説明

パワースライドドアおよびその制御方法

【課題】作動の円滑性と迅速性が両立するパワースライドドアおよびその制御方法を実現する。
【解決手段】ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアは、ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値(100%)とした後にそれよりも小さい値(d1)から漸次増加(d2,d3,d4)する電圧制御手段を具備する。前記供給電圧の増加は、段階的に行われる。前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワースライドドアおよびその制御方法に関し、特に、ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドア、および、そのようなパワースライドドアの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワンボックス型やミニバン型の車両では、後部のサイドドアを、モータの動力でスライドするパワースライドドアとすることが多い。パワースライドドアにおいては、ドア本体は、ドアオープニングから抜け出して開き、ドアオープニングに嵌入して閉じる。全閉状態では、ドア本体の外面とボデーの外面の間に段差がなくなり、いわゆる面一(つらいち)となる。
【0003】
パワースライドドアの開方向または閉方向への作動開始時、あるいは、閉方向から開方向への反転時には、モータの回転速度の上昇を動力伝達機構の機械的応答の遅さに合わせるために、モータへの電圧供給を低電圧から漸次増加させることが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−339651号公報(段落番号0019−0021、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなモータ供給電圧の制御は、パワースライドドアの作動の円滑化には効果があるが、モータが低速状態でスタートすることにより、動力伝達系のバックラッシュやワイヤの弛み等を吸収するための時間が長くなり、作動の迅速性が損なわれるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、作動の円滑性と迅速性が両立するパワースライドドアおよびその制御方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段としての請求項1に係る発明は、ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアであって、ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加する電圧制御手段を具備することを特徴とするパワースライドドアである。
【0007】
課題を解決するための手段としての請求項2に係る発明は、前記供給電圧の増加は、段階的に行われることを特徴とする請求項1に記載のパワースライドドアである。
課題を解決するための手段としての請求項3に係る発明は、前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われることを特徴とする請求項2に記載のパワースライドドアである。
【0008】
課題を解決するための手段としての請求項4に係る発明は、ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアを制御する方法であって、ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加することを特徴とするパワースライドドア制御方法である。
【0009】
課題を解決するための手段としての請求項5に係る発明は、前記供給電圧の増加は、段階的に行われることを特徴とする請求項4に記載のパワースライドドア制御方法である。
課題を解決するための手段としての請求項6に係る発明は、前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われることを特徴とする請求項5に記載のパワースライドドア制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアは、ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加する電圧制御手段を具備するので、作動の円滑性と迅速性が両立するパワースライドドアを実現することができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアを制御するにあたり、ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加するので、作動の円滑性と迅速性が両立するパワースライドドア制御方法を実現することができる。
【0012】
請求項2または請求項5に係る発明によれば前記供給電圧の増加は、段階的に行われるので、モータの速度を段階的に増加させることができる。
請求項3または請求項6に係る発明によれば、前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われるので、供給電圧を効率良く増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。図1に、パワースライドドアを装備した車両の左側の外観を模式的に示す。図1に示すように、車両100は、パワースライドドア200を装備している。
【0014】
パワースライドドア200は、発明を実施するための最良の形態の一例である。パワースライドドア200の構成によって、パワースライドドアに関する発明を実施するための最良の形態の一例が示される。パワースライドドア200の作動によって、パワースライドドア制御方法に関する発明を実施するための最良の形態の一例が示される。以下、パワースライドドアを、単にスライドドアともいう。
【0015】
スライドドア200の上部、下部および後部は、車両100のボデー110の上部、下部および後部に設けられたガイドレール112,114,116にそれぞれ係合する。スライドドア200は、ガイドレール112,114,116に沿った後方への往復的なスライド運動により、ボデー110の側面のドアオープニングを開閉する。
【0016】
スライドドア200の開閉は、モータを動力源とする周知の開閉機構によって行われる。周知の開閉機構は、例えば、開扉用ワイヤと閉扉用ワイヤを、モータの動力により正逆両方向に回転可能なドラムでそれぞれ巻き取る構成となっている。
【0017】
図2に、スライドドアとドアオープニングの構成を模式的に示す。図2は、図1に示した車両100のAA断面図に相当する。図2では、上が室外、下が室内、左が前方、右が後方である。
【0018】
図2に示すように、スライドドア200は、ボデー110のドアオープニング300に嵌入した状態で全閉となる。スライドドア200は、本発明におけるドア本体の一例である。全閉状態では、スライドドア200の外面は、ボデー110の外面と面一となる。また、スライドドア200の内面のドアトリム202も、ボデー110の内面に対して面一となる。以下、ドアオープニングを、単にオープニングともいう。
【0019】
スライドドア200の後部は、オープニング300内で、係合部材204を介してガイドレール116に係合する。係合部材204は、スライドドア200側がヒンジとなっており、ガイドレール116側がローラとなっている。
【0020】
ガイドレール116は、ボデー110の外面からオープニング300内に斜めに入り込んでおり、係合部材204のローラは、ガイドレール116の斜め部の終端付近に位置する。
【0021】
スライドドア200の前部は、オープニング300内で、ボス206によりソケット118に係合する。ソケット118は、オープニング300内で、ボデー110のセンタピラー120の後面に設けられる。オープニング300の内周は、室内側がオープニングフランジ302となっている。オープニングフランジ302の先端部には、ウェザーストリップ400が設けられる。
【0022】
図3に、スライドドア200の制御系の構成をブロック図によって示す。図3に示すように、制御系はコントローラ500を有する。コントローラ500としては、例えばECU(Electronic Control Unit)等が用いられる。ECUはマイクロコンピュータおよびそのインターフェースによって構成される。
【0023】
コントローラ500は、操作スイッチ502と挟込センサ504からの入力信号に基づいて駆動モータ506を制御する。駆動モータ506は、スライドドア200の開閉機構の動力源であり、本発明におけるモータの一例である。
【0024】
操作スイッチ502は、ユーザーにより開方向または閉方向に操作される。コントローラ500は、操作スイッチ502の開方向への操作および閉方向への操作に応じて、駆動モータ506をそれぞれ正回転および逆回転させる。
【0025】
挟込センサ504は、ドア本体200による人体等の挟み込みを検知する。コントローラ500は、挟み込み検知信号に応じて駆動モータ506の回転方向を逆転させ、挟み込んだ人体等の解放を行う。
【0026】
図4に、コントローラ500による駆動モータ506の制御のタイムチャートを示す。図4に示すように、操作スイッチのオン(ON)状態がT0時間継続したとき、駆動モータ506への電圧供給が開始される。操作スイッチは、操作スイッチ502の開方向または閉方向への操作によってオンとなる。
【0027】
駆動モータへの供給電圧は、供給開始時には最大定格値(100%)とされる。供給電圧はT1時間後に電圧d1に低減され、以後、T2時間後に電圧d2に増加され、T3時間後に電圧d3に増加され、T4時間後に電圧d4に増加される。
【0028】
すなわち、コントローラ500は、駆動モータ506への供給電圧を一旦最大定格値とした後に、それよりも小さい値まで低減しその値から漸次増加する。コントローラ500は、本発明における電圧制御手段の一例である。
【0029】
電圧d1,d2,d3,d4は、例えば、それぞれ、最大定格値の25%、50%、75%、100%の電圧である。なお、これに限らず、動力伝達機構の機械的応答特性に応じて適宜に設定して良い。
【0030】
電圧増加の段階も4段階に限らず適宜の段数として良い。あるいは、段階的な増加に代えて連続的な増加としても良い。段階的変更における各段の継続時間あるいは連続変更における変化率は、動力伝達機構の機械的応答特性に適合するように設定される。
【0031】
供給電圧の調節は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の調節によって行われる。例えば、定格値の25%、50%、75%、100%の電圧は、デューティ比を、それぞれ、25%、50%、75%、100%とすることによって得られる。なお、供給電圧の調節は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比に限らず、電圧振幅の直接的な調節によって行うようにしても良い。
【0032】
このような電圧が供給されることにより、駆動モータ506は、給電直後は最大定格速度でT1時間回転する。この回転によって、動力伝達機構のバックラッシュやワイヤの弛み等が急速に吸収される。
【0033】
次いで、供給電圧の低減と低電圧からの漸増に伴って、駆動モータ506は、低速状態から次第に増速する。この時点では、動力伝達機構のバックラッシュやワイヤの弛み等が既に吸収されているので、ドア本体200は、駆動モータ506の増速に連れて円滑にスライドする。
【0034】
上記は、操作スイッチ502の操作に基づいて、駆動モータ506を回転を開始させる場合であるが、挟込センサ504が挟み込みを検知したときは、その検知信号に基づくコントローラ500の制御動作により、駆動モータ506に上記と同様な電圧供給が行われ、ドア本体200の反転が迅速かつ円滑に行われる。
【0035】
以上、発明を実施するための最良の形態として車両用のパワースライドドアを例示したが、本発明のパワースライドドアは、車両用に限らず、船舶や航空機等用のパワースライドドア、あるいは、屋内や屋外で使用されるパワースライドドア等、適宜の用途のパワースライドドアであって良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】発明を実施するための最良の形態の一例のパワースライドドアを装備した車両の外観を示す図である。
【図2】スライドドアとドアオープニングの構成を示す図である。
【図3】パワースライドドアの制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】駆動モータへの供給電圧のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0037】
100 : 車両
110 : ボデー
112,114,116 : ガイドレール
118 : ソケット
120 : センタピラー
200 : パワースライドドア
202 : ドアトリム
204 : 係合部材
206 : ボス
300 : ドアオープニング
302 : オープニングフランジ
400 : ウェザーストリップ
500 : コントローラ
502 : 操作スイッチ
504 : 挟込センサ
506 : 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアであって、
ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加する電圧制御手段
を具備することを特徴とするパワースライドドア。
【請求項2】
前記供給電圧の増加は、段階的に行われる
ことを特徴とする請求項1に記載のパワースライドドア。
【請求項3】
前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われる
ことを特徴とする請求項2に記載のパワースライドドア。
【請求項4】
ドア本体がモータの動力によってスライドするパワースライドドアを制御する方法であって、
ドア本体のスライド開始時または反転開始時にモータへの供給電圧を一旦最大定格値とした後にそれよりも小さい値から漸次増加する
ことを特徴とするパワースライドドア制御方法。
【請求項5】
前記供給電圧の増加は、段階的に行われる
ことを特徴とする請求項4に記載のパワースライドドア制御方法。
【請求項6】
前記供給電圧の段階的増加は、スイッチングレギュレーションによるデューティ比の段階的増加によって行われる
ことを特徴とする請求項5に記載のパワースライドドア制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249871(P2009−249871A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97086(P2008−97086)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【出願人】(595098169)株式会社立花エレテック (53)
【Fターム(参考)】