説明

パティキュレートフィルタの手動再生方法

【課題】手動再生の開始時に既に補機が稼働していても、パティキュレートフィルタを短時間のうちに温度上昇させて再生時間を短縮し得るようにする。
【解決手段】車両を停車した状態でパティキュレートフィルタ6の手動再生を開始して排気ブレーキ14により排気流路を絞り、これによりエンジン負荷を増加して燃料噴射量を増やすことで排気ガス3の温度を上昇させた後、燃料噴射装置10のポスト噴射による燃料添加を開始し、その添加燃料が酸化触媒5上で酸化反応した時の反応熱によりパティキュレートフィルタ6の再生を図る方法に関し、手動再生の開始後に燃料噴射量が基準値を超えているか否かを判定し、該燃料噴射量が基準値を超えている場合に限り前記パティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が基準温度以上となった時に排気ブレーキ14の排気流路の絞り込みを解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートフィルタの手動再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策としては、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが従来より行われている。
【0003】
この種のパティキュレートフィルタは、コージェライト等のセラミックから成る多孔質のハニカム構造を成し、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出される一方、排気ガス中のパティキュレートが多孔質薄壁の内側表面に捕集されるようになっている。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積するので、目詰まりにより排気抵抗が増加しないうちにパティキュレートを適宜に燃焼除去してパティキュレートフィルタの再生を図る必要があるが、通常のディーゼルエンジンの運転状態においては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ない為、PtやPd等を活性種とする酸化触媒をパティキュレートフィルタに一体的に担持させるようにしている。
【0005】
即ち、このような酸化触媒を担持させたパティキュレートフィルタを採用すれば、捕集されたパティキュレートの酸化反応が促進されて着火温度が低下し、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去することが可能となるのである。
【0006】
ただし、斯かるパティキュレートフィルタを採用した場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがある。
【0007】
そこで、パティキュレートフィルタの入側にフロースルー型の酸化触媒を付帯装備させ、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階でパティキュレートフィルタより上流側に燃料を添加してパティキュレートフィルタの強制再生を行うことが考えられている。
【0008】
つまり、このようにすれば、燃料添加で生じた高濃度の炭化水素が酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの床温度が上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られることになる。
【0009】
尚、この種の燃料添加を実行するための具体的手段としては、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を追加することで排出ガス中に燃料を添加すれば良い。
【0010】
斯かるパティキュレートフィルタの強制再生は、車両の走行中に自動的に行う方式が一般的であるが、運転者が停車中に自らの意思で再生スイッチを押すことにより任意に行う方式(以下では手動再生と称する)も検討されており、このように停車状態で手動再生を行う場合には、少なくもパティキュレートフィルタの前段の酸化触媒の活性下限温度以上に排気温度を上昇させる必要がある。
【0011】
即ち、パティキュレートフィルタの前段に装備される酸化触媒には活性温度領域があり、該酸化触媒の温度を燃料添加の開始前に活性温度領域まで上げる必要があるため、手動再生の開始と共に排気管途中の排気絞りバルブ(排気ブレーキとの兼用も可)を閉じて排気絞りを行い、これによりエンジン負荷を増加して燃料噴射量を増やすことで排気ガスの温度を上昇させ、前記酸化触媒が活性温度領域まで昇温するのを待ってポスト噴射による燃料添加を開始させるようにしている。
【0012】
図3は斯かる手動再生のタイムスケジュールを示すもので、運転者がT0の時点で再生スイッチを押して手動再生を開始すると、図3中にAで示すように排気絞りバルブが閉じられて排気絞りが実施され、これに伴いエンジンの各気筒からの排気抵抗が高まることによりエンジン負荷(ポンピングロス)が増加して回転数を保持するために図3中にBで示す燃料噴射量(ポスト噴射を含む)が増加し、この結果、図3中にCで示すようにパティキュレートフィルタの入口での排気温度が上昇し、該排気温度が所定の燃料添加開始温度(前段の酸化触媒の温度が活性温度領域に到達していると看做し得る温度)となったT1の時点で図3中にDで示すポスト噴射による燃料添加が開始されるようになっている。
【0013】
尚、この種のパティキュレートフィルタの手動再生方法に関連する先行技術文献情報としては、本発明と同じ出願人による下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−155914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、例えば、冷凍バンの如き冷凍コンプレッサを補機として搭載した車両にあっては、朝の始業時にパティキュレートフィルタの手動再生を停車状態で開始した際に、夜の間に温度が上昇してしまっている冷凍庫内を適温まで冷やすべく冷凍コンプレッサが同時に稼働するため、この冷凍コンプレッサの稼働によりエンジン負荷が既に増加されているところに排気絞りが重複して実施されることでエンジン内での燃料噴射量が過大となる虞れがあった。
【0016】
即ち、エンジン内での燃料噴射量が過大となれば、エンジン側での酸素消費量が増えて排気ガス中の残存酸素量が少なくなり、ポスト噴射により排気ガス中に添加された燃料についての空燃比が理論空燃比を下まわる結果、酸化触媒上での酸化反応が活発に進まなくなって発熱量が減り、パティキュレートフィルタの温度上昇が鈍くなって再生時間が長くかかるという問題があった。
【0017】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、手動再生時に補機が稼働していても、パティキュレートフィルタを短時間のうちに温度上昇させて再生時間を短縮し得るようにしたパティキュレートフィルタの手動再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前段に酸化触媒を備えて排気管途中に介装されたパティキュレートフィルタと、前記酸化触媒より上流側で排気ガス中に燃料を添加する燃料添加手段と、エンジンからの排気流路を絞り込む排気絞り手段とを備え、車両を停車した状態で前記パティキュレートフィルタの手動再生を開始して前記排気絞り手段により排気流路を絞り、これによりエンジン負荷を増加して燃料噴射量を増やすことで排気ガスの温度を上昇させた後、前記燃料添加手段による燃料添加を開始し、その添加燃料が前記酸化触媒上で酸化反応した時の反応熱により捕集済みパティキュレートを燃焼させて前記パティキュレートフィルタの再生を図る方法であって、パティキュレートフィルタの手動再生の開始後に燃料噴射量が基準値を超えているか否かを判定し、該燃料噴射量が基準値を超えている場合に限り前記パティキュレートフィルタの入口での排気温度が基準温度以上となった時に前記排気絞り手段の排気流路の絞り込みを解除することを特徴とするものである。
【0019】
而して、このようにすれば、運転者が手動再生を開始した際に、同時に補機が稼働していても、燃料噴射量が基準値を超えて増加していることで補機の負荷が加わっていることが判り、パティキュレートフィルタの入口での排気温度が基準温度以上となった時に前記排気絞り手段の排気流路の絞り込みが解除されるので、補機の稼働により負荷が既に増加されているところに排気絞りが重複して実施されることが回避され、エンジン内での燃料噴射量が過大となる事態が防止される。
【0020】
この結果、エンジン側での酸素消費量が抑制されて排気ガス中の残存酸素量が相対的に増え、燃料添加手段により排気ガス中に添加された燃料についての空燃比が改善されて理論空燃比に近づき、酸化触媒上での酸化反応が活発化して発熱量が増加し、パティキュレートフィルタの入口での排気温度の上昇が早くなって該パティキュレートフィルタが早期に暖まり、その再生時間が大幅に短縮されることになる。
【0021】
しかも、排気絞り手段の排気流路の絞り込みによるエンジン負荷の増加分がなくなることで手動再生に必要な燃料噴射のトータル量が著しく低減され、手動再生の実施による燃費の悪化が大幅に改善されることになる。
【0022】
尚、運転者が手動再生を開始した際に、燃料噴射量が基準値を超えていなければ、補機の稼働による負荷が加わっていないものと看做せるので、排気絞り手段の排気流路の絞り込みを継続してエンジン負荷を増加する措置を継続すれば良い。
【0023】
また、本発明においては、エンジンの燃料噴射装置を燃料添加手段として採用し、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を追加することで燃料添加を実行することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
上記した本発明のパティキュレートフィルタの手動再生方法によれば、手動再生時に補機が稼働していても、該補機の稼働を燃料噴射量に基づき判定し、排気絞り手段の排気流路の絞り込みを解除することで酸化触媒上での酸化反応を活発化して発熱量を増加させることができるので、パティキュレートフィルタを短時間のうちに温度上昇させて再生時間を短縮することができ、しかも、手動再生に必要な燃料噴射のトータル量を著しく低減することができて手動再生の実施による燃費の悪化を大幅に改善することができる等種々の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】本形態例の手動再生のタイムスケジュールを示すグラフである。
【図3】従来の手動再生のタイムスケジュールを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、冷凍コンプレッサを補機として搭載した冷凍バンを対象車両とした場合を例示しており、該冷凍バンのディーゼルエンジン1(エンジン)から排気マニホールド2を介して排出された排気ガス3が流通している排気管4の途中に、前段に酸化触媒5を備えた触媒再生型のパティキュレートフィルタ6がフィルタケース7により抱持されて介装されている。
【0028】
前記フィルタケース7には、酸化触媒5とパティキュレートフィルタ6との間で排気ガス3の温度を検出する温度センサ8が装備されており、該温度センサ8の温度信号8aがエンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置9に対し入力されるようになっている。
【0029】
この制御装置9は、燃料の噴射に関する制御も担うようになっており、より具体的には、アクセル開度をディーゼルエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ11(負荷センサ)からのアクセル開度信号11aと、ディーゼルエンジン1の機関回転数を検出する回転センサ12からの回転数信号12aとに基づき、ディーゼルエンジン1の各気筒に燃料を噴射する燃料噴射装置10に向け燃料噴射信号10aが出力されるようになっている。
【0030】
尚、この燃料噴射装置10は、各気筒毎に装備される複数のインジェクタにより構成されており、これら各インジェクタの電磁弁が前記燃料噴射信号10aにより適宜に開弁制御されて燃料の噴射タイミング(開弁時期)及び噴射量(開弁時間)が適切に制御されるようになっている。
【0031】
他方、前記制御装置9では、アクセル開度信号11a及び回転数信号12aに基づき通常走行用の燃料噴射信号10aが決定されるようになっている一方、パティキュレートフィルタ6の手動再生を行うべき時に、前記温度センサ8の温度信号8aに基づきパティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が燃料添加開始温度(前段の酸化触媒の温度が活性温度領域に到達していると看做し得る温度)に達するのを待って燃料噴射制御が切り替わり、圧縮上死点(クランク角0゜)付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を行う噴射パターンの燃料噴射信号10aが決定されるようになっている。
【0032】
つまり、本形態例においては、燃料噴射装置10がパティキュレートフィルタ6の手動再生のための燃料添加手段としての機能を果たすようになっており、前述のようにメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射が行われると、このポスト噴射により排気ガス3中に未燃の燃料(主としてHC:炭化水素)が添加されることになり、この未燃の燃料がパティキュレートフィルタ6の前段の酸化触媒5上で酸化反応し、その反応熱により触媒床温度が上昇してパティキュレートフィルタ6内のパティキュレートが燃焼除去されることになる。
【0033】
更に、キャブ13内のインストルメントパネルには、ディーゼルエンジン1が車両を停車した状態(アイドリング状態)にある条件下で前記燃料噴射装置10による燃料添加を運転者の手動操作により任意に実行させるための再生スイッチ15が設けられており、該再生スイッチ15が運転者により操作されて再生指令信号15aが制御装置9に入力された際には、温度センサ8からの温度信号8aに基づきパティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が燃料添加開始温度に達するのを待って燃料噴射制御が切り替わり、ポスト噴射が開始されるようになっている。
【0034】
ここで、パティキュレートフィルタ6より上流側の適宜位置には、排気管4の流路を適宜な開度に絞り込む開度調整可能な排気ブレーキ14が装備されており、該排気ブレーキ14は、制御装置9からの開度指令信号14aにより開度制御されるようになっているが、本形態例においては、再生スイッチ15が運転者により操作されて再生指令信号15aが制御装置9に入力された際に、排気ブレーキ14に対し本来の作動から独立した別の作動を指令し、排気温度を上げるための排気絞り手段として排気ブレーキ14を活用できるようにしてある。
【0035】
即ち、車両を停車した状態で再生スイッチ15が運転者により操作されてパティキュレートフィルタ6の手動再生が開始されたら、前記排気ブレーキ14が開度指令信号14aにより閉操作されて排気流路が絞られ、これによりディーゼルエンジン1の各気筒からの排気抵抗が高められることによりエンジン負荷(ポンピングロス)が増加し、ディーゼルエンジン1の回転数を保持するために燃料噴射量が増やされて排気ガス3の温度が上昇されるようにしてある。
【0036】
ただし、前記制御装置9においては、燃料噴射量が監視されるようになっていて、手動再生の開始後に燃料噴射量が基準値を超えているか否かが判定され、該燃料噴射量が基準値を超えている場合に限り前記パティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が基準温度以上となった時に前記排気ブレーキ14が開操作され、該排気ブレーキ14による排気流路の絞り込みが解除されるようになっている。
【0037】
即ち、図1に示す如き冷凍バンの場合には、ディーゼルエンジン1により駆動される冷凍コンプレッサ16が補機として備えられており、荷台17の荷室を冷凍庫として冷却するためのコンデンサ一体型のエバポレータ18に対し冷媒を圧縮して循環するようにしてあるが、この冷凍コンプレッサ16の稼働により負荷が既に増加されているところに排気絞りが重複して実施された場合に燃料噴射量が基準値を超えて増加することになる。
【0038】
而して、図2に本形態例の手動再生方法のタイムスケジュールを示す通り、運転者がT0の時点で再生スイッチ15を押して手動再生を開始すると、図2中にAで示すように排気ブレーキ14が閉じられて排気絞りが実施され、これに伴いディーゼルエンジン1の各気筒からの排気抵抗が高まることによりエンジン負荷(ポンピングロス)が増加する結果、回転数を保持するために図2中にBで示す燃料噴射量が増加し、図2中にCで示すようにパティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が上昇する。
【0039】
そして、パティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が所定の燃料添加開始温度(前段の酸化触媒5の温度が活性温度領域に到達していると看做し得る温度)となったT1の時点で図2中にDで示すポスト噴射による燃料添加が開始されるが、この際に、同時に冷凍コンプレッサ16が稼働していても、燃料噴射量が基準値を超えて増加していることで冷凍コンプレッサ16の負荷が加わっていることが判り、パティキュレートフィルタ6の入口での排気温度が基準温度以上となったT2の時点で図2中にAで示す如く前記排気ブレーキ14が開操作されて排気流路の絞り込みが解除されるので、図2中にBで示す燃料噴射量がエンジン負荷(ポンピングロス)の減少に合わせて少なくなり、冷凍コンプレッサ16の稼働により負荷が既に増加されているところに排気絞りが重複して実施されることが回避され、ディーゼルエンジン1内での燃料噴射量が過大となる事態が防止される。
【0040】
この結果、ディーゼルエンジン1側での酸素消費量が抑制されて排気ガス3中の残存酸素量が相対的に増え、燃料噴射装置10のポスト噴射により排気ガス3中に添加された燃料についての空燃比が改善されて理論空燃比に近づき、酸化触媒5上での酸化反応が活発化して発熱量が増加するので、図2中にCで示すようにパティキュレートフィルタ6の入口での排気温度の上昇が早くなって該パティキュレートフィルタ6が早期に暖まり、その再生時間が大幅に短縮されることになる。
【0041】
尚、図2のグラフでは、図2中にCで示されているパティキュレートフィルタ6の入口の排気温度に関し、その最高温度が所定の目標温度にフィードバック制御されるようになっており、ポスト噴射による燃料添加が開始されてから急速に上昇し、そのまま最高温度をフィードバック制御する領域に入って目標温度でハンチングする望ましい形となっていることが判る。
【0042】
しかも、図2のグラフにおけるBの燃料噴射量の推移を見れば明らかな通り、排気ブレーキ14の排気流路の絞り込みによるエンジン負荷の増加分がなくなることで手動再生に必要な燃料噴射のトータル量が著しく低減されるので、手動再生の実施による燃費の悪化が大幅に改善されることになる。
【0043】
尚、運転者が手動再生を開始した際に、燃料噴射量が基準値を超えていなければ、冷凍コンプレッサ8の稼働による負荷が加わっていないものと制御装置9で判定され、排気ブレーキ14の排気流路の絞り込みが継続されてエンジン負荷を増加する措置が継続されることになる。
【0044】
従って、上記形態例によれば、手動再生の開始時に既に冷凍コンプレッサ16が稼働していても、該冷凍コンプレッサ16の稼働を燃料噴射量に基づき判定し、排気ブレーキ14の排気流路の絞り込みを解除することで酸化触媒5上での酸化反応を活発化して発熱量を増加させることができるので、パティキュレートフィルタ6を短時間のうちに温度上昇させて再生時間を短縮することができ、しかも、手動再生に必要な燃料噴射のトータル量を著しく低減することができて手動再生の実施による燃費の悪化を大幅に改善することができる。
【0045】
尚、本発明のパティキュレートフィルタの手動再生方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、対象車両は必ずしも冷凍バンに限定されず、補機についても冷凍コンプレッサに限定されないこと、また、燃料添加を行うに際し、排気マニホールドや排気管途中に燃料添加弁を配設して排気ガスに対し燃料を直噴して燃料添加を行うようにしても良いこと、更には、排気絞りバルブを排気ブレーキとは別に独立して設けても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
3 排気ガス
4 排気管
5 酸化触媒
6 パティキュレートフィルタ
8 温度センサ
8a 温度信号
9 制御装置
10 燃料噴射装置(燃料添加手段)
14 排気ブレーキ(排気絞りバルブ)
15 再生スイッチ
16 冷凍コンプレッサ(補機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前段に酸化触媒を備えて排気管途中に介装されたパティキュレートフィルタと、前記酸化触媒より上流側で排気ガス中に燃料を添加する燃料添加手段と、エンジンからの排気流路を絞り込む排気絞り手段とを備え、車両を停車した状態で前記パティキュレートフィルタの手動再生を開始して前記排気絞り手段により排気流路を絞り、これによりエンジン負荷を増加して燃料噴射量を増やすことで排気ガスの温度を上昇させた後、前記燃料添加手段による燃料添加を開始し、その添加燃料が前記酸化触媒上で酸化反応した時の反応熱により捕集済みパティキュレートを燃焼させて前記パティキュレートフィルタの再生を図る方法であって、パティキュレートフィルタの手動再生の開始後に燃料噴射量が基準値を超えているか否かを判定し、該燃料噴射量が基準値を超えている場合に限り前記パティキュレートフィルタの入口での排気温度が基準温度以上となった時に前記排気絞り手段の排気流路の絞り込みを解除することを特徴とするパティキュレートフィルタの手動再生方法。
【請求項2】
エンジンの燃料噴射装置を燃料添加手段として採用し、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を追加することで燃料添加を実行することを特徴とする請求項1に記載のパティキュレートフィルタの手動再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241611(P2012−241611A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112208(P2011−112208)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】