説明

プロジェクタ型前照灯及びその樹脂製投影レンズの配置構造

【課題】投影レンズが変形した場合でも、配光パターンに与える影響を低減できるようにする。
【解決手段】プロジェクタ型前照灯1が、発光素子10と、発光素子10からの光を前方に反射させる反射面21を有するリフレクタ20と、樹脂成形され、反射面21からの反射光を前方に投影する投影レンズ50と、反射面21から投影レンズ50に向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェード40と、を備える。投影レンズ50の周縁部にゲート跡56が形成されている。ゲート跡56が、光軸Axを通る水平面よりも下に配置されるとともに、光軸Axを通る鉛直面よりも自車線側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ型前照灯及びその樹脂製投影レンズの配置構造に関し、特に樹脂成形品である投影レンズを備えるプロジェクタ型前照灯及びその樹脂製投影レンズの配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタ型前照灯では、光源がリフレクタの楕円系反射面の第一焦点又はその近傍に設けられ、シェードが楕円系反射面の第二焦点又はその近傍に設けられ、投影レンズが第二焦点の前方に設けられている(例えば、特許文献1参照)。このようなプロジェクタ型前照灯では、光源から発した光が楕円系反射面で反射され、反射光が第二焦点に集光され、反射光の一部がシェードによって遮光され、遮光されない反射光が投影レンズによって前方に投影される。シェードによって反射光の一部が遮光されることによって、すれ違い走行用の配光パターン、つまり、ロービームが形成される。
【0003】
プロジェクタ型前照灯の光源には、半導体発光素子(例えば、発光ダイオード)、放電灯(例えば、高輝度放電灯(HID)、高圧金属蒸気放電灯等)、ハロゲン電球、白熱電球等が用いられている。放電灯、ハロゲン電球、白熱電球は、波長スペクトルに赤外成分を多く含むため、投影レンズに熱が吸収され、投影レンズが非常に高温になる。一方、発光ダイオード等の半導体発光素子から発する光には赤外線が含まれないので、投影レンズが高温には加熱されない。
そのため、光源に放電灯等を用いた場合には、投影レンズに樹脂成形品を用いると、投影レンズが溶解してしまうから、投影レンズに樹脂成形品を用いることができない。一方、光源に半導体発光素子を用いた場合には、投影レンズに樹脂成形品を用いても、光に赤外線を含まない等の理由により投影レンズが溶解しないので、投影レンズに樹脂成形品を用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−103192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光源に半導体発光素子を用いた場合でも、投影レンズは溶解しないまでも、素子そのものの発熱等の熱によって変形する虞がある。投影レンズが変形すると、投影レンズの光学的特性が変わってしまい、配光パターンに悪影響を与えてしまう。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、投影レンズが変形した場合でも、配光パターンに与える影響を低減できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係るプロジェクタ型前照灯は、発光素子と、前記発光素子からの光を前方に反射させる反射面を有するリフレクタと、樹脂成形され、前記反射面からの反射光を前方に投影する投影レンズと、前記反射面から前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、前記投影レンズの周縁部にゲート跡が形成され、前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る水平面よりも下に配置されるとともに、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面から左又は右にずれて配置されていることとした。
【0007】
好ましくは、前記シェードはその上縁が前記投影レンズの焦点又はその近傍に位置するように前記発光素子と前記投影レンズとの間に配置され、前記シェードの上縁のうち前記投影レンズの光軸よりも自車線側の部分が対向車線側の部分よりも高く設定され、前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面よりも自車線側に配置されていることとした。
【0008】
好ましくは、前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面を基準としてその光軸回りに20〜60°左又は右にずれていることとした。
【0009】
好ましくは、前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面を基準としてその光軸回りに40°左又は右にずれていることとした。
【0010】
本発明に係るプロジェクタ型前照灯の樹脂製投影レンズの配置構造において、前記樹脂製投影レンズの周縁部にゲート跡が形成され、前記ゲート跡が、前記樹脂製投影レンズの光軸を通る水平面よりも下に配置されるとともに、前記樹脂製投影レンズの光軸を通る鉛直面から左又は右にずれて配置されていることとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、投影レンズはゲート跡近傍において最も変形しやすいが、そのゲート跡が光軸を通る水平面よりも下に配置されるとともに、光軸を通る鉛直面から左又は右にずれて配置されているから、その変形しやすい部分の照度が低くなる。そのため、投影レンズの変形によって配光パターンに与える影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるプロジェクタ型前照灯の斜視図である。
【図2】同実施形態におけるプロジェクタ型前照灯の鉛直断面図である。
【図3】同実施形態におけるプロジェクタ型前照灯の水平断面図である。
【図4】同実施形態におけるプロジェクタ型前照灯に用いる投影レンズの正面図である。
【図5】同実施形態におけるプロジェクタ型前照灯に用いる投影レンズの正面図である。
【図6】図4に示した投影レンズを用いて仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図である。
【図7】図5に示した投影レンズを用いて仮想スクリーンに形成される配光パターンを概略的に示した図である。
【図8】図3に示されたVIII−VIIIに沿った面における照度分布を示した等照度線図である。
【図9】(a)加熱する前の投影レンズを用いて仮想スクリーンに形成される配光パターンの照度分布を示した等照度線図、(b)加熱した後の投影レンズのゲート跡を0°の位置に設定して、その投影レンズを用いて仮想スクリーンに形成される配光パターンの照度分布を示した等照度線図、(c)加熱した後の投影レンズのゲート跡を40°の位置に設定して、その投影レンズを用いて仮想スクリーンに形成される配光パターンの照度分布を示した等照度線図、である。
【図10】図9(b)の照度と図9(c)の照度との差分の分布を示した等照度線図である。
【図11】加熱した後の投影レンズを用いて仮想スクリーンを照らした場合、投影レンズの設置角度と、仮想スクリーンの所定の領域内の照度との関係を示したグラフである。
【図12】所定の規格における仮想スクリーンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、それぞれ、プロジェクタ型前照灯が装備された車両の「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」である。従って、後ろから前に見て、左右の向きを定める。
【0014】
図1は、プロジェクタ型前照灯1の斜視図である。図2は、プロジェクタ型前照灯1の鉛直断面図である。図3は、プロジェクタ型前照灯1の水平断面図である。プロジェクタ型前照灯1は、発光素子10、第一のリフレクタ20、第二のリフレクタ30、シェード40、投影レンズ50及びヒートシンク60等を備える。
【0015】
このプロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、左側が自車線側であり、右側が対向車線側であり、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、右側が自車線側であり、左側が対向車線側である。
【0016】
投影レンズ50の光軸Axが前後方向に延びている。投影レンズ50の後方に、シェード40、ヒートシンク60及び発光素子10が配置されている。
発光素子10が回路基板11に搭載され、この回路基板11がヒートシンク60の上面に取り付けられ、発光素子10が上斜め後ろに向いている。発光素子10を後ろ斜め上から平面視すると、この発光素子10が長方形に設けられており、発光素子10の長辺が水平になるとともに左右方向に平行となるよう発光素子10が設置されている。発光素子10は発光ダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子その他の半導体発光素子である。
【0017】
第一のリフレクタ20は、発光素子10の後ろから発光素子10の上斜め前・右斜め前・左斜め前にかけて発光素子10を囲うように配置されている。第一のリフレクタ20の前側の凹面にはアルミ蒸着、銀塗装等の反射膜が施されていて、その前側の凹面が第一の反射面21とされている。第一の反射面21は、楕円面の形状に形成されている。楕円面とは、前後方向に延びた軸を回転軸とした回転楕円面若しくは複合楕円面又はこれらを基調とした自由曲面をいう。複合楕円面とは、その鉛直断面形状が楕円形状を成し、その水平断面形状が放物線又は楕円形状(鉛直断面の楕円形状の焦点距離と水平断面の楕円形状の焦点距離が異なる。)に成すものをいう。また、第一の反射面21の回転軸が、水平に前後方向に延在していてもよいし、水平面に対して後ろ下りに傾斜していてもよい。第一の反射面21の回転軸が水平に前後方向に延在している場合、第一の反射面21の回転軸が投影レンズ50の光軸Axと一致していてもよいし、光軸Axから僅かにずれていてもよい。
【0018】
第一の反射面21が楕円面に形成されているので、その第一の反射面21が第一焦点F1と、第一焦点F1よりも前側の第二焦点F2とを有する。発光素子10が、第一の反射面21の第一焦点F1又はその近傍に配置されている。第一の反射面21は発光素子10から発した光を前に向けて反射させ、反射光を第二焦点F2に集光させる。なお、第一の反射面21が複合楕円面又はそれを基調とした自由曲面に形成されている場合には、第二焦点F2は焦線をいう。焦線は水平左右方向に延びるとともに、左右方向中央部が後ろに凸となるよう湾曲している。
【0019】
シェード40が板状に設けられている。シェード40の一方の面が前に向き、シェード40の他方の面が後ろに向いた状態で、シェード40が配設されている。シェード40は、投影レンズの像面の湾曲に対応して、後ろに向かって凸となるよう湾曲している。シェード40の上縁41が第二焦点F2又はその近傍に位置するように、シェード40が投影レンズ50と発光素子10との間に配置されている。
【0020】
シェード40の上縁41のうち光軸Axよりも左の部分42(以下、左部上縁42という。)が水平に形成され、光軸Axよりも右の部分43(以下、右部上縁43という。)が水平に形成され、左部上縁42と右部上縁43の間に段差があり、左部上縁42と右部上縁43の間の部分44(以下、傾斜部44という。)が水平方向に対して傾斜している。傾斜部44の傾斜角は、水平面に対して15°又は45°であることが好ましい。
【0021】
シェード40の上縁41のうち光軸Axよりも自車線側の部分が対向車線側の部分よりも高く設定されている。
具体的には、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、シェード40の左部上縁42が右部上縁43よりも上に位置し、傾斜部44が右下りに傾斜している。プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、左部上縁42の上下位置が光軸Axよりも僅かに上であり、右部上縁43の上下位置が光軸Axにほぼ揃っている。
一方、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、シェード40の右部上縁43が左部上縁42よりも上に位置し、傾斜部44が左下りに傾斜している。プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、右部上縁43の上下位置が光軸Axよりも僅かに上であり、左部上縁42の上下位置が光軸Axにほぼ揃っている。
【0022】
第二のリフレクタ30はシェード40の上端から後方へ延出している。第二のリフレクタ30の上面にはアルミ蒸着、銀塗装等の反射膜が施されていて、第二のリフレクタ30の上面が第二の反射面31とされている。第二の反射面31は、シェード40の上縁41に沿った線を水平方向後ろに平行移動して得られる面である。従って、第二の反射面31は、左部上縁42を水平方向後ろに平行移動して得られる水平な平面32と、右部上縁43を水平方向後ろに平行移動して得られる水平な平面33と、傾斜部44を水平方向後ろに平行移動して得られる平面34と、から構成される。第二の反射面31は、第一の反射面21によって反射された反射光を前方に反射させる。
【0023】
シェード40の前には、投影レンズ50が配設されている。この投影レンズ50は、凸レンズである。投影レンズ50の焦点が反射面21の第二焦点F2又はその近傍に位置するよう、投影レンズ50が配置されている。また、シェード40の上縁41が投影レンズ50の焦点又はその近傍に位置している。
【0024】
図4は、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合の投影レンズ50の正面図である。図5は、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合の投影レンズ50の正面図である。図1〜図5に示すように、投影レンズ50は、レンズ本体部51と、レンズ本体部51の周縁から径方向外側に突出するフランジ部52と、を備える。レンズ本体部51の後ろ側の入射面53が非球面状の凸面であり、レンズ本体部51の前側の出射面54が非球面状の凸面である。なお、投影レンズ50は、平凸レンズ又はメニスカス凸レンズであってもよい。
【0025】
フランジ部52の左右両側には、ボス受け55がそれぞれ凹設されている。
一方、シェード40の前には、筒状のレンズホルダ70が配設されている。レンズホルダ70の軸心が前後方向になるようレンズホルダ70が配置され、レンズホルダ70の前部及び後部が開口している。レンズホルダ70の前端面の左右両側には、ボス71がそれぞれ凸設されている。投影レンズ50がレンズホルダ70の前側開口を塞ぐようにしてレンズホルダ70の前端に取り付けられている。ここで、投影レンズ50のフランジ部52がレンズホルダ70の前端面に当接し、ボス71がボス受け55に嵌め込まれている。
【0026】
投影レンズ50は、例えばメタクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネイト樹脂(PC)、シクロオレフィン樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂から射出成形により成形されたものである。ここで、投影レンズ50の成形用の金型においては、投影レンズ50用のキャビティーがその金型に設けられており、キャビティーに樹脂を流入するためのゲートがキャビティーの周縁部(フランジ部52に対応する部分)から径方向に延在している。従って、投影レンズ50の周縁部(フランジ部52の周縁部)には、ゲート跡(成形品のゲート部の切断跡)56が形成されている。
【0027】
ゲート跡56は、光軸Axを通る水平面よりも下に位置している。更に、ゲート跡56は、光軸Axを通る鉛直面よりも自車線側に位置している。ここで、図4に示すように、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、ゲート跡56が光軸Axを通る鉛直面から左にずれている。具体的には、ゲート跡56は、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りに20〜60°左にずれており、好ましくは、光軸Ax回りに40°左にずれている。
一方、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、図5に示すように、ゲート跡56が光軸Axを通る鉛直面から右にずれている。具体的には、ゲート跡56は、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りに20〜60°右にずれており、好ましくは、光軸Ax回りに40°右にずれている。
【0028】
このプロジェクタ型前照灯1においては、発光素子10から発した光が第一の反射面21によって前に向けて反射され、反射光が第二焦点F2に集光する。反射光の一部がシェード40によって遮光される。また、反射光の一部がシェード40によって遮光されずに投影レンズ50に入射する。また、反射光の一部が更に第二の反射面31によって反射され、第二の反射面31による反射光が投影レンズ50に入射する。遮光されていない反射光が投影レンズ50によって前方に投影される。これにより、図6に示す配光パターンP1又は図7に示す配光パターンP2が前方に形成される。
【0029】
このプロジェクタ型前照灯1の配光パターンについて図6、図7を参照して説明する。図6は、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合に、プロジェクタ型前照灯1によって前方に所定距離離れた仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した概略図である。図7は、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合に、プロジェクタ型前照灯1によって前方に所定距離離れた仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した概略図である。図6、図7において、H線は光軸Axを通る水平面と仮想スクリーンの交線を表し、V線は光軸Axを通る鉛直面と仮想スクリーンの交線を表す。
【0030】
プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合に、図6に示すように、明部と暗部を区切るカットオフライン(明暗境界線)を明部の上縁に有する配光パターンP1が形成される。配光パターンP1において、明部の上縁のカットオフラインは、V線よりも左側の自車線側水平カットオフラインCL1と、V線よりも右側の対向車線側水平カットオフラインCL2と、対向車線側水平カットオフラインCL2の左端から左上がりに傾斜した斜めカットオフラインCL3とから構成される。自車線側水平カットオフラインCL1はH線にほぼ揃っており、対向車線側水平カットオフラインCL2はH線よりも下に形成される。自車線側水平カットオフラインCL1は、シェード40の右部上縁43によって形成される。対向車線側水平カットオフラインCL2は、シェード40の左部上縁42によって形成される。斜めカットオフラインCL3は、シェード40の傾斜部44によって形成される。
【0031】
プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合に、図7に示すように、明部と暗部を区切るカットオフライン(境界線)を明部の上縁に有する配光パターンP2が形成される。配光パターンP2において、明部の上縁のカットオフラインは、V線よりも右側の自車線側水平カットオフラインCL4と、V線よりも左側の対向車線側水平カットオフラインCL5と、自車線側水平カットオフラインCL4の左端から左下がりに傾斜した斜めカットオフラインCL6とから構成される。自車線側水平カットオフラインCL4はH線にほぼ揃っており、対向車線側水平カットオフラインCL5はH線よりも下に形成される。自車線側水平カットオフラインCL4は、シェード40の左部上縁42によって形成される。対向車線側水平カットオフラインCL5は、シェード40の右部上縁43によって形成される。斜めカットオフラインCL6は、シェード40の傾斜部44によって形成される。
【0032】
図8は、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合に、投影レンズ50の後ろ側の入射面53における照度分布を示す。シェード40の左部上縁42が右部上縁43よりも上に位置するから、シェード40によって遮光される範囲は、シェード40の左側の部分が右側の部分よりも上に広い。そのため、図8に示すように、投影レンズ50の左下の部分の照度が、他の部分の照度よりも低くなっている。
【0033】
ここで、プロジェクタ型前照灯1が長時間使用されると、投影レンズ50は熱によってゲート跡56において最も変形し、そのゲート跡56が左下に配置されている。それに伴い、入射面53や出射面54も、左下の部分が最も変形する。そのため、投影レンズ50の光学的特性が変化してしまい、配光パターンP1に影響を与えることになる。しかし、図8に示したように、投影レンズ50の左下の部分の照度が、他の部分の照度よりも低いから、入射面53や出射面54の左下の部分が変形したものとしても、配光パターンP1に与える影響を小さくすることができる。
【0034】
プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合でも、ゲート跡56が右下に配置されていて、入射面53や出射面54の右下の部分が変形したものとしても、投影レンズ50の右下の部分の照度が他の部分の照度よりも低くいから、配光パターンP2に与える影響を小さくすることができる。なお、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合に、投影レンズ50の後ろ側の入射面53における照度分布は、図8の照度分布を左右反転させたものである。
【0035】
樹脂成形品である投影レンズ50が発光素子10の熱によって加熱され、その投影レンズ50がゲート跡56の近傍において最も変形しやすいのは、以下の理由であると考えられる。
投影レンズ50の射出成形の際には、高温な樹脂がゲートを流れるから、成形後の冷却時には、成形品のゲート部が最後に冷やされることになる。そうすると、最も大きな残留応力・残留歪みがゲート部に発生する。そして、使用時に投影レンズ50が加熱されると、残留応力・残留歪みによる外部の変形が現れ、その結果、最も残留応力・残留歪みを含むゲート跡56の近傍において最も変形しやすい。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。
プロジェクタ型前照灯1から前方に所定距離離れた仮想スクリーンをプロジェクタ型前照灯1で照らし、仮想スクリーン上の照度を測定した。その結果得られた照度分布を図9(a)〜図9(c)の等照度線図に示す。図9(a)は、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用であり、射出成形された未使用・未加熱の投影レンズ50を用いた場合の結果である。図9(b)、図9(c)は、射出成形された投影レンズ50を120℃に加熱して常温に冷却した後、その投影レンズ50を用いた左側通行用のプロジェクタ型前照灯1を用いた場合の結果である。図9(b)は、光軸Axを通る鉛直面から投影レンズ50のゲート跡56をずらしておらず、ゲート跡56を光軸Axの真下に配置した場合の結果である(比較例)。図9(c)は、光軸Axを通る鉛直面を基準として、ゲート跡56を光軸Ax回りに40°左にずらして配置した場合の結果である(実施例)。
図10は、図9(b)と図9(c)の同一点において図9(b)の照度から図9(c)の照度を減算して得られる等照度線図である。
【0037】
図9、図10から明らかなように、V線よりも自車線側においてH線よりも上側の照度は、図9(b)の方が図9(c)の方よりも低いことがわかる。従って、ゲート跡56を光軸Axの真下に配置した場合(図9(b)の場合)、グレアが発生しやすいことがわかる。一方、ゲート跡56を光軸Ax回りに40°左にずらして配置した場合(図9(c)の場合)、グレアが発生しにくいことがわかる。
【実施例2】
【0038】
プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、光軸Ax回りの投影レンズ50(当該投影レンズ50は120℃に加熱して常温に冷却したものである。)の位置を変更して、ECE規格のNo. 112 におけるZONE III(図12に図示)の照度を測定した。その結果を図11に示す。図11において、横軸は、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りのゲート跡56の回転角度を表し、縦軸は、ZONE IIIの照度を表す。
【0039】
ECE規格のNo. 112 では、ZONE IIIの照度が0.7〔lx〕以上であると、規格に適合しない。図11から明らかなように、ゲート跡56を光軸Axの真下に配置して、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りのゲート跡56の回転角度がゼロ°である場合には、規格余裕度20%以上を確保することができないことがわかる。一方、ゲート跡56が、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りに20〜60°左にずれている場合には、規格余裕度20%以上を確保することができることがわかる。従って、ゲート跡56が、光軸Axを通る鉛直面を基準として光軸Ax回りに20〜60°左にずれている場合には、グレアが発生しにくいことがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1 プロジェクタ型前照灯
10 発光素子
20 第1のリフレクタ
21 反射面
30 リフレクタ
40 シェード
41 上縁
50 投影レンズ
56 ゲート跡
60 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子からの光を前方に反射させる反射面を有するリフレクタと、
樹脂成形され、前記反射面からの反射光を前方に投影する投影レンズと、
前記反射面から前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、
前記投影レンズの周縁部にゲート跡が形成され、
前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る水平面よりも下に配置されるとともに、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面から左又は右にずれて配置されていることを特徴とするプロジェクタ型前照灯。
【請求項2】
前記シェードはその上縁が前記投影レンズの焦点又はその近傍に位置するように前記発光素子と前記投影レンズとの間に配置され、
前記シェードの上縁のうち前記投影レンズの光軸よりも自車線側の部分が対向車線側の部分よりも高く設定され、
前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面よりも自車線側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項3】
前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面を基準としてその光軸回りに20〜60°左又は右にずれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項4】
前記ゲート跡が、前記投影レンズの光軸を通る鉛直面を基準としてその光軸回りに40°左又は右にずれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項5】
プロジェクタ型前照灯の樹脂製投影レンズの配置構造において、
前記樹脂製投影レンズの周縁部にゲート跡が形成され、
前記ゲート跡が、前記樹脂製投影レンズの光軸を通る水平面よりも下に配置されるとともに、前記樹脂製投影レンズの光軸を通る鉛直面から左又は右にずれて配置されていることを特徴とするプロジェクタ型前照灯の樹脂製投影レンズの配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−146231(P2011−146231A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5747(P2010−5747)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】