説明

パーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置

【課題】カムシャフトに形成するカム溝を量産性に優れ、かつコストの低減化が図れる構造とし、しかも軸推力が大きくなっても力伝動損失を抑え、高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置を提供すること。
【解決手段】パーキング操作機構は、アジャスタ機構の調整スピンドル19bと、この調整スピンドル19bと直交し一端にパーキングレバーを有するカムシャフト25と、カムシャフト25と調整スピンドル19b間に配置された軸推力を与える転動ローラ29,35を有する推力伝達組立体とから成り、カムシャフト25に設けた転動曲面25bは軸端部へ延びている凹溝上に形成され、転動ローラ29,35は転動曲面25b,25c内に収納されてその軸線方向の移動が規制部材26により拘束されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクブレーキ作動装置のパーキング用操作機構として、アジャスタ機構の調整スピンドルと直交して配置したカムシャフトの一端にパーキングレバーを有し、このパーキングレバーの駆動によりカムシャフトを回動させて調整スピンドルに軸推力を与えるプッシュロッド式のパーキングブレーキ構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図9はこのような従来のディスクブレーキ作動装置におけるプッシュロッドを備えたパーキング用操作機構の部分断面図であり、パーキングレバー1を回動駆動することにより、パーキングレバー1の一端に設けたカムシャフト2が回動し、プッシュロッド3が押圧部材4を左方向に押し出して図示していないブレーキピストンを作動すると同時にその反力がキャリパ5を右方向に作動して、一対のブレーキパッドが高い倍力比をもってブレーキディスクを挟圧してブレーキ作動を行うようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−25971号公報(第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなプッシュロッド3を使用する従来のパーキング用操作機構は、カムシャフト2の如何なる回転位置に対してもプッシュロッド3が傾動運動して押圧部材4に軸推力を的確に伝達しているが、プッシュロッド3が収納されるカムシャフト2の外周面に形成したカム溝2Aはプッシュロッド3の傾動を許容する溝穴としなければならず、切削加工でカム溝2Aを成形しようとすると、量産性に乏しくコスト高になるという問題点があった。そこでこのカム溝2Aの成形を圧造で行うことも考えられるが、成型時穴の周りの部分が盛り上がった状態で変形する等により、最終工程では切削加工が必要となるという難点があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目して成されたもので、カムシャフトに形成するカム溝を量産性に優れ、かつコストの低減化が図れる構造とし、しかも軸推力が大きくなっても力伝動損失を抑え、高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置において、前記操作機構は、前記アジャスタ機構の調整スピンドルと、該調整スピンドルと直交し一端にパーキングレバーを有するカムシャフトと、該カムシャフトと調整スピンドル間に配置され、該カムシャフトの回動により調整スピンドルに軸推力を与える推力伝達組立体とから成り、前記推力伝達組立体は自転しながらカムシャフトと調整スピンドル間を転動する転動ローラと、該転動ローラと接触するカムシャフトと調整スピンドル側に設けた転動曲面とで構成され、カムシャフトに設けた転動曲面はパーキングレバーと反対側へ延びている凹溝上に形成され、前記転動ローラは転動曲面内に収納されてその軸線方向の移動が規制部材により拘束されている。
【0008】
本発明の請求項2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記カムシャフトの反ロータ側とキャリパ間に第2の推力伝達組立体が配置されている。
【0009】
本発明の請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記規制部材はカムシャフトの端部側から前記凹溝に固定した規制ブロック体である。
【0010】
本発明の請求項4に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記規制部材はカムシャフトの端部側から前記凹溝に固定したコの字型規制ブロック体である。
【0011】
本発明の請求項5に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記規制部材は前記カムシャフトの円筒外面に形成したリング溝に挿入したリング部材である。
【0012】
本発明の請求項6に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記規制部材は前記カムシャフトのパーキングレバーと反対側の端部に形成した縮径段部に固定した円筒体である。
【0013】
本発明の請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1ないし6のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記キャリパの反ロータ側端部に調整スピンドルの軸線方向に向く円筒穴と、該円筒穴に直交する方向に向く挿入口とが形設され、円筒穴内に、挿入口から挿入されたカムシャフトを摺動支持するガイド部材を固設している。
【0014】
本発明の請求項8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記カムシャフトはガイド部材の円筒部に形成した一対の切欠溝に摺動支持されている。
【0015】
本発明の請求項9に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項7または8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記キャリパの反ロータ側端部に形設した挿入口とカムシャフトの間にはダストブーツが配設され、該ダストブーツはカムシャフトの一側に配したパーキングレバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイドにより係着されている。
【0016】
本発明の請求項10に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1ないし9のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記キャリパは反ロータ側端部に連設されるハウジングを有し、該ハウジング内に、前記調整スピンドル、推力伝達組立体及びカムシャフトが一体に組み付けられている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、転動ローラと転動曲面との組み合わせで高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるだけでなく、カムシャフトと調整スピンドル間に自転しながら転動する転動ローラを設けたので、軸推力が大きくなっても力伝動損失を抑えることができる。更に、カムシャフトに設けた転動曲面はパーキングレバーと反対側へ延びている凹溝上に形成されているので、冷間圧造(ヘッダー)で製作でき、コスト高にならずに生産性の向上が図れる。
【0018】
本発明の請求項2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、カムシャフトの反ロータ側とキャリパ側に設けた転動曲面との間に第2の推力伝達組立体が配置されているので、より長いピストンストロークを確保することができる。
【0019】
本発明の請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、規制ブロック体をカムシャフトの端部へ延びている凹溝に固定することで、転動ローラの軸線方向の移動を確実に拘束できる。
【0020】
本発明の請求項4に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、2つの推力伝達組立体のそれぞれの転動ローラの軸線方向の移動を1つのコの字型規制ブロック体により同時に拘束できる。
【0021】
本発明の請求項5に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、規制部材がカムシャフトのリング溝に挿入したリング部材であるので、部品構成が単純で、組み付けが容易で手間が掛からない。
【0022】
本発明の請求項6に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、規制部材を円筒体とすることで、カムシャフトの転動曲面と縮径段部を冷間圧造にて成型でき、また、面積の広い縮径段部に固定するので、転動ローラの軸線方向の移動を確実に拘束できる。
【0023】
本発明の請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、キャリパとは別にガイド部材を別設したので、キャリパの形設に複雑な加工を施す必要がない。
【0024】
本発明の請求項8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、カムシャフトの軸径に合わせてガイド部材の切欠溝の溝幅を形成することができるので、軸径の異なる各種カムシャフトに対応できる。
また、ガイド部材の切欠溝の位置が自由に設定できるので、調整スピンドルとカムシャフトの軸心同士が同一平面上になくてもよく、設計の自由度が大きい。
【0025】
本発明の請求項9に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、パーキングレバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイドを利用してダストブーツを係着させているので、部品点数を少なくすることができる。
【0026】
本発明の請求項10に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、調整スピンドル、推力伝達組立体及びカムシャフトをハウジング内に前もって組み付けておくことができる。そしてハウジングをキャリパから取り外せば、各部品の分解が楽に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施例1のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図、図2は同じくパーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシャフトの分解斜視図、図3は同じくパーキング用操作機構における調整スピンドルとカムシャフトとを円筒ガイド内に組み付けた組付断面図、図4は同じくパーキング用操作機構のカムシャフトとパーキングレバーの組付断面概略図、図5はカムシャフト組付体の組付前後の斜視図であって、(a)は組付け前(b)は組付け完了状態を示す。図6は同じくパーキング用操作機構のレバー比を説明するための説明図である。
【0029】
図1に示すように、本発明のディスクブレーキ作動装置は、キャリパ13とピストン組立体15から成る流体作動のサービスブレーキ機構(SM)と、パーキング用操作機構(PM)で構成されている。ピストン組立体15は、サービスブレーキ適用時に流体圧を受け、キャリパ13内で摺動するピストン17と、ブレーキパッドの摩耗補償とオーバアジャスト防止のためのアジャスタアセンブリ19とを備えている。そしてこのキャリパ13は固定のサポート14に対して摺動自在に支持されている。
【0030】
アジャスタアセンブリ19は従来公知の可逆ねじタイプのものが使用されている。この可逆ねじタイプのアジャスタは、可逆ねじを有する調整スピンドル19aと、このスピンドル19aに螺合するアジャストスリーブ19bと、アジャストスリーブ19bの回動を支持する軸受19cと、スプリング19d等で構成され、ブレーキパッド21,22の摩耗が規定以上になれば、調整スピンドル19aに対してアジャストスリーブ19bが回動前進し、ブレーキ解除時にピストン17の後退位置が前進してブレーキパッド21,22の摩耗が補償される。
【0031】
また、過剰なブレーキ流体圧がピストン17に適用されると、アジャストスリーブ19bは調整スピンドル19aに対して回動することができず、調整スピンドル19aはスプリング19dのバネ力に抗してアジャストスリーブ19bと共に前方に移動するのでオーバアジャストが防止される。
【0032】
パーキング用操作機構(PM)は、パーキングレバー23とカムシャフト25から成り、パーキングレバー23がブレーキワイヤにより操作されカムシャフト25が回動すると、一対の推力伝達組立体(TA)が駆動される。推力伝達組立体(TA)はカムシャフト25と調整スピンドル19a端部に設けたローラプラグ(曲面部材)27間を転動する転動ローラ29と、カムシャフト25とキャリパ13の反ロータ側端部に連設したハウジング31に設けたローラプラグ(曲面部材)33間を転動する転動ローラ35と、転動ローラ29,35が転動するカムシャフト25及びローラプラグ27,33に形成した転動曲面とで構成されている。
【0033】
ローラプラグ27,33はハウジング31より硬度の高い材料で成形されており、転動ローラ29,35からの推力を硬質のローラプラグ27,33で受け止めて、転動ローラ29,35とローラプラグ27,33間での変形や摩耗を極力抑えて軸推力を調整スピンドル19a及びハウジング31に確実に伝達することができる。又、推力伝達組立体(TA)の転動ローラ29,35の大きさや転動曲面の形状が変更されてもローラプラグ27,33のみを入れ替える事で対応できる。
【0034】
ローラプラグ33はハウジング31の円筒穴31a底部に固設したピン37により回動不能に係止され、このローラプラグ33に対しやはり回動不能に係合された円筒ガイド(ガイド部材)39はハウジング31に対して移動不能に固設されている。すなわち、上記円筒穴31a内に挿入された円筒ガイド39はローラプラグ33と止めクリップ41で軸方向の移動が、そしてローラプラグ33により回転方向の移動が阻止されている。
【0035】
図2に示すように、 調整スピンドル19aの頭部20bは円筒ガイド39の切欠ガイド溝39a内にスプリング19dにより常に右方向(図1において)に付勢された状態で、調整スピンドル19aの中心軸線X−X方向に摺動自在に支持されている。一方、カムシャフト25は中心軸線X−Xに対し直交するように配置され、円筒ガイド39に形成した一対の切欠溝39b,39b(図2,4参照)に嵌入して、調整スピンドル19aと同様に、中心軸線X−X方向に摺動自在に支持されている。このように円筒ガイド39が調整スピンドル19aとカムシャフト25を中心軸線X−X方向に摺動自在に支持しているので、ハウジング31は円筒ガイド39を嵌入できる円筒穴31aと、後述するカムシャフト挿入口31b(図2参照)を形成するだけでよく、複雑な加工、特に困難な二面幅加工をハウジングに施す必要がない。
【0036】
次に、パーキング用操作機構の各構成部品の詳細と組み付け手順について図2ないし図4に基づき説明する。
【0037】
図2はパーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシャフトの分解斜視図であり、調整スピンドル19aはアジャストスリーブ19bと螺合する可逆ねじ部20aと円筒ガイド39の切欠ガイド溝39a内に沿って摺動する一対の係合突起20cを備えた頭部20bから成り、この頭部20bとハウジング31に形成した円筒穴31aの一端側に設けた止めクリップ41間にスプリング19dが配設されている。
【0038】
円筒ガイド39はカムシャフト25を摺動案内するための一対の切欠溝39bが形成され、カムシャフト25の外周面25aがそれぞれの切欠溝39bに支持され、切欠溝39bの切欠きにより、調整スピンドル19aの中心軸線X−X方向に摺動案内される。
【0039】
図3に示すように 、調整スピンドル19aの頭部20b内にはローラプラグ27が嵌入し、カムシャフト25の転動曲面25bとローラプラグ27の転動曲面27b間に転動ローラ29が配置され、転動ローラ29と転動曲面25b,27bとで第1の推力伝達組立体(TA)を構成し、一方、カムシャフト25の転動曲面25cとローラプラグ33の転動曲面33c間に転動ローラ35が配置され、転動ローラ35と転動曲面25c,33cとで第2の推力伝達組立体(TA)を構成している。
【0040】
円筒ガイド39のローラプラグ33側端部には、図2に示すように、ローラプラグ33に形設した一対の係止突部33a,33aと嵌合係止するための係止溝39c,39cが設けられ、円筒穴31a底部に打ち込まれたピン37により回動不能に係止されたローラプラグ33の係止突部33a,33aに円筒ガイド39の係止溝39c,39cが嵌合することで、円筒ガイド39は円筒穴31a内に固設される。
【0041】
パーキング用操作機構の組付け手順としては、まずハウジング31に形成した円筒穴31aの底面にローラプラグ33をピン37を介して固定し、ローラプラグ27を嵌入した調整スピンドル19aを円筒ガイド39の一対の切欠ガイド溝39a,39aに挿入し、次いでスプリング19dを円筒ガイド39の円筒内面39dに挿入する。
【0042】
円筒ガイド39をハウジング31の円筒穴31aに挿入した状態で、カムシャフト25をハウジング31に形成した円筒穴31aと直交する方向に形成した挿入口31bを介して円筒ガイド39の一対の切欠溝39b,39bに挿入する。そしてカムシャフト25を円筒穴31aに挿入する際には、転動ローラ29,35の軸線方向の移動を規制するためのコの字型規制ブロック体26を端部に圧入し、カムシャフト25の転動曲面25b,25cに転動ローラ29,35を収納してカムシャフト組付体24を構成しておく。また、この挿入口31bはカムシャフト25が中心軸線X−X方向に移動できるように軸方向に少し長く形成されている。
【0043】
次にカムシャフト組付体24の構造とその組付け工程を図5により説明する。図5(a)は組付け前を示したもので、カムシャフト25の一端側にはダストブーツ47を設置するための円周溝25fが形成されると共にその外方にパーキングレバー23の回り止め用二面幅部25g、更にその外方にナット43を螺合させてパーキングレバー23を係止するための雄ねじ部25dが形設されている。
【0044】
またカムシャフト25の円筒外周面25aには転動ローラ29,35を収納するための2つの凹溝が直径方向に対向して冷間圧造で成型されている。この凹溝はパーキングレバー係止用雄ねじ部25dと反対側の端部まで延びて、この端部のところで両凹溝は連結している。凹溝の転動ローラ29,35が転動する面は転動曲面25b,25cとして構成されている。従来のように転動ローラ29、35を転動させるための転動曲面が完全凹形状でなく軸端部まで延びた凹溝上に形成されているため、冷間圧造において成型が容易に可能である。
【0045】
カムシャフト組付体24の組付けに際しては、図5(a)に示すように、先ずカムシャフト25の軸端部まで延びた凹溝の端部側からコの字型規制ブロック体26を圧入し、カムシャフト25の転動曲面25b,25cに転動ローラ29,35をそれぞれ収納する。場合によってはグリース等により粘着させても良い。このコの字型規制ブロック体26は転動ローラ29,35の軸方向の移動を制限する規制部材として働く。これにより図5(b)に示すように、カムシャフト組付体24は転動ローラ29,35が軸方向に移動することなく転動曲面25b,25c上を転動できるように組み付けられる。
【0046】
カムシャフト組付体24の挿入時には、転動ローラ29がローラプラグ27の転動曲面27bとカムシャフト25の転動曲面25b間に、また、転動ローラ35がローラプラグ33の転動曲面33cとカムシャフト25の転動曲面25c間に挟持されるように円筒ガイド39を円筒穴31aの内方に押し込み、円筒ガイド39の係止溝39c,39cをローラプラグ33の係止突部33a,33aに嵌合させて、最後に止めクリップ41をスプリング19dに抗して圧縮させハウジング31の円筒穴31aに形成した係止溝31c(図1,2参照)に係止する。
【0047】
これによりハウジング31に形成した円筒穴31a内に固設した円筒ガイド39に、調整スピンドル19a、カムシャフト25が摺動支持されると共に、二つの推力伝達組立体(TA)が収納される。このようにして調整スピンドル19a、推力伝達組立体(TA)及びカムシャフト25をハウジング31内に前もって組み付けておくことができサブアッセンブリとして扱えるばかりでなく、ハウジング31をキャリパ13から取り外せば、各部品の分解が楽に行える。
【0048】
図4に示すように、カムシャフト25の一端に設けた回り止め用二面幅部25gには、カムシャフト25の軸心方向であるY−Y軸回りにカムシャフト25を回動駆動するためのパーキングレバー23が嵌合している。このパーキングレバー23はカムシャフト25の先端雄ねじ部25dに螺合したナット43によりY−Y軸方向の移動が拘束されていると共に、ハウジング31に形成した挿入口31bに設けたパーキングレバーガイド45により傾動とが抑制され、更にパーキングレバーガイド45はカムシャフト25のY−Y軸方向の移動を制限している。
また、ダストブーツ47はその内端側がカムシャフト25の円周溝25fに、外端側が挿入口31b着座し、パーキングレバーガイド45の係止爪45aにより係着されている。
【0049】
ナット43の外周面にはねじりコイルバネ49が被冠し、その一端はハウジング31に係合すると共に、他端49aはパーキングレバー23に係合している。このねじりコイルバネ49はパーキングレバー23操作後に、常にカムシャフト25を初期位置に戻すように作用する。
【0050】
このようにして組み付けられたパーキング用操作機構(PM)の作用及びレバー比(倍力比)について図6に基づき説明する。
【0051】
パーキングレバー23の一端溝部23aにブレーキワイヤ(図示せず)が連結され、ブレーキワイヤを点O’にてW方向にFの力で牽引すると、カムシャフト25は点Oを中心として図6において反時計方向に回動する。このときカムシャフト25は転動ローラ29,35と線接触状態で回動するので、カムシャフト25が受ける回転摩擦抵抗は小さい。そして、点Oから力Fの作用点O’までの有効長さをLとすると、カムシャフト25にはT=L×Fの回転トルクが生じることになる。
【0052】
カムシャフトの制動前の初期位置において、転動ローラ29の中心とカムシャフト25の転動曲面25bとの接点とを結んだ線分gと、転動ローラ35の中心とカムシャフト25の転動曲面25cとの接点とを結んだ線分hとが中心軸線X−Xとなす角をそれぞれθとし、線分gとhの距離をRとした場合に、回転トルクL×FはR×f’に変換される。(ここでf’は線分g、h方向に発生する力とする。)そして軸推力fはf=f’cosθであるから、パーキング用操作機構(PM)のレバー比(倍力比)M=f/F=(L/R)×cosθとなる。
【0053】
そして、カムシャフト25が初期位置から図6において左向きに回動すると、転動ローラ29はカムシャフト25の転動曲面25bとローラプラグ27の転動曲面27b間に挟まれながら自転しつつブレーキ作動位置まで点Oを中心にして公転する。同様に、転動ローラ35もカムシャフト25の転動曲面25cとローラプラグ33の転動曲面33c間に挟まれながら自転しつつブレーキ作動位置まで点Oを中心にして公転する。
【0054】
このようにして、カムシャフト25の回動に対して転動ローラ29,35の中心軸線X−X方向の移動量を生み出し、パーキングレバー23からカムシャフト25に大きなレバー比をもって、軸推力を調整スピンドル19aとキャリパ13側に有効に伝達することができる。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の実施例2を図7に基づいて説明する。図7は本発明の実施例2におけるカムシャフトと転動ローラの組付前後の斜視図であって、(a)は組み付け前(b)は組み付け完了状態を示す。なお、以下の実施例2において前述の実施例1と同様の構造部分に関しては、同一の符号を付すことにより詳細な説明は省略することとする。
【0056】
カムシャフト25の円筒外周面25aには転動ローラ29,35を収納するための2つの凹溝が直径方向に対向して冷間圧造で成型されている。この凹溝はパーキングレバー係止用雄ねじ部25dと反対側の端部まで延びている。凹溝の転動ローラ29,35が転動する面は転動曲面25b,25cとして構成されている。従来のように転動ローラ29,35を転動させるための転動曲面が完全凹形状でなく軸端部まで延びた凹溝上に形成されているため、本実施例2においても冷間圧造における成型が容易に可能である。
【0057】
そしてカムシャフト25の円筒外周面25aには凹溝が形成されている側の軸端部寄りにリング溝25hが形設されており、このリング溝25hに円周上の一部が切り欠かれたリング部材28が嵌入可能である。カムシャフト組付体24の組付けに際しては、図7(a)に示すように、先ずカムシャフト25の転動曲面25b(実施例1の図3参照)、25cに転動ローラ29,35をそれぞれ収納し、リング溝25hにリング部材28を嵌入する。
【0058】
このリング部材28は、図7(b)に示すように、転動ローラ29,35の一端部と当接し、転動ローラ29,35の軸方向の移動を制限する規制部材として働く。これによりカムシャフト組付体24は転動ローラ29,35が軸方向に移動することなく転動曲面25b,25c上を転動できるように組み付けられる。
【実施例3】
【0059】
次に、本発明の実施例3を図8に基づいて説明する。図8は本発明の実施例3におけるカムシャフトと転動ローラの組付前後の斜視図であって、(a)は組み付け前(b)は組み付け完了状態を示す。なお、以下の実施例3において前述の実施例1と同様の構造部分に関しては、同一の符号を付すことにより詳細な説明は省略することとする。
【0060】
カムシャフト25の円筒外周面25aには転動ローラ29,35を収納するための2つの凹溝が直径方向に対向して冷間圧造で成型されている。この凹溝はパーキングレバー係止用雄ねじ部25dと反対側の端部まで延びている。凹溝の転動ローラ29,35が転動する面は転動曲面25b,25cとして構成されている。従来のように転動ローラ29,35を転動させるための転動曲面が完全凹形状でなく軸端部まで延びた凹溝上に形成されているため、本実施例3においても冷間圧造における成型が容易に可能である。
【0061】
そしてカムシャフト25の凹溝が形成されている側の軸端は縮径段部25jが冷間圧造で凹溝の成型と同時に形設されている。従ってカムシャフトの製造工程が簡略化され量産化に適している。そしてこの縮径段部25jには円筒体30が圧入可能である。カムシャフト組付体24の組付けに際しては、図8(a)に示すように、先ずカムシャフト25の縮径段部25jに円筒体30を圧入し、転動曲面25b(実施例1の図3参照)、25cに転動ローラ29,35をそれぞれ収納する。
【0062】
この円筒体30は、図8(b)に示すように、転動ローラ29,35の一端部と当接し、転動ローラ29,35の軸方向の移動を制限する規制部材として働く。これによりカムシャフト組付体24は転動ローラ29,35が軸方向に移動することなく転動曲面25b,25c上を転動できるように組み付けられる。
なお、この縮径段部25jの径を小さくして転動曲面25b,25cを端部まで延ばさなくとも良いことは明らかである。
更に、実施例1、実施例3においては、コの字型規制ブロック体26、円筒体30をカムシャフト25に圧入しているが、圧入以外の固定方法でも良い。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、例えば、本実施例では浮動キャリパ式ディスクブレーキに適応した例で説明したが、固定キャリパ式ディスクブレーキに適応する場合には、推力伝達組立体はカムシャフトと調整スピンドル間だけに設けることも可能である。また、ローラプラグは硬質材で構成するために、調整スピンドルやハウジングと別体で構成しているが、ローラプラグは必ずしも必要とするものではなく、調整スピンドル及びハウジングに直接転動曲面を形設しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図である。
【図2】上記パーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシャフトの分解斜視図である。
【図3】上記パーキング用操作機構における調整スピンドルとカムシャフトとを円筒ガイド内に組み付けた組付断面図である。
【図4】上記パーキング用操作機構のカムシャフトとパーキングレバーの組付断面概略図である。
【図5】カムシャフト組付体の組付前後の斜視図であって、(a)は組付け前(b)は組付け完了状態を示す。
【図6】上記パーキング用操作機構のレバー比を説明するための説明図である。
【図7】本発明の実施例2におけるカムシャフトと転動ローラの組付前後の斜視図であって、(a)は組み付け前(b)は組み付け完了状態を示す。
【図8】本発明の実施例3におけるカムシャフトと転動ローラの組付前後の斜視図であって、(a)は組み付け前(b)は組み付け完了状態を示す。
【図9】従来のディスクブレーキ作動装置におけるプッシュロッドを備えたパーキング用操作機構の部分断面図である。
【符号の説明】
【0065】
13 キャリパ
14 サポート
15 ピストン組立体
17 ピストン
19 アジャスタアセンブリ
19a 調整スピンドル
19b アジャストスリーブ
19c 軸受
19d スプリング
19e 転動曲面
19f 円弧状外面
20a 可逆ねじ部
20b 頭部
20c 係合突起
20d 二面幅
21,22 ブレーキパッド(パッド)
23 パーキングレバー
23a 溝部
24 カムシャフト組付体
25 カムシャフト
25a 外周面
25b,25c 転動曲面
25d カムシャフトの先端雄ねじ部
25f ブーツ設置円周溝
25g 回り止め二面幅部
25h リング溝
25j 縮径段部
26 コの字型規制ブロック体
27 ローラプラグ(曲面部材)
27b 転動曲面
28 リング部材
29 転動ローラ
30 円筒体
31 ハウジング
31a 円筒穴
31b カムシャフト挿入口
31c 係止溝
33 ローラプラグ(曲面部材)
33a 係止突部
33c 転動曲面
35 転動ローラ
37 ピン
39 円筒ガイド(ガイド部材)
39a 切欠ガイド溝
39b 切欠溝
39c 係止溝
39d 円筒内面
41 止めクリップ
43 ナット
45 パーキングレバーガイド
45a 係止爪
47 ダストブーツ
49 ねじりコイルバネ
49a ねじりコイルバネの先端
f 軸推力
F 力
M レバー比(倍力比)
O’ 力Fの作用点
O カムシャフトの軸心
(PM) パーキング用操作機構
T 回転トルク
(SM) サービスブレーキ機構
(TA) 推力伝達組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置において、前記操作機構は、前記アジャスタ機構の調整スピンドルと、該調整スピンドルと直交し一端にパーキングレバーを有するカムシャフトと、該カムシャフトと調整スピンドル間に配置され、該カムシャフトの回動により調整スピンドルに軸推力を与える推力伝達組立体とから成り、前記推力伝達組立体は自転しながらカムシャフトと調整スピンドル間を転動する転動ローラと、該転動ローラと接触するカムシャフトと調整スピンドル側に設けた転動曲面とで構成され、カムシャフトに設けた転動曲面はパーキングレバーと反対側へ延びている凹溝上に形成され、前記転動ローラは転動曲面内に収納されてその軸線方向の移動が規制部材により拘束されているパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項2】
前記カムシャフトの反ロータ側とキャリパ間に第2の推力伝達組立体が配置されている請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項3】
前記規制部材はカムシャフトの端部側から前記凹溝に固定した規制ブロック体である請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項4】
前記規制部材はカムシャフトの端部側から前記凹溝に固定したコの字型規制ブロック体である請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項5】
前記規制部材は前記カムシャフトの円筒外面に形成したリング溝に挿入したリング部材である請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項6】
前記規制部材は前記カムシャフトのパーキングレバーと反対側の端部に形成した縮径段部に固定した円筒体である請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項7】
前記キャリパの反ロータ側端部に調整スピンドルの軸線方向に向く円筒穴と、該円筒穴に直交する方向に向く挿入口とが形設され、円筒穴内に、挿入口から挿入されたカムシャフトを摺動支持するガイド部材を固設した請求項1ないし6のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項8】
前記カムシャフトはガイド部材の円筒部に形成した一対の切欠溝に摺動支持されている請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項9】
前記キャリパにパーキングレバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイドが設けられ、パーキングレバーガイドとカムシャフト間にダストブーツが係着されている請求項1ないし8のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項10】
前記キャリパは反ロータ側端部に連設されるハウジングを有し、該ハウジング内に、前記調整スピンドル、推力伝達組立体及びカムシャフトが一体に組み付けられている請求項1ないし9のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−40445(P2007−40445A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226175(P2005−226175)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】