説明

ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法、並びに、ヒートシンク付パワーモジュール、パワーモジュール用基板

【課題】反りの発生を抑制することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法、並びに、ヒートシンク付パワーモジュール、パワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板12の一方の面に回路層13が形成されるとともに他方の面に金属層14が形成されたパワーモジュール用基板11と、金属層14側に接合されてパワーモジュール用基板11を冷却するヒートシンク17とを備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板10であって、金属層14とヒートシンク17とが直接接合されており、回路層13の厚さAと金属層14の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法、並びに、ヒートシンク付パワーモジュール、パワーモジュール用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のヒートシンク付パワーモジュール用基板として、例えば特許文献1及び特許文献2に示されるように、絶縁基板の一方の面にアルミニウムからなる回路層が形成されるとともに絶縁基板の他方の面にアルミニウムからなる金属層が形成され、この金属層の表面にヒートシンクの天板部が接合されたものが広く提案されている。
このようなヒートシンク付パワーモジュールは、絶縁基板と回路層、金属層をそれぞれ接合してパワーモジュール用基板を形成した後に、このパワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合することで製造される。
【0003】
このヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前記回路層に半導体チップ等の電子部品がはんだ接合されることでヒートシンク付パワーモジュールとして使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3171234号公報
【特許文献2】特開平10−065075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、絶縁基板の他方の面側に位置する金属層及びヒートシンクの天板部の合計厚さが薄い場合、曲げ剛性が低くなって反りが生じることがあった。
最近では、ヒートシンク付パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、電子部品の発熱量も上昇する傾向にあり、ヒートシンクの冷却能向上のために、天板部の厚さが薄いヒートシンクも使用されている。このため、絶縁基板の他方の面側に位置する金属層及びヒートシンクの天板部の合計厚さが薄くなる傾向にあり、前述の反りの発生が問題となっている。
【0006】
また、特許文献1に記載されたヒートシンク付パワーモジュールにおいては、Al−Si系ろう材からなる融点降下層が両面に形成されたアルミニウム箔を介して、金属層とヒートシンクとが接合されている。このため、アルミニウム箔と金属層との接合界面及びアルミニウム箔とヒートシンクとの接合界面に、Siを多く含んだ硬度の高い部分が形成されることになる。このように絶縁基板の他方の面側に位置する金属層及びヒートシンクに硬度の高い部分が形成されていると、硬度の高い部分で金属層やヒートシンクの天板部が拘束されることになる。このため、例えばパワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する際に、これらの積層方向に加圧しても金属層が硬度の高い部分に拘束されて十分に変形せず、反りを抑制できないことがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、反りの発生を抑制することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール、並びに、パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板と、前記金属層側に接合されて前記パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクとを備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記金属層と前記ヒートシンクとが直接接合されており、前記回路層の厚さAと前記金属層の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0009】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、前記回路層の厚さAと前記金属層の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されており、ヒートシンクに接合される金属層の厚さが回路層の厚さよりも厚く設定されているので、天板部の厚さが薄いヒートシンクを使用する場合でも絶縁基板の他方の面側に位置する金属層及びヒートシンクの天板部の合計厚さを比較的厚くすることが可能となり、反りの発生を抑制することができる。また、厚い金属層がヒートシンクに直接接合されているので、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する際にパワーモジュール用基板とヒートシンクとをその積層方向に加圧することによって金属層を十分に変形させることが可能となり、反りを抑制することができる。
【0010】
ここで、回路層の厚さAと金属層の厚さBとの比率B/Aが2.167よりも小さいと前述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、回路層の厚さAと金属層の厚さBとの比率B/Aが20を超えると、金属層が熱抵抗となり、ヒートシンクによる冷却が不十分となる。このため、回路層の厚さAと金属層の厚さBとの比率B/Aは2.167≦B/A≦20の範囲内に設定することが好ましい。
【0011】
また、この金属層が、接合する前の状態において、純度99.99%以上のアルミニウムで構成されていることが好ましい。
この場合、金属層の変形抵抗が小さく、ヒートシンクとの接合時に加圧することによって金属層を十分に変形させることが可能となり、反りの発生を確実に抑制することができる。
【0012】
さらに、前記回路層及び前記金属層がアルミニウムで構成されており、前記ヒートシンク及び前記絶縁基板に接合する前の状態における前記金属層のアルミニウムの純度が、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記回路層のアルミニウムの純度よりも高くされていることが好ましい。
絶縁基板の一方の面に回路層を、絶縁基板の他方の面に金属層を接合する際において、回路層の厚さと金属層の厚さとが異なっていると、反りが発生しやすくなる。ここで、厚く成形される金属層を、薄く成形される回路層よりも変形抵抗の小さい材料で構成することによって、接合時の反りの発生を抑制することが可能となる。
【0013】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、絶縁基板の一方の面に回路層を接合するとともに絶縁基板の他方の面に金属層を接合してパワーモジュール用基板を形成する1次接合工程と、前記パワーモジュール用基板の金属層とヒートシンクとを接合する2次接合工程と、を有し、前記2次接合工程においては、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを積層させ、積層方向に0.15〜3MPaで加圧することを特徴としている。
【0014】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法では、前述のパワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する2次接合工程において、その積層方向に0.15〜3MPaで加圧しているので、金属層を十分に変形させることによって反りの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明のヒートシンク付パワーモジュールは、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、該ヒートシンク付パワーモジュール用基板の前記回路層上に搭載された電子部品と、を備えることを特徴としている。
【0016】
この構成のヒートシンク付パワーモジュールによれば、反り変形が抑制され、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0017】
本発明のパワーモジュール用基板は、絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板であって、前記回路層の厚さAと前記金属層の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されていることを特徴とする。
この構成のパワーモジュール用基板においては、金属層の表面にヒートシンクを接合した場合に、天板部の厚さが薄いヒートシンクを使用しても絶縁基板の他方の面側に位置する金属層及びヒートシンクの天板部の合計厚さを比較的厚くすることが可能となり、反りの発生を抑制することができる。
【0018】
ここで、前記回路層及び前記金属層がアルミニウムで構成されており、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記金属層のアルミニウムの純度が、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記回路層のアルミニウムの純度よりも高くされていることが好ましい。
この場合、厚く形成される金属層が、薄く形成される回路層よりも変形抵抗の小さい材料で構成されているので、絶縁基板に金属層及び回路層を接合する際に生じる反りを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反りの発生を抑制することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法、並びに、ヒートシンク付パワーモジュール、パワーモジュール用基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の金属層及び天板部のビッカース硬度の分布を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュールの概略説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュールの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1から図3に本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュールを示す。
このヒートシンク付パワーモジュール1は、回路層13が配設されたパワーモジュール用基板11と、回路層13の表面にはんだ層3を介して接合された半導体チップ2と、ヒートシンク17とを備えている。ここで、はんだ層3は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層13とはんだ層3との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0022】
パワーモジュール用基板11は、絶縁基板12と、この絶縁基板12の一方の面(図1において上面)に配設された回路層13と、絶縁基板12の他方の面(図1において下面)に配設された金属層14とを備えている。
絶縁基板12は、回路層13と金属層14との間の電気的接続を防止するものであって、例えばAlN(窒化アルミ)、Si(窒化珪素)、Al(アルミナ)等の絶縁性の高いセラミックスで構成され、本実施形態では、AlN(窒化アルミ)で構成されている。また、絶縁基板12の厚さCは、0.2mm≦C≦1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、C=0.635mmに設定されている。
【0023】
回路層13は、絶縁基板12の一方の面に導電性を有する金属板23がろう付けされることにより形成されている。本実施形態においては、回路層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)からなる金属板23が絶縁基板12にろう付けされることにより形成されている。ここで、本実施形態においてはAl−Si系のろう材箔26を用いてろう付けしており、ろう材のSiが金属板23に拡散することで回路層13にはSiの濃度分布が生じている。
【0024】
金属層14は、絶縁基板12の他方の面に金属板24がろう付けされることにより形成されている。本実施形態においては、金属層24は、回路層13と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)からなる金属板24が絶縁基板12にろう付けされることで形成されている。本実施形態においてはAl−Si系のろう材箔27を用いてろう付けしており、ろう材のSiが金属板24に拡散することで金属層14にはSiの濃度分布が生じている。
【0025】
ここで、回路層13の厚さAは、0.25mm≦A≦0.9mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、A=0.6mmに設定されている。
また、金属層14の厚さBは、0.4mm≦B≦5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、B=1.3mmに設定されている。
そして、回路層13の厚さAと金属層14の厚さBとの比B/Aは、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されており、本実施形態では、B/A=1.3/0.6=2.167に設定されている。
【0026】
ヒートシンク17は、前述のパワーモジュール用基板11を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板11と接合される天板部18と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路19とを備えている。ヒートシンク17のうち少なくとも天板部18は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063で構成されている。また、天板部18の厚さDは、1mm≦D≦10mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、D=1.7mmに設定されている。
【0027】
そして、パワーモジュール用基板11の金属層14とヒートシンク17の天板部18とが、ろう付けによって直接接合されている。本実施形態においてはAl−Si系のろう材箔28を用いてろう付けしており、ろう材のSiが金属板24に拡散することで金属層14にはSiの濃度分布が生じている。
前述のように、金属層14は、絶縁基板12とろう材箔27を用いてろう付けされ、ヒートシンク17の天板部18とろう材箔28を用いてろう付けされているので、金属層14においては、図2に示すように、Siの濃度分布によってビッカース硬度が厚さ方向で変化している。
【0028】
このようなヒートシンク付パワーモジュール用基板10は、以下のようにして製造される。図3に示すように、AlNからなる絶縁基板12の一方の面に回路層13となる金属板23(4Nアルミニウム)が厚さ0.02mmのろう材箔26を介して積層され、絶縁基板12の他方の面に金属層14となる金属板24(4Nアルミニウム)が厚さ0.02mmのろう材箔27を介して積層される。このようにして形成された積層体をその積層方向に加圧した状態で真空炉内に装入してろう付けを行い、パワーモジュール用基板11を製出する(1次接合工程S1)。
【0029】
次に、パワーモジュール用基板11の金属層14の表面に、厚さ0.05mmのろう材箔28を介してヒートシンク17の天板部18が積層される。このように積層した状態で積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行うことで、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10が製造される(2次接合工程S2)。ここで、2次接合工程S2においては、積層方向に0.15〜3MPaで加圧するように構成されている。
【0030】
このような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10及びヒートシンク付パワーモジュール1においては、ヒートシンク17の天板部18に接合される金属層14の厚さが回路層13の厚さよりも厚く設定されているので、天板部18の厚さが薄いヒートシンク17を使用しても、絶縁基板12の他方の面側に位置する金属層14及びヒートシンク17の天板部18の合計厚さを確保することが可能となり、反りの発生を抑制することができる。また、天板部18が薄いヒートシンク17を使用することで冷却効率を向上させることができ、発熱量の高い電子部品を実装したパワーモジュールに適用することが可能となる。
【0031】
また、比較的厚い金属層14がヒートシンク17の天板部18にろう材箔28を用いてろう付けにより直接接合されているので、パワーモジュール用基板11とヒートシンク17の天板部18とを接合する2次接合工程S2において、パワーモジュール用基板11とヒートシンク17とを積層方向に加圧した際に、金属層14を十分に変形させることが可能となり、反りを確実に抑制することができる。
【0032】
さらに、回路層13の厚さAと金属層14の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定され、本実施形態では、B/A=1.3/0.6=2.167に設定されているので、金属層14の厚さを確保して前述の反りの抑制効果を確実に奏功せしめることができるとともに、金属層14が大きな熱抵抗とならず、ヒートシンク17によってパワーモジュールを十分に冷却することができる。なお、回路層13の厚さAと金属層14の厚さBとの比率B/Aは、2.167≦B/A≦5.625の範囲内に設定することがより好ましい。
【0033】
また、金属層14が、接合する前の状態において純度99.99%以上のアルミニウム、いわゆる4Nアルミニウムで構成されているので、金属層14の変形抵抗が小さく、金属層14とヒートシンク17の天板部18とを接合する2次接合工程S2において、積層方向に加圧した際に金属層14を十分に変形させることが可能となり、反りの発生を確実に抑制することができる。
【0034】
さらに、金属層14とヒートシンク17の天板部18とを接合する2次接合工程S2においては、これらの積層方向に0.15〜3MPaで加圧するように構成されているので、金属層14を確実に変形させて、反りを抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10の回路層13に半導体チップ2がはんだ接合されたヒートシンク付パワーモジュール1においては、反り変形がないので、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、絶縁基板をAlN(窒化アルミニウム)で構成したものとして説明したが、絶縁性を有する材料であればよく、Si、Al等であってもよい。
【0037】
また、平板状に形成された天板部18にパワーモジュール用基板11が接合されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば図4に示すように、天板部118に凹部120が形成され、この凹部120内にパワーモジュール用基板111が収容されていてもよい。この場合、天板部118の厚さDは凹部120の底面の厚さとなる。
【0038】
さらに、金属層14を、回路層13と同一幅で絶縁基板12よりも幅狭のものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば図5に示すように金属層214を、回路層213や絶縁基板212よりも幅広に構成してもよい。この場合、金属層214と絶縁基板212とを接合する際の位置決めを高精度に行う必要がなく、比較的簡単に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板210を製造することができる。
【0039】
また、回路層及び金属層を、純度99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)やアルミニウム合金であってもよい。ただし、金属層の変形抵抗が小さくなって反りを抑制する効果を確実に奏功せしめることができるので、純度99.99%以上のアルミニウムを用いることが好ましい。
さらに、ヒートシンクをA6063で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、純アルミニウムで構成されていてもよい。さらに、ヒートシンクとして冷却媒体の流路を有するもので説明したが、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、例えば空冷方式のヒートシンクであってもよい。
【0040】
さらに、金属層と回路層とを同一の材料(4Nアルミニウム)で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属層と回路層とが異なった材料で構成されていてもよい。
特に、厚く形成される金属層を、薄く形成される回路層よりも変形抵抗の小さな材料で構成した場合には、絶縁基板に金属層及び回路層を接合する際の反りの発生を抑制することが可能となる。具体的には、回路層を純度99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)で構成し、金属層を純度99.999%以上のアルミニウム(5Nアルミニウム)や純度99.9999%以上のアルミニウム(6Nアルミニウム)で構成することが好ましい。さらに、回路層を純度99%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)で構成し、金属層を純度99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)や純度99.999%以上のアルミニウム(5Nアルミニウム)で構成してもよい。
【実施例1】
【0041】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
比較例1−3、実施例2−5においては、厚さ0.635mmのAlNからなる絶縁基板と、4Nアルミニウムからなる回路層及び金属層と、厚さ1.7mmのA6063からなる天板部を備えたヒートシンクと、を共通に有しており、金属層とヒートシンクの天板部とがろう付けによって直接接合されている。
そして、回路層、金属層の厚さをそれぞれ変更し、比較例1−3、実施例2−5のヒートシンク付パワーモジュール用基板を作製した。
【0042】
評価としては、製作されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの発生状況、ヒートシンクと絶縁基板との間の熱抵抗を比較した。評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例1、2では、金属層が比較的薄いため、熱抵抗は小さいものの反り変形が認められた。
一方、金属層が回路層に比べて著しく厚い場合には、熱抵抗が大きく、ヒートシンクによる冷却が不十分になることが確認された。
これに対して、実施例2−5においては、反り変形が抑制されるとともに、熱抵抗も小さく抑えられていることがわかる。
この比較実験の結果、本発明によれば、反り変形がなく、かつ、ヒートシンクによって電子部品等を効率的に冷却可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することができることが確認された。
【実施例2】
【0045】
実施例6−10においては、厚さ0.635mmのAlNからなる絶縁基板に、厚さ0.6mmの回路層及び厚さ2.3mmの金属層を接合してパワーモジュール用基板を作製した。さらに、このパワーモジュール用基板の金属層側に厚さ5mmのA6063からなる天板部を備えたヒートシンクをろう付けした。ここで、回路層及び金属層を構成する材料を変更した。
比較例5としては、厚さ0.635mmのAlNからなる絶縁基板に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.6mmの回路層及び4Nアルミニウムからなる厚さ0.6mmの金属層を接合してパワーモジュール用基板を作製した。さらに、このパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.9mmの緩衝材を介して、厚さ5mmのA6063からなる天板部を備えたヒートシンクをろう付けした。
【0046】
そして、絶縁基板に回路層及び金属層を接合してパワーモジュール用基板を作製する際に発生する反り量を評価した。また、ヒートシンクをろう付けしたヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの発生状況を確認した。さらに、冷熱サイクル(−40℃―125℃)を2000回負荷した際の絶縁基板の割れの有無について評価した。評価結果を表2に示す。
【0047】
なお、表2において、パワーモジュール用基板製作時の反り量については、幅30mm当りの反り量が20μm未満のものを◎、20μm以上40μm未満のものを○、40μm以上のものを△とした。
また、ヒートシンク接合時の反り量については、幅30mm当りの反り量が80μm未満のものを◎、80μm以上100μm未満のものを○、100μm以上のものを△とした。
さらに、絶縁基板の割れについては、3ヶの試験片に割れが認められないものを○、3ヶの試験片のうち1ヶに割れが確認されたものを△とした。
【0048】
【表2】

【0049】
比較例5では、冷熱サイクルを2000回負荷した際に、絶縁基板に割れが生じることがあった。これに対して、実施例6−10では、絶縁基板の割れは観察されなかった。
また、回路層と金属層とを同一の材料で構成した実施例6においては、絶縁基板に回路層及び金属層を接合してパワーモジュール用基板を作製する際に反りの発生が認められた。一方、金属層を、回路層よりも変形抵抗の小さな材料で構成した場合には、パワーモジュール用基板を作製する際に発生する反りが抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1、101、201 ヒートシンク付パワーモジュール
2、102、202 半導体チップ(電子部品)
10、110、210 ヒートシンク付パワーモジュール用基板
11、111、211 パワーモジュール用基板
12、112、212 絶縁基板
13、113、213 回路層
14、114、214 金属層
15、115、215 緩衝層
17、117、217 ヒートシンク
18、118、218 天板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板と、前記金属層側に接合されて前記パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクとを備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記金属層と前記ヒートシンクとが直接接合されており、
前記回路層の厚さAと前記金属層の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記金属層が、前記ヒートシンク及び前記絶縁基板に接合する前の状態において、純度99.99%以上のアルミニウムで構成されていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記回路層及び前記金属層がアルミニウムで構成されており、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記金属層のアルミニウムの純度が、前記ヒートシンク及び前記絶縁基板に接合する前の状態における前記回路層のアルミニウムの純度よりも高くされていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
絶縁基板の一方の面に回路層を接合するとともに絶縁基板の他方の面に金属層を接合してパワーモジュール用基板を形成する1次接合工程と、
前記パワーモジュール用基板の金属層とヒートシンクとを接合する2次接合工程と、を有し、
前記2次接合工程においては、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを積層させ、積層方向に0.15〜3MPaで加圧することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、該ヒートシンク付パワーモジュール用基板の前記回路層上に搭載された電子部品と、を備えることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール。
【請求項6】
絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層の厚さAと前記金属層の厚さBとの比率B/Aが、2.167≦B/A≦20の範囲内に設定されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項7】
請求項6に記載のパワーモジュール用基板であって、
前記回路層及び前記金属層がアルミニウムで構成されており、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記金属層のアルミニウムの純度が、前記絶縁基板に接合する前の状態における前記回路層のアルミニウムの純度よりも高くされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−65918(P2013−65918A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7864(P2013−7864)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2010−53620(P2010−53620)の分割
【原出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】