ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体
【課題】骨に多く含まれ、細胞接着に関与する糖蛋白質、オステオポンチンに対するヒト化抗体で、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなる重鎖および軽鎖可変領域を含み、重鎖定常領域がヒトIgγ1、軽鎖定常領域がヒトIgκである、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、およびその製造方法。また、該抗体を含む、リウマチ性関節炎等の治療薬。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなる重鎖および軽鎖可変領域を含み、重鎖定常領域がヒトIgγ1、軽鎖定常領域がヒトIgκである、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、およびその製造方法。また、該抗体を含む、リウマチ性関節炎等の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性および安定性に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、および該抗体を用いた疾患の治療および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オステオポンチン(以下、「OPN」という)は、骨に多く含まれる酸性のカルシウム結合性の糖蛋白質であり、ヒトの場合、mRNAのスプライシングの違いから、オステオポンチン−a(以下、「OPN−a」という)、オステオポンチン−b(以下、「OPN−b」という)およびオステオポンチン−c(以下、「OPN−c」という)の少なくとも3つのアイソフォームが生じ得ることが知られている(非特許文献1)。このうち、OPN−aの前駆体は、後記配列表の配列番号23で示されるアミノ酸配列を持ち、分泌により、シグナルペプチドが切断され、I17−N314の成熟体OPN−aがつくられると考えられている。また、成熟体OPNは、生体内のトロンビンにより168番目(OPN−aの場合)のアルギニン残基のC末端側で切断されて、N末端フラグメントおよびC末端フラグメントの2つになる。
【0003】
上記のOPNは、多種の生理学的病理学的に重要な機能を担っており、例えば、細胞接着、細胞遊走、腫瘍形成、免疫応答および補体が媒介する細胞溶解の阻害等の機能を持っている。この多様な機能は、多種の細胞表面受容体により媒介されている。OPNは、内部にRGD配列をもち(例えば、OPN−aでは、159〜161残基目)、このRGD配列を認識するαVβ3、αVβ1およびαVβ5等のインテグリンは、OPNの主な受容体であり、このうち、αVβ3、αVβ1およびαVβ5インテグリンは、血管の平滑筋細胞において細胞接着を媒介し、更にαVβ3は、マクロファージ、リンパ球、内皮細胞および平滑筋細胞等の遊走に関係している。
【0004】
さらに、これまでの研究から、OPNは、SVVYGLR配列(配列番号10)を介してα9β1、α4β1およびα4β7インテグリンと結合することも明らかにされているが、これらのうちα4β1は、トロンビンで切断されていないOPN(非切断型OPN)とトロンビンで切断されたN末端フラグメント(切断型OPN)の両方に結合し、α9β1はトロンビン切断型OPNにのみ結合するという様式の差も見出されている(非特許文献2〜4)。これらのα9及びα4、β1及びβ7のインテグリンサブユニットは、相互にアミノ酸配列間の類似性が高い。そして、α4β1及びα4β7インテグリンは、主として、リンパ球と単球で見出されるが、好中球ではごくわずかに発現しているにすぎない。一方、α9β1は、好中球に選択的に高発現しておりVCAM-1やTenascin-Cなどを介して、好中球遊走に必須の機能を担っている。また、筋肉細胞や上皮細胞、肝細胞などで広く発現している。このように、インテグリンサブユニットα4とα9の細胞質ドメインは、それぞれ微妙に異なった細胞内シグナル伝達経路を通して、互いに協同して炎症部位への白血球の遊走と凝集を促し、それらの浸潤活性を増強することによって、様々な炎症反応に関与していると考えられる。
【0005】
このように、様々な種類のインテグリンが、白血球の遊走を促進し、炎症反応に関与していることから、これらのインテグリン活性を阻害する薬剤は、潜在的には抗炎症剤としての可能性を有していると思われる。たとえば、インテグリンαVβ3は、破骨細胞、血管内皮細胞および平滑筋細胞等で発現されており、αVβ3インテグリンとその様々な結合リガンドとの結合を阻害することにより、例えば関節では、関節破壊抑制作用が期待できることから、抗αVβ3抗体の開発が実際に行われている。
【0006】
しかしながら、インテグリンファミリーに属する受容体は、広範な組織で普遍的に発現して生命活動維持に必須の機能を担っていることから、リウマチ性関節炎や変形性関節炎の治療にインテグリンに対する抗体を用いると、他の部位でも同様の阻害がおこる可能性があり、副作用の発生も懸念される。
【0007】
このような観点から、現在までに、リウマチ性関節炎、変形性関節症などの病因を明確にし、より優れた治療方法を提供する試みがなされてきた。
【0008】
例えば、WO02/081522(特許文献1)では、リウマチ患者および変形性関節症患者で、関節腔液のOPN濃度が高値を示し、さらにリウマチ患者において、全OPNに占めるトロンビン開裂型のN末端フラグメントの割合が増大することが見出され、OPNが、これらの疾患の発症に深く関わっていることが確認された。特許文献1では、OPNをトロンビンで切断したN末端フラグメント及びC末端フラグメントについて、それぞれのフラグメントを区別して認識する抗体を作成し、それらを用いた試験により、リウマチ性関節炎患者では、特にトロンビンにより切断されたN末端フラグメントが関節腔内で高濃度を示すことが見出されている。このN末端フラグメントには、ヒト型インテグリンが認識するRGD配列とSVVYGLR配列(配列番号10)が共に存在しており、これら両者の配列を同時にブロックする抗体が、OPNとインテグリンの結合を幅広く阻害し、リウマチ性関節炎や変形性関節炎等の治療に効果があることが確認されている。
【0009】
具体的には、特許文献1では、ヒトOPNのRGD配列とインテグリンの結合およびヒトOPNのSVVYGLR配列(配列番号10)とインテグリンとの結合を阻害する抗体を作成し、細胞接着および細胞遊走等の実験によりその効果が確認されている。さらに、マウスOPNの当該内部配列に対応する合成ペプチドに対する抗体を取得し、マウスの関節炎病態モデルを用いて、そのような抗体の治療薬としての効果が確認されている。
【0010】
すなわち、マウスOPNは、ヒトOPNとアミノ酸配列上で相同な位置にマウスのインテグリンによって認識されるRGD配列及びSLAYGLR配列(配列番号12)を有しているので、これらの配列を同時にブロックする抗体として、M5抗体を取得した。このM5抗体とマウスOPNおよびそのトロンビン消化物との結合は、RGD配列を含むGRGDSPペプチドで阻害され、またこのM5抗体は、TNF-αで活性化したマウス脾臓由来の単球の遊走を阻害することが確認された。このM5抗体を、マウスのカルバリア(calvaria)器官培養系で調べてみたところ、骨破壊の抑制作用が観察された。さらに、マウスのコラーゲン関節炎モデルに、上記抗体を投与してみたところ、明らかに治療効果を示すことが確認された(特許文献1及び非特許文献5)。
【0011】
これらの結果は、RGD配列、SVVYGLR配列(配列番号10)とヒト型インテグリンの結合を同時にブロックする抗体が、OPNとインテグリンの結合を阻害し、リウマチ性関節炎等の治療に有効であることを強く示唆しており、さらに、若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチのみならず、乾癬性関節炎や乾癬の治療への効果が期待されることを示している。また、臓器移植後の慢性拒絶は、血管や気管支の閉塞性病変を特徴としているが、その組織学的検討から、T細胞やマクロファージの活性化がサイトカイン、増殖因子の産生、血管内皮細胞障害を引き起こし、さらに血管平滑筋の増殖が線維化などを引き起こすために血管閉塞へ進展して行くと考えられている(非特許文献6〜8)。
そして、これらのマクロファージの活性化や血管平滑筋の線維化にはOPNが必須の蛋白として機能することが報告されており(非特許文献9)、OPN阻害抗体は、単球や好中球の遊走を抑制することにより、このような線維化に向けての過程を抑制する可能性がある。従って、臓器移植後の慢性拒絶反応を抑制し、臓器生着に寄与し、また、全身性自己免疫疾患、エリテマトーデス、ぶとう膜炎、ベーチェト病、多発性筋炎、糸状体増殖性腎炎、サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療への効果が期待される。また、種々の癌においてもOPNの発現量が増加し、OPNが癌の進行及び転移を促進し(非特許文献10〜12)、抗OPN抗体によって癌細胞の増殖や転移が抑制されることも確認されている(特許文献3、非特許文献13)。従って、抗OPN抗体は、種々の癌の治療への効果も期待される。
【0012】
また、WO03/027151(特許文献2)では、特許文献1記載のマウス抗ヒトオステオポンチン抗体2K1の可変領域とヒト抗体の定常領域とを有するキメラ抗ヒトオステオポンチン抗体、並びに、2K1抗体の相補性決定領域とヒト抗体のフレームワーク領域及び定常領域を有するヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が開示されている。
【0013】
ところで、今日では、癌治療用抗体(例えば、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ)、リウマチ治療用抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ)、移植片拒絶を抑制するための治療用抗体(例えば、ムロモナブ、バシリキシマブ)などの、多くの治療用モノクローナル抗体が上市されている。
【0014】
今後もモノクローナル抗体製剤はその特異性と安全性の高さという基本的特質から、特に低分子の治療薬開発が困難な多種多様な疾患を標的として研究開発が加速すると考えられる。
【0015】
一方、このような抗体医薬の開発において最大の問題点となるのが、抗体の生産性である。これまでに市販されているモノクローナル抗体の臨床での投与量は概ね数mg/kgのレベルであり、相当な製造コストがかかる。
【0016】
そのため、優れた活性を示す抗体、そして同じ活性を示す抗体の中でも、発現量が高く、タンパク質としての安定性が高い抗体を選択することは、抗体医薬として実用化する上で極めて重要な要件である。
【特許文献1】国際公開第WO02/081522パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO03/027151パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO06/043954パンフレット
【非特許文献1】Y. Saitoh et al., (1995): Laboratory Investigation, 72, 55-63
【非特許文献2】Y. Yokosaki et al., (1999): The Journal of Biological Chemistry 274, 36328-36334
【非特許文献3】P. M. Green et al., (2001): FEBS Letters 503, 75-79
【非特許文献4】S. T. Barry et al., (2000): Experimental Cell Research 258, 342-351
【非特許文献5】Yamamoto et al., (2003): The Journal of Clinical Investigation, 112, 181-188
【非特許文献6】P. Freese et al., (2001): Nephrology, dialysis, transplantation, 16, 2401-2406
【非特許文献7】J. R. Waller et al., (2001): British Journal of Surgery, 88, 1429-1441
【非特許文献8】S. R. Lehtonen et al., (2001): Transplantation, 72, 1138-1144
【非特許文献9】A. O’Regan et al., (2000): International Journal of Experimental Pathology, 81, 373-390
【非特許文献10】G. F. Weber, (2001): Biochimica et Biophysica Acta, 1552, 61-85
【非特許文献11】H. Rangaswami et al., (2006): TRENDS in Cell Biology 16, 79-87
【非特許文献12】S. S. Forootan et al., (2006): Int. J. Cancer: 118, 2255-2261
【非特許文献13】Z. Hu et al., (2005): Clin. Cancer Res. 11 4646-4652
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記の状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を提供することにある。本発明者らは、上記課題を解決するために創意研究を重ねた結果、このような特性を有するヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を作製することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(2)前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1である、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(3)前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(4)前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1であり、前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(5)配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(6)上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
(7)上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
(8)上記(6)および/または(7)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(9)上記(8)に記載の発現ベクターが導入された宿主細胞。
(10)上記(9)に記載の宿主細胞を培養し、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を発現させる工程を包含する、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を生産する方法。
(11)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を含む、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症の治療薬。
(12)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための方法。
(13)自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための医薬の製造における、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の使用。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が提供される。このような特質を有する本発明の抗体は、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎、変形性関節症を始めとする、種々の炎症性疾患の予防または治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について詳述する。
本発明者らは、上記の従来の抗ヒトオステオポンチン抗体に関する課題を克服するために創意検討を重ねた結果、WO03/027151(特許文献2)に記載のキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体に比べ、活性および/または安定性が共に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を取得することに成功した。
【0021】
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万〜7万の重鎖と2〜3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖および2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S−S結合)および非共有結合によって結合され、分子量15万〜19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0022】
鎖内S−S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100〜110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位あるいはドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域(V領域、variable region、可変部)とよばれている(各ドメインは、それぞれ、VHおよびVLと表される)。これよりC末端側のアミノ酸配列は、各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定で定常領域(C領域、constant region、定常部)とよばれている(各ドメインは、それぞれ、CH1、CH2、CH3あるいはCLと表される)。
【0023】
抗体の抗原決定部位はVHおよびVLによって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgのC領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域(hypervariable region)にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR、complementarity determining region)と呼んでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(framework region)とよばれ、比較的一定である。通常、各可変領域の相補性決定領域の5〜10個のアミノ酸だけが抗原結合部位を形成している。
【0024】
本明細書中では、抗原と反応する可変領域についてはマウス抗体(ドナー異種抗体とも称する)由来の可変領域を有し、定常領域についてはヒト抗体由来の定常領域を有する抗体を、キメラ抗体と称し、オステオポンチンおよびその断片を認識するキメラ抗体を、キメラ抗オステオポンチン抗体と称する。また、抗原特異的な非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)抗体分子の相補性決定領域(抗原結合部位)以外をすべてヒト抗体のアミノ酸に置き換えた組換え抗体はヒト化抗体と称する。ヒト化抗体には、本発明の抗体のような、さらにフレームワーク領域にアミノ酸の改変(置換、挿入、欠失、付加)を加えたものも包含される。
【0025】
一般に、ヒト化抗体の作製においては、相補性決定領域のアミノ酸配列のみを鋳型のヒト抗体フレームワークに移植しただけでは、多くの場合、オリジナルのマウス抗体よりも抗原結合活性が低下することが知られている。上記のヒト化2K1抗体についても、OPNペプチドに対する結合性は有するものの、OPNに対する細胞接着阻害活性が極めて低く、抗体医薬としての使用には適さないことが確認された(後記実施例9)。
【0026】
本発明者らは、このようなヒト化抗体の活性低下を改善し、かつ、抗体医薬として使用するためにより優れた安定性を有するヒト化抗体を得るために創意検討を重ねた結果、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含むヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が、従来のキメラ及びヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体と比較して有意に改善された活性および/または種々の安定性指標において優れた安定性を有することを同定した。このような本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、鋳型のヒト抗体の重鎖および軽鎖のフレームワーク領域において、いくつかのアミノ酸に改変を加えて作製されたものであり、相補性決定領域のみを移植して作製された従来のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体(特許文献2)とは、フレームワーク領域の配列が異なる。
【0027】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、本願明細書に開示される、その重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。具体的には、本発明の抗体の重鎖可変領域アミノ酸(配列番号1)をコードする塩基配列を有する重鎖可変領域遺伝子断片、及び、本発明の抗体の軽鎖可変領域アミノ酸(配列番号3)をコードする塩基配列を有する軽鎖可変領域遺伝子断片を作製する。そして、この可変領域遺伝子をヒト抗体の適当なクラスの定常領域遺伝子と連結させてヒト化抗体遺伝子を作製する。次いで、このヒト化抗体遺伝子を適当な発現ベクターに連結し、培養細胞中に導入する。最後にこの培養細胞を培養して培養上清からヒト化抗体を得ることができる。
【0028】
上記の本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸(配列番号1及び配列番号3)をコードする各可変領域遺伝子断片は、例えば、WO03/027151に記載される方法に従って、該文献に開示されるヒト化2K1抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の各々をコードする遺伝子断片を調製し、ヒト化2K1抗体のフレームワーク領域をコードする該遺伝子断片の所定の部位に変異を導入することによって作製することができる。フレームワーク領域の所定の部位に変異を導入する方法としては、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley & Sons Section 8.1−8.5)等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。あるいは、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子断片は、該重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号1及び配列番号3)に基づいてデザインされた塩基配列、または、配列番号5及び配列番号7に示される本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の塩基配列に基づいて、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することも可能である。このような遺伝子合成方法としては、WO90/07861に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0029】
次いで、上記の可変領域遺伝子断片とヒト抗体の定常領域遺伝子とを連結させてヒト化抗体遺伝子を作製する。使用されるヒト抗体の定常領域は、どのようなサブクラスの定常領域も選択可能であり得るが、好ましくは重鎖定常領域としてはヒトIgγ1が、また、軽鎖定常領域としてはヒトIgκを用いることができる。
【0030】
このヒト化抗体遺伝子の作製につづく、ヒト化抗体遺伝子の発現ベクターへの導入、発現ベクターの培養細胞への導入、培養細胞の培養、抗体の精製等については、当該分野で公知の種々の方法を使用してか、あるいは、WO02/081522またはWO03/027151に記載される、キメラ抗ヒトオステオポンチン抗体またはヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の作製方法を参照して行うことができる。上記のようにして得られたヒト化抗体遺伝子と連結される発現ベクターとしては、国際公開公報WO94/20632に記載のAG−γ1やAG−κ等の発現ベクターが使用できるが、ヒト化抗体遺伝子を発現することができるものであれば特に制限されない。なお、発現ベクターとしてAG−γ1あるいはAG−κ等の予めヒトIg定常領域遺伝子を有するものを利用すれば、これにヒト化抗体可変領域遺伝子を挿入するだけでヒト化抗体遺伝子を有する発現ベクターとなるため好ましい。
【0031】
上記の発現ベクターは、例えば、リン酸カルシウム法等により、培養細胞中に導入される。
【0032】
発現ベクターを導入する培養細胞としては、例えば、CHO−DG44細胞等の培養細胞が使用でき、これを常法により培養すればよい。
【0033】
上記培養後、培養上清中に蓄積された抗体は、例えば、プロテインAカラムを用いた各種クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0034】
こうして得られたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の抗原活性は、例えば、後記実施例に記載されるようなオステオポンチンペプチド等を用いたELISAや、BIACore(BIAcore社)等により測定可能である。また、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の白血球遊走阻害活性は、例えば、後記実施例に記載されるように、被験抗体とOPNまたはトロンビン切断型OPNの存在下でヒト末梢血単核球を培養することによって測定することができる。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、サイトカイン(例えば、TNF−α)で活性化したヒト末梢血単核球細胞のトロンビン切断型OPNに対する遊走を阻害する生物活性を有する。
【0035】
次いで、このようにして作製されたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を、各種安定性指標について試験する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、以下の安定性指標(A)〜D))を示す:
A)PBS中で70℃で2時間加熱処理した後のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性が、加熱処理しない場合の90%以上である熱安定性を示す。
B)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、変性中点(Tm)が少なくとも5℃高い。
C)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、少なくとも0.5M高い濃度の塩酸グアニジンにまで耐性を持つ。
D)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、少なくとも0.3低いpHにまで耐性を持つ。
【0036】
ここで、上記指標A)およびB)は、いずれも熱に対する安定性であり、これらが良好な抗体であるほど、長期の保存安定性および剤型においてメリットを有する。すなわち、抗体製剤は、蛋白質であるため保存安定性が問題になることが多く、凍結乾燥製剤(これは、使用時に溶かさねばならないため、医療現場では利便性の面で問題があり、特に、蛋白製剤は溶解に30秒以上掛かることが多く医療現場の負担となることが多い)となる場合があるが、良好な温度安定性を有する抗体であれば、溶液状態でも冷蔵で2年以上長期安定性が保障できる。実際に、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体である後記実施例記載のR2K1v1.7は、室温(25℃)においても1年程度の安定性が確保されている。また、溶液製剤が可能となれば、プレフィルドシリンジなどのより利便性が高い製剤化が可能である。上記の指標を満たす温度安定性の高い抗体は、製剤化のバリエーションが広がり、より医療ニーズの高い製剤化が可能で選択肢が増える。
上記指標C)は、塩耐性に関する指標であるが、このような塩耐性を有する抗体は、製剤化においてより有利な処方検討を行うことが可能となる。特にプレフィルドシリンジにおいては、100〜200μg/mLといった高濃度の蛋白製剤を設計する上において高い塩濃度を使用する場合が多いため有用である。
上記指標D)は、pH耐性に関する指標であるが、このようなpH耐性を有する抗体は、抗体の製造精製過程のウイルス失活工程においてより低いpHでの処理が可能となり、有用である。そのため、通常の抗体と比較して0.3程度でもより低pH耐性を有することは大きなメリットとなる。
【0037】
指標A)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体をPBS中に希釈し(好ましくは、50μg/mL)、70℃で2時間加熱処理する。その後、室温に戻し、該抗体のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性を、例えば、今らのELISA方法(Journal of Cellular Biology,88:420−432(2002))によって測定する。この熱処理した抗体の結合活性を、未処理の同じ抗体について測定した結合活性と比較する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、このような加熱処理した場合、未処理の場合のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性の90%以上の結合活性を有する。好ましくは、本指標試験に使用されるSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドは、CVDTYDGRGDSVVYGLRS配列(配列番号13)を有するオステオポンチンペプチドである。
【0038】
指標B)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、WO03/027151に記載のキメラ2K1抗体(C2K1)を、適切な緩衝液(好ましくは、20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0))で調整し、示差走査型カロリメーター(好ましくはマイクロキャル社のVPキャピラリーDSCプラットフォーム)により、加熱に対する安定性を評価することができる。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の変性温度を示す変性中点(Tm)は、C2K1のそれと比較して少なくとも5℃高い。
【0039】
指標C)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、上記のキメラ2K1抗体(C2K1)を、0〜5Mの各濃度の塩酸グアニジンを含む緩衝液(好ましくは、20mM リン酸ナトリウム+120mM NaCl溶液(pH 7.0))に溶解し、適切な濃度(好ましくは、50μg/mL)に調整する。次いで、各溶液サンプルを10℃で一晩静置した後、各サンプルの蛍光スペクトルを測定する。具体的には、280nmの励起光によりトリプトファンが発する蛍光を波長320nmから370nmの範囲でスキャンする。ピーク波長は、塩酸グアニジンによる抗体タンパク質の立体構造のゆるみに起因してシフトする。ピーク波長がシフトする塩酸グアニジン濃度を、被験抗体およびキメラ抗体の各々について測定する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体についての上記ピーク波長がシフトする塩酸グアニジン濃度は、C2K1のそれと比較して、少なくとも約0.5M高い濃度である。
【0040】
指標D)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、上記のキメラ2K1抗体(C2K1)を、適切な緩衝液(好ましくは、20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0))で調整し(好ましくは、2mg/mL)、これらに、酸性溶液(好ましくは、0.1N HCl)と水を加えながら、所定の濃度(1mg/mL)の各低pHのサンプルを調製する。このサンプルを室温にて1時間処理したのち、円二色性(CD)スペクトルを測定する。波長205nmから260nmの範囲でCDスペクトルを測定し、YangらのCDスペクトル解析法(Methods in Enzymology,130,208−269(1986))に基づいて、各抗体の各pH処理サンプルについて、ランダム構造の含有率を測定する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体についてのランダム構造の含有率が上昇し始めるpHは、C2K1のそれと比較して、少なくとも約0.3低い。
【0041】
本発明者らは、WO03/027151に記載のヒト化抗体を基に、部位特異的変異誘発などによるフレームワーク領域遺伝子の改変と、上述のA)〜D)の安定性指標を用いた安定性試験とを組み合わせて創意検討を重ねた結果、ヒト抗体フレームワーク部分(FR1〜4)を配列番号1に示されるアミノ酸配列(それぞれアミノ酸番号1〜30、36〜49、67〜98および106〜116)並びに配列番号3に示されるアミノ酸配列(それぞれアミノ酸番号1〜23、40〜54、62〜93および103〜113)とすることにより、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を得ることに初めて成功した。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、前述の抗原結合活性、白血球遊走阻害活性および各種安定性指標について試験した結果、該活性を有し、かつ、該指標A)〜D)の全てを特性として示す。
【0042】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、当該分野で公知の方法を用いて、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNAおよび配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードするDNAを合成し、これらを適当なクラスのヒト抗体定常領域遺伝子、好ましくは重鎖についてはヒトIgγ1定常領域遺伝子、軽鎖についてはヒトIgκ定常領域遺伝子と連結してヒト化抗体遺伝子を構築し、当該分野で公知の種々の方法あるいはWO02/081522またはWO03/027151に記載される方法等を用いて、該ヒト化抗体遺伝子を発現ベクターへ導入、該発現ベクターを培養細胞に導入して該培養細胞を培養し、得られる培養物から抗体を精製することによって、容易に取得することができる。配列番号1に示される重鎖可変領域遺伝子とヒトIgγ1重鎖定常領域遺伝子とを連結して得られる、本発明の好ましいヒト化抗体重鎖遺伝子としては、配列番号25に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、より好ましくは配列番号24に示される塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。また、配列番号3に示される軽鎖可変領域遺伝子とヒトIgκ軽鎖定常領域遺伝子とを連結して得られる、本発明の好ましいヒト化抗体軽鎖遺伝子としては、配列番号27に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、より好ましくは配列番号26に示される塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。配列番号24に示される塩基配列を含む重鎖遺伝子と、配列番号26に示される塩基配列を含む軽鎖遺伝子とによってコードされる本発明のヒト化抗オステオポンチン抗体として、後記実施例で示されるR2K1v1.7が挙げられる。
【0043】
あるいは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、本発明のヒト化抗オステオポンチン抗体は、上記した配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNAとヒト抗体重鎖定常領域遺伝子、および配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードするDNAとヒト抗体軽鎖定常領域遺伝子を鋳型として、無細胞転写/翻訳系を用いて合成することもできる。無細胞転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.ら、“Transcription and Translation”, Hames B.D.およびHiggins S.J.編、IRL Press, Oxford 179-209(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE. coli S30 extract system(Promega社製)やRTS 500 Rapid Translation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.ら、Nature, 179, 160-161(1957)あるいはErickson A.H.ら、Meth. Enzymol., 96, 38-50(1996)等に記載の方法を用いることができる。
【0044】
本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含み、活性を保持した、一本鎖可変領域断片(scFv)、Fab、Fab’、F(ab’)2等のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体フラグメント(抗体断片)をも包含する。
scFvの作製に用いられ得る、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを連結するためのリンカーとしては、本発明の抗体断片が上述したような特性を有し得る限り特に限定されないが、例えば、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号14)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。また当業者であれば、本発明に基づいて、当該ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体または抗体断片と他のペプチドやタンパク質との融合抗体を作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体を作製することも可能である。融合に用いられる他のペプチドやタンパク質は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種tagペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量体化を促進しうるペプチドまたはタンパク質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
【0045】
このようにして得られた本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体または当該抗体に起因する活性を保持する抗体断片、当該抗体または抗体断片をペプチドまたは他のタンパク質と融合させた融合抗体、あるいは当該抗体または抗体断片に修飾剤が結合されてなる修飾抗体は、必要によりさらに精製された後、常法に従って製剤化され、リウマチ性関節炎・若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチ・乾癬性関節炎・乾癬等の治療、癌、臓器移植後の慢性拒絶反応抑制、変形性関節症・全身性自己免疫疾患・エリテマトーデス・ぶどう膜炎・ベーチェト病・多発性筋炎・糸状体増殖性腎炎・サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療に用いることができる。
【0046】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、好ましくは、リウマチ治療剤、自己免疫疾患治療剤、変形性関節症治療剤あるいはリウマチ性関節炎治療剤として、より好ましくは、リウマチ性関節炎治療剤として用いることができる。これらリウマチ治療剤等の剤型の例としては、注射剤、点滴用剤等の非経口剤とすることができ、静脈内投与、皮下投与等により投与することが好ましい(自己免疫疾患治療剤とする場合もこれに準じればよい)。また、製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた担体や添加剤を使用することができる。
【0047】
上記製剤化に当たってのヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の添加量は、患者の症状の程度、年齢や使用する製剤の剤型あるいは組換えOPN阻害抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.1mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。
【0048】
このようにして得られた本発明の治療剤は、有効成分であるヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体がOPNのRGD配列とSVVYGLR配列(配列番号10)に強く結合し、OPNのこの部分とインテグリンとの結合を阻害することによって、結果的にリウマチ及びリウマチ性関節炎やそれ以外の自己免疫疾患の症状の増悪を押さえることができる。
【0049】
そして、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、インテグリン側でなくOPN側に特異的に結合するものであるため、インテグリンの他の重要な機能を阻害するおそれは少なく、副作用の問題は回避されるものと期待される。
【0050】
更にまた、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、リウマチ性関節炎の診断剤として利用することができる。先述のように、リウマチ性関節炎患者の関節では、特にトロンビンにより切断されたOPNのN末端フラグメントが高濃度で見出されることが判明している。そこで、このヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を用いて検体中のOPNまたはそのN末端フラグメントの量を測定すれば、リウマチ性関節炎の診断に役立てることができる。その手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(E. Engvall et al., (1980): Methods in Enzymol., 70, 419-439)、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の、一般の免疫化学的測定法において使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプランニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)を利用することができる。
【0051】
上記手法は種々の観点から適宜選択することができるが、感度、簡便性等の点からはELISA法が好ましい。より好ましい方法の例としては、例えば本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を担体上に固相化し、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体とは異なるOPN上の部位を認識する抗体を標識化することにより、OPNまたはそのN末端フラグメントを検出することができ、これをリウマチ性関節炎の診断薬とすることができる。
【0052】
上記抗体を標識するにあたり使用される標識物質としては、融合タンパク質/ペプチドを形成するためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ等のタンパク質/ペプチド、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」という)、アルカリフォスファターゼ(以下「AP」という)等の酵素、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質などの修飾剤が挙げられる。
【0053】
OPNアイソフォームの検出方法について、例えば、サンドイッチ法等の当該分野で公知の方法を使用するか、より具体的には、WO02/081522(特許文献2)またはWO03/027151(特許文献3)に記載の検出方法と同様の方法を使用することによって実施することができる。
【0054】
本発明はまた、本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子、及びそれを含む発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子を発現し、これらポリペプチドを産生できるものであれば特に制限されない。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)等を挙げることができる。
【0055】
本発明の発現ベクターは、本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子、及び当該遺伝子に機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーターとしては、宿主がエシェリキア属菌の場合、例えば、Trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。酵母中で本発明の抗体又はそのフラグメントを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターが挙げられ、宿主がバチルス属菌の場合は、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。
【0056】
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域および複製可能単位をさらに含み得る。一方、宿主として酵母、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドンを含み得る。また、この場合、エンハンサー配列、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、または複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン)を含んでいてもよい。
【0057】
本発明はまた、本発明の遺伝子が導入された形質転換体を提供する。このような形質転換体は、例えば、本発明の発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより作製できる。形質転換体の作製に用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞または昆虫細胞(例えば、Sf9)など)が例示される。形質転換は、自体公知の方法により行われ得る。
【0058】
本発明はまた、本発明の遺伝子を宿主細胞に発現させること、即ち、このような形質転換体を用いることを含む、本発明の抗体又はそのフラグメントの生産方法を提供する。
【0059】
本発明の抗体又はそのフラグメントの生産において、形質転換体は、栄養培地中で培養され得る。栄養培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン
等)など)を含んでいてもよい。
【0060】
形質転換体の培養は自体公知の方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、適宜選択される。例えば、宿主が動物細胞の場合、培地としては、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science,Vol.122,p.501,1952)、DMEM培地(Virology,Vol.8,p.396,1959)、RPMI1640培地(J.Am.Med.Assoc.,Vol.199,p.519,1967)、199培地(proc.Soc.Exp.Biol.Med.,Vol.73,p.1,1950)等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が昆虫細胞の場合、例えば胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.82,p.8404,1985)等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。宿主がE.coliの場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp.Mol.Genet,Cold Spring Harbor Laboratory,p.431,1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14〜43℃、約3〜24時間行うことができる。宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30〜40℃、約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母である場合、培地として、例えばBurkholder最小培地(Bostian,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.77,p.4505,1980)が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
【0061】
本発明の抗体又はそのフラグメントは、上述のような形質転換体を培養し、該形質転換体から回収、好ましくは単離、精製することができる。単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0062】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を示す。キット等を使用した部分については、特にことわりのない限り添付のプロトコールに従った。
【0064】
(1.ヒト化2K1抗体の作製)
本発明においては、国際公開公報WO2003/027151に記載のマウス由来抗ヒトオステオポンチン抗体である2K1抗体をヒト化した、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体(以下、ヒト化2K1抗体またはR2K1抗体と記載することがある)を2種類作製した。
各ヒト化2K1抗体の作製は、概ね上記公報に記載の方法に従って作製したので、以下には概略を記す。
まず、合成オリゴDNAを用いたPCRにより、図1及び図2に示した塩基配列を持つ2種類のヒト化抗OPN抗体の重鎖可変領域(VH)をコードするDNAと、図3及び図4に示した塩基配列を持つ2種類のヒト化抗OPN抗体の軽鎖可変領域(VL)をコードするDNAを作製した。以下の記述において、それらを区別するために、図1、図2に記載のヒト化抗ヒトOPN抗体VHを、それぞれ、R2K1−VH1.7、R2K1−VH1.8と呼称する。同様に、図3、図4に記載のヒト化抗ヒトOPN抗体VLを、それぞれ、R2K1−VL1.7、R2K1−VL1.8と呼称する。
次に、上記のヒト化抗ヒトOPN抗体VHをコードするDNAのそれぞれを、制限酵素HindIII認識部位及びBamHI認識部位を利用して、ヒト免疫グロブリン定常領域γ1鎖の遺伝子を含む発現ベクターであるAG−γ1に挿入することにより、R2K1−VH1.7を持つ重鎖の発現プラスミドと、R2K1−VH1.8を持つ重鎖の発現プラスミドを作製した。同様にして、上記のヒト化抗ヒトOPN抗体VLをコードするDNAのそれぞれを、ヒト免疫グロブリン定常領域κ鎖の遺伝子を含む発現ベクターであるAG−κに挿入することにより、R2K1−VL1.8を持つ軽鎖の発現プラスミドと、R2K1−VL1.7を持つ軽鎖の発現プラスミドを作製した。これらの発現プラスミドは大腸菌に導入して増殖させ、市販のプラスミド精製キット(QIAGEN社)により精製した。
最後に、上記の精製発現プラスミドを組み合わせてリン酸カルシウム法によりCHO−DG44細胞にトランスフェクションし、Geneticin(Invitrogen社)と透析済みFCS(Invitrogen社)を含むMEM培地(Invitrogen社)中でセレクションすることにより、2種類のヒト化2K1抗体の発現細胞を得た。すなわち、R2K1−VH1.8を持つ重鎖とR2K1−VL1.8を持つ軽鎖から成るヒト化2K1抗体であるR2K1v1.8抗体、R2K1−VH1.7を持つ重鎖とR2K1−VL1.7を持つ軽鎖から成るヒト化2K1抗体であるR2K1v1.7抗体を発現させた。
上記の手順で得た各R2K1抗体の産生細胞を、10%透析済みFCSを添加したMEM培地中で十分に増殖させ、ローラーボトル(BD Biosciences社)に播種し、37℃、1rpmの回転速度の条件で培養した。数日後、細胞が器壁に付着して増殖しているのを確認し、培養液を破棄して、血清を含まないMEM培地500mLに交換して上記条件で培養を行った。約2週間後、器壁から剥離して浮遊している細胞が多くなってきた時点で培養を終了し、培養上清を0.22μmのフィルターで濾過して回収することにより、各R2K1抗体を含む培養上清を得た。
これらの培養上清を材料として、プロテインAカラム(MILLIPORE社)及び陽イオン交換カラム(Amersham社)を用いることにより、2種類の精製ヒト化抗体、すなわちR2K1v1.8抗体及びR2K1v1.7抗体を各数mgずつ得た。
以下に記す各種の実験には上記のようにして得た精製抗体を使用した。また、キメラ2K1抗体(以下C2K1抗体と記載することがある)は前述の国際公開公報WO2003/027151に記載の方法で得たものを使用した。
【0065】
(2.ELISAによるヒトオステオポンチンペプチドとの結合性確認)
各R2K1抗体とC2K1抗体の、ヒトオステオポンチンペプチド(CVDTYDGRGDSVVYGLRS:配列番号13)に対する結合活性を、今らのELISA法(Journal of Cellular Biology,88:420−432(2002))を参考にして比較した。以下に概略を述べる。
上記の配列を持つペプチド(以下hOPN5ペプチドと記載することがある)を、Sulfo−EMCS(同仁化学社)でマレイミド基を導入したBSAと反応させて、hOPN5−BSAコンジュゲートを作製した。hOPN5−BSAコンジュゲートを200ng/100μL/wellで、ELISAプレート(Nunc社)に4℃で一夜固定化し、洗浄後、1%BSA添加PBSで4℃一夜ブロッキングした。1%BSA添加PBSで希釈した抗体サンプルを、上記プレートに100μL/well添加して37℃で1時間反応させた。検出は、ペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG(H+L)抗体(和光純薬株式会社)を用いて行った。波長450nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices社)を用いて測定した。
その結果、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性は、C2K1抗体と同等であることが確認された(図5)。
【0066】
(3.R2K1抗体のヒト末梢血単核球遊走に対する阻害活性)
精製抗体のサイトカイン活性化末梢血単核球遊走に対する阻害活性を次のようにして調べた。
まず、健常人よりヘパリン採血した血液をRPMI1640培地にて2倍希釈した。希釈した血液をフィコール−パック(Ficoll−Paque;ファルマシア社)に重層し、400×gで室温にて30分間遠心した。血漿とフィコール−パックの境界に見える白い層を回収し、単核球として用いた。このようにして得られた単核球をヒトTNF−α(20ng/mL)で一晩培養し、活性化したものを遊走実験に用いた。
遊走実験は48−ウェル マイクロ ケモタキシス チャンバー(micro chemotaxis chamber;ニューロ プローブ インク社)を用いて行った。ヒトOPNをウシトロンビン(Sigma)と共に37℃、2時間反応させて切断した。R2K1抗体とC2K1抗体を種々の濃度で添加したものを予め37℃で15分間放置してから、下側チャンバーに加えた(ヒトOPN最終濃度は10μg/mL)。その上からポリカーボネートフィルター(ポアサイズ 5μm)を載せて、さらに上側チャンバーに50μLの細胞懸濁液(2×106cells/mL)を加えた。
37℃、5%CO2存在下で2時間培養してから、ポリカーボネートフィルターを取り外して、上側フィルター表面の細胞を除去してから細胞をDiff−Quick(Baxter社)にて染色した。上側フィルター表面の細胞数を40倍の倍率下で計測し、結果は6ウェルの平均細胞数(cells/mm3)±SEMとして示した(表1)。これらの結果より、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体の両方が、C2K1抗体と同様にTNF−αで活性化したヒト末梢血単核球のトロンビン切断型ヒトオステオポンチンに対する遊走を阻害したことが示された。
【0067】
【表1】
【0068】
(4.ELISAによる熱安定性の評価)
C2K1抗体及び2種類のR2K1抗体をPBSで50μg/mLに希釈し、70℃の水浴で2時間処理した。その後室温に戻し、前述のELISAを行って得られた吸光度の、未処理サンプルの吸光度に対する割合を残存活性としてグラフに示した。残存活性は、直線性を有する0.2から2.0までの範囲にある吸光度の値を用いて算出した(以下同様)。その結果、上記処理後の残存活性は、C2K1抗体よりもR2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体の方が高いことが判った(図6)。特に、R2K1v1.7抗体は90%を超える残存活性を示した。このことから、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体については、C2K1抗体と比べて熱安定性が向上していることが判った。
【0069】
(5.ELISAによる低pH耐性の評価)
C2K1抗体及び2種類のR2K1抗体の精製品をPBSで50μg/mLに希釈した。1N HClとpHメーター(HORIBA社)を用いてpH5に調整し、25℃で2時間処理した。その後1M Tris−HCl(pH9.5)でpH7に調整し、前述のELISAを行って得られた吸光度の、未処理サンプルの吸光度に対する割合を残存活性としてグラフに示した。その結果、上記処理後の残存活性は、C2K1抗体及びR2K1v1.8抗体よりもR2K1v1.7抗体の方が有意に高いことが判った(図7)。このことから、R2K1v1.7抗体については、R2K1v1.8抗体及びC2K1抗体と比べて低pHに対する耐性が向上していることが判った。
【0070】
(6.蛍光スペクトル測定による塩酸グアニジン耐性の評価)
C2K1抗体及び2種のR2K1抗体を、各濃度の塩酸グアニジンを含む20mM リン酸ナトリウムバッファー+120mM NaCl(pH7)で50μg/mLになるように調整し(コントロールは塩酸グアニジン未添加)、10℃で一夜静置した後、各サンプルの蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルの測定はFP−6500 Spectrofluorometer(JASCO社)を用いて行った。光路長3mmのセルを用いて、280nmの励起光によりトリプトファンが発する蛍光を波長320nmから370nmの範囲でスキャンした。塩酸グアニジン濃度とピーク波長の関係を抗体間で比較した。その結果、C2K1については塩酸グアニジン濃度が1Mを超えた時点から、R2K1v1.8については2Mを超えた時点から、蛋白の立体構造のゆるみに起因するピーク波長のシフトが観られたのに対して、R2K1v1.7については3.8Mまではピーク波長はシフトしなかった(図8)。このことから、R2K1v1.7抗体については、R2K1v1.8抗体及びC2K1抗体と比べて塩酸グアニジンに対する耐性が向上していることが確認された。
【0071】
(7.CDによる低pH耐性の評価)
C2K1抗体及びR2K1v1.7抗体を20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH6)で2mg/mLに調整した。これらに、0.1N HClと蒸留水を加えながら抗体濃度が1mg/mLの各pHのサンプルを調製し、室温で1時間処理後、CDスペクトルを測定した。
CD(円二色性)の測定はJ−820 Spectropolarimeter(JASCO社)を用いて行った。光路長が0.1mmのセルを用いて、波長205nmから260nmの範囲でCDスペクトルを測定した。スペクトルの解析は、YangらのCDスペクトルの解析法(Methods in Enzymology,130,208−269(1986))に基づいたJWSSE−480型タンパク質二次構造解析プログラム(JASCO社)を用いた。本法で算出されたランダム構造の含有率と処理pHの関係を抗体間で比較した。その結果、C2K1抗体についてはpH3からランダム構造の含有率が上昇しているのに対して、R2K1v1.7についてはpH2.7まではランダム構造の上昇は観られなかった(図9)。このことにより、R2K1v1.7抗体は、C2K1抗体と比べて0.3低いpHにまで耐性を持っていることが確認された。
【0072】
(8.示差走査型カロリーメーターによる熱安定性の評価)
C2K1抗体及びR2K1v1.7抗体を20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0)バッファーに1mg/mLの濃度で溶解し、マイクロキャル社の超高感度示差走査型カロリメーター(VPキャピラリーDSCプラットフォーム)により熱安定性を調べた。その結果を図10に示した。高次構造の変性温度を示す変性中点(Tm)は、C2K1抗体では76.0℃であるのに対して、R2K1v1.7抗体では82.8℃と約6℃の上昇が確認された。このことからR2K1v1.7抗体の方が熱安定性が顕著に向上していることが確認された。
【0073】
(9.R2K1v1.7によるOPNに対する細胞接着阻害効果)
本願発明のR2K1v1.7と公知のヒト化抗OPN抗体(WO03/027151参照、以下、R2K1v0と呼ぶ)との薬理効果を比較するために、これら2つの抗体によるヒトOPNに対する細胞接着阻害効果を調べた。
1.細胞の培養、継代
Jurkat E6.1細胞は大日本製薬(株)より購入し、RPMI1640(10%FCS、ペニシリン−ストレプトマイシン)を用いて継代、培養を行った。
2.試薬調製
接着バッファー(L−15 medium、1% BSA、50mM HEPES、pH7.4)
PMA溶液(接着バッファー中40ng/mL フォルボール12−ミリステート 13−アセテート(PMA)[SIGMA])
CV染色液(0.5%クリスタルバイオレット、1%ホルムアミド、20%メタノール)
GST溶液(PBS(−)中5μg/mL グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)[SIGMA])
ヒトIgG1溶液(PBS(−)中400μg/mL)[CALBIOCHEM]
3.トロンビン切断型ヒトN末端オステオポンチン(OPN)の調製
GST融合トロンビン切断型ヒトN末端OPN(GST−ヒトN−OPN、1.6mg/mL)をWO02/081522に記載されるように作製し、PBS(−)にて5μg/mLに希釈して実験に使用した。
4.被験薬物の調製
R2K1v1.7(18.6mg/mL)及びR2K1v0(4.39mg/mL)はPBS(−)にて4、12、40、120、400(μg/mL)に希釈し、いずれの溶液ともTotalのタンパク濃度が400μg/mLとなるようヒトIgG1を添加した。
5.群構成
ブランク群(GST)
コントロール群
被験薬物群 R2K1v1.7 (1、3、10、30、100μg/mL)
R2K1v0 (1、3、10、30、100μg/mL)
6.細胞接着実験
96ウェルマイクロプレートの、ブランクを除くすべてのウェルにGST−ヒトN−OPN溶液25μLを、ブランク群はGST溶液25μLを添加し、37℃、1時間インキュベーション後、PBS(−)で2回洗浄した。PMA溶液50μLを添加し、37℃で30分インキュベーションした後、被験薬物溶液(被験薬物群)またはヒトIgG1溶液(ブランク群およびコントロール群)25μLを添加した。Jurkat E6.1細胞は、2x106cells/mLとなるよう接着バッファーに懸濁し、すべてのウェルに25μLを添加した。15×gで1分遠心して細胞をプレートの底に沈殿させた後、37℃で1時間インキュベーションした。反応終了後、プレートを逆さにして47×gで2分遠心して上清(非接着細胞)を除去した。接着細胞数の定量は、CV染色液25μLを添加し10分室温で放置して細胞を染色、固定した後、純水で3回洗浄し、すべてのウェルに1% Triton−X100溶液25μLを添加して細胞が可溶化したのを確認後、マイクロプレートリーダー(SPECTRAmax250,Molecular Devices)にて吸光度(測定波長595nm)を測定した。
7.解析
実験は1群5ウェルを使用した。各群の吸光度の平均値および抑制率を算出し、IC50値(抑制率が50%となる被験薬物濃度)を算出した。抑制率は、ブランク群を100%、コントロール群を0%とした。IC50値は、X軸に対数で被験薬物濃度を、Y軸に抑制率をプロットし、最小二乗法により直線回帰の式に当てはめて算出した。IC50値算出には、用量反応に直線性を示す被験薬物濃度におけるデータを使用した。図11に示す結果より、公知のヒト化抗ヒトOPN抗体の細胞接着阻害効果が極めて低いのに対して、R2K1v1.7は、優れた細胞接着阻害効果(IC50値:6.4)を有するものであることが理解される。
【0074】
(10.カニクイザル(cynomologus monkey)におけるコラーゲン誘導関節炎に対するR2K1v1.7の効果)
Freund完全アジュバント(Becton Dickinson and Company)でエマルジョン化したウシタイプIIコラーゲン(コラーゲン技術研修会)を、投薬36日前に雌性カニクイザルの背部及び尾部に免疫し、投薬15日前にブーストした。動物を、免疫前と比較した体重及び指骨近位関節楕円面積の変化率に基づき、無作為化して、3つの投薬処置群(n=10)に分けた。25mg/kgまたは50mg/kg用量のR2K1v1.7あるいは溶媒コントロール群を、1週間に1回、計8回、静脈内注入により投与した。最初の投薬日を0日と規定した。投与期間中の0、6、13、20、27、34、41、48及び55日目に、関節腫張の兆候として、指骨近位関節楕円面積をモニターした。前後肢指骨近位関節をノギスを用いて短軸及び長軸を測定し楕円面積を算出し、16指の楕円面積の平均値を指骨近位関節楕円面積とした。指骨近位関節楕円面積の変化率を、投薬前の値を100として算出した。0日目、並びに6、13、20、27、34、41、48及び55日目(投薬6日後)に、血漿を採取し、R2K1v1.7及び抗R2K1v1.7抗体を測定した。この測定したR2K1v1.7の血漿中濃度が、トラフレベルに対応する。データ分析は、抗R2K1v1.7抗体陽性動物及び試験期間中に死亡した動物のデータを削除して行った。
25mg/kg用量R2K1v1.7群の1動物、及び、50mg/kg用量R2K1v1.7群の4動物において、抗R2K1v1.7抗体が生じた。溶媒コントロール群の2動物、25mg/kg用量R2K1v1.7群の2動物、及び、50mg/kg用量R2K1v1.7群の1動物が、投薬後に死亡した。死亡例については高度な炎症に起因した衰弱死であると推測された。50mg/kgのR2K1v1.7での処置は、コントロール溶媒群と比較して、27日目〜55日目の間で、指骨近位関節楕円面積の変化率で測定した足腫張を有意に減少した(図12)。25mg/kg用量のR2K1v1.7は、指骨近位関節楕円面積の変化に対して有意な効果を示さなかった。25mg/kg用量及び50mg/kg用量での血漿中R2K1v1.7トラフ濃度は、それぞれ、38.41〜76.13μg/mL及び73.91〜125.3μg/mLであった。ヒトOPNのSVVYGLR配列は、サルOPNの相当配列(SVAYGLR)(配列番号11)と異なり、このヒトOPNペプチドに対するR2K1v1.7の結合親和性は、対応するサルOPNペプチドに対する結合親和性よりも100倍以上高い。これらの点を考慮すると、関節炎治療におけるR2K1v1.7の有効血漿中濃度は、100μg/mL以下であると推定される。
【0075】
(11.R2K1v1.7のscFvの作製)
前述のR2K1−VH1.7を持つ重鎖の発現プラスミドとR2K1−VL1.7を持つ軽鎖の発現プラスミドを鋳型としたPCRにより、VH1.7−リンカー−VL1.7(リンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号14)で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列である)の構造をした一本鎖可変領域断片(scFv)をコードするDNA断片を作製した。このDNA断片の末端には、制限酵素SfiIとNotIの認識配列が付加されている。このDNA断片を制限酵素SfiIとNotIで消化し、同じくSfiIとNotIで消化したpCANTAB5Eベクター(Marks,J.D.,et.al,J.Mol.Biol.,vol.222,p581−97,1991)のSfiI部位とNotI部位に挿入することにより、R2K1−VH1.7のscFvの発現プラスミドを作製した。なお、本発現プラスミドにおいてはscFvのコード領域の下流にE−Tagをコードする塩基配列が付加されている。このプラスミドを常法にしたがって大腸菌HB2151株に導入し、SOBAG寒天プレート(2%グルコース、100μg/mLのアンピシリン含有SOBプレート)に播いて形質転換クローンを得た。得られたクローンについてプラスミドDNAを抽出し、それを鋳型としたDNA塩基配列解析によりscFvのコード領域の配列を確認した。DNA塩基配列解析にはDTCS−Quick Start Kit及びCEQ2000XL DNA Analysis System(ともにベックマンコールター社)を使用した。得られた塩基配列を配列番号9に示した。
塩基配列を確認した大腸菌クローンを2%グルコース及び100μg/mLのアンピシリンを含む2xYT培地で培養後、その一部を1mMのIPTG及び100μg/mLのアンピシリンを加えた2xYT培地に懸濁し、さらに一夜培養してscFvの発現誘導を行った。培養終了後、菌体を遠心分離により回収し、1mMのEDTAを含むPBSに懸濁して氷中に30分放置した。次いで10,000rpmで15分間遠心し、上清を回収して0.45μmのフィルターで濾過することにより、scFvを含むペリプラズム画分を得た。このペリプラズム画分から、抗E−Tag抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによりR2k1v1.7のscFv(以下R2K1v1.7−scFvと記載する)を精製した。
このようにして調製したR2K1v1.7−scFvについて、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った結果、図13に示した分離パターンから、ほぼ全てがモノマーであることが確認された。
【0076】
(12.R2K1v1.7−scFvのヒトオステオポンチンペプチドとの結合性確認)
精製したR2K1v1.7−scFvのhOPN5ペプチドに対する結合活性をELISA法で測定した。方法は概ね前述のとおりであるが、本測定においては標識抗体として、HRP標識抗E−Tag抗体を使用した。その結果を図14に示した。陰性対照のBSAに対しては結合せず、hOPN5ペプチドに対して特異的に結合することが確認された。
【0077】
(13.ポリエチレングリコール修飾抗体フラグメントの作製)
R2K1v1.7抗体を定法によりペプシン処理した後、ProteinG HPカラム(ともにアマシャムバイオサイエンス社)及びHi prep 16/60 sephacryl S−200 High Resolutionカラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いることにより精製F(ab’)2を得た。続いて、精製F(ab’)2を0.1MのDTTで還元処理してチオール基を活性化した後、Sephadex G−25カラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いたゲル濾過を行うことによりDTTを除去した。こうして得られたFab’をマレイミド化ポリエチレングリコールSUNBRIGHT ME−120MA(日本油脂)とモル比1:10で混合して4℃で一晩静置することによりカップリング反応させた。ヨードアセトアミド(ナカライ)を添加して、カップリング反応を停止後、Hi prep 16/60 Sephacryl S−200 High Resolutionカラムを用いたゲル濾過により、ポリエチレングリコール修飾F(ab’)2(以下F(ab’)2−PEGと記載することがある)を得た。そのSDS−PAGEの結果を図15に示した。比較対照として泳動した未修飾のF(ab’)2との比較により、ポリエチレングリコール修飾による分子量の増加が確認できた。
【0078】
(14.F(ab’)2−PEGのオステオポンチンペプチドとの結合活性確認)
精製R2K1v1.7のF(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対する結合活性を表面プラズモン共鳴測定法を用いて確認した。ビオチン化hOPN5ペプチドをSensor Chip SA(BIAcore社)に固定化し、HBS−EPバッファー(BIAcore社)で5μg/mLに希釈したF(ab’)2−PEGを用いて結合活性を確認した結果を図16に示した。シグナルの上昇から本F(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対するR2K1v1.7と同様の結合活性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れているので、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎、変形性関節症を始めとする、種々の炎症性疾患の予防または治療において、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体よりもさらに有効な薬剤として有用である。
【0080】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
本出願は、日本国で出願された特願2006−152892を基礎としており、そこに開示される内容は本明細書にすべて包含されるものである。また、ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】ベクターに組み込んだR2K1−VH1.7コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号15)とアミノ酸配列(下段:配列番号16)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図2】ベクターに組み込んだR2K1−VH1.8コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号17)とアミノ酸配列(下段:配列番号18)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図3】ベクターに組み込んだR2K1−VL1.7コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号19)とアミノ酸配列(下段:配列番号20)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図4】ベクターに組み込んだR2K1−VL1.8コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号21)とアミノ酸配列(下段:配列番号22)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図5】キメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。
【図6】70℃で加熱処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。加熱処理しない場合の結合性を100%とした場合の比率を示している。
【図7】pH5のバッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。pH5のバッファーで処理しない場合の結合性を100%とした場合の比率を示している。
【図8】各濃度の塩酸グアニジン含有バッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体の蛍光スペクトルにおけるピーク波長をプロットした結果を示す図である。
【図9】各pHのバッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体におけるランダム構造の含量をCDで測定した結果を示す図である。
【図10】キメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体の熱安定性を超高感度示差走査型カロリメーターで調べた結果を示す図である。破線矢印と実線矢印はそれぞれ、キメラ2K1抗体とR2K1v1.7抗体のTmを示す。
【図11】R2K1v1.7とR2K1v0によるヒトOPNに対する細胞接着阻害効果を示す図である。
【図12】サルコラーゲン誘導関節炎における関節腫張に対するR2K1v1.7の効果を示す図である。データは、コントロール群、25mg/kg群及び50mg/kg群当たり、それぞれ、8動物、7動物及び5動物の平均±SEを示す。*p<0.05、**p<0.01:Dunnet型多重比較検定によってコントロール群とは有意に異なる。
【図13】精製R2K1v1.7−scFvのHPLCによる分析結果を示す図である。
【図14】精製R2K1v1.7−scFvのhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。
【図15】完全分子型R2K1v1.7抗体、R2K1v1.7抗体のF(ab’)2及び精製F(ab’)2−PEGのSDS−PAGE結果を示す図である。
【図16】R2K1v1.7のF(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対する結合性をBIAcoreで調べた結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性および安定性に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、および該抗体を用いた疾患の治療および診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オステオポンチン(以下、「OPN」という)は、骨に多く含まれる酸性のカルシウム結合性の糖蛋白質であり、ヒトの場合、mRNAのスプライシングの違いから、オステオポンチン−a(以下、「OPN−a」という)、オステオポンチン−b(以下、「OPN−b」という)およびオステオポンチン−c(以下、「OPN−c」という)の少なくとも3つのアイソフォームが生じ得ることが知られている(非特許文献1)。このうち、OPN−aの前駆体は、後記配列表の配列番号23で示されるアミノ酸配列を持ち、分泌により、シグナルペプチドが切断され、I17−N314の成熟体OPN−aがつくられると考えられている。また、成熟体OPNは、生体内のトロンビンにより168番目(OPN−aの場合)のアルギニン残基のC末端側で切断されて、N末端フラグメントおよびC末端フラグメントの2つになる。
【0003】
上記のOPNは、多種の生理学的病理学的に重要な機能を担っており、例えば、細胞接着、細胞遊走、腫瘍形成、免疫応答および補体が媒介する細胞溶解の阻害等の機能を持っている。この多様な機能は、多種の細胞表面受容体により媒介されている。OPNは、内部にRGD配列をもち(例えば、OPN−aでは、159〜161残基目)、このRGD配列を認識するαVβ3、αVβ1およびαVβ5等のインテグリンは、OPNの主な受容体であり、このうち、αVβ3、αVβ1およびαVβ5インテグリンは、血管の平滑筋細胞において細胞接着を媒介し、更にαVβ3は、マクロファージ、リンパ球、内皮細胞および平滑筋細胞等の遊走に関係している。
【0004】
さらに、これまでの研究から、OPNは、SVVYGLR配列(配列番号10)を介してα9β1、α4β1およびα4β7インテグリンと結合することも明らかにされているが、これらのうちα4β1は、トロンビンで切断されていないOPN(非切断型OPN)とトロンビンで切断されたN末端フラグメント(切断型OPN)の両方に結合し、α9β1はトロンビン切断型OPNにのみ結合するという様式の差も見出されている(非特許文献2〜4)。これらのα9及びα4、β1及びβ7のインテグリンサブユニットは、相互にアミノ酸配列間の類似性が高い。そして、α4β1及びα4β7インテグリンは、主として、リンパ球と単球で見出されるが、好中球ではごくわずかに発現しているにすぎない。一方、α9β1は、好中球に選択的に高発現しておりVCAM-1やTenascin-Cなどを介して、好中球遊走に必須の機能を担っている。また、筋肉細胞や上皮細胞、肝細胞などで広く発現している。このように、インテグリンサブユニットα4とα9の細胞質ドメインは、それぞれ微妙に異なった細胞内シグナル伝達経路を通して、互いに協同して炎症部位への白血球の遊走と凝集を促し、それらの浸潤活性を増強することによって、様々な炎症反応に関与していると考えられる。
【0005】
このように、様々な種類のインテグリンが、白血球の遊走を促進し、炎症反応に関与していることから、これらのインテグリン活性を阻害する薬剤は、潜在的には抗炎症剤としての可能性を有していると思われる。たとえば、インテグリンαVβ3は、破骨細胞、血管内皮細胞および平滑筋細胞等で発現されており、αVβ3インテグリンとその様々な結合リガンドとの結合を阻害することにより、例えば関節では、関節破壊抑制作用が期待できることから、抗αVβ3抗体の開発が実際に行われている。
【0006】
しかしながら、インテグリンファミリーに属する受容体は、広範な組織で普遍的に発現して生命活動維持に必須の機能を担っていることから、リウマチ性関節炎や変形性関節炎の治療にインテグリンに対する抗体を用いると、他の部位でも同様の阻害がおこる可能性があり、副作用の発生も懸念される。
【0007】
このような観点から、現在までに、リウマチ性関節炎、変形性関節症などの病因を明確にし、より優れた治療方法を提供する試みがなされてきた。
【0008】
例えば、WO02/081522(特許文献1)では、リウマチ患者および変形性関節症患者で、関節腔液のOPN濃度が高値を示し、さらにリウマチ患者において、全OPNに占めるトロンビン開裂型のN末端フラグメントの割合が増大することが見出され、OPNが、これらの疾患の発症に深く関わっていることが確認された。特許文献1では、OPNをトロンビンで切断したN末端フラグメント及びC末端フラグメントについて、それぞれのフラグメントを区別して認識する抗体を作成し、それらを用いた試験により、リウマチ性関節炎患者では、特にトロンビンにより切断されたN末端フラグメントが関節腔内で高濃度を示すことが見出されている。このN末端フラグメントには、ヒト型インテグリンが認識するRGD配列とSVVYGLR配列(配列番号10)が共に存在しており、これら両者の配列を同時にブロックする抗体が、OPNとインテグリンの結合を幅広く阻害し、リウマチ性関節炎や変形性関節炎等の治療に効果があることが確認されている。
【0009】
具体的には、特許文献1では、ヒトOPNのRGD配列とインテグリンの結合およびヒトOPNのSVVYGLR配列(配列番号10)とインテグリンとの結合を阻害する抗体を作成し、細胞接着および細胞遊走等の実験によりその効果が確認されている。さらに、マウスOPNの当該内部配列に対応する合成ペプチドに対する抗体を取得し、マウスの関節炎病態モデルを用いて、そのような抗体の治療薬としての効果が確認されている。
【0010】
すなわち、マウスOPNは、ヒトOPNとアミノ酸配列上で相同な位置にマウスのインテグリンによって認識されるRGD配列及びSLAYGLR配列(配列番号12)を有しているので、これらの配列を同時にブロックする抗体として、M5抗体を取得した。このM5抗体とマウスOPNおよびそのトロンビン消化物との結合は、RGD配列を含むGRGDSPペプチドで阻害され、またこのM5抗体は、TNF-αで活性化したマウス脾臓由来の単球の遊走を阻害することが確認された。このM5抗体を、マウスのカルバリア(calvaria)器官培養系で調べてみたところ、骨破壊の抑制作用が観察された。さらに、マウスのコラーゲン関節炎モデルに、上記抗体を投与してみたところ、明らかに治療効果を示すことが確認された(特許文献1及び非特許文献5)。
【0011】
これらの結果は、RGD配列、SVVYGLR配列(配列番号10)とヒト型インテグリンの結合を同時にブロックする抗体が、OPNとインテグリンの結合を阻害し、リウマチ性関節炎等の治療に有効であることを強く示唆しており、さらに、若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチのみならず、乾癬性関節炎や乾癬の治療への効果が期待されることを示している。また、臓器移植後の慢性拒絶は、血管や気管支の閉塞性病変を特徴としているが、その組織学的検討から、T細胞やマクロファージの活性化がサイトカイン、増殖因子の産生、血管内皮細胞障害を引き起こし、さらに血管平滑筋の増殖が線維化などを引き起こすために血管閉塞へ進展して行くと考えられている(非特許文献6〜8)。
そして、これらのマクロファージの活性化や血管平滑筋の線維化にはOPNが必須の蛋白として機能することが報告されており(非特許文献9)、OPN阻害抗体は、単球や好中球の遊走を抑制することにより、このような線維化に向けての過程を抑制する可能性がある。従って、臓器移植後の慢性拒絶反応を抑制し、臓器生着に寄与し、また、全身性自己免疫疾患、エリテマトーデス、ぶとう膜炎、ベーチェト病、多発性筋炎、糸状体増殖性腎炎、サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療への効果が期待される。また、種々の癌においてもOPNの発現量が増加し、OPNが癌の進行及び転移を促進し(非特許文献10〜12)、抗OPN抗体によって癌細胞の増殖や転移が抑制されることも確認されている(特許文献3、非特許文献13)。従って、抗OPN抗体は、種々の癌の治療への効果も期待される。
【0012】
また、WO03/027151(特許文献2)では、特許文献1記載のマウス抗ヒトオステオポンチン抗体2K1の可変領域とヒト抗体の定常領域とを有するキメラ抗ヒトオステオポンチン抗体、並びに、2K1抗体の相補性決定領域とヒト抗体のフレームワーク領域及び定常領域を有するヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が開示されている。
【0013】
ところで、今日では、癌治療用抗体(例えば、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ)、リウマチ治療用抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ)、移植片拒絶を抑制するための治療用抗体(例えば、ムロモナブ、バシリキシマブ)などの、多くの治療用モノクローナル抗体が上市されている。
【0014】
今後もモノクローナル抗体製剤はその特異性と安全性の高さという基本的特質から、特に低分子の治療薬開発が困難な多種多様な疾患を標的として研究開発が加速すると考えられる。
【0015】
一方、このような抗体医薬の開発において最大の問題点となるのが、抗体の生産性である。これまでに市販されているモノクローナル抗体の臨床での投与量は概ね数mg/kgのレベルであり、相当な製造コストがかかる。
【0016】
そのため、優れた活性を示す抗体、そして同じ活性を示す抗体の中でも、発現量が高く、タンパク質としての安定性が高い抗体を選択することは、抗体医薬として実用化する上で極めて重要な要件である。
【特許文献1】国際公開第WO02/081522パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO03/027151パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO06/043954パンフレット
【非特許文献1】Y. Saitoh et al., (1995): Laboratory Investigation, 72, 55-63
【非特許文献2】Y. Yokosaki et al., (1999): The Journal of Biological Chemistry 274, 36328-36334
【非特許文献3】P. M. Green et al., (2001): FEBS Letters 503, 75-79
【非特許文献4】S. T. Barry et al., (2000): Experimental Cell Research 258, 342-351
【非特許文献5】Yamamoto et al., (2003): The Journal of Clinical Investigation, 112, 181-188
【非特許文献6】P. Freese et al., (2001): Nephrology, dialysis, transplantation, 16, 2401-2406
【非特許文献7】J. R. Waller et al., (2001): British Journal of Surgery, 88, 1429-1441
【非特許文献8】S. R. Lehtonen et al., (2001): Transplantation, 72, 1138-1144
【非特許文献9】A. O’Regan et al., (2000): International Journal of Experimental Pathology, 81, 373-390
【非特許文献10】G. F. Weber, (2001): Biochimica et Biophysica Acta, 1552, 61-85
【非特許文献11】H. Rangaswami et al., (2006): TRENDS in Cell Biology 16, 79-87
【非特許文献12】S. S. Forootan et al., (2006): Int. J. Cancer: 118, 2255-2261
【非特許文献13】Z. Hu et al., (2005): Clin. Cancer Res. 11 4646-4652
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記の状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を提供することにある。本発明者らは、上記課題を解決するために創意研究を重ねた結果、このような特性を有するヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を作製することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(2)前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1である、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(3)前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(4)前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1であり、前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(5)配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
(6)上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
(7)上記(1)に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
(8)上記(6)および/または(7)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(9)上記(8)に記載の発現ベクターが導入された宿主細胞。
(10)上記(9)に記載の宿主細胞を培養し、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を発現させる工程を包含する、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を生産する方法。
(11)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を含む、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症の治療薬。
(12)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための方法。
(13)自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための医薬の製造における、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の使用。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が提供される。このような特質を有する本発明の抗体は、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎、変形性関節症を始めとする、種々の炎症性疾患の予防または治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明について詳述する。
本発明者らは、上記の従来の抗ヒトオステオポンチン抗体に関する課題を克服するために創意検討を重ねた結果、WO03/027151(特許文献2)に記載のキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体に比べ、活性および/または安定性が共に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を取得することに成功した。
【0021】
抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万〜7万の重鎖と2〜3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してγ、μ、α、δ、ε鎖とよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在し、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれλ、κ鎖とよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖および2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S−S結合)および非共有結合によって結合され、分子量15万〜19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。個々の抗体分子は、常に同一の軽鎖2本と同一の重鎖2本からできている。
【0022】
鎖内S−S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100〜110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位あるいはドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域(V領域、variable region、可変部)とよばれている(各ドメインは、それぞれ、VHおよびVLと表される)。これよりC末端側のアミノ酸配列は、各クラスあるいはサブクラスごとにほぼ一定で定常領域(C領域、constant region、定常部)とよばれている(各ドメインは、それぞれ、CH1、CH2、CH3あるいはCLと表される)。
【0023】
抗体の抗原決定部位はVHおよびVLによって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgのC領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域(hypervariable region)にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR、complementarity determining region)と呼んでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(framework region)とよばれ、比較的一定である。通常、各可変領域の相補性決定領域の5〜10個のアミノ酸だけが抗原結合部位を形成している。
【0024】
本明細書中では、抗原と反応する可変領域についてはマウス抗体(ドナー異種抗体とも称する)由来の可変領域を有し、定常領域についてはヒト抗体由来の定常領域を有する抗体を、キメラ抗体と称し、オステオポンチンおよびその断片を認識するキメラ抗体を、キメラ抗オステオポンチン抗体と称する。また、抗原特異的な非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)抗体分子の相補性決定領域(抗原結合部位)以外をすべてヒト抗体のアミノ酸に置き換えた組換え抗体はヒト化抗体と称する。ヒト化抗体には、本発明の抗体のような、さらにフレームワーク領域にアミノ酸の改変(置換、挿入、欠失、付加)を加えたものも包含される。
【0025】
一般に、ヒト化抗体の作製においては、相補性決定領域のアミノ酸配列のみを鋳型のヒト抗体フレームワークに移植しただけでは、多くの場合、オリジナルのマウス抗体よりも抗原結合活性が低下することが知られている。上記のヒト化2K1抗体についても、OPNペプチドに対する結合性は有するものの、OPNに対する細胞接着阻害活性が極めて低く、抗体医薬としての使用には適さないことが確認された(後記実施例9)。
【0026】
本発明者らは、このようなヒト化抗体の活性低下を改善し、かつ、抗体医薬として使用するためにより優れた安定性を有するヒト化抗体を得るために創意検討を重ねた結果、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含むヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体が、従来のキメラ及びヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体と比較して有意に改善された活性および/または種々の安定性指標において優れた安定性を有することを同定した。このような本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、鋳型のヒト抗体の重鎖および軽鎖のフレームワーク領域において、いくつかのアミノ酸に改変を加えて作製されたものであり、相補性決定領域のみを移植して作製された従来のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体(特許文献2)とは、フレームワーク領域の配列が異なる。
【0027】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、本願明細書に開示される、その重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。具体的には、本発明の抗体の重鎖可変領域アミノ酸(配列番号1)をコードする塩基配列を有する重鎖可変領域遺伝子断片、及び、本発明の抗体の軽鎖可変領域アミノ酸(配列番号3)をコードする塩基配列を有する軽鎖可変領域遺伝子断片を作製する。そして、この可変領域遺伝子をヒト抗体の適当なクラスの定常領域遺伝子と連結させてヒト化抗体遺伝子を作製する。次いで、このヒト化抗体遺伝子を適当な発現ベクターに連結し、培養細胞中に導入する。最後にこの培養細胞を培養して培養上清からヒト化抗体を得ることができる。
【0028】
上記の本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域アミノ酸(配列番号1及び配列番号3)をコードする各可変領域遺伝子断片は、例えば、WO03/027151に記載される方法に従って、該文献に開示されるヒト化2K1抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の各々をコードする遺伝子断片を調製し、ヒト化2K1抗体のフレームワーク領域をコードする該遺伝子断片の所定の部位に変異を導入することによって作製することができる。フレームワーク領域の所定の部位に変異を導入する方法としては、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley & Sons Section 8.1−8.5)等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。あるいは、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子断片は、該重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号1及び配列番号3)に基づいてデザインされた塩基配列、または、配列番号5及び配列番号7に示される本発明の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の塩基配列に基づいて、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することも可能である。このような遺伝子合成方法としては、WO90/07861に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0029】
次いで、上記の可変領域遺伝子断片とヒト抗体の定常領域遺伝子とを連結させてヒト化抗体遺伝子を作製する。使用されるヒト抗体の定常領域は、どのようなサブクラスの定常領域も選択可能であり得るが、好ましくは重鎖定常領域としてはヒトIgγ1が、また、軽鎖定常領域としてはヒトIgκを用いることができる。
【0030】
このヒト化抗体遺伝子の作製につづく、ヒト化抗体遺伝子の発現ベクターへの導入、発現ベクターの培養細胞への導入、培養細胞の培養、抗体の精製等については、当該分野で公知の種々の方法を使用してか、あるいは、WO02/081522またはWO03/027151に記載される、キメラ抗ヒトオステオポンチン抗体またはヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の作製方法を参照して行うことができる。上記のようにして得られたヒト化抗体遺伝子と連結される発現ベクターとしては、国際公開公報WO94/20632に記載のAG−γ1やAG−κ等の発現ベクターが使用できるが、ヒト化抗体遺伝子を発現することができるものであれば特に制限されない。なお、発現ベクターとしてAG−γ1あるいはAG−κ等の予めヒトIg定常領域遺伝子を有するものを利用すれば、これにヒト化抗体可変領域遺伝子を挿入するだけでヒト化抗体遺伝子を有する発現ベクターとなるため好ましい。
【0031】
上記の発現ベクターは、例えば、リン酸カルシウム法等により、培養細胞中に導入される。
【0032】
発現ベクターを導入する培養細胞としては、例えば、CHO−DG44細胞等の培養細胞が使用でき、これを常法により培養すればよい。
【0033】
上記培養後、培養上清中に蓄積された抗体は、例えば、プロテインAカラムを用いた各種クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0034】
こうして得られたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の抗原活性は、例えば、後記実施例に記載されるようなオステオポンチンペプチド等を用いたELISAや、BIACore(BIAcore社)等により測定可能である。また、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の白血球遊走阻害活性は、例えば、後記実施例に記載されるように、被験抗体とOPNまたはトロンビン切断型OPNの存在下でヒト末梢血単核球を培養することによって測定することができる。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、サイトカイン(例えば、TNF−α)で活性化したヒト末梢血単核球細胞のトロンビン切断型OPNに対する遊走を阻害する生物活性を有する。
【0035】
次いで、このようにして作製されたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を、各種安定性指標について試験する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、以下の安定性指標(A)〜D))を示す:
A)PBS中で70℃で2時間加熱処理した後のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性が、加熱処理しない場合の90%以上である熱安定性を示す。
B)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、変性中点(Tm)が少なくとも5℃高い。
C)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、少なくとも0.5M高い濃度の塩酸グアニジンにまで耐性を持つ。
D)ドナー異種抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域を持つキメラ抗体と比べて、少なくとも0.3低いpHにまで耐性を持つ。
【0036】
ここで、上記指標A)およびB)は、いずれも熱に対する安定性であり、これらが良好な抗体であるほど、長期の保存安定性および剤型においてメリットを有する。すなわち、抗体製剤は、蛋白質であるため保存安定性が問題になることが多く、凍結乾燥製剤(これは、使用時に溶かさねばならないため、医療現場では利便性の面で問題があり、特に、蛋白製剤は溶解に30秒以上掛かることが多く医療現場の負担となることが多い)となる場合があるが、良好な温度安定性を有する抗体であれば、溶液状態でも冷蔵で2年以上長期安定性が保障できる。実際に、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体である後記実施例記載のR2K1v1.7は、室温(25℃)においても1年程度の安定性が確保されている。また、溶液製剤が可能となれば、プレフィルドシリンジなどのより利便性が高い製剤化が可能である。上記の指標を満たす温度安定性の高い抗体は、製剤化のバリエーションが広がり、より医療ニーズの高い製剤化が可能で選択肢が増える。
上記指標C)は、塩耐性に関する指標であるが、このような塩耐性を有する抗体は、製剤化においてより有利な処方検討を行うことが可能となる。特にプレフィルドシリンジにおいては、100〜200μg/mLといった高濃度の蛋白製剤を設計する上において高い塩濃度を使用する場合が多いため有用である。
上記指標D)は、pH耐性に関する指標であるが、このようなpH耐性を有する抗体は、抗体の製造精製過程のウイルス失活工程においてより低いpHでの処理が可能となり、有用である。そのため、通常の抗体と比較して0.3程度でもより低pH耐性を有することは大きなメリットとなる。
【0037】
指標A)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体をPBS中に希釈し(好ましくは、50μg/mL)、70℃で2時間加熱処理する。その後、室温に戻し、該抗体のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性を、例えば、今らのELISA方法(Journal of Cellular Biology,88:420−432(2002))によって測定する。この熱処理した抗体の結合活性を、未処理の同じ抗体について測定した結合活性と比較する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、このような加熱処理した場合、未処理の場合のSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドに対する結合活性の90%以上の結合活性を有する。好ましくは、本指標試験に使用されるSVVYGLR配列(配列番号10)を含むペプチドは、CVDTYDGRGDSVVYGLRS配列(配列番号13)を有するオステオポンチンペプチドである。
【0038】
指標B)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、WO03/027151に記載のキメラ2K1抗体(C2K1)を、適切な緩衝液(好ましくは、20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0))で調整し、示差走査型カロリメーター(好ましくはマイクロキャル社のVPキャピラリーDSCプラットフォーム)により、加熱に対する安定性を評価することができる。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の変性温度を示す変性中点(Tm)は、C2K1のそれと比較して少なくとも5℃高い。
【0039】
指標C)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、上記のキメラ2K1抗体(C2K1)を、0〜5Mの各濃度の塩酸グアニジンを含む緩衝液(好ましくは、20mM リン酸ナトリウム+120mM NaCl溶液(pH 7.0))に溶解し、適切な濃度(好ましくは、50μg/mL)に調整する。次いで、各溶液サンプルを10℃で一晩静置した後、各サンプルの蛍光スペクトルを測定する。具体的には、280nmの励起光によりトリプトファンが発する蛍光を波長320nmから370nmの範囲でスキャンする。ピーク波長は、塩酸グアニジンによる抗体タンパク質の立体構造のゆるみに起因してシフトする。ピーク波長がシフトする塩酸グアニジン濃度を、被験抗体およびキメラ抗体の各々について測定する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体についての上記ピーク波長がシフトする塩酸グアニジン濃度は、C2K1のそれと比較して、少なくとも約0.5M高い濃度である。
【0040】
指標D)の試験方法は、以下のとおりである。まず、被験ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体、及び、上記のキメラ2K1抗体(C2K1)を、適切な緩衝液(好ましくは、20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0))で調整し(好ましくは、2mg/mL)、これらに、酸性溶液(好ましくは、0.1N HCl)と水を加えながら、所定の濃度(1mg/mL)の各低pHのサンプルを調製する。このサンプルを室温にて1時間処理したのち、円二色性(CD)スペクトルを測定する。波長205nmから260nmの範囲でCDスペクトルを測定し、YangらのCDスペクトル解析法(Methods in Enzymology,130,208−269(1986))に基づいて、各抗体の各pH処理サンプルについて、ランダム構造の含有率を測定する。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体についてのランダム構造の含有率が上昇し始めるpHは、C2K1のそれと比較して、少なくとも約0.3低い。
【0041】
本発明者らは、WO03/027151に記載のヒト化抗体を基に、部位特異的変異誘発などによるフレームワーク領域遺伝子の改変と、上述のA)〜D)の安定性指標を用いた安定性試験とを組み合わせて創意検討を重ねた結果、ヒト抗体フレームワーク部分(FR1〜4)を配列番号1に示されるアミノ酸配列(それぞれアミノ酸番号1〜30、36〜49、67〜98および106〜116)並びに配列番号3に示されるアミノ酸配列(それぞれアミノ酸番号1〜23、40〜54、62〜93および103〜113)とすることにより、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体より活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れたヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を得ることに初めて成功した。本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、前述の抗原結合活性、白血球遊走阻害活性および各種安定性指標について試験した結果、該活性を有し、かつ、該指標A)〜D)の全てを特性として示す。
【0042】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、当該分野で公知の方法を用いて、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNAおよび配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードするDNAを合成し、これらを適当なクラスのヒト抗体定常領域遺伝子、好ましくは重鎖についてはヒトIgγ1定常領域遺伝子、軽鎖についてはヒトIgκ定常領域遺伝子と連結してヒト化抗体遺伝子を構築し、当該分野で公知の種々の方法あるいはWO02/081522またはWO03/027151に記載される方法等を用いて、該ヒト化抗体遺伝子を発現ベクターへ導入、該発現ベクターを培養細胞に導入して該培養細胞を培養し、得られる培養物から抗体を精製することによって、容易に取得することができる。配列番号1に示される重鎖可変領域遺伝子とヒトIgγ1重鎖定常領域遺伝子とを連結して得られる、本発明の好ましいヒト化抗体重鎖遺伝子としては、配列番号25に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、より好ましくは配列番号24に示される塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。また、配列番号3に示される軽鎖可変領域遺伝子とヒトIgκ軽鎖定常領域遺伝子とを連結して得られる、本発明の好ましいヒト化抗体軽鎖遺伝子としては、配列番号27に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、より好ましくは配列番号26に示される塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。配列番号24に示される塩基配列を含む重鎖遺伝子と、配列番号26に示される塩基配列を含む軽鎖遺伝子とによってコードされる本発明のヒト化抗オステオポンチン抗体として、後記実施例で示されるR2K1v1.7が挙げられる。
【0043】
あるいは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、本発明のヒト化抗オステオポンチン抗体は、上記した配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNAとヒト抗体重鎖定常領域遺伝子、および配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードするDNAとヒト抗体軽鎖定常領域遺伝子を鋳型として、無細胞転写/翻訳系を用いて合成することもできる。無細胞転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.ら、“Transcription and Translation”, Hames B.D.およびHiggins S.J.編、IRL Press, Oxford 179-209(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE. coli S30 extract system(Promega社製)やRTS 500 Rapid Translation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.ら、Nature, 179, 160-161(1957)あるいはErickson A.H.ら、Meth. Enzymol., 96, 38-50(1996)等に記載の方法を用いることができる。
【0044】
本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含み、活性を保持した、一本鎖可変領域断片(scFv)、Fab、Fab’、F(ab’)2等のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体フラグメント(抗体断片)をも包含する。
scFvの作製に用いられ得る、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを連結するためのリンカーとしては、本発明の抗体断片が上述したような特性を有し得る限り特に限定されないが、例えば、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号14)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。また当業者であれば、本発明に基づいて、当該ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体または抗体断片と他のペプチドやタンパク質との融合抗体を作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体を作製することも可能である。融合に用いられる他のペプチドやタンパク質は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種tagペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量体化を促進しうるペプチドまたはタンパク質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
【0045】
このようにして得られた本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体または当該抗体に起因する活性を保持する抗体断片、当該抗体または抗体断片をペプチドまたは他のタンパク質と融合させた融合抗体、あるいは当該抗体または抗体断片に修飾剤が結合されてなる修飾抗体は、必要によりさらに精製された後、常法に従って製剤化され、リウマチ性関節炎・若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチ・乾癬性関節炎・乾癬等の治療、癌、臓器移植後の慢性拒絶反応抑制、変形性関節症・全身性自己免疫疾患・エリテマトーデス・ぶどう膜炎・ベーチェト病・多発性筋炎・糸状体増殖性腎炎・サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療に用いることができる。
【0046】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、好ましくは、リウマチ治療剤、自己免疫疾患治療剤、変形性関節症治療剤あるいはリウマチ性関節炎治療剤として、より好ましくは、リウマチ性関節炎治療剤として用いることができる。これらリウマチ治療剤等の剤型の例としては、注射剤、点滴用剤等の非経口剤とすることができ、静脈内投与、皮下投与等により投与することが好ましい(自己免疫疾患治療剤とする場合もこれに準じればよい)。また、製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた担体や添加剤を使用することができる。
【0047】
上記製剤化に当たってのヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の添加量は、患者の症状の程度、年齢や使用する製剤の剤型あるいは組換えOPN阻害抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.1mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。
【0048】
このようにして得られた本発明の治療剤は、有効成分であるヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体がOPNのRGD配列とSVVYGLR配列(配列番号10)に強く結合し、OPNのこの部分とインテグリンとの結合を阻害することによって、結果的にリウマチ及びリウマチ性関節炎やそれ以外の自己免疫疾患の症状の増悪を押さえることができる。
【0049】
そして、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、インテグリン側でなくOPN側に特異的に結合するものであるため、インテグリンの他の重要な機能を阻害するおそれは少なく、副作用の問題は回避されるものと期待される。
【0050】
更にまた、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、リウマチ性関節炎の診断剤として利用することができる。先述のように、リウマチ性関節炎患者の関節では、特にトロンビンにより切断されたOPNのN末端フラグメントが高濃度で見出されることが判明している。そこで、このヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を用いて検体中のOPNまたはそのN末端フラグメントの量を測定すれば、リウマチ性関節炎の診断に役立てることができる。その手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(E. Engvall et al., (1980): Methods in Enzymol., 70, 419-439)、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の、一般の免疫化学的測定法において使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプランニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)を利用することができる。
【0051】
上記手法は種々の観点から適宜選択することができるが、感度、簡便性等の点からはELISA法が好ましい。より好ましい方法の例としては、例えば本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を担体上に固相化し、本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体とは異なるOPN上の部位を認識する抗体を標識化することにより、OPNまたはそのN末端フラグメントを検出することができ、これをリウマチ性関節炎の診断薬とすることができる。
【0052】
上記抗体を標識するにあたり使用される標識物質としては、融合タンパク質/ペプチドを形成するためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ等のタンパク質/ペプチド、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」という)、アルカリフォスファターゼ(以下「AP」という)等の酵素、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質などの修飾剤が挙げられる。
【0053】
OPNアイソフォームの検出方法について、例えば、サンドイッチ法等の当該分野で公知の方法を使用するか、より具体的には、WO02/081522(特許文献2)またはWO03/027151(特許文献3)に記載の検出方法と同様の方法を使用することによって実施することができる。
【0054】
本発明はまた、本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子、及びそれを含む発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子を発現し、これらポリペプチドを産生できるものであれば特に制限されない。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)等を挙げることができる。
【0055】
本発明の発現ベクターは、本発明の抗体又はそのフラグメントをコードする遺伝子、及び当該遺伝子に機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーターとしては、宿主がエシェリキア属菌の場合、例えば、Trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。酵母中で本発明の抗体又はそのフラグメントを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターが挙げられ、宿主がバチルス属菌の場合は、SL01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが挙げられる。また、宿主が哺乳動物細胞等の真核細胞である場合、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。
【0056】
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域および複製可能単位をさらに含み得る。一方、宿主として酵母、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドンを含み得る。また、この場合、エンハンサー配列、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、または複製可能単位などを含んでいてもよい。また、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン)を含んでいてもよい。
【0057】
本発明はまた、本発明の遺伝子が導入された形質転換体を提供する。このような形質転換体は、例えば、本発明の発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより作製できる。形質転換体の作製に用いられる宿主細胞としては、前記の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞あるいは人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、細菌(エシェリキア属菌、バチルス属菌)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)、動物細胞または昆虫細胞(例えば、Sf9)など)が例示される。形質転換は、自体公知の方法により行われ得る。
【0058】
本発明はまた、本発明の遺伝子を宿主細胞に発現させること、即ち、このような形質転換体を用いることを含む、本発明の抗体又はそのフラグメントの生産方法を提供する。
【0059】
本発明の抗体又はそのフラグメントの生産において、形質転換体は、栄養培地中で培養され得る。栄養培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン
等)など)を含んでいてもよい。
【0060】
形質転換体の培養は自体公知の方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpHおよび培養時間は、適宜選択される。例えば、宿主が動物細胞の場合、培地としては、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science,Vol.122,p.501,1952)、DMEM培地(Virology,Vol.8,p.396,1959)、RPMI1640培地(J.Am.Med.Assoc.,Vol.199,p.519,1967)、199培地(proc.Soc.Exp.Biol.Med.,Vol.73,p.1,1950)等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が昆虫細胞の場合、例えば胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.82,p.8404,1985)等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。宿主が細菌、放線菌、酵母、糸状菌である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜8である培地である。宿主がE.coliの場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地(Millerら、Exp.Mol.Genet,Cold Spring Harbor Laboratory,p.431,1972)等が例示される。かかる場合、培養は、必要により通気、撹拌しながら、通常14〜43℃、約3〜24時間行うことができる。宿主がBacillus属菌の場合、必要により通気、撹拌をしながら、通常30〜40℃、約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母である場合、培地として、例えばBurkholder最小培地(Bostian,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.77,p.4505,1980)が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や撹拌を行うこともできる。
【0061】
本発明の抗体又はそのフラグメントは、上述のような形質転換体を培養し、該形質転換体から回収、好ましくは単離、精製することができる。単離、精製方法としては、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0062】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を示す。キット等を使用した部分については、特にことわりのない限り添付のプロトコールに従った。
【0064】
(1.ヒト化2K1抗体の作製)
本発明においては、国際公開公報WO2003/027151に記載のマウス由来抗ヒトオステオポンチン抗体である2K1抗体をヒト化した、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体(以下、ヒト化2K1抗体またはR2K1抗体と記載することがある)を2種類作製した。
各ヒト化2K1抗体の作製は、概ね上記公報に記載の方法に従って作製したので、以下には概略を記す。
まず、合成オリゴDNAを用いたPCRにより、図1及び図2に示した塩基配列を持つ2種類のヒト化抗OPN抗体の重鎖可変領域(VH)をコードするDNAと、図3及び図4に示した塩基配列を持つ2種類のヒト化抗OPN抗体の軽鎖可変領域(VL)をコードするDNAを作製した。以下の記述において、それらを区別するために、図1、図2に記載のヒト化抗ヒトOPN抗体VHを、それぞれ、R2K1−VH1.7、R2K1−VH1.8と呼称する。同様に、図3、図4に記載のヒト化抗ヒトOPN抗体VLを、それぞれ、R2K1−VL1.7、R2K1−VL1.8と呼称する。
次に、上記のヒト化抗ヒトOPN抗体VHをコードするDNAのそれぞれを、制限酵素HindIII認識部位及びBamHI認識部位を利用して、ヒト免疫グロブリン定常領域γ1鎖の遺伝子を含む発現ベクターであるAG−γ1に挿入することにより、R2K1−VH1.7を持つ重鎖の発現プラスミドと、R2K1−VH1.8を持つ重鎖の発現プラスミドを作製した。同様にして、上記のヒト化抗ヒトOPN抗体VLをコードするDNAのそれぞれを、ヒト免疫グロブリン定常領域κ鎖の遺伝子を含む発現ベクターであるAG−κに挿入することにより、R2K1−VL1.8を持つ軽鎖の発現プラスミドと、R2K1−VL1.7を持つ軽鎖の発現プラスミドを作製した。これらの発現プラスミドは大腸菌に導入して増殖させ、市販のプラスミド精製キット(QIAGEN社)により精製した。
最後に、上記の精製発現プラスミドを組み合わせてリン酸カルシウム法によりCHO−DG44細胞にトランスフェクションし、Geneticin(Invitrogen社)と透析済みFCS(Invitrogen社)を含むMEM培地(Invitrogen社)中でセレクションすることにより、2種類のヒト化2K1抗体の発現細胞を得た。すなわち、R2K1−VH1.8を持つ重鎖とR2K1−VL1.8を持つ軽鎖から成るヒト化2K1抗体であるR2K1v1.8抗体、R2K1−VH1.7を持つ重鎖とR2K1−VL1.7を持つ軽鎖から成るヒト化2K1抗体であるR2K1v1.7抗体を発現させた。
上記の手順で得た各R2K1抗体の産生細胞を、10%透析済みFCSを添加したMEM培地中で十分に増殖させ、ローラーボトル(BD Biosciences社)に播種し、37℃、1rpmの回転速度の条件で培養した。数日後、細胞が器壁に付着して増殖しているのを確認し、培養液を破棄して、血清を含まないMEM培地500mLに交換して上記条件で培養を行った。約2週間後、器壁から剥離して浮遊している細胞が多くなってきた時点で培養を終了し、培養上清を0.22μmのフィルターで濾過して回収することにより、各R2K1抗体を含む培養上清を得た。
これらの培養上清を材料として、プロテインAカラム(MILLIPORE社)及び陽イオン交換カラム(Amersham社)を用いることにより、2種類の精製ヒト化抗体、すなわちR2K1v1.8抗体及びR2K1v1.7抗体を各数mgずつ得た。
以下に記す各種の実験には上記のようにして得た精製抗体を使用した。また、キメラ2K1抗体(以下C2K1抗体と記載することがある)は前述の国際公開公報WO2003/027151に記載の方法で得たものを使用した。
【0065】
(2.ELISAによるヒトオステオポンチンペプチドとの結合性確認)
各R2K1抗体とC2K1抗体の、ヒトオステオポンチンペプチド(CVDTYDGRGDSVVYGLRS:配列番号13)に対する結合活性を、今らのELISA法(Journal of Cellular Biology,88:420−432(2002))を参考にして比較した。以下に概略を述べる。
上記の配列を持つペプチド(以下hOPN5ペプチドと記載することがある)を、Sulfo−EMCS(同仁化学社)でマレイミド基を導入したBSAと反応させて、hOPN5−BSAコンジュゲートを作製した。hOPN5−BSAコンジュゲートを200ng/100μL/wellで、ELISAプレート(Nunc社)に4℃で一夜固定化し、洗浄後、1%BSA添加PBSで4℃一夜ブロッキングした。1%BSA添加PBSで希釈した抗体サンプルを、上記プレートに100μL/well添加して37℃で1時間反応させた。検出は、ペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG(H+L)抗体(和光純薬株式会社)を用いて行った。波長450nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices社)を用いて測定した。
その結果、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性は、C2K1抗体と同等であることが確認された(図5)。
【0066】
(3.R2K1抗体のヒト末梢血単核球遊走に対する阻害活性)
精製抗体のサイトカイン活性化末梢血単核球遊走に対する阻害活性を次のようにして調べた。
まず、健常人よりヘパリン採血した血液をRPMI1640培地にて2倍希釈した。希釈した血液をフィコール−パック(Ficoll−Paque;ファルマシア社)に重層し、400×gで室温にて30分間遠心した。血漿とフィコール−パックの境界に見える白い層を回収し、単核球として用いた。このようにして得られた単核球をヒトTNF−α(20ng/mL)で一晩培養し、活性化したものを遊走実験に用いた。
遊走実験は48−ウェル マイクロ ケモタキシス チャンバー(micro chemotaxis chamber;ニューロ プローブ インク社)を用いて行った。ヒトOPNをウシトロンビン(Sigma)と共に37℃、2時間反応させて切断した。R2K1抗体とC2K1抗体を種々の濃度で添加したものを予め37℃で15分間放置してから、下側チャンバーに加えた(ヒトOPN最終濃度は10μg/mL)。その上からポリカーボネートフィルター(ポアサイズ 5μm)を載せて、さらに上側チャンバーに50μLの細胞懸濁液(2×106cells/mL)を加えた。
37℃、5%CO2存在下で2時間培養してから、ポリカーボネートフィルターを取り外して、上側フィルター表面の細胞を除去してから細胞をDiff−Quick(Baxter社)にて染色した。上側フィルター表面の細胞数を40倍の倍率下で計測し、結果は6ウェルの平均細胞数(cells/mm3)±SEMとして示した(表1)。これらの結果より、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体の両方が、C2K1抗体と同様にTNF−αで活性化したヒト末梢血単核球のトロンビン切断型ヒトオステオポンチンに対する遊走を阻害したことが示された。
【0067】
【表1】
【0068】
(4.ELISAによる熱安定性の評価)
C2K1抗体及び2種類のR2K1抗体をPBSで50μg/mLに希釈し、70℃の水浴で2時間処理した。その後室温に戻し、前述のELISAを行って得られた吸光度の、未処理サンプルの吸光度に対する割合を残存活性としてグラフに示した。残存活性は、直線性を有する0.2から2.0までの範囲にある吸光度の値を用いて算出した(以下同様)。その結果、上記処理後の残存活性は、C2K1抗体よりもR2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体の方が高いことが判った(図6)。特に、R2K1v1.7抗体は90%を超える残存活性を示した。このことから、R2K1v1.7抗体及びR2K1v1.8抗体については、C2K1抗体と比べて熱安定性が向上していることが判った。
【0069】
(5.ELISAによる低pH耐性の評価)
C2K1抗体及び2種類のR2K1抗体の精製品をPBSで50μg/mLに希釈した。1N HClとpHメーター(HORIBA社)を用いてpH5に調整し、25℃で2時間処理した。その後1M Tris−HCl(pH9.5)でpH7に調整し、前述のELISAを行って得られた吸光度の、未処理サンプルの吸光度に対する割合を残存活性としてグラフに示した。その結果、上記処理後の残存活性は、C2K1抗体及びR2K1v1.8抗体よりもR2K1v1.7抗体の方が有意に高いことが判った(図7)。このことから、R2K1v1.7抗体については、R2K1v1.8抗体及びC2K1抗体と比べて低pHに対する耐性が向上していることが判った。
【0070】
(6.蛍光スペクトル測定による塩酸グアニジン耐性の評価)
C2K1抗体及び2種のR2K1抗体を、各濃度の塩酸グアニジンを含む20mM リン酸ナトリウムバッファー+120mM NaCl(pH7)で50μg/mLになるように調整し(コントロールは塩酸グアニジン未添加)、10℃で一夜静置した後、各サンプルの蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルの測定はFP−6500 Spectrofluorometer(JASCO社)を用いて行った。光路長3mmのセルを用いて、280nmの励起光によりトリプトファンが発する蛍光を波長320nmから370nmの範囲でスキャンした。塩酸グアニジン濃度とピーク波長の関係を抗体間で比較した。その結果、C2K1については塩酸グアニジン濃度が1Mを超えた時点から、R2K1v1.8については2Mを超えた時点から、蛋白の立体構造のゆるみに起因するピーク波長のシフトが観られたのに対して、R2K1v1.7については3.8Mまではピーク波長はシフトしなかった(図8)。このことから、R2K1v1.7抗体については、R2K1v1.8抗体及びC2K1抗体と比べて塩酸グアニジンに対する耐性が向上していることが確認された。
【0071】
(7.CDによる低pH耐性の評価)
C2K1抗体及びR2K1v1.7抗体を20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH6)で2mg/mLに調整した。これらに、0.1N HClと蒸留水を加えながら抗体濃度が1mg/mLの各pHのサンプルを調製し、室温で1時間処理後、CDスペクトルを測定した。
CD(円二色性)の測定はJ−820 Spectropolarimeter(JASCO社)を用いて行った。光路長が0.1mmのセルを用いて、波長205nmから260nmの範囲でCDスペクトルを測定した。スペクトルの解析は、YangらのCDスペクトルの解析法(Methods in Enzymology,130,208−269(1986))に基づいたJWSSE−480型タンパク質二次構造解析プログラム(JASCO社)を用いた。本法で算出されたランダム構造の含有率と処理pHの関係を抗体間で比較した。その結果、C2K1抗体についてはpH3からランダム構造の含有率が上昇しているのに対して、R2K1v1.7についてはpH2.7まではランダム構造の上昇は観られなかった(図9)。このことにより、R2K1v1.7抗体は、C2K1抗体と比べて0.3低いpHにまで耐性を持っていることが確認された。
【0072】
(8.示差走査型カロリーメーターによる熱安定性の評価)
C2K1抗体及びR2K1v1.7抗体を20mM クエン酸バッファー+120mM NaCl(pH 6.0)バッファーに1mg/mLの濃度で溶解し、マイクロキャル社の超高感度示差走査型カロリメーター(VPキャピラリーDSCプラットフォーム)により熱安定性を調べた。その結果を図10に示した。高次構造の変性温度を示す変性中点(Tm)は、C2K1抗体では76.0℃であるのに対して、R2K1v1.7抗体では82.8℃と約6℃の上昇が確認された。このことからR2K1v1.7抗体の方が熱安定性が顕著に向上していることが確認された。
【0073】
(9.R2K1v1.7によるOPNに対する細胞接着阻害効果)
本願発明のR2K1v1.7と公知のヒト化抗OPN抗体(WO03/027151参照、以下、R2K1v0と呼ぶ)との薬理効果を比較するために、これら2つの抗体によるヒトOPNに対する細胞接着阻害効果を調べた。
1.細胞の培養、継代
Jurkat E6.1細胞は大日本製薬(株)より購入し、RPMI1640(10%FCS、ペニシリン−ストレプトマイシン)を用いて継代、培養を行った。
2.試薬調製
接着バッファー(L−15 medium、1% BSA、50mM HEPES、pH7.4)
PMA溶液(接着バッファー中40ng/mL フォルボール12−ミリステート 13−アセテート(PMA)[SIGMA])
CV染色液(0.5%クリスタルバイオレット、1%ホルムアミド、20%メタノール)
GST溶液(PBS(−)中5μg/mL グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)[SIGMA])
ヒトIgG1溶液(PBS(−)中400μg/mL)[CALBIOCHEM]
3.トロンビン切断型ヒトN末端オステオポンチン(OPN)の調製
GST融合トロンビン切断型ヒトN末端OPN(GST−ヒトN−OPN、1.6mg/mL)をWO02/081522に記載されるように作製し、PBS(−)にて5μg/mLに希釈して実験に使用した。
4.被験薬物の調製
R2K1v1.7(18.6mg/mL)及びR2K1v0(4.39mg/mL)はPBS(−)にて4、12、40、120、400(μg/mL)に希釈し、いずれの溶液ともTotalのタンパク濃度が400μg/mLとなるようヒトIgG1を添加した。
5.群構成
ブランク群(GST)
コントロール群
被験薬物群 R2K1v1.7 (1、3、10、30、100μg/mL)
R2K1v0 (1、3、10、30、100μg/mL)
6.細胞接着実験
96ウェルマイクロプレートの、ブランクを除くすべてのウェルにGST−ヒトN−OPN溶液25μLを、ブランク群はGST溶液25μLを添加し、37℃、1時間インキュベーション後、PBS(−)で2回洗浄した。PMA溶液50μLを添加し、37℃で30分インキュベーションした後、被験薬物溶液(被験薬物群)またはヒトIgG1溶液(ブランク群およびコントロール群)25μLを添加した。Jurkat E6.1細胞は、2x106cells/mLとなるよう接着バッファーに懸濁し、すべてのウェルに25μLを添加した。15×gで1分遠心して細胞をプレートの底に沈殿させた後、37℃で1時間インキュベーションした。反応終了後、プレートを逆さにして47×gで2分遠心して上清(非接着細胞)を除去した。接着細胞数の定量は、CV染色液25μLを添加し10分室温で放置して細胞を染色、固定した後、純水で3回洗浄し、すべてのウェルに1% Triton−X100溶液25μLを添加して細胞が可溶化したのを確認後、マイクロプレートリーダー(SPECTRAmax250,Molecular Devices)にて吸光度(測定波長595nm)を測定した。
7.解析
実験は1群5ウェルを使用した。各群の吸光度の平均値および抑制率を算出し、IC50値(抑制率が50%となる被験薬物濃度)を算出した。抑制率は、ブランク群を100%、コントロール群を0%とした。IC50値は、X軸に対数で被験薬物濃度を、Y軸に抑制率をプロットし、最小二乗法により直線回帰の式に当てはめて算出した。IC50値算出には、用量反応に直線性を示す被験薬物濃度におけるデータを使用した。図11に示す結果より、公知のヒト化抗ヒトOPN抗体の細胞接着阻害効果が極めて低いのに対して、R2K1v1.7は、優れた細胞接着阻害効果(IC50値:6.4)を有するものであることが理解される。
【0074】
(10.カニクイザル(cynomologus monkey)におけるコラーゲン誘導関節炎に対するR2K1v1.7の効果)
Freund完全アジュバント(Becton Dickinson and Company)でエマルジョン化したウシタイプIIコラーゲン(コラーゲン技術研修会)を、投薬36日前に雌性カニクイザルの背部及び尾部に免疫し、投薬15日前にブーストした。動物を、免疫前と比較した体重及び指骨近位関節楕円面積の変化率に基づき、無作為化して、3つの投薬処置群(n=10)に分けた。25mg/kgまたは50mg/kg用量のR2K1v1.7あるいは溶媒コントロール群を、1週間に1回、計8回、静脈内注入により投与した。最初の投薬日を0日と規定した。投与期間中の0、6、13、20、27、34、41、48及び55日目に、関節腫張の兆候として、指骨近位関節楕円面積をモニターした。前後肢指骨近位関節をノギスを用いて短軸及び長軸を測定し楕円面積を算出し、16指の楕円面積の平均値を指骨近位関節楕円面積とした。指骨近位関節楕円面積の変化率を、投薬前の値を100として算出した。0日目、並びに6、13、20、27、34、41、48及び55日目(投薬6日後)に、血漿を採取し、R2K1v1.7及び抗R2K1v1.7抗体を測定した。この測定したR2K1v1.7の血漿中濃度が、トラフレベルに対応する。データ分析は、抗R2K1v1.7抗体陽性動物及び試験期間中に死亡した動物のデータを削除して行った。
25mg/kg用量R2K1v1.7群の1動物、及び、50mg/kg用量R2K1v1.7群の4動物において、抗R2K1v1.7抗体が生じた。溶媒コントロール群の2動物、25mg/kg用量R2K1v1.7群の2動物、及び、50mg/kg用量R2K1v1.7群の1動物が、投薬後に死亡した。死亡例については高度な炎症に起因した衰弱死であると推測された。50mg/kgのR2K1v1.7での処置は、コントロール溶媒群と比較して、27日目〜55日目の間で、指骨近位関節楕円面積の変化率で測定した足腫張を有意に減少した(図12)。25mg/kg用量のR2K1v1.7は、指骨近位関節楕円面積の変化に対して有意な効果を示さなかった。25mg/kg用量及び50mg/kg用量での血漿中R2K1v1.7トラフ濃度は、それぞれ、38.41〜76.13μg/mL及び73.91〜125.3μg/mLであった。ヒトOPNのSVVYGLR配列は、サルOPNの相当配列(SVAYGLR)(配列番号11)と異なり、このヒトOPNペプチドに対するR2K1v1.7の結合親和性は、対応するサルOPNペプチドに対する結合親和性よりも100倍以上高い。これらの点を考慮すると、関節炎治療におけるR2K1v1.7の有効血漿中濃度は、100μg/mL以下であると推定される。
【0075】
(11.R2K1v1.7のscFvの作製)
前述のR2K1−VH1.7を持つ重鎖の発現プラスミドとR2K1−VL1.7を持つ軽鎖の発現プラスミドを鋳型としたPCRにより、VH1.7−リンカー−VL1.7(リンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号14)で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列である)の構造をした一本鎖可変領域断片(scFv)をコードするDNA断片を作製した。このDNA断片の末端には、制限酵素SfiIとNotIの認識配列が付加されている。このDNA断片を制限酵素SfiIとNotIで消化し、同じくSfiIとNotIで消化したpCANTAB5Eベクター(Marks,J.D.,et.al,J.Mol.Biol.,vol.222,p581−97,1991)のSfiI部位とNotI部位に挿入することにより、R2K1−VH1.7のscFvの発現プラスミドを作製した。なお、本発現プラスミドにおいてはscFvのコード領域の下流にE−Tagをコードする塩基配列が付加されている。このプラスミドを常法にしたがって大腸菌HB2151株に導入し、SOBAG寒天プレート(2%グルコース、100μg/mLのアンピシリン含有SOBプレート)に播いて形質転換クローンを得た。得られたクローンについてプラスミドDNAを抽出し、それを鋳型としたDNA塩基配列解析によりscFvのコード領域の配列を確認した。DNA塩基配列解析にはDTCS−Quick Start Kit及びCEQ2000XL DNA Analysis System(ともにベックマンコールター社)を使用した。得られた塩基配列を配列番号9に示した。
塩基配列を確認した大腸菌クローンを2%グルコース及び100μg/mLのアンピシリンを含む2xYT培地で培養後、その一部を1mMのIPTG及び100μg/mLのアンピシリンを加えた2xYT培地に懸濁し、さらに一夜培養してscFvの発現誘導を行った。培養終了後、菌体を遠心分離により回収し、1mMのEDTAを含むPBSに懸濁して氷中に30分放置した。次いで10,000rpmで15分間遠心し、上清を回収して0.45μmのフィルターで濾過することにより、scFvを含むペリプラズム画分を得た。このペリプラズム画分から、抗E−Tag抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによりR2k1v1.7のscFv(以下R2K1v1.7−scFvと記載する)を精製した。
このようにして調製したR2K1v1.7−scFvについて、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った結果、図13に示した分離パターンから、ほぼ全てがモノマーであることが確認された。
【0076】
(12.R2K1v1.7−scFvのヒトオステオポンチンペプチドとの結合性確認)
精製したR2K1v1.7−scFvのhOPN5ペプチドに対する結合活性をELISA法で測定した。方法は概ね前述のとおりであるが、本測定においては標識抗体として、HRP標識抗E−Tag抗体を使用した。その結果を図14に示した。陰性対照のBSAに対しては結合せず、hOPN5ペプチドに対して特異的に結合することが確認された。
【0077】
(13.ポリエチレングリコール修飾抗体フラグメントの作製)
R2K1v1.7抗体を定法によりペプシン処理した後、ProteinG HPカラム(ともにアマシャムバイオサイエンス社)及びHi prep 16/60 sephacryl S−200 High Resolutionカラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いることにより精製F(ab’)2を得た。続いて、精製F(ab’)2を0.1MのDTTで還元処理してチオール基を活性化した後、Sephadex G−25カラム(アマシャムバイオサイエンス社)を用いたゲル濾過を行うことによりDTTを除去した。こうして得られたFab’をマレイミド化ポリエチレングリコールSUNBRIGHT ME−120MA(日本油脂)とモル比1:10で混合して4℃で一晩静置することによりカップリング反応させた。ヨードアセトアミド(ナカライ)を添加して、カップリング反応を停止後、Hi prep 16/60 Sephacryl S−200 High Resolutionカラムを用いたゲル濾過により、ポリエチレングリコール修飾F(ab’)2(以下F(ab’)2−PEGと記載することがある)を得た。そのSDS−PAGEの結果を図15に示した。比較対照として泳動した未修飾のF(ab’)2との比較により、ポリエチレングリコール修飾による分子量の増加が確認できた。
【0078】
(14.F(ab’)2−PEGのオステオポンチンペプチドとの結合活性確認)
精製R2K1v1.7のF(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対する結合活性を表面プラズモン共鳴測定法を用いて確認した。ビオチン化hOPN5ペプチドをSensor Chip SA(BIAcore社)に固定化し、HBS−EPバッファー(BIAcore社)で5μg/mLに希釈したF(ab’)2−PEGを用いて結合活性を確認した結果を図16に示した。シグナルの上昇から本F(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対するR2K1v1.7と同様の結合活性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体は、活性(抗原結合活性、白血球遊走阻害活性等)および/または安定性(熱、低酸性条件、変性剤に対する耐性等)に優れているので、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎、変形性関節症を始めとする、種々の炎症性疾患の予防または治療において、従来の抗ヒトオステオポンチン抗体よりもさらに有効な薬剤として有用である。
【0080】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
本出願は、日本国で出願された特願2006−152892を基礎としており、そこに開示される内容は本明細書にすべて包含されるものである。また、ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】ベクターに組み込んだR2K1−VH1.7コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号15)とアミノ酸配列(下段:配列番号16)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図2】ベクターに組み込んだR2K1−VH1.8コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号17)とアミノ酸配列(下段:配列番号18)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図3】ベクターに組み込んだR2K1−VL1.7コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号19)とアミノ酸配列(下段:配列番号20)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図4】ベクターに組み込んだR2K1−VL1.8コード領域を含むDNAの塩基配列(上段:配列番号21)とアミノ酸配列(下段:配列番号22)を示す図である(下線部は分泌発現のためのリーダー配列)。
【図5】キメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。
【図6】70℃で加熱処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。加熱処理しない場合の結合性を100%とした場合の比率を示している。
【図7】pH5のバッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体のhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。pH5のバッファーで処理しない場合の結合性を100%とした場合の比率を示している。
【図8】各濃度の塩酸グアニジン含有バッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体の蛍光スペクトルにおけるピーク波長をプロットした結果を示す図である。
【図9】各pHのバッファーで処理したキメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体におけるランダム構造の含量をCDで測定した結果を示す図である。
【図10】キメラ2K1抗体及びヒト化2K1抗体の熱安定性を超高感度示差走査型カロリメーターで調べた結果を示す図である。破線矢印と実線矢印はそれぞれ、キメラ2K1抗体とR2K1v1.7抗体のTmを示す。
【図11】R2K1v1.7とR2K1v0によるヒトOPNに対する細胞接着阻害効果を示す図である。
【図12】サルコラーゲン誘導関節炎における関節腫張に対するR2K1v1.7の効果を示す図である。データは、コントロール群、25mg/kg群及び50mg/kg群当たり、それぞれ、8動物、7動物及び5動物の平均±SEを示す。*p<0.05、**p<0.01:Dunnet型多重比較検定によってコントロール群とは有意に異なる。
【図13】精製R2K1v1.7−scFvのHPLCによる分析結果を示す図である。
【図14】精製R2K1v1.7−scFvのhOPN5ペプチドに対する結合性をELISA法で調べた結果を示す図である。
【図15】完全分子型R2K1v1.7抗体、R2K1v1.7抗体のF(ab’)2及び精製F(ab’)2−PEGのSDS−PAGE結果を示す図である。
【図16】R2K1v1.7のF(ab’)2−PEGのhOPN5ペプチドに対する結合性をBIAcoreで調べた結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項2】
前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1である、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項3】
前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項4】
前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1であり、前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項5】
配列番号25に示されるアミノ酸配列である重鎖、及び、配列番号27に示されるアミノ酸配列である軽鎖を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6および/または7に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターが導入された宿主細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の宿主細胞を培養し、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を発現させる工程を包含する、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を生産する方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を含む、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症の治療薬。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための方法。
【請求項13】
自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の使用。
【請求項1】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項2】
前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1である、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項3】
前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項4】
前記抗体の重鎖定常領域がヒトIgγ1であり、前記抗体の軽鎖定常領域がヒトIgκである、請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項5】
配列番号25に示されるアミノ酸配列である重鎖、及び、配列番号27に示されるアミノ酸配列である軽鎖を含む、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の重鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の軽鎖可変領域をコードする配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項6および/または7に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターが導入された宿主細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の宿主細胞を培養し、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を発現させる工程を包含する、ヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を生産する方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体を含む、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症の治療薬。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための方法。
【請求項13】
自己免疫疾患、リウマチ、リウマチ性関節炎または変形性関節症を予防または処置するための医薬の製造における、請求項1〜5のいずれかに記載のヒト化抗ヒトオステオポンチン抗体の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図15】
【公開番号】特開2008−5836(P2008−5836A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144162(P2007−144162)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】
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