ヒータ及び像加熱装置
【課題】ヒータに過剰電力が投入された時に、可及的にヒータの昇温を低減し、安全素子動作とヒータ割れとの時間マージンをより確保することができるヒータを提供する。
【解決手段】長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層を有するヒータにおいて、前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とする。
【解決手段】長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層を有するヒータにおいて、前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱材を加熱するヒータ、特に、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に搭載される定着装置等に適したヒータおよびそれを用いた像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に使用される定着装置として、被加熱材としての記録材に形成されたトナーを加熱溶融し、記録材上に定着させる熱定着方式が一般的に使用されている。このような、熱定着方式においては、近年、フィルム状のエンドレスベルトを使用した、フィルム定着方式の定着法が提案されている。
【0003】
このような、フィルム定着装置においては、一般的に、絶縁基板上に抵抗発熱体を設けたセラミックヒータと称されるヒータが用いられている。ヒータの詳細は、例えば特許文献1において開示されている。
【0004】
図8に、このようなヒータの一例を示す。
このヒータ900は、基板901、抵抗発熱体902及び電極903により構成される。基板901は、アルミナ等の絶縁性のセラミックよりなり、抵抗発熱体902は、任意の導電剤をスクリーン印刷等、既知の方法により塗布または基板901上に固定している。電極903を介して、抵抗発熱体902に電流を流し、抵抗発熱体902が発熱することにより、定着装置のヒータとして作用する。
また、ヒータ900には、一般的に絶縁層904が形成される。絶縁層904の材料としては、樹脂や耐圧ガラスが用いられる。
【0005】
図8に示したヒータ900では、抵抗発熱体902は一本で構成されるが、特許文献2に示されているように、抵抗発熱体902を複数設け、基板901上を往復させることで、より定着効率やコストに優れたヒータを供することも可能である。
【0006】
図9は、抵抗発熱体を複数設けたヒータの一例である。
ヒータ1000は、二本の抵抗発熱体1002を、導電部1005を介して基板1001上を長手方向に沿って往復させる形で構成している。1004は、抵抗発熱体1002を覆う絶縁層である。この構成により、基板1001の長手方向と直交する幅方向(基板1001の短手方向)に、広く発熱領域が分布することになり、熱効率の観点からより有利となる。
【0007】
また、抵抗発熱体1002が、基板1001上を往復しているため、電極1003は長手方向片側に集中することで、電極1003に接続するためのコネクタも、端部一箇所に設けるだけでよい。このため、定着装置の小型化や、低コスト化に際して有利となる。
【0008】
さらに、抵抗発熱体1002は、長手に均一な幅ではなく、部分的に幅を変化させることで、長手上の発熱量に分布を持たせることが可能である。このようなヒータは、特許文献3に開示されている。
基板1001の長手方向と直交する短手方向において、抵抗発熱体1002の幅を部分的に狭くする事により、その部分の単位長さあたりの抵抗を大きくし、発熱量を大きくする事が可能である。
【0009】
図10に、基板1101の長手方向において抵抗発熱体1102に発熱量の分布を持たせたヒータ1100の例を示す。
【0010】
基板1101上において導電部1105を介して接続された二本の抵抗発熱体1102は、長手端部で該長手端部以外の場所よりも幅を小さく構成している。なお、1103は導電部1105に接続される電極、1104は絶縁層である。
【0011】
抵抗発熱体1102の長手端部においては、抵抗発熱体1102の末端部分において熱が逃げやすい傾向があるため、中央部に比べて温度が低下する傾向がある。このため、抵抗発熱体1102の長手端部において、抵抗発熱体1102の端部の幅を絞り、発熱量を多くすることは、長手端部の定着性能を確保するために有効である。
【0012】
また、絶縁層1104の抵抗発熱体間に空隙を設けることで、より安全な定着装置を提供することが出来る。このようなヒータは特許文献4に開示されている。
図11には、抵抗発熱体1202を被覆する絶縁層1204に抵抗発熱体間において空隙を持たせたヒータの一例を示す。図11において、抵抗発熱体1202間に絶縁層1204が存在すると、温度上昇に伴う絶縁層1204の低抵抗化から、抵抗発熱体1202間の絶縁層1204にリークが発生し大電流が流れる。この大電流による発熱量増大から、ヒータの熱応力割れの可能性が高くなる。
そこで、この例では絶縁層1204に空隙Sを設けることでリークを抑え、過剰な発熱を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−17225号公報(セラミックヒータの例)
【特許文献2】特開2006−179303号公報(往復発熱体を有するセラミックヒータの例)
【特許文献3】特許第2600835号公報(長手上の発熱量に分布を持たせた定着ヒータの例)
【特許文献4】特開2006−179303号公報(抵抗発熱体を被覆する絶縁層が抵抗発熱体間において空隙を有する定着ヒータの例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、画像形成装置の高速化、カラー化が求められている。これに伴い、ヒータたるヒータにも、より大電力を投入し、発熱量を全体的に大きくする必要が生じている。
高速化に際しては、より短い時間でより多くの熱量を転写材に与える必要があるため、ヒータの発熱量も大きくしなければならない。また、カラー化に際しては、定着性向上のために定着フィルム上に弾性層が設けられたことにより、定着フィルムとしての熱伝導性低下を補うにあたり、熱量を余計に与える必要がある。とりわけ、定着装置のオンデマンド性を確保するためには、定着装置を速やかに所定温度に立ち上げる必要があるため、通常のフィルム定着装置に比べて大きな電力が必要になる。
【0015】
このように、画像形成装置の高速化,カラー化に伴い、ヒータに投入される電力が大きくなると、定着装置が制御不能となり、大電力が連続して投入された状態に陥った際に、ヒータが割れるという問題が顕在化する。
【0016】
ヒータ割れが発生する原因は、ヒータが高温になることで発生する熱応力にある。また、ヒータが約1000℃近辺でヒータ割れが発生する。ヒータ割れの対策として、上記した特許文献4では、絶縁層に空隙を設けているものの、その効果には限界がある。
【0017】
通常、ヒータに設置されている安全素子の動作によりヒータ割れが生じる前にヒータへの電力供給を遮断するようになっている。しかし、安全素子動作タイミングのバラつきを考慮すると、安全素子動作とヒータ割れとの安全上、十分な時間マージンを確保するのが高速化に伴い難しくなってきている。
【0018】
本発明は上記した従来技術の問題を解決するためになされたもので、その目的は、ヒータに過剰電力が投入された時に、可及的にヒータの昇温を低減し、安全素子動作とヒータ割れとの時間マージンをより確保することができるヒータ及び像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を解決するための、本発明は、長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層を有するヒータにおいて、前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とする。
また、可撓性スリーブと、可撓性スリーブの内周に接触するヒータと、可撓性スリーブの外周面に接触しており前記ヒータと共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部にて被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する構成の像加熱装置において、前記ヒータとして上記構成のヒータを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、絶縁保護層および基板に、複数の抵抗発熱体の間を離間させる空隙を設けたので、大電力が連続して投入された時に、複数の抵抗発熱体間でのリークの発生が可及的に抑制される。したがって、ヒータの昇温を低減し、安全素子動作とヒータ割れとの時間マージンを十分確保することで、ヒータ割れ発生の可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係るヒータを示すもので、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係るヒータの構成を示す平面図である。
【図3】本発明のヒータが適用可能な定着装置を備えた画像形成装置の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明のヒータが適用される定着装置の構成例を示す模式図である。
【図5】図4のヒータの電力制御回路を示す回路図である。
【図6】(a)、(b)は、比較例のヒータの電力投入時の電流推移、温度推移を示す図である。
【図7】(a)、(b)は、本発明の実施例1に係るヒータの電力投入時の電流推移、温度推移を示す図である。
【図8】従来のセラミックヒータ(発熱体一本タイプ)の平面図である。
【図9】従来のセラミックヒータ(往復発熱体タイプ)の平面図である。
【図10】ヒータ長手方向で発熱分布のある従来のヒータの平面図である。
【図11】絶縁層が抵抗発熱体間において空隙を有する従来のヒータの平面図である。
【図12】比較例のヒータの構成を示すもので、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
(1)画像形成装置例
まず、本発明のヒータが適用可能な定着装置が搭載される画像形成装置の構成例について説明する。
【0024】
図3は、画像形成装置の一例の構成図である。この例に示す画像形成装置は、電子写真画像形成プロセス利用のレーザープリンタである。
図において、401は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下「感光ドラム」と記す)であり、感光ドラム401の表面は帯電装置としての帯電ローラ402によって所定の極性・電位に一様に帯電される。
【0025】
次に、その帯電面に対して露光手段としてのレーザースキャナ403により画像情報の書き込み露光がなされる。即ちレーザースキャナ403は画像情報の時系列電気デジタル画像信号に応じてON/OFF制御(変調制御)されたレーザービームLで回転感光ドラム401の一様帯電処理面を露光する。これにより感光ドラム401の一様帯電面の露光部電位が減衰して感光ドラム面に画像情報の静電潜像が形成される。
【0026】
この静電潜像は、現像装置404でトナー画像として現像、可視化される。可視化されたトナー像は、感光ドラム401とこれに圧接させた接触転写装置としての転写ローラ406との圧接部である転写ニップ部Aにおいて、被加熱材としての転写材Pの面に対して感光ドラム401面より転写される。転写材Pは、不図示の給紙機構部から所定の制御タイミングにて給紙される。
即ち、転写材Pは、感光ドラム401上のトナー画像の画像形成位置と転写材Pの先端の書き出し位置が合致するようにレジストローラ405により挟持搬送される。転写ニップ部Aにおいて、感光ドラム401と転写ローラ406とにより、一定の加圧力で挟持搬送され、感光ドラム401面上のトナー画像が転写材P上に電気力と圧力で転写される。
【0027】
転写ニップ部Aを通過した転写材Pは、回転する感光ドラム401から分離され、搬送系408により入り口ガイド409を介して定着装置Fへと搬送され、定着装置Fによって、未定着トナー画像が転写材面に永久画像として加熱定着される。画像定着を受けた転写材Pは排紙機構部(不図示)に搬送される。
一方、転写材分離後の感光ドラム401上に残存する転写残りの残留トナーは、クリーニング装置407により感光ドラム401表面より除去され、感光ドラム401は繰り返して作像に供される。
【0028】
(2)定着装置F
図4は、定着装置Fの一例の構成模型図である。本実施例に示す定着装置は、可撓性ス
リーブとして定着フィルムを用いた加圧ローラ駆動方式(テンションレスタイプ)の定着装置である。
【0029】
1)定着装置Fの全体的構成
本実施例におけるフィルム方式の定着装置Fは、定着フィルム111と、定着フィルム111の内周に接触するヒータ100と、定着フィルム111の外周面に接触しておりヒータ100と共にニップ部を形成する加圧ローラ114と、を有している。
そして、ニップ部にて被加熱材としての転写材Pを挟持搬送しつつ加熱し、未定着トナー像を加熱定着する。
【0030】
ヒータ100はヒータホルダ115に保持され、また、ヒータ100の温度調整をするために、温度を検出するサーミスタ113が配置されている。
定着フィルム111は可撓性スリーブであり、基層、導電性プライマ層、および離型性
層の三層で構成されている。フィルム基層は、絶縁性の高いポリイミド、ポリアミド、PEEK等が用いられ、高耐熱性を有しており、厚み15〜60ミクロン程度で形成され、定着フィルム111全体の引裂強度等の機械的強度を保っている。本実施例においては、厚み50μmのポリイミド製エンドレスフィルムを基層として用いている。
【0031】
プライマ層は、本実施例においては、ポリアミド樹脂とフッ素樹脂のディスパージョンを混合したものを、ディッピングにて形成しており、厚みは2〜6μm程度である。プライマ層は、基層と、後述する離型性層との接着強度を確保するための層である。
【0032】
離型性層は、PTFE、PFA等のフッ素樹脂をディッピングで形成するか、フッ素チューブの形であらかじめ形成したものを基層に被覆する等の方法により設けられる。フッ素樹脂を用いるのは、トナーとの離型性を確保し、トナー等の付着による定着フィルムの汚れを防止するためである。従って、上記目的を達成することが出来るならば、フッ素樹脂以外の材料を用いても構わない。本実施例においては、PTFEおよびPFAを7:3の割合で混合した水性ディスパージョンに、酸化チタンを30重量%分散したものをディッピング塗工により形成している。
【0033】
ヒータホルダ115は、断面が略半円弧形状で、樋型の耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂の成型品である。ヒータホルダ115の下面に該ホルダの長手に沿ってヒータ100が配設してある。定着フィルム111はこのヒータホルダ115にルーズに外嵌させてある。本実施例のヒータホルダ115は、ヒータ100を保持する機能だけでなく、定着フィルム111をガイドする役割を果たす。本実施例においては、液晶ポリマーとして、デュポン社のゼナイト7755(商品名)を使用した。ゼナイト7755の最高使用可能温度(
耐熱温度)は、約270℃である。
【0034】
サーミスタ113は、ヒータ100の裏面に接触させて設置してあり、ヒータ100の温度を検知する。サーミスタ113は、温度制御手段としてのCPU117と電気的に接続されている。CPU117は、サーミスタ113の出力に基づいてヒータ駆動手段としてのトライアック118をON・OFF制御する。
【0035】
トライアック118はサーミスタ113の検知温度が所定の制御温度(目標温度)を維持するようにヒータ100(正確には後述する発熱抵抗体102)への通電を制御している。これにより、ヒータ100の温度が一定に保たれ、転写材P上のトナー像定着に供される。本実施例の制御温度は例えば180℃である。
【0036】
119は安全素子としてのサーモスイッチである。サーモスイッチ119は、ヒータ100の裏面に接触して設置してある。サーモスイッチ119は、定着装置Fが制御不能な状態となった際に、ヒータ100への通電が停止されず、電力が投入されつづけることによる定着装置の破壊を防止するために設けられている。サーもスイッチ119は、ヒータ100の温度が一定以上になった場合、ヒータ100への通電を遮断し、安全に定着装置を停止させる。
【0037】
加圧ローラ114は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、厚み約3mmのシリコーンゴム層を形成し、その上に厚み約40μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。この加圧ローラ114は芯金の両端部を装置フレーム116の不図示の奥側と手前側の側板間に回転自由に軸受保持させて配設してある。この加圧ローラ114の上側に、前記のヒータ100,ヒータホルダ115,定着フィルム111等から成る加熱アセンブリが、ヒータ100側を下向きにして加圧ローラ114に並行に配置される。ヒータホルダの両端部は、不図示の加圧機構により、片側74N(7.5kgf)、総圧147N(15kgf)の力で加圧ローラ2方向に附勢している。これにより、加熱定着に必要な所定幅の定
着ニップ部Nが形成させる。加圧機構は、圧解除機構を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除し、転写材Pの除去が容易な構成となっている。
【0038】
120は、装置フレーム116に組付けた入り口ガイドであり、112は定着排紙ローラである。入り口ガイド120は、転写ニップAを抜けた転写材Pが、定着ニップ部Nに正確に進入するよう、転写材Pを導く役割を果たす。
加圧ローラ114は加圧部材であり、駆動機構Mにより矢印の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。加圧ローラ114が回転すると摩擦力により定着フィルム111が従動回転する。定着フィルム111の内面にはグリスが塗布され、ヒータ111やヒータホルダ115と定着フィルム111内面との摺動性を確保している。
【0039】
記録材としての転写材Pが定着ニップ部Nで挟持搬送されることにより、転写材Pに形成されたトナー像が、加熱定着される。定着ニップ部Nを通過した転写材Pは、定着フィルム111の曲率により自然に定着フィルムから分離され、定着排紙ローラ112で排出される。
【0040】
2)ヒータ100の説明
以下に、本発明のヒータの形態を詳述する。
図1において、(a)はヒータ100を長手方向上面より見た平面図、(b)はヒータ100を長手方向に直交する短手方向において垂直な面で切断した縦断面図である。
【0041】
ヒータ100は、基板101と、抵抗発熱体102と、導体部としての電極103および導電部105と、絶縁保護層としての絶縁層104等を有している。
長尺の基板101と、基板101の長手方向に沿って平行に設けられた複数の抵抗発熱体102と、抵抗発熱体102に接続する導体部としての電極103と、複数の抵抗発熱体102を被覆する絶縁保護層104とを有する。
【0042】
そして、絶縁保護層104および基板101には、複数の抵抗発熱体102の間に空隙Sが形成されている。この空隙Sは、複数の抵抗発熱体102の長手方向の長さ全域に形成されている。
細長い板状の基板101は、窒化アルミやアルミナ等の、絶縁性のセラミックや、SUS等の金属板にガラスコートを施す等の手段により、絶縁保護層を設けたものを用いることが出来る。本実施例においては、基板101として、窒化アルミの厚み1.0mmの板を用いた。
【0043】
空隙Sは細長い矩形状で、基板101を表面から裏面側まで抜いた長尺の透孔によって構成される。この空隙Sの基板101の短手方向の幅tは、抵抗発熱体102の間に形成されるもので、抵抗発熱体102の長手方向の長さ全域に有するように形成される。空隙Sの幅tは、たとえば、0.8mm程度に設定される。
【0044】
基板101上において、基板101の長手方向に沿って設けられた抵抗発熱体102については、導電ペーストを基板101上に塗布したり、ニクロム線等を基板101上に接着等既知の方法で固定したものを用いても良い。また、抵抗発熱体102は、基板101上に直接形成される必要は無く、例えば、基板101への熱の拡散を防止するためのグレーズ層を介しても良い。
【0045】
本実施例においては、基板101の、転写材Pの画像面側に、銀・パラジウム合金を含んだ導電ペーストをスクリーン印刷法によって均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより、抵抗発熱体102を形成した。
【0046】
本実施例に用いた発熱抵抗体102の抵抗値は、50Ωとした。これにより、264Vの電圧が投入された際の定着ヒータ100の消費電力は、1394Wとなる。
【0047】
抵抗発熱体102は、長手中央部の幅1.5mmの太さで、長手方向に二本、並行に形成されている。二本の抵抗発熱体102間の距離は1.55mmである。二本の抵抗発熱体102において、電極103の反対側の長手端部は導電部105を介して電気的に接続されている。導電部105も基板上にスクリーン印刷法によって形成されている。
【0048】
抵抗発熱体102は、長手両端部において、他の部分よりも幅の狭い領域(以下「絞り部」と記す)102a,102bを有する。基板101の短手方向において抵抗発熱体102の幅を狭く絞ることによって、絞り部102a,102bで抵抗発熱体102の抵抗が大きくなり、同じ値の電流が流れた際の発熱量が大きくなる。
これにより、絞り部102aを有する長手端部においては、基板101を通じて長手端部方向へ逃げる熱を補い、長手に均一な温度に発熱するようにしている。本実施例においては、絞り部102a、102bの発熱体幅をその他の部分に対して7%狭くし、発熱体幅を1.395mmとしている。
【0049】
電極103は、定着装置や画像形成装置の電源より、抵抗発熱体102に電力を供給するための接点として機能するものである。本実施例においては、銀ペーストを、抵抗発熱体102と同様、スクリーン印刷法により均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより形成した。電極103は、基板101上に二箇所形成され、それぞれ抵抗発熱体102に接続されることにより、電極103を通してAC電圧が抵抗発熱体102に印加される。
【0050】
絶縁層104は、ガラスや樹脂等の絶縁物により形成され、抵抗発熱体102、電極103および導電部105の絶縁耐圧を確保するために設けられる。本実施例においては、絶縁ガラスによる保護層を80μmの厚みでスクリーン印刷を行うことにより、抵抗発熱体102と、電極103および導電部105の一部を被覆している。すなわち、絶縁層104は、基板101の長手方向において各抵抗発熱体102と、各抵抗発熱体と接続する電極103および導電部105の一部を個別に被覆する形状に形成される。
【0051】
本実施例の画像形成装置には、ヒータ100に電力を供給するための電源回路およびヒータ100への電力供給を制御するための制御回路等からなる電力制御系が内蔵されている。図5は、電力制御系の一例のブロック図である。
【0052】
このヒータ温度制御系において、一方の電源回路では、ACの電源501と、リレー502と、トライアック118と、電源501からの供給電力により発熱するヒータ100とが直列に接続されて回路が構成されている。
【0053】
また他方の制御回路では、サーミスタ113と、A/D変換器504と、CPU117と、トライアック118が直列に接続された回路が構成されている。
リレー502は、CPU117とリレー信号線503を介して接続されており、CPU117からの指令信号によりオープン状態となり、電源501とヒータ100の間を遮断するものである。
【0054】
3)ヒータ過剰電力投入試験についての詳述
本実施例に示すヒータ100を用いて、ヒータ過剰電力投入試験を実施した。
過剰電力投入試験条件としては、ヒータの電極103に直接、最大電力が連続して入力される状態にした。電圧は、200V圏で最も電圧の高い地域の定格240Vに対し、10%増しの電圧、即ち、264Vを印加する設定をした。
【0055】
4)ヒータ過剰電力投入試験結果
上記条件において、5回の過剰電力投入試験を実施し、ヒータ100の割れが発生するまでの時間を計測したところ、最大3.8秒、最小3.5秒、平均3.6秒であった。
【0056】
5)比較例
図12に、比較例において使用するヒータ300の形状を示す。(a)はヒータ300を長手方向上面より見た平面図、(b)はヒータ300を長手方向に直交する短手方向において垂直な面で切断した縦断面図である。
【0057】
図12に示すように、本比較例におけるヒータ300の抵抗発熱体302は、ほぼ実施例1におけるヒータ100の場合と同様に形成されるが、基板301の短手方向において抵抗発熱体間に空隙を設けていないことが異なる。すなわち、抵抗発熱体間にも基板が存在する構成となっている。
【0058】
本比較例のヒータ300を、実施例1と同様のヒータ過剰電力投入試験を実施した。
その結果、ヒータ300の割れが発生するまでの時間は、最大3.3秒、最小3.0秒、平均3.2秒であった。
【0059】
本比較例と実施例1を比較すると、比較例に比べ、実施例1では最大+0.5秒、最小+0.5秒、平均+0.4秒と、ヒータ割れまでの時間マージンを向上することが出来ている。
【0060】
また、ヒータ300の割れが発生した箇所は、全て、電極側の抵抗発熱体302の絞り部302aであった。更に、ヒータ300に流れる電流波形を図6(a)、電極側の抵抗発熱体絞り部302aの時系列温度変化を図6(b)に示す。
実施例1のヒータ100においても、同様に電流波形を図7(a)、電極側の抵抗発熱体絞り部102aの時系列温度変化を図7(b)に示す。
【0061】
図6、図7より、ヒータ300の割れが発生する直前に電流が増加し(図6(a)のI)、急激な温度上昇が計測されている(図6(b)のK)。これに対して、実施例1のヒータ100においては、割れが発生する直前の電流増加は見られず(図7(a)のI)、急激な温度上昇も見られない(図7(b)のL)。
【0062】
本比較例において、抵抗発熱体間の電位差が大きい箇所は、抵抗発熱体302の電極側絞り部302a付近である。その電極側絞り部302aにおいて、過剰電力投入試験時に、基板301が低抵抗化し、抵抗発熱体間でリークが発生し、抵抗発熱体間でショート状態になった。このため、見かけ上のヒータ300抵抗値が著しく低下し、大電流が流れたことにより、電極側付近の抵抗発熱体で過剰な発熱が起こったことで、大きな熱応力が加わった。これが、ヒータ300が割れに到った原因である。
【0063】
これに対して、本実施例1のヒータ100では、基板101の短手方向において各抵抗発熱体102間に空隙Sを設けているため、過剰電力投入時に基板101が低抵抗化し、抵抗発熱体間でリークが発生する事態を回避することができる。これにより、ヒータ過剰電力投入時のヒータ割れまでの時間マージンを向上することができる。
【実施例2】
【0064】
次に、本発明の実施例2について説明する。
本実施例2に係るヒータは、実施例1のヒータに対して、空隙の設ける場所を、抵抗発熱体間の電位差が高く、発熱量が大きくなる部分、即ち、電極側の抵抗発熱体を絞った絞
り部のみとしたものである。
【0065】
1)ヒータ200の説明
図2に、本実施例2に係るヒータ200を、上面から見た平面図を示す。
すなわち、ヒータ200は、長尺の基板201と、基板201の長手方向に沿って平行に設けられた複数の抵抗発熱体202と、抵抗発熱体202に接続する導体部としての電極203と、複数の抵抗発熱体202を被覆する絶縁保護層204とを有する。
【0066】
抵抗発熱体202は、長手両端部において、他の部分よりも幅の狭い領域(以下「絞り部」と記す)202a,202bを有する。基板201の短手方向において抵抗発熱体202の幅を狭く絞ることによって、絞り部202a,202bで抵抗発熱体202の抵抗が大きくなり、同じ値の電流が流れた際の発熱量が大きくなる。
これにより、絞り部202aを有する長手端部においては、基板201を通じて長手端部方向へ逃げる熱を補い、長手に均一な温度に発熱するようにしている。
【0067】
この実施例2では、絶縁保護層204および基板201に形成される空隙Sを、この空隙Sは、複数の抵抗発熱体202,202間の電位差が相対的に高い部分、この例では、抵抗発熱体202の絞り部202aに形成されている。
【0068】
図2に示すとおり、基板201に空隙Sを設ける場所は、抵抗発熱体間のリークが発生しやすい発熱量が大きくなる箇所である、抵抗発熱体202の電極側先端から30mmまでとした。
即ち、基板201に設けた空隙部Sを最小限の箇所に留めることにより、ヒータの強度を確保することができる。
【0069】
2)ヒータ過剰電力投入試験結果
実施例1と同様の条件にて、5回の過剰電力投入試験を実施し、ヒータ200の割れが発生するまでの時間を計測したところ、最大3.6秒、最小3.3秒、平均3.4秒であった。
実施例1の中で述べている比較例と本実施例2を比較すると、比較例に比べ、実施例2では最大+0.3秒、最小+0.3秒、平均+0.2秒と、ヒータ割れまでの時間マージンを向上することが出来ている。
【0070】
上記に示したように、ヒータ200に十分な強度を確保するため、抵抗発熱体間の大部分に空隙を設けずに、抵抗発熱体202間の長手方向において発熱量が大きくなる箇所のみ空隙Sを設ける構成においても、ヒータ過剰電力投入時のヒータ割れまでの時間マージンを向上することができる。
【0071】
実施例1、及び2のヒータにおいては、二本の抵抗発熱体は、いずれも同じ抵抗値を持ち、同じ抵抗発熱体幅を有する系としたが、抵抗発熱体の幅、ペーストの材料及び抵抗値は異なるものとしても構わない。例えば、ヒータ100において、基板101の短手方向上流側(図1(a)の上方側)の抵抗発熱体102の発熱体幅を全体的に細くすることができる。あるいは、単位面積あたりの抵抗値の大きなペースト材料を用いて、抵抗を大きくすることにより、上流側発熱量の大きな構成とすることも可能である。更には、複数本の抵抗発熱体のうち一本を完全に導電パターンとすることも可能である。
【0072】
また、本発明では、ヒータの抵抗発熱体間に空隙を設けることで、基板の低抵抗化による抵抗発熱体間のリークの発生を回避しているが、低抵抗化のしにくい超高抵抗絶縁物を空隙部に充填することで、抵抗発熱体間のリークの発生を抑える構成にすることも可能である。一般的に絶縁物は熱を加えることによって低抵抗化する(NTC特性)。本発明の目
的は、導電パターン間のリーク電流起因の急激な温度上昇を抑えることにあり、絶縁性のあるセラミック基板よりも熱による低抵抗化が少ない絶縁物を空気の変わりに充填すればよい。
【0073】
また、実施例1、及び2のヒータにおいては、抵抗発熱体の本数は二本としたが、もちろん、四本またはそれ以上の本数の抵抗発熱体を基板上に形成したり、三本の抵抗発熱体に、更に一本の導電パターンを加えて、往復させる構成等を取ったりしても構わない。
さらに、実施例1、実施例2においては、基板材料として窒化アルミを用いたが、アルミナなどの絶縁性セラミックなどを用いても差し支えない。
また、上記実施例では、本発明のヒータの適用例として、画像形成装置の定着装置を例にとって説明したが、定着装置に限らず、被加熱材に光沢を付与するような像加熱装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
100,200 ヒータ
101,201 基板
102,202 抵抗発熱体
103,203 電極部
104,204 絶縁層
S 空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱材を加熱するヒータ、特に、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に搭載される定着装置等に適したヒータおよびそれを用いた像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に使用される定着装置として、被加熱材としての記録材に形成されたトナーを加熱溶融し、記録材上に定着させる熱定着方式が一般的に使用されている。このような、熱定着方式においては、近年、フィルム状のエンドレスベルトを使用した、フィルム定着方式の定着法が提案されている。
【0003】
このような、フィルム定着装置においては、一般的に、絶縁基板上に抵抗発熱体を設けたセラミックヒータと称されるヒータが用いられている。ヒータの詳細は、例えば特許文献1において開示されている。
【0004】
図8に、このようなヒータの一例を示す。
このヒータ900は、基板901、抵抗発熱体902及び電極903により構成される。基板901は、アルミナ等の絶縁性のセラミックよりなり、抵抗発熱体902は、任意の導電剤をスクリーン印刷等、既知の方法により塗布または基板901上に固定している。電極903を介して、抵抗発熱体902に電流を流し、抵抗発熱体902が発熱することにより、定着装置のヒータとして作用する。
また、ヒータ900には、一般的に絶縁層904が形成される。絶縁層904の材料としては、樹脂や耐圧ガラスが用いられる。
【0005】
図8に示したヒータ900では、抵抗発熱体902は一本で構成されるが、特許文献2に示されているように、抵抗発熱体902を複数設け、基板901上を往復させることで、より定着効率やコストに優れたヒータを供することも可能である。
【0006】
図9は、抵抗発熱体を複数設けたヒータの一例である。
ヒータ1000は、二本の抵抗発熱体1002を、導電部1005を介して基板1001上を長手方向に沿って往復させる形で構成している。1004は、抵抗発熱体1002を覆う絶縁層である。この構成により、基板1001の長手方向と直交する幅方向(基板1001の短手方向)に、広く発熱領域が分布することになり、熱効率の観点からより有利となる。
【0007】
また、抵抗発熱体1002が、基板1001上を往復しているため、電極1003は長手方向片側に集中することで、電極1003に接続するためのコネクタも、端部一箇所に設けるだけでよい。このため、定着装置の小型化や、低コスト化に際して有利となる。
【0008】
さらに、抵抗発熱体1002は、長手に均一な幅ではなく、部分的に幅を変化させることで、長手上の発熱量に分布を持たせることが可能である。このようなヒータは、特許文献3に開示されている。
基板1001の長手方向と直交する短手方向において、抵抗発熱体1002の幅を部分的に狭くする事により、その部分の単位長さあたりの抵抗を大きくし、発熱量を大きくする事が可能である。
【0009】
図10に、基板1101の長手方向において抵抗発熱体1102に発熱量の分布を持たせたヒータ1100の例を示す。
【0010】
基板1101上において導電部1105を介して接続された二本の抵抗発熱体1102は、長手端部で該長手端部以外の場所よりも幅を小さく構成している。なお、1103は導電部1105に接続される電極、1104は絶縁層である。
【0011】
抵抗発熱体1102の長手端部においては、抵抗発熱体1102の末端部分において熱が逃げやすい傾向があるため、中央部に比べて温度が低下する傾向がある。このため、抵抗発熱体1102の長手端部において、抵抗発熱体1102の端部の幅を絞り、発熱量を多くすることは、長手端部の定着性能を確保するために有効である。
【0012】
また、絶縁層1104の抵抗発熱体間に空隙を設けることで、より安全な定着装置を提供することが出来る。このようなヒータは特許文献4に開示されている。
図11には、抵抗発熱体1202を被覆する絶縁層1204に抵抗発熱体間において空隙を持たせたヒータの一例を示す。図11において、抵抗発熱体1202間に絶縁層1204が存在すると、温度上昇に伴う絶縁層1204の低抵抗化から、抵抗発熱体1202間の絶縁層1204にリークが発生し大電流が流れる。この大電流による発熱量増大から、ヒータの熱応力割れの可能性が高くなる。
そこで、この例では絶縁層1204に空隙Sを設けることでリークを抑え、過剰な発熱を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−17225号公報(セラミックヒータの例)
【特許文献2】特開2006−179303号公報(往復発熱体を有するセラミックヒータの例)
【特許文献3】特許第2600835号公報(長手上の発熱量に分布を持たせた定着ヒータの例)
【特許文献4】特開2006−179303号公報(抵抗発熱体を被覆する絶縁層が抵抗発熱体間において空隙を有する定着ヒータの例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、画像形成装置の高速化、カラー化が求められている。これに伴い、ヒータたるヒータにも、より大電力を投入し、発熱量を全体的に大きくする必要が生じている。
高速化に際しては、より短い時間でより多くの熱量を転写材に与える必要があるため、ヒータの発熱量も大きくしなければならない。また、カラー化に際しては、定着性向上のために定着フィルム上に弾性層が設けられたことにより、定着フィルムとしての熱伝導性低下を補うにあたり、熱量を余計に与える必要がある。とりわけ、定着装置のオンデマンド性を確保するためには、定着装置を速やかに所定温度に立ち上げる必要があるため、通常のフィルム定着装置に比べて大きな電力が必要になる。
【0015】
このように、画像形成装置の高速化,カラー化に伴い、ヒータに投入される電力が大きくなると、定着装置が制御不能となり、大電力が連続して投入された状態に陥った際に、ヒータが割れるという問題が顕在化する。
【0016】
ヒータ割れが発生する原因は、ヒータが高温になることで発生する熱応力にある。また、ヒータが約1000℃近辺でヒータ割れが発生する。ヒータ割れの対策として、上記した特許文献4では、絶縁層に空隙を設けているものの、その効果には限界がある。
【0017】
通常、ヒータに設置されている安全素子の動作によりヒータ割れが生じる前にヒータへの電力供給を遮断するようになっている。しかし、安全素子動作タイミングのバラつきを考慮すると、安全素子動作とヒータ割れとの安全上、十分な時間マージンを確保するのが高速化に伴い難しくなってきている。
【0018】
本発明は上記した従来技術の問題を解決するためになされたもので、その目的は、ヒータに過剰電力が投入された時に、可及的にヒータの昇温を低減し、安全素子動作とヒータ割れとの時間マージンをより確保することができるヒータ及び像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を解決するための、本発明は、長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層を有するヒータにおいて、前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とする。
また、可撓性スリーブと、可撓性スリーブの内周に接触するヒータと、可撓性スリーブの外周面に接触しており前記ヒータと共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部にて被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する構成の像加熱装置において、前記ヒータとして上記構成のヒータを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、絶縁保護層および基板に、複数の抵抗発熱体の間を離間させる空隙を設けたので、大電力が連続して投入された時に、複数の抵抗発熱体間でのリークの発生が可及的に抑制される。したがって、ヒータの昇温を低減し、安全素子動作とヒータ割れとの時間マージンを十分確保することで、ヒータ割れ発生の可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係るヒータを示すもので、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係るヒータの構成を示す平面図である。
【図3】本発明のヒータが適用可能な定着装置を備えた画像形成装置の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明のヒータが適用される定着装置の構成例を示す模式図である。
【図5】図4のヒータの電力制御回路を示す回路図である。
【図6】(a)、(b)は、比較例のヒータの電力投入時の電流推移、温度推移を示す図である。
【図7】(a)、(b)は、本発明の実施例1に係るヒータの電力投入時の電流推移、温度推移を示す図である。
【図8】従来のセラミックヒータ(発熱体一本タイプ)の平面図である。
【図9】従来のセラミックヒータ(往復発熱体タイプ)の平面図である。
【図10】ヒータ長手方向で発熱分布のある従来のヒータの平面図である。
【図11】絶縁層が抵抗発熱体間において空隙を有する従来のヒータの平面図である。
【図12】比較例のヒータの構成を示すもので、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
(1)画像形成装置例
まず、本発明のヒータが適用可能な定着装置が搭載される画像形成装置の構成例について説明する。
【0024】
図3は、画像形成装置の一例の構成図である。この例に示す画像形成装置は、電子写真画像形成プロセス利用のレーザープリンタである。
図において、401は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下「感光ドラム」と記す)であり、感光ドラム401の表面は帯電装置としての帯電ローラ402によって所定の極性・電位に一様に帯電される。
【0025】
次に、その帯電面に対して露光手段としてのレーザースキャナ403により画像情報の書き込み露光がなされる。即ちレーザースキャナ403は画像情報の時系列電気デジタル画像信号に応じてON/OFF制御(変調制御)されたレーザービームLで回転感光ドラム401の一様帯電処理面を露光する。これにより感光ドラム401の一様帯電面の露光部電位が減衰して感光ドラム面に画像情報の静電潜像が形成される。
【0026】
この静電潜像は、現像装置404でトナー画像として現像、可視化される。可視化されたトナー像は、感光ドラム401とこれに圧接させた接触転写装置としての転写ローラ406との圧接部である転写ニップ部Aにおいて、被加熱材としての転写材Pの面に対して感光ドラム401面より転写される。転写材Pは、不図示の給紙機構部から所定の制御タイミングにて給紙される。
即ち、転写材Pは、感光ドラム401上のトナー画像の画像形成位置と転写材Pの先端の書き出し位置が合致するようにレジストローラ405により挟持搬送される。転写ニップ部Aにおいて、感光ドラム401と転写ローラ406とにより、一定の加圧力で挟持搬送され、感光ドラム401面上のトナー画像が転写材P上に電気力と圧力で転写される。
【0027】
転写ニップ部Aを通過した転写材Pは、回転する感光ドラム401から分離され、搬送系408により入り口ガイド409を介して定着装置Fへと搬送され、定着装置Fによって、未定着トナー画像が転写材面に永久画像として加熱定着される。画像定着を受けた転写材Pは排紙機構部(不図示)に搬送される。
一方、転写材分離後の感光ドラム401上に残存する転写残りの残留トナーは、クリーニング装置407により感光ドラム401表面より除去され、感光ドラム401は繰り返して作像に供される。
【0028】
(2)定着装置F
図4は、定着装置Fの一例の構成模型図である。本実施例に示す定着装置は、可撓性ス
リーブとして定着フィルムを用いた加圧ローラ駆動方式(テンションレスタイプ)の定着装置である。
【0029】
1)定着装置Fの全体的構成
本実施例におけるフィルム方式の定着装置Fは、定着フィルム111と、定着フィルム111の内周に接触するヒータ100と、定着フィルム111の外周面に接触しておりヒータ100と共にニップ部を形成する加圧ローラ114と、を有している。
そして、ニップ部にて被加熱材としての転写材Pを挟持搬送しつつ加熱し、未定着トナー像を加熱定着する。
【0030】
ヒータ100はヒータホルダ115に保持され、また、ヒータ100の温度調整をするために、温度を検出するサーミスタ113が配置されている。
定着フィルム111は可撓性スリーブであり、基層、導電性プライマ層、および離型性
層の三層で構成されている。フィルム基層は、絶縁性の高いポリイミド、ポリアミド、PEEK等が用いられ、高耐熱性を有しており、厚み15〜60ミクロン程度で形成され、定着フィルム111全体の引裂強度等の機械的強度を保っている。本実施例においては、厚み50μmのポリイミド製エンドレスフィルムを基層として用いている。
【0031】
プライマ層は、本実施例においては、ポリアミド樹脂とフッ素樹脂のディスパージョンを混合したものを、ディッピングにて形成しており、厚みは2〜6μm程度である。プライマ層は、基層と、後述する離型性層との接着強度を確保するための層である。
【0032】
離型性層は、PTFE、PFA等のフッ素樹脂をディッピングで形成するか、フッ素チューブの形であらかじめ形成したものを基層に被覆する等の方法により設けられる。フッ素樹脂を用いるのは、トナーとの離型性を確保し、トナー等の付着による定着フィルムの汚れを防止するためである。従って、上記目的を達成することが出来るならば、フッ素樹脂以外の材料を用いても構わない。本実施例においては、PTFEおよびPFAを7:3の割合で混合した水性ディスパージョンに、酸化チタンを30重量%分散したものをディッピング塗工により形成している。
【0033】
ヒータホルダ115は、断面が略半円弧形状で、樋型の耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂の成型品である。ヒータホルダ115の下面に該ホルダの長手に沿ってヒータ100が配設してある。定着フィルム111はこのヒータホルダ115にルーズに外嵌させてある。本実施例のヒータホルダ115は、ヒータ100を保持する機能だけでなく、定着フィルム111をガイドする役割を果たす。本実施例においては、液晶ポリマーとして、デュポン社のゼナイト7755(商品名)を使用した。ゼナイト7755の最高使用可能温度(
耐熱温度)は、約270℃である。
【0034】
サーミスタ113は、ヒータ100の裏面に接触させて設置してあり、ヒータ100の温度を検知する。サーミスタ113は、温度制御手段としてのCPU117と電気的に接続されている。CPU117は、サーミスタ113の出力に基づいてヒータ駆動手段としてのトライアック118をON・OFF制御する。
【0035】
トライアック118はサーミスタ113の検知温度が所定の制御温度(目標温度)を維持するようにヒータ100(正確には後述する発熱抵抗体102)への通電を制御している。これにより、ヒータ100の温度が一定に保たれ、転写材P上のトナー像定着に供される。本実施例の制御温度は例えば180℃である。
【0036】
119は安全素子としてのサーモスイッチである。サーモスイッチ119は、ヒータ100の裏面に接触して設置してある。サーモスイッチ119は、定着装置Fが制御不能な状態となった際に、ヒータ100への通電が停止されず、電力が投入されつづけることによる定着装置の破壊を防止するために設けられている。サーもスイッチ119は、ヒータ100の温度が一定以上になった場合、ヒータ100への通電を遮断し、安全に定着装置を停止させる。
【0037】
加圧ローラ114は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、厚み約3mmのシリコーンゴム層を形成し、その上に厚み約40μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。この加圧ローラ114は芯金の両端部を装置フレーム116の不図示の奥側と手前側の側板間に回転自由に軸受保持させて配設してある。この加圧ローラ114の上側に、前記のヒータ100,ヒータホルダ115,定着フィルム111等から成る加熱アセンブリが、ヒータ100側を下向きにして加圧ローラ114に並行に配置される。ヒータホルダの両端部は、不図示の加圧機構により、片側74N(7.5kgf)、総圧147N(15kgf)の力で加圧ローラ2方向に附勢している。これにより、加熱定着に必要な所定幅の定
着ニップ部Nが形成させる。加圧機構は、圧解除機構を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除し、転写材Pの除去が容易な構成となっている。
【0038】
120は、装置フレーム116に組付けた入り口ガイドであり、112は定着排紙ローラである。入り口ガイド120は、転写ニップAを抜けた転写材Pが、定着ニップ部Nに正確に進入するよう、転写材Pを導く役割を果たす。
加圧ローラ114は加圧部材であり、駆動機構Mにより矢印の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。加圧ローラ114が回転すると摩擦力により定着フィルム111が従動回転する。定着フィルム111の内面にはグリスが塗布され、ヒータ111やヒータホルダ115と定着フィルム111内面との摺動性を確保している。
【0039】
記録材としての転写材Pが定着ニップ部Nで挟持搬送されることにより、転写材Pに形成されたトナー像が、加熱定着される。定着ニップ部Nを通過した転写材Pは、定着フィルム111の曲率により自然に定着フィルムから分離され、定着排紙ローラ112で排出される。
【0040】
2)ヒータ100の説明
以下に、本発明のヒータの形態を詳述する。
図1において、(a)はヒータ100を長手方向上面より見た平面図、(b)はヒータ100を長手方向に直交する短手方向において垂直な面で切断した縦断面図である。
【0041】
ヒータ100は、基板101と、抵抗発熱体102と、導体部としての電極103および導電部105と、絶縁保護層としての絶縁層104等を有している。
長尺の基板101と、基板101の長手方向に沿って平行に設けられた複数の抵抗発熱体102と、抵抗発熱体102に接続する導体部としての電極103と、複数の抵抗発熱体102を被覆する絶縁保護層104とを有する。
【0042】
そして、絶縁保護層104および基板101には、複数の抵抗発熱体102の間に空隙Sが形成されている。この空隙Sは、複数の抵抗発熱体102の長手方向の長さ全域に形成されている。
細長い板状の基板101は、窒化アルミやアルミナ等の、絶縁性のセラミックや、SUS等の金属板にガラスコートを施す等の手段により、絶縁保護層を設けたものを用いることが出来る。本実施例においては、基板101として、窒化アルミの厚み1.0mmの板を用いた。
【0043】
空隙Sは細長い矩形状で、基板101を表面から裏面側まで抜いた長尺の透孔によって構成される。この空隙Sの基板101の短手方向の幅tは、抵抗発熱体102の間に形成されるもので、抵抗発熱体102の長手方向の長さ全域に有するように形成される。空隙Sの幅tは、たとえば、0.8mm程度に設定される。
【0044】
基板101上において、基板101の長手方向に沿って設けられた抵抗発熱体102については、導電ペーストを基板101上に塗布したり、ニクロム線等を基板101上に接着等既知の方法で固定したものを用いても良い。また、抵抗発熱体102は、基板101上に直接形成される必要は無く、例えば、基板101への熱の拡散を防止するためのグレーズ層を介しても良い。
【0045】
本実施例においては、基板101の、転写材Pの画像面側に、銀・パラジウム合金を含んだ導電ペーストをスクリーン印刷法によって均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより、抵抗発熱体102を形成した。
【0046】
本実施例に用いた発熱抵抗体102の抵抗値は、50Ωとした。これにより、264Vの電圧が投入された際の定着ヒータ100の消費電力は、1394Wとなる。
【0047】
抵抗発熱体102は、長手中央部の幅1.5mmの太さで、長手方向に二本、並行に形成されている。二本の抵抗発熱体102間の距離は1.55mmである。二本の抵抗発熱体102において、電極103の反対側の長手端部は導電部105を介して電気的に接続されている。導電部105も基板上にスクリーン印刷法によって形成されている。
【0048】
抵抗発熱体102は、長手両端部において、他の部分よりも幅の狭い領域(以下「絞り部」と記す)102a,102bを有する。基板101の短手方向において抵抗発熱体102の幅を狭く絞ることによって、絞り部102a,102bで抵抗発熱体102の抵抗が大きくなり、同じ値の電流が流れた際の発熱量が大きくなる。
これにより、絞り部102aを有する長手端部においては、基板101を通じて長手端部方向へ逃げる熱を補い、長手に均一な温度に発熱するようにしている。本実施例においては、絞り部102a、102bの発熱体幅をその他の部分に対して7%狭くし、発熱体幅を1.395mmとしている。
【0049】
電極103は、定着装置や画像形成装置の電源より、抵抗発熱体102に電力を供給するための接点として機能するものである。本実施例においては、銀ペーストを、抵抗発熱体102と同様、スクリーン印刷法により均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより形成した。電極103は、基板101上に二箇所形成され、それぞれ抵抗発熱体102に接続されることにより、電極103を通してAC電圧が抵抗発熱体102に印加される。
【0050】
絶縁層104は、ガラスや樹脂等の絶縁物により形成され、抵抗発熱体102、電極103および導電部105の絶縁耐圧を確保するために設けられる。本実施例においては、絶縁ガラスによる保護層を80μmの厚みでスクリーン印刷を行うことにより、抵抗発熱体102と、電極103および導電部105の一部を被覆している。すなわち、絶縁層104は、基板101の長手方向において各抵抗発熱体102と、各抵抗発熱体と接続する電極103および導電部105の一部を個別に被覆する形状に形成される。
【0051】
本実施例の画像形成装置には、ヒータ100に電力を供給するための電源回路およびヒータ100への電力供給を制御するための制御回路等からなる電力制御系が内蔵されている。図5は、電力制御系の一例のブロック図である。
【0052】
このヒータ温度制御系において、一方の電源回路では、ACの電源501と、リレー502と、トライアック118と、電源501からの供給電力により発熱するヒータ100とが直列に接続されて回路が構成されている。
【0053】
また他方の制御回路では、サーミスタ113と、A/D変換器504と、CPU117と、トライアック118が直列に接続された回路が構成されている。
リレー502は、CPU117とリレー信号線503を介して接続されており、CPU117からの指令信号によりオープン状態となり、電源501とヒータ100の間を遮断するものである。
【0054】
3)ヒータ過剰電力投入試験についての詳述
本実施例に示すヒータ100を用いて、ヒータ過剰電力投入試験を実施した。
過剰電力投入試験条件としては、ヒータの電極103に直接、最大電力が連続して入力される状態にした。電圧は、200V圏で最も電圧の高い地域の定格240Vに対し、10%増しの電圧、即ち、264Vを印加する設定をした。
【0055】
4)ヒータ過剰電力投入試験結果
上記条件において、5回の過剰電力投入試験を実施し、ヒータ100の割れが発生するまでの時間を計測したところ、最大3.8秒、最小3.5秒、平均3.6秒であった。
【0056】
5)比較例
図12に、比較例において使用するヒータ300の形状を示す。(a)はヒータ300を長手方向上面より見た平面図、(b)はヒータ300を長手方向に直交する短手方向において垂直な面で切断した縦断面図である。
【0057】
図12に示すように、本比較例におけるヒータ300の抵抗発熱体302は、ほぼ実施例1におけるヒータ100の場合と同様に形成されるが、基板301の短手方向において抵抗発熱体間に空隙を設けていないことが異なる。すなわち、抵抗発熱体間にも基板が存在する構成となっている。
【0058】
本比較例のヒータ300を、実施例1と同様のヒータ過剰電力投入試験を実施した。
その結果、ヒータ300の割れが発生するまでの時間は、最大3.3秒、最小3.0秒、平均3.2秒であった。
【0059】
本比較例と実施例1を比較すると、比較例に比べ、実施例1では最大+0.5秒、最小+0.5秒、平均+0.4秒と、ヒータ割れまでの時間マージンを向上することが出来ている。
【0060】
また、ヒータ300の割れが発生した箇所は、全て、電極側の抵抗発熱体302の絞り部302aであった。更に、ヒータ300に流れる電流波形を図6(a)、電極側の抵抗発熱体絞り部302aの時系列温度変化を図6(b)に示す。
実施例1のヒータ100においても、同様に電流波形を図7(a)、電極側の抵抗発熱体絞り部102aの時系列温度変化を図7(b)に示す。
【0061】
図6、図7より、ヒータ300の割れが発生する直前に電流が増加し(図6(a)のI)、急激な温度上昇が計測されている(図6(b)のK)。これに対して、実施例1のヒータ100においては、割れが発生する直前の電流増加は見られず(図7(a)のI)、急激な温度上昇も見られない(図7(b)のL)。
【0062】
本比較例において、抵抗発熱体間の電位差が大きい箇所は、抵抗発熱体302の電極側絞り部302a付近である。その電極側絞り部302aにおいて、過剰電力投入試験時に、基板301が低抵抗化し、抵抗発熱体間でリークが発生し、抵抗発熱体間でショート状態になった。このため、見かけ上のヒータ300抵抗値が著しく低下し、大電流が流れたことにより、電極側付近の抵抗発熱体で過剰な発熱が起こったことで、大きな熱応力が加わった。これが、ヒータ300が割れに到った原因である。
【0063】
これに対して、本実施例1のヒータ100では、基板101の短手方向において各抵抗発熱体102間に空隙Sを設けているため、過剰電力投入時に基板101が低抵抗化し、抵抗発熱体間でリークが発生する事態を回避することができる。これにより、ヒータ過剰電力投入時のヒータ割れまでの時間マージンを向上することができる。
【実施例2】
【0064】
次に、本発明の実施例2について説明する。
本実施例2に係るヒータは、実施例1のヒータに対して、空隙の設ける場所を、抵抗発熱体間の電位差が高く、発熱量が大きくなる部分、即ち、電極側の抵抗発熱体を絞った絞
り部のみとしたものである。
【0065】
1)ヒータ200の説明
図2に、本実施例2に係るヒータ200を、上面から見た平面図を示す。
すなわち、ヒータ200は、長尺の基板201と、基板201の長手方向に沿って平行に設けられた複数の抵抗発熱体202と、抵抗発熱体202に接続する導体部としての電極203と、複数の抵抗発熱体202を被覆する絶縁保護層204とを有する。
【0066】
抵抗発熱体202は、長手両端部において、他の部分よりも幅の狭い領域(以下「絞り部」と記す)202a,202bを有する。基板201の短手方向において抵抗発熱体202の幅を狭く絞ることによって、絞り部202a,202bで抵抗発熱体202の抵抗が大きくなり、同じ値の電流が流れた際の発熱量が大きくなる。
これにより、絞り部202aを有する長手端部においては、基板201を通じて長手端部方向へ逃げる熱を補い、長手に均一な温度に発熱するようにしている。
【0067】
この実施例2では、絶縁保護層204および基板201に形成される空隙Sを、この空隙Sは、複数の抵抗発熱体202,202間の電位差が相対的に高い部分、この例では、抵抗発熱体202の絞り部202aに形成されている。
【0068】
図2に示すとおり、基板201に空隙Sを設ける場所は、抵抗発熱体間のリークが発生しやすい発熱量が大きくなる箇所である、抵抗発熱体202の電極側先端から30mmまでとした。
即ち、基板201に設けた空隙部Sを最小限の箇所に留めることにより、ヒータの強度を確保することができる。
【0069】
2)ヒータ過剰電力投入試験結果
実施例1と同様の条件にて、5回の過剰電力投入試験を実施し、ヒータ200の割れが発生するまでの時間を計測したところ、最大3.6秒、最小3.3秒、平均3.4秒であった。
実施例1の中で述べている比較例と本実施例2を比較すると、比較例に比べ、実施例2では最大+0.3秒、最小+0.3秒、平均+0.2秒と、ヒータ割れまでの時間マージンを向上することが出来ている。
【0070】
上記に示したように、ヒータ200に十分な強度を確保するため、抵抗発熱体間の大部分に空隙を設けずに、抵抗発熱体202間の長手方向において発熱量が大きくなる箇所のみ空隙Sを設ける構成においても、ヒータ過剰電力投入時のヒータ割れまでの時間マージンを向上することができる。
【0071】
実施例1、及び2のヒータにおいては、二本の抵抗発熱体は、いずれも同じ抵抗値を持ち、同じ抵抗発熱体幅を有する系としたが、抵抗発熱体の幅、ペーストの材料及び抵抗値は異なるものとしても構わない。例えば、ヒータ100において、基板101の短手方向上流側(図1(a)の上方側)の抵抗発熱体102の発熱体幅を全体的に細くすることができる。あるいは、単位面積あたりの抵抗値の大きなペースト材料を用いて、抵抗を大きくすることにより、上流側発熱量の大きな構成とすることも可能である。更には、複数本の抵抗発熱体のうち一本を完全に導電パターンとすることも可能である。
【0072】
また、本発明では、ヒータの抵抗発熱体間に空隙を設けることで、基板の低抵抗化による抵抗発熱体間のリークの発生を回避しているが、低抵抗化のしにくい超高抵抗絶縁物を空隙部に充填することで、抵抗発熱体間のリークの発生を抑える構成にすることも可能である。一般的に絶縁物は熱を加えることによって低抵抗化する(NTC特性)。本発明の目
的は、導電パターン間のリーク電流起因の急激な温度上昇を抑えることにあり、絶縁性のあるセラミック基板よりも熱による低抵抗化が少ない絶縁物を空気の変わりに充填すればよい。
【0073】
また、実施例1、及び2のヒータにおいては、抵抗発熱体の本数は二本としたが、もちろん、四本またはそれ以上の本数の抵抗発熱体を基板上に形成したり、三本の抵抗発熱体に、更に一本の導電パターンを加えて、往復させる構成等を取ったりしても構わない。
さらに、実施例1、実施例2においては、基板材料として窒化アルミを用いたが、アルミナなどの絶縁性セラミックなどを用いても差し支えない。
また、上記実施例では、本発明のヒータの適用例として、画像形成装置の定着装置を例にとって説明したが、定着装置に限らず、被加熱材に光沢を付与するような像加熱装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
100,200 ヒータ
101,201 基板
102,202 抵抗発熱体
103,203 電極部
104,204 絶縁層
S 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層とを有するヒータにおいて、
前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記空隙は、前記複数の抵抗発熱体の長手方向の長さ全域に形成されることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記空隙は、前記複数の抵抗発熱体間の電位差が相対的に高い部分に形成されることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項4】
可撓性スリーブと、該可撓性スリーブの内周に接触するヒータと、前記可撓性スリーブの外周面に接触しており前記ヒータと共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部にて被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する構成の像加熱装置において、
前記ヒータとして請求項1乃至3のいずれかのヒータを用いたことを特徴とする像加熱装置。
【請求項5】
記録材に形成された未定着トナー像を加熱定着する画像形成装置の定着装置として使用される請求項4に記載の像加熱装置。
【請求項1】
長尺の基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体を被覆する絶縁保護層とを有するヒータにおいて、
前記絶縁保護層および前記基板には、前記複数の抵抗発熱体の間に空隙が形成されていることを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記空隙は、前記複数の抵抗発熱体の長手方向の長さ全域に形成されることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記空隙は、前記複数の抵抗発熱体間の電位差が相対的に高い部分に形成されることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項4】
可撓性スリーブと、該可撓性スリーブの内周に接触するヒータと、前記可撓性スリーブの外周面に接触しており前記ヒータと共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部にて被加熱材を挟持搬送しつつ加熱する構成の像加熱装置において、
前記ヒータとして請求項1乃至3のいずれかのヒータを用いたことを特徴とする像加熱装置。
【請求項5】
記録材に形成された未定着トナー像を加熱定着する画像形成装置の定着装置として使用される請求項4に記載の像加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−243603(P2010−243603A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89465(P2009−89465)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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