説明

プラズマエッチング用電極

【課題】金属不純物でシリコンウエハの汚染を大幅に少なくすることが可能なガラス状炭素製プラズマエッチング用電極を提供する。
【解決手段】貫通孔内壁を含む全表面に付着した鉄付着量が、全表面積に対し、2μg/cm以下であるガラス状炭素製プラズマエッチング用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造工程のドライエッチング装置に用いられるガラス状炭素製プラズマエッチング用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程の一つに、シリコンウエハに回路パターンを形成するエッチングの工程がある。このうち平行平板型のプラズマエッチング装置では、下部電極にシリコンウエハを配置し、これと平行な、反応ガスを流通させるための多数の貫通孔を有する上部電極との間に、高周波プラズマを発生させ、シリコンウエハのエッチングを行う。この上部電極は、シリコンウエハのエッチング時にそれ自身もプラズマによりエッチングを受ける。
【0003】
従来、上部電極(プラズマエッチング用電極)には、特開昭57−185982号公報などに示されるように導電性があり、化学的安定性に優れ、金属不純物でシリコンウエハを汚染することのない、高純度化された黒鉛材料が使用されてきた。しかし黒鉛材料は、骨材及びマトリックスからなる粒子の集合体であるため、プラズマによるエッチングにより、構成粒子が脱落し、消耗が大きくなったり、シリコンウエハ上に粒子が落下し、回路パータン形成の障害になるなどの問題があった。このような問題を解決するために、近年、特開昭62−109317号公報などに示されるようにプラズマエッチング用電極にガラス状炭素が使用されるようになってきた。
【0004】
黒鉛材料などの、一般の炭素材料が骨材及びマトリックスからなる粒子の集合体であるのに対し、熱硬化性樹脂を炭化焼成して得られるガラス状炭素は、ガラス状の非常に均質、緻密な構造を有する。このため、ガラス状炭素は化学的安定性、耐熱性、自己潤滑性等に加え、構成粒子の脱落がないという、一般の炭素材料にない優れた特徴を有する。このため、ガラス状炭素は半導体製造装置部材に好適であるとされている。
【0005】
半導体デバイスの製造においては、金属不純物によるシリコンウエハの汚染は、特性の劣化を引き起こし、デバイスの歩留り低下を引き起こす。このため、プラズマエッチング用電極は、金属、特に鉄・鉛等の重金属の含有量が少ない、高純度であることが必要とされる。しかし、全体としては高純度の場合でも又は表面への金属付着は、全体の不純物量からみて微量であっても、電極使用の初期段階で、シリコンウエハ汚染への影響が著しい。
【特許文献1】特開昭57−185982号公報
【特許文献2】特開昭62−109317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属不純物でシリコンウエハの汚染を大幅に少なくすることが可能なガラス状炭素製プラズマエッチング用電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、貫通孔内壁を含む全表面に付着した鉄付着量が、全表面積に対し、2μg/cm以下であるガラス状炭素製プラズマエッチング用電極に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明になるプラズマエッチング用電極は、金属不純物によるシリコンウエハの汚染を大幅に少なくすることができるため、デバイスの歩留りを向上させ、安定したプラズマエッチング加工を行うことが可能になり、産業上極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるガラス状炭素とは、熱硬化性樹脂硬化物を炭化、焼成して得られる炭素材料であり、該熱硬化性樹脂硬化物を得るのに用いられる熱硬化性樹脂としては特に制限はないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂等を挙げることができる。また、これらの樹脂の混合物を用いてもよい。好ましくはフラン樹脂及び/又はフェノール樹脂である。
【0010】
本発明に用いられる熱硬化性樹脂は、硬化前に目的とする形状に応じて各種の成形方法で成形されるが、その成形方法については特に制限はない。所定の形状に成形した後、更に130〜200℃の温度で硬化処理する。熱硬化性樹脂の成形硬化は縮合水などが外部に抜け易い加熱条件及び昇温速度で行うか又は硬化の為の触媒量を適正な量に設定して安定した樹脂板を得る。
【0011】
次いで、電極板の形状にするため所定の加工を行った後、高純度の治具及び炉を用い不活性雰囲気中(通常、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスや窒素、水素、ハロゲンガス等の非酸化性ガスの少なくも1種の気体からなる酸素を含まない雰囲気、減圧又は真空下)において約1000℃の温度で焼成炭化する。更に1300℃以上の温度、好ましくは2000℃以上の温度で高温処理しガラス状炭素からなるプラズマエッチング用電極が得られる。プラズマエッチング用電極を得る方法は、前記の方法以外にガラス状炭素を得た後、放電加工あるいは超音波加工で所定の形状の電極板に加工してもよい。また、プラズマエッチング用電極は、必要に応じて表面研磨等の仕上げ加工を行う。
【0012】
ガラス状炭素全体に含有される金属不純物が多い場合、表面の汚染に関わらずシリコンウエハが汚染する。従ってガラス状炭素全体に含有される金属不純物量は50ppm以下が好ましく、20ppm以下がより好ましい。なお金属不純物量は、ガラス状炭素を酸素を含む雰囲気で焼成して得られる灰分量から求められる。
【0013】
本発明のプラズマエッチング用電極の表面に付着する鉄付着量は、貫通孔内壁を含む全表面積に対し、2μg/cm以下、好ましくは1.8μg/cm以下、より好ましくは1μg/cm以下とされ、2μg/cmを超えるとプラズマエッチングに使用する際、シリコンウエハの汚染が顕著になり、製品歩留りが低下する。なお、鉄付着量は、通常0.09μg/cmが限度であり、これ以上にすることは困難である。
【0014】
本発明で、ガラス状炭素製プラズマエッチング用電極の貫通孔内壁を含む全表面に付着する鉄付着量とは、プラズマエッチング用電極表面から酸抽出される鉄成分量をいい、具体的には濃塩酸中にプラズマエッチング用電極を浸漬し、この濃塩酸中に溶出した鉄の濃度を測定して求められる。濃塩酸中への浸漬時間は、鉄の濃度が実質的に飽和するまでの時間である。鉄の濃度の分析は、原子吸光分析、ICP法、電位差ストリッピング法等の電気化学分析など公知の方法で行い、得られた鉄の濃度から、プラズマエッチング用電極に付着していた鉄の量を算出する。
【0015】
本発明で得られるプラズマエッチング用電極の貫通孔内壁を含む全表面に付着する鉄付着量が全表面積に対して2μg/cmを超える場合、酸洗浄又は加熱処理を行うことにより鉄付着量を減少させることができる。
【0016】
酸洗浄とは、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の酸又はこれらの混合液若しくはその水溶液(以下これらを総称して洗浄液とする)にプラズマエッチング用電極を浸漬させて行うものであり、浸漬時間は1時間以上が好ましい。洗浄液の濃度は、種類によって異なるが、2重量%以上が好ましく。5重量%以上がより好ましく、10〜60重量%の範囲がさらに好ましい。2重量%未満では鉄成分の除去能力が低下し、効果が発揮できなくなる傾向がある。また、洗浄の効果を上げるため、過酸化水素を添加してもよい。その添加量は洗浄液に対して10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、25〜40重量%の範囲がさらに好ましい。さらに、より酸洗浄を効果的にするには必要に応じて超音波振動を加えるなどの方法で洗浄を行ってもよい。超音波振動をかける時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。
【0017】
熱処理は、1000℃以上の温度で加熱処理することが好ましく、1000〜2000℃の温度で加熱処理することがさらに好ましい。1000℃未満の温度では目的とする鉄成分の除去能力が低下し、効果が発揮できなくなる傾向がある。この方法は、貫通孔内壁を含む全表面に付着した鉄を加熱して蒸発させ除去する方法であり、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、真空(減圧)中などの非酸化性雰囲気中で加熱処理することが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。
実施例1〜6及び比較例1〜3
フラン樹脂(日立化成工業(株)製、商品名VF−303)100重量部に、パラトルエンスルホン酸0.3重量部及びエチレングリコール0.3重量部を添加し、十分混合した後、混合物を成形型に注入し、50℃で3日、70℃で3日及び90℃で3日間保持して乾燥硬化した後、160℃までを5℃/時間の速度で昇温し、160℃で3日間保持し硬化処理を行い、厚さが4mmで、直径が250mmの円盤状樹脂成形体を得た。
【0019】
該成形体を予め焼成の寸法収縮(20%収縮)を見込んだ所定の形状に加工した後、160℃までを5℃/時間の速度で昇温し、160℃で3日間保持し硬化処理を行い円盤状樹脂硬化体を得た。該硬化体を電気炉に入れ窒素気流中で1000℃までを5℃/時間の速度で昇温し、1000℃の温度で10時間保持して焼成炭化した後、高純度の治具及び雰囲気炉を用い窒素雰囲気中で2000℃までを30℃/時間の速度で昇温し、2000℃の温度で6時間保持して高温処理を行い、厚さが3.5mmで、直径が200mmのガラス状炭素を得た。
【0020】
次いでガラス状炭素に直径が0.8mmの貫通小孔を3mmのピッチで多数穿孔し、ダイヤモンドラップマシンで厚さが3.0mmまで研磨し、鏡面仕上げしてプラズマエッチング用電極を得た。このプラズマエッチング用電極の貫通孔を含む全表面積は、950cmであった。得られたプラズマエッチング用電極の物理特性の平均値はそれぞれ、かさ密度が1.50g/cm、気孔率が0.5体積%、電気比抵抗が42.5μΩm、曲げ強度が135MPa及びショア硬度が123であった。また、同一ロットで作製したプラズマエッチング用電極の全不純物量(灰分)は15ppmであった。
【0021】
次にプラズマエッチング用電極を表1に示す各条件で各々2枚ずつ酸洗浄した後、その内の1枚を濃塩酸に10時間浸漬した。この濃塩酸中の鉄の濃度を原子吸光分析により測定し、貫通孔内壁を含む全表面に付着していた鉄付着量を算出した。その結果も表1に示す。次にそれぞれ残った1枚のプラズマエッチング用電極をプラズマエッチング装置にセットし、反応ガス:トリフロロメタン(CHF)キャリアガス:アルゴン(Ar)、反応チャンバー内のガス圧:1Torr、電源周波数:13.5MHzの条件で直径6インチのシリコンウエハの酸化膜エッチングを行った。このときのシリコンウエハから得られた半導体デバイスの製品歩留りを併せて表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例7〜12及び比較例4〜6
実施例1〜6及び比較例1〜3と同様の材料を使用し、実施例1〜6及び比較例1〜3と、同様の工程を経て厚さが5.5mmで、直径が350mmの円盤状樹脂成形体を得た。該成形体を実施例1〜6及び比較例1〜3と同様の工程を経て焼成炭化を行った後、高純度の治具及び雰囲気炉を用い窒素雰囲気中で2300℃までを30℃/時間の速度で昇温し、2300℃の温度で6時間保持して高温処理を行い、厚さが4.4mmで、直径が280mmのガラス状炭素を得た。
【0024】
次いでガラス状炭素に直径が0.5mmの貫通小孔を7mmのピッチで多数穿孔し、ダイヤモンドラップマシンで厚さが4.0mmまで研磨し、鏡面仕上げしてプラズマエッチング用電極を得た。このプラズマエッチング用電極の貫通孔を含む全表面積は、1300cmであった。得られたプラズマエッチング用電極の物理特性の平均値はそれぞれ、かさ密度が1.51g/cm、気孔率が0.1体積%、電気比抵抗が42.5μΩm、曲げ強度が145MPa及びショア硬化が123であった。また、同一ロットで作製したプラズマエッチング用電極の全不純物量(灰分)は15ppmであった。
【0025】
次にプラズマエッチング用電極を表2に示す条件で各々2枚ずつ加熱処理した後、その内の1枚を濃塩酸に10時間浸漬した。この濃塩酸中の鉄の濃度を原子吸光分析により測定し、貫通孔内壁を含む全表面に付着していた鉄付着量を算出した。その結果も表2に示す。次にそれぞれ残った1枚のプラズマエッチング用電極をプラズマエッチング装置にセットし、反応ガス:トリフロロメタン(CHF)キャリアガス:アルゴン(Ar)、反応チャンバー内のガス圧:1Torr、電源周波数:13.5MHzの条件で直径6インチのシリコンウエハの酸化膜エッチングを行った。このときのシリコンウエハから得られたデバイスの製品歩留りを併せて表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表1及び表2に示されるように、本発明になるプラズマエッチング用電極は、鉄付着量が1.90μg/cm以下と少なく、デバイスの製品歩留りのよいことが示される。これに対し比較例のプラズマエッチング用電極は、鉄付着量が2.20μg/cm以上と多く、デバイスの製品歩留りの悪いことが示される。
【0028】
本発明になるプラズマエッチング用電極は、金属不純物によるシリコンウエハの汚染を大幅に少なくすることができるため、デバイスの歩留りを向上させ、安定したプラズマエッチング加工を行うことが可能になり、産業上極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔内壁を含む全表面に付着した鉄付着量が、全表面積に対し、2μg/cm以下であるガラス状炭素製プラズマエッチング用電極。

【公開番号】特開2008−172253(P2008−172253A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12528(P2008−12528)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【分割の表示】特願平8−338084の分割
【原出願日】平成8年12月18日(1996.12.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】