持たせようと考えた。すなわち、その課題は、かかる型体に、耐傷性や耐久性を有するナノ構造体作製用型体と、そのナノ構造体作製用型体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、通常は表面の硬度のみが効くと考えられる「ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体」において、型体が有する陽極酸化皮膜の形態や膜厚を調整することで、型体の耐久性が向上することを見出した。更に具体的には、アルミニウム材料の表面に形成する陽極酸化皮膜において、テーパー形状部を有するテーパー形状層を形成後、更に、陽極酸化皮膜を、該テーパー形状層の層厚以上に形成することにより、型体の耐久性が著しく向上することを見出した。
【0016】
そして、そのために、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜を作成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の下部に、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜を、該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の膜厚以上の膜厚で形成させれば、得られる型体の耐久性が著しく向上することを見出し本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本発明は、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体であって、アルミニウム材料の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有し、該ポアは、テーパー形状部とその下部にある細孔形状部とからなり、該テーパー形状部は、陽極酸化皮膜の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっており、該細孔形状部は、実質的に等しい径の細孔形状となっており、該テーパー形状部を有するテーパー形状層の下側に連続して細孔形状部を有する細孔形状層を有することを特徴とするナノ構造体作製用型体を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体の製造方法であって、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有するように、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行ってテーパー形状部を有するテーパー形状層を形成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状層の下部に、層厚が該テーパー形状層の層厚以上になるように細孔形状部を有する細孔形状層を形成させることを特徴とするナノ構造体作製用型体の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、上記のナノ構造体作製用型体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とするナノ構造体作製用型体を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、上記のナノ構造体作製用型体に、ナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用型体から剥離してなることを特徴とするナノ構造体を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、強度、耐久性等が向上したナノ構造体作製用型体を提供することができる。具体的には、光の反射を防止したナノ構造体を作製するためのナノ構造体作製用型体であって、連続的又は断続的に繰り返しナノ構造体を作製しても、該型体に大きい又は細かい傷が付き難い、型体が摩滅し難い、ナノ構造が破壊されない等、該型体の機械的な強度、耐久性等が向上したナノ構造体作製用型体を提供することができる。
【0022】
その結果、かかる型体を用いて作製したナノ構造体は、繰り返し転写工程を経た型体から得たものであっても、反射率の上昇やヘイズの上昇が極めて少なく、また、型体の傷が原因で起こるナノ構造体の欠陥の発生が極めて少ない。従って、1つの型体から多くのナノ構造体が得られるので、常に安定した一定の性質を有するナノ構造体を複製するナノ構造体作製用型体を提供することができる。
【0023】
また、本発明のナノ構造体作製用型体は、ナノ構造体形成材料の埋め込みと剥離(転写)を繰り返す印刷機の始動時や終了時のストール運転等により、例えばナノ構造体形成材料が塗布されたフィルムと型体との間で「スレ」が発生し、型体表面(特にテーパー形状部)への傷が付いてしまうことを抑制できる。
【0024】
また、ナノ構造体形成材料へのゴミ、異物等の混入や、上記フィルム基材や型体へのゴミ、異物の付着により、型体表面を傷つけてしまうおそれがある場合にも、本発明のナノ構造体作製用型体は、強い硬度で傷を防止することができる。特に、連続的にナノ構造体形成材料の埋め込みと剥離(転写)を繰り返す連続印刷機を用いる場合等は、印刷速度を上げてもナノ構造体形成材料の埋め込みが完了するようにニップ圧を高く設定する必要性があり、そのため、小さいゴミ、異物等が混入すると、型体表面を傷つけてしまい易くなるが、特にその場合に、本発明のナノ構造体作製用型体は、表面硬度が高く、強度が強いため、かかる傷がつくのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のナノ構造体作製用型体における陽極酸化皮膜の一例を示す縦断面の模式図である。
【図2】従来のナノ構造体作製用型体における陽極酸化皮膜の一例を示す縦断面の模式図である。
【図3】本発明のナノ構造体作製用型体における陽極酸化皮膜全体の縦断面の1万倍のSEM写真である(実施例4)。
【図4】本発明のナノ構造体作製用型体における陽極酸化皮膜のテーパー形状部を示す、主にテーパー形状層(その下に細孔形状層の最上部も示されている)の縦断面の10万倍のSEM写真である(実施例4)。
【図5】従来の細孔形状層を有しないナノ構造体作製用型体における陽極酸化皮膜の縦断面の10万倍のSEM写真である(比較例1)。
【図6】本発明のナノ構造体作製用型体を用いて作製されたナノ構造体の表面の縦断面の10万倍のSEM写真である(実施例4)。
【図7】従来のナノ構造体作製用型体を用いて作製されたナノ構造体の表面の縦断面の10万倍のSEM写真である(比較例1)。
【図8】本発明のナノ構造体作製用型体を用いたナノ構造体の製造方法の一例を示す模式図である。
【図9】本発明のナノ構造体作製用型体を用い連続的にナノ構造体を製造する製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[ナノ構造を利用したナノ構造体]
本発明のナノ構造体作製用型体(以下、単に「型体」と略記することがある)は、ナノ構造を利用した反射防止体等のナノ構造体を作製するためのものである。本発明のナノ構造体は、表面に光の反射防止機能を有する反射防止体、光の透過率が向上した高透過率体等を包含する。「ナノ構造を利用したナノ構造体」とは、例えば、表面にモスアイ(蛾の眼)構造と呼ばれる構造を有しており、一般には空気等の気体に接する最表面からナノ構造体の内部に入っていくにしたがって、徐々にナノ構造体の部分が多くなり、そのため屈折率がナノ構造体の内部に入っていくにしたがって、徐々に大きくすることで反射を防止するものである。一般に、屈折率が急激に(不連続に)変化する表面があると、正反射率が大きくなる。また、本発明における「ナノ構造を利用したナノ構造体」の表面の形態としては、前記特許文献の何れかの文献に記載のものも挙げられる。
【0027】
「ナノ構造を利用したナノ構造体」の好ましい形態は、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在しているものである。平均高さ又は平均深さが、小さすぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、大きすぎると、製造が困難になる等の場合がある。凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)の平均長さは、100nm以上1000nm以下であることが同様の理由から特に好ましい。
【0028】
「ナノ構造を利用したナノ構造体」は、その表面に、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていることが好ましい。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよい。また、何れの場合でも、上記凸部又は凹部は、ナノ構造体の表面全体に実質的に均一に配置されていることが反射防止性や透過改良性の点で好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
【0029】
ナノ構造体作製用型体は、上記のようなナノ構造体を作製するためのものであるので、本発明のナノ構造体作製用型体の方も、表面に上記形態を有していることが好ましい。
【0030】
[ナノ構造体作製用型体]
本発明のナノ構造体作製用型体は、アルミニウム材料の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有し、該ポアは、テーパー形状部と細孔形状部とからなる。
【0031】
<1.アルミニウム材料>
本発明におけるアルミニウム材料とは、主成分がアルミニウムである材料であればよく、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金の何れでもよい。本発明における純アルミニウムとは、純度99.00%以上のアルミニウムであり、好ましくは純度99.50%以上、より好ましくは純度99.85%以上である。アルミニウム合金は特に限定はないが、例えば、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)等が挙げられる。これらの中でも、純アルミニウム(1000系);Mgの添加量が比較的少ないために加工性、耐食性に優れている点、良好なナノ構造体作製用型体が得られる点で、アルミニウム合金5005;アルミニウム合金5005の改良合金(例えば、日本軽金属製58D5)等が好ましい。
【0032】
また、本発明におけるアルミニウム材料は、基材の表面にアルミニウムを蒸着したものも好ましく使用することができる。基材としては、ステンレス鋼、銅、チタン、アルミニウム等の金属類;ガラス;セラミックス;プラスチック等を好ましく用いることができる。アルミニウムの蒸着は常法を用いることができ、蒸着膜厚は1〜30μmが好ましい。
【0033】
本発明におけるアルミニウム材料は特に限定はなく、コスト低減や加工簡略化のために工業的に圧延されたままのアルミニウム板、押出管、引き抜き管等を用いてもよいし、圧延のむら、表面のキズ、腐食、汚れ等を取るため、表面を通常の研摩をしてから用いてもよく、また、ナノ構造体のヘイズ等の光の透過性能を向上させるために、よりレベルの高い研摩を行ってもよい。レベルの高い研摩を行った際のRaは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.03μm以下、特に好ましくは0.02μm以下である。また、Ryは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.35μm以下である。ここで、Ra及びRyは、JIS B0601(1994)により求めた値であり、Raは「算術平均粗さ」であり、Ryは「最大高さ」である。
【0034】
<2.陽極酸化皮膜>
本発明における陽極酸化皮膜2とは、酸溶液中で、アルミニウム材料8を陽極として電流を流し、水が電気分解して発生する酸素とアルミニウムとを反応させ形成させる、表面にポア3を有する酸化アルミニウムの皮膜である。陽極酸化皮膜2の全体の厚さは特に限定されないが、ナノ構造体作製用型体の耐久性等の点から、下限は600nm以上が好ましく、1000nm以上がより好ましく、2000nm以上が特に好ましく、4000nm以上が更に好ましい。一方、上限は50000nm以下が好ましく、20000nm以下がより好ましく、10000nm以下が特に好ましく、8000nm以下が更に好ましい。
【0035】
<3.ポア>
本発明における陽極酸化皮膜2は、図1に示したように、その表面にポア3を有している。該ポア3は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在し、図1に示したように、該ポア3は、テーパー形状部4と細孔形状部5とからなるカクテルグラスのような形状をしている。一方、従来のナノ構造体作製用型体の陽極酸化皮膜2は、図2に示したように、ポア3は、テーパー形状部4のみからなっている。
【0036】
上記ポア3の平均周期は、少なくとも、ある一の方向に対し50nm以上であるが、100nm以上が好ましい。また、400nm以下であるが、250nm以下が好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。平均周期は短すぎても長すぎても、作製するナノ構造体に反射防止効果が充分に得られない場合がある。
【0037】
<3−1.テーパー形状部>
本発明におけるテーパー形状部4は、図1に示したように、上記カクテルグラス形状上部のボウル部分に該当し、その形状は、陽極酸化皮膜2の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっている。ナノ構造体を作製する際には、該テーパー形状部4の内部にはナノ構造体形成材料11が埋め込まれ、ナノ構造体が作製されるための鋳型となる。なお、陽極酸化皮膜2において、このテーパー形状部4を有する層を「テーパー形状層」という。
【0038】
該テーパー形状層6の層厚は特に限定されないが、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、250nm以上であることが特に好ましい。また、1000nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。テーパー形状層6の層厚が薄すぎると、それを鋳型に形成されるナノ構造体の反射率低減の効果が得られない場合があり、一方、厚すぎると、テーパー形状部4の形状が作り難かったり、陽極酸化やエッチングの工程時間が長くなりすぎ、無駄になったりする以外に、型体1としての耐久性が劣ったり、それを鋳型に形成されるナノ構造体の機械的特性が劣ったりする場合がある。
【0039】
<3−2.細孔形状部>
本発明における細孔形状部5とは、図1に示したように、上記カクテルグラス形状下部のステム(脚)部分に該当し、その形状は、実質的に等しい径の細孔形状となっており、細孔の直径については特に限定はされない。ナノ構造体を作製する際には、該細孔形状部5の内部にナノ構造体形成材料11は実質的には埋め込まれず、ナノ構造体が作製されるための鋳型としての機能を有しないが、該細孔形状部5は型体1のビッカース硬度を上げ、耐久性を向上させる効果を奏する。一方、従来のナノ構造体作製用型体には、図2に示したように、細孔形状部5がない。
【0040】
陽極酸化皮膜2は、浴から出して乾燥させると細孔全体が細くなり、また細孔が埋まる可能性もある。そうするとカクテルグラスのステム(脚)部分に該当する細孔が、部分的に又は全体的に、実質的になくなってしまう(又は詰まってしまう)可能性もある。しかし、このような場合であっても、本発明においては「細孔形状部」という。従って、細孔形状部5には、上から下まで通じた文字通りの細孔はなくてもよい。また、本発明において、細孔形状部5は、封孔されていてもよい。封孔としては特に限定されないが自然封孔等が挙げられる。また、細孔は枝分かれしていても、途中で合体していてもよい。
【0041】
陽極酸化皮膜2において、上記テーパー形状層6の下部に存在し、この細孔形状部5を有する層を「細孔形状層」という。該細孔形状層7の厚さは特に限定されないが、型体1の機械的強度を上昇させるに十分な厚さであることが望ましい。具体的には、600nm以上であることが好ましく、1000nm以上であることがより好ましく、2000nm以上であることが特に好ましく、4000nm以上であることが更に好ましい。一方、上限は50000nm以下であることが好ましく、20000nm以下であることがより好ましく、10000nm以下であることが特に好ましく、8000nm以下であることが更に好ましい。細孔形状層7の層厚が薄すぎると、型体1の耐久性に劣る場合があり、一方、厚すぎると、クレーター状の欠陥が多く発生したり、表面が荒れてきて、該型体で作製したナノ構造体のヘイズが大きくなったりする場合がある。また、厚すぎると陽極酸化時間が長くなり、型体のコストが高くなる場合がある。
【0042】
テーパー形状層6の層厚に対する細孔形状層7の層厚は、特に限定はないが、得られるナノ構造体の反射防止効果、型体1の耐久性、型体1の製造の容易さ等の点から、1倍以上(すなわち、テーパー形状層6の層厚以上の層厚で細孔形状層7が形成されている状態)が好ましく、2倍以上がより好ましく、4倍以上が特に好ましく、10倍以上が更に好ましい。一方、上限は特に限定はないが、100倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましく、40倍以下が特に好ましい。テーパー形状層6の層厚と組み合わすと、テーパー形状層6の層厚が1000nm以下であり、細孔形状層7の層厚が該テーパー形状層6の層厚以上であることが好ましい。
【0043】
<3−3.ナノ構造体作製用型体の物性>
ナノ構造体作製用型体のビッカース硬度は、40以上が好ましく、60以上がより好ましく、200以上が特に好ましく、300以上が更に好ましく、600以上が最も好ましい。上記した形態を有していれば、及び/又は、後記する製造方法を用いれば、かかるビッカース硬度の値が達成できる。
【0044】
[ナノ構造体作製用型体の作製]
本発明のナノ構造体作製用型体1は、前記アルミニウム材料8の表面に、陽極酸化皮膜の形成(陽極酸化(a1))と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、テーパー形状部を有する陽極酸価皮膜を形成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の下部に、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜の形成(陽極酸化(a2))を行う。該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の膜厚以上の膜厚で、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜を形成させることが好ましい。「該陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングを繰り返した後に形成されるテーパー形状部を有する陽極酸化皮膜層は上記テーパー形状層6に対応し、該細孔形状部を有する陽極酸化皮膜は上記細孔形状層7に対応する。
【0045】
本発明の他の態様は、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体の製造方法であって、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有するように、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化皮膜の形成(陽極酸化(a1))と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行ってテーパー形状部を有するテーパー形状層を形成し、更に、陽極酸化(陽極酸化(a2))を行って、該テーパー形状層の下部に、層厚が該テーパー形状層の層厚以上になるように細孔形状部を有する細孔形状層を形成させることを特徴とするナノ構造体作製用型体の製造方法である。前記したナノ構造体作製用型体は、上記した製造方法で製造されたものであることが好ましい。
【0046】
本発明のナノ構造体作製用型体の製造方法は、上記工程を少なくとも有していればよく、形態的に前記したようなナノ構造体作製用型体が実質的に製造できれば、途中若しくは後にエッチングや陽極酸化を行ってもよく、そのような製造方法も本発明に含まれる。例えば、テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜を形成後、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜の形成途中又は形成後に、エッチングや陽極酸化を行ったとしても、それが形態的に実質的影響を及ぼさなければ、本発明の製造法に含まれる。また、実質的に形態が前記したようなテーパー形状部を有している陽極酸化皮膜層であれば「テーパー形状層」と定義し、実質的に、前記したような細孔形状を有している層であれば、途中若しくは後にエッチングや陽極酸化を行ったとしても、得られた層は「細孔形状層」と定義する。言い換えれば、結果として、実質的にポアの直径がほぼ等しければ、エッチングや陽極酸化を行ったとしても、その部分は「細孔形状層」と定義する。
【0047】
前記アルミニウム材料8の表面は、陽極酸化皮膜2の形成を行う前に研摩されていてもよい。前記アルミニウム材料8の表面を研摩する方法としては、機械研摩、化学研摩、電解研摩の何れか1つでもよく、又はこれらを任意に組み合わせてもよい。例えば、電解研摩単独、機械研摩単独、電解研摩と化学研摩の組合せ、機械研摩と化学研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩と化学研摩の組合せが好ましく、その中でも、電解研摩単独又は電解研摩を含んだ組合せがより好ましい。更にその中でも、処理の容易な点で、機械研摩をした後に電解研摩する方法が特に好ましい。アルミニウム材料8の表面を研摩することによって、アルミニウム材料8の表面が均一になり、それを加工して得られた型体1は、ヘイズが小さく、光の透過性能が著しく向上したナノ構造体を作製できる。
【0048】
<1.テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の形成>
<1−1.陽極酸化(a1)>
本発明における陽極酸化(a1)の電解液としては、酸溶液であれば特に制限はなく、例えば、硫酸系、シュウ酸系、リン酸系又はクロム酸系等の何れでもよいが、所望のテーパー形状部4の寸法や形状が得られる点でシュウ酸系の電解液が好ましい。
【0049】
陽極酸化(a1)の条件は、前記の形状の型体1ができるものであれば特に限定はないが、電解液としてシュウ酸を用いる場合の条件は以下の通りである。すなわち、濃度は0.01〜0.5Mが好ましく、0.02〜0.3Mがより好ましく、0.03〜0.1Mが特に好ましい。印加電圧は20〜120Vが好ましく、40〜110Vがより好ましく、60〜105Vが特に好ましく、80〜100Vが更に好ましい。液温は0〜50℃が好ましく、1〜30℃がより好ましく、2〜10℃が特に好ましい。1回の処理時間は5〜500秒が好ましく、10〜250秒がより好ましく、15〜200秒が特に好ましく、20〜100秒が更に好ましい。かかる範囲の条件で陽極酸化を行えば、下記のエッチング条件と組み合わせて、前記ナノ構造体作製用型体1の陽極酸化皮膜2におけるテーパー形状層6が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0050】
電圧が大きすぎる場合には、形成されるテーパー形状部4の平均間隔が大きすぎるようになり、この型体1によって得られたナノ構造体の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が大きくなりすぎる場合がある。一方、電圧が小さすぎる場合には、形成されるテーパー形状部4の平均間隔が小さすぎるようになり、この型体1によって得られたナノ構造体の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が小さくなりすぎる場合がある。本発明のナノ構造体作製用型体1は、その表面に存在するポア3が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在することが必須であるので、電圧はこの範囲に入るように調整される。
【0051】
すなわち、上記テーパー形状部4を有するテーパー形状層6の陽極酸化皮膜を、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下の浴液を用い、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で形成する工程を少なくとも含む上記のナノ構造体作製用型体の製造方法が特に好ましい。
【0052】
<1−2.エッチング>
エッチングは主にポア3のテーパー形状部4の孔径拡大と所望の形状を得るために行われる。上記の陽極酸化(a1)とエッチングとを組み合わせることで、アルミニウム材料8の表面の陽極酸化皮膜2に形成されたテーパー形状部4の、孔径、高さ、深さ、テーパー形状等を調整することができる。
【0053】
エッチングの方法は通常知られている方法であれば特に制限なく用いることができる。例えば、エッチング液としては、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、クロム酸等の酸溶液、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましくは、リン酸又は硝酸であり、必要な溶解速度が得られる点、より均一な面が得られる点で、特に好ましくはリン酸である。
【0054】
エッチング液の濃度や浸漬時間、温度等は、所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、リン酸の場合の条件は以下の通りである。すなわち、エッチング溶液の濃度は、1〜20質量%が好ましく、1.2〜10質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%が特に好ましい。液温は、30〜90℃が好ましく、35〜80℃がより好ましく、40〜60℃が特に好ましい。1回の処理時間(浸漬時間)は10秒〜60分が好ましく、30秒〜40分がより好ましく、45秒〜20分が特に好ましく、1分〜10分が更に好ましい。かかる範囲の条件でエッチングを行えば、上記の陽極酸化(a1)条件との組み合わせで、前記のテーパー形状層6が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0055】
上記陽極酸化(a1)とエッチングは組み合わせて、所望のテーパー形状層6を得ることができる。「組み合わせる」とは、先に陽極酸化(a1)をして、次にエッチングをする工程を交互に繰り返すことをいう。各処理の間には水洗をすることも好ましい。陽極酸化(a1)とエッチングの回数は所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、組み合わせの回数として、5〜20回が好ましく、7〜18回がより好ましく、10〜14回が特に好ましい。
【0056】
本発明のナノ構造体作製用型体1において、陽極酸化皮膜2のテーパー形状層6を得る場合、特に好ましい組み合わせは、シュウ酸水溶液で陽極酸化(a1)をし、リン酸水溶液でエッチングをすることである。全体の好ましい条件は上記の各好ましい条件の組み合わせである。
【0057】
<2.細孔形状部を有する陽極酸化皮膜陽極酸化皮膜の形成(陽極酸化(a2))>
本発明における細孔形状を有する陽極酸化皮膜は、好ましくは陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返してテーパー形状部を有する陽極酸化皮膜を形成した後に形成されるもので、前記した細孔形状層7に対応するものである。テーパー形状層を形成後、更に陽極酸化を行なうとテーパー形状のポア3の底部に続いて、陽極酸化によるポア3が形成され、下部に向かって伸びていく。細孔形状層7を形成するための陽極酸化(a2)の電解液や形成条件は、テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の項で記載した陽極酸化(a1)の電解液(種類、濃度等)や形成条件(液温、印加電圧等)が使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0058】
すなわち、上記細孔形状部5を有する細孔形状層7の陽極酸化皮膜を、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下の浴液を用い、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で形成する工程を少なくとも含む上記ナノ構造体作製用型体の製造方法が特に好ましい。
【0059】
細孔形状部を有する陽極酸化皮膜の形成条件には特に限定はなく、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜は、先のテーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の形成条件と同様にして形成することができる。電解液は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返すことによってテーパー形状層6を得た後に、あらためて細孔形状部を有する陽極酸化皮膜形成用の電解液に入れてもよいが、テーパー形状部を有する陽極酸価皮膜の形成に用いた電解液で細孔形状を有する陽極酸化皮膜を形成することが、電解液槽が少なくて済む点で好ましい。陽極酸化(a1)と陽極酸化(a2)は、電解時間以外の条件は実質的に同一であることが好ましい。
【0060】
細孔形状部を有する陽極酸化皮膜を形成する処理時間(電解時間)は、所望の層厚が得られるよう適宜調整すればよいが、例えば、電解液としてシュウ酸を用いる場合は、5分〜4時間が好ましく、15分〜3時間がより好ましく、30分〜2時間が特に好ましく、45分〜1時間が更に好ましい。細孔形状部を有する陽極酸化皮膜を形成する処理時間(電解時間)は、エッチング時間等を除くトータルの陽極酸化(a1)時間以上であることが、型体1の強度、耐久性等の点から好ましい。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0061】
上記細孔形状層7はテーパー形状層6以上の膜厚で形成することが好ましく、特に限定されないが、2〜50倍がより好ましく、4〜30倍が特に好ましく、10〜20倍が更に好ましい。下限以下では細孔形状層7が薄すぎて型体1の耐久性に劣る場合があり、一方、厚すぎると、クレーター状の欠陥が多く発生する、表面が荒れてきて該型体で作成したナノ構造体のヘイズが大きくなる等の場合がある。また、厚くしすぎると陽極酸化時間は長くなり、型体のコストが高くなる場合がある。
【0062】
上記のようにして、図1及び図3に示したように、アルミニウム材料8の上に、細孔形状層7とテーパー形状層6とからなる陽極酸化皮膜2が形成されたナノ構造体作製用型体1が作製される。
【0063】
上記型体は表面硬度や耐久性に優れたものであるが、更に、上記型体を鋳型とし、1度若しくは2度転写して、金属等の材料により製造された同一又は反転の形状を有する新たな型体を得ることができる。すなわち、本発明の上記型体は、後述するナノ構造体形成材料に転写して、直接、ナノ構造体を製造するのみならず、金属等の新たな材料に転写して、該新たな材料からなる型体を製造するためにも用いられる。その後、その新たな型体を用いてナノ構造体を製造することができる。
【0064】
また、上記型体に、金属等、例えば、NiやW等の硬度の高い材料からなる層を公知の方法で積層することもできる。
【0065】
[ナノ構造体の構成・作製]
本発明のナノ構造体は、前記ナノ構造体作製用型体1に、ナノ構造体形成材料11を埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料11又は該ナノ構造体形成材料11が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用型体1から剥離して得られる。ナノ構造体形成材料11を埋め込んだ後に、要すれば、光照射、電子線照射及び/又は加熱によってナノ構造体形成材料11を硬化させた後に型体1から剥離して得られる。
【0066】
そのため、上記ナノ構造体は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で凸部又は凹部が存在するという極めて微細な表面構造を有している。更に、一般に「モスアイ(蛾の眼)構造」と呼ばれる構造を有していることが、良好な反射防止性能を有している点で好ましい。
【0067】
上記ナノ構造体形成材料11としては、特に制限はなく、熱可塑性組成物、硬化性組成物の何れでも好適に使用し得る。上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、また、型となる陽極酸化皮膜2からの剥離性(テーパー形状部4からの剥離性)等の点から硬化性組成物を用いることが好ましい。
【0068】
<1.熱可塑性組成物>
熱可塑性組成物としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなるものであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系重合体組成物、スチレン−(メタ)アクリレート系重合体組成物、ブダジエン−スチレン系重合体組成物等のスチレン系重合体組成物;塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−酢酸ビニル系重合体組成物、プロピレン系重合体組成物、プロピレン−塩化ビニル系重合体組成物、プロピレン−酢酸ビニル系重合体組成物、塩素化ポリエチレン系組成物、塩素化ポリプロピレン系組成物等のポリオレフィン系組成物;ケトン系重合体組成物;ポリアセタール系組成物;ポリエステル系組成物;ポリカーボネート系組成物;ポリ酢酸ビニル系組成物、ポリビニル系組成物、ポリブタジエン系組成物、ポリ(メタ)アクリレート系組成物等が挙げられる。
【0069】
<2.硬化性組成物>
硬化性組成物とは、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化する組成物である。中でも、光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物が、上記した点から好ましい。
【0070】
<2−1.光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物>
「光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物」(以下、「光硬化性組成物」と略記する)としては特に限定はなく、アクリル系重合性組成物又はメタクリル系重合性組成物(以下、「(メタ)アクリル系重合性組成物」と略記する)、光酸触媒で架橋し得る組成物等、何れも使用できるが、(メタ)アクリル系重合性組成物が、上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、型体1からの剥離性、化合物群が豊富なため種々の物性のナノ構造体を調製できる等の点から好ましい。
【0071】
<2−2.熱硬化性組成物>
本発明における熱硬化性組成物とは、加熱すると重合を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して元に戻らなくなる組成物であれば特に制限はないが、例えば、フェノール系重合性組成物、キシレン系重合性組成物、エポキシ系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、グアナミン系重合性組成物、ジアリルフタレート系重合性組成物、尿素系重合性組成物(ユリア系重合性組成物)、不飽和ポリエステル系重合性組成物、アルキド系重合性組成物、ポリウレタン系重合性組成物、ポリイミド系重合性組成物、フラン系重合性組成物、ポリオキシベンゾイル系重合性組成物、マレイン酸系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、(メタ)アクリル系重合性組成物等が挙げられる。フェノール系重合性組成物としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂等である。エポキシ系重合性組成物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン樹脂、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ等である。不飽和ポリエステル系重合性組成物としては、例えば、オルソフタル酸系、イソフタル酸系、アジピン酸系、ヘット酸系、ジアリルフタレート系等である。中でも、熱硬化性組成物としては、(メタ)アクリル系重合組成物が好ましい。
【0072】
また、上記ナノ構造体形成材料11には、更に、バインダーポリマー、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0073】
<ナノ構造体の作製方法>
本発明の型体1を用いたナノ構造体の作製方法としては、限定されるわけではないが、例えば下記の方法が好ましい。すなわち、上記ナノ構造体形成材料11を基材13上に採取、バーコーター若しくはアプリケーター等の塗工機又はスペーサーを用いて、均一膜厚になるように塗布する。ここで、「基材」としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)、トリアセチルセルロース等のフィルムが好適である。そして、本発明の型体1を貼り合わせる。貼り合わせた後、硬化性組成物の場合には、該フィルム面から紫外線照射若しくは電子線照射及び/又は熱により硬化させる。あるいは、前記型体1の上に、直接、ナノ構造体形成材料11を乗せ、塗工機やスペーサー等で均一膜厚の塗布膜を作製してもよい。その後、得られたナノ構造体を該型体1から剥離させてナノ構造体を作製する。
【0074】
この作製方法を、更に図8を用いて具体的に説明するが、本発明は図8の具体的態様に限定されるものではない。すなわち、ナノ構造体作製用型体1にナノ構造体形成材料11を適量供給又は塗布し(図8(a))、ローラー14の側を支点に基材13を斜めから貼り合せる(図8(b))。ナノ構造体作製用型体1とナノ構造体形成材料11と基材13とが一体となった貼合体を、ローラー14へと移動し(図8(c))、ローラー圧着させることにより、ナノ構造体作製用型体1が有するテーパー形状部4の構造をナノ構造体形成材料11に転写、賦型させる(図8(d))。このとき、ナノ構造体作製用型体1に、ナノ構造体形成材料11が埋め込まれる。その後、要すればこれを硬化させた後、該ナノ構造体作製用型体1から剥離して(図8(e))、ナノ構造体15を得る。
【0075】
図9は、連続的にナノ構造体15を製造する方法・装置の一例の模式図であるが、本発明はこの模式図の示す範囲に限定されるものではない。すなわち、ナノ構造体作製用型体1にナノ構造体形成材料11を付着させ、ローラー14により力を加え、基材13をナノ構造体作製用型体1に対して斜めの方向から貼り合せて、ナノ構造体作製用型体1が有するテーパー形状部4の構造をナノ構造体形成材料11に転写させる。これを、要すれば硬化装置16を用いて硬化させた後、ナノ構造体作製用型体1から剥離することにより、ナノ構造体15を得る。支持ローラー17は、ナノ構造体15を上部に引き上げるように設置されている。
【0076】
貼り合わせる際、ローラー14を用いて、斜めから貼り合わせることによって、気泡が入らず欠陥のないナノ構造体15が得られる。また、ローラー14を用いれば線圧(ニップ圧)を加えることになるため圧力を大きくでき、そのため大面積のナノ構造体の製造が可能になり、また、圧力の調節も容易になる。また、基材13と一体となった均一な膜厚と、所定の光学物性を有するナノ構造体15の製造が可能になり、更に、連続的に製造できるため生産性に優れたものになる。
【0077】
一方、図9に示したような、連続的にナノ構造体形成材料11の埋め込みと剥離(転写)を繰り返す連続印刷機を用いる場合、ナノ構造体形成材料11のテーパー形状部4への埋め込みのために線圧(ニップ圧)を高く設定できるが、線圧(ニップ圧)を高くすると、異物等が混入すると、より型体1の表面を傷つけてしまい易くなる。しかし、その場合であっても、本発明のナノ構造体作製用型体1を用いれば、表面硬度が高く、強度が大きいので、かかる傷がつくのを防止することができるので、ナノ構造体作製用型体1の安定した繰り返し使用が可能になる。
【0078】
ナノ構造体は、熱可塑性樹脂で形成されていてもよいが、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化性樹脂が重合したものであることも好ましい。その場合、光照射の場合の光の波長については特に限定はない。可視光線及び/又は紫外線を含有する光であることが、要すれば光重合開始剤の存在下で良好に(メタ)アクリロイル基の炭素間二重結合を重合させる点で好ましい。特に好ましくは紫外線を含有する光である。光源は特に限定はなく、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプ、各種レーザー等公知のものが用いられ得る。電子線の照射の場合、電子線の強度や波長には特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
【0079】
熱によって重合させる場合は、その温度は特に限定はないが、80℃以上が好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、200℃以下が好ましく、180℃以下が特に好ましい。重合温度が低過ぎる場合は重合が充分に進行しない場合があり、高過ぎる場合は重合が不均一になったり、基材の劣化が起こったりする場合がある。加熱時間も特に限定はないが、5秒以上が好ましく、10秒以上が特に好ましい。また、10分以下が好ましく、2分以下が特に好ましく、30秒以下が更に好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0081】
実施例1
アルミニウム材料として、99.85%のアルミニウム圧延板(2mm厚)を片面平面バフ研摩盤(Speedfam社製)により、アルミナ系の研摩材(フジミ研摩材社製)を用いて、10分間研摩して鏡面を得た。研摩面をスクラブ洗浄後、非浸食性の脱脂処理を行った。
【0082】
更に、以下に示す陽極酸化(a1)条件と、以下に示す形成された陽極酸化皮膜のエッチング処理条件との組み合わせによりテーパー形状部を有するテーパー形状層を作製した。
【0083】
<陽極酸化(a1)の条件>
使用液:0.05Mシュウ酸
電圧 :80Vの直流電圧
温度 :5℃
時間 :30秒
【0084】
<エッチングの条件>
使用液:2質量%リン酸
温度 :50℃
時間 :2分
【0085】
陽極酸化(a1)とエッチングを交互に10回ずつ繰り返すことで、平均周期200nm、径開口部の直径160nm、深さ300nmのテーパー形状部を有するテーパー形状層を得た。
【0086】
<陽極酸化(a2)の条件>
使用液:0.05Mシュウ酸
電圧 :80Vの直流電圧
温度 :5℃
時間 :2分
【0087】
上記テーパー形状層を形成後、陽極酸化(a2)を行うことで、テーパー形状層の下部に層厚300nm(0.3μm)の細孔形状層7を有するナノ構造体作製用型体を得た。
【0088】
<ナノ構造体の作製>
ナノ構造体形成材料である下記に示す光硬化性組成物を、無色透明の厚さ75μmのPETフィルム上に採取、バーコーターNO28にて、均一な膜厚になるよう塗布した。その後、上記で得られた型体を貼り合わせ、テーパー形状部に光硬化性組成物が充填されたことを確認して、紫外線を照射して重合硬化させた。硬化後、膜を型体から剥離することで、表面に、平均高さ300nmの凸部が平均周期200nmで存在するナノ構造体を得た。ナノ構造体の厚さは、PETフィルムの厚さも含めて、85μmであった。
【0089】
<光硬化性組成物の調製>
下記式(1)で示される化合物(1)11.8質量部、下記化合物(2)23.0質量部、テトラエチレングリコールジアクリレート45.2質量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20.0質量部、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0質量部を配合して光硬化性組成物を得た。
【0090】
上記化合物(1)は、下記の式(1)で示される化合物である。
【化1】

[式(1)中、Xは、ジペンタエリスリトール(6個の水酸基を有する)残基を示す。]
【0091】
上記化合物(2)は、
2HEA−−IPDI−−(アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとの重量平均分子量3500の末端水酸基のポリエステル)−−IPDI−−2HEA
で示される化合物である。ここで、「2HEA」は、2−ヒドロキシエチルアクリレートを示し、「IPDI」は、イソホロンジイソシアネートを示し、「−−」は、イソシアネート基と水酸基の通常の下記の反応による結合を示す。
−NCO + HO− → −NHCOO−
【0092】
実施例2
実施例1において、細孔形状を有する陽極酸化皮膜の形成における陽極酸化(a2)の時間を6分とし、細孔形状層の深さを700nm(0.7μm)とした以外は、実施例1と同様にしてナノ構造体作製用型体及びナノ構造体を得た。
【0093】
実施例3
実施例1において、細孔形状を有する陽極酸化皮膜の形成における陽極酸化(a2)の時間を20分とし、細孔形状層の深さを1700nm(1.7μm)とした以外は、実施例1と同様にしてナノ構造体作製用型体及びナノ構造体を得た。
【0094】
実施例4
実施例1において、細孔形状を有する陽極酸化皮膜の形成における陽極酸化(a2)の時間を60分とし、細孔形状層の深さを4700nm(4.7μm)とした以外は、実施例1と同様にしてナノ構造体作製用型体及びナノ構造体を得た。得られたナノ構造体作製用型体の断面写真を図3に、得られたナノ構造体作製用型体のテーパー形状層の部分の断面写真を図4に、得られたナノ構造体の断面写真を図6に示す。
【0095】
実施例5
実施例1において、細孔形状を有する陽極酸化皮膜の形成における陽極酸化(a2)の時間を120分とし、細孔形状層の深さを9700nm(9.7μm)とした以外は、実施例1と同様にしてナノ構造体作製用型体及びナノ構造体を得た。
【0096】
比較例1
実施例1において、細孔形状を有する陽極酸化皮膜を形成しない以外は、実施例1と同様にしてナノ構造体作製用型体及びナノ構造体を得た。得られたナノ構造体作製用型体の断面写真を図5に、ナノ構造体の断面写真を図7に示す。
【0097】
<評価>
評価例1
上記実施例1ないし実施例5、比較例1で得られたナノ構造体作製用型体の表面硬度及び耐久性、並びに、そのナノ構造体作製用型体を用いて得られたナノ構造体の反射率及びヘイズを以下のように測定した。結果を表1に示す。
【0098】
評価例2
上記実施例4及び比較例1で得られたナノ構造体作製用型体の、380nm〜780nmの反射率のスペクトルを以下のように測定した。それぞれの結果を図8及び図9に示す。
【0099】
[表面硬度]
ナノ構造体作製用型体から試験片を切り出し、マイクロビッカース硬度計((株)ミツトヨ社製、HM−211)を用いて、常法により測定した。
【0100】
[耐久性]
2cmの面積にベンコット・クリーンEA−8(旭化成せんい(株)製、クリーンルーム用ワイパー)を敷き、その上に100gfの荷重を乗せたもので、ナノ構造体作製用型体の表面の上を10往復摩擦した。その後、目視で以下の基準で判定した。
◎:摩擦部分に全く変化なし(耐久性が極めて良好)
○:摩擦部分に1〜2本の傷が発生(耐久性が良好)
△:摩擦部分に3〜4本の傷が発生(やや耐久性が低いが合格レベル)
×:摩擦部分に5本以上の傷が発生(耐久性が不良)
【0101】
[反射率]
ナノ構造体の裏面(PET側)に黒色テープを貼り付け、島津製作所社製、自記分光光度計「UV−3150」を用い、5°入射絶対反射率を測定した。5°入射絶対反射率が0.1%以下であるものを良好とした。
【0102】
[ヘイズ]
(株)村上色彩技術研究所製、ヘイズメーターHM−150を用いて、可視光線のヘイズを測定した。ヘイズは5以下を良好とした。
【0103】
[陽極酸化皮膜(テーパー形状層)と陽極酸化皮膜(細孔形状層)の厚さ]
型体の表面に応力を加えて陽極酸化皮膜を剥離し、断面の1万倍及び10万倍のSEM写真を撮影し、それぞれの層の厚さを定規で測ることにより測定した。
【0104】
[陽極酸化皮膜の全体の膜厚]
型体の表面に応力を加えて陽極酸化皮膜を剥離し、断面の1万倍及び10万倍のSEM写真を撮影し、定規で測ることにより測定した。
【0105】
【表1】

【0106】
表1より、本発明のナノ構造体作製用型体である実施例1ないし実施例5は何れも、表面硬度(ビッカース硬度)、耐久性が何れも優れるものであり、実施例3ないし実施例5は、特に表面硬度や耐久性が格段に優れるものであった。一方、比較例1で得られた、細孔形状部がない、すなわち細孔形状層がないナノ構造体作製用型体は、表面硬度がアルミニウム基板(参考例1)に比べて若干大きい程度であり、また、耐久性も劣るものであった。
【0107】
更に、これらのナノ構造体作製用型体で作製したナノ構造体は、「反射率」及び「ヘイズ」が優れていた。すなわち、図8及び図9に示したように、型体に細孔形状層を形成させても、すなわち、陽極酸化とエッチングを繰り返した後に陽極酸化(a2)を追加しても、それで得られた型体で作製したナノ構造体は、「反射率」や「ヘイズ」が劣るということはなかった。
【0108】
評価例3
実施例4で得られたナノ構造体作製用型体と、比較例1で得られたナノ構造体作製用型体とを用いて、連続的にナノ構造体形成材料の埋め込みと剥離(転写)を繰り返すようになっている連続印刷機を用いてナノ構造体を作製したところ、実施例3のナノ構造体作製用型体を用いた場合は、10000mまで問題なくナノ構造体が作製できたが、比較例1のナノ構造体作製用型体を用いた場合は、1000mを作製した時点で、異物の付着が原因と思われる欠陥が発生し、型体の凹みを肉眼で確認することができた。すなわち、型体の耐久性が劣るためにナノ構造体作製に問題が生じたため、その時点で型体を新しいものに交換せざるを得なくなった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のナノ構造体作製用型体は、印刷機の始動時、すなわちナノ構造体の作製開始時、及び/又は、その終了時のストール運転により、フィルム等の機材と型体の間でスレが発生し、型体に傷が付いてしまうことを防止できる。また、連続印刷を行っている段階で、ナノ構造体形成材料である樹脂類に、小さいゴミや異物が混入したり、基材や型体に小さいゴミや異物が付着したりして、高いニップ圧の関係から型体を傷つけてしまうおそれがある場合であっても、強い硬度で傷を防止する。
【0110】
上記したように、本発明のナノ構造体作製用型体は、表面強度、耐久性等に優れているので、良好な視認性を確保するために、例えば、反射防止体等を必要とする、LCD、PDP等のFPD;陳列棚、額等の前面板;標本箱等の蓋板;窓、戸等の建築材料;オブジェ等の構造体の表面;等、反射の抑制等が必要になる用途・分野のナノ構造体の作製用に、広く好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0111】
1 ナノ構造体作製用型体
2 陽極酸化皮膜
3 ポア
4 テーパー形状部
5 細孔形状部
6 テーパー形状層
7 細孔形状層
8 アルミニウム材料
9 アルミニウム
11 ナノ構造体形成材料
13 基材
14 ローラー
15 ナノ構造体
16 硬化装置
17 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するための型体であって、アルミニウム材料の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有し、該ポアは、テーパー形状部とその下部にある細孔形状部とからなり、該テーパー形状部は、陽極酸化皮膜の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっており、該細孔形状部は、実質的に等しい径の細孔形状となっており、該テーパー形状部を有するテーパー形状層の下側に連続して細孔形状部を有する細孔形状層を有することを特徴とするナノ構造体作製用型体。
【請求項2】
上記テーパー形状層の層厚が100nm以上1000nm以下であり、上記細孔形状層の層厚が該テーパー形状層の層厚以上である請求項1記載のナノ構造体作製用型体。
【請求項3】
上記細孔形状層の層厚が600nm以上である請求項1又は請求項2記載のナノ構造体作製用型体。
【請求項4】
上記陽極酸化皮膜の全体の膜厚が600nm以上である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載のナノ構造体作製用型体。
【請求項5】
上記ポアの細孔形状部の少なくとも一部が封孔されている請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載のナノ構造体作製用型体。
【請求項6】
ビッカース硬度が40以上である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載のナノ構造体作製用型体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載のナノ構造体作製用型体の製造方法であって、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有するように、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行ってテーパー形状部を有するテーパー形状層を形成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状層の下部に、層厚が該テーパー形状層の層厚以上になるように細孔形状部を有する細孔形状層を形成させることを特徴とするナノ構造体作製用型体の製造方法。
【請求項8】
上記テーパー形状部を有するテーパー形状層の陽極酸化皮膜及び/又は上記細孔形状部を有する細孔形状層の陽極酸化皮膜を、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下の浴液を用い、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で形成する工程を少なくとも含む請求項7記載のナノ構造体作製用型体の製造方法。
【請求項9】
上記エッチングを、リン酸濃度1質量%以上20質量%以下のエッチング液を用い、液温30℃以上90℃以下、かつ1回の処理時間10秒以上60分以下で行う請求項7又は請求項8記載のナノ構造体作製用型体の製造方法。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9の何れかの請求項記載のナノ構造体作製用型体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とするナノ構造体作製用型体。
【請求項11】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項又は請求項10記載のナノ構造体作製用型体に、ナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用型体から剥離してなることを特徴とするナノ構造体。
【請求項12】
上記ナノ構造体形成材料が、熱可塑性組成物、又は、「光照射、電子線照射及び/若しくは加熱によって硬化する硬化性組成物」である請求項11記載のナノ構造体。
【請求項13】
上記ナノ構造体が反射防止体である、請求項11又は請求項12に記載のナノ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82470(P2012−82470A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229167(P2010−229167)
【出願日】平成22年10月10日(2010.10.10)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【出願人】(391035304)日本伸管株式会社 (8)
【Fターム(参考)】