説明

ファン制御装置および車両用灯具システム

【課題】車両用灯具の光源として用いられる半導体発光素子を常温環境と高温環境の双方において適切に冷却する。
【解決手段】車両用前照灯システム100において、温度センサ120は、車両用灯具の光源である発光素子20が置かれる環境温度を検知する。環境温度取得部116は、温度センサ120の検知結果を取得する。ファン制御部114は、取得された温度センサ120による検知結果を用いて、発光素子20を冷却するファン36の回転数を制御する。ファン制御部114は、発光素子20が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方がファン36の回転数を低くする。車両用灯具が搭載される車両は、電気自動車である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファン制御装置および車両用灯具システムに関し、特に、車両用灯具の光源として用いられるLED(Light Emitting Diode)などの半導体発光素子が用いられに関する。
【背景技術】
【0002】
LEDなどの半導体発光素子を光源として車両用前照灯に利用する技術が知られている。このような半導体発光素子は、温度が上昇すると光度が低下するおそれがある。このため、半導体発光素子を車両用前照灯などに用いる場合は、一般的にファンを用いて強制的に冷却することにより、温度の上昇を抑制している。ここで、冷却用ファンを一定の回転数で回転させて半導体発光素子を冷却している車両用灯具が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−129258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、ガソリンなどの燃料を使用せずに走行可能な電気自動車の開発が盛んに進められている。このような電気自動車では、車両内部で燃料を燃やさないため、車両内部の高温環境温度は、ガソリンなどの燃料をエンジンで燃やして走行する燃料エンジン車よりも低くなる。このため、燃料エンジン車に搭載した場合と同様の回転数でファンを回転させると、発光素子の高温環境での目標最高温度を下回り、ファンで冷却しすぎている状態となる可能性がある。一方、電気自動車の高温環境において発光素子の目標最高温度が達成させるよう低い回転数でファンを回転させた場合は、常温環境において発光素子の温度を充分に低下させることが困難となる。
【0005】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、車両用灯具の光源として用いられる半導体発光素子を常温環境と高温環境の双方において適切に冷却することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のファン制御装置は、車両用灯具の光源である半導体発光素子が置かれる環境温度を検知する温度センサの検知結果を取得する環境温度取得部と、取得された温度センサによる検知結果を用いて、半導体発光素子を冷却するファンの回転数を制御するファン制御部と、を備える。ファン制御部は、半導体発光素子が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方がファンの回転数を低くする。
【0007】
この態様によれば、高温環境下においてファンによる冷却しすぎを回避しつつ、常温環境下において半導体発光素子を適切に冷却することができる。このため、常温環境と高温環境の双方において半導体発光素子を適切に冷却することができる。
【0008】
車両用灯具は、電気自動車に搭載されてもよい。電気自動車では、高温環境温度が燃料エンジン車よりも低い。したがってこの態様によれば、上記効果をより適切に発揮できる。
【0009】
本発明の別の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、光源である半導体発光素子と、半導体発光素子を冷却するファンと、を有する車両用灯具と、ファンの回転数を制御するファン制御装置と、を備える。ファン制御装置は、半導体発光素子が置かれる環境温度を検知する温度センサの検知結果を取得し、半導体発光素子が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方がファンの回転数を低くする。
【0010】
この態様によれば、高温環境下においてファンによる冷却しすぎを回避しつつ、常温環境下において半導体発光素子を適切に冷却することができる。このため、常温環境と高温環境の双方において半導体発光素子を適切に冷却することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両用灯具の光源として用いられる半導体発光素子を常温環境と高温環境の双方において適切に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る車両用前照灯の構成を示す図である。
【図2】(a)は、本実施形態に係る発光モジュールの構成を示す斜視図であり、(b)は、本実施形態に係る発光モジュールの側面図である。
【図3】本実施形態に係る車両用前照灯を含む車両用前照灯システムの構成を模式的に示す機能ブロック図である。
【図4】車両用前照灯が置かれる環境温度Tcと、ロービーム用配光パターンのみ点灯させたときの発光素子温度Tjとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る車両用前照灯10の構成を示す図である。図1は、灯具光軸Ax1を含む鉛直面による車両用前照灯10の断面図を示している。車両用前照灯10は、いわゆるロービーム用配光パターンを形成するロービーム用光源として機能する。なお、車両用前照灯10がこれに限られないことは勿論であり、車両用前照灯10がハイビーム用配光パターンを形成するハイビーム光源として機能してもよい。本実施形態では、車両用前照灯10は、ガソリンなどの燃料をエンジンで燃焼させて走行する燃料エンジン車ではなく、電力のみで走行する電気自動車に装着される。
【0015】
車両用前照灯10は、投影レンズ12、発光モジュール14、リフレクタ16、およびシェード18を備える。投影レンズ12は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、その後側焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方に投影する。
【0016】
発光モジュール14は、発光素子20を有する。発光素子20は、半導体発光素子であるLEDによって構成される。なお、発光素子20がLED以外の半導体発光素子によって構成されていてもよい。発光モジュール14は、発光素子20が主に上方に光を照射するよう配置される。なお、発光モジュール14は、車両用前照灯10以外の車両用灯具に装着可能に設けられていてもよい。
【0017】
リフレクタ16は、発光素子20が発した光を反射して集光する反射面16aを有する。リフレクタ16は、反射面16aが発光素子20に対向するよう発光素子20の上方に配置される。シェード18は、シェード部18aおよび連結部18bを有する。シェード部18aは、灯具光軸Ax1を含む平面を有しロービーム用配光パターンの水平線付近のカットオフラインを形成する。なお、シェード部18aの形状は公知であるため説明を省略する。連結部18bは、投影レンズ12とシェード部18aとを連結する。なお、連結部18bは、外部から認識可能な意匠面を構成する意匠部材としても機能する。
【0018】
図2(a)は、本実施形態に係る発光モジュール14の構成を示す斜視図であり、図2(b)は、本実施形態に係る発光モジュール14の側面図である。発光モジュール14は、パッケージ30、ヒートシンク32、アタッチメント34、およびファン36、カバー40、および制御回路基板42を有する。
【0019】
パッケージ30は、発光素子20を有する。制御回路基板42は、発光素子20の点灯を制御する。本実施形態では、制御回路基板42は、プリント配線基板と、当該プリント配線基板に実装される電気部品や素子と、によって構成される。
【0020】
ヒートシンク32は、アルミニウムなど放熱性の高い放熱材料によって形成されており、放熱部材として機能する。ヒートシンク32は、放熱フィン32aを有し、発光素子20および制御回路基板42が発する熱を放散させる。ヒートシンク32は、アタッチメント34の下面に取り付けられる。
【0021】
ヒートシンク32の放熱フィン32aは、ヒートシンク32の下部に設けられる。放熱フィン32aは、灯具光軸Ax1と垂直な方向に延在するよう設けられる。ファン36は、放熱フィン32aにエアを吹き付けることができるよう、放熱フィン32aの下方においてヒートシンク32に取り付けられる。
【0022】
アタッチメント34には、固定コネクタ38が樹脂による一体成形によって一体的に固定されている。固定コネクタ38は、ワイヤコネクタが結合可能に設けられている。また、アタッチメント34には、制御回路基板42を収容すべく下方に凹んだ回路収容部が設けられている。制御回路基板42は、この回路収容部に収容される。制御回路基板42が収容された後、アタッチメント34にカバー40が取り付けられる。
【0023】
アタッチメント34、制御回路基板42、およびカバー40によってアタッチメントユニット33が構成される。本実施形態では、アタッチメント34をヒートシンク32に取り付ける前に、アタッチメント34に制御回路基板42およびカバー40が予め取り付けられ、アタッチメントユニット33としてヒートシンク32に取り付けられる。これにより、アタッチメント34と制御回路基板42とが一体的にヒートシンク32に装着され、同時に、ヒートシンク32との間にパッケージ30が挟持され装着される。
【0024】
このように発光モジュール14は、光源である発光素子20と、発光素子20の点灯を制御する制御回路基板42と、が一体的に構成されている。パッケージ30は、発光素子20、サブマウント基板(図示せず)、および実装基板(図示せず)を有する。発光素子20はサブマウント基板に実装され、サブマウント基板が実装基板に実装される。実装基板には給電のための導電性部材(図示せず)が設けられている。
【0025】
発光モジュール14は、発光素子20の主光軸Ax2が鉛直上方に向くように配置される。なお、主光軸Ax2とは、発光素子20の上面である主発光面の中心を通過する主発光面と垂直な軸をいう。また、発光素子20は、発光部が制御回路基板42よりも主光軸Ax2方向に突出するよう配置される。発光部とは、発光素子20の主発光面と、主発光面を囲う側面とを含む。
【0026】
図3は、本実施形態に係る車両用前照灯10を含む車両用前照灯システム100の構成を模式的に示す機能ブロック図である。図3には、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどのハードウェア、およびソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックが描かれている。これらの機能ブロックは、ハードウェアおよびソフトウェアの組合せによって様々な形で実現することができる。
【0027】
車両用前照灯10の周辺には、温度センサ120が配置されている。温度センサ120は、車両用前照灯10が置かれる環境温度を検知する。すなわち温度センサ120は、車両用前照灯10の光源として用いられる発光素子20が置かれる環境温度を検知する。温度センサ120は、車両用前照灯10の内部に設けられていてもよく、また、車両用前照灯10周辺の車両内部に設けられていてもよい。
【0028】
電子制御装置110は、点灯制御部112、ファン制御部114、および環境温度取得部116を有する。点灯制御部112は、発光素子20の点灯を制御する。ファン制御部114は、ファン36のオン、オフ、および回転数を制御する。環境温度取得部116は、温度センサ120の検知結果を取得する。
【0029】
図4は、車両用前照灯10が置かれる環境温度Tcと、ロービーム用配光パターンのみ点灯させたときの発光素子温度Tjとの関係を示す図である。図4においてL1は、すべての環境温度Tcにおいて一定の回転数N1でファン36を回転させたときの発光素子温度Tjを示している。また、L2は、すべての環境温度Tcにおいて、回転数N1よりも低い一定の回転数N2でファン36を回転させたときの発光素子温度Tjを示している。
【0030】
図4に示す例では、すべての環境温度Tcで発光素子温度Tjが150℃以下になることを目標としている。L1では、ガソリンなどを燃料とする燃料エンジン車やハイブリッド車における最高の環境温度Tcである80℃のときに発光素子温度Tjが150℃以下になるようファン36の回転数N1を設定したものである。しかしながら、上述のように、車両用前照灯10は、電気自動車に搭載される。したがって、車両用前照灯10は電気自動車用前照灯ということができる。電気自動車では内部で燃料を燃焼させないため、環境温度Tcは燃料エンジン車よりも低く、実際には環境温度Tcは60℃までしか上昇しない。このため、発光素子温度Tjは実際には140℃にも達せず、目標温度である150℃以下までマージンT1が発生する。
【0031】
一方、L2では、この電気自動車における最高の環境温度Tcである60℃のときに、発光素子温度Tjが150℃以下になるよう、ファン36の回転数N2を設定したものである。しかしながら、この場合は、常温環境である25℃のときに約120℃となり、適切な温度とされる100℃よりも図4に示すようにT2高くなる。このため、常温時に発光素子20の光度が低下するおそれがある。
【0032】
このため、ファン制御部114は、取得された温度センサ120による検知結果を用いて、T1およびT2が小さい値となるよう発光素子20を冷却するファンの回転数を制御する。具体的には、ファン制御部114は、発光素子20が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方がファンの回転数を低くする。本実施例では、温度センサ120によって検知された温度が25℃のときに発光素子20が常温環境にあるものとし、温度センサ120によって検知された温度が60℃のときに発光素子20が高温環境にあるものとする。なお、常温環境および高温環境の定義がこれに限られないことは勿論であり、例えば常温環境が0℃から30℃までのいずれかの温度であり、高温環境がこの常温環境の温度よりも高いいずれかの温度であってもよい。
【0033】
さらに具体的には、ファン制御部114は、環境温度Tcが高くなるほどファン36の回転数を直線的に低下させる。これにより、発光素子温度Tjを、環境温度Tcに対し図4のLaに示すように連続的に変化させることができる。
【0034】
これにより、図4のLaに示すように、高温環境である環境温度Tc=60℃のときに発光素子温度Tjを150℃とし、マージンT1をほぼゼロにすることができる。また、常温環境である環境温度Tc=25℃のとき発光素子温度Tjを約100℃とし、T2をほぼゼロにすることができる。
【0035】
なお、ファン制御部114は、環境温度Tcが高くなるほどファン36の回転数を段階的に低下させてもよい。具体的には、環境温度Tcが第1の範囲X1にあるときはファン36を一定の回転数Na1で回転させ、環境温度Tcが第1の範囲X1よりも高い第2の範囲X2にあるときはファン36を回転数Na1よりも低い一定の回転数Na2で回転させてもよい。これによっても、発光素子20が常温環境下にあるときよりも高温環境下にあるときの方がファン36の回転数を低くすることができる。さらに、ファン制御部114は、環境温度Tcが高くなるほど加速度的にファン36の回転数を減少させてもよい。具体的には、ファン制御部114は、環境温度Tcが高くなるほどファン36の回転数の減少勾配が大きくなるようファン36の回転数を減少させてもよい。
【0036】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0037】
10 車両用前照灯、 14 発光モジュール、 20 発光素子、 30 パッケージ、 32 ヒートシンク、 32a 放熱フィン、 33 アタッチメントユニット、 34 アタッチメント、 34a、 36 ファン、 42 制御回路基板、 100 車両用前照灯システム、 110 電子制御装置、 112 点灯制御部、 114 ファン制御部、 116 環境温度取得部、 120 温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用灯具の光源である半導体発光素子が置かれる環境温度を検知する温度センサの検知結果を取得する環境温度取得部と、
取得された前記温度センサによる検知結果を用いて、前記半導体発光素子を冷却するファンの回転数を制御するファン制御部と、
を備え、
前記ファン制御部は、前記半導体発光素子が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方が前記ファンの回転数を低くすることを特徴とするファン制御装置。
【請求項2】
前記車両用灯具は、電気自動車に搭載されることを特徴とする請求項1に記載のファン制御装置。
【請求項3】
光源である半導体発光素子と、前記半導体発光素子を冷却するファンと、を有する車両用灯具と、
前記ファンの回転数を制御するファン制御装置と、
を備え、
前記ファン制御装置は、前記半導体発光素子が置かれる環境温度を検知する温度センサの検知結果を取得し、前記半導体発光素子が常温環境下にあるときよりも、常温環境より温度の高い高温環境下にあるときの方が前記ファンの回転数を低くすることを特徴とする車両用灯具システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−54919(P2013−54919A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192364(P2011−192364)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】