説明

ピストン型のポンプ

【課題】1個の動作部材の動作により流体が吸入・吐出される流体室の容量を変更できるポンプを提供する。
【解決手段】第1の部材25と、第2の部材31と、カム28と、動作部材35,36と、流体室とを備えたピストン型のポンプにおいて、流体室は分割室A,Bで構成され、分割室A,Bに流体を吸入する通路17,18,19,20,81,87,204,205の接続を分割室A,B毎に制御する制御機構82,88が設けられ、動作部材35,36が中心線R1に沿って配置され、動作部材35,36に第1段部106が設けられ、第2の部材31に第2段部101が設けられ、中心線R1方向で第1段部106と第2段部101との間にいずれかの分割室A,Bが形成され、第2の部材31に凹部34が設けられ、凹部34に動作部材35,36が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンがカムに接触した状態で、カムの形状に沿って動作するように構成された、ピストン型のポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、第1の部材と第2の部材との相対回転によってピストンが動作し、かつ、流体室内に液体が出入りするように構成された、ピストン型の液体機器が知られている。このピストン型の液体機器の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたラジアルピストンモータは、ハウジング内に出力シャフトが配置されている。このハウジングにはリング状のカムが固定されており、そのカムには内側カム面が形成されている。前記出力シャフトには複数のボアが円周方向に形成されており、各ボアには、出力シャフトの半径方向に動作するピストンが収納されている。また、各ピストンにはローラが備えられており、このローラが前記内側カム面を転動するように構成されている。さらに前記ボアには油孔が接続されている。そして、油孔を介して前記ボアにオイルが供給されて、ピストンがボア内で往復動し、ピストンに取り付けたローラが内側カム面を転動することにより、出力シャフトの回転運動として取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−190522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の特許文献1に記載されているラジアルピストンモータにおいては、1個のピストンが動作する場合に、前記ボアに供給されるオイルの流速を変更することができなかった。そのため、このラジアルピストンモータをポンプとして用いる場合に、ピストンに加えられる付勢力が不十分となり、ピストンがカム面から離れる(山飛び)が発生する虞があった。
【0005】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであって、1個のピストンの動作により流体室に吸入・吐出される流体の容量を変更することの可能な可変容量型のピストン型のポンプを提供し、かつ、動作部材がカムから離れる(山飛び)を抑制することの可能なピストン型のポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ピストン型のポンプは、回転軸線を中心として相対回転可能に設けられた第1の部材および第2の部材と、前記第1の部材に設けられ、かつ、予め定められた方向に変位された形状を有するカムと、前記第2の部材に取り付けられ、かつ、前記カムに接触して予め定められた方向に動作可能な動作部材と、前記第2の部材に設けられ、かつ、前記第1の部材と第2の部材とが相対回転した場合に、前記動作部材の動作により流体が吸入・吐出される流体室とを備えた、ピストン型のポンプにおいて、前記流体室は、単一の動作部材の動作により流体が吸入・吐出され、かつ、相互に流体密に分割された複数の分割室で構成されており、これらの複数の分割室にそれぞれ接続され、かつ、前記流体が通る通路と、この通路を前記複数の分割室毎に別々に開放・遮断する制御機構とが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
ピストン型のポンプによれば、回転軸線を中心として第1の部材と第2の部材とが相対回転すると、動作部材がカムに接触した状態で、予め定められた方向動作する。この動作部材の動作により流体室への流体の吸入、および流体室からの流体の吐出がおこなわれる。そして、1個の動作部材に流体圧を作用させる流体が吸入・吐出される分割室では、その分割室毎にそれぞれ通路の接続・遮断を制御可能である。このため、1個の動作部材毎に、流体室から吐出される流体の容量を変更することができるとともに、各分割室に接続された通路毎に、流体の流速を変更することが可能である。したがって、動作部材をカムに押し付ける付勢力を調整することができる。つまり、動作部材がカムから離れること(山飛び)を抑制でき、カムに対する動作部材の追従性が向上する。また、ポンプにおける流体の吐出量を可変とすることができ、物理的に1台のポンプで複数台のポンプがあるのと等価になり、ポンプの小型化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の具体例1を示す概念図である。
【図2】この発明におけるピストン型のポンプを、車両用の動力伝達装置として用いる場合における、車両の全体構成を示す概念図である。
【図3】図1に示されたポンプの半径方向における断面図である。
【図4】図1に示されたポンプを制御する各種のモードと、各モードに対応する状態との関係を示す図表である。
【図5】この発明におけるピストン型のポンプのモードを切り替える制御例を示すフローチャートである。
【図6】この発明の具体例2を示す概念図である。
【図7】この発明の具体例3を示す概念図である。
【図8】この発明の具体例3に用いられる油圧制御装置の構成を示す概念図である。
【図9】具体例3のオイルポンプを制御する各種のモードと、各モードに対応する状態との関係を示す図表である。
【図10】この発明の具体例1および具体例2で用いるロータリーバルブの構成を示す平面図である。
【図11】この発明の具体例3で用いるロータリーバルブの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ピストン型のポンプにおいては、第1の部材と第2の部材とが相対回転すると、動作部材がカムの形状に沿って往復動されて、流体室に流体を吸入し、その流体室から流体が吐出される。第1の部材および第2の部材は回転軸線を中心として相対回転可能に配置されている。また、ピストン型のポンプにおいては、第1の部材または第2の部材のうち、少なくとも一方が回転可能に構成される。言い換えれば、いずれか一方の部材は回転不可能に固定された固定構造物でもよい。ピストン型のポンプは、流体を吸入・吐出するポンプとして用いるほかに、動力伝達装置(具体的にはクラッチ)として用いることも可能である。ポンプを動力伝達装置として用いる場合、カムと動作部材との係合力により、第1の部材と第2の部材との間で動力伝達がおこなわれる。
【0010】
ポンプを動力伝達装置として用いる場合は、第1の部材および第2の部材が、共に回転可能に設けられる。ピストン型のポンプにおいて、第1の部材または第2の部材のうち、回転可能に設けられる部材は、動力源の動力が伝達されるように構成されており、動力源の動力が一方の部材に伝達されて、第1の部材と第2の部材とが相対回転する。第1の部材または第2の部材のうち、回転可能に設けられる部材、つまり、回転要素には、回転軸、歯車、スプロケット、スリーブ、プーリ、キャリヤ、環状部材などの要素が含まれる。これに対して、ポンプおける一方の部材を回転不可能に固定する場合、この固定要素としては、ポンプが収容されるケーシングまたはハウジング自体、ケーシングまたはハウジングに取り付けられるブラケットもしくはフレーム、ケーシングまたはハウジングに設けられる隔壁などが挙げられる。さらに、ケーシングまたはハウジングは、動力源に固定される構造、または車体に固定される構造のいずれでもよい。さらに、ポンプを車両に搭載する場合、車体自体に何れか一方の部材を固定してもよい。
【0011】
動力源としては、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である内燃機関を用いることが可能である。さらに、内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることができる。また動力源としては電動機を用いることも可能である。電動機は電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。また、電動機は直流電動機または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、発電機能を兼備した発電・電動機を用いることも可能である。さらには、内燃機関および電動機の両方を動力源として用いることも可能である。さらにまた、動力源として、フライホイールシステムを用いることも可能である。ピストン型のポンプにおいて、予め定められた方向とは、例えば、回転軸線に沿った方向、および回転軸線を中心とする半径方向が挙げられる。カムを半径方向に変位させる場合、そのカムの形状としては、回転軸線を中心として環状に形成される湾曲面で構成することができる。回転軸線と垂直な平面内における形状としては、波形形状、楕円形状、回転軸線から中心を偏心させた真円形状などを用いることができる。これに対して、カムを回転軸線に沿った方向に変位させる場合、回転軸線に沿った方向に波形形状に変位されたカム、楕円形状の平坦面で構成されたカムを用いることができる。
【0012】
カムが回転軸線と垂直な平面内で半径方向に変位されている場合、動作部材も半径方向に動作する。このように動作部材が半径方向に動作するポンプは、ラジアルピストンポンプである。これに対して、カムが回転軸線に沿った方向に変位されている場合、動作部材も回転軸線に沿った方向に動作する。このように動作部材が回転軸線に沿った方向に動作するポンプは、アキシャル(スラスト)ピストンポンプである。ピストン型のポンプにおいて、第1の部材と第2の部材とが1回転相対回転した場合に、動作部材が予め定められた方向に1往復する構成、または、動作部材が予め定められた方向に2回以上往復する構成のいずれでもよい。ピストン型のポンプにおいて、動作部材は、第1の部材に取り付けられたピストンと、このピストンに取り付けられた転動体とを有し、転動体がカムに接触するように構成されている。転動体としては、ローラまたはボールを用いることが可能である。ピストン型のポンプにおける凹部は、動作部材を動作可能に保持する収容部であり、シリンダボア、窪み、穴などにより構成される。ピストン型のポンプにおける第1段部および第2段部は、シリンダ室を取り囲む(形成する)壁面である。
【0013】
ピストン型のポンプが駆動されて流体室に吸入される流体、および流体室から吐出される流体は、非圧縮性流体である。非圧縮性流体は具体的には液体であり、液体としては、水、オイル、不凍液、薬液、温水などが挙げられる。ピストン型のポンプを動力伝達装置(クラッチ)として用いる場合、液体としてはオイルが挙げられる。ピストン型のポンプにおける通路は、流体が通過する流路であり、この通路には、油路、孔、穴、溝、窪み、凹部、バルブのポート、バルブ内の流路などが含まれる。また、ピストン型のポンプにおいて、制御機構は通路同士を接続・遮断したり、通路自体を開放・閉鎖することのできる機構であり、制御機構には、バルブの弁体、バルブ自体、このバルブを制御する電子制御装置が含まれる。さらに、ピストン型のポンプを車両に用いる場合、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に第1の部材と第2の部材とを配置することが可能である。この場合、ポンプはフロアーの下方空間に配置することが可能である。また、車両のエンジンルーム内にポンプを配置することも可能である。例えば、エンジンルーム内にポンプを配置し、エンジンまたは電動機を冷却する冷却水を吸入・吐出するポンプとして用いることが可能である。さらに、ピストンポンプをオイルポンプとして車両に搭載する場合、車両の操舵力を制御するパワーステアリング用の油圧アクチュエータに供給するオイルを、オイルポンプから供給するように構成可能である。さらにまた、ピストンポンプをオイルポンプとして車両に搭載する場合、車両の懸架装置用の油圧アクチュエータに供給するオイルを、オイルポンプから供給するように構成可能である。さらに、ポンプは、車両以外に、工場内、地上などにも設置可能である。
【0014】
また、ピストン型のポンプによれば、第1段部と第2段部との間に、いずれかの分割室が形成される。また、ピストン型のポンプによれば、凹部内で動作部材が動作する。また、第1突出部材により複数の分割室のうちの第1分割室と第2分割室とが仕切られている。したがって、簡単な構造により、複数の分割室を分割できる。また、ピストン型のポンプによれば、ばねの弾発力により動作部材がカムに押し付けられるとともに、そのばねにより第1突出部材が第2の部材に押し付けられる。つまり、ばねが動作部材をカムに押し付ける機能と、第1突出部材を固定する機能とを兼備しているため、ピストン型ポンプを組み立てる工程で、第1突出部材を第2の部材に固定する作業を容易におこなえる。
【0015】
また、ピストン型のポンプによれば、第2突出部材により、複数の分割室のうち第1分割室と第3分割室とが仕切られている。したがって、簡単な構造により複数の分割室を分割できる。また、動作部材の小型化が可能であり、その結果凹部も小径化できる。また、ピストン型のポンプによれば、第1の部材と第2の部材との回転数差が大きくなるほど、流体室から吐出される流体の流量が少なくなる。また、ピストン型のポンプによれば、複数の分割室のうちの第1分割室に対応して設けられている動作部材が、第1分割室に流体を吸入する向きで動作する場合のみ、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される通路が、第1分割室に接続される。このため、第1分割室の流体圧に流体を吸入する向きで動作する行程で、第2分割室の流体圧が第1分割室に相当する動作部材に与えられて、その動作部材がカムに押し付けられる力が増加し、カムに対する動作部材の追従性が向上する。また、ピストン型のポンプによれば、複数の分割室のうちの第1分割室に対応して設けられている動作部材が、第1分割室に流体を吸入する向きで動作する場合、および第1分割室から流体を吐出する向きで動作する場合のいずれにおいても、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される通路を第1分割室に接続する。したがって、動作部材が流体室に流体を吸入する向きで動作する行程で、第2分割室の流体圧が第1分割室に導入される一方で、動作部材が流体室から流体を吐出する向きで動作する行程では、第1分割室および第2分割室から流体が吐出されるため、流体室から吐出される流体の総量の低下を抑制できる。
【0016】
また、ピストン型のポンプにおいて、予め定められた流速値は、転動体がカムから離れるか否かを判断するための閾値である。つまり、流体室に吸入される流体の流速が、予め定められた流速値を越えた場合は、転動体がカムから離れる可能性がある。そこで、流体室に吸入されるオイルの流速が、予め定められた流速値を越えた場合に限り、通路の流体の圧力が第1分割室の動作部材をカムに押し付ける力として加えられる。したがって、ポンプにおける流体の吐出効率の低下を抑制できる。また、ピストン型のポンプの発明によれば、第1分割室に流体を吸入するように動作部材が動作する時に、第2分割室の流体が吐出される油路を第1分割室に接続する場合と、第1分割室に流体を吸入するように動作部材が動作する時、および第1分割室から流体を吐出するように動作部材が動作する時のいずれにおいても、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される通路を第1分割室に接続する場合とで、ポンプの流体吐出量を変更可能である。また、ピストン型のポンプによれば、駆動力源の動力が第1の部材または第2の部材に伝達された場合に、カムと動作部材との係合力により、第1の部材と第2の部材との間で動力伝達がおこなわれる。
【0017】
つぎに、ピストン型のポンプを車両に用いた場合の具体的な構成例を、図2に基づいて説明する。この図2には、車両1のパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。図2に示された車両においては、ピストン型のポンプが、オイルポンプおよびクラッチとして用いられている。この図2に示すパワートレーンは、いわゆるフロントエンジン・フロントドライブ形式のパワートレーン(二輪駆動車)である。車両1にはエンジン2が搭載されている。このエンジン2は、車輪に伝達する動力を発生する駆動力源であり、エンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達されるように構成されている。エンジン2は、車輪5に伝達するトルクを発生する動力装置であり、例えば、内燃機関を用いることができる。また、ダンパ機構3はエンジントルクの変動を吸収もしくは緩和する装置である。ダンパ機構3およびインプットシャフト4は、ケーシング(トランスアクスルケース)6内に配置されている。このケーシング6は、エンジンの外壁に固定機構、例えば、ボルトおよびナットにより締め付け固定されている。このケーシング6は、動力伝達経路を構成する回転要素、具体的には回転軸、ギヤ、プーリなど、あるいはこれらの回転要素を支持する軸受を収容する収容機構である。インプットシャフト4は、エンジン2から車輪5に至る動力伝達経路の一部を構成する回転要素である。このインプットシャフト4の回転軸線W1は、車両1の左右方向に沿って配置されている。そして、インプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ23および前後進切換装置7を経由してベルト式無段変速機8に伝達されるとともに、そのベルト式無段変速機8から出力されたトルクが、伝動装置9および終減速機10を経由して車輪5に伝達されるように構成されている。以下、オイルポンプ23の具体例を順次説明する。
【0018】
(具体例1)
オイルポンプ23の具体例1を、図1および図3に基づいて説明する。この図1はオイルポンプ23の回転軸線W1に沿った方向における縦断面図であり、図3は回転軸線W1と垂直な平面における断面図である。この回転軸線W1は、インプットシャフト4の回転軸線およびエンジン2のクランクシャフトの回転軸線と共通である。オイルポンプ23は、インプットシャフト4と、ベルト式無段変速機8との間における伝達トルクを制御するクラッチとしての機能を兼備している。また、ケーシング6であって、回転軸線W1に沿った方向で、エンジン2から最も離れた位置にはリヤカバー11が設けられており、このリヤカバー11には回転軸線W1を中心として支持孔200が設けられている。この支持孔200は円柱形状を有している。
【0019】
この支持孔200によりロータリーバルブ12が回転可能に支持されている。このロータリーバルブ12は、インプットシャフト4と同軸上に配置されている。このロータリーバルブ12は、図10に示すように柱形状を有しており、このロータリーバルブ12の外周には、吐出ポート(油路)14,16、および吸入ポート(油路)13,15が形成されている。この吐出ポート14,16および吸入ポート13,15は、それぞれロータリーバルブ12の全周に亘って形成された環状の溝であり、吐出ポート14,16および吸入ポート13,15は、回転軸線W1に沿った方向で異なる位置に配置されている。さらに、ロータリーバルブ12には、回転軸線W1に沿った方向に油路17,18,19,20が形成されており、油路17と吐出ポート16とが接続され、油路18と吸入ポート13とが接続され、油路19と吐出ポート14とが接続され、油路20と吸入ポート15とが接続されている。また、回転軸線W1に沿った方向で、吸入ポート13と吐出ポート14とが隣り合わせに配置され、吸入ポート15と吐出ポート16とが隣り合わせに配置されている。
【0020】
また、ロータリーバルブ12の外周面には、油路52,53,59,60が形成されている。油路52は、前記回転軸線W1に沿った方向で、吸入ポート13と吐出ポート14との間に配置されており、油路52は吸入ポート13に接続されている。また、油路52は、ロータリーバルブ12の円周方向に沿って等間隔おきに複数、この具体例では6箇所設けられている。さらに、油路53は、前記回転軸線W1に沿った方向で、吸入ポート13と吐出ポート14との間に配置されており、油路53は吐出ポート14に接続されている。また、油路53は、ロータリーバルブ12の円周方向に沿って等間隔おきに複数、この具体例では6箇所設けられている。具体的には、ロータリーバルブ12の全周に亘って、油路52と油路53とが交互に配置されている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路52および油路53の配置領域が一部で重なっている。
【0021】
一方、油路59は、前記回転軸線W1に沿った方向で、吸入ポート15と吐出ポート16との間に配置されており、油路59は吸入ポート15に接続されている。また、油路59は、ロータリーバルブ12の円周方向に沿って等間隔おきに複数、この具体例では6箇所設けられている。さらに、ロータリーバルブ12の円周方向において、6箇所の油路53と、6箇所の油路59とが同じ位相上に配置されている。さらに、油路60は、前記回転軸線W1に沿った方向で、吸入ポート15と吐出ポート16との間に配置されており、油路60は吐出ポート16に接続されている。また、油路60は、ロータリーバルブ12の円周方向に沿って等間隔おきに複数、この具体例では6箇所設けられている。具体的には、ロータリーバルブ12の全周に亘って、油路59と油路60とが交互に配置されている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路59および油路60の配置領域が一部で重なっている。さらに、ロータリーバルブ12の円周方向において、6箇所の油路60と、6箇所の油路52とが同じ位相上に配置されている。
【0022】
一方、インプットシャフト4の外側には、環状のコネクティングドラム21が同軸上に配置されている。このコネクティングドラム21は、回転要素同士を接続する接続部材である。また、ケーシング6の内部には隔壁22が設けられており、回転軸線W1に沿った方向で、リヤカバー11と隔壁22とにより取り囲まれた空間に、オイルポンプ23が配置されている。そして、隔壁22とコネクティングドラム21との間には軸受24が介在されており、この軸受24によってコネクティングドラム21が、回転軸線W1を中心として回転自在に保持されている。このコネクティングドラム21におけるリヤカバー11側の端部には、オイルポンプ23の一部を構成するアウターレース25が設けられている。このアウターレース25は、オイルポンプ23の外側部分を構成する回転要素であり、このアウターレース25が、コネクティングドラム21と一体回転するように連結されている。また、アウターレース25は、フランジ26と、フランジ26の端部に連続された円筒部27とを有している。フランジ26は回転軸線W1を中心とする半径方向に延ばされており、フランジ26の内周端がコネクティングドラム21に接続されている。さらに、フランジ26の外周端に円筒部27が連続されている。この円筒部27は回転軸線W1を中心として設けられている。
【0023】
そして、円筒部27の内周には、全周に亘ってカム面28が形成されている。このカム面28は、図3に示すように、回転軸線W1と垂直な平面内で、回転軸線W1を取り囲むように環状に構成されている。また、カム面28は、回転軸線W1を中心とする半径方向に変位された凹部29および凸部30を有している。具体的には、凹部29および凸部30が複数設けられており、アウターレース25の円周方向で、凹部29と凸部30とが交互に配置され、かつ、連続されて波形形状のカム面28を形成している。凹部29は半径方向で外側に向けて窪んでおり、凸部30は半径方向で内向きに突出している。すなわち、凹部29が複数形成され、かつ、凸部30が複数形成されて、凹部29と凸部30とが円周方向で滑らかに連続するように接続されている。このようにして、全ての凹部29に接する外接円(図示せず)は、全ての凸部30に接する内接円(図示せず)よりも大きく構成されている。また、回転軸線W1に沿った方向で、外接円の直径は一定に構成され、かつ、内接円の直径も一定に構成されている。この具体例では、凹部29が6箇所設けられ、かつ、凸部30が6箇所設けられている。
【0024】
ここで、回転軸線W1に沿った方向で、油路52,53,59,60の配置位置と、凹部29および凸部30の配置位置との関係を説明する。凸部30の頂点と、凹部29の底とを接続する部分と同じ位相に、各油路52,53,59,60が配置されている。言い換えれば、回転軸線W1を中心とする円周方向で、凸部30の頂点、および凹部29の底と同じ位相には、油路52,53,59,60のいずれも配置されていない。また、円筒部27におけるリヤカバー11側の端部には、内周側に向けて突出された支持部201が接続されている。この支持部201は回転軸線W1を中心として環状に構成されている。この支持部201は、回転軸線W1に沿った方向の平面内で、クランク形状に屈曲されている。また、支持部201の内周端に、前記ロータリーバルブ12が連結されている。支持部201とロータリーバルブ12とが一体回転可能に結合、例えば、スプライン結合されている。このようにして、前記アウターレース25とロータリーバルブ12とが一体回転可能に連結されている。さらに、リヤカバー11と、支持部201の円筒部203との間には軸受202が介在されており、支持部201がリヤカバー11により回転可能に支持されている。上記のように構成されたアウターレース25の内部にインナーレース31が設けられている。このインナーレース31とインプットシャフト4とが一体回転可能に連結、例えばスプライン嵌合により連結されている。そして、支持部201の円筒部203と、インナーレース31との間には軸受33が介在されている。また、コネクティングドラム21の内周と、インナーレース31の外周との間に軸受32が介在されている。これらの軸受32,33により、インナーレース31がアウターレース25内で回転可能に支持されている。また、インナーレース31は円筒形状に構成されており、インナーレース31の軸孔31A内にロータリーバルブ12が挿入されている。
【0025】
さらに、インナーレース31の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダボア34が形成されている。各シリンダボア34は、インナーレース31の外周面に開口された略円柱形状の凹部である。この具体例では、8個のシリンダボア34が等間隔おきに配置されている。また、各シリンダボア34内にはピストン35が各々配置されており、ピストン35がシリンダボア34内で、インナーレース31の半径方向に往復移動自在となる構成を有している。すなわち、オイルポンプ23は、いわゆるラジアルピストンポンプである。また、各ピストン35におけるカム面28に最も近い位置には、転動体36が転動可能に保持されており、転動体36がカム面28に接触する。すなわち、ピストン35における半径方向の外端に転動体36が取り付けられている。この転動体36はボール(球体)またはローラを用いることが可能である。なお、図1および図3では、転動体36としてボールを用いた場合が示されている。さらに、ピストン35およびシリンダボア34の中心線R1は共通している。この中心線R1は、回転軸線W1と垂直な平面に沿って半径方向に設けられている。ピストン35は中心線R1を中心とする円板形状部37と、その円板形状部37の外周に連続されたスカート部38とを有している。転動体36は円板形状部37により支持されている。スカート部38は、円板形状部37から回転軸線W1に近づく方向に延ばされた円筒形状部分であり、そのスカート部38の外周面と、シリンダボア34の内周面との間には、シールリング39が設けられている。
【0026】
一方、シリンダボア34の底には凹部40がそれぞれ設けられている。シリンダボア34内におけるピストン35とシリンダボア34の底との間には突出部材41が配置されている。この突出部材41は有底円筒形状の部材であり、円板形状の底部42と、その底部42の外周に連続された円筒部43とを有している。つまり、底部42の外周端に連続された円筒部43が、中心線R1に沿った方向に突出して設けられている。そして、底部42が凹部40に配置されている。また、円筒部43の外径は、スカート部38の内径よりも小さく構成されている。さらに、シリンダボア34内、具体的には円板形状部37と底部42との間には圧縮コイルばね44が設けられている。この圧縮コイルばね44は中心線R1に沿った方向に伸縮可能に配置されている。このため、底部42が凹部40に配置されて、突出部材41がインナーレース31に接触した状態で、圧縮コイルばね44の弾発力により、ピストン35が中心線R1に沿った方向に押圧されて、転動体36がカム面28に押し付けられている。このため、インナーレース31とアウターレース25とが回転軸線W1を中心として相対回転すると、転動体36がカム面28に接触した状態で、そのカム面28の形状に沿って転動体36が中心線R1に沿った方向に変位する。このようにして、ピストン35がシリンダボア34内で中心線R1に沿った方向に往復動自在に構成されている。また、突出部材41の円筒部43の外周にはシールリング45が取り付けられている。そして、シリンダボア34内における中心線R1に沿った方向で、ピストン35の位置に関わりなく、シールリング45がスカート部38の内周面に接触してシール面を形成するように構成されている。このように、スカート部38の内部から円筒部43の内部に亘ってシリンダ室Aが形成されており、シリンダ室Aがシールリング45により液密にシールされている。このようにして、シリンダ室Aが8個設けられている。このシリンダ室Aに圧縮コイルばね44が配置されている。
【0027】
さらに、各突出部材41には、その底部42を貫通するポート46が設けられている。各ポート46は、各シリンダ室Aに別個に接続されている。また、インナーレース31には、各ポート46に接続(連通)された油路48が形成されている。この油路48はインナーレース31を半径方向に貫通して設けられており、油路48はシリンダ室Aと同数、すなわち、8箇所設けられている。回転軸線W1に沿った方向で、8個の油路48は同じ位置に設けられている。より具体的には、回転軸線W1に沿った方向で、前記油路52および油路53の配置領域が重なっており、その重なった領域と同じ領域に、8個の油路48が配置されている。このため、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転すると、油路48が、油路52および油路53に対して、交互に接続・遮断されることとなる。なお、インナーレース31とロータリーバルブ12との相対位置によっては、油路48は油路52または油路53のいずれにも接続されない。さらに、油路48が、油路52,53の両方に同時に接続されることはない。
【0028】
一方、シリンダボア34内であって、円筒部43の外周面とシリンダボア34の内周面との間にシリンダ室Bが形成されている。このシリンダ室Bは、円筒部43の周囲を取り囲むように環状に構成されている。また、このシリンダ室Bとシリンダ室Aとが、シールリング45により液密に仕切られている。また、シリンダ室Bとシリンダボア34の外部空間とが、シールリング39により液密にシールされている。そして、シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積は、シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積よりも小さく構成されている。よって、回転軸線W1を中心とする半径方向にピストン35が動作する場合において、ピストン35の移動量の変化に対して、シリンダ室Bの容積の変化量の方が、シリンダ室Aの容積の変化量よりも小さくなる。また、複数のシリンダ室Aについて各ピストン35の受圧面積は全て同一に構成され、複数のシリンダ室Bについて各ピストン35の受圧面積は全て同一に構成されている。なお、シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積は、
スカート部38の内周面の半径2 ×円周率
の式で求めることが可能である。
【0029】
また、シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積は、
シリンダボア34の内周面の半径2 ×円周率−シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積
の式で求めることが可能である。さらにシリンダ室Bには圧縮コイルばね61が配置されている。この圧縮コイルばね61は中心線R1に沿った方向に伸縮する構成を有しており、その圧縮コイルばね61の弾発力で、ピストン35をカム面28に押し付ける向きの荷重が発生する。この具体例1において、円板形状部37には、シリンダ室Aの油圧、および圧縮コイルばね44のばね荷重が共に作用する。一方、スカート部38の端面には、シリンダ室Bの油圧、および圧縮コイルばね61のばね荷重が共に作用する。
【0030】
さらにインナーレース31には、各シリンダ室Bに個別に接続された油路55,56が設けられている。具体的には、油路55がシリンダ室Bに接続され、油路56が油路55に接続されている。油路55は回転軸線W1に沿った方向に延ばされており、油路56はインナーレース31の半径方向に沿って延ばされている。油路56の端部は軸孔31Aの内周面に開口されている。また、回転軸線W1に沿った方向で、油路59および油路60の配置領域が重なっている領域に、油路56の開口部が配置されている。このようにして、8個のシリンダ室Bについて、それぞれ油路56が接続されており、インナーレース31の円周方向に沿って、8本の油路56が等間隔おきに配置されている。そして、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転すると、油路56が、油路59および油路60に対して、交互に接続・遮断されることとなる。なお、インナーレース31とロータリーバルブ12との相対位置によっては、油路56は油路59または油路60のいずれにも接続されない。さらに、油路56が、油路59,60の両方に同時に接続されることはない。
【0031】
つぎに、ケーシング6の内部に設けられた前後進切換装置7の構成について説明する。前後進切換装置7は、回転軸線W1に沿った方向において、エンジン2とオイルポンプ23との間に配置されている。前後進切換装置7は、コネクティングドラム21の回転方向に対して、ベルト式無段変速機8のプライマリシャフト60の回転方向を正逆に切り換えるための装置であり、この実施例では、前後進切換装置7が遊星歯車機構、具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、サンギヤ61と、サンギヤ61と同軸上に配置されたリングギヤ62と、サンギヤ61およびリングギヤ62に噛合されたピニオンギヤ63を自転、かつ公転可能に保持するキャリヤ64とを有している。そして、サンギヤ61が、プライマリシャフト60に動力伝達可能に連結されており、リングギヤ62がコネクティングドラム21と動力伝達可能に連結されている。さらに、前後進切換装置7を構成する回転要素同士の連結・解放を制御する前進用クラッチ65が設けられているとともに、回転要素の回転・停止を制御する後進用ブレーキ66が設けられている。前進用クラッチ65により、サンギヤ61とリングギヤ62との連結・解放が制御され、後進用ブレーキ66により、キャリヤ64の回転・停止が制御されるように構成されている。
【0032】
ここで、前進用クラッチ65としては、摩擦クラッチまたは電磁クラッチまたは噛み合いクラッチのいずれを用いてもよいし、後進用ブレーキ66としては、摩擦ブレーキまたは電磁ブレーキまたは噛み合いブレーキのいずれを用いてもよい。この実施例では、摩擦クラッチまたは噛み合いクラッチを用い、摩擦ブレーキまたは噛み合いブレーキを用いる場合は、油圧制御式のアクチュエータを用いることが可能である。これに対して、電磁クラッチおよび電磁ブレーキを用いる場合は、電磁制御式のアクチュエータを用いることとなる。この実施例では、摩擦クラッチおよび摩擦ブレーキが用いられ、かつ、油圧制御式アクチュエータが用いられている場合について説明する。すなわち、油圧アクチュエータは油圧室(図示せず)およびピストン(図示せず)などを有しており、油圧室の油圧に基づいて、前進用クラッチ65で伝達されるトルク、後進用ブレーキ66で生じる制動力が制御されるように構成されている。
【0033】
つぎに、前述のベルト式無段変速機8について説明すると、回転軸線W1に沿った方向において、前後進切換装置7とダンパ機構3との間にベルト式無段変速機8が設けられている。このベルト式無段変速機8は、前述したプライマリシャフト60およびセカンダリシャフト67を有している。このプライマリシャフト60は中空に構成されており、インプットシャフト4の外側を取り囲むようにプライマリシャフト60が配置されている。そして、インプットシャフト4とプライマリシャフト60とが相対回転可能に構成されている。また、ケーシング6内には、インプットシャフト4の回転軸線W1に沿った方向で、ベルト式無段変速機8の両側に隔壁68,69設けられており、プライマリシャフト60と隔壁68,69との間に軸受70が介在されている。このようにして、プライマリシャフト60およびセカンダリシャフト67は相互に平行に配置されており、プライマリシャフト60と一体回転するプライマリプーリ71が設けられ、セカンダリシャフト67と一体回転するセカンダリプーリ72が設けられている。
【0034】
また、プライマリプーリ71およびセカンダリプーリ72には無端状のベルト73が巻き掛けられている。さらに、プライマリプーリ71からベルト73に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構74と、セカンダリプーリ72からベルト73に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構75とが設けられている。この油圧サーボ機構74,75の油圧室(図示せず)に供給される圧油の流量および油圧が、後述する油圧制御装置76により制御される構成となっている。さらに、ケーシング6の内部には、セカンダリシャフト67のトルクが伝達される伝動装置9および終減速機77が設けられており、この終減速機77の出力側にはドライブシャフト78を介在させて車輪(前輪)5が連結されている。なお、伝動装置9としては、歯車伝動装置、巻き掛け伝動装置などを用いることが可能である。
【0035】
つぎに、車両1の制御系統を説明すれば、車両1の全体を制御するコントローラとしての電子制御装置79が設けられている。この電子制御装置79には、車両1における加速要求(例えば、アクセルペダルの操作状態)を検知するセンサ、車両1における制動要求(例えば、ブレーキペダルの操作状態)を検知するセンサ、エンジン回転数を検知するセンサ、スロットル開度を検知するセンサ、インプットシャフト4およびインナーレース31の回転数を検知するセンサ、プライマリシャフト60の回転数を検知するセンサ、セカンダリシャフト67の回転数を検知するセンサ、シフトポジションを検知するセンサ、アウターレース25の回転数を検知するセンサなどの信号が入力される。これに対して、電子制御装置79からは、エンジン2を制御する信号、油圧制御装置76を制御する信号などが出力される。
【0036】
この油圧制御装置76は、オイルポンプ23におけるオイルの吸入量および吐出量、オイルポンプ23における伝達トルク、前進用クラッチ65および後進用ブレーキ66の油圧室の油圧、油圧サーボ機構74,75の油圧室の油圧などを制御するとともに、潤滑系統に供給される潤滑油量を制御するものである。つぎに、シリンダ室A,Bに接続された油圧回路の構成を、図1に基づいて説明する。ケーシング6の内部、またはケーシング6の下部あるいは外部にはオイルパン80が設けられている。このオイルパン80にはオイル(潤滑油)が貯溜されている。このオイルパン80には吸入油路81が接続されており、この吸入油路81には第1切替弁82が接続されている。この第1切替弁82は、例えばソレノイドバルブにより構成することが可能である。第1切替弁82は、5つのポート83,84,85,86,204を有しており、ポート83が油路19に常に接続され、ポート84が油路18に常に接続され、ポート85が吐出油路87に常に接続され、ポート86が吸入油路81に常に接続され、ポート204は大気中に開放されている。吐出油路87に吐出されたオイルは、オイル必要部100に供給される。
【0037】
ここで、オイル必要部100には、オイルにより潤滑・冷却される装置、部品、機構などが含まれる。オイルにより潤滑・冷却される装置、部品、機構などには、各種の軸受、前後進切換装置7の遊星歯車機構を構成するギヤ同士の噛み合い部分、ベルト式無段変速機8のベルト73とプーリとの接触部分などが含まれる。また、オイル必要部100には、油圧により作動するアクチュエータ、例えば、油圧サーボ機構74,75、前進用クラッチ65のトルク容量を制御する油圧室、後進用ブレーキ66の制動力を制御する油圧室なども含まれる。そして、電子制御装置79により第1切替弁82が制御されて、その第1切替弁82は3種類の動作状態a,b,cを選択することが可能である。この動作状態の選択により、ポート83,84を個別に、ポート85,86,204の何れかに接続するパターンが切り替えられるとともに、ポート85,86,204を個別に遮断することも可能である。
【0038】
まず、第1切替弁82が動作状態aに制御された場合は、ポート83とポート85とが接続され、かつ、ポート84とポート86とが接続され、ポート204が遮断される。つまり、吐出ポート14は、油路19を経由して吐出油路87に接続される。また、吸入ポート13は、油路18を経由して吸入油路81に接続される。つぎに、第1切替弁82が動作状態bに制御された場合は、ポート83,84が共にポート204に接続され、かつ、ポート85,86が遮断される。つまり、吐出ポート14および吸入ポート13は、共に大気中に接続される。さらに、第1切替弁82が動作状態cに制御された場合は、ポート83,84が共にポート85に接続され、かつ、ポート86,204が遮断される。つまり、吐出ポート14および吸入ポート13が、共に吐出油路87に接続される。
【0039】
一方、吐出油路87および油路17,20には第2切替弁88が接続されている。この第2切替弁88は、例えばソレノイドバルブにより構成することが可能である。第2切替弁88は、5つのポート89,90,91,92,205を有しており、ポート89が吸入油路81に常に接続され、ポート90が吐出油路87に常に接続され、ポート91が油路17に常に接続され、ポート92が油路20に常に接続され、ポート205が大気中に開放されている。そして、第2切替弁88が電子制御装置79により制御されて、4種類の動作状態d,e,f、gを選択可能である。この動作状態は、ポート91,92を個別にポート89,90,205の何れかに接続し、かつ、ポート89,90,205を個別に遮断するものである。まず、第2切替弁88が動作状態dに制御された場合は、ポート90とポート91とが接続され、かつ、ポート89とポート92とが接続され、ポート205が遮断される。つまり、吐出ポート16は、油路17を経由して吐出油路87に接続されるとともに、吸入ポート15は、油路20を経由して吸入油路81に接続される。また、第2切替弁88が動作状態eに制御された場合は、ポート91,92が共にポート205に接続され、かつ、ポート89,90が共に遮断される。つまり、吐出ポート16および吸入ポート15が共に大気中に開放される。
【0040】
さらに、第2切替弁88が動作状態fに制御された場合は、ポート91,92が共にポート90に接続され、かつ、ポート89,205が共に遮断される。つまり、吐出ポート16および吸入ポート15が、共に吐出油路87に接続される。さらに、第2切替弁88が動作状態gに制御された場合は、ポート90とポート92とが接続され、かつ、ポート89とポート91とが接続され、ポート205が遮断される。つまり、吐出ポート16は、油路17を経由して吸入油路81に接続されるとともに、吸入ポート15は、油路20を経由して吐出油路87に接続される。また、吸入油路81と吐出油路87とを直接接続する経路に流量制御弁93が設けられている。この流量制御弁93は、入力ポート94およびドレーンポート95を有しており、入力ポート94が吐出油路87に接続され、ドレーンポート95が吸入油路81に接続されている。この流量制御弁93は、吐出油路87の一部を吸入油路81に戻す装置である。
【0041】
上記のように構成された車両1において、オイルポンプ23の機能を説明する。圧縮コイルばね44,61のばね荷重がピストン5に加えられており、そのピストン35が回転軸線W1を中心とする半径方向で外側に向けて押圧され、転動体36がカム面28に接触している。一方、エンジン2が運転されて、そのエンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達される。このインプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ23のインナーレース31に伝達される。この具体例1においては、オイルポンプ23がオイルを吸入・吐出する機能に加えて、動力伝達装置としての機能をも兼備している。まず、インプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ23を経由して、コネクティングドラム21に伝達された場合の作用および制御を説明する。なお、オイルポンプ23におけるオイル吸入作用、およびオイルポンプ23におけるオイル吐出作用については後述する。
【0042】
まず、前後進切換装置7の制御について説明する。シフトポジションとしてドライブポジション(前進ポジション)が選択された場合は、前進用クラッチ65が係合され、かつ、後進用ブレーキ66が解放される。すると、前後進切換装置7を構成する遊星歯車機構の3つの回転要素が一体回転する。これに対して、シフトポジションとしてリバースポジション(後進ポジション)が選択された場合は、後進用ブレーキ66が係合され、かつ、前進用クラッチ65が解放される。すると、リングギヤ62が入力要素となり、かつ、停止しているキャリヤ64が反力要素となって、サンギヤ61がリングギヤ62とは逆方向に回転する。このようにして、コネクティングドラム21のトルクが、ベルト式無段変速機8のプライマリシャフト60に伝達される。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、後進用ブレーキ66が解放され、かつ、前進用クラッチ65が解放される。
【0043】
以上のようにして、ベルト式無段変速機8のプライマリシャフト60にトルクが伝達されると、このプライマリシャフト60のトルクがベルト73を経由してセカンダリシャフト67に伝達される。このベルト式無段変速機8においては、油圧サーボ機構74,75における圧油の供給状態が油圧制御装置76により制御される。例えば、油圧サーボ機構74に供給される圧油の流量が制御されて、プライマリプーリ71におけるベルト73の巻き掛け半径、およびセカンダリプーリ72におけるベルト73の巻き掛け半径が制御され、ベルト式無段変速機8の変速比、つまり、プライマリシャフト60の回転数と、セカンダリシャフト67の回転数との比を無段階(連続的)に制御することができる。また、この変速比の制御に加えて、セカンダリプーリ72からベルト73に加えられる挟圧力が調整されて、ベルト式無段変速機8のトルク容量が制御される。
【0044】
このような変速比の制御と並行して、車速および加速要求(例えばアクセル開度)などに基づいて、車両1における必要駆動力が判断され、その判断結果に基づいて目標エンジン出力が求められる。その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、ベルト式無段変速機8の変速比が制御される。また、ベルト式無段変速機8の変速比の制御と並行して、電子スロットルバルブの制御などにより、実エンジントルクが目標エンジントルクに近づけられる。以上のようにして、エンジントルクがインプットシャフト4および前後進切換装置7を経由して、ベルト式無段変速機8のセカンダリシャフト67に伝達される。このセカンダリシャフト67のトルクは、伝動装置9および終減速機77を経由して車輪5に伝達される。
【0045】
つぎに、オイルポンプ23におけるオイル吸入作用、およびオイルポンプ23におけるオイル吐出作用を説明する。この具体例1では、エンジントルクがインナーレース31にトルクが伝達された場合に、図3において、インナーレース31が時計回りに回転することを前提として説明する。このインナーレース31とアウターレース25とが相対回転すると、転動体36がカム面28に接触した状態で、転動体36がカム面28に沿って転動する。このため、回転軸線W1と垂直な平面内におけるカム面28の形状に倣って、各ピストン35が別々に半径方向に往復動する。各ピストン35の動作により、そのピストン35により形成されているシリンダ室A,Bの容積が、同期して変化する。
【0046】
ピストン35が、インナーレース31の半径方向で外側に向けて動作する行程(上昇行程)においては、シリンダ室A,Bの容積が共に拡大し、そのシリンダ室A,B内の圧力が低下(負圧)する。これに対して、ピストン35が、インナーレース31の半径方向で内側に向けて動作する行程(下降行程)においては、シリンダ室A,Bの容積が共に縮小され、そのシリンダ室A,B内の圧力が上昇する。また、具体例1では、インナーレース31の円周方向に沿ってピストン35が8個設けられているため、個々のピストン35は、半径方向における動作位置および行程が異なる。図4は、第1切替弁82および第2切替弁88の動作状態と、全シリンダのポートに連通する油路を説明する図表である。この図4においては、全てのシリンダ室Aが「シリンダ室群A」と示され、全てのシリンダ室Bが「シリンダ室B群」と示されている。図4に基づいて説明する。また、この図4には、第1切替弁82および第2切替弁88の動作状態を選択的に切り替える複数のモードも示されている。この具体例1では、モード1ないしモード6を選択的に切替可能である。なお、モード1ないし6を切り替える条件、およびその切替制御については後述する。
【0047】
まず、モード1が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート16は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート15は吸入油路81に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室A群に吸入されるとともに、オイルパン80内のオイルは、吸入油路81および油路20を経由して、シリンダ室B群にも吸入される。これに対して、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルは、油路19を経由して吐出油路87に吐出されるとともに、シリンダ室B群のオイルは、油路17を経由して吐出油路87に吐出される。このように、モード1が選択された場合に、「オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量」は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量と、シリンダ室B群から吐出されたオイル量とが加算された量(図4に「A+B」で示す)となる。なお、「オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量」とは、インナーレース31とアウターレース25との単位回転数差(回転数差が1である場合)あたりの吐出量であり、他のモードにおいても同じ意味をもつ。
【0048】
つぎに、モード2が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態eに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。一方、シリンダ室B群の吐出ポート16および吸入ポート15は、共に大気中に開放される(図4に「開放」で示す)。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルは、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室A群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルは、油路19を経由して吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室B群では、オイルの吸入およびオイルの吐出はおこなわれない。このように、モード2が選択された場合、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量(図4に「A」で示す)となる。
【0049】
さらに、モード3が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態bに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14および吸入ポート13は、共に大気中に開放される。一方、シリンダ室B群の吐出ポート16は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート15は吸入油路81に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路20を経由して、シリンダ室B群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室B群のオイルが、油路17を経由して吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室A群では、オイルの吸入およびオイルの吐出はおこなわれない。このように、モード3が選択された場合、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量は、シリンダ室B群から吐出されるオイル量(図4に「B」で示す)となる。
【0050】
さらに、モード4が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態fに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート16および吸入ポート15は、共に吐出油路87に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室A群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルは、油路19を経由して吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室Bの吐出ポート16から吐出されたオイルは、吸入ポート15を経由して、上昇行程にあるピストン35のシリンダ室Bに吸入される。つまり、モード4が選択された場合、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量(図4に「A」で示す)となる。
【0051】
さらに、モード5が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態cに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14および吸入ポート13は、共に吐出油路87に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート16は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート15は吸入油路81に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路20を経由して、シリンダ室B群に吸入されるとともに、ピストン35の下降行程では、シリンダ室B群のオイルは、油路17を経由して吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室Aの吐出ポート14から吐出されたオイルは、吸入ポート13を経由して、上昇行程にあるピストン35のシリンダ室Aに吸入される。つまりに、モード5が選択された場合、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量は、シリンダ室B群から吐出されるオイル量(図4に「B」で示す)となる。
【0052】
さらに、モード6が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態gに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート16は吸入油路81に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート15は吐出油路87に接続される。このため、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Aでは、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室Aに吸入されるとともに、ピストン35が下降行程にあるシリンダ室Aでは、そのシリンダ室Aから吐出油路87にオイルが吐出される。これに対して、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Bでは、シリンダ室Aから吐出油路87に吐出されたオイルの一部が、油路20を経由してシリンダ室Bに吸入される。また、ピストン35が下降行程にあるシリンダ室Bから吐出されたオイルは、吸入油路81を経由して、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Aに吸入される。このように、モード6が選択された場合、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量から、シリンダ室B群に吸入されるオイル量を減算じた量(図4に「A−B」で示す)となる。
【0053】
ここで、オイルポンプ23から吐出されるオイルの吐出量同士の関係は、以下のとおりである。
(オイル吐出量A+B)>オイル吐出量A>オイルの吐出量B
であり、かつ、
オイル吐出量A>(オイル吐出量A−B)
である。また、(オイル吐出量A−B)とオイル吐出量Bとの関係は、シリンダ室Bの容積の設計により、
(オイル吐出量A−B)<オイル吐出量B
または
(オイル吐出量A−B)>オイル吐出量B
または
(オイル吐出量A−B)=オイル吐出量B
のいずれをも構成可能である。このように具体例1においては、モードの変更によりオイルポンプ23から吐出されるオイル吐出量を、複数段階に変更(増減)することができる。なお、この具体例1では、吐出油路87に吐出されたオイルの一部を、流量制御弁93を経由させて吸入油路81に戻すことも可能である。
【0054】
つぎに、ピストン35の上昇行程で、そのピストン35に加わる付勢力を、図4に基いて説明する。ピストン35に加わる付勢力とは、インナーレース31の半径方向で外側に向けてピストン35を押圧する力である。まず、モード1またはモード2またはモード3のいずれかが選択された場合、ピストン35に加わる付勢力は、圧縮コイルばね44,61のばね荷重に相当する付勢力F1(弱)である。これに対して、モード4が選択された場合に、ピストン35に加わ付勢力は、圧縮コイルばね44,61のばね荷重に相当する力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面の面積」に対応する付勢力とを合計した付勢力F2(中)である。さらに、モード5が選択された場合に、ピストン35に加えられる付勢力は、圧縮コイルばね44,61のばね荷重に相当する付勢力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面の面積」に対応する付勢力とを合計した付勢力F3(大)である。さらに、モード6が選択された場合に、ピストン35に加えられる付勢力は、圧縮コイルばね44,61のばね荷重に相当する付勢力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面の面積」に対応する付勢力とを合計した付勢力F2(中)である。なお、モード4の場合にピストン35に加えられる付勢力と、モード6の場合にピストン35に加えられる付勢力とは同じである。なお、ここで説明されている付勢力「弱」、付勢力「中」、付勢力「大」は、付勢力同士の相対的な大小関係を示すものであり、個々の付勢力[ニュートン]の具体的な値を表すものではない。
【0055】
また、この具体例1においては、ピストン35が上昇行程である場合にピストン35に加えられる付勢力を、複数段階、具体的には、F1(弱)、F2(中)、F3(大)の3段階で変更することが可能である。そして、ピストン35に加わる付勢力が強まるほど、転動体36がカム面28から離れにくくなる。このようにして、転動体36が凸部30を乗り越えて凹部29に向けて転動する場合に、その転動体36がカム面28から離れることを防止できる。したがって、カム面28に対する転動体36の追従性を向上でき、「転動体36がカム面28から一旦離れ、ついで、カム面28に衝突して異音・振動が生じること。」を未然に防止できる。また、具体例1においては、オイルポンプ23におけるオイル吐出量を可変とすることができ、物理的に1台のポンプで複数台のポンプがあるのと等価になり、オイルポンプの小型化、低コスト化を図ることができる。
【0056】
さらに、この具体例1では、モード1ないし6を選択的に切り替えることにより、ピストン35に加わる付勢力が変更されて、各モード毎に、転動体36がカム面28から離れることを防止できる条件が異なる。そこで、転動体36がカム面28から離れることを防止可能と判断できる条件に基づいて、各モードを選択的に切り替えることが可能である。オイルポンプ23は、インナーレース31とアウターレース25との回転数差が大きくなるほど、転動体36がカム面28から離れやすくなるとともに、オイルポンプ23におけるオイル吐出量が増加し、かつ、オイルの流速が増加する特性を示す。この特性を考慮して、モードを切り替えるにあたり、オイルポンプ23に吸入されるオイルの流速に基づいて判断することが可能である。ピストン35に加えられる付勢力がF1(弱)となるモード1ないし3は、図4に示すように、許容される流速値がV1(低)である場合に選択することが可能である。
【0057】
ここで、「許容される流速値」の意味を説明する。前記インナーレース31とアウターレース25とが相対回転してオイルが吸入される場合に、そのオイルの流速値となる回転数差であれば、吸入行程となるピストン35で支持している転動体36が、カム面28から離れることを防止可能である。このため、オイルの流速が「許容される流速値」となるような回転数差であれば、オイルポンプ23を運転することが許容されることを意味する。つまり、転動体36がカム面28から離れることを防止できると考えられる回転数差を、吸入されるオイルの流速に置き換えて表している。また、カム面28の内接円と外接円との差、凹部29および凸部30の個数、インナーレース31とアウターレース25との回転数差、オイルポンプ23に吸入されるオイルの流速、ピストン35に加えられる付勢力などのパラメータに基づいて実験的に求められた許容流速値がデータ化されて、電子制御装置79に記憶されている。そして、ピストン35に付勢力F2(中)が加わるモード4またはモード6は、図4に示すように、「許容される流速値V2(中)」である場合に選択することが可能である。さらに、ピストン35に付勢力F3(強)が加わるモード5は、図4に示すように、「許容される流速値・V3(高)」である場合に選択することが可能である。
【0058】
ここで、各許容される流速値同士は、
許容される流速値V3>許容される流速値V2>許容される流速値V1
の関係にある。この具体例2では、「許容される流速値」が高いほど、インナーレース31とアウターレース25との回転数差が大きくなっても、転動体36がカム面28から離れることを防止できることを意味する。なお、「許容される流速値V3」である場合は、その流速以下となるようなインナーレース31とアウターレース25との回転数差であれば、転動体36がカム面28から離れることを防止できる。また、「許容される流速値V2」である場合は、その流速以下となるようなインナーレース31とアウターレース25との回転数差であれば、転動体36がカム面28から離れることを防止できる。さらに、許容される流速値として示したV3(高)・V2(中)・V1(低)は、各流速値同士の相対関係を示すものであり、具体的な流速自体を意味するものではない。さらにまた、「許容される流速値」は、予め定められた範囲を有している。なお、モード4が選択された場合の「許容される流速値V2」と、モード6が選択された場合の「許容される流速値V2」とは同じである。
【0059】
つぎに、上記のモード1ないしモード6を切り替える場合の具体的な制御例を、図5のフローチャートに基づいて説明する。まず、各シリンダ室群の吸入ポートと、吐出油路と連結関係が判断される(ステップS1)。このステップS1の判断時点で、シリンダ室A群の吸入ポート14およびシリンダ室B群の吸入ポート15が、いずれも吐出油路87に連結されていない場合は、許容される流速値をV1に設定するモード1ないしモード3のいずれかが、現在選択されていると判定する(ステップS2)。一方、ステップS1の判断時点で、シリンダ室B群の吸入ポート15が、吐出油路87に連結されている場合は、許容される流速値をV2に設定するモード4またはモード6が、現在選択されていると判定する(ステップS3)。さらに、ステップS1の判断時点で、シリンダ室A群の吸入ポート14が、吐出油路87に連結されている場合は、許容される流速値をV3に設するモード5が、現在選択されていると判定する(ステップS4)。
【0060】
このようにして、現在選択されているモードを判定した後、シリンダ室に吸入されるオイルの流速と、現在選択されているモードにおける「許容される流速値」の範囲とが、どのような関係(高低関係)にあるかが判断される(ステップS5)。このステップS5の処理は、図5では、「シリンダ室に吸入されるオイルの流速は所定値内か?」と記載されている。ここで、シリンダ室に吸入されるオイルの流速は、インナーレース31とアウターレース25との回転数差、シリンダ室A,Bの容積、シリンダ室A,Bの数などのパラメータに基づいて、間接的に求めることが可能であり、例えば、インナーレース31とアウターレース25との回転数差とオイルの流速との関係をマップ化したデータが、電子制御装置79に予め記憶されており、そのマップを用いてステップS5の判断をおこなうことが可能である。このステップS5の判断時点で、現在選択されているモードでの「許容される流速値」の範囲内に、シリンダ室に吸入されるオイルの流速があると判断された場合(許容範囲内)は、図5の制御ルーチンを終了する。
【0061】
これに対して、ステップS5の判断時点で、現在選択されているモードでの「許容される流速値」の範囲よりも、シリンダ室に吸入されるオイルの流速の方が低いと判断された場合(所定値より小さい)は、現在選択されているモードでの「許容される流速値」よりも、「許容される流速値」が小さいモードに変更し(ステップS6)、この制御ルーチンを終了する。このステップS6では、例えば、モード1ないし3のいずれかが選択される。すなわち、ステップS5の判断時点で、現在選択されているモードでの「許容される流速値」の範囲よりも、シリンダ室に吸入されるオイルの流速の方が低いと判断されるということは、転動体36がカム面28から離れる不具合は生じないと考えられる。そこで、現在選択されているモードでの「許容される流速値」よりも、「許容される流速値」が小さい(低い)モードに変更することで、転動体36をカム面28に押し付ける力を弱めて、オイルポンプ23の効率低下を抑制する。さらに、ステップS5の判断時点で、現在選択されているモードでの「許容される流速値」の範囲よりも、シリンダ室に吸入されるオイルの流速の方が高いと判断された場合(所定値より大きい)は、現在選択されているモードでの「許容される流速値」よりも、「許容される流速値」が大きい(高い)モードに変更し(ステップS7)、この制御ルーチンを終了する。
【0062】
このステップS7では、例えば、モード4ないしモード6のいずれかが選択される。すなわち、ステップS5の判断時点で、選択されているモードでの「許容される流速値」の範囲よりも、シリンダ室に吸入されるオイルの流速の方が高いと判断されるということは、転動体36がカム面28から離れる可能性があることになる。そこで、現在選択されているモードでの「許容される流速値」よりも、「許容される流速値」が大きい(高い)モードに変更することで、転動体36をカム面28に押し付ける力を強めて、転動体26がカム面28から離れることを防止する。このように、オイルの流速が高くなるほど、ピストン35に加わる付勢力が強くなるように、モードとオイルの流速との関係が設定される理由は、前述したように、オイルの流速が高くなるほど、転動体36がカム面28から離れやすくなり、この不具合を防止するためである。なお、図4および図5のフローチャートにおいては、各モードと許容流速値との関係が説明されているが、前述した許容流速値に代えるか、または、許容流速値に加えて、インナーレース31とアウターレース25との回転数差に基づいて、各モードを選択的に切替可能に構成することもできる。
【0063】
さらに、この具体例1では、オイルポンプ23が動力伝達装置としての機能を兼備している。すなわち、ピストン35がカム面28に向けて押し付けられており、転動体36とカム面28との係合力により、インナーレース31とアウターレース25との間で動力伝達がおこなわれる。そして、吐出油路87に吐出量制御弁が設けられていれば、オイルポンプを動力伝達装置として用いる場合、吐出量制御弁を制御することができる。このように、オイルポンプ23から吐出されるオイルの流通抵抗を制御すると、オイルポンプ23におけるトルク容量(伝達トルク)を制御できる。具体的には、シリンダ室A,Bから吐出されるオイルの流通抵抗を高めると、転動体36とカム面28との係合力が高まり、オイルポンプ23のトルク容量が高まる。これとは逆に、シリンダ室A,Bから吐出されるオイルの流通抵抗を低下させると、転動体36をカム面28に押し付ける力が低減され、オイルポンプ23のトルク容量が低下する。このように、オイルポンプ23を動力伝達装置、具体的にはクラッチとして用いる場合、そのトルク容量は、エンジントルク、ベルト式無段変速機8の変速比などに基づいて決定される。
【0064】
なお、この具体例1においては、オイル必要部100におけるオイル必要量を、電子制御装置79で判断し、その判断結果に基づいて、モード1ないし6を選択的に変更して、オイルポンプ23のオイル吐出量を制御することも可能である。具体的には、オイル必要量が多くなることに比例して、オイルポンプ23から吐出されるオイル量が多くなるように、モードを選択すればよい。また、この具体例1においては、車両1が惰力走行し、その運動エネルギが車輪5からベルト式無段変速機8および前後進切換装置7を経由して、オイルポンプ23のアウターレース25に伝達されて、そのアウターレース25とインナーレース31とが相対回転した場合も、オイルポンプ23においてオイルの吸入・吐出がおこなわれるとともに、オイルポンプ23を動力伝達装置として機能させることも可能である。以上のように、この具体例1においては、1個のピストン35に対応して設けられたシリンダ室では、そのシリンダ室毎にそれぞれ油路またはポートの接続・遮断を制御可能である。したがって、1個のピストン35毎に、シリンダ室から吐出されるオイルの容量を変更することができる。また、圧縮コイルばね44の弾発力により、ピストン35および転動体36が、カム面28に向けて押し付けられるとともに、その圧縮コイルばね44により円筒部材41がインナーレース31に押し付けられる。つまり、圧縮コイルばね44が、ピストン35をカム面28に向けて押し付ける機能と、突出部材41を凹部40に固定する機能とを兼備しているため、突出部材41をインナーレース31に固定する工程を容易におこなえる。
【0065】
また、この具体例1では、インナーレース31とアウターレース25との回転数差が大きくなった場合でも、シリンダ室A,Bに吸入されるオイルの流速が所定値を越えないように、各モードと回転数差との関係が決定されている。ここで、所定値は、転動体36がカム面28から離れるか否かを判断するための基準値(閾値)であり、オイルの流速が所定値を越えた場合、転動体36がカム面38から離れる可能性がある。したがって、具体例1によれば、転動体26がカム面28から離れること(山飛び)を抑制できる。さらに、この具体例1では、図5のステップS7でモード6を選択すると、シリンダ室Bにオイルを吸入する向きでピストン35が動作する場合のみ、吸入ポート55が吐出油路87に接続される。このため、吐出油路87のオイルの油圧が、上昇行程にあるピストン35に加えられて、そのピストン35をカム面28に押し付ける力が増加し、カム面28に対する転動体36の追従性が向上する。
【0066】
さらに、ステップS7に進んでモード4を選択すると、シリンダ室Bにオイルを吸入する向きでピストン35が動作する場合、およびシリンダ室Bからオイルを吐出する向きでピストン35が動作する場合のいずれにおいても、シリンダ室Bが吐出油路87に接続される。また、ステップS7に進んでモード5を選択すると、シリンダ室Aにオイルを吸入する向きでピストン35が動作する場合、およびシリンダ室Aからオイルを吐出する向きでピストン35が動作する場合のいずれにおいても、シリンダ室Aが吐出油路87に接続される。したがって、モード4またはモード5のいずれかが選択された場合は、オイルポンプ23から吐出されるオイル量の低下を抑制しつつ、カム面28に対する転動体36の追従性を確保できる。さらにこの具体例1では、ステップS7に進んでモード4ないし6のいずれかが選択された場合、言い換えれば、インナーレース31とアウターレース25との回転数差が大きくなった場合に限り、ピストン35に与えられる付勢力を高めることができる。したがって、モード1ないし3では、オイルポンプ23におけるオイルの吐出効率の低下を抑制できる。
【0067】
さらに、この具体例1では、吸入行程にあるシリンダ室だけを吐出油路87に接続する場合と、吸入行程および吐出行程にあるシリンダ室を吐出油路87に接続する場合とで、インナーレース31とアウターレース25との回転数差、または許容流速値の少なくとも一方が変更されている(異なっている)。したがって、オイルポンプ23のオイル吐出量を極力多くして、ポンプ性能を確保することが可能である。なお、図4に示されたモードは代表的な例であり、第1切替弁82の動作状態のいずれかと、第2切替弁88の動作状態のいずれかとを選択的に組み合わせて、図4に示されていないモードとすることも可能である。このようなモードを採用することにより、ピストン35に加わる付勢力をさらに多数の段階に変更することが可能である。
【0068】
この具体例1で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、回転軸線W1が、この発明における回転軸線に相当し、アウターレース25が、この発明における「第1の部材」に相当し、インナーレース31が、この発明における「第2の部材」に相当し、カム面28が、この発明におけるカムに相当し、回転軸線W1を中心とする半径方向が、この発明における「予め定められた方向」に相当し、ピストン35および転動体28が、この発明におけるピストンに相当し、オイルが、この発明における流体に相当し、シリンダ室A,Bが、この発明における流体室に相当し、シリンダ室Aおよびシリンダ室Bが、この発明における「複数の分割室」に相当し、シリンダ室Aが、この発明における第1分割室に相当し、シリンダ室Bが、この発明における第2分割室に相当し、吸入油路81および吐出油路87、および油路17,18,19,20、およびポート83,84,85,86、ポート89,90,91,92が、この発明における通路に相当し、第1切替弁82および第2切替弁88、電子制御装置79が、この発明における制御機構に相当し、シリンダボア34が、この発明における凹部に相当し、突出部材41が、この発明における第1突出部材に相当し、エンジン2が、この発明における動力源に相当し、圧縮コイルばね44が、この発明における「ばね」に相当する。
【0069】
また、図5に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS7が、この発明の第1ポンプ制御手段および第4ポンプ制御手段に相当する。さらに、ステップS7でモード6を選択する処理が、この発明の第2ポンプ制御手段に相当する。さらに、ステップS7でモード4またはモード5を選択する処理が、この発明の第3ポンプ制御手段に相当する。さらに、ステップS3,S4で説明した回転数差を変更する制御が、この発明の許容流速値変更手段に相当する。
【0070】
(具体例2)
つぎに、オイルポンプ23の他の具体例を、図6に基づいて説明する。図6において、図1と同じ構成部分については、図1と同じ符号を付してある。具体例1と具体例2とを比較すると、ピストン35、シリンダボア34、シリンダ室A,Bの構成が異なる。この具体例2においては、シリンダボア34内に中心線R1と垂直な段部101が設けられている。この段部101は、中心線R1を中心として、シリンダボア34の全周に亘って環状に構成されている。シリンダボア34の内周には、段部101を境として大径内周面102および小径内周面103が形成されている。中心線R1に沿った方向で、大径内周面102の方がカム面28に近い位置に形成されている。また、大径内周面102の内径の方が小径内周面103の内径よりも大きく構成されている。さらに、具体例2では、具体例1で説明した突出部材41は設けられておらず、油路48が直接シリンダ室Aに接続されている。
【0071】
一方、ピストン35のスカート部38には、大径外周面104および小径外周面105が形成されている。中心線R1に沿った方向における異なる位置に、大径外周面104および小径外周面105が配置されている。中心線R1に沿った方向で、大径外周面104は小径外周面105よりもカム面28に近い位置に配置されている。さらに、大径外周面104と小径外周面105との間に段部106が形成されている。段部106は中心線R1と垂直な端面であり、中心線R1を中心として環状に構成されている。また、大径外周面104の外径は大径内周面102の内径よりも小さく構成され、小径外周面105の外径は小径内周面103の内径よりも小さく構成されている。さらに、中心線R1に沿った方向で、小径外周面105の長さの方が、小径内周面103の長さよりも長く構成されている。そして、ピストン35がシリンダボア34内に配置された状態で、小径外周面105が小径内周面103の内側に配置され、大径外周面104が大径内周面102の内側に配置されている。
【0072】
このようにして、ピストン35がシリンダボア34内に配置された場合に、スカート部38内にシリンダ室Aが形成され、中心線R1に沿った方向で、段部101と段部106との間にシリンダ室Bが形成されている。シリンダ室Aには圧縮コイルばね44が配置され、シリンダ室Bには圧縮コイルばね61が配置されている。さらに、大径外周面104にはシールリング39が取り付けられており、そのシールリング39が大径内周面102に液密に接触してシール面を形成する。さらに、小径外周面105にはシールリング107が取り付けられており、そのシールリング107が小径内周面103に液密に接触してシール面を形成する。このようにして、シリンダ室Bがシールリング39,107により液密にシールされている。そして、シリンダ室Bには油路55,56が接続されている。なお、油圧制御装置76の構成は、具体例1と同じであり、各油路とシリンダ室A,Bとの接続関係も、具体例1と同じである。
【0073】
この具体例2においては、圧縮コイルばね44のばね荷重、およびシリンダ室Aの油圧が、円板形状部37に作用する。また、圧縮コイルばね61のばね荷重、およびシリンダ室Bの油圧が段部106に作用する。このようにして、中心線R1に沿った方向で、ピストン35をカム面28に近づける向きの荷重が発生する。また、具体例2において、シリンダ室Aにおいて、ピストン35の受圧面積は、シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積よりも広く構成されている。この具体例2においても、図4に基づいて説明したモード1ないしモード6の切り替えをおこなうことが可能であり、各モードに対応する第1切替弁82および第2切替弁88の動作状態、各モードが選択された場合における、吸入ポート13と油路18との接続・遮断、吐出ポート14と油路19との接続・遮断、吸入ポート15と油路20との接続・遮断、吐出ポート16と油路17との接続・遮断、油路17,18,19,20に対する吸入油路81および吐出油路87の接続遮断、油路17,20に対するポート205の接続・遮断、油路18,19に対する油路204の接続・遮断、オイルポンプ23の吐出量、ピストン35に加わる付勢力、許容される流速値なども、具体例1の場合と同じである。さらに、具体例2においても、図5の制御を実行可能である。したがって、この具体例2においても、具体例1と同様の効果を得られる。さらに、具体例2において、具体例1と同様の構成部分については、具体例1と同様の効果を得られる。この具体例2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、段部106が、この発明の第1段部に相当し、段部101が、この発明の第2段部に相当する。
【0074】
(具体例3)
つぎに、オイルポンプ23の具体例3を図7に基づいて説明する。図7において、図1と同じ構成部分については、図1と同じ符号を付してある。この具体例3では、ピストン35のスカート部38内に突出部材108が設けられている。この突出部材108は、円板形状のプレート109と、そのプレート109の中央に連続して形成された円柱部110とを有している。円柱部110は中心線R1に沿った方向に突出されており、その円柱部110の外径は、円筒部43の内径よりも小さく構成されている。この円柱部110の先端側が円筒部43内に配置されており、円筒部43と円柱部110と底部42とにより取り囲まれた空間にシリンダ室Aが形成されている。シリンダ室Aには圧縮コイルばね44が配置されている。さらに円柱部110の外周にはシールリング111が取り付けられており、シールリング111が円筒部43の内周面に接触してシール面を形成し、シリンダ室Aを液密にシールしている。この具体例3においても、シリンダ室Aには油路46を介して油路48が接続されている。このように構成された、シリンダ室Aにおいて、圧縮コイルばね44のばね荷重が、円柱部110の端面に加えられている。また、シリンダ室Aの油圧が円柱部110の端面に作用する。このように、円柱部110の端面に加えられた荷重がピストン35に伝達されて、中心線R1に沿った方向で、ピストン35がカム面28に向けて押し付けられる。シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積は、
円筒部43の内周面の半径2 ×円周率
で求められる。
【0075】
さらに、ピストン35のスカート部38と円柱部110との間には、環状のシリンダ室Bが形成されている。シリンダ室Aとシリンダ室Bとが円柱部110により仕切られている。このシリンダ室Bはシールリング45,111により液密にシールされている。また、シリンダ室Bには圧縮コイルばね112が配置されており、圧縮コイルばね112の一端が円筒部34の端面に接触され、圧縮コイルばね112の他端がプレート109に接触されている。この圧縮コイルばね112のばね荷重が、プレート109を介してピストン35に伝達されて、ピストン35が中心線R1に沿った方向でカム面28に向けて押し付けられている。さらに円筒部43には中心線R1に沿った方向に油路113が設けられている。また、インナーレース31を半径方向に貫通する油路114が設けられており、この油路114と油路113とが接続されている。この油路114の一端は、軸孔31Aの内周面に開口されている。つまり、シリンダ室Bには油路113を介在させて油路114が接続されている。さらに、インナーレース31の軸孔31Aの内周面においては、回転軸線W1に沿った方向で、油路48の開口部と油路57の開口部と油路114の開口部とが異なる位置に配置されている。具体的には、油路57の開口部と油路114の開口部との間に、油路48の開口部が配置されている。上記のように構成されたシリンダ室Bでは、圧縮コイルばね112のばね荷重が、プレート109に加えられている。また、シリンダ室Bの油圧がプレート109に作用する。このように、プレート109に加えられた荷重がピストン35に伝達されて、中心線R1に沿った方向で、ピストン35がカム面28に向けて押し付けられる。シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積は、
(スカート部38の内周面の半径2 ×円周率)−シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積
で求められる。
【0076】
さらにまた、この具体例3では、シリンダボア34内で、突出部材41の円筒部43の周囲にシリンダ室Cが形成されている。シリンダ室Aとシリンダ室Cとが突出部材41により仕切られている。インナーレース31には油路57が設けられており、油路57の一端がシリンダ室Cに接続されている。油路57の他端は軸孔31Aの内周面に開口されている。さらに、シリンダ室Cには圧縮コイルばね61が配置されており、圧縮コイルばね61は中心線R1に沿った方向に伸縮可能に構成されている。圧縮コイルばね61は、伸縮方向の端部がインナーレース31およびピストン35に接触しており、圧縮コイルばね61のばね荷重がピストン35に加えられて、ピストン35がカム面28に向けて押し付けられている。
【0077】
このため、シリンダ室Cの油圧および圧縮コイルばね61のばね荷重が、ピストン35のスカート部38の端面に加えられる。シリンダ室Cにおけるピストン35の受圧面積は、
(シリンダボア34の内周面の半径2 ×円周率)−シリンダ室Aにおけるピストン35の受圧面積−シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積
として求めることが可能である。そして、具体例3においては、
シリンダ室Aの受圧面積>シリンダ室Bの受圧面積>シリンダ室Cの受圧面積
の関係となるように、各部品の寸法が決定されている。よって、中心線R1に沿った方向にピストン35が動作する場合において、ピストン35の移動量の変化に対して、シリンダ室Aの容積の変化量の方が、シリンダ室Bの容積の変化量よりも大きくなり、シリンダ室Bの容積の変化量の方が、シリンダ室Cの容積の変化量よりも大きくなる。
【0078】
つぎに、具体例3におけるロータリーバルブ12の構成を、図11に基づいて説明する。外周には、吐出ポート(油路)14,209,208および吸入ポート(油路)13,207,210が形成されている。この吐出ポート14,209,208および吸入ポート13,207,210は、それぞれロータリーバルブ12の全周に亘って形成された環状の溝であり、吐出ポート14,209,208および吸入ポート13,207,210は、回転軸線W1に沿った方向で異なる位置に配置されている。さらに、ロータリーバルブ12には、回転軸線W1に沿った方向に油路52,53,211,212,213,214が形成されている。そして、油路211と吐出ポート208とが接続され、油路212と吸入ポート210とが接続されている。また、油路52と吸入ポート13とが接続され、油路53と吐出ポート14とが接続されている。また、油路213と吐出ポート209とが接続され、油路214と吸入ポート207とが接続されている。
【0079】
また、油路211はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置され、油路212はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置されている。さらに、油路211,212はロータリーバルブ12の全周に亘って、交互に配置されている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路211および油路212の配置領域が一部で重なっている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路211および油路212の配置領域が一部で重なっている領域に、前記油路57の開口部が配置されている。また、油路52はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置され、油路53はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置されている。さらに、油路52,53はロータリーバルブ12の全周に亘って、交互に配置されている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路52および油路53の配置領域が一部で重なっている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路52および油路53の配置領域が一部で重なっている領域に、前記油路48の開口部が配置されている。
【0080】
また、油路213はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置され、油路214はロータリーバルブ12の円周方向に沿って6箇所に配置されている。さらに、油路213,214はロータリーバルブ12の全周に亘って、交互に配置されている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路213および油路214の配置領域が一部で重なっている。さらに、回転軸線W1に沿った方向で、油路213および油路214の配置領域が一部で重なっている領域に、前記油路114の開口部が配置されている。さらに、ロータリーバルブ12の円周方向において、6箇所の油路52と、6箇所の油路211と、6箇所の油路213とが、同じ位相上に配置されている。さらに、ロータリーバルブ12の円周方向において、6箇所の油路53と、6箇所の油路212と、6箇所の油路214とが、同じ位相上に配置されている。この具体例3において、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転すると、油路48が、油路52および油路53に対して、交互に接続・遮断される。また、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転すると、油路114が、油路213および油路214に対して、交互に接続・遮断される。さらに、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転すると、油路57が、油路211および油路212に対して、交互に接続・遮断される。
【0081】
また、インナーレース31とロータリーバルブ12との相対位置によっては、油路48は油路52または油路53のいずれにも接続されない。さらに、油路48が、油路52,53の両方に同時に接続されることはない。また、インナーレース31とロータリーバルブ12との相対位置によっては、油路114は油路213または油路214のいずれにも接続されない。さらに、油路114が、油路213,214の両方に同時に接続されることはない。さらにまた、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転する場合、油路48が油路52と接続されるタイミングと、油路114が油路213に接続されるタイミングと、油路57が油路211に接続されるタイミングとが同じである。さらにまた、インナーレース31とロータリーバルブ12とが相対回転する場合、油路48が油路53と接続されるタイミングと、油路114が油路214に接続されるタイミングと、油路57が油路212に接続されるタイミングとが同じである。
【0082】
つぎに、具体例3で用いられる油圧制御装置76の構成を、図8に基づいて説明する。図8において、図1の構成と同じ構成部分については図1と同じ符号を付してある。吸入油路81および吐出油路87には、具体例1と同様に第1切替弁82および第2の切替弁88が接続されている。具体例3において、第1切替弁82は、シリンダ室Aを、吸入油路81または吐出油路87または大気中に選択的に接続する装置であり、各油路と第1切替弁82のポートとの接続関係は具体例1と同じである。また、具体例3において、第1切替弁82の動作状態を切り替えた場合の作用は、具体例1と同じである。
【0083】
一方、第2切替弁88の構成は具体例1の場合と同じであり、第2切替弁88は、シリンダ室Bを、吐出油路87または吸入油路81または大気中に選択的に接続する装置である。第2切替弁88とシリンダ室Bとの接続関係において、具体例1と具体例3との相違点を説明する。この具体例3では、第2切替弁88のポート91に対して、油路17および吐出ポート209を介在させて油路213が接続されている。また、この具体例3では、第2切替弁88のポート92に対して、油路20および吸入ポート207を介在させて油路214が接続されている。この具体例3においても、第2切替弁88が電子制御装置79により制御されて、4種類の動作状態d,e,f、gを選択的に切り替え可能である。まず、第2切替弁88が動作状態dに制御された場合は、ポート90とポート91とが接続され、かつ、ポート89とポート92とが接続され、ポート205が遮断される。つまり、吐出ポート209は、油路17を経由して吐出油路87に接続されるとともに、吸入ポート207は、油路20を経由して吸入油路81に接続される。また、第2切替弁88が動作状態eに制御された場合は、ポート91,92が共にポート205に接続され、かつ、ポート89,90が共に遮断される。つまり、吐出ポート209および吸入ポート207が共に大気中に開放される。
【0084】
さらに、第2切替弁88が動作状態fに制御された場合は、ポート91,92が共にポート90に接続され、かつ、ポート89,205が共に遮断される。つまり、吐出ポート209および吸入ポート207が、共に吐出油路87に接続される。さらに、第2切替弁88が動作状態gに制御された場合は、ポート90とポート92とが接続され、かつ、ポート89とポート91とが接続され、ポート205が遮断される。つまり、吐出ポート16は、油路17を経由して吸入油路81に接続されるとともに、吸入ポート207は、油路20を経由して吐出油路87に接続される。
【0085】
さらに、この具体例3においては、吐出油路87および吸入油路82に第3切替弁123が接続されている。この第3切替弁123は、シリンダ室Cを、吐出油路87または吸入油路81または大気中に対して選択的に接続する装置である。この第3切替弁123は、例えばソレノイドバルブにより構成することが可能である。この第3切替弁123は、5つのポート124,125,126,127,215を有しており、ポート125が吸入油路81に常に接続され、ポート124が吐出油路87に常に接続され、ポート126が油路128を介して吐出ポート208に常に接続され、ポート127が油路129を介して吸入ポート210に常に接続されている。そして、第3切替弁123が電子制御装置79により制御されて、4種類の動作状態h,i,j,kを選択的に切り替え可能である。まず、第3切替弁123が動作状態hに制御された場合は、ポート124とポート126とが接続され、かつ、ポート125とポート127とが接続され、かつ、ポート215が遮断される。つまり、吐出ポート208は、油路128を経由して吐出油路87に接続されるとともに、吸入ポート210は、油路129を経由して吸入油路81に接続される。
【0086】
また、第3切替弁123が動作状態iに制御された場合は、ポート126およびポート127が共にポート215に接続され、かつ、ポート124およびポート125が共に遮断される。つまり、吐出ポート208および吸入ポート210が共に大気中に開放される。さらに、第3切替弁123が動作状態jに制御された場合は、ポート126,127が共にポート124に接続され、かつ、ポート125,215が共に遮断される。つまり、吐出ポート208および吸入ポート210が、共に吐出油路87に接続される。さらに、第3切替弁123が動作状態kに制御された場合は、ポート124とポート127とが接続され、かつ、ポート125とポート126とが接続され、かつ、ポート215が遮断される。つまり、吐出ポート208が吸入油路81に接続され、かつ、吸入ポート210が吐出油路87に接続される。
【0087】
つぎに、具体例3におけるオイルポンプ23のオイル吸入作用、およびオイル吐出作用を説明する。この具体例3においても、エンジントルクがインナーレース31にトルクが伝達されて、図3でインナーレース31が時計回りに回転するものとする。そして、インナーレース31とアウターレース25とが相対回転すると、各ピストン35が動作中心線R1沿った方向に往復動して、シリンダ室A,B,Cの容積が、同期して変化する。ピストン35が、インナーレース31の半径方向で外側に向けて動作する行程(上昇行程)においては、シリンダ室A,B,Cの容積が共に拡大し、そのシリンダ室A,B,C内の圧力が低下(負圧)する。これに対して、ピストン35が、インナーレース31の半径方向で内側に向けて動作する行程(下降行程)においては、シリンダ室A,B,Cの容積が共に縮小され、そのシリンダ室A,B,C内の圧力が上昇する。
【0088】
つぎに、第1切替弁82および第2切替弁88および第3切替弁123の動作状態と、全てのシリンダ室A(シリンダ室A群と記す)および全てのシリンダ室B(シリンダ室B群と記す)および全てのシリンダ室C(シリンダ室C群と記す)における吸入ポートおよび吐出ポートと連通する油路を、図9に基づいて説明する。この図9は、第1切替弁82および第2切替弁88および第3切替弁123の動作状態を選択的に切り替える複数のモードを示す図表である。この具体例3では、モード1ないしモード7を選択的に切替可能である。なお、モード1ないし7を切り替える条件は、具体例1の場合と同じでよい。まず、モード1が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態hに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート207は吸入油路81に接続される。
【0089】
さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208は吐出油路87に接続され、シリンダ室C群の吸入ポート210は吸入油路81に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室A群に吸入されるとともに、オイルパン80内のオイルは、吸入油路81および油路20を経由して、シリンダ室B群にも吸入される。さらに、オイルパン80内のオイルは、吸入油路81および油路129を経由して、シリンダ室C群にも吸入される。これに対して、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルは、油路19を経由して吐出油路87に吐出されるとともに、シリンダ室B群のオイルは、油路17を経由して吐出油路87に吐出され、シリンダ室C群のオイルは、油路128を経由して吐出油路87に吐出される。このように、モード1が選択された場合、オイルポンプ23における「オイルの吐出量」は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量と、シリンダ室B群から吐出されたオイル量と、シリンダ室C群から吐出されるオイル量とが加算された量(図9に「A+B+C」で示す)となる。なお、具体例3においても、「オイルの吐出量」は「インナーレース31とアウターレース25との単位回転数差あたり(回転数差1)のオイルの吐出量」との意味で用いる。
【0090】
つぎに、モード2が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御され、第3切替弁123は動作状態iに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート207は吸入油路81に接続される。さらに、シリンダ室C群の吸入ポート210および吐出ポート208は、共に大気中に開放される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルは、シリンダ室A群およびシリンダ室B群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群およびシリンダ室B群のオイルは吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室C群では、オイルの吸入・吐出はおこなわれない。このように、モード2が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室A群およびシリンダ室B群から吐出されるオイル量(図9に「A+B」で示す)となる。
【0091】
さらに、モード3が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態eに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態iに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209および吸入ポート207は、共に大気中に開放される。さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208および吸入ポート210は、共に大気中に開放される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルは、シリンダ室A群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルが吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室B群およびシリンダ室C群では、オイルの吸入・吐出はおこなわれない。このように、モード3が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量(図9に「A」で示す)となる。
【0092】
さらに、モード4が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態jに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート207は吸入油路81に接続される。さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208および吸入ポート210が、共に吐出油路87に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81および油路18を経由して、シリンダ室A群に吸入されるとともに、オイルパン80内のオイルは、吸入油路81および油路20を経由して、シリンダ室B群にも吸入される。これに対して、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルは、油路19を経由して吐出油路87に吐出されるとともに、シリンダ室B群のオイルは、油路17を経由して吐出油路87に吐出される。さらに、シリンダ室Cから吐出されたオイルは、他のシリンダ室Cに吸入される。つまり、シリンダ室C同士の間でオイルが循環し、吐出油路87にはオイルが吐出されない。このように、モード4が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量と、シリンダ室B群から吐出されたオイル量とが加算された量(図9に「A+B」で示す)となる。
【0093】
さらに、モード5が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態eに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態jに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209および吸入ポート207は、共に大気中に開放される。さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208および吸入ポート210は、共に吐出油路87に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルは、シリンダ室A群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルが吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室B群では、オイルの吸入・吐出はおこなわれない。さらに、シリンダ室Cから吐出されたオイルは、他のシリンダ室Cに吸入される。つまり、シリンダ室C同士の間でオイルが循環し、吐出油路87にはオイルが吐出されない。このように、モード5が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量(図9に「A」で示す)となる。
【0094】
さらに、モード6が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態aに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態fに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態jに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14は吐出油路87に接続され、シリンダ室A群の吸入ポート13は吸入油路81に接続される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209および吸入ポート207は、共に吐出油路87に接続される。さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208および吸入ポート210は、共に吐出油路87に接続される。このため、ピストン35の上昇行程では、オイルパン80内のオイルは、シリンダ室A群に吸入される一方、ピストン35の下降行程では、シリンダ室A群のオイルが吐出油路87に吐出される。これに対して、シリンダ室Bから吐出されたオイルは、他のシリンダ室Bに吸入される。つまり、シリンダ室B同士の間でオイルが循環し、吐出油路87にはオイルが吐出されない。さらに、シリンダ室Cから吐出されたオイルは、他のシリンダ室Cに吸入される。つまり、シリンダ室C同士の間でオイルが循環し、吐出油路87にはオイルが吐出されない。このように、モード6が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室A群から吐出されるオイル量(図9に「A」で示す)となる。
【0095】
さらに、モード7が選択された場合は、第1切替弁82は動作状態bに制御され、かつ、第2切替弁88は動作状態dに制御され、かつ、第3切替弁123は動作状態kに制御される。すると、シリンダ室A群の吐出ポート14および吸入ポート13が、共に大気中に開放される。また、シリンダ室B群の吐出ポート209は吐出油路87に接続され、シリンダ室B群の吸入ポート207は吸入油路81に接続される。さらに、シリンダ室C群の吐出ポート208は吸入油路81に接続され、シリンダ室C群の吸入ポート210は吐出油路87に接続される。このため、シリンダ室群Aではオイルの吸入・吐出はおこなわれない。また、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Bでは、オイルパン80内のオイルが、吸入油路81を経由してシリンダ室Bに吸入されるとともに、ピストン35が下降行程にあるシリンダ室Bでは、そのシリンダ室Bから吐出油路87にオイルが吐出される。これに対して、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Cでは、シリンダ室Bから吐出油路87に吐出されたオイルの一部が、シリンダ室Cに吸入される。また、ピストン35が下降行程にあるシリンダ室Bから吐出されたオイルは、吸入油路81を経由して、ピストン35が上昇行程にあるシリンダ室Bに吸入される。このように、モード7が選択された場合、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量は、シリンダ室B群から吐出されるオイル量から、シリンダ室C群に吸入されるオイル量を減算じた量(図9に「B−C」で示す)となる。
【0096】
この具体例3において、オイルポンプ23におけるオイルの吐出量同士の関係は、以下のとおりである。
(オイル吐出量A+B+C)>(オイル吐出量A+B)>オイル吐出量A
である。このように具体例3においても、モードの変更によりオイルポンプ23におけるオイルの吐出量を、複数段階に変更(増減)することができる。なお、この具体例3では、吐出油路87に吐出されたオイルの一部を、流量制御弁93を経由させて吸入油路81に戻すことも可能である。
【0097】
つぎに、具体例3において、ピストン35の上昇行程でそのピストン35に加わる付勢力を、図9に基いて説明する。モード1またはモード2またはモード3のいずれかが選択された場合、ピストン35に加わる付勢力は、圧縮コイルばね44,61,112のばね荷重に相当する付勢力F4(弱)である。これに対して、モード4またはモード5またはモード7が選択された場合に、ピストン35に加わる付勢力は、圧縮コイルばね44,61,112のばね荷重に相当する力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Cにおけるピストン35の受圧面積」に対応する付勢力とを合計した付勢力F5(中)である。さらに、モード6が選択された場合に、ピストン35に加えられる付勢力は、圧縮コイルばね44,61,121のばね荷重に相当する力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Cにおけるピストン35の受圧面積」に対応する付勢力と、「吐出油路87の油圧×シリンダ室Bにおけるピストン35の受圧面積」に対応する付勢力とを合計した付勢力F6(強)である。なお、具体例3で説明されている付勢力F4(弱)、付勢力F5(中)、付勢力F6(強)は、付勢力同士の相対的な強弱関係を示すものであり、個々の付勢力[ニュートン]の具体的な値を表すものではない。
【0098】
このように、具体例3においても、ピストン35が上昇行程である場合にピストン35に加えられる付勢力を、複数段階、具体的には、付勢力F4(弱)、付勢力F5(中)、付勢力F6(強)の3段階で変更することが可能である。そして、ピストン35に加えられる付勢力が強まるほど、転動体36がカム面28から離れにくくなる。このようにして、転動体36が凸部30を乗り越えて凹部29に向けて転動する場合に、その転動体36がカム面28から離れることを防止できる。したがって、カム面28に対する転動体36の追従性を向上でき、「転動体36がカム面28から一旦離れ、ついで、カム面28に衝突して異音・振動が生じること。」を未然に防止できる。したがって、具体例1と同様の効果を得られる。また、シリンダボア34内に、ピストン25の一部、および突出部材41の一部、および突出部材108の一部を、シリンダボア34の半径方向に配置しているため、簡単な構造でシリンダ室同士を分割することができる。
【0099】
さらに、この具体例3では、モード1ないし7を選択的に切り替えることにより、ピストン35に加えられる付勢力が変更されて、各モード毎に、転動体36がカム面28から離れることを防止できる条件が異なる。そこで、転動体36がカム面28から離れることを防止可能と判断できる条件に基づいて、各モードを選択的に切り替えることが可能である。オイルポンプ23は、インナーレース31とアウターレース25との回転数差が大きくなるほど、転動体36がカム面28から離れやすくなるとともに、オイルポンプ23におけるオイル吐出量が増加し、かつ、オイルの流速が増加する特性を示す。この特性を考慮して、モードを切り替えるにあたり、オイルポンプ23に吸入されるオイルの流速に基づいて判断することが可能である。なお、図9に示されたモードは代表的な例であり、第1切替弁82の動作状態のいずれかと、第2切替弁88の動作状態のいずれかと、第3切替弁123の動作状態のいずれかとを選択的に組み合わせて、図9に示されていないモードとすることも可能である。このようなモードを採用することにより、ピストン35に加わる付勢力をさらに多数の段階に変更することが可能である。
【0100】
この具体例3で説明した構成と、この発明の構成との関係を説明すると、シリンダ室Aおよびシリンダ室Bおよびシリンダ室Cが、この発明における流体室および複数の分割室に相当し、シリンダ室Aが、この発明の第1分割室に相当し、シリンダ室Cが、この発明の第2分割室に相当し、シリンダ室Cが、この発明の第3分割室に相当し、第1切替弁82および第2切替弁88および第3切替弁123および電子制御装置79が、この発明の制御機構に相当し、突出部材41が、この発明の第1突出部材に相当し、突出部材102が、この発明の第2突出部材に相当し、油路128,129、ポート124,125,126,127,215が、この発明の通路に相当する。具体例3におけるその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、具体例1の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0101】
ところで、具体例1は、請求項1、3、4の発明に対応している。また、具体例2は、請求項1、2、4に対応している。さらに、具体例3は、請求項1、3、4、5に相当する。また、各具体例では圧縮コイルばねが用いられているが、ピストン35に付勢力を加える弾性部材として、圧縮コイルばねが用いられているが、竹の子ばねを用いることも可能である。さらにまた、上記具体例では、第1の部材と第2の部材とが1回分相対回転する間に、ピストンが予め定められた方向に複数回往復動する構成(多行程)の、ピストン型のポンプが挙げられているが、第1の部材と第2の部材とが1回分相対回転する間に、ピストンが予め定められた方向に1回往復動する構成(単行程)のピストン型でもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…車両、 2…エンジン、 8…ベルト式無段変速機、 17,18,19,20,128,129…油路、 25…アウターレース、 28…カム面、 31…インナーレース、 34…シリンダボア、 35…ピストン、 36…転動体、 41,108…突出部材、 44…圧縮コイルばね、 71…プライマリプーリ、 72…セカンダリプーリ、 73…ベルト、 82…第1切替弁、 83,84,85,86,89,90,91,92,124,125,126,127,204,205,215…ポート、 81…吸入油路、 87…吐出油路、 88…第2切替弁、 123…第3切替弁、 A,B,C…シリンダ室、 W1…回転軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心として相対回転可能に設けられた第1の部材および第2の部材と、前記第1の部材に設けられ、かつ、予め定められた方向に変位された形状を有するカムと、前記第2の部材に取り付けられ、かつ、前記カムに接触して予め定められた方向に動作可能な動作部材と、前記第2の部材に設けられ、かつ、前記第1の部材と第2の部材とが相対回転した場合に、前記動作部材の動作により流体が吸入・吐出される流体室とを備えた、ピストン型のポンプにおいて、
前記流体室は、単一の動作部材の動作により流体が吸入・吐出され、かつ、相互に流体密に分割された複数の分割室で構成されており、
これらの複数の分割室にそれぞれ接続され、かつ、前記流体が通る通路と、この通路を前記複数の分割室毎に別々に開放・遮断する制御機構とが設けられていることを特徴とするピストン型のポンプ。
【請求項2】
前記動作部材が中心線に沿って動作可能に配置されており、前記動作部材には前記中心線を中心とする半径方向の第1段部が設けられており、前記第2の部材には動作部材に前記中心線を中心とする半径方向の第2段部が設けられており、前記中心線に沿った方向で第1段部と第2段部との間に、いずれかの分割室が形成されている請求項1に記載のピストン型のポンプ。
【請求項3】
前記第2の部材に凹部が設けられており、その凹部に前記動作部材が動作可能に配置されており、前記凹部には、前記動作部材の動作方向に突出された第1突出部材が設けられており、この第1突出部材により、複数の分割室のうちの第1分割室と第2分割室とが仕切られている請求項1に記載のピストン型のポンプ。
【請求項4】
前記動作部材と前記第1突出部材との間に、前記動作部材の動作方向の弾発力を生じるばねを設けて、そのばねにより前記第1突出部材が前記第2の部材に押し付けられている請求項3に記載のピストン型のポンプ。
【請求項5】
前記動作部材から前記動作方向に突出された第2突出部材が設けられており、この第2突出部材により、複数の分割室のうちの第1分割室と第3分割室とが仕切られている請求項4に記載のピストン型のポンプ。
【請求項6】
前記第1の部材と第2の部材との回転数差が大きくなった場合に、前記流体室に吸入される流体の流速が、予め定められた流速値を越えないように、前記制御機構により前記通路の開放・遮断を制御する第1ポンプ制御手段を備えている請求項1ないし5のいずれかに記載のピストン型のポンプ。
【請求項7】
前記複数の分割室のうちの第1分割室の流体圧が作用する動作部材が、前記第1分割室に流体を吸入する向きで動作する場合のみ、前記複数の分割室のうちの第2分割室の液体が吐出される通路を、前記第1分割室に接続するように、前記制御機構により前記通路の開放・遮断を制御する第2ポンプ制御手段を備えている請求項1ないし6のいずれかに記載のピストン型のポンプ。
【請求項8】
前記複数の分割室のうちの第1分割室の流体圧が作用する動作部材が、前記第1分割室に流体を吸入する向きで動作する場合、および前記第1分割室から流体を吐出する向きで動作する場合のいずれにおいても、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される通路を前記第1分割室に接続するように、前記制御機構により前記通路の開放・遮断を制御する第3ポンプ制御手段を備えている請求項1ないし6のいずれかに記載のピストン型のポンプ。
【請求項9】
前記流体室に吸入される流体の流速が、前記カムから前記転動体が離れるとして予め定められた流速値を越えた場合に、前記複数の分割室のうちの第1分割室の流体圧が作用する動作部材が、前記第1分割室に流体を吸入する向きで動作する場合に、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される油路を前記第1分割室に接続するように、前記制御機構により前記通路の開放・遮断を制御する第4ポンプ制御手段を備えている請求項7または8のいずれかに記載のピストン型のポンプ。
【請求項10】
前記第1分割室に流体を吸入する方向に前記動作部材が動作する時に、前記第2分割室の流体が吐出される油路を前記第1分割室に接続する場合と、
前記第1分割室に流体を吸入する方向に前記動作部材が動作する時、および前記第1分割室から流体を吐出する方向に前記動作部材が動作する時のいずれにおいても、複数の分割室のうちの第2分割室の流体が吐出される通路を前記第1分割室に接続する場合とで、
前記予め定められる流速値を変更する許容流速値変更手段を、更に備えている請求項9に記載のピストン型のポンプ。
【請求項11】
車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に前記第1の部材および第2の部材が設けられており、前記駆動力源の動力が前記第1の部材または前記第2の部材に伝達された場合に、前記カムと前記ピストンとの係合力により、前記第1の部材と前記第2の部材との間で動力伝達がおこなわれる構成である請求項1ないし10のいずれかに記載のピストン型のポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−92849(P2012−92849A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21541(P2012−21541)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2007−218778(P2007−218778)の分割
【原出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】