説明

ホウ化ランタン焼結体、その焼結体を用いたターゲット及びその焼結体の製造方法

【課題】ターゲットとして好適な酸素、炭素量が少なく、高純度であって、焼結助剤を用いることなく密度を向上させたホウ化ランタン焼結体を提供する。
【解決手段】(a)平均粒径が1〜5μm、炭素量が0.1質量%未満及び酸素量が1.0質量%未満であるホウ化ランタン粉末Aと、平均粒径が50〜500nmのホウ化ランタン粉末Bとの混合粉末を得る混合工程と、(b)前記(a)工程で得られた混合粉末を焼結する焼結工程とを有するホウ化ランタン焼結体の製造方法により、炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上であるホウ化ランタン焼結体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度かつ高密度のホウ化ランタン焼結体、その焼結体を用いたターゲット及びその焼結体の製造方法に関し、さらに詳しくは、電子放出素子、照明用、ディスプレイ用の電極材などの製造プロセスに適用されるスパッタリング装置用のターゲットの構成材料に好適な焼結体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類元素ホウ化物はその化学的安定性、硬度、電気的特性に特徴があることから様々な分野に適用が検討されている。その中でも特にホウ化ランタンは、その熱電子放出性と低仕事関数を有することから、電子顕微鏡の電子銃や、照明やディスプレイ等の各種陰極材料として利用されている。
これらのホウ化ランタン材料は薄膜にして用いられることが多く、ウェットコーティング後に焼成した膜あるいは、LaB6のスパッタリング用ターゲットを用いたスパッタリング法により形成された膜が適用される。
一般的にターゲットは緻密で高純度であることが必要とされており、これまでのLaB6のスパッタリング用ターゲットは市販粉末を原料粉末として焼成した焼結体を形状加工し作製されたものが用いられてきた。
【0003】
しかしながら、ホウ化ランタン焼結体は通常、市販のホウ化ランタン粉末を成形後、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で焼結して得られるが、難焼結性のため、通常の焼結では焼結体の相対密度が80%程度であり、緻密な焼結体を得るのが困難であった。
焼結体が緻密でない場合、これをスパッタリング用ターゲットとして使用した際に、焼結体内の空孔に存在する水分や有機物といった不純物が、スパッタ膜に取り込まれ性能の低下を引き起こす問題がある。
【0004】
また、市販のホウ化ランタン粉末は大気中の酸素や水分によって容易に酸化され、酸化物を生成するため酸素を不純物として含んでいる。さらに、前記のホウ化ランタン粉末は、合成時にランタン源とホウ素源を還元雰囲気下で反応させるため還元剤として炭素を添加している。そのため、反応合成後に残存炭素あるいは副生成物の炭化物も粉末中に不純物として含まれている。
このため、ホウ化ランタン原料粉末起因の酸素、炭素が焼結体中に残存し、これをスパッタリング用ターゲットとして使用した際に、焼結体内の酸素や炭素が、スパッタ膜に取り込まれ性能の低下を引き起こす問題がある。
【0005】
焼結体の緻密化を行うためには、焼結助剤をホウ化ランタン粉末に添加して、焼結を行う方法がある(特許文献1及び2参照)。この場合、通常焼結助剤としては金属酸化物が使用されるため、金属酸化物は焼結後も焼結体中に不純物として残存し、これをスパッタリング用ターゲットとして使用した際に、焼結体内の不純物が、スパッタ膜に取り込まれ性能の低下を引き起こす問題がある。
さらに、他の緻密化を行う方法としては、ホットプレスや熱間等方加圧(HIP)処理、その組み合わせ等により、高圧力下で熱を加える方法があるが、ホウ化ランタン原料粉末に含まれる酸素や炭素が高温でランタン、ホウ素と反応し、粒界に非晶質化合物を生成する。非晶質化合物はその後焼結助剤として働き、見かけ上の相対密度は上昇するが、上記の炭素、酸素は焼結体中に残存しており、やはりこれをスパッタリング用ターゲットとして使用した際に、焼結体内の酸素や炭素が、スパッタ膜に取り込まれ性能の低下を引き起こす問題がある。
【0006】
焼結体の高純度化を行うためには、ホウ化ランタン粉末中の酸素、炭素量を低減させ、その粉末を原料粉末として焼結体を作製する方法があるが、酸素、炭素量が低減される結果、前記の焼結中の焼結助剤として働く非晶質化合物が低減し、ホットプレスや熱間等方加圧(HIP)処理、その組み合わせ等により、高圧力下で熱を加える方法などの焼結方法を用いても、焼結体の相対密度が90%以上に上がらないという問題がある。
したがって、ターゲット、特にスパッタリング用ターゲットとして用いられるホウ化ランタン焼結体は、不純物が少なく高純度で、かつ相対密度が高い高密度の焼結体が望まれていた。
【0007】
金属ホウ化物を用いたスパッタリング用ターゲットとして、特許文献3には、ホウ化ハフニウム、ホウ化チタン、ホウ化タングステン、ホウ化ランタンから選択された1種以上を主成分とするスパッタリング用ターゲットであって、該ターゲットの焼結体密度比が80%以上であり、かつ、その結晶粒径が50μm以下であるスパッタリング用ターゲット、及びその製造方法が開示されている。
しかしながら、この技術は、ターゲットの粒子間の空隙を大幅に減少させて、該ターゲットの密度比(実際の焼結体の密度と理論密度との比)をさらに向上させることにより、高密度のホウ化物ターゲットとし、当該ターゲットを用いて製品を生産した場合、その量産性を向上させるための技術であって、ターゲット中の不純物については、なんら言及されていない。
また、六ホウ化ランタンを用いた実施例では、前記密度比は84〜92%程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−261272号公報
【特許文献2】特開平4−228474号公報
【特許文献3】特開平6−248446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下になされたもので、酸素量及び炭素量が少なく、焼結助剤を用いることなしに焼結体の相対密度を向上させたホウ化ランタン焼結体、その焼結体を用いたターゲット及びその焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
異なる平均粒径を有する2種類のホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bとの混合粉末を焼結することにより、炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上であるホウ化ランタン焼結体が得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] 炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上であるホウ化ランタン焼結体、
[2] 上記[1]に記載のホウ化ランタン焼結体を用いたターゲット、
[3] (a)平均粒径が1〜5μm、炭素量が0.1質量%未満及び酸素量が1.0質量%未満であるホウ化ランタン粉末Aと、平均粒径が50〜500nmのホウ化ランタン粉末Bとの混合粉末を得る混合工程と、(b)前記(a)工程で得られた混合粉末を焼結する焼結工程とを有するホウ化ランタン焼結体の製造方法、
[4] 前記(a)の混合工程において、ホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bとを、質量比97:3〜70:30の割合で混合する上記[3]に記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法、
[5] 前記(b)の焼結工程において、真空中又は不活性ガス雰囲気下で、混合粉末を1800℃以上の温度及び20MPa以上の圧力にて加圧焼結する上記[3]又は[4]に記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法、
[6] ホウ化ランタン粉末Bが、ランタン含有化合物とホウ素含有化合物とを、真空中又は不活性ガス雰囲気下、1200〜1500℃の温度にて熱還元処理した後、得られた生成物中の不純物を低減させる処理を施したものである上記[3]〜[5]のいずれかに記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法、
[7] ホウ化ランタン焼結体がターゲット用の焼結体である上記[3]〜[6]のいずれかに記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸素量及び炭素量が少なく、焼結助剤を用いることなしに焼結体の相対密度を向上させたホウ化ランタン焼結体、その焼結体を用いたターゲット及びその焼結体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のホウ化ランタン焼結体は、炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上である。
本発明のホウ化ランタン焼結体(以下、単に「焼結体」と称することがある。)において、炭素量が0.1質量%以上、または酸素量が0.5質量%以上であると、スパッタリング用ターゲットとして使用した際、炭素や酸素がスパッタ膜中に取り込まれ、スパッタ膜の性能を低下させる。また、相対密度が93%未満であると、焼結体内の空孔は開気孔となり、焼結体の取り扱い中に雰囲気中から吸着した空孔内の有機物や水分がスパッタ膜に取り込まれ、スパッタ膜の性能を低下させる。前記炭素量は、好ましくは0.07質量%以下であり、酸素量は、好ましくは0.3質量%以下である。前記相対密度は、好ましくは95%以上である。なお、前記相対密度とは、理論密度に対する実際の焼結体の密度比を指す。
このような性状を有する本発明のホウ化ランタン焼結体は、ターゲット、特にスパッタリング用ターゲットとして好適である。
【0014】
本発明の焼結体は、異なる平均粒径を有する2種類のホウ化ランタン粉末、すなわち、平均粒径が大きく、かつ炭素量と酸素量が低いホウ化ランタン粉末Aと、このホウ化ランタン粉末Aより平均粒径が小さいホウ化ランタン粉末Bを混合し、成形、焼結を行うことにより、低不純物かつ高密度のホウ化ランタン焼結体を製造することができる。
【0015】
[ホウ化ランタン粉末A]
ホウ化ランタン粉末Aは、平均粒径が1〜5μmである。平均粒径が1μm未満であると、酸素、炭素の除去が難しく、また、製造コストの面からも実用的ではない。また、平均粒径が5μmより大きいと、焼結の駆動力となる表面エネルギーが小さくなり高密度の焼結体を得ることが困難である。
当該ホウ化ランタン粉末Aは、各種製法により製造することができ、その製法は限定されないが、例えば、酸化ランタンと炭化ホウ素との還元雰囲気下での熱還元合成で製造される市販の平均粒径1〜5μm程度のホウ化ランタン粉末を、後述の純化処理を行い、酸素量と炭素量を低減したものを使用してもよい。
【0016】
当該ホウ化ランタン粉末Aは、炭素量が0.1質量%未満で、かつ酸素量が1.0質量%未満である。これよりも炭素量、酸素量が多いと焼結体中に不純物として残存する量が、多くなる。
当該ホウ化ランタン粉末Aの純化処理は各種方法で行うことができ、その純化処理方法は限定されないが、例えばホウ化ランタン粉末Aを有機酸と有機溶媒の混合物、あるいは無機酸と水の混合物により酸洗浄等する方法が挙げられる。酸洗浄に使用する無機酸としては、ホウ化ランタンの酸化を抑えるために、塩酸が好ましい。
また、前記の酸洗浄前に大気中で600〜800℃程度の温度で加熱処理しておくのが好ましい。この加熱処理により、炭素不純物が酸化物に変化し、酸化した不純物を上記塩酸等の酸洗浄により溶出させることができるからである。
【0017】
[ホウ化ランタン粉末B]
ホウ化ランタン粉末Bは、前述したホウ化ランタン粉末Aに比べて、平均粒径が小さいことから、表面積が小さく、焼結の駆動力となる表面エネルギーが大きいため、粒子自身は焼結性に優れている。しかし、粒径が小さいために強いファンデルワールス力により粒子が不均一に凝集体を形成して、粒子の充填性が悪く、粒子同士の接触が不十分なため焼結反応が開始されにくいという問題がある。
本発明者らは、このホウ化ランタン粉末Bよりも平均粒径が大きく充填性に優れるホウ化ランタン粉末A中にホウ化ランタン粉末Bを適量添加して粒子の接触が十分取れるようにすれば、当該ホウ化ランタン粉末Bの大きな表面エネルギーにより優れた焼結性を示すことを見出した。
【0018】
当該ホウ化ランタン粉末Bは、平均粒径が50〜500nmである。この平均粒径が50nm未満では、大量に製造するのが困難であり、経済的ではない。また、平均粒径が500nmより大きいと、ホウ化ランタン焼結体の相対密度を向上させる効果が見られない。
当該ホウ化ランタン粉末Bは、その製造方法については限定されないが、市販のホウ化ランタン粉末をジェットミル、ビーズミル等で粉砕し所定の粒径に調整しても良い。
また、ランタン化合物と炭化ホウ素との還元雰囲気下での熱還元合成、熱プラズマでの合成、あるいは還元剤を添加し水熱合成法で合成しても良い。さらに、これらの得られた粉末を、ジェットミル、ビーズミル等で粉砕し所定の粒径に調整しても良い。
【0019】
ホウ化ランタン粉末Bの好ましい製造方法としては、ランタン含有化合物とホウ素含有化合物とを、真空中又は不活性ガス雰囲気下、1200〜1500℃程度の温度にて熱還元処理した後、得られたホウ化ランタンを含む生成物中の不純物を低減させる処理を施す方法を挙げることができる。
ここで、不純物を低減させる処理は各種方法で行うことができ、その方法は限定されないが、無機酸と水の混合物により酸洗浄等する方法が挙げられる。酸洗浄に使用する無機酸としては、得られたホウ化ランタンの酸化を抑えるために、塩酸が好ましい。本方法における熱還元処理で得られた生成物は、生成物であるホウ化ランタン以外に、原料起因の不純物を多く含んでおり、酸洗浄による不純物を低減させる処理を行うことで、例えば、炭素量は2.0質量%以下、酸素量は3.0質量%以下とすることができる。
【0020】
このようにして得られたホウ化ランタン粉末Bに、さらに、前述したホウ化ランタン粉末Aの場合と同様の純化処理を施すことにより、不純物量を市販品と同程度の、例えば炭素量を0.5質量%以下、酸素量を1.0質量%以下とすればより好ましく、前述したホウ化ランタン粉末Aと同程度の不純物量とすれば、さらに好ましい。
なお、前記のホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した値である。
また、前記炭素量及び酸素量は、以下に示す方法により、測定した値である。
【0021】
<ホウ化ランタン粉末A及び焼結体中の炭素量及び酸素量の測定>
炭素量は、石英管状炉内で試料を加熱し、試料から揮発、分解、燃焼等により発生した炭素成分を赤外線吸収法を用いて測定する方法により測定した。
また酸素量は、グラファイト中の試料を不活性ガス中で加熱し、試料から分解あるいは解離してくる酸素を炭素と反応させ、生成した一酸化炭素あるいは二酸化炭素を赤外線吸光度で定量する方法、すなわち通常不活性ガス溶融法と呼ばれる方法により測定した。
【0022】
本発明はまた、前述した本発明のホウ化ランタン焼結体を製造する方法をも提供する。
本発明のホウ化ランタン焼結体の製造方法は、(a)平均粒径が1〜5μm、炭素量が0.1質量%未満及び酸素量が1.0質量%未満であるホウ化ランタン粉末Aと、平均粒径が50〜500nmのホウ化ランタン粉末Bとの混合粉末を得る混合工程と、(b)前記(a)工程で得られた混合粉末を焼結する焼結工程とを有する。
【0023】
本発明の製造方法においては、前記の(a)混合工程において、ホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bとを、質量比97:3〜70:30の割合で混合することが好ましい。ホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bとの合計量に対して、ホウ化ランタン粉末Bの量が3質量%未満であると、ホウ化ランタン粉末Bの大きな表面エネルギーが寄与するには添加量が不十分なため、相対密度向上の効果が得られない。また、30質量%より多いと、ホウ化ランタン粉末Bの凝集の影響により、充填性が低下して、焼結反応が起こりにくくなる。また、なんらかの方法で凝集を回避したとしても、微細なホウ化ランタン粉末Bの製造コストの面で実用的ではなく、また、ホウ化ランタン粉末Bに含まれる炭素と酸素量が焼結体中に残存し、ターゲット材料として使用された際、スパッタ膜の性能低下を引き起こす。
混合方法については各種方法をとることができ、その方法は限定されないが、例えば、有機溶媒中でスラリー化しボールミル混合等を行う方法が挙げられる。また、任意のバインダーを添加し、有機溶媒中でスラリー化しボールミル混合を行ってもよい。
【0024】
混合した粉末は、減圧下あるいは不活性雰囲気中乾燥するのが望ましい。またスプレードライ等で乾燥、造粒させ顆粒にしても良い。得られた混合粉末は、焼結を行う。バインダーが含まれる場合は、得られた混合粉末または顆粒で、あるいは、成形後の成形体で脱脂を行った後、焼結を行うことが望ましい。
本発明の製造方法においては、前記の(b)焼結工程において、真空中又は不活性ガス雰囲気下で、混合粉末を1800℃以上の温度及び20MPa以上の圧力にて加圧焼結することが好ましい。
一般的にホウ化ランタン粉末は難焼結性であるが、混合後の粉末をアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気中または真空中にて1800〜2000℃程度、プレス圧20〜50MPa程度で加圧焼結することで、相対密度93%以上、炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満の焼結体が得られ、従来のホウ化ランタンターゲットよりも高純度かつ高密度のものを得ることができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、ホウ化ランタン粉末Bは、前述した酸素量及び炭素量を低減させる純化処理を施したものであることが好ましい。
そして、前述した本発明の製造方法により、炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上であるホウ化ランタン焼結体を効率よく製造することができる。
本発明の製造方法で得られた高純度かつ高密度のホウ化ランタン焼結体は、ターゲット、特にスパッタリング用ターゲットとして好適である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
原料のホウ化ランタン粉末中の炭素量と酸素量、得られた焼結体中の炭素量と酸素量、焼結体の相対密度は、以下に示す方法に従って測定した。
また、原料のホウ化ランタン粉末の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)[日立製作所社製、機種名S−4000]により測定した。
【0027】
(1)ホウ化ランタン粉末中の炭素量と酸素量
炭素量は、試料粉末100mgを取り、LECO社製WC−200型を使用して測定した。
また、酸素量は、試料粉末50mgを取り、LECO社製TC−436型を使用して測定した。
(2)焼結体中の炭素量と酸素量
焼結体試料を破砕粉した後、前記ホウ化ランタン粉末と同様にして炭素量及び酸素量を測定した。測定装置は、ホウ化ランタン粉末測定のものと同一のものを使用した。
(3)焼結体の相対密度
市販の電子天秤を用いて、焼結体試料の空気中の重量と水中の重量を測定し、得られた浮力値から密度を計算する、いわゆるアルキメデス法を用いて測定した。
【0028】
製造例1(ホウ化ランタン粉末A−1の製造)
市販のホウ化ランタン粉末を大気中で熱処理後、酸洗浄を行い、炭素量および酸素量を低減して得られたものをホウ化ランタン粉末A−1として使用した。このホウ化ランタン粉末A−1の平均粒径は1.5μm、炭素量は0.08質量%、酸素量は0.8質量%であった。
【0029】
製造例2(ホウ化ランタン粉末A−2の製造)
市販のホウ化ランタン粉末をそのままホウ化ランタン粉末A−2として使用した。このホウ化ランタン粉末A−2の平均粒径は1.5μm、炭素量は0.5質量%、酸素量は1.6質量%であった。なお、ホウ化ランタン粉末A−2と、ホウ化ランタン粉末A−1の原料粉末とは同一物である。
【0030】
製造例3(ホウ化ランタン粉末A−3の製造)
市販のホウ化ランタン粉末をそのままホウ化ランタン粉末A−3として使用した。このホウ化ランタン粉末A−3の平均粒径は7μm、炭素量は0.5質量%、酸素量は0.7質量%であった。
【0031】
製造例4(ホウ化ランタン粉末B−1の製造)
平均粒径50〜100nmの水酸化ランタンと、市販の炭化ホウ素をアルコール中で混合し、真空乾燥後、真空中1300℃で熱還元処理し、得られた反応生成物を塩酸処理して不純物を除去後、水洗、乾燥したものをホウ化ランタン粉末B−1として使用した。このホウ化ランタン粉末B−1の平均粒径は300nmであった。
【0032】
製造例5(ホウ化ランタン粉末B−2の製造)
平均粒径30〜80nmの水酸化ランタンと、市販の炭化ホウ素をアルコール中で混合し、真空乾燥後、真空中1300℃で熱還元処理し、得られた反応生成物を塩酸処理して不純物を除去後、水洗、乾燥したものをホウ化ランタン粉末B−2として使用した。このホウ化ランタン粉末B−1の平均粒径は100nmであった。
【0033】
実施例1
平均粒径1.5μm、炭素量0.08質量%、酸素量0.8質量%のホウ化ランタン粉末A−1を95g、平均粒径300nmのホウ化ランタン粉末B−1を5g、エタノール中ボールミルで混合した。その後、真空乾燥機で乾燥し混合粉末を得た。
得られた混合粉末をホットプレス装置でアルゴン雰囲気中、1950℃、プレス圧40MPaにて焼結した。得られた焼結体は、96.0%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.02質量%、酸素量で0.3質量%であった。
【0034】
実施例2
実施例1で使用したホウ化ランタン粉末B−1を、平均粒径100nmのホウ化ランタン粉末B−2に変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、97.0%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.05質量%、酸素量で0.4質量%であった。
【0035】
実施例3
実施例1のホウ化ランタン粉末A−1を85g、ホウ化ランタン粉末B−1を15gに変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、96.5%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.05質量%、酸素量で0.4質量%であった。
【0036】
比較例1
実施例1で使用したホウ化ランタン粉末A−1を100gとし、ホウ化ランタン粉末B−1を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、88.5%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.01質量%、酸素量で0.2質量%であった。
【0037】
比較例2
実施例1で使用したホウ化ランタン粉末A−1を、平均粒径1.5μm、炭素量0.5質量%、酸素量1.6質量%のホウ化ランタン粉末A−2に変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、96.8%と高い相対密度を有していたが、その不純物量は炭素量で0.15質量%、酸素量で1.2質量%であった。
【0038】
比較例3
実施例1で使用したホウ化ランタン粉末A−1を、平均粒径7μm、炭素量0.5質量%、酸素量0.7質量%のホウ化ランタン粉末A−3に変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、86.0%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.15質量%、酸素量で0.5質量%であった。
【0039】
比較例4
実施例1のホウ化ランタン粉末A−1を99g、ホウ化ランタン粉末B−1を1gに変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。得られた焼結体は、90.0%の相対密度を有し、その不純物量は炭素量で0.02質量%、酸素量で0.3質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のホウ化ランタン焼結体は、高純度かつ高密度であって、この焼結体をターゲットとして用いることにより、従来のホウ化ランタンのターゲットと比較して、不純物含有量の少ないLaB6薄膜を成膜することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素量が0.1質量%未満、酸素量が0.5質量%未満及び相対密度が93%以上であるホウ化ランタン焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のホウ化ランタン焼結体を用いたターゲット。
【請求項3】
(a)平均粒径が1〜5μm、炭素量が0.1質量%未満及び酸素量が1.0質量%未満であるホウ化ランタン粉末Aと、平均粒径が50〜500nmのホウ化ランタン粉末Bとの混合粉末を得る混合工程と、(b)前記(a)工程で得られた混合粉末を焼結する焼結工程とを有するホウ化ランタン焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記(a)の混合工程において、ホウ化ランタン粉末Aとホウ化ランタン粉末Bとを、質量比97:3〜70:30の割合で混合する請求項3に記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記(b)の焼結工程において、真空中又は不活性ガス雰囲気下で、混合粉末を1800℃以上の温度及び20MPa以上の圧力にて加圧焼結する請求項3又は4に記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法。
【請求項6】
ホウ化ランタン粉末Bが、ランタン含有化合物とホウ素含有化合物とを、真空中又は不活性ガス雰囲気下、1200〜1500℃の温度にて熱還元処理した後、得られた生成物中の不純物を低減させる処理を施したものである請求項3〜5のいずれかに記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法。
【請求項7】
ホウ化ランタン焼結体がターゲット用の焼結体である請求項3〜6のいずれかに記載のホウ化ランタン焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2011−63487(P2011−63487A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216855(P2009−216855)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】