説明

ベンチレーティッド型ディスクロータ

【課題】ベンチレーティッド型ディスクロータにて、各冷却フィンの薄肉化を図ることを可能として、当該ディスクロータの軽量化を図ること。
【解決手段】当該ディスクロータ10は、ハット部10aを有するとともに、このハット部10aの外周に一体的に設けられた環状の摺動部10bを有している。環状の摺動部10bでは、インナ円盤部(13)とアウタ円盤部(12)が複数の冷却フィン11cによって一体的に連結されている。ハット部10a(円筒部11aと環状フランジ部11bからなる)と冷却フィン11cが金属製板材(鋼板成形体11)によって一体的に形成され、インナ円盤部(13)とアウタ円盤部(12)が鋳造で形成されていて、冷却フィン11cをインナ円盤部(13)とアウタ円盤部(12)に鋳込むことで、インナ円盤部(13)とアウタ円盤部(12)が冷却フィン11cによって一体的に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両において車輪を制動するために採用されるディスクブレーキ装置のディスクロータ、特に、ベンチレーティッド型ディスクロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ベンチレーティッド型ディスクロータは、回転軸に取付けるためのハット部(取付部と謂われることもある)を有するとともに、このハット部の外周に一体的に設けられていてインナパッドとアウタパッドによって摺動可能に挟持されることにより回転が制動される環状の摺動部(制動部と謂われることもある)を有していて、前記摺動部では、前記インナパッドと摺動面にて摺接するインナ円盤部と、前記アウタパッドと摺動面にて摺接するアウタ円盤部が、これらの間にてロータ径方向に延在して放射状に介在する複数の冷却フィンによって一体的に連結されている。
【0003】
ところで、ベンチレーティッド型ディスクロータの一つとして、ハット部が鋼板(金属製板材の一つ)によって形成され、摺動部が鋳鉄(鋳造成形体)によって形成されているものがあり、例えば、下記特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−333039号公報
【発明の概要】
【0005】
上記した特許文献1に記載されているベンチレーティッド型ディスクロータにおいては、ハット部が鋼板のプレス成形品であるため、ハット部が鋳物製である場合に比して当該ディスクロータの軽量化を図ることが可能である。しかし、インナ円盤部およびアウタ円盤部と、これらの間にてロータ径方向に延在して放射状に介在する複数の冷却フィンからなる摺動部が、鋳造によって一体的に成形されているため、当該ディスクロータの更なる軽量化は困難である。
【0006】
また、上記した特許文献1に記載されているベンチレーティッド型ディスクロータでは、ハット部の外周に径外方に突出する複数の突部が一体的に成形されていて、これらの突部を摺動部の内周に形成される連結部に鋳込むことで、ハット部と摺動部が一体化されている。ところで、ハット部と摺動部の鋳込連結部には、必要十分な径方向長さが必要であり、外径寸法の小さなディスクロータには実施することが難しい。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、回転軸に取付けるためのハット部を有するとともに、このハット部の外周に一体的に設けられていてインナパッドとアウタパッドによって摺動可能に挟持されることにより回転が制動される環状の摺動部を有していて、前記摺動部では、前記インナパッドと摺動面にて摺接するインナ円盤部と、前記アウタパッドと摺動面にて摺接するアウタ円盤部が、これらの間にてロータ径方向に延在して放射状に介在する複数の冷却フィンによって一体的に連結されているベンチレーティッド型ディスクロータであって、前記ハット部と前記冷却フィンが金属製板材によって一体的に形成され、前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部が鋳造で形成されていて、前記冷却フィンを前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部に鋳込むことで、前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部が前記冷却フィンによって一体的に連結されていることに特徴がある。
【0008】
このベンチレーティッド型ディスクロータにおいては、ハット部が金属製板材によって形成されるとともに、複数の冷却フィンも金属製板材によって形成されるため、複数の冷却フィンが鋳造によって成形される場合に比して、各冷却フィンの薄肉化を図ることが可能であって、当該ディスクロータの軽量化を図ることが可能である。
【0009】
また、このベンチレーティッド型ディスクロータにおいては、摺動部のインナ円盤部とアウタ円盤部が鋳造で形成されていて、金属製板材によってハット部と一体的に形成された冷却フィンをインナ円盤部とアウタ円盤部に鋳込むことで、インナ円盤部とアウタ円盤部が冷却フィンによって一体的に連結されている。このため、ハット部の外周と摺動部の内周間に、必要十分な径方向長さの鋳込連結部を設定する必要がなくて、これによっても当該ディスクロータの軽量化を図ることが可能であるとともに、外径寸法の小さなディスクロータにも容易に実施することが可能である。
【0010】
上記した本発明の実施に際して、前記各冷却フィンのロータ径方向外端部には、前記ディスクロータの回転中心を中心とする円形形状に形成されて前記各冷却フィンを連続的に連結し前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形に際して固定保持される環状の押え部、または、前記ディスクロータの回転中心を中心とする円弧形状に形成されて前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形に際して固定保持される円弧状の押え部が設定されていることも可能である。
【0011】
この場合において、前記押え部は、前記各冷却フィンの捩り加工または曲げ加工の後に、前記各冷却フィンのロータ径方向外端部から切り落とすことによって取り除かれていること、または、前記押え部は、除去されることなく残されていて、前記アウタ円盤部内に鋳込まれていることも可能である。
【0012】
上記した押え部は、前記各冷却フィンの捩り加工または曲げ加工に際して例えばクランプ装置にて固定保持されるため、前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形に際して、前記各冷却フィンが無用に変形移動することが抑制されて、前記各冷却フィンを高精度にて成形することが可能である。
【0013】
また、上記した本発明の実施に際して、前記インナ円盤部または前記アウタ円盤部の内周部は前記ハット部の環状端部に直接接合されていることも可能である。この場合には、ハット部と摺動部の接合面積を必要十分に確保することが可能であり、ハット部と摺動部の連結強度を向上させることが可能である。また、前記インナ円盤部に鋳込まれる前記冷却フィンの端部と、前記アウタ円盤部に鋳込まれる前記冷却フィンの端部の少なくとも一方には、ロータ回転方向に沿って折り曲げられた折曲部が形成されていることも可能である。この場合には、冷却フィンとインナ円盤部および/または冷却フィンとアウタ円盤部の連結強度を向上させることが可能である。
【0014】
また、上記した本発明の実施に際して、前記冷却フィンには、前記冷却フィンのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するための成形部(例えば、冷却フィンのロータ径方向中間部位にロータ軸方向に沿って形成される凸状成形部、屈曲成形部、湾曲成形部)が形成されていることも可能である。この場合には、冷却フィンを形成する金属製板材が薄い板厚であっても、冷却フィンのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するための剛性を必要十分に確保することが可能であり、これによっても当該ディスクロータの軽量化が可能である。
【0015】
なお、冷却フィンのロータ軸方向の剛性が必要十分に確保されない場合には、制動時に摺動部がロータ軸方向に変形し、これに起因してブレーキの消費液量が増加し操作フィーリングの悪化を招くおそれがある。また、冷却フィンのロータ回転方向の剛性が必要十分に確保されない場合には、制動時に摺動部においてインナ円盤部とアウタ円盤部間に相対回転が生じて捩れ振動が生じ、これに起因してブレーキ振動や異音が発生するおそれがある。
【0016】
また、上記した本発明の実施に際して、前記冷却フィンには、板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることも可能である。この場合には、冷却フィンの表面積を貫通孔にて増大させることが可能であって、冷却フィンでの冷却性能を向上させることが可能である。また、上記した貫通孔にて当該ディスクロータの軽量化も可能である。
【0017】
また、上記した本発明の実施に際して、前記冷却フィンのロータ径方向内周部には、前記冷却フィンと前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部によって形成される空気通路に空気を導入可能な送風フィンが形成されていることも可能である。この場合には、当該ディスクロータの回転時に、前記送風フィンによって、前記冷却フィンと前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部によって形成される空気通路に空気を積極的に導入することができて、冷却フィンでの冷却性能を向上させることが可能である。
【0018】
また、上記した本発明の実施に際して、前記冷却フィンのロータ軸方向端部には、前記インナ円盤部の摺動面と前記アウタ円盤部の摺動面の少なくとも一方に向けて延びる所定長さの突起が形成されていることも可能である。この場合には、突起の長さを摺動部摩耗限界と同じに設定する、すなわち、摺動部が摩耗限界にまで摩耗したときに、突起の先端が摺動面に現れるように設定することで、目視または制動時における摺接音の変化(異音)により摺動部の摩耗限界を知らせること(突起を摺動部の摩耗限界を知らせるインジケータとして利用すること)が可能である。
【0019】
また、上記した本発明の実施に際して、前記ハット部の前記冷却フィン側端部には、前記冷却フィン間に形成されてロータ軸方向に所定量延びる切欠が形成されていることも可能である。この場合には、切欠を設けることで、制動時の摩擦熱によって、当該ディスクロータが加熱されて熱膨張する場合のハット部の変形を抑えることが可能であり、ハット部の変形に起因するブレーキ振動(ブレーキ鳴き)を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるベンチレーティッド型ディスクロータの第1実施形態(冷却フィンがインナ側に捩り加工された実施形態)を示した一部破断側面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1および図2に示したベンチレーティッド型ディスクロータの鋼板成形体単体の斜視図である。
【図4】図1〜3に示した冷却フィンのインナ側端部に折曲部を形成した変形実施形態の概略的な部分断面図である。
【図5】図1〜3に示した冷却フィンのロータ径方向中間部位に凸状成形部を形成した変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図6】図1〜3に示した冷却フィンのロータ径方向中間部位に屈曲成形部を形成した変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図7】図1〜3に示した冷却フィンのロータ径方向中間部位に湾曲成形部を形成した変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図8】図1〜3に示した冷却フィン全体をロータ回転方向に湾曲させた変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図9】図1〜3に示した冷却フィンに板厚方向に貫通する貫通孔を形成した変形実施形態における鋼板成形体単体の斜視図である。
【図10】図1〜3に示した冷却フィンのロータ径方向内周部に送風フィンを形成した変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図11】図1〜3に示した冷却フィンのアウタ側ロータ軸方向端部に突起を形成した変形実施形態における図2相当の部分断面図である。
【図12】図11に示した変形実施形態における鋼板成形体単体の概略的な部分斜視図である。
【図13】図1〜3に示した鋼板におけるハット部の冷却フィン側端部に切欠を形成した変形実施形態の概略的な部分斜視図である。
【図14】図1〜3に示した冷却フィンをロータ軸方向に対して所定量傾斜させた変形実施形態における鋼板成形体単体の斜視図である。
【図15】本発明によるベンチレーティッド型ディスクロータの第2実施形態(冷却フィンがアウタ側に捩り加工された実施形態)を示した一部破断側面図である。
【図16】図15のB−B線に沿った断面図である。
【図17】鋼板成形体単体にて、各冷却フィンのロータ径方向外端部に、これらを互いに連結する環状の押え部を設定した実施形態の斜視図である。
【図18】図17に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図19】鋼板成形体単体にて、各冷却フィンのロータ径方向外端部に、円弧状の押え部を設定した実施形態の斜視図である。
【図20】図19に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図21】図17に示した鋼板成形体の環状の押え部、または、図19に示した鋼板成形体の円弧状の押え部を、各冷却フィンのロータ径方向外端部から取り除いた状態の斜視図である。
【図22】図21に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図23】図17に示した鋼板成形体の環状の押え部を取り除くことなくアウタ側の鋳造成形体内に鋳込んだ実施形態の図2相当の断面図である。
【図24】鋼板成形体の各冷却フィンが曲げ加工によって成形されている実施形態の図17相当の斜視図である。
【図25】図24に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図26】鋼板成形体の各冷却フィンが曲げ加工によって成形されている実施形態の図19相当の斜視図である。
【図27】図26に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図28】鋼板成形体の各冷却フィンが曲げ加工によって成形されている実施形態の図21相当の斜視図である。
【図29】図28に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図30】図24に示した鋼板成形体の各冷却フィンにおけるアウタ側部分に一対の貫通孔を設けた実施形態の斜視図である。
【図31】図30に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【図32】図30に示した鋼板成形体の環状の押え部を、各冷却フィンのロータ径方向外端部から取り除いた状態の斜視図である。
【図33】図32に示した鋼板成形体の部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明によるベンチレーティッド型ディスクロータ(以下、各実施形態では単にディスクロータという)の第1実施形態を示していて、この第1実施形態のディスクロータ10は、車両において車輪を制動するために採用されるディスクブレーキ装置のディスクロータである。このディスクロータ10は、円筒状のハット部10aを有するとともに、このハット部10aの図2右端外周に一体的に設けられた環状の摺動部10bを有していて、一枚の鋼板から成形加工された鋼板成形体11と、この鋼板成形体11の外周部両側に鋳造で環状に形成された一対の鋳造成形体12,13によって構成されている。
【0022】
ハット部10aは、周知のように回転軸(図示省略の車軸)に取付けるためのものであり、鋼板成形体11の円筒部11aと、この円筒部11aの一端(図2左端)からロータ径内方に所定量延びる環状フランジ部11bによって構成されている。なお、環状フランジ部11bには、取付ボルト(図示省略)を挿通するための4個の貫通孔11b1がロータ周方向にて等間隔に設けられている。
【0023】
摺動部10bは、周知のようにインナパッドとアウタパッド(共に図示省略)によって摺動可能に挟持されることにより回転が制動されるものであり、鋼板成形体11における複数の冷却フィン11cと、これら各冷却フィン11cの図2左端部(アウタ側)を鋳込むように形成された鋳造成形体12と、各冷却フィン11cの図2右端部(インナ側)を鋳込むように形成された鋳造成形体13によって構成されている。この摺動部10bでは、鋳造成形体12と鋳造成形体13が各冷却フィン11cによって一体的に連結されている。
【0024】
鋼板成形体11は、所定板厚の鋼板(金属製板材の一つであり、アルミ合金板やその他の金属板を採用して実施することも可能である)から鋼板成形体11となるべき部分をプレス型にて打ち抜き、次いで、円筒部11aと環状フランジ部11bを絞り加工にて形成し、最後に、各冷却フィン11cを円筒部11aとの接続部分にてインナ側(図2の右側)に90度捩り加工して成形することによって、図3に示した形状に形成されている。なお、環状フランジ部11bに設けられている4個の貫通孔11b1は、プレス型での打ち抜き時に同時に形成されている。(上記した円筒部11aと環状フランジ部11bを絞り加工する際には、各冷却フィン11cとなる部分が各冷却フィン11cの形状に打ち抜かれていないように設定し、この絞り加工後に各冷却フィン11cとなる部分がその形状にプレス型にて打ち抜かれるように設定して実施することも可能である。)
【0025】
鋳造成形体12は、図2左端の摺動面12aにてアウタパッド(図示省略)と摺接するアウタ円盤部であり、その内周部はハット部10aの環状端部、すなわち、鋼板成形体11における円筒部11aの図2右端部外周に直接接合されている。一方、鋳造成形体13は、図2右端の摺動面13aにてインナパッド(図示省略)と摺接するインナ円盤部であり、その内周部はハット部10aの環状端部から所定量離間している。これにより、鋳造成形体12と鋳造成形体13間に、各冷却フィン11cによって複数の空気通路P1が形成されている。なお、各空気通路P1には、鋳造成形体13の内周を通して空気が流入可能である。
【0026】
上記のように構成したこの第1実施形態のディスクロータ10においては、ハット部10aが鋼板(金属製板材の一つ)によって形成されるとともに、複数の冷却フィン11cも鋼板によって形成されるため、複数の冷却フィンが鋳造によって成形される場合に比して、各冷却フィン11cの薄肉化を図ることが可能であって、当該ディスクロータ10の軽量化を図ることが可能である。
【0027】
また、このディスクロータ10においては、摺動部10bのインナ円盤部(鋳造成形体13)とアウタ円盤部(鋳造成形体12)が鋳造で形成されていて、鋼板によってハット部10a(鋼板成形体11の円筒部11aおよび環状フランジ部11bからなる)と一体的に形成された冷却フィン11cをインナ円盤部(鋳造成形体13)とアウタ円盤部(鋳造成形体12)に鋳込むことで、インナ円盤部(鋳造成形体13)とアウタ円盤部(鋳造成形体12)が冷却フィン11cによって一体的に連結されている。このため、ハット部10aのインナ側端部外周と摺動部10bの内周間に、必要十分な径方向長さの鋳込連結部を設定する必要がなくて、これによっても当該ディスクロータ10の軽量化を図ることが可能であるとともに、外径寸法の小さなディスクロータにも容易に実施することが可能である。
【0028】
また、このディスクロータ10においては、鋳造成形体12(アウタ円盤部)の内周部がハット部10aの環状端部、すなわち、鋼板成形体11における円筒部11aの図2右端部外周に直接接合されている。このため、ハット部10aと鋳造成形体12(アウタ円盤部)、すなわち、摺動部10bの接合面積を必要十分に確保することが可能であり、ディスクロータ10におけるハット部10aと摺動部10bの連結強度を向上させることが可能である。
【0029】
上記した第1実施形態においては、各冷却フィン11cを平板状に形成して実施したが、図4にて例示したように、インナ円盤部(鋳造成形体13)に鋳込まれる各冷却フィン11cの端部に、ロータ回転方向に沿って折り曲げられた折曲部11c1を形成して実施することも可能である。この場合には、上記した第1実施形態に比して、各冷却フィン11cとインナ円盤部(鋳造成形体13)の連結強度を向上させることが可能である。なお、アウタ円盤部(鋳造成形体12)に鋳込まれる各冷却フィン11cの端部に、ロータ回転方向に沿って折り曲げられた折曲部を形成して実施することも可能である。この場合には、上記した第1実施形態に比して、各冷却フィン11cとアウタ円盤部(鋳造成形体12)の連結強度を向上させることが可能である。
【0030】
また、上記した第1実施形態においては、各冷却フィン11cを平板状に形成して実施したが、各冷却フィン11cに、各冷却フィンのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するための成形部(例えば、図5に例示した凸状成形部11c2、図6に例示した屈曲成形部11c3、図7に例示した湾曲成形部11c4)を形成して実施すること、或いは、図8にて例示したように、各冷却フィン11cのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するために各冷却フィン11cをロータ径方向全長においてロータ回転方向に湾曲形成して実施することも可能である。これらの場合には、各冷却フィン11cを形成する鋼板が薄い板厚であっても、各冷却フィン11cのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するための剛性を必要十分に確保することが可能であり、これによっても当該ディスクロータの軽量化が可能である。なお、図5に例示した凸状成形部11c2、図6に例示した屈曲成形部11c3、図7に例示した湾曲成形部11c4は、各冷却フィン11cのロータ径方向中間部位にてロータ軸方向に沿って形成されている。
【0031】
また、上記した第1実施形態の実施に際して、図9に例示したように、各冷却フィン11cに、板厚方向に貫通する複数の(単一であっても実施可能)貫通孔11c5を形成して実施することも可能である。この場合には、各冷却フィン11cの表面積を貫通孔11c5にて増大させることが可能であって、各冷却フィン11cでの冷却性能を向上させることが可能である。また、上記した貫通孔11c5にて当該ディスクロータの軽量化も可能である。
【0032】
また、上記した第1実施形態の実施に際して、図10に例示したように、各冷却フィン11cのロータ径方向内周部に、各冷却フィン11cとインナ円盤部(鋳造成形体13)とアウタ円盤部(鋳造成形体12)によって形成される空気通路P1(図1および図2参照)に空気を導入可能な送風フィン11c6を形成して実施することも可能である。この場合には、当該ディスクロータの回転時に、送風フィン11c6によって、各空気通路P1に空気を積極的に導入することができて、各冷却フィン11cでの冷却性能を向上させることが可能である。
【0033】
また、上記した第1実施形態の実施に際して、図11および図12に例示したように、各冷却フィン11cのロータ軸方向端部(アウタ側端部)に、アウタ円盤部(鋳造成形体12)の摺動面12aに向けて延びる所定長さの突起11c7を形成して実施することも可能である。この場合には、突起11c7の長さを摺動部10b摩耗限界と同じに設定する、すなわち、摺動部10bが摩耗限界にまで摩耗したときに、突起11c7の先端が摺動面12aに現れるように設定することで、目視または制動時における摺接音の変化(異音)により摺動部10bの摩耗限界を知らせること(突起11c7を摺動部10bの摩耗限界を知らせるインジケータとして利用すること)が可能である。なお、上記した突起11c7に代えて、各冷却フィン11cのロータ軸方向端部(インナ側端部)に、インナ円盤部(鋳造成形体13)の摺動面13aに向けて延びる所定長さの突起を形成して実施することも可能である。これらの場合において、全ての冷却フィン11cに突起を設ける必要はなく、突起は少なくとも1個設ければよい。
【0034】
また、上記した第1実施形態の実施に際して、図13に例示したように、ハット部の冷却フィン側端部、すなわち、鋼板成形体11における円筒部11aの冷却フィン側端部に、各冷却フィン11c間に形成されてロータ軸方向に所定量延びる切欠11a1を形成して実施することも可能である。この場合には、各切欠11a1を設けることで、制動時の摩擦熱によって、当該ディスクロータが加熱されて熱膨張する場合のハット部10aの変形を抑えることが可能であり、ハット部10aの変形に起因するブレーキ振動(ブレーキ鳴き)を抑制することが可能である。
【0035】
また、上記した第1実施形態においては、各冷却フィン11cが、円筒部11aとの接続部分にて90度捩り加工されて、ロータ軸方向に沿って配置されるように構成して実施したが、図14に例示したように、各冷却フィン11cが、円筒部11aとの接続部分にて45度捩り加工されて、ロータ軸方向に対して45度の傾斜角で配置されるように構成して実施することも可能である。この場合には、上記した第1実施形態に比して、各冷却フィン11cの円筒部11aに対する捩り加工量を減ずることができる。
【0036】
また、上記した第1実施形態においては、ディスクロータ10が、円筒状のハット部10aを有するとともに、環状の摺動部10bを有していて、鋼板成形体11と、一対の鋳造成形体12,13によって構成されているが、図15および図16に示した第2実施形態のように、ディスクロータ20が、円筒状のハット部20aを有するとともに、環状の摺動部20bを有していて、鋼板成形体21と、一対の鋳造成形体22,23によって構成されるようにして実施することも可能である。
【0037】
図15および図16に示した第2実施形態のディスクロータ20では、鋼板成形体21における各冷却フィン21cが、上記した第1実施形態の鋼板成形体11における各冷却フィン11cとは逆方向(アウタ側)に90度捩り加工されている。また、鋳造成形体22の内周部はハット部20aの図16右側環状端部から所定量離間している。一方、鋳造成形体23の内周部はハット部20aの図16右側環状端部、すなわち、鋼板成形体21における円筒部21aの図16右端部外周に直接接合されている。これにより、鋳造成形体22と鋳造成形体23間に、各冷却フィン21cによって複数の空気通路P2が形成されている。なお、各空気通路P2には、鋳造成形体22の内周を通して空気が流入可能である。その他の構成は、上記した第1実施形態の構成と同じであるため、20番台の同一符号を付して、その説明は省略する。また、この第2実施形態によって得られる作用効果は、上記した第1実施形態によって得られる作用効果と実質的に同じであるため、その説明は省略する。
【0038】
上記した各実施形態においては、鋼板成形体における各冷却フィンのロータ径方向外端部が自由な状態にて捩り加工される実施形態について説明したが、図17および図18に例示した実施形態または図19および図20に例示した実施形態のように構成して実施することも可能である。
【0039】
図17および図18に例示した実施形態においては、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部に、これらを互いに連結する環状の押え部11dが設定されている。環状の押え部11dは、ディスクロータ10の回転中心を中心とする円形形状に形成されていて、各冷却フィン11cを連続的に連結しており、各冷却フィン11cの捩り加工に際して、クランプ装置にて固定保持(クランプ)されるように構成されている。このため、各冷却フィン11cの捩り加工に際して、各冷却フィン11cが無用に変形移動することが抑制されて、各冷却フィン11cを高精度にて成形することが可能である。
【0040】
図19および図20に例示した実施形態においては、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部に、円弧状の押え部11eがそれぞれ設定されている。円弧状の押え部11eは、ディスクロータ10の回転中心を中心とする円弧形状に形成されていて、各冷却フィン11cの捩り加工に際して、クランプ装置にて固定保持されるように構成されている。このため、この場合においても、各冷却フィン11cを高精度にて成形することが可能である。
【0041】
上記した図17および図18に例示した実施形態、または、図19および図20に例示した実施形態の実施に際して、環状の押え部11d、または、円弧状の押え部11eを、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部から切り落とすことによって取り除いて(除去して)、図21および図22に示したように構成し、その後に一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形することも可能である。なお、環状の押え部11d、または、円弧状の押え部11eを除去することなく残したままの状態にて、一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形すること(押え部11dまたは11eをアウタ側の鋳造成形体12内に鋳込むこと)も可能である(図23参照)。
【0042】
また、上記した各実施形態においては、鋼板成形体の各冷却フィンを捩り加工によって形成したが、図24および図25に例示した実施形態、または、図26および図27に例示した実施形態のように、鋼板成形体11の各冷却フィン11cを曲げ加工によって形成して実施することも可能である。各冷却フィン11cを曲げ加工で形成すると、円筒部11a(ハット部)と各冷却フィン11cとの接合部分が捩り変形しないため、捩り加工に比べて、接合部分の強度がより高くなる利点がある。各冷却フィンを曲げ加工で形成する場合、曲げ加工前の各冷却フィンのハット部との接合部分からロータ径方向外側に放射状に延びる平面部を押え部として各冷却フィンを固定し、曲げ加工することも可能であるが、冷却フィンの数を増やすことなどを目的に、曲げ加工後ロータ軸と直角になる部分を小さくすると、ハット部との接合部分からロータ径方向外側に放射状に延びる押え部も小さくなり、加工時に各冷却フィンを十分に固定することができなくなる。したがって、曲げ加工であっても捩り加工と同様に冷却フィンのロータ径方向外端部に押え部を設けることで、加工時に各冷却フィンの確実な固定が可能になる。なお、図24および図25に例示した実施形態では、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部に、これらを互いに連結する環状の押え部11dが設定されている。また、図26および図27に例示した実施形態では、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部に、円弧状の押え部11eが設定されている。このため、これらの実施形態においても、各冷却フィン11cを高精度にて成形することが可能である。
【0043】
上記した図24および図25に例示した実施形態、または、図26および図27に例示した実施形態の実施に際して、環状の押え部11d、または、円弧状の押え部11eを、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部から切り落とすことにより取り除いて、図28および図29に示したように構成し、その後に一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形することも可能である。なお、環状の押え部11d、または、円弧状の押え部11eを除去することなく残したままの状態にて、一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形すること(押え部11dまたは11eをアウタ側の鋳造成形体12内に鋳込むこと)も可能である。また、鋼板成形体11が、図28および図29に例示した形状に形成される場合には、各冷却フィン11におけるアウタ側部分のロータ径方向外端部を押え部(上記した押え部11eに代わるもの)として実施することも可能である。
【0044】
また、上記した図24および図25に例示した実施形態の実施に際して、図30および図31に示したように、アウタ側の鋳造成形体(12)内に鋳込まれる各冷却フィン11cにおけるアウタ側部分に一対の貫通孔11c6(貫通溝(貫通長孔)であっても実施可能)を設けて実施することも可能である。この場合には、鋳込み時の鋳物の流動性を良好とし得て当該部分での巣の発生を抑制することが可能である。また、貫通孔11c6に鋳物が流れ込むことで、各冷却フィン11cと両円盤部(12,13)の連結強度を向上させることが可能である。なお、図30および図31に示した実施形態の実施に際して、環状の押え部11dを除去することなく残したままの状態にて、一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形すること(押え部11dをアウタ側の鋳造成形体12内に鋳込むこと)も可能である。また、図30および図31に示した実施形態の実施に際して、環状の押え部11dを、各冷却フィン11cのロータ径方向外端部から切り落とすことにより取り除いて、図32および図33に示したように構成し、その後に一対の鋳造成形体(12,13)を鋳造成形することも可能である。
【0045】
上記した図17〜図33に例示した実施形態は、上記した図1〜図3に示した第1実施形態の鋼板成形体11における各冷却フィン11cに押え部(11d、11e)を設定した実施形態であるが、上記した押え部(11d、11e)は、上記した図15および図16に示した第2実施形態の鋼板成形体21における各冷却フィン21cにも同様に実施することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10…ディスクロータ、10a…ハット部、10b…摺動部、11…鋼板成形体(金属製板材)、11a…円筒部、11a1…切欠、11b…環状フランジ部、11b1…貫通孔、11c…冷却フィン、11c1…、折曲部、11c2…凸状成形部、11c3…屈曲成形部、11c4…湾曲成形部、11c5…貫通孔、11c6…送風フィン、11c7…突起、12…アウタ側の鋳造成形体(アウタ円盤部)、12a…アウタ側の摺動面、13…インナ側の鋳造成形体(インナ円盤部)、13a…インナ側の摺動面、P1…空気通路、20…ディスクロータ、20a…ハット部、20b…摺動部、21…鋼板成形体、21a…円筒部、21b…環状フランジ部、21b1…貫通孔、21c…冷却フィン、22…アウタ側の鋳造成形体、22a…アウタ側の摺動面、23…インナ側の鋳造成形体、23a…インナ側の摺動面、P2…空気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取付けるためのハット部を有するとともに、このハット部の外周に一体的に設けられていてインナパッドとアウタパッドによって摺動可能に挟持されることにより回転が制動される環状の摺動部を有していて、前記摺動部では、前記インナパッドと摺動面にて摺接するインナ円盤部と、前記アウタパッドと摺動面にて摺接するアウタ円盤部が、これらの間にてロータ径方向に延在して放射状に介在する複数の冷却フィンによって一体的に連結されているベンチレーティッド型ディスクロータであって、
前記ハット部と前記冷却フィンが金属製板材によって一体的に形成され、前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部が鋳造で形成されていて、前記冷却フィンを前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部に鋳込むことで、前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部が前記冷却フィンによって一体的に連結されていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記各冷却フィンのロータ径方向外端部には、前記ディスクロータの回転中心を中心とする円形形状に形成されて前記各冷却フィンを連続的に連結し前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形に際して固定保持される環状の押え部、または、前記ディスクロータの回転中心を中心とする円弧形状に形成されて前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形に際して固定保持される円弧状の押え部が設定されていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項3】
請求項2に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記押え部は、前記各冷却フィンの捩り加工成形または曲げ加工成形の後に、前記各冷却フィンのロータ径方向外端部から切り落とすことによって取り除かれていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項4】
請求項2に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記押え部は、除去されることなく残されていて、前記アウタ円盤部内に鋳込まれていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記インナ円盤部または前記アウタ円盤部の内周部は前記ハット部の環状端部に直接接合されていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記インナ円盤部に鋳込まれる前記冷却フィンの端部と、前記アウタ円盤部に鋳込まれる前記冷却フィンの端部の少なくとも一方には、ロータ回転方向に沿って折り曲げられた折曲部が形成されていることを特徴とするベンチレーティッド型ディスクロータ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記冷却フィンには、前記冷却フィンのロータ軸方向およびロータ回転方向の曲げ変形を抑制するための成形部が形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記冷却フィンには、板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記冷却フィンのロータ径方向内周部には、前記冷却フィンと前記インナ円盤部と前記アウタ円盤部によって形成される通路に空気を導入可能な送風フィンが形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記冷却フィンのロータ軸方向端部には、前記インナ円盤部の摺動面と前記アウタ円盤部の摺動面の少なくとも一方に向けて延びる所定長さの突起が形成されていることを特徴とするディスクロータ。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載のベンチレーティッド型ディスクロータにおいて、前記ハット部の前記冷却フィン側端部には、前記冷却フィン間に形成されてロータ軸方向に所定量延びる切欠が形成されていることを特徴とするディスクロータ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図23】
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【図3】
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【図9】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2010−216649(P2010−216649A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263297(P2009−263297)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】