説明

ヒ素汚染土壌の処理方法

【課題】 ヒ素汚染土壌に含まれるヒ素の化合物形態が有機ヒ素化合物であっても、3価あるいは5価の無機ヒ素化合物であっても、 ヒ素汚染土壌に含まれるヒ素を不溶化して、土壌環境基準値を満たすようにヒ素の溶出を低く抑えることができるヒ素汚染土壌の処理方法を提供すること。
【解決手段】 ヒ素汚染土壌を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理されたヒ素汚染土壌にカルシウム化合物と水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法である。また、ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理された混合物に水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に含まれるヒ素を不溶化して、ヒ素の溶出を土壌環境基準値以下に抑えることができるようにしたヒ素汚染土壌の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学薬品や農薬類を扱う事業所や工場などでは、設備や装置類からの漏洩や廃棄により、土壌に重金属類が浸透し土壌汚染を引き起こしている場合がある。従来、これを解決する方法としては、加熱や洗浄による除去処理あるいは薬剤添加による不溶化処理が行われていた。また、化学兵器等の有機ヒ素化合物由来の土壌汚染の場合には、汚染土壌をキルン等で加熱処理することにより有機ヒ素化合物を分解する処理が行われることがある。しかし、ヒ素化合物は、3価や5価の無機ヒ素化合物あるいは有機化合物などの形態が異なるとその性状も異なるため、効果的に無害化処理することが難しかった。
【0003】
洗浄処理を行う従来技術の例として、ヒ素汚染土壌を強アルカリ性の水酸化ナトリウム水溶液からなる浄化剤で洗浄する方法(文献:I.A. Legiec, L.P. Grifin, P.D. Walling, Jr., T.C. Breske, M.S. Angelo, R.S. Isaacson, M.B. Lanza, “DuPont Soil Washing Technology Program and Treatment of Arsenic Contaminated Soils”, Enivronmental Progress, 16(1), 29-34(1997))、あるいは強酸性かつ強酸化性の酸で洗浄する方法(文献:V. Hornburg, B. Luer, “Comparison between Total- and Aqua Regia Extractable Contens of Elements in Natural Soils and ediments”, J. Plant Nutr. Soil Sci. 162, 131-137(1999))等が提案されている。しかし、この従来技術では、強アルカリや強酸やの薬剤を用いることで、洗浄後の土壌の中和等の後処理が必要であり、また、使用済み排水の処理が困難であり、さらに薬剤の保管や安全性及びその取り扱いに細心の注意が必要である。
【0004】
また、加熱による揮発除去を行う従来技術の例として、特開2004−50029号公報には、ヒ素汚染土壌にシリコーン油を混合した混合物を、不活性ガス雰囲気中で600℃以上、好ましくは700〜1000℃で加熱して、シリコーン油を分解し、シリコーン油の分解により生じたケイ素(Si)によって汚染土壌中の重金属化合物を還元して、重金属単体または重金属酸化物を形成させるとともに、前記加熱によりこれら重金属単体または重金属酸化物の蒸気を揮発させて、重金属化合物を含む汚染土壌の無害化処理を行うようにした方法が提案されている。しかし、この従来技術では、内部を無酸素状態にすることが可能な加熱炉を設置する必要があり、大量の汚染土壌を処理する場合、設備コストが高くなる。
【0005】
また、加熱処理と洗浄処理を組み合わせた従来技術の例として、特開2002−177941号公報には、土壌中に含まれるヒ素をその存在形態の如何にかかわらず効率よく除去できるようにすることを目的として、ヒ素汚染土壌を加熱処理した後、洗浄処理する方法と、ヒ素汚染土壌を洗浄処理した後、加熱処理する方法が提案されている。この従来技術は、As(揮散温度:465℃)などの3価のヒ素化合物が加熱により除去しやすいこと(3価のヒ素化合物は、水への溶解度が小さいが、揮散し易い)、及び、As(30℃の水への溶解度:414g/L)などの5価のヒ素化合物が水に溶解しやすいこと(5価のヒ素化合物は、揮散し難いが、水への溶解度が大きい)を利用するようにしたものである。
【0006】
しかし、これら3価や5価のヒ素化合物については、ヒ素単独の場合に比べ、土壌に含有あるいは吸着された場合、その揮発、又は水溶解の性質が大きく変わることが知られている。しかも、ヒ素汚染土壌中のヒ素の存在形態を明確にすることが困難であることから、土壌を予め分析して3価ヒ素化合物に適する加熱処理を先に実施すべきか、5価ヒ素化合物に適した洗浄処理を実施すべきかについて、予見することが困難である。
【0007】
その例として、表1には、ヒ素汚染土壌をその10倍重量の水を使って洗浄する場合と、加熱処理した後で同様に水洗浄する場合とについて、ヒ素除去率を示す。表1に示すように、加熱前のヒ素汚染土壌を水洗浄しても該土壌中のヒ素のうち6〜15%しか除去できなかった。そこで、空気雰囲気中でヒ素汚染土壌を550℃の温度で20分加熱したものの、加熱によるヒ素含有量の低下は認められなかった。また、加熱処理の後、該土壌を水洗浄した場合でも、表1に示すように、やはりヒ素の除去効果はほとんど認められなかった。
【0008】
【表1】

【0009】
一般に土壌中の成分として、カルシウムなどの2価以上の原子価を持つ金属が含まれていることが多く、ヒ素が5価イオンで存在しても、これら2価以上の金属の塩になると該ヒ素の土壌中の水への溶解度は非常に小さくなる。例えば、5価のヒ素化合物であるヒ酸カルシウムCa(AsOは、溶解度積が6.8×10−19と非常に小さいため、水洗浄で除去することが実質的に不可能であるといえる。
【0010】
また、不溶化処理を行う従来技術の例として、特開2003−290759号公報には、鉛、ヒ素などの重金属を含む汚染土壌に、セメント、ヒドロキシアパタイト及びポリ硫酸鉄を加えて混合し、これら重金属を固定化させてその溶出を抑制するようにした方法が提案されている。しかし、この従来技術では、前記のセメント、ヒドロキシアパタイト及びポリ硫酸鉄などの薬剤が高価なため、処理コストが高くなってしまう。
【0011】
また、化学兵器に関連する有機ヒ素化合物は、一般に300〜500℃の範囲で加熱が施されることにより、揮発あるいは分解されるが、土壌中に含まれる場合、加熱時に土壌中のカルシウム、鉄、マグネシウムなどの金属と反応して、揮発し難く、かつ水洗浄除去され難い化合物になる可能性が高い。
【0012】
【表2】

【0013】
例えば、表2は有機ヒ素化合物の1つであるジフェニルアルシン酸(DPAA:C1211AsO)を添加した模擬汚染土壌の加熱試験結果である。550℃の温度で20分の加熱処理により、DPAAは99.93%以上が除去されているものの、表2に示すように、加熱後の土壌中には無機化したヒ素が残り、ヒ素除去率としては30〜34%であった。
【特許文献1】特開2004−50029号公報(段落[0014]〜[0015])
【特許文献2】特開2002−177941号公報(段落[0010]〜[0011])
【特許文献3】特開2003−290759号公報(段落[0009]〜[0016])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明の課題は、ヒ素汚染土壌に含まれるヒ素の化合物形態が有機ヒ素化合物であっても、3価あるいは5価の無機ヒ素化合物であっても、 ヒ素汚染土壌に含まれるヒ素を不溶化して、土壌環境基準値を満たすようにヒ素の溶出を低く抑えることができるヒ素汚染土壌の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0016】
請求項1の発明は、ヒ素汚染土壌を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理されたヒ素汚染土壌にカルシウム化合物と水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法である。
【0017】
請求項2の発明は、ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理された混合物に水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法である。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1記載のヒ素汚染土壌の処理方法において、加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部、好ましくは5〜10重量部加え、水を10〜70重量部、好ましくは20〜40重量部加えることを特徴とするものである。
【0019】
請求項4の発明は、請求項2記載のヒ素汚染土壌の処理方法において、ヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部、好ましくは5〜10重量部加え、加熱処理された前記混合物100重量部に対し、水を10〜70重量部、好ましくは20〜40重量部加えることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒ素汚染土壌の処理方法において、カルシウム化合物が、生石灰、消石灰、セメント及び高炉セメントのうちから選択される一種又は複数種のものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によるヒ素汚染土壌の処理方法によれば、加熱処理と不溶化処理とを組み合わせることにより、ヒ素汚染土壌中に含まれるヒ素の化合物形態が有機ヒ素化合物であっても、3価あるいは5価の無機ヒ素化合物であっても、ヒ素とカルシウムが結合したヒ素の難溶性化合物を生成させてヒ素汚染土壌中に含まれるヒ素を不溶化することができ、土壌環境基準値を満たすようにヒ素の溶出を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明による第1のヒ素汚染土壌の処理方法は、ヒ素汚染土壌を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理されたヒ素汚染土壌にカルシウム化合物と水を加えて混合するようにしている。この第1のヒ素汚染土壌の処理方法では、ヒ素汚染土壌を加熱処理することにより、ヒ素汚染土壌に含まれている3価の無機ヒ素化合物は酸化されて5価の無機ヒ素化合物となり、有機ヒ素化合物は一部が揮散されて残りは無機ヒ素化合物となるが、加熱雰囲気ガスである空気、あるいは酸素ガスによって酸化されて5価の無機ヒ素化合物となる。このように加熱処理により、3価の無機ヒ素化合物と有機ヒ素化合物とが、水への溶解度が大きい5価の無機ヒ素化合物に変化することになる。
【0023】
そして、加熱処理されたヒ素汚染土壌に消石灰などカルシウム化合物と水を加えて混合する。そうすると、添加したカルシウム化合物が5価の無機ヒ素化合物と反応して、水への溶解度が小さい、ヒ素とカルシウムが結合したヒ素の難溶性化合物が生成される。さらに、カルシウム化合物を汚染土壌中のヒ素含有量に対応する量よりも過剰に添加するようにしているので、同時に添加される水、及び汚染土壌に含まれるシリカとカルシウム化合物が反応して、土壌粒子の表面に不透水性のケイ酸カルシウム層が形成される。
【0024】
本発明による第2のヒ素汚染土壌の処理方法は、ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理された混合物に水を加えて混合するようにしている。この第2のヒ素汚染土壌の処理方法では、ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を加熱処理することにより、カルシウム化合物が加熱中に生成する5価の無機ヒ素化合物と反応する。そして、この加熱処理されたものに水を加えて混合することで、カルシウム化合物と5価の無機ヒ素化合物との反応が促進され、ヒ素とカルシウムが結合したヒ素の難溶性化合物が生成されるとともに、汚染土壌中のヒ素含有量に対応する量よりも過剰に添加されているカルシウム化合物が汚染土壌に含まれるシリカと反応して、土壌粒子の表面に不透水性のケイ酸カルシウム層が形成される。
【0025】
このように、本発明によるヒ素汚染土壌の処理方法によれば、ヒ素汚染土壌中に含まれるヒ素の化合物形態が有機ヒ素化合物であっても、3価あるいは5価の無機ヒ素化合物であっても、ヒ素とカルシウムが結合したヒ素の難溶性化合物を生成させてヒ素汚染土壌中に含まれるヒ素を不溶化することができ、また、土壌粒子の表面に不透水性のケイ酸カルシウム層を形成することができるので、土壌環境基準値を満たすように汚染土壌中の水へのヒ素の溶出を低く抑えることができる。
【0026】
本発明によるヒ素汚染土壌の処理方法においては、加熱処理における加熱温度は、200〜700℃の範囲とする必要がある。この範囲より低温度では3価の無機ヒ素化合物を十分に酸化できず、かつ、有機ヒ素化合物を揮散及び分解・酸化することができず、また、この範囲より高温度では加熱炉(加熱装置)の耐熱性を一段と高くする必要があり、設備コストが大きくなる。
【0027】
また、添加するカルシウム化合物としては、ヒ素と反応すべきカルシウムイオンを供給できるものであり、かつ、水、及び汚染土壌に含まれるシリカと反応して不透水性のケイ酸カルシウム層を形成できるものであればよい。このようなカルシウム化合物として、生石灰、消石灰、セメント及び高炉セメントのうちから選択される一種又は複数種が挙げられる。
【0028】
本発明によるヒ素汚染土壌の処理方法では、前述したように、カルシウム化合物を5価の無機ヒ素化合物と反応させるとともに、ヒ素汚染土壌に含まれるシリカとも反応させるようにしている。このため、カルシウム化合物の添加量は、汚染土壌に含まれるヒ素含有量に対応する量よりも多くなるように定める必要があるものの、多すぎると、無駄となり処理コストの増大を招くことになる。よって、第1の処理方法では加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部(質量部)に対し、第2の処理方法ではヒ素汚染土壌100重量部(質量部)に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部(質量部)、好ましくは5〜10重量部(質量部)加えることがよい。
【0029】
また、水の添加量は、前述したように、ヒ素の難溶性カルシウム化合物を生成する反応と、カルシウム化合物が汚染土壌中のシリカと反応して不透水性のケイ酸カルシウム層を形成する反応とに必要な量である。よって、第1の処理方法では加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部(質量部)に対し、第2の処理方法ではヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えて加熱処理したものに対し、水を10〜70重量部(質量部)[汚染土壌の粒度や性状により異なるものの、砂質土であれば10〜40重量部、粘土やシルト分の多い土壌であれば20〜70重量部]、好ましくは20〜40重量部(質量部)加えることがよい。
【0030】
図1は本発明による第1のヒ素汚染土壌の処理方法のフロー図、図2は本発明による第2のヒ素汚染土壌の処理方法のフロー図である。
【0031】
図1、図2において、1は加熱炉である。加熱炉1としては、空気雰囲気中、あるいは酸素ガス雰囲気中においてヒ素汚染土壌を200〜700℃の範囲にて加熱することができる加熱炉であれば、特に型式を限定することなく使用可能である。ヒ素汚染土壌を連続処理する場合には、キルン方式の加熱炉を用いることもできる。また、加熱源も特に制限は無く、重油や燃料ガスの高温燃焼ガスで直接土壌を加熱することや、2重構造式加熱炉にして外筒部に加熱空気を流通させ土壌を間接加熱することも適用可能である。
【0032】
加熱炉1での加熱処理条件のうち加熱時間については、ヒ素汚染土壌に含まれるヒ素の量及び土壌中の水分量に応じて調整することが必要である。後述する実施例1〜実施例4に示した関東ロームからなるヒ素汚染土壌の場合は、表土に近い部分であったため含水率は高くなく、加熱時間は20分が適当であった。
【0033】
図1、図2において、2は混合機である。混合機2としては、図1のように、加熱処理された土壌、水及びカルシウム化合物を均一に混合できるもの、あるいは、図2のように、ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を加熱処理したものと水とを均一に混合できるものであれば型式などに特に限定は無く、横型パドルミキサー又は縦型ミキサー、あるいは屋外での混合用のスタビライザーも利用可能である。
【0034】
また、水の添加については、加熱処理されたヒ素汚染土壌との混合中に限らず、混合時に十分な量の水が存在する場合、加熱処理されたヒ素汚染土壌との混合前に該ヒ素汚染土壌に添加するようにすればよい。また、カルシウム化合物の添加についても、加熱処理されたヒ素汚染土壌との混合中に限らず、混合時に反応すべきカルシウム量が十分に存在する場合、加熱処理されたヒ素汚染土壌との混合前に該ヒ素汚染土壌に添加するようにすればよい。さらに、カルシウム化合物の添加については、図2のように加熱処理されているヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を添加すること、あるいは、加熱炉1に供給される前のヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を添加することも可能である。この場合、加熱炉1としてキルン型加熱炉を用いると、キルンによってヒ素汚染土壌の撹拌効果がもたらされ好都合である。
【実施例1】
【0035】
まず、比較例について説明する。関東ロームからなるヒ素汚染土壌(ヒ素溶出量:0.097mg/L)100重量部に対し、水:40重量部,消石灰:5重量部、水:40重量部,消石灰:7重量部、水:40重量部,消石灰:12重量部、水:40重量部,生石灰:5重量部、を添加し良く混合し、室温にて静置・養生して、No.1〜No.4の比較例を得た。No.1〜No.4の比較例について、養生1日後、養生7日後及び養生28日後のもののヒ素溶出量を、環境庁告示46号の溶出試験に従って測定した。測定結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1について説明する。比較例と同じ区域から採取した関東ロームからなるヒ素汚染土壌(ヒ素溶出量:0.027mg/L)を加熱炉において空気雰囲気中で温度:550℃、時間:20分にて加熱処理した。この加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部に対し、水:40重量部、消石灰:5重量部を添加して良く混合し、室温にて静置・養生して、No.1の処理土壌を得た。同様の手順にて、カルシウム化合物として消石灰:7重量部、消石灰:12重量部、生石灰:5重量部を用いたNo.2〜No.4の処理土壌を得た。そして、No.1〜No.4の処理土壌について、養生1日後、養生7日後及び養生28日後のもののヒ素溶出量を、環境庁告示46号の溶出試験に従って測定した。測定結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4から分かるように、実施例1のNo.1〜No.4では、加熱処理と不溶化処理とを組み合わせることにより、ヒ素溶出量を0.002mg/L未満にして土壌環境基準値(ヒ素溶出量:0.01mg/L以下)を満たすようにすることができた。一方、表3からわかるように、比較例では、加熱処理することなく単に不溶化処理を行うものであるから、土壌環境基準値を満たすようにヒ素溶出抑制ができなかった。なお、比較例のNo.3とNo.4の養生28日後のものは、土壌環境基準値を満たすものの、養生の日数が長くて極めて効率の悪いものとなっている。
【実施例2】
【0040】
実施例2について説明する。比較例と同じ区域から採取した関東ロームからなり、ヒ素溶出量が実施例1に比べて約4倍程度高いヒ素汚染土壌(ヒ素溶出量:0.109mg/L)を、実施例1と同様に、加熱炉において空気雰囲気中で温度:550℃、時間:20分にて加熱処理した。この加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部に対し、水:40重量部、生石灰:3重量部を添加して良く混合し、室温にて静置・養生して、No.1の処理土壌を得た。同様の手順にて、カルシウム化合物として生石灰:3重量部を用いたNo.2の処理土壌を得た。そして、No.1,No.2の処理土壌について、養生1日後、養生7日後及び養生28日後のもののヒ素溶出量を、環境庁告示46号の溶出試験に従って測定した。測定結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5から分かるように、実施例2のNo.1,No.2では、加熱処理と不溶化処理とを組み合わせることにより、ヒ素溶出量を0.002mg/L未満にして土壌環境基準値(ヒ素溶出量:0.01mg/L以下)を満たすようにすることができた。
【実施例3】
【0043】
実施例3について説明する。比較例と同じ区域から採取した関東ロームからなり、ヒ素溶出量が実施例2に比べて約3〜4倍程度高いヒ素汚染土壌100重量部に対し、生石灰:3重量部を加えた混合物を、加熱炉において空気雰囲気中で温度:550℃、時間:20分にて加熱処理した。この加熱処理された混合物100重量部に対し、水:40重量部を添加して良く混合し、室温にて静置・養生して、No.1の処理土壌を得た。同様の手順にて、カルシウム化合物として生石灰:5重量部を用いたNo.2の処理土壌と、生石灰:10重量部を用いたNo.3の処理土壌とを得た。そして、No.1〜No.3の処理土壌について、養生1日後のもののヒ素溶出量を、環境庁告示46号の溶出試験に従って測定した。また、No.1〜No.3の処理土壌について、その処理過程での前記加熱処理された混合物のヒ素溶出量をも測定した。測定結果を表6に示す。
【0044】
【表6】

【0045】
表6から分かるように、実施例3のNo.1〜No.3では、加熱処理と不溶化処理とを組み合わせることにより、ヒ素溶出量を0.002mg/L未満にして土壌環境基準値(ヒ素溶出量:0.01mg/L以下)を満たすようにすることができた。
【実施例4】
【0046】
実施例4について説明する。比較例と同じ区域から採取した関東ロームからなるヒ素汚染土壌(ヒ素溶出量:0.180mg/L)を用い、加熱炉において空気雰囲気中で温度:550℃、時間:20分にて加熱処理のみを行うもの(No.1の比較例)、ヒ素汚染土壌を加熱処理→水を加えて混合という手順によるもの(No.2の比較例)、ヒ素汚染土壌に消石灰を加えて混合→加熱処理という手順によるもの(No.3の比較例)、ヒ素汚染土壌に消石灰を加えて混合→加熱処理→水を加えて混合という手順によるもの(No.4の実施例)について、それぞれ処理土壌を得た。そして、No.1〜No.3の比較例とNo.4の実施例の処理土壌について、養生7日後のもののヒ素溶出量を、環境庁告示46号の溶出試験に従って測定した。測定結果を表7に示す。
【0047】
【表7】

【0048】
表7から分かるように、本発明から外れるNo.1〜No.3の比較例では、土壌環境基準値を満たすようにヒ素の溶出抑制ができなかった。これに対して、実施例4のNo.4では、加熱処理と不溶化処理とを組み合わせることにより、ヒ素溶出量を0.008mg/Lにして土壌環境基準値(ヒ素溶出量:0.01mg/L以下)を満たすようにすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による第1のヒ素汚染土壌の処理方法のフロー図である。
【図2】本発明による第2のヒ素汚染土壌の処理方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0050】
1…加熱炉
2…混合機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素汚染土壌を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理されたヒ素汚染土壌にカルシウム化合物と水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理された混合物に水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部、好ましくは5〜10重量部加え、水を10〜70重量部、好ましくは20〜40重量部加えることを特徴とする請求項1記載のヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
ヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部、好ましくは5〜10重量部加え、加熱処理された前記混合物100重量部に対し、水を10〜70重量部、好ましくは20〜40重量部加えることを特徴とする請求項2記載のヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
カルシウム化合物が、生石灰、消石灰、セメント及び高炉セメントのうちから選択される一種又は複数種のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒ素汚染土壌の処理方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素汚染土壌を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理されたヒ素汚染土壌にカルシウム化合物と水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
ヒ素汚染土壌にカルシウム化合物を加えた混合物を温度200〜700℃の範囲で加熱処理し、この加熱処理された混合物に水を加えて混合することを特徴とするヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
加熱処理されたヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部加え、水を10〜70重量部加えることを特徴とする請求項1記載のヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
ヒ素汚染土壌100重量部に対し、カルシウム化合物を3〜20重量部加え、加熱処理された前記混合物100重量部に対し、水を10〜70重量部加えることを特徴とする請求項2記載のヒ素汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
カルシウム化合物が、生石灰、消石灰、セメント及び高炉セメントのうちから選択される一種又は複数種のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒ素汚染土壌の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167617(P2006−167617A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364404(P2004−364404)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】