説明

ボールジョイント用ダストカバー

【課題】ソケットの外周面にリンクが突設されたボールジョイントの様に、ソケットの外周面にダストカバーを嵌合保持する為の十分なスペースが確保出来ないものに於いても、ダストカバーがソケットから抜け落ちる事が無いボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【解決手段】ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ソケット外周部には円形断面のリンクが突設され、前記ボールスタッドの他端の軸はナックルに締め付け固定され、一端大径開口部が前記ソケットの外周面に、前記大径開口部に埋設されている円環状押さえリングにより固定保持され、他端小径開口部が前記軸に保持されたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記大径開口部の端部に、その底部が前記押さえリングの折り曲げ部73に接すると共に、前記リンクの一部が収まる形状の凹部が設けられている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント用ダストカバーに関する。
また、本発明は、自動車懸架装置、操舵装置等に使用されるボールジョイント用ダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールジョイント継ぎ手部の防塵、防水を目的としてダストカバーが装着されているボールジョイントとしては、図7に示すボールジョイント用ダストカバーが知られている。
【0003】
この種ボールジョイント用ダストカバーのシール構造は、ボールスタッド100の一端に形成された球頭部200がソケット300内に保持されている。
また、ソケット300の外周部には円形断面のリンク900が突設されている。
そして、ボールスタッド100の他端の軸400は、ナックル500に締め付け固定されている。
【0004】
一方、ゴム状弾性材製ダストカバー600の一端大径開口部800が、ソケット300の外周面に、大径開口部800に埋設された円環状押さえリング700により固定保持され、他端小径開口部120が軸400に保持された構成となっている。
また、図8に示す様に、大径開口部800の開口端部(図上下端)には、押さえリング700を大径開口部800に埋設する為に、金型側に複数個等配に設けたピンにより形成された環受け部61が存在する。
【0005】
そして、押さえリング700の内周側先端部(歯部)710は、ソケット300の環状外周面と係合して、大径開口部800がソケット300から脱落するのを防いでいる。
しかし、近年、ボールジョイントの小型化が進み、大径開口部800をソケット300の外周面に嵌合保持する為のスペースが十分確保出来ない状況が発生してきている。
特に、ソケット300の外周部に、リンク900が突設された態様のボールジョイントにおいてはこの傾向が顕著であった。
【0006】
具体的には、図8に示す様に、押さえリング700の内周側先端部が、ソケット300の環状外周面のストレートな部分と係合出来ない為、押さえリング700とソケット300との係合力が低下し、大径開口部800がソケット300から脱落する問題を惹起した。
【0007】
そこで、押さえリングにリンクを収容できる切欠きを設け、押さえリングとソケットとの係合力の低下を抑える試みがなされたが、押さえリングを切欠く為、押さえリングの機械的強度が低下してしまう問題と、ゴム状弾性材製のダストカバー600が損傷する問題を招来した。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平03−56693号公報
【特許文献2】特開2009−270633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、大径開口部に埋設した押さえリングの機械的強度を低下させる事無く、ソケットの外周面にリンクが突設されたボールジョイントの様に、ソケットの外周面にダストカバーを嵌合保持する為の十分なスペースが確保出来ないものに於いても、ダストカバーがソケットから抜け落ちる事が無いボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ソケット外周部には円形断面のリンクが突設され、前記ボールスタッドの他端の軸はナックルに締め付け固定され、一端大径開口部が前記ソケットの外周面に、前記大径開口部に埋設されている円環状押さえリングにより固定保持され、他端小径開口部が前記軸に保持されたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記大径開口部の端部に、その底部が前記押さえリングに接すると共に、前記リンクの一部が収まる形状の凹部が設けられている構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、大径開口部に埋設した押さえリングの機械的強度を低下させる事無く、ソケットの外周面にリンクが突設されたボールジョイントの様に、ソケットの外周面にダストカバーを嵌合保持する為の十分なスペースが確保出来ないものに於いても、ダストカバーがソケットから抜け落ちる事が無い。
更に、請求項2記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、環受け部を利用している為、押さえリングに特別な加工を施す事無く、押さえリングを従来と同様に埋設出来るばかりでなく、金型側に設けた環受け部用のピンも不要となる。
【0012】
更に、請求項3記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、押さえリングを一部変形したに過ぎない為、押さえリングの機械的強度を低下させる事無く、リンクを収納出来る十分なスペースが確保できる為、ソケットの外周面にダストカバーを嵌合保持する為の十分なスペースが確保出来る。
更に、請求項4記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、金型側に設ける環受け部用のピンを一切使用する事無く、押さえリングを大径開口部に埋設出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの第1の態様の縦断面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】図1の側面図。
【図4】本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの第1の態様に使用される押えリングの縦断面図。
【図5】本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの第2の態様に使用される押えリングの平面図。
【図6】図5のA−A断面図
【図7】従来技術に係る、ボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。
【図8】図7の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1、図2、図3及び図4に示される様に、本発明に係るゴム状弾性材製のボールジョイント用ダストカバー6の第1の態様は、ボールスタッド1の一端に形成された球頭部2がソケット3内に保持され、このソケット3外周部には円形断面のリンク9が突設され、ボールスタッド1の他端の軸4はナックル5に締め付け固定され、一端大径開口部8がソケット3の外周面に、この大径開口部8に埋設されている円環状押さえリング7により固定保持され、他端小径開口部12が軸4に保持された構成となっている。
【0015】
そして、大径開口部8の端部には、その底部11が押さえリング7の折り曲げ部73に接すると共に、リンク9の一部が収まる形状の凹部10が設けられている。
凹部10の深さWは、図7の従来技術で示した、押さえリング7を埋設する為に金型側に複数個等配に設けたピンにより形成された環受け部61の深さと略等しい。
【0016】
この様に、従来押さえリング7を埋設する為に必要であった環受け部61を利用している為、押さえリング7に特別な加工を施す事無く、押さえリング7を従来と同様に埋設出来るばかりでなく、金型側に設けた環受け部61用のピンも不要となる。
具体的には、環受け部61に必要とされた約0.4mmの深さ分、大径開口部8及び押さえリング7の位置をリンク7側に移動できる為、図2に示す様に、押さえリング7の内周側先端部(歯部)71がソケット3の環状外周面のストレートな部分と確実に係合出来、押さえリング7とソケット3との係合力が低下することは無い。
【0017】
この様に、押さえリング7には、凹部10を形成する為の新たな加工が一切施されていない為、従来使用していた押さえリング7をそのまま使用できると共に、押さえリング7の機械的強度を低下させることも無い。
更に、底部11が押さえリング7の折り曲げ部73に接する態様となっている為、凹部10にリンク9が当接しても、ゴム状弾性材製のダストカバー6が損傷を受ける事が無い。
【0018】
ついで、本発明に係る、ボールジョイント用ダストカバーの第2の態様に使用される押えリング7の形状について、図5及び図6に基づき説明する。
第2の態様は、凹部10の深さWが、押さえリング7を埋設する為に金型側に複数個等配に設けたピンにより形成された環受け部61の深さでは不十分な場合に適用されるものである。
【0019】
すなわち、凹部10は、図5及び図6に示す押さえリング7の底部を円弧状に変形させて形成した窪部71により形成される構成と出来る為、第1の態様の様に、環受け部61に必要とされた約0.4mmの深さに限定される事が無い。
この為、第2の態様の押さえリング7を使用する事により、大径開口部8及び押さえリング7の位置を、リンク9側に大きく移動出来る凹部10を形成する事が出来る。
【0020】
この様に、押さえリング7を切欠く事無く、一部を変形したに過ぎない為、押さえリング7の機械的強度が低下させず、リンク9を収納出来る十分なスペースが確保できる為、ソケット3の外周面にダストカバー6を嵌合保持する為の十分なスペースが確保出来る。
【0021】
また、第1及び第2の態様においては、凹部10は、略円周上等配に設ける態様としている。
この事により、金型側に設ける環受け部用のピンを一切使用する事無く、押さえリング7を大径開口部8内に埋設出来る。
【0022】
しかし、凹部10は、リンク9が収容出来る数だけ有れば足り、第1及び第2の態様においては、1箇所存在すれば良い。
この場合、金型側には、環受け部用のピンを設ける必要がある。
【0023】
また、押さえリング7は、断面略V字形状の金属材、樹脂材等のダストカバー6よりも硬質の環状部材が使用され、ダストカバー6の成形時に、大径開口部8内に一体化される形で埋設される。
【0024】
また、ダストカバー6の材質は、クロロプレン等のゴム状弾性材や、ポリエステル系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性エラストマーから、適宜用途に合わせ選択して使用される。
【0025】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるボールジョイントに使用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 ボールスタッド
2 球頭部
3 ソケット
4 軸
5 ナックル
6 ダストカバー
7 押さえリング
8 大径開口部
9 リンク
10 凹部
11 底部
12 小径開口部
71 内周側先端部
72 窪部
73 折り曲げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッド(1)の一端に形成された球頭部(2)がソケット(3)内に保持され、前記ソケット(3)外周部には円形断面のリンク(9)が突設され、前記ボールスタッド(1)の他端の軸(4)はナックル(5)に締め付け固定され、一端大径開口部(8)が前記ソケット(3)の外周面に、前記大径開口部(8)に埋設されている円環状押さえリング(7)により固定保持され、他端小径開口部(12)が前記軸(4)に保持されたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバー(6)において、
前記大径開口部(8)の端部に、その底部(11)が前記押さえリング(7)の折り曲げ部(73)に接すると共に、前記リンク(9)の一部が収まる形状の凹部(10)が設けられていることを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
前記凹部(10)の深さ(W)は、前記押さえリング(7)埋設する為に必要とした環受け部(61)の深さと略等しいことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項3】
前記凹部(10)は、前記押さえリング(7)の底部を円弧状に変形させて形成した窪部(71)により形成されていることを特徴とする請求項1記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項4】
前記凹部(10)は、略円周上等配に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のボールジョイント用ダストカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−87840(P2012−87840A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233523(P2010−233523)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】