説明

パワーステアリング装置

【課題】リザーバタンクの断面形状をオイルポンプの軸線に対して非対称に形成したとしても、リザーバタンクの小型化を図ることができるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】リザーバタンク11を可逆式ポンプ8の鉛直方向上側に配置される本体部11aと、該本体部11aから径方向外側に向かって延設された延設部11bとから構成し、延設部11bにおける底面34を傾斜するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操舵力を補助するパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、ポンプの上方にリザーバタンクが設けられたものが開示されている。
【特許文献1】特開平11−301504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術にあっては、リザーバタンクの断面形状は概円形であって、オイルポンプの軸線に対してほぼ対称に形成されている。しかしながら、車両への搭載要件によりリザーバタンクの断面形状をオイルポンプの軸線に対して非対称に形成する必要がある場合がある。
【0004】
車両が旋回しているときには、旋回加速度によって作動油の油面が傾斜するが、リザーバタンクが非対称形状であるときには旋回方向に応じて油面の高さが異なる。また、作動油は油温に応じた膨張、収縮により体積が変化するし、油路の膨張、収縮によってもリザーバ内の作動油の体積は変化する。
【0005】
リザーバタンクは、作動油の量が最大のときに油面が傾斜したとしても作動油を注入するキャップから作動油が漏れることがないように設定する必要がある。また作動油の量が最小のときに油面が傾斜したとしてもポンプの吸入口が油中にあるように設定する必要がある。
【0006】
上記のような要件を満たすためには、作動油の量を多くするとともにリザーバタンクの容積を大きくすれば良いが、リザーバタンクが大型化し車両への搭載性が悪化してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、リザーバタンクの断面形状をオイルポンプの軸線に対して非対称に形成したとしても、リザーバタンクの小型化を図ることができるパワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、リザーバタンクを可逆式ポンプの鉛直方向上側に配置される本体部と、該本体部から径方向外側に向かって延設された延設部とから構成し、延設部における底面を傾斜するようにした。
【発明の効果】
【0009】
そのため、リザーバタンクを小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のパワーステアリング装置を実現する最良の形態を、実施例1ないし実施例7において説明する。
【実施例1】
【0011】
[パワ−ステアリング装置のシステム構成]
まず、パワーステアリング装置1のシステム構成について説明する。図1は、パワ−パワーステアリング装置1のシステム構成図である。
【0012】
パワーステアリング装置1は、運転者が操舵力を転舵輪6に伝達する機構として、ステアリングホイール2と、ステアリングホイール2から操舵力が入力されるステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3の回転方向の操舵力を車幅方向の転舵力に変換するラックアンドピニオン部4と、転舵力を転舵輪6伝達するタイロッド5とを有する。
【0013】
また、運転者の操舵力を補助する機構として、ステアリングシャフト3に付与されているトルクを検出するトルクセンサ7と、トルクセンサ7からの情報に基づいて可逆式ポンプ8を駆動するモータ9を制御する電子コントロールユニット10と、作動油を貯留するリザーバタンク11と、可逆式ポンプ8による圧油を油圧パワーシリンダ12に供給する油圧回路13とを有する。
【0014】
ラックアンドピニオン部4は、ステアリングシャフト3と一体に回転するピニオン14と、このピニオンと噛み合うラック軸15から構成されている。ラック軸15の両端は、タイロッド5と接続しており、ラック軸15の軸方向の動きが転舵輪6に伝達される。
【0015】
油圧パワーシリンダ12の内部には、油圧パワーシリンダ12内を軸方向に移動可能なピストン16が設けられ、このピストン16によって油圧パワーシリンダ12内を第1油圧室17と第2油圧室18が画設されている。このピストン16はラック軸15に固定されており、第1油圧室17、第2油圧室18に作用する圧油によってラック軸15に補助力を付与する。
【0016】
油圧回路13は、可逆式ポンプ8と第1油圧室17に接続される第1通路19と、可逆式ポンプ8と第2油圧室18に接続される第2通路20と、第1通路19に接続される第3通路21と、第2通路20に接続される第4通路22と、第3通路21および第4通路22とリザーバタンク11に接続される第5通路23とを有する。
【0017】
第3通路21、第4通路22には、第3一方向弁24、第4一方向弁25がそれぞれ設けられている。第3一方向弁24、第4一方向弁25は、第1通路19、第2通路20側から第5通路23側への作動油の流れを許容し、第5通路23側から第1通路19、第2通路20側への作動油の流れを阻止する。
【0018】
第5通路23には、フェールセーフ弁26が設けられている。フェールセーフ弁26は常開弁であり、パワーシリンダ装置1が正常であるときには電子コントロールユニット10からの指令によって閉弁している。
【0019】
可逆式ポンプ8は、モータ9により圧油を発生させるポンプ室31と、リザーバタンク11に開口し第1通路19と連通する第1吸入通路27と、リザーバタンク11に開口し第2通路20と連通する第2吸入通路28とを有する。
【0020】
第1吸入通路27、第2吸入通路28には、第1一方向弁29、第2一方向弁30がそれぞれ設けられている。第1一方向弁29、第2一方向弁30は、リザーバタンク11側からポンプ室31側への作動油の流れを許容し、ポンプ室31側からリザーバタンク11側への作動油の流れを阻止する。
【0021】
[リザーバタンクの構成]
図2はリザーバタンク11、可逆式ポンプ8、モータ9を鉛直上側の見た図、図3は図2におけるA-A断面図である。
【0022】
リザーバタンク11は、ポンプ室31の鉛直方向上側に配置される本体部11aと本体部11aから延設された延設部11bとから構成されている。延設部11bの底面は傾斜して形成された傾斜面34を有している。
【0023】
延設部11bの傾斜面34の傾斜角A1は、延設部11bのうち第1一方向弁29または第2一方向弁30と最も近い点(最近点P1)と、第1一方向弁29または第2一方向弁30のうち最近点P1と最も遠い点(最遠点P2)とを結んだ線の延長線L1よりも大きい傾斜角に設定されている。
【0024】
リザーバタンク11の鉛直方向上側には、作動油を注入する注入口33が開口している。この注入口33はキャップ32によって封がされている。
【0025】
[作用]
図4,5は車両が旋回しているときのリザーバタンク11内の作動油の油面の状態を示し、実線は延設部11bの底面を傾斜させたリザーバタンク11の油面、点線は延設部11bの底面を傾斜させていないリザーバタンク11の油面を示す。また細線は作動油の量が最大のとき、太線は作動油の量が最小のときを示す。細実線を油面40、細点線を油面41、太実線を油面42、太点線を油面43とする。
【0026】
ここで作動油の量が最大とは、第1通路19および第2通路20が自然長の状態であって作動油が外気温よりも高く熱せられた状態であり、作動油の量が最小の状態とは、第1通路19および第2通路20が自然長よりも膨張した状態であって作動油の油温が外気温と同じ状態であることを示す。
【0027】
車両が旋回しているときには旋回加速度によって作動油の油面が傾斜するが、実施例1のリザーバタンク11のように非対称形状であるときには旋回方向に応じて油面の高さが異なる。さらに、油温に応じた作動油の膨張、収縮により作動油自体の体積が変化し、また第1通路19、第2通路20の膨張、収縮によってリザーバ内の作動油の体積は変化する。
【0028】
リザーバタンク11は、作動油の量が最大のときに油面が傾斜したとしてもキャップ32から作動油が漏れることがないように設定する必要がある。また作動油の量が最小のときに油面が傾斜したとしても第1一方向弁29および第2一方向弁30が油中にあるように設定する必要がある。
【0029】
上記の要件を満たすためには、作動油の量を多くするとともにリザーバタンクの容積を大きくすれば良いが、リザーバタンクが大型化し車両への搭載性が悪化してしまうという問題があった。
【0030】
そこで実施例1のパワーステアリング装置1では、リザーバタンク11の延設部11bの底面を傾斜して傾斜面34を形成した。
実施例1のリザーバタンク11では、延設部11bの底面を傾斜させているため、延設部11bの底面を傾斜させない場合と比べて延設部11bの容積は小さくなる。
【0031】
図4に示すように作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合には、延設部11bの底面を傾斜させているリザーバタンク11の油面40,42は、延設部11bの底面を傾斜させていないリザーバタンク11の油面41,43に比べて高くなる。そのため、油面43は第1一方向弁29の下になってしまうが、油面42は第1一方向弁29の上になる。よって、作動油の量が最小のときであっても第1一方向弁29は油中にあり、第1一方向弁29から作動油を吸い込むことができる。
【0032】
実施例1のパワーステアリング装置1では、延設部11bの傾斜面34を最近点P1と最遠点P2とを結んだ線の延長線よりも大きい傾斜角を有するようにした。
この構成により作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることができる。
【0033】
[実施例1の効果]
以下に実施例1のパワーステアリング装置1の効果について列記する。
【0034】
(1)転舵輪6に連結された操舵機構の操舵力を補助し、第1油圧室17および第2油圧室18を有する油圧パワーシリンダ12と、第1油圧室17に接続される第1通路19と、第2油圧室18に接続される第2通路20と、第1、第2通路19,20を介して油圧パワーシリンダ12の第1、第2油圧室17,18に選択的に作動油を供給する可逆式ポンプ8と、可逆式ポンプ8の鉛直方向上側に設けられ、作動油を貯留するリザーバタンク11と、可逆式ポンプ8に接続され、この可逆式ポンプ8を正回転または逆回転させるモータ9と、可逆式ポンプ8に設けられ、リザーバタンク11に開口し、第1通路19と連通する第1吸入通路27と、可逆式ポンプ8に設けられ、リザーバタンク11に開口し、第2通路20と連通する第2吸入通路28と、第1吸入通路27に設けられ、リザーバタンク11側から可逆式ポンプ8側への作動油の流れを許容し、可逆式ポンプ8側からリザーバタンク11側への作動油の流れを阻止する第1一方向弁29と、第2吸入通路28に設けられ、リザーバタンク11側から可逆式ポンプ8側への作動油の流れを許容し、可逆式ポンプ8側からリザーバタンク11側への作動油の流れを阻止する第2一方向弁30と、を有するパワーステアリング装置1において、リザーバタンク11は、可逆式ポンプ8の鉛直方向上側に配置される本体部11aと、本体部11aから延設された延設部11bと、から構成され、延設部11bにおける底面を傾斜させた。
そのため、リザーバタンク11は、作動油の量が最大のときに油面が傾斜したとしてもキャップ32から作動油が漏れることがなく、また作動油の量が最小のときに油面が傾斜したとしても第1一方向弁29および第2一方向弁30が油中にあるように設定しつつ、リザーバタンク11の小型化を図ることができる。
【0035】
(2)延設部11bの傾斜面34を、最近点P1と最遠点P2とを結んだ線の延長線よりも大きい傾斜角A1を有するようにした。
よって、作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【実施例2】
【0036】
次に実施例2のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0037】
実施例2のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、延設部11bの傾斜面34は、車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜の傾斜角よりも大きい傾斜角A1を有するように形成されている。
この構成により、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【0038】
[実施例2の効果]
以下に実施例2のパワーステアリング装置1の効果について記載する。
【0039】
(3)上記(1)の構成に加え、延設部11bの傾斜面34を、車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜の傾斜角よりも大きい傾斜角A1を有するように形成した。
よって、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【実施例3】
【0040】
次に実施例3のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0041】
実施例3のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、延設部11bの傾斜面34の傾斜角A1が20度に形成されている。
この構成により、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【0042】
[実施例3の効果]
以下に実施例3のパワーステアリング装置1の効果について記載する。
【0043】
(4)上記(1)の構成に加え、延設部11bにおける傾斜面34の傾斜角A1を20度とした。
よって、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【実施例4】
【0044】
次に実施例4のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
実施例4のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、延設部11bの傾斜面34の傾斜角A1が30度に形成されている。
この構成により、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【0046】
[実施例4の効果]
以下に実施例4のパワーステアリング装置1の効果について記載する。
【0047】
(5)上記(1)の構成に加え、延設部11bにおける傾斜面34の傾斜角A1を30度とした。
よって、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【実施例5】
【0048】
次に実施例5のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
実施例5のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、延設部11bの傾斜面34の傾斜角A1が45度に形成されている。
【0050】
市販車両の旋回加速度は1[G]以下である。ここで旋回加速度は1[G]のときの油面の傾斜角は45度であるため、傾斜面34の角度は油面の傾斜角度よりも常に大きくなる。
この構成により、車両の旋回加速度によって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【0051】
[実施例5の効果]
以下に実施例5のパワーステアリング装置1の効果について記載する。
【0052】
(6)上記(1)の構成に加え、延設部11bの傾斜面34の傾斜角A1を45度とした。
よって作動油の油面が延設部11b側に寄るように傾斜した場合にも、本体部11a側に作動油が集まり、油面42の高さを高くすることが可能となるため、リザーバタンク11を小型化することができる。
【実施例6】
【0053】
次に実施例6のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
実施例6のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、リザーバタンク11の傾斜面34は、このリザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最大であって、車両の旋回加速度によって生じる液面の傾斜の傾斜角度が所定以上のとき、作動油が注入口33よりも鉛直方向下側であるように形成されている。さらに、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる油面の傾斜の傾斜角が所定以上のとき、作動油が第1吸入通路27および第2吸入通路28のリザーバタンク11側開口よりも上側に位置するように形成されている。
【0055】
ここで作動油の量が最大とは、第1通路19および第2通路20が自然長の状態であって作動油が外気温よりも高く熱せられた状態であり、作動油の量が最小の状態とは、第1通路19および第2通路20が自然長よりも膨張した状態であって作動油の油温が外気温と同じ状態であることを示す。
【0056】
また油面の傾斜の傾斜角が所定以上であるとは、車両の通常の旋回加速度で旋回を行うときに油面が傾斜する傾斜角以上であることを示し、実験や演算によって求めるものである。
【0057】
この構成により、作動油の量が最大であるときであっても注入口33から作動油が漏れることがなく、また作動油の量が最小であるときであってもポンプ室31は作動油を吸入することができる。
【0058】
[実施例6の効果]
以下に実施例3のパワーステアリング装置1の効果について列記する。
【0059】
(7)上記(1)の構成に加え、リザーバタンク11の鉛直方向上側に作動油を注入するための注入口33を形成し、リザーバタンク11の傾斜面34を、このリザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最大であって、車両の旋回加速度によって生じる液面の傾斜の傾斜角度が所定以上のとき、作動油が注入口33よりも鉛直方向下側であって、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる液面の傾斜の傾斜角が所定以上のとき、作動油が第1吸入通路27および第2吸入通路28のリザーバタンク11側開口よりも上側に位置するように形成した。
【0060】
よって、作動油の量が最大であるときであっても注入口33から作動油が漏れることがなく、また作動油の量が最小であるときであってもポンプ室31は作動油を吸入することができる。
【0061】
(8)上記(7)の構成に加え、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最大の状態とは、第1通路19および第2通路20が自然長の状態であって、作動油が外気温よりも高く熱せられた状態であることとした。
よって、注入口33から作動油が漏れることを防止することができる。
【0062】
(9)上記(7)または(8)の構成に加え、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小の状態とは、第1通路19および第2通路20が自然長よりも膨張した状態であって、作動油の油温が外気温と同じ状態であることとした。
よって、ポンプ室31は作動油を吸入することができる。
【実施例7】
【0063】
次に実施例7のパワーステアリング装置1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0064】
実施例7のパワーステアリング装置1のリザーバタンク11では、底面に鉛直方向に対して垂直な面に対して傾斜した傾斜面34を有している。この傾斜面34は、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜角が所定以上のとき、作動油が傾斜面34全体を被覆するように形成されている。
【0065】
ここで、作動油の量が最小の状態とは、第1通路19および第2通路20が自然長よりも膨張した状態であって作動油の油温が外気温と同じ状態であることを示す。
【0066】
また油面の傾斜の傾斜角が所定以上であるとは、車両の通常の旋回加速度で旋回を行うときに油面が傾斜する傾斜角以上であることを示し、実験や演算によって求めるものである。
【0067】
傾斜面34の傾斜角を大きくしていくとリザーバタンク11の容積が小さくなるため、傾斜角を大きくしすぎると十分な量の作動油を貯留することができないことがある。
そこで実施例7では、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜角が所定以上のとき、作動油が傾斜面34全体を被覆するように形成した。
【0068】
この構成により、作動油の量が最小のときに油面が傾斜したとしても第1一方向弁29および第2一方向弁30が油中にあるように設定しつつ、リザーバタンク11の小型化を図ることができる。
【0069】
[実施例7の効果]
以下に実施例7のパワーステアリング装置1の効果について記載する。
【0070】
(10)リザーバタンク11の底面は、鉛直方向に対して垂直な面に対して傾斜した傾斜面34を有し、リザーバタンク11内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜角が所定以上のとき、作動油が底面の傾斜面34全体を被覆するように形成した。
【0071】
よって、作動油の量が最小のときに油面が傾斜したとしても第1一方向弁29および第2一方向弁30が油中にあるように設定しつつ、リザーバタンク11の小型化を図ることができる。
【0072】
[他の実施例]
以上、本願発明を実施するための最良の形態を、実施例1ないし実施例7に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0073】
図6(a)は可逆式ポンプ8を横に配置したときのリザーバタンク11、可逆式ポンプ8、モータ9を鉛直上側の見た図、図6(b)は図6(a)におけるB-Bの部分断面図である。
【0074】
実施例1ないし実施例7では可逆式ポンプ8の回転軸を鉛直方向に配置しているが、図6に示すように可逆式ポンプ8を横方向に配置しても良い。
このような構成により、パワーステアリング装置1の配置の自由度を高めることができる。
【0075】
図7はリザーバタンク11の高さを低く形成したときのリザーバタンク11、可逆式ポンプ8、モータ9部分断面図である。点線は実施例1ないし実施例7のリザーバタンクの外径を示す。
【0076】
リザーバタンク11の延設部11bの底面に傾斜面34を形成したため、本体部11a側に寄るように作動油の油面が傾斜した場合であっても油面の高さを低くすることができる。そのため、図7に示すようにリザーバタンク11の高さを低く形成するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1のパワ−ステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】実施例1のリザーバタンク、可逆式ポンプ、モータを鉛直上側の見た図である。
【図3】実施例1の図2におけるA-A断面図である。
【図4】実施例1のリザーバタンク内の作動油の油面の状態を示す図である。
【図5】実施例1のリザーバタンク内の作動油の油面の状態を示す図である。
【図6】他の実施例の可逆式ポンプを横に配置したときのリザーバタンク、可逆式ポンプ、モータの図である。
【図7】他の実施例のリザーバタンクの高さを低く形成したときのリザーバタンク、可逆式ポンプ、モータ部分断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 パワーステアリング装置
4 ラックアンドピニオン部
5 タイロッド
6 転舵輪
8 可逆式ポンプ
9 モータ(ポンプ駆動手段)
11 リザーバタンク
12 油圧パワーシリンダ
13 油圧回路
17 第1油圧室
18 第2油圧室
19 第1通路
20 第2通路
27 第1吸入通路
28 第1吸入通路
29 第1一方向弁
30 第2一方向弁
31 ポンプ室
32 キャップ
33 注入口
34 傾斜面
A1 傾斜角
L1 延長線
P1 最近点
P2 最遠点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪に連結された操舵機構の操舵力を補助し、第1油圧室および第2油圧室を有する油圧パワーシリンダと、
前記第1油圧室に接続される第1通路と、
前記第2油圧室に接続される第2通路と、
前記第1、第2通路を介して前記油圧パワーシリンダの第1、第2油圧室に選択的に作動油を供給する可逆式ポンプと、
前記可逆式ポンプの鉛直方向上側に設けられ、作動油を貯留するリザーバタンクと、
前記可逆式ポンプに接続され、この可逆式ポンプを正回転または逆回転させるポンプ駆動手段と、
前記可逆式ポンプに設けられ、前記リザーバタンクに開口し、前記第1通路と連通する第1吸入通路と、
前記可逆式ポンプに設けられ、前記リザーバタンクに開口し、前記第2通路と連通する第2吸入通路と、
前記第1吸入通路に設けられ、前記リザーバタンク側から前記可逆式ポンプのポンプ室側への作動油の流れを許容し、前記ポンプ室側から前記リザーバタンク側への作動油の流れを阻止する第1一方向弁と、
前記第2吸入通路に設けられ、前記リザーバタンク側から前記ポンプ室側への作動油の流れを許容し、前記ポンプ室側から前記リザーバタンク側への作動油の流れを阻止する第2一方向弁と、
を有するパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンクは、前記可逆式ポンプの鉛直方向上側に配置される本体部と、該本体部から延設された延設部と、から構成され、
前記延設部における底面は、傾斜していることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記延設部のうち前記第1一方向弁または前記第2一方向弁と最も近い点を最近点とし、前記第1一方向弁または前記第2一方向弁のうち前記最近点から最も遠い点を最遠点としたときに、
前記延設部における底面は、前記最近点と前記最遠点とを結んだ線の延長線よりも大きい傾斜角を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記延設部における底面は、車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜の傾斜角よりも大きい傾斜角を有することを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記延設部における底面の傾斜角は20度であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記延設部における底面の傾斜角は30度であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記延設部における底面の傾斜角は45度であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンクは、鉛直方向上側に作動油を注入するための注入口を有し、
前記リザーバタンクの底面は、このリザーバタンク内に貯留される作動油の量が最大であって、車両の旋回加速度によって生じる液面の傾斜の傾斜角度が所定以上のとき、作動油が前記注入口よりも鉛直方向下側であって、
前記リザーバタンク内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる液面の傾斜の傾斜角が所定以上のとき、作動油が前記第1吸入通路および前記第2吸入通路のリザーバタンク側開口よりも上側に位置するように形成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項7に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンク内に貯留される作動油の量が最大の状態とは、前記第1通路および第2通路が自然長の状態であって、作動油が外気温よりも高く熱せられた状態であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンク内に貯留される作動油の量が最小の状態とは、前記第1通路および第2通路が自然長よりも膨張した状態であって、作動油の油温が外気温と同じ状態であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項10】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンクの底面は、鉛直方向に対して垂直な面に対して傾斜した傾斜面を有し、前記リザーバタンク内に貯留される作動油の量が最小であって車両の旋回加速度によって生じる作動油の傾斜角が所定以上のとき、作動油が前記底面の傾斜面全体を被覆するように形成されることを特徴とするパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−69971(P2010−69971A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237335(P2008−237335)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】