説明

ヒンジ機構

【課題】ガタツキのない安定した動作を確保しうるヒンジ機構を提供する。
【解決手段】固定カム面に第1及び第2扇形凸部43,44とを有した固定カム4と、回転カム面に第1及び第2扇形凹部63,64を有した回転カム6とを備えたヒンジ機構であって、噛合い位置において、第1及び第2扇形凸部43,44が第1及び第2扇形凹部63,64と噛合うと共に、第1及び第2扇形凸部43,44に設けられた内周凸部45A,45B及び外周凸部46A,46Bが第1及び第2扇形凹部63,64に設けられた内周凹部65A,65B及び外周凹部66A,66Bと噛合うよう構成する。また、噛合い位置以外の位置においては、回転カム面の各凹部以外の位置に形成された回転側凸部74,77が、固定カム面に形成された各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bの少なくとも2箇所以上において係合するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒンジ機構に係り、特に携帯電話、ノ−ト型パソコン等の電子機器の折り畳み部に使用されるヒンジ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話やノ−ト型パソコン等の電子機器では、本体部に対して蓋体部を回転可能な構成とされているものがあり、この種の電子機器には本体部と蓋体部との接合部分にヒンジ機構が配設されている。また、携帯する電子機器においては、本体部に対して蓋体部が容易に開蓋しないようにする必要がある。
【0003】
このため、凸部を有する第1カムと、これと噛合う凹部を有した第2カムとを対向するよう配置した構成のヒンジ機構が考案されている。また、この構成のヒンジ機構では、例えば第1カム(固定カム)が本体部に接続されると共に第2カム(回転カム)が蓋体部に接続され、固定カムに対して回転カムが回転することにより、本体部に対して蓋体部が回転する構成とされている(特許文献1)。
【0004】
図10は、従来のヒンジ機構の構成を説明するための概略構成図である。ヒンジ機構は固定カム100と回転カム101とを有している。固定カム100のカム面には夫々扇形形状を有した固定側扇形凸部102A,102Bと固定側扇形凹部103A,103Bが形成されている。具体的には、図中反時計方向に固定側扇形凸部102A、固定側扇形凹部103A、固定側扇形凸部102B、固定側扇形凹部103Bの順で形成されている。また、固定側扇形凸部102Aと固定側扇形凸部102Bは180°離間して配置されており、固定側扇形凹部103Aと固定側扇形凹部103Bも180°離間して配置されている。
【0005】
一方,回転カム101のカム面にも夫々扇形形状を有した回転側扇形凹部105A,105Bと回転側扇形凸部104A,104Bが形成されており、その並び順は図中時計方向に、回転側扇形凹部105A、回転側扇形凸部104A、回転側扇形凹部105B、回転側扇形凸部104Bの順に形成されている。また、回転側扇形凹部105Aと回転側扇形凹部105Bは180°離間して配置されており、回転側扇形凸部104Aと回転側扇形凸部104Bも180°離間して配置されている。
【0006】
上記構成とされた固定カム100及び回転カム101では、固定カム100の固定側扇形凸部102A,102Bと回転カム101の回転側扇形凹部105A,105Bとが噛合った(係合した)状態では、いわゆる吸い込み力が作用するため、本体部に対して蓋体部の回転を規制することができる。この吸い込み力により、本体部に対する蓋体部のガタツキを防止することができる。
【0007】
図10に示す従来の構成では、固定側扇形凸部102Aが回転側扇形凹部105Aと噛合い、固定側扇形凸部102Bが回転側扇形凹部105Bと噛合った状態(この時の回転カム101の回転角度を0°とする)と、固定側扇形凸部102Aが回転側扇形凹部105Bと噛合い、固定側扇形凸部102Bが回転側扇形凹部105Aと噛合った状態の二つ状態において吸い込み力が発生する。
【0008】
この固定側扇形凸部102Aが回転側扇形凹部105Bと噛合い、固定側扇形凸部102Bが回転側扇形凹部105Aと噛合った状態は、前記した回転角度0°の状態に対して回転カム101が180°回転した状態である。よって、従来のヒンジ機構では本体部に対して蓋体部が閉じた状態(回転角度0°の状態)と、本体部に対して蓋体部が水平に開いた状態(回転角度180°の状態)の二つの状態において、吸い込み力が発生する構成とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−196563公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、蓋体に液晶表示装置を設けた構成では、液晶表示装置に対する視認性を向上させるため、本体部に対して蓋体を所定の角度に傾いた状態で保持できるよう(チルトできるよう)にすることが望まれている。
【0011】
そこで近年電子機器においては、本体部に対して蓋体部が閉じられた一箇所のみにおいて蓋体部を本体部に係止し、この係止位置を除く他の角度範囲においては任意の角度において本体部に対して蓋体部を係止するよう構成したものが提案されている。この構成とされたヒンジ機構では、第1カムに形成される凸部と第2カムに形成される凹部の吸い込み位置は一箇所のみとなる。
【0012】
この構成は図10における従来のヒンジ機構において、固定カム100の構成を固定側扇形凸部102Aのみを残し他の部分を全て凹部とすると共に、回転カム101の構成を回転側扇形凹部105Aのみを残し他の部分を全て凸部とするのと等価の構成となる。
【0013】
この構成では、凸部と凹部が噛合った状態(吸い込みが発生している状態)ではガタツキは発生しない。しかしながら、凸部が凹部から離脱した状態では、第1カムに一箇所のみ形成された凸部が、第2カムの凹部以外の凸部上を摺動する構成となる。
【0014】
このため、第1カムと第2カムとの間には空間部分が広く形成されてしまい、凸部と平面部との当接位置を中心として第1及び第2カムが傾き、これによりヒンジ機構による回転動作にガタツキが発生してしまうという問題点が生じる。
【0015】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ガタツキのない安定した動作を確保しうるヒンジ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題は、第1の観点からは、
シャフトと、
該シャフトが挿通される第1挿通孔と、第1及び第2扇形凸部が形成された固定カム面とを有し、前記シャフトが前記第1挿通孔内で回転可能とされた固定カムと、
前記シャフトが挿通される第2挿通孔と、第1及び第2扇形凹部が形成された回転カム面とを有し、前記シャフトの軸線方向に移動可能で且つ前記シャフトに回転不能に配設された回転カムと、
前記固定カム面と前記回転カム面とを圧接させる弾性部材とを備えたヒンジ機構であって、
前記第1扇形凸部から前記挿通孔に沿って両側に延出するよう内周凸部を形成すると共に、前記第2扇形凸部から前記固定カムの外周に沿って両側に延出するよう外周凸部を形成し、
前記第1扇形凹部から前記挿通孔に沿って両側に延出するよう内周凹部を形成すると共に、前記第2扇形凹部から前記回転カムの外周に沿って両側に延出するよう外周凹部を形成し、
噛合い位置において、前記第1及び第2扇型凸部が前記第1及び第2扇形凹部と噛合うと共に、前記内周及び外周凸部が前記内周及び外周凹部と噛合うよう構成し、
前記噛合い位置以外の位置においては、前記回転カム面の前記第1及び第2扇形凹部と前記内周及び外周凹部の形成位置以外の位置に形成された凸部が、前記第1扇型凸部、第2扇型凸部、前記内周凸部、外周凸部のいずれかと係合するよう構成したことを特徴とするヒンジ機構により解決することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記の発明によれば、360°回転する間に一回係止を行う(吸い込みを発生させる)ヒンジ機構であっても、ガタツキのない安定した動作を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるヒンジ機構の断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態であるヒンジ機構を示しており、(A)は左側面図、(B)は正面図、(C)は右側面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態であるヒンジ機構を構成する固定カムを説明するための斜視図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態であるヒンジ機構を構成する回転カムを説明するための斜視図である。
【図5】図5は回転カムと固定カムを組み合わせた状態を示しており、(A)は上に固定カムが位置すると共に下に回転カムが位置した状態を示す斜視図であり、(B)は上に回転カムが位置すると共に下に固定カムが位置した状態を示す斜視図である。
【図6】図6は本発明の一実施形態であるヒンジ機構の動作を説明するための図であり、回転カムの回転角度が0°である状態を示す図である。
【図7】図7は本発明の一実施形態であるヒンジ機構の動作を説明するための図であり、回転カムの回転角度が90°である状態を示す図である。
【図8】図8は本発明の一実施形態であるヒンジ機構の動作を説明するための図であり、回転カムの回転角度が180°である状態を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態であるヒンジ機構を搭載した電子機器を示す図である。
【図10】図10は、従来の一例であるヒンジ機構を説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0020】
図1及び図2は、本発明の一実施形態であるヒンジ機構1を示している。図1はヒンジ機構1の断面図であり、図2はヒンジ機構1の外観を示している。このヒンジ機構1は、例えば図9に示すような携帯電話、ノ−ト型パソコン等の電子機器80の本体部81と蓋体部82を回転可能に接合する接合部分に配設されるものである。
【0021】
ヒンジ機構1は、大略するとシャフト2、固定カム4、回転カム6、スプリング8、ヘッド10、及びケース12等により構成されている。
【0022】
シャフト2は、図1及び図2(B)における左端部に設けられたフランジ21と、このフランジ21から図中右方向に延出する断面小判形状の小判形状部22とを一体的に形成した構成とされている。このシャフト2は、ケース12に挿入される。
【0023】
ケース12は有底筒状の形状を有しており、底面に孔12aが形成されている。シャフト2は、この孔12aからケース12内に挿入される。フランジ21の直径は、孔12aの直径よりも大きく設定されている。よって、シャフト2がケース12に挿入された際、フランジ21がケース12の底面に当接することにより位置決めが行われる。
【0024】
またシャフト2には、固定カム4及び回転カム6が装着される。1個の固定カム4と1個の回転カム6が対をなし、本実施形態ではこの固定カム4と回転カム6の対が二対設けられた構成とされている。具体的には、固定カム4及び回転カム6は、スプリング8と共に前記したシャフト2に挿通されてケース12内に装着されるが、一対の固定カム4及び回転カム6は中間にスプリング8を挟んでその両側に配設された構成とされている。
【0025】
また、各固定カム4及び回転カム6の対において、外側に固定カム4が配設されると共に内側に回転カム6が配設されている。よって、図1において左側に位置する固定カム4の外側面41はケース12の底面と当接し、右側に位置する固定カム4の外側面41はヘッド10と当接する。
【0026】
また、シャフト2の左右位置にそれぞれ配設された回転カム6は、スプリング8の弾性力により固定カム4に押圧される構成とされている。これにより、固定カム4のカム面42(固定カム面)と回転カム6のカム面62(回転カム面)は圧接された状態となる。なお、固定カム4及び回転カム6の詳細構成については、説明の便宜上、後述するものとする。
【0027】
ヘッド10は、シャフト2の図中矢印X2方向側の端部に固定される。よって、ヘッド10はシャフト2と一体的に回転する。このヘッド10は、例えば図9に示した電子機器80の蓋体部82に固定され、ケース12は本体部81に固定される。
【0028】
次に、図3〜6を用いて、固定カム4及び回転カム6の構成について詳述する。
【0029】
図3は、固定カム4を説明するための図である。固定カム4の固定カム面42は、第1扇形凸部43、第2扇形凸部44、内周凸部45A,45B、外周凸部46A,46B、及び固定側凹部52,53等が形成された構成とされている。また、固定カム4の中心位置には、シャフト2が挿通される挿通孔51が形成されている。
【0030】
第1扇形凸部43は、図10に示した従来の固定側扇形凸部102Aに対応する部分であり扇形形状を有している。また、第2扇形凸部44は、従来の固定側扇形凸部102Bに対応する部分であり扇形形状を有している。この第1扇形凸部43と第2扇形凸部44は、挿通孔51を介して対向するよう(180°離間するよう)配置されている。
【0031】
また、第1扇形凸部43と第2扇形凸部44は同一形状を有し、挿通孔51の中心軸(図中、矢印O1で示す)を中心として点対称となるよう配置されている。よって、第1扇形凸部43及び第2扇形凸部44の中心軸O1を中心とした中心角は、いずれも等しい角度(θ1)とされている。
【0032】
なお、第2扇形凸部44は固定カム4に形成された延出部55と一体的に形成されているため扇形状には見えないが、固定カム4でカムとして機能する領域は回転カム6と重なり合う円形の領域である(延出部55上におけるこの領域を一点鎖線Pで示す)。よって、第2扇形凸部44の形状は、実質的に図3及び図6に一点鎖線Pで示される扇形の形状となる。
【0033】
内周凸部45A,45Bは、第1扇形凸部43から挿通孔51に沿って両側に延出するよう形成されている。この内周凸部45A,45Bの半径方向の寸法W2(図3に矢印で示す)は、第1扇形凸部43の半径方向の寸法W1(図3に矢印で示す)の半分以下に設定されている(W2≦(W1/2))。更に、内周凸部45A,45B全体の上記の中心軸O1を中心とした中心角θ2(図6参照)は、第1扇形凸部43の中心角θ1よりも大きく、また180°よりも小さくなるよう設定されている(θ1<θ2<180°)。
【0034】
また、外周凸部46A,46Bは、第2扇形凸部44から固定カム4の外周に沿って両側に延出するよう形成されている。前記のように、固定カム4でカムとして機能する領域は回転カム6と重なり合う円形の領域である。よって、外周凸部46A,46Bは、カムとして機能する領域を示す一点鎖線Pに沿って第2扇形凸部44の両側に延出するよう形成されている。
【0035】
この外周凸部46A,46Bの半径方向の寸法W3(図3に矢印で示す)は、第2扇形凸部44の半径方向の寸法W1(図3に矢印で示す)の半分以下に設定されている(W3≦(W1/2))。更に、外周凸部46A,46B全体の上記の中心軸O1を中心とした中心角は、前記した内周凸部45A,45Bの中心角θ2と等しく設定されている(図6参照)。よって、外周凸部46A,46Bの中心角θ2も、第2扇形凸部44の中心角θ1よりも大きく、また180°よりも小さい値に設定されている(θ1<θ2<180°)。
【0036】
更に、固定カム4の固定カム面42において、前記した第1扇形凸部43、第2扇形凸部44、内周凸部45A,45B、及び外周凸部46A,46Bの形成位置以外の領域は、相対的に各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bよりも窪んだ凹部を形成している(梨地で示す)。以下、固定カム面42において、この各凸部43,44,45A,45B,46A,46B以外の窪んだ領域を固定側凹部52,53というものとする。
【0037】
また、第1扇形凸部43の両側で固定側凹部52,53との境界部分には傾斜面47A,47Bが形成され、内周凸部45A,45Bと固定側凹部52,53との境界部分には傾斜面48A,48Bが形成され、第2扇形凸部44の両側で固定側凹部52,53との境界部分には傾斜面50A,50Bが形成され、更に、外周凸部46A,46Bと固定側凹部52,53との境界部分には傾斜面49A,49Bが形成されている。この各傾斜面を形成することにより、夫々凹凸を有する固定カム面42と回転カム面62が圧接されつつ回転しても、その回転を円滑に行うことが可能となる。
【0038】
上記の固定カム4は、ケース12に固定される。この際、固定カム4は挿通孔51にシャフト2が挿通された状態でケース12内に配設されるが、シャフト2は挿通孔51内で自在に回転しうるよう構成されている。
【0039】
図4は、回転カム6を説明するための図である。回転カム6の回転カム面62は、第1扇形凹部63、第2扇形凹部64、内周凹部65A,65B、外周凹部66A,66B、及び回転側凸部74,77等が形成された構成とされている(各凹部を梨地で示す)。また、回転カム6の中心位置には、シャフト2が挿通される小判形孔71が形成されている。
【0040】
第1扇形凹部63は、図10に示した従来の回転側扇形凹部105Aに対応する部分であり扇形形状を有している。また、第1扇形凹部63は、従来の回転側扇形凹部105Bに対応する部分であり扇形形状を有している。この第1扇形凹部63と第2扇形凹部64は、小判形孔71を介して対向するよう(180°離間するよう)配置されている。
【0041】
また、第1扇形凹部63と第2扇形凹部64は同一形状を有し、小判形孔71の中心軸(図中、矢印O2で示す)を中心として点対称となるよう配置されている。よって、第1扇形凹部63及び第2扇形凹部64の中心軸O2を中心とした中心角はいずれも等しく、かつ前記した固定カム4の第1及び第2扇形凸部43,44の中心角と等しい角度(θ1)とされている。
【0042】
更に、第1及び第2扇形凹部63,64の平面視した形状は、前記した固定カム4の第1及び第2扇形凸部43,44の形状と対応するよう構成されている。具体的には、後述するように固定カム4と回転カム6とが所定の噛合い位置にある時、第1及び第2扇形凹部63,64と第1及び第2扇形凸部43,44は、噛合うよう構成されている。
【0043】
内周凹部65A,65Bは、第1扇形凹部63から小判形孔71に沿って両側に延出するよう形成されている。この内周凹部65A,65Bの半径方向の寸法W4(図4に矢印で示す)は、第1扇形凹部63の半径方向の寸法W1(図4に矢印で示す)の半分以下に設定されている(W4≦(W1/2))。更に、内周凹部65A,65B全体の上記の中心軸O2を中心とした中心角θ2(図6参照)は、第1扇形凹部63の中心角θ1よりも大きく、また180°よりも小さくなるよう設定されている(θ1<θ2<180°)。
【0044】
また内周凹部65A,65Bの平面視した形状は、前記した固定カム4の内周凸部45A,45Bの形状と対応するよう構成されている。具体的には、後述するように固定カム4と回転カム6とが所定の噛合い位置にある時、内周凹部65A,65Bと内周凸部45A,45Bとは噛合うよう構成されている。
【0045】
また、外周凹部66A,66Bは、第2扇形凹部64から回転カム6の外周に沿って両側に延出するよう形成されている。この外周凹部66A,66Bの半径方向の寸法W5(図4に矢印で示す)は、第2扇形凹部64の半径方向の寸法W1(図4に矢印で示す)の半分以下に設定されている(W5≦(W1/2))。更に、外周凹部66A,66B全体の上記の中心軸O2を中心とした中心角は、前記した内周凹部65A,65Bの中心角θ2と等しく設定されている。よって、外周凹部66A,66Bの中心角θ2も、第2扇形凹部64の中心角θ1よりも大きく、また180°よりも小さい値に設定されている(θ1<θ2<180°)。
【0046】
更に、回転カム6の回転カム面62において、前記した第1扇形凹部63、第2扇形凹部64、内周凹部65A,65B、及び外周凹部66A,66Bの形成位置以外の領域は、相対的に各凸部63,64,65A,65B,66A,66Bよりも突出した凸部を形成している。以下、固定カム面62において、この各凹部63,64,65A,65B,66A,66B以外の突出した領域を回転側凸部74,77というものとする。
【0047】
回転側凸部74,77は、外周に位置する外周凸部75,78と、これよりも内周に位置する内周凸部76,79とにより構成されている。外周凸部75,78は回転カム6の外周縁に沿って形成されている。また、内周凸部76,79は小判形孔71に沿って形成されている。また、回転側凸部74,77の半径方向に対する寸法は、外周凹部66A,66Bの寸法W5と等しく、また内周凸部76,79の半径方向に対する寸法は、内周凹部65A,65Bの寸法W4と等しく設定されている。
【0048】
また、第1扇形凹部63の両側で回転側凸部74,77との境界部分には傾斜面67A,67Bが形成され、内周凹部65A,65Bと回転側凸部74,77との境界部分には傾斜面68A,68Bが形成され、第2扇形凹部64の両側で回転側凸部74,77との境界部分には傾斜面70A,70Bが形成され、更に、外周凹部66A,66Bと回転側凸部74,77との境界部分には傾斜面69A,69Bが形成されている。この各傾斜面を形成することによっても、夫々凹凸を有する固定カム面42と回転カム面62が圧接されつつ回転しても、その回転を円滑に行うことが可能となる。
【0049】
上記の回転カム6は、シャフト2と共に回転するようケース12内に配設される。即ち、回転カム6は小判形孔71にシャフト2が挿通された状態でケース12内に配設される。この際、小判形孔71の形状は小判形状とされ、かつシャフト2の断面形状もこれに対応する小判形状とされている。このため、回転カム6は2に対して回転不能な構成となっている。しかしながら、回転カム6は、ケース12内でシャフト2の軸線方向(図1に矢印X1,X2で示す方向)に対しては移動可能な構成となっている。
【0050】
上記構成とされた固定カム4と回転カム6は、前記のようにスプリング8により固定カム4及び回転カム6の各カム面42,63が当接(圧接)される。また、スプリング8はシャフト2に挿通されることにより、シャフト2と同軸的に配置された構成となっている。このスプリング8の弾性力により、各カム面42,62間にはトルクが発生する。
【0051】
次に、主に図6〜8を用いて、上記構成とされたヒンジ機構1の動作について説明する。
【0052】
なお、前記のように固定カム4と回転カム6は、ケース12内において固定カム面42と回転カム面62が圧接されるよう組み合わされている(図2及び図5参照)。しかしながら、図6〜8では説明の便宜上、実際は圧接されている固定カム4と回転カム6を展開して示している。従って、例えば図6を例に挙げると、実際は第1扇形凸部43と第1扇形凹部63とが圧接され、第2扇形凸部44と第2扇形凹部64とが圧接している。また図7及び図8においても、図6と同様な展開方法で図示を行っている。
【0053】
図6は、固定カム4の各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bが、回転カム6の各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bに噛合った状態(係合した状態)を示している。具体的には、第1扇形凸部43が第1扇形凹部63に噛合い、第2扇形凸部44が第2扇形凹部64に噛合い、内周凸部45A,45Bが内周凹部65A,65Bと噛合い、外周凸部46A,46Bが外周凹部66A,66Bと噛合った状態となっている。
【0054】
前記のように、各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bの形状と、各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bの形状は対応している。また、固定側凹部52,53の形状も、当然に回転側凸部74,77の形状と対応している。
【0055】
従って、回転カム6の回転に伴い固定カム4と回転カム6が、各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bと、回転カム6の各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bとが対向する位置(以下、この位置を噛合い位置という)に至ると、各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bと、回転カム6の各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bは噛合った状態となる。
【0056】
この噛合い位置を図9における本体部81に対して蓋体部82が閉じた位置(図中、蓋体部82aで示す位置)に設定しておくことにより、噛合い位置において吸い込み作用(トルクが増大する作用)を発生させることができる。このため、蓋体部82aを閉蓋位置で規制することができ、蓋体部82aにガタツキが発生することを防止することができる。なお、この時の本体部81と蓋体部82aとのなす角度を0°とし、本体部81と蓋体部82aとの状態を閉蓋状態という。
【0057】
本実施形態では、各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bの形状と、各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bは、噛合い位置位置でのみ噛合いが発生する構成とされている。即ち、本実施形態に係るヒンジ機構1では、固定カム4に対して回転カム6が360°回転する際に、一回のみ噛合いが行われ、これによる吸い込み作用が発生する構成となっている。よって、本体部81に対して蓋体部82が閉じられた時(閉蓋状態)にのみ上記の吸い込み作用が発生し、蓋体部82を閉蓋状態に係止することができる。
【0058】
図7は、噛合い位置から回転カム6が矢印A方向に90°回転した状態(以下、90°回転状態という)を示している。この90°回転状態は、図9における本体部81に対して蓋体部82が直角に開かれた状態(この状態の蓋体部を符号82bで示す)に対応する。
【0059】
回転カム6が矢印A方向に回転することにより、各凸部43,44,45A,45B,46A,46Bの形状と、各凹部63,64,65A,65B,66A,66Bの噛合いは解除され、吸い込み作用(トルクが増大する作用)もなくなる。
【0060】
この90°回転状態では、第1扇形凸部43は回転側凸部77の中央位置(外周凸部78と内周凸部79が接続する位置)に係合しており、内周凸部45Bは回転側凸部77の内周凸部79と係合している。また、第2扇形凸部44は回転側凸部74の中央位置(外周凸部75と内周凸部76が接続する位置)に係合しており、外周凸部46Aは回転側凸部74の外周凸部75と係合している。
【0061】
即ち、本実施形態に係るヒンジ機構1は、90°回転状態において、回転側凸部74は第2扇形凸部44及び外周凸部46Aの2箇所と係合しており、また回転側凸部77は第1扇形凸部43及び内周凸部45Bの2箇所と係合している。
【0062】
図8は、90°回転状態から更に回転カム6が矢印A方向に90°回転した状態(以下、180°回転状態という)を示している。この180°回転状態は、図9における本体部81に対して蓋体部82が水平に開かれた状態(この状態の蓋体部を符号82cで示す)に対応する。
【0063】
この180°回転状態では、内周凸部45Aは回転側凸部77の内周凸部79に係合しており、内周凸部45Bは回転側凸部74の内周凸部76と係合している。また、外周凸部46Aは回転側凸部77の外周凸部78に係合しており、外周凸部46Bは回転側凸部74の外周凸部75と係合している。
【0064】
よって本実施形態に係るヒンジ機構1は、180°回転状態において、回転側凸部74は内周凸部45B及び外周凸部46Bの2箇所と係合しており、また回転側凸部77は内周凸部45A及び外周凸部46Aの2箇所と係合している。
【0065】
このように本実施形態に係るヒンジ機構1では、噛合い位置以外の位置においては、回転カム6に形成された回転側凸部74,77が、固定カム4に形成された第1扇形凸部43と、第2扇形凸部44と、内周凸部45A,45Bと、外周凸部46A,46Bとから選択される少なくとも2箇所以上において係合するよう構成されている。よって、固定カム4と回転カム6の位置が噛合い位置以外の位置であっても、固定カム4と回転カム6との間にガタツキが発生するようなことはなく、安定した回転動作を実現することができる。
【0066】
なお、噛合い位置以外の位置においては、上記のように回転カム6に形成された回転側凸部74,77が、固定カム4に形成された各凸部43、44、45A,45B、46A,46Bと2箇所以上において係合するが、この際スプリング8の弾性力により各凸部43、44、45A,45B、46A,46Bと回転側凸部74,77は圧接される。よって、両者の間に発生する摩擦力により、ヒンジ機構1を電子機器80に装着した場合、蓋体部82を本体部81に対してフリーストップする(任意の回転角度に係止する)ことが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では上記のように噛合い位置以外の位置において回転カム6に形成された回転側凸部74,77が、固定カム4に形成された各凸部43、44、45A,45B、46A,46Bと2箇所以上において係合する構成しているが、この係合箇所は2箇所に限定されるものではなく、3箇所以上において係合するよう構成することも可能である。この構成により、更に回転動作の安定化を図ることができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0069】
1 ヒンジ機構
2 シャフト
4 固定カム
42 固定カム面
43 第1扇形凸部
44 第2扇形凸部
45A,45B 内周凸部
46A,46B 外周凸部
51 挿通孔
52,53 固定側凹部
6 回転カム
62 回転カム面
63 第1扇形凹部
64 第2扇形凹部
65A,65B 内周凹部
66A,66B 外周凹部
71 小判形孔
74,77 回転側凸部
75,78 外周凸部
76,79 内周凸部
80 電子機器
81 本体部
82,82a〜82c 蓋体部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
該シャフトが挿通される第1挿通孔と、第1及び第2扇形凸部が形成された固定カム面とを有し、前記シャフトが前記第1挿通孔内で回転可能とされた固定カムと、
前記シャフトが挿通される第2挿通孔と、第1及び第2扇形凹部が形成された回転カム面とを有し、前記シャフトの軸線方向に移動可能で且つ前記シャフトに回転不能に配設された回転カムと、
前記固定カム面と前記回転カム面とを圧接させる弾性部材とを備えたヒンジ機構であって、
前記第1扇形凸部から前記挿通孔に沿って両側に延出するよう内周凸部を形成すると共に、前記第2扇形凸部から前記固定カムの外周に沿って両側に延出するよう外周凸部を形成し、
前記第1扇形凹部から前記挿通孔に沿って両側に延出するよう内周凹部を形成すると共に、前記第2扇形凹部から前記回転カムの外周に沿って両側に延出するよう外周凹部を形成し、
噛合い位置において、前記第1及び第2扇型凸部が前記第1及び第2扇形凹部と噛合うと共に、前記内周及び外周凸部が前記内周及び外周凹部と噛合うよう構成し、
前記噛合い位置以外の位置においては、前記回転カム面の前記第1及び第2扇形凹部と前記内周及び外周凹部の形成位置以外の位置に形成された凸部が、前記第1扇型凸部、第2扇型凸部、前記内周凸部、外周凸部のいずれかと係合するよう構成したことを特徴とするヒンジ機構。
【請求項2】
前記噛合い位置以外の位置において、
前記回転カム面の前記第1及び第2扇形凹部と前記内周及び外周凹部の形成位置以外の位置に形成された凸部が、前記第1扇型凸部、第2扇型凸部、前記内周凸部、及び外周凸部の少なくとも2箇所以上において係合するよう構成したことを特徴とする請求項1記載のヒンジ機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−57760(P2012−57760A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203617(P2010−203617)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000176833)三菱製鋼株式会社 (69)
【Fターム(参考)】