説明

パターン形成方法

【課題】導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができるパターン形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】超微粒子を含むコロイド材料5を接触させた基板4上にエネルギービームを照射してパターン形成を行うパターン形成方法であって、エネルギービームの進行路途中にエネルギービームを遮蔽する遮蔽手段を設け、遮蔽手段は少なくとも基板4上に完全なパターン6を形成するためのエネルギー値より大きいエネルギービームを遮蔽することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の配線パターンを形成するためのパターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー描画方式は基板に接触させた材料にレーザー照射を行うことで照射部分の材料の少なくとも一部を分解、乾燥、重合、結晶化させるなどして未照射部分との間に物性の差異を生じさせその結果パターン形成を行うものであって、商業印刷分野における版下の作製などにおいて実用化されている技術である。
【0003】
レーザーを用いてパターン形成される材料としては、直径数nmの銀の超微粒子を保護剤で被覆し適当な溶媒中に分散させたコロイド状液体材料を挙げることができ、上市品を試薬メーカー等から購入可能である。この材料は銀インクなどと称され、あたかも従来の印刷用インクのように基板上に塗布を行うことができ、塗布後に熱処理を行うことで銀の超微粒子を被覆していた保護剤が分解除去され銀の皮膜が形成されるといったものである。銀の他にも金や銅、白金、パラジウム等の貴金属を中心とした金属類、透明導電体として知られているインジウム錫酸化物や絶縁体や光導波路材料としての酸化ケイ素や酸化チタン、さらには半導体材料としてのシリコン微粒子を分散した半導体インクなどが盛んに検討されている。
【0004】
これら機能性インクともいうべきコロイド材料群をレーザー描画法と組み合わせて使用することで、基板上に例えば銀インクを塗布してレーザーで処理することで所望のパターンの電気配線を形成することができる。これは、レーザーのエネルギーによって基板上のコロイド材料が熱分解され、残った銀粒子が融合して導電パターンを形成するというプロセスによる。
【0005】
このようなコロイドインクとレーザー描画を用いたパターン形成については例えば(特許文献1)に詳細が開示されている。
【特許文献1】特開2006−38999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、簡易な方法で自由度高く高精細な導電パターン形成を行うことができるものの、エネルギービームの照射条件を適切に設定しないと形成しようとしている導電パターンに欠陥が発生し、導電パターンが断線する原因となる。すなわち、ビーム内部のエネルギー分布が均一ではないために、ビーム全体のエネルギーを大きくすると高エネルギー部分にアブレーションによる欠陥が発生し、また逆にビーム全体のエネルギービームを小さくすると低エネルギー部分の基板への付着力が弱くなりパターン欠損を生じ、いずれにしても導電パターンが断線することになるのである。
【0007】
そこで本発明は、導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができるパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明では、超微粒子を含むコロイド材料を接触させた基板上にエネルギービームを照射してパターン形成を行うパターン形成方法であって、エネルギービームの進行路途中にエネルギービームを遮蔽する遮蔽手段を設け、遮蔽手段は少なくとも基板上に完全なパターンを形成するためのエネルギー値より大きい前記エネルギービームを遮蔽することを特徴とするパターン形成方法とした。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができるパターン形成方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の請求項1記載の発明は、超微粒子を含むコロイド材料を接触させた基板上にエネルギービームを照射してパターン形成を行うパターン形成方法であって、エネルギービームの進行路途中にエネルギービームを遮蔽する遮蔽手段を設け、遮蔽手段が少なくとも基板上に完全なパターンを形成するためのエネルギー値より大きいエネルギービームを遮蔽することを特徴とするので、導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを自由度高く形成することができる。
【0011】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載のパターン形成方法であって、遮蔽手段に遮蔽されるときのエネルギービームのエネルギー分布は、ガウシアン形状であることを特徴とするので、レーザーを始めとして、電子ビームやイオンビームなどの多くのエネルギービームに対して有効であり、簡易な構造の遮蔽手段によって効果的にエネルギービームを遮蔽することができる。
【実施例】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明に係る形成方法について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施例おけるパターン形成装置を示す概念図である。図1において、符号1はエネルギービーム源であり、本実施例においては波長450nm、最大出力500mwの青色の半導体レーザーである。本発明を実施可能なエネルギービームとして、このような可視光レーザーの他に赤外線や紫外線レーザー、電子線、イオンビームなどを用いることができる。符号2はコリメータレンズやアナモルフィックプリズム等のビーム整形光学系である、コリメータレンズは広がりを持った半導体レーザーの放射光を平行光にするため、またアナモルフィックプリズムはビーム断面内で扁平なエネルギー分布をもった半導体レーザーの放射光を同心円状のガウシアン分布に近い形に整えるために用いられている。これらの光学要素は半導体レーザーを光源とする系においてよく用いられるものである。もちろん光源から放射されるビームのエネルギー分布が整形することなくともすでにガウシアン形状に近い形であるような場合にはより簡素な光学系を選択可能である。符号3は集光レンズである。符号4は基板であって、本実施例においては厚さ1.1mmの一般的な耐熱ガラスを使用している。符号5は基板4上に塗布された後溶媒を乾燥させ固化したコロイド材料からなる薄膜であって、厚さはおおよそ10μmである。コロイド材料5は必ずしも基板4上に乾燥させる等して固定化する必要はなく、液体状態のまま接していてもよい。また本実施例におけるコロイド材料5は銀の超微粒子を保護剤で被覆した後に有機溶媒等に分散させたいわゆる銀インクを乾燥させたものであって、銀インクはハリマ化成株式会社等より入手可能なものである。符号6は形成されたパターン、符号7は基板4とコロイド材料5の界面付近に形成されるビームの焦点である照射点である。符号8は光源を制御する制御部であって、光源のON/OFF制御の他、出力の増減の制御も可能なものであり、例えばPC等により制御することができる。そして符号9はビーム整形光学系2によって断面がガウシアン形状に近いエネルギー分布を持った平行光に整形された加工前のビーム、符号10は加工前のビーム9の一部を遮蔽することでエネルギー分布を変化させるための遮蔽手段としての棒状の遮蔽部、符号11は遮蔽部10によってエネルギー分布が変化した加工後のビーム、そして、符号12はエネルギービームと基板4の相対位置変更機構としての機械式の可動ステージである。
【0014】
可動ステージ12の別の形として、エネルギービーム源1やビーム整形光学系2等を含む光源側をロボットアームなどを用いて可動に保持し、これを基板4に対して相対的に移動させるようなものや、レンズ3のみを可動に保持して、レンズ3を適切に移動させることによって照射点7の位置を基板4に対して移動させるといったものを用いても本発明を実現することができる。また、ポリゴンミラーなどを用いてビームを走査することも好ましい。
【0015】
さて、本実施例における遮蔽部10は光路の内部、加工前のビーム9のほぼ中央部を遮蔽するように設置された棒状体である。本発明においてはこの遮蔽物はほぼガウシアン形状に近いエネルギー分布に整形された加工前のビーム9の中央部付近を遮蔽するように設置される。そして本実施例における遮蔽部10である棒状体は加工前のビーム9の中央部を含んで走査方向に平行に加工前のビーム9を直線状に二分割している。もちろん本発明における遮蔽部10は後述するが、棒状のものに限られるものではなく、またその断面形状や材質等も自由である。要はエネルギービームの一部分を遮蔽することができればよい。このとき遮蔽部分のサイズはパターン形成条件、すなわち材料の種類やエネルギービームの出力や種類、ビームの走査速度等々に応じて適宜適切に設定されるべきものであり、さらには条件によってリアルタイムに可変されることも好ましいものである。また、本発明で言うところの遮蔽とはパターン形成の際に欠陥を生じさせないために行われるものであって、そのような条件を満たすものであれば遮蔽と解釈できるものである。例えば、一般に遮蔽というとエネルギービームを完全に遮断するイメージがあるが、本発明においては欠陥が発生しない程度までビームの一部分のエネルギーを低下させる、あるいはビーム断面内のエネルギー分布を変化させることも遮蔽に含まれるものである。本発明で遮蔽と解釈されるものの例として、ビームを完全に遮断するものの他、ビームの一部のエネルギーを低下させながらも完全に遮断しない半透過性の材料で形成された遮蔽物、ビームの断面内エネルギー分布を変化させるための回折格子やレンズなどを挙げることができる。また、ビームを完全に遮断する材質で構成された遮蔽物であっても、その断面形状を工夫してエネルギービームの回折を生じさせ、結果的に欠陥が生じないようなビームを生じさせることが可能である。もちろんこれら本発明で遮蔽と解釈されるような状態を生じせしめる各要素を複合的に利用することも好適である。
【0016】
さて、本実施例ではコロイド材料としてパターン形成後に導電性を持った銀の膜となるいわゆる銀インクを用いたが、もちろん本発明に係るパターン形成方法を用いてパターン化可能なものは銀インクに制限されるものではなく、金や白金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、等の金属およびそれらの合金や混合物、ITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)やSnO2(酸化錫)等の化合物系導電体材料、SiO2(二酸化珪素)やSiN(窒化珪素)やTiO2(チタン酸化物)やAl23(アルミナ)等のセラミックス系絶縁体材料、SiやGaN(窒化ガリウム)やCdSe(セレン化カドミウム)を始めとする半導体材料等々、前述したコロイド様の状態を実現可能なものはほとんど全てについて本発明を用いることが可能である。
【0017】
ところで、本発明を実施するに当たり本質的ではないために図1に図示していない補助的な要素として、全体の機構を支えるための架台、各構成要素の保持調整機構、さらにはこれらの各要素を一貫して動作させるためのコンピューター等の制御機構とその制御を予め記述した制御プログラムなどを挙げることができる。
【0018】
さて、以上説明したような構成要素を用いることでどのようにしてパターン形成を行うのかの概略をパターン形成の手順にしたがって説明する。尚、以下に説明するパターン形成の一連の工程は図示しない制御機構と制御機構に備えられた制御プログラムにしたがいスムースに進行するものである。
【0019】
まず、基板4上にコロイド材料5の乾燥膜を形成し、この基板4を可動ステージ12に固定する。ここで制御機構はエネルギービーム源1の制御部8を制御してレーザー光源からレーザー光を射出する。次いで可動ステージ12を駆動してパターン6を形成するためのビーム走査を行う。その際、制御部8はパターンの不連続部分でレーザーを消灯するなどする。そしてパターン形成が終了すると、基板4は可動ステージ12から取り外され、次いで適切な溶媒を用いるなどしてレーザー照射がなされなかった部分のコロイド材料を除去する現像工程に供される。このようにして基板4の上に所望のパターン6、本実施例では金属銀からなるパターンが形成される。このようにして得られるパターン6を電気的な配線として使用するような場合には、パターン6上に電解メッキで形成された金属銅膜や、無電解メッキによるニッケルやクロムなどが形成されることは好ましいし、また例えばパターン6が加飾のための下地として用いられるような場合には、塗装膜等がコーティング層として形成されることも好ましいものである。
【0020】
パターン形成の概略の工程はこのようなものである。次に、このパターン形成の過程で生じる欠陥についての説明を行う。説明する欠陥はコロイド材料を用いるパターン形成において特有に生じるものであると考えられるため、まずコロイド材料そのものの詳細説明から始める。
【0021】
コロイド材料は金属や酸化物などのセラミックスなどからなる超微粒子と、これら超微粒子を安定に保持するための保護剤と、保護剤に被覆された超微粒子を分散させる溶媒と、その他添加剤等からなる液体材料であって、保護剤などの超微粒子以外の物質は多くの場合有機物である。
【0022】
このようなコロイド材料に含まれる超微粒子は、その粒子径が数nmから数百nmと非常に小さいために、体積に対する表面積の比率が大きくなり、物性に対する表面の特性の影響が現れる傾向が強い。その特性変化の一つとして顕著なのが見かけの融点の低下である。例えば、本実施例でコロイド材料として用いている銀の場合、バルク体の融点は960℃付近にあるのに対して、保護剤で被覆された超微粒子が見かけ上融解して相互に結合しバルク体を形成する温度は高々300℃付近である。
【0023】
ここで、見かけ上と表現しているのは、超微粒子がバルク体を形成するためにはその表面が融解して互いに連結すれば十分であるからであって、超微粒子の内部までが完全に融解して超微粒子を構成する原子一つ一つがばらばらになるという意味ではないからである。一般に表面に存在する原子はダングリングボンド等の不安定要素のために内部に存在する原子に対してエネルギーが高い状態であると言え、これは融点という意味ではより低くなっていると解釈することができる。これに対して内部は原子相互の安定な結合のために融点はより高くなっているといえる。我々が通常見かけるバルク体は表面に露出した原子に比べて内部に存在する原子の数が圧倒的に多く、ほとんどが内部の原子といえるため、融点を含めた諸物性は内部の原子の状態が決定する。それに対して、超微粒子では表面の比率がバルク体に比較して極端に高くなるために表面の性質が無視できなくなり、結果見かけの融点が下がったように見えるのである。
【0024】
ところで、超微粒子が一旦結合してバルク体を形成すると、その物理的な構造はバルク体銀そのものであって、当然ながら諸物性はバルク体の銀と同一となる。つまり融点もバルク体と同じになる。このような性質は銀の超微粒子に限らず、超微粒子一般に見受けられる性質である。つまり、コロイド材料は比較的低い温度で見かけ上溶解して互いに結合することでバルク体となり、そして一旦バルク体となると、その融点は上昇するという性質がある。尚、ここで言うバルク体とは超微粒子が保護剤に被覆されるなどしてそれぞれ独立している状態の対義であって、本発明でパターンとして形成されるような比較的薄い膜もバルク体に含まれるものである。
【0025】
ところで、このような性質を持ったコロイド材料を基板に塗布して溶媒を乾燥によって除去すると、超微粒子と保護剤からなる乾燥膜が形成される。このとき、乾燥膜内の超微粒子は保護剤によって保護されているため安定している。このような乾燥膜にエネルギーを与えて加熱するなどすることで与えられるエネルギーがある一定以上になると、保護剤が分解され気化するなどすることによって超微粒子がむき出しになる。そしてむき出しになることによって不安定な状態に晒された超微粒子が互いに結合しバルク体を形成する。最終的にコロイド材料の乾燥膜はそのまま超微粒子を構成している材料からなる薄膜となる。
【0026】
前述したように、この薄膜化が生じるときの温度は、超微粒子を構成する材料からなるバルク体の融点に比較して低く、銀の場合で高々300℃程度である。尚、この現象はコロイド材料の乾燥薄膜を形成せずに、基盤に対してコロイド材料を液体のまま接触させて加熱を行っても同様に観察される。
【0027】
次に、パターン描画に用いるエネルギービームを詳細に見てみる。一般的なレーザーを例に取ると、意図的な光学的加工を施さない限り、通常のレーザーの光束であるビームは中央部のエネルギーが周辺部のエネルギーよりも大きくなっている、つまりエネルギーの強度はビーム進行方向に対する垂直断面の中央部ピークとした正規分布、いわゆるガウシアンカーブ、ガウシアン分布などと呼ばれる分布に近い状態を取るのが一般的である。実施例で用いている半導体レーザーについてもビームの中央部のエネルギーが周辺部よりも大きくなっているという点では同様であるが、半導体レーザーの場合は放射光の広がりが大きく、かつ方向によってその広がり角度が異なるためにビーム形状が扁平となることが特徴的である。このような半導体レーザーからのビームはビーム整形光学系2を用いることにより、一般的なレーザーと同じガウシアンに近い形状のビームにしてから使用されることが多い。
【0028】
さて、以上説明したことを用いて、パターンに発生する欠陥とその発生原因について説明を行う。
【0029】
本発明で言うところの欠陥は、形成されるパターンの中央部に発生する点状、又は線状のものである。この欠陥部分では、形成されるべき金属膜がない。したがって、パターンを電気配線として使用する場合にはこの欠陥は断線を引き起こす原因となる。
【0030】
このような欠陥の発生原因は、コロイド材料にエネルギービームを照射し、コロイド材料の保護剤を分解除去することで金属膜を形成するという本法の特徴に起因する。
【0031】
エネルギービームによって保護剤の分解を行う際には、ビームのエネルギーを適切な値の範囲に保つ必要がある。すなわち、ビームが走査され、パターンを形成すべき部位にビームが照射されている間に金属化が完了し、完全なパターン形成が行われる必要があるということである。そして、このエネルギーが適正な範囲を超える過大なものであった場合に本発明で言うところの欠陥が発生する。コロイド材料に照射されるビームのエネルギーが適正な範囲にある場合は、コロイド材料のビーム照射部位では保護剤の分解とそれに続く金属膜の形成が進行して完全なパターンが形成される。しかし、ビームのエネルギーが大きくなっていくと、金属膜の形成に加えてコロイド材料のアブレーションが競争的に発生するようになる。コロイド材料のアブレーションは、保護剤の分解が過剰なエネルギーの照射のために爆発的に進行することで生じる。そして、金属膜の形成が保護剤の分解とそれに続く金属微粒子の溶融結合という一定の時間を要する過程を経るのに対して、アブレーションはビームが照射された瞬間に生じる。したがって、照射されるビームのエネルギーが増加するにしたがって、アブレーションは急速に支配的な過程となっていく。そしてアブレーションが生じた部位からはコロイド材料が飛散してしまうため、もはや金属膜が形成されることはない。こうして本発明で言うところの欠陥が生じるのである。すでに説明したように、本実施例におけるエネルギービームはガウシアン形状に近いエネルギー分布を持っており、ビームの中央部にピークを持つ凸形状をしている。したがって、ビームの中央部付近ほどアブレーションが生じやすくなる。
【0032】
こうして発生するアブレーション跡を本発明では欠陥としている。この欠陥は照射されるビームのエネルギー値によって飛び飛びの点状であったり、点が繋がった線状を呈したりする。
【0033】
さて、このような欠陥を発生させないようにするためには、ビームのエネルギーを減じピークエネルギーを単純に欠陥が発生しない範囲に留めるよう調節すればよいと考えることもできるが、ビームのエネルギーを減じることは、コロイド材料の単位面積あたり単位時間に照射されるエネルギーが減るということを意味する事となり、別の問題が生じる。
【0034】
まず、ビームのエネルギーを減じることでパターン形成のために要する時間は長く必要になるが、これは生産性を考慮した場合好ましいものではない。また、本実施例におけるエネルギービームはレーザーであり、そのエネルギー分布の形状はガウシアンに近い、よってビームの中心から離れるにしたがってビームのエネルギーは次第に低下していく。そのためビームの中央から離れたビーム周辺部では完全なパターン形成に必要なエネルギー値が不足するようになるという問題も生じてくる。ビームのエネルギーを減じることでコロイド材料に照射されるエネルギーが不足すると、保護剤の分解は不完全となり、基板との付着力が不足することで現像時にパターンが流れ去ってしまったり、基板上にパターンが残ったとしても、有機物からなる保護剤が多くパターン内に残留するために電気抵抗が大きくなってしまうといった問題が生じる。このように、ビームのエネルギーを減じピークエネルギーを単純に欠陥が発生しない範囲に留めるよう調節することでは欠陥以外の別の問題が発生するのである。
【0035】
以上をまとめると、完全なパターンを効率よく形成するためにはビームのエネルギーは大きくなければならず、一方でビームのエネルギーが大きくなるとビームのピークに相当する部分においてアブレーションが生じ、欠陥が生じてしまうという恐れが出てくるということになる。
【0036】
さて、本発明の要諦はこのようなコロイド材料のエネルギービームに対する応答を考慮し、導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができるパターン形成装置を提供することであって、それは以下のようなものである。
【0037】
図1に示された本実施例におけるパターン形成装置は、加工前のビーム9の光路内に遮蔽部10としての棒状体を具備している。そして、この棒状体はガウシアン状の断面エネルギー分布を持った加工前のビーム9の中央部付近を遮蔽するように位置している。この加工前のビーム9の中央部付近はガウシアン形状のエネルギー分布のピーク付近に相当する最もアブレーションによる欠陥が生じやすい部分である。このような部位に遮蔽部を配置する効果について以下に説明する。
【0038】
図2は加工前のビーム9のエネルギー分布を示す図である。図2(a)は加工前のビーム9の進行方向に垂直な断面における面内エネルギー分布を三次元で表した模式図であって、符号21はエネルギーピークを、符号22はエネルギービームのビーム周辺部を、符号23はビームの走査方向をそれぞれ示している。そして図2(b)は図2(a)に示した三次元模式図をα−α´断面で切断した断面形状を表す図である。ここで、α−α´断面はエネルギービームの進行方向に平行、ビームの走査方向に垂直で、エネルギーピーク21を含む面として定義される。図2(b)の縦軸はエネルギーの大きさを、横軸はピークからの相対的な距離を表している。図2(b)におけるAは本実施例でのビーム走査条件においてアブレーションによる欠陥が発生し始めるエネルギーレベルを示す線、そしてBは完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルを示す線である。以降の説明では、図2(b)を含め図2(b)と同様の考え方で作られたものを単に断面エネルギープロファイルと記載する。そして、図3は加工後のビーム11の断面エネルギープロファイルを示す図である。図3(a)は遮蔽部10としての棒状体の直後における加工後のビーム11の断面エネルギープロファイル、図3(b)は棒状体によってその一部が遮蔽された後、しばらく空間を伝播した集光レンズ3付近のビームの断面エネルギープロファイル、そして図3(c)は照射点7におけるビームの断面プロファイルである。
【0039】
図2(a)から明らかなように、本実施例における加工前のビーム9である半導体レーザービームはビーム整形光学系2によって適切に整形されており、ガウシアン形状に近いエネルギー分布を持っている。そして図2(b)に示したように、その断面エネルギープロファイルは鋭いピークと滑らかな裾を持つ形状となっている。これはレーザーを含むエネルギービームにおいて一般的に見られる分布である。図2(b)に示したビームのピーク近傍はAで示した欠陥発生のエネルギーレベルを超えている。すなわち、このままの断面エネルギープロファイルのビームでパターン形成を行うと、パターン上に欠陥が発生するということである。
【0040】
この加工前のビーム9を遮蔽部10としての棒状体を用いてピーク付近を含むように遮蔽するとその断面エネルギープロファイルは図3(a)〜(c)のようになる。ここで、図3(a)から図3(c)は前述したように断面エネルギープロファイルを測定した位置が異なるだけであるが、その形状は大きく異なっている。まず図3(a)では棒状体がピーク部分を遮蔽したためにピーク部位に相当するエネルギーが大きく落ち込んで谷間となっている。そして断面エネルギープロファイルは鋭いが、加工前と比べて低い二つのピークを持つ形状となっている。このとき谷間部分は完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルBを下回っており、このままでは中央部分に相当する部位のパターン形成が不完全になる。ところが、このビームがしばらく空間を伝播すると鋭い二つのピークはさらに低くなだらかになり、深く鋭かった谷間も浅くなっている。そして図3(c)に示された照射点7におけるビームの断面エネルギープロファイルでは二つのピークとその間の谷は判然としなくなっており、ほぼ台形といってもよい形になっている。そして完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルBを下回る谷間もなくなっている。
【0041】
加工後のビーム11が空間を伝播するにしたがって図3(a)〜(c)に示したような断面エネルギープロファイルの変化を示すのは、レーザービームが遮蔽部10としての棒状体の輪郭部で回折を生じているためである。そしてこのような回折現象はレーザービームに限らず、電子ビームのような波動性と粒子性を持った他のエネルギービームにおいても一般的に見られるものである。
【0042】
本発明におけるパターン形成装置は照射点7におけるビームの断面エネルギープロファイルが図3(c)に示したものに近くなるように、すなわち、アブレーションによる欠陥が発生し始めるエネルギーレベルAを上回ることなく、また完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルBを下回ることのないエネルギーを持った領域が形成されるように遮蔽部10の形状やサイズが適切に調整されるものである。
【0043】
照射点7におけるビームの断面エネルギー分布が図3(c)の様になることで、ビームのエネルギーはあらゆる部分で欠陥を生じるエネルギーレベルAを超えることはなくなるためパターンの欠陥は生じない。そして、ビーム周辺部22のエネルギープロファイルには少しの変化もないので、ビーム周辺部に相当するパターンの端部においてパターン形成が不完全になるということもない。
【0044】
このように、コロイド材料とエネルギービームを用いたパターン形成において、欠陥を引き起こす原因となるエネルギービームのピーク付近を遮蔽することで照射点におけるビームの断面プロファイルを適正な分布に変化させることができ、パターンの欠陥が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができる。
【0045】
本実施例では、遮蔽部10として棒状体を用いたが、その他にも本発明を実施できる遮蔽物の例は多数あり、その一例を図4を用いて説明する。図4は、ビームと遮蔽物とを示す模式図である。
【0046】
まず、図4(a)は加工前のビーム9の進行方向に対する垂直断面を現す模式図であって、符号30はエネルギービームの外周部を示す線、符号31はエネルギービームのピーク位置を表すピーク点である。
【0047】
遮蔽部10のその他の例として、まず図4(b)に示した半透明な遮蔽物による遮蔽を挙げることができる。ここで図4(b)の符号33が遮蔽物であって、ピーク点31を含んだビームの一部を半透明に遮蔽している。またここでいう半透明とは、加工前のビーム9の透過率にかかわるものであって、ある物質が加工前のビーム9を実質的に劣化なく通過させるとき、この物質を透明であると表現する。したがって、半透明であるということは図4(b)に示した遮蔽物33が加工前のビーム9を全量を通すわけでもなく、かといって全量を遮断するわけでもないということを示している。そのため、遮蔽物33により遮蔽された部分はエネルギーレベルが減少し、このような構造とすることでも図3(c)に示したような照射点における断面エネルギー分布を実現することができる。また、このときこの半透明な遮蔽物の透過率の面内の分布に変化があることも好ましい。
【0048】
また、図4(c)は遮蔽物のもう一つの好適な例である。図4(c)の符号34で示した遮蔽物はビームを分割するような遮蔽を行うのではなく、ピーク点31を含む限られた部分を遮蔽するのみであり、遮蔽物によるエネルギーの減少を抑えることができ、より効率よくビームのエネルギーを利用することが可能である。図4(c)のようにビームの遮蔽を行う場合には、形成されるパターンが左右対称な特性となるように上下方向への操作を行うことが好ましい。そして図4(d)は遮蔽物のさらにもう一つの好適な例である。図4(d)の符号32は凹レンズである。ピーク点31を含む部位に凹レンズを配置することでピーク点31のエネルギービームは拡散し、結果的に中心部のエネルギーを低下させることで照射点7における断面エネルギープロファイルを図3(c)の形に近づけることができる。また、ピーク点31のエネルギーを遮蔽するのでなく、拡散させるためビームのエネルギーをより効率よく利用することができる。また、このとき凹レンズの代わりに回折格子を用いることも好ましいものである。さらに、これらの好適な例は同時に、あるいは組み合わせて利用することも望ましい。そしてこれら遮蔽部は描画される条件に応じて適宜、あるいは状況に応じたフィードバック等によるリアルタイムな可変を伴うことを妨げられるものではない。すなわち、例えば異型の遮蔽部を可動に保持し、条件に応じて可動部を可動させることによって実質的にビームに対する遮蔽部分の位置や面積を変化させるといったことを行うということである。もちろん、いずれの場合でも遮蔽部は加工前のビームにおける欠陥を引き起こす閾値を超えたエネルギーを持つピーク付近を含んだ遮蔽を行う。
【0049】
ここで、遮蔽部を可変に保持する必要がない場合には、遮蔽部を本実施例で用いた棒状体の様に独立した構造としてパターン形成装置内に設ける必要はない。例えば、ビーム整形光学系2の構成要素であるアナモルフィックプリズムの一面や集光レンズの表面などに金属膜を蒸着するなどし、その一部を除去して遮蔽部を構成することが可能である。
【0050】
尚、本実施例に用いた棒状体、ならびに図4を用いて説明した好適な代替手段等のいずれにおいても遮蔽部が遮蔽しているのは加工前のビーム9の一部分であって、エネルギービーム全体に対して加工を施すわけではない。こうすることにより効率のよいパターン形成を実現することができる。
【0051】
最後に、本発明を実施する際の他の要件を具体的に示す。ただし、これはあくまで一例であって、すでに言及しているようにパターン形成のための諸条件、すなわちコロイド材料の種類、乾燥膜であればその膜厚、エネルギービームの種類と強度、走査速度等は互いに密接に関連しあっている。よって、他の実施を行う場合には、本発明の本質を勘案しながら最適な条件を選択する必要がある。
【0052】
微粒子として銀を30w%含み、トルエンを溶剤とするコロイド材料を厚さ1.1mmのホウ珪酸ガラス基板上にディップコート法で塗布し風乾することで厚さ約10μmのコロイド材料乾燥膜を得た。このコロイド材料に波長450nmの半導体レーザー光をコリメート光学系とアナモルフィックプリズムで平行光かつガウシアン形状に近い断面エネルギー分布を持った直径約4mmのビームに整形し、遮蔽部としての棒状体によってビームの一部を遮蔽した後に対物レンズによってスポットサイズ約17μmに集光して照射すると共に、線速度10mm/secで走査を行ってパターン形成を行った。
【0053】
用いられた遮蔽部としての棒状体は直径0.5mmの不透明な円筒形物体であって、ビームを走査方向に平行な方向で二等分する様に配置された。また棒状体から照射点までの距離はおよそ28cmであった。上記条件においてパターン形成を行うと、遮蔽部がないときはパターンの中央部に溝状の欠陥が生じたが、遮蔽部を設けることで欠陥は消失した。このとき、図2(b)にAで示された欠陥を生じる閾値は約450μWであった。尚、この値はコリメート後のビームの該当位置に直径0.2mmのピンホールを挿入し、そのピンホールを通過してきたビームのエネルギー値を測定したものである。遮蔽部を設けることでパターンの中央部に見られた欠陥はなくなり、本発明が有効に作用した。そして形成されたパターンは欠陥のない滑らかなものであった。したがって、上記の構成におけるビームは、アブレーションによる欠陥が発生し始める閾値を上回ることなく、また完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルを下回ることのないエネルギー領域をもっていることがわかる。本具体例において、遮蔽物としての棒状体は、直径が0.5mmから2mmの範囲において欠陥のないパターン形成が行われた。棒状体の直径が0.5mmを下回るとパターン中央部に欠陥が発生し、2mmを超えるとパターン形成が不完全となり、現像時に流れ去ってしまった。つまり、この具体例においては棒状体の直径が0.5mmを下回るとビームプロファイルの一部がアブレーションによる欠陥が発生し始める閾値を越えてしまい、また棒状体の直径が2mmをこえるとビームプロファイル全体が完全なパターン形成を行うために必要となるエネルギーレベルを下回ってしまうものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明のパターン形成方法は、導電パターンの断線が発生することを防ぎながら、高精細なパターンを高速かつ自由度高く形成することができ、高密度配線を持った電子回路基板や半導体等の電子デバイス、回折格子や光導波路などの光学要素など、広範な産業分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施例におけるパターン形成装置を示す概念図
【図2】加工前のビームのエネルギー分布を示す図
【図3】加工後のビームの断面エネルギープロファイルを示す図
【図4】ビームと遮蔽物とを示す模式図
【符号の説明】
【0056】
1 エネルギービーム源
2 ビーム整形光学系
3 集光レンズ
4 基板
5 コロイド材料
6 パターン
7 照射点
8 制御部
9 加工前のビーム
10 遮蔽部
11 加工後のビーム
12 可動ステージ
21 エネルギーピーク
22 ビーム周辺部
23 ビームの走査方向
30 エネルギービームの外周部を示す線
31 ピーク点
32 凹レンズ
33,34 遮蔽物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超微粒子を含むコロイド材料を接触させた基板上にエネルギービームを照射してパターン形成を行うパターン形成方法であって、前記エネルギービームの進行路途中に前記エネルギービームを遮蔽する遮蔽手段を設け、前記遮蔽手段は少なくとも基板上に完全なパターンを形成するためのエネルギー値より大きい前記エネルギービームを遮蔽することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記遮蔽手段に遮蔽されるときの前記エネルギービームのエネルギー分布は、ガウシアン形状であることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−177397(P2010−177397A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17564(P2009−17564)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】