説明

ポンプ装置

【課題】ポンプ室の内圧の異常上昇を抑制し、ポンプ装置全体の破損やポンプ装置に接続された配管部材の破損等を防止する。
【解決手段】ポンプ装置10には、モータケース12とポンプケース14とを離間する方向に変位可能に固定する固定構造82と、モータケース12とポンプケース14との間にポンプ室50の内圧が所定値以上となったときにポンプ室50内の流体を外部に逃がす逃がし構造70と、が備えられている。従って、ポンプ装置10の使用雰囲気が水溶液の凍結温度以下になって、ポンプ室50内の水溶液の一部が凍結して体積膨張した場合でも、固定構造82によりモータケース12とポンプケース14とが離間する方向に変位されてポンプ室50の体積が増加されると共に、逃がし構造70によりポンプ室50内の水溶液が外部に排出されるので、ポンプ室50の内圧の異常上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置に係り、特に、ポンプ室に収容されたインペラを回転させることでポンプ室に開口形成された流体吸入口から流体吐出口へ流体を搬送するように構成されたポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示される自動車の電動ウォータポンプのように、水溶液を循環するためのポンプ装置では、使用雰囲気がその水溶液の凍結温度以上になると、ポンプ室内の水溶液が凍結して体積膨張し、これにより、ケースや接続配管が破損する虞がある。
【0003】
ここで、一般に、樹脂製のホースが接続されたポンプ装置では、ポンプ室内の水溶液が凍結により体積膨張しても、この体積膨張に伴って増加された圧力が樹脂製のホース側へ逃げる。このため、ケースや接続配管が破損する虞は少ない。
【0004】
しかし、ポンプ装置に金属製の配管部材が接続された場合や、バルブが近傍に配置された場合には、ポンプ室内の水溶液が凍結により体積膨張したときに、この体積膨張に伴って増加された圧力の逃げが期待できない。従って、ポンプ装置の破損を防止するために、ポンプ装置の構成部品の強度を上げる必要があり、そのためには、構成部品を金属製とすることが一般的である。
【0005】
ところが、例えば、特許文献1に示される電動ウォータポンプにおいて、磁気ギャップとなる部位(例えば、ステータ及びロータ間の部位やマグネットカップリング部位)に金属部品を用いると、鉄損が発生し、ポンプ効率を悪化させる原因となる。
【0006】
また、一般的に、ポンプ装置のシール部には、気密性向上のために、Oリングや金属ガスケットによる剛体固定を採用することが多い。ところが、これらの構造は、凍結時のポンプ室の内圧の上昇に対し、部品強度で対応するため、ポンプ装置に例えば樹脂製のホースなどの圧力の逃げる箇所が設けられていない場合、ポンプ装置及びポンプ装置に接続された全ての配管部材に高い圧力が加わることになる。
【特許文献1】特開2004−162541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ポンプ室の内圧の異常上昇を抑制し、ポンプ装置全体の破損やポンプ装置に接続された配管部材の破損等を防止することが可能なポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のポンプ装置は、ポンプ室内の流体に対するシール構造を有するステータ収容室を備え、前記ステータ収容室にステータが収容されたモータケースと、前記モータケースとで前記ポンプ室を形成し、前記ポンプ室にロータ及びインペラが収容されたポンプケースと、前記モータケースと前記ポンプケースとの間に前記ポンプ室の内圧が所定値以上となったときに前記ポンプ室内の流体を外部に逃がす逃がし構造と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載のポンプ装置では、モータケースのステータ収容室にステータが収容されている。このステータ収容室には、ポンプ室内の流体に対するシール構造が設けられており、その内部に収容されたステータが流体に接しないようになっている。また、モータケースとポンプケースとで形成されるポンプ室内には、ロータ及びインペラが収容されている。
【0010】
そして、このポンプ装置では、ステータ及びロータの磁気作用によりロータが回転すると、ロータと共にインペラが回転し、このインペラの回転によりポンプ室に開口形成された流体吸入口から流体吐出口へ流体が搬送される。ここで、請求項1に記載のポンプ装置において、例えば、流体が水溶液とされて、その使用雰囲気が水溶液の凍結温度以上になった場合には、ポンプ室内の水溶液の一部が凍結して体積膨張する。
【0011】
ところが、請求項1に記載のポンプ装置では、モータケースとポンプケースとの間にポンプ室の内圧が所定値以上となったときにポンプ室内の流体を外部に逃がす逃がし構造が設けられている。従って、上述のように、ポンプ室内の水溶液の一部が凍結して体積膨張した場合でも、ポンプ室内の水溶液が逃がし構造から外部に排出されて、ポンプ室の内圧の異常上昇が抑制される。これにより、樹脂製のホース等のように圧力を逃すことができる部材がポンプ装置に接続されていなくても、ポンプ装置全体の破損やポンプ装置に接続された配管部材の破損等を防止することが可能となる。
【0012】
また、請求項1に記載のポンプ装置では、上述の如く、ポンプ室の内圧の異常上昇を抑制できるため、磁気ギャップとなる部位(例えば、ステータ及びロータ間の部位やマグネットカップリング部位)に金属部品を用いる必要が無く、樹脂製の部品を用いることが可能である。従って、磁気ギャップとなる部位に樹脂製の部品を用いることで、この部位に鉄損が発生することを防止でき、ポンプ効率(モータ効率)を向上させることができる。
【0013】
さらに、請求項1に記載のポンプ装置では、上述の如く、ポンプ室の内圧の異常上昇を抑制することで、ポンプ室の内圧の最大値を低く抑えることができ、これにより、ポンプ装置の各構成部品に掛かる最大応力も低減できる。このため、各構成部品の強度を下げることができる。従って、各構成部品を金属製とする必要が無く、樹脂製とできるため、これにより、ポンプ装置全体の重量も軽減できる。また、各構成部品に高強度な材料を用いなくても、各部の板厚等を低減できるので、これにより、材料コストも下げることができる。
【0014】
請求項2に記載のポンプ装置は、請求項1に記載のポンプ装置において、前記逃がし構造は、前記シール構造に比して低耐圧に設定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載のポンプ装置では、上述のポンプ室の内圧を低下させるための逃がし構造が、ステータ収容室に設けられたシール構造に比して低耐圧に設定されている。従って、上述の如く、ポンプ室の内圧が上昇したときには、逃がし構造がシール構造よりも先に定格耐圧に達してポンプ室内の流体を外部に排出する。これにより、ポンプ室の内圧の異常上昇の抑制と、ステータを収容するステータ収容室のシール性の確保とを両立させることが可能となる。
【0016】
請求項3に記載のポンプ装置は、請求項1又は請求項2に記載のポンプ装置において、前記逃がし構造は、弾性材により構成されたシール部材を備え、前記シール部材は、前記ポンプ室の内圧が所定値以上となったときには前記ポンプ室内の流体を外部に逃がすように弾性変形可能に構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載のポンプ装置では、上述の逃がし構造が、弾性材により構成されたシール部材を備え、このシール部材が、ポンプ室の内圧が所定値以上となったときにはポンプ室内の流体を外部に逃がすように弾性変形可能に構成されている。従って、ポンプ室の内圧が所定値以上となったときには、シール部材が弾性変形してポンプ室内の流体が自動的に外部に排出される。また、このようにしてポンプ室内の流体が外部に排出されてポンプ室の内圧が低下したときには、シール部材が元の形状に復元して再びポンプ室のシール性が自動的に確保される。
【0018】
請求項4に記載のポンプ装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のポンプ装置において、前記モータケースと前記ポンプケースとを離間する方向に変位可能に固定する固定構造を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載のポンプ装置では、モータケースとポンプケースとが固定構造により固定されている。また、このとき、固定構造は、モータケースとポンプケースとを離間する方向に変位可能に固定している。従って、上述の如く、例えば、流体が水溶液とされて、その使用雰囲気が水溶液の凍結温度以上となり、ポンプ室内の水溶液の一部が凍結して体積膨張した場合でも、モータケースとポンプケースとが固定構造により離間されてポンプ室の体積が増加される。これにより、ポンプ室の内圧の異常上昇を抑制することが可能となる。
【0020】
請求項5に記載のポンプ装置は、請求項4に記載のポンプ装置において、前記ポンプ室は、径方向内側の部分に流体吸入口を備えると共に、径方向外側の部分に流体吐出口を備え、前記シール構造、前記逃がし構造、前記固定構造は、径方向内側から外側に向けて順に形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載のポンプ装置では、ポンプ室の径方向内側の部分に流体吸入口が備えられ、ポンプ室の径方向外側の部分に流体吐出口が備えられている。従って、インペラが回転したときには、ポンプ室の径方向外側の部分の方が径方向内側の部分よりも流体の圧力が高くなる。そして、請求項5に記載のポンプ装置では、上述の逃がし構造がシール構造よりも径方向外側に配置されている。従って、インペラを回転させてポンプ室内の流体吸入口から流体吐出口へ流体を搬送しているときには、逃がし構造に接する流体の方がシール構造に接する流体よりも圧力が高いので、逃がし構造をシール構造よりも先に定格耐圧に到達させることができる。これにより、シール構造によるステータ収容室のシール性を確保しつつ、ポンプ室の内圧の異常上昇の抑制を確実に図ることが可能となる。
【0022】
また、請求項5に記載のポンプ装置において、上述のモータケースとポンプケースとを固定するための固定構造は、上述のシール構造及び逃がし構造よりもさらに径方向外側に配置されている。従って、モータケースとポンプケースとの互いに離間する方向への可動ストロークを確保でき、例えば、ポンプ室内の水溶液の凍結時でも、ポンプ室の体積をより増加させることができる。これにより、ポンプ室の内圧の異常上昇をより確実に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
はじめに、本発明の一実施形態に係るポンプ装置10の構成について説明する。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係るポンプ装置10の全体構成を示す側面断面図、図2には、本発明の一実施形態に係るポンプ装置10の要部拡大断面図がそれぞれ示されている。本発明の一実施形態に係るポンプ装置10は、例えば、自動車のエンジン冷却装置用の電動ウォータポンプとして好適に用いられるものであり、モータケース12とポンプケース14とを備えて構成されている。
【0025】
モータケース12は、ケース本体16、ステータケース18、回路ケース20を有して構成されている。ケース本体16は、回転軸Lと同軸状に設けられた平面視円形状の凹部22を有して構成されている。この凹部22の底面には、回転軸L周りに環状に形成された環状部24が軸方向に沿って突設されている。
【0026】
ステータケース18は、回転軸L周りに配置された環状の円盤部26と、この円盤部26の径方向内側の部分から軸方向に突設された筒状部28(キャン)とを有して構成されている。円盤部26の外周部は、ケース本体16に形成された凹部22の開口側の内周部に嵌合されており、筒状部28の突出端側の外周部は、ケース本体16に突設された環状部24の内周部に嵌合されている。
【0027】
そして、モータケース12には、上述の如く、ケース本体16とステータケース18とが組み付けられることで、ケース本体16とステータケース18とにより囲まれた環状のステータ収容室30が形成されている。このステータ収容室30には、その内周面に沿って環状のステータ32が収容されている。なお、ステータ32は、積層コア34にステータコイル36が巻回されて構成されている。
【0028】
また、上述の如く、ケース本体16とステータケース18とが組み付けられたときに、上述の円盤部26の外周部と凹部22の開口側の内周部との間には、第一のOリング38が介在されている。また、上述の筒状部28の突出端側の外周部とケース本体16に突設された環状部24の内周部との間には、第二のOリング40が介在されている。そして、本実施形態では、この第一のOリング38を備えたシール構造42、及び第二のOリング40を備えたシール構造44により、後述するポンプ室50内の流体に対するステータ収容室30のシール性が確保されている。
【0029】
また、ケース本体16には、回路ケース20が一体的に固定されている。本実施形態のモータケース12では、ケース本体16と回路ケース20とにより回路収容室46が形成されており、この回路収容室46には、ステータ32に設けられたステータコイル36を順次通電するための回路基板48が収容されている。
【0030】
一方、ポンプケース14は、モータケース12に一体的に設けられ、モータケース12とでポンプ室50を形成している。このポンプケース14には、ポンプ室50に連通する流体吸入口52と流体吐出口54とが設けられている。流体吸入口52は、ポンプ室50の中央に配置されると共に軸方向に沿って延設されている。また、流体吐出口54は、ポンプ室50の径方向外側の部分に配置されると共に接線方向に沿って延設されている。
【0031】
そして、このポンプ室50には、ロータ56が回転自在に収容されている。ロータ56は、その回転軸L上に軸受部材58を有して構成されている。そして、この軸受部材58に回転シャフト60が挿入されることで、ロータ56全体が回転自在とされている。なお、回転シャフト60は、ケース本体16の凹部22の底面中央に突設された支持部62によって固定支持されている。
【0032】
また、このロータ56には、回転シャフト60の周りに環状のマグネット64が内蔵されている。そして、このロータ56は、ステータ32から生じる磁力にマグネット64が吸引反発することで回転する構成である。また、ロータ56には、インペラ66が一体的に設けられている。インペラ66は、複数の羽根68を有して構成されており、ロータ56と一体的に回転することでポンプ室50に開口形成された流体吸入口52から流体吐出口54へ流体を搬送する構成である。
【0033】
次に、図2を参照しながら、本実施形態に係るポンプ装置10の特徴的な構成を詳述する。本実施形態のポンプ装置10では、後に詳述する如く、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときにポンプ室50内の流体を外部に逃がす構造として、逃がし構造70が設けられている。この逃がし構造70の構成を詳述すると、モータケース12とポンプケース14との間には、ポンプ室50と連続する軸方向通路72及び径方向通路74が設けられている。また、モータケース12のケース本体16には、ステータ収容室30の径方向外側の位置に環状の収容溝部76が形成されており、この収容溝部76には、環状のガスケット78が収容されている。
【0034】
ガスケット78は、その先端部がポンプケース14のフランジ部80に当接されており、径方向通路74を塞ぐ構成とされている。また、このガスケット78を備えて構成された逃がし構造70は、ステータ収容室30をシールするためのシール構造42,44に比して低耐圧に設定されている。すなわち、ガスケット78は、後に詳述する如く、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときにはポンプ室50内の流体を外部に逃がすように弾性変形可能に構成されている。なお、この逃がし構造70は、図1に示される如く、ステータ収容室30をシールするためのシール構造42,44よりも径方向外側の位置に設けられている。
【0035】
また、この逃がし構造70よりも径方向外側の位置には、モータケース12とポンプケース14のケース本体16とを離間する方向に変位可能に固定する固定構造82が設けられている。この固定構造82の構成を詳述すると、ケース本体16には、フランジ部84が一体に形成されており、このフランジ部84には、板厚方向に孔部86が貫通形成されている。
【0036】
ブッシュ88は、ゴム等の弾性材により形成されており、筒状のボス部90と一体的に傘状のフランジ部92を備えて構成されている。ボス部90は、モータケース12のフランジ部84に形成された孔部86に挿入され、その先端部はポンプケース14に形成されたフランジ部80と離間されている。フランジ部92は、上述の如くボス部90がモータケース12のフランジ部84に形成された孔部86に挿入されたときに、このフランジ部84の孔部86の開口周縁部に当接された状態とされている。
【0037】
カラー96は、例えば、硬質プラスチック等の材料により形成されており、ブッシュ88と同様に、筒状のボス部98と一体的に傘状のフランジ部100を備えて構成されている。ボス部98は、ブッシュ88に形成された孔部94を介してモータケース12のフランジ部84に形成された孔部86に挿入され、その先端部はポンプケース14に形成されたフランジ部80に当接されている。フランジ部100は、上述の如くボス部98がブッシュ88に形成された孔部94に挿入されたときに、ブッシュ88に形成されたフランジ部92に当接された状態とされている。
【0038】
ネジ104は、カラー96の孔部102に挿入されて、その先端部はポンプケース14のフランジ部80に形成されたネジ孔106に螺入されている。このとき、ネジ104の頭部108は、カラー96のフランジ部100を介してブッシュ88のフランジ部92をモータケース12のフランジ部84に押圧している。従って、モータケース12全体は、ブッシュ88のフランジ部92が弾性変形することで、ポンプケース14に対して離間する方向(Z方向)に変位可能とされている。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係るポンプ装置10の作用効果について説明する。
【0040】
本実施形態に係るポンプ装置10では、ステータ32及びロータ56の磁気作用によりロータ56が回転すると、ロータ56と共にインペラ66が一体的に回転し、このインペラ66の回転によりポンプ室50に開口形成された流体吸入口52から流体吐出口54へ流体が搬送される。ここで、本実施形態に係るポンプ装置10において、例えば、流体がエンジン冷却水等の水溶液とされて、その使用雰囲気が水溶液の凍結温度以上になった場合には、ポンプ室50内の水溶液の一部が凍結して体積膨張する。
【0041】
ところが、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述の如く、固定構造82により、モータケース12とポンプケース14とが離間する方向に変位可能に固定されている。すなわち、モータケース12全体は、ブッシュ88のフランジ部92が弾性変形することで、ポンプケース14に対して離間する方向(Z方向)に変位可能とされている。
【0042】
従って、上述の如く、例えば、流体が水溶液とされて、その使用雰囲気が水溶液の凍結温度以上となり、ポンプ室50内の水溶液の一部が凍結して体積膨張した場合でも、モータケース12とポンプケース14とが固定構造82により離間されてポンプ室50の体積が増加される。これにより、ポンプ室50の内圧の異常上昇を抑制することが可能となる。
【0043】
また、ポンプ室50内の水溶液の凍結が進行してこの凍結した水溶液の体積がさらに膨張し、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときには、逃がし構造70が作動する。すなわち、ガスケット78には、ポンプ室50から軸方向通路72及び径方向通路74を介して流体の圧力が作用し、この圧力が所定値以上となったときには、ガスケット78がポンプ室50内の流体を積極的に外部に逃がすように弾性変形する。従って、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときには、ガスケット78が弾性変形することでポンプ室50内の流体が自動的に外部に排出される。
【0044】
このように、本実施形態に係るポンプ装置10では、ポンプ室50内の水溶液の凍結が進行してこの凍結した水溶液の体積がさらに膨張した場合でも、ポンプ室50内の水溶液が逃がし構造70から外部に排出されて、ポンプ室50の内圧の異常上昇が抑制される。これにより、樹脂製のホース等のように圧力を逃すことができる部材がポンプ装置10に接続されていなくても、ポンプ装置10全体の破損やポンプ装置10に接続された配管部材の破損等を防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述のポンプ室50の内圧を低下させるための逃がし構造70が、ステータ収容室30に設けられたシール構造42,44に比して低耐圧に設定されている。従って、上述の如く、ポンプ室50の内圧が上昇したときには、逃がし構造70がシール構造42,44よりも先に定格耐圧に達してポンプ室50内の流体を外部に排出する。これにより、ポンプ室50の内圧の異常上昇の抑制と、ステータ32を収容するステータ収容室30のシール性の確保とを両立させることが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態に係るポンプ装置10では、ポンプ室50の径方向内側の部分に流体吸入口52が備えられ、ポンプ室50の径方向外側の部分に流体吐出口54が備えられている。従って、インペラ66が回転したときには、ポンプ室50の径方向外側の部分の方が径方向内側の部分よりも流体の圧力が高くなる。
【0047】
そして、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述の逃がし構造70がシール構造42,44よりも径方向外側に配置されている。従って、インペラ66を回転させてポンプ室50内の流体吸入口52から流体吐出口54へ流体を搬送しているときには、逃がし構造70に接する流体の方がシール構造42,44に接する流体よりも圧力が高いので、逃がし構造70をシール構造42,44よりも先に定格耐圧に到達させることができる。これにより、シール構造42,44によるステータ収容室30のシール性を確保しつつ、ポンプ室50の内圧の異常上昇の抑制を確実に図ることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態に係るポンプ装置10において、上述のモータケース12とポンプケース14とを固定するための固定構造82は、上述のシール構造42,44及び逃がし構造70よりもさらに径方向外側に配置されている。従って、モータケース12とポンプケース14との互いに離間する方向(Z方向)への可動ストロークを確保でき、例えば、ポンプ室50内の水溶液の凍結時でも、ポンプ室50の体積をより増加させることができる。これにより、ポンプ室50の内圧の異常上昇をより確実に抑制することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述のガスケット78が弾性材により構成されている。従って、上述の如く、ポンプ室50内の流体が外部に排出されてポンプ室50の内圧が低下したときには、ガスケット78が元の形状に復元して再びポンプ室50のシール性が自動的に確保される。
【0050】
また、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述の如く、ポンプ室50の内圧の異常上昇を抑制できるため、磁気ギャップとなる部位(この場合、ステータケース18の筒状部28、及びロータ56のマグネット64周りの外周部)に金属部品を用いる必要が無く、樹脂製の部品を用いることが可能である。従って、磁気ギャップとなる部位に樹脂製の部品を用いることで、この部位に鉄損が発生することを防止でき、ポンプ効率(モータ効率)を向上させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態に係るポンプ装置10では、上述の如く、ポンプ室50の内圧の異常上昇を抑制することで、ポンプ室50の内圧の最大値を低く抑えることができ、これにより、ポンプ装置10の各構成部品に掛かる最大応力も低減できる。このため、各構成部品の強度を下げることができる。従って、各構成部品を金属製とする必要が無く、樹脂製とできるため、これにより、ポンプ装置10全体の重量も軽減できる。また、各構成部品に高強度な材料を用いなくても、各部の板厚等を低減できるので、これにより、材料コストも下げることができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、ポンプ室50内の流体がエンジン冷却水等の水溶液とされて、この水溶液の凍結に伴う体積膨張により、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときにポンプ室50内の流体を外部に逃がすように説明したが、本発明はこの限りではない。つまり、その他にも、例えば、ポンプ室50内の流体が熱膨張し、これにより、ポンプ室50の内圧が所定値以上となったときにポンプ室50内の流体を外部に逃がすようにしても良いことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係るポンプ装置の全体構成を示す側面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るポンプ装置の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10…ポンプ装置、12…モータケース、14…ポンプケース、16…ケース本体、18…ステータケース、20…回路ケース、22…凹部、24…環状部、26…円盤部、28…筒状部、30…ステータ収容室、32…ステータ、34…積層コア、36…ステータコイル、38,40…Oリング、42,44…シール構造、46…回路収容室、48…回路基板、50…ポンプ室、52…流体吸入口、54…流体吐出口、56…ロータ、58…軸受部材、60…回転シャフト、62…支持部、64…マグネット、66…インペラ、68…羽根、70…逃がし構造、72…軸方向通路、74…径方向通路、76…収容溝部、78…ガスケット(シール部材)、80,84,92,100…フランジ部、82…固定構造、86,94,102…孔部、88…ブッシュ、90,98…ボス部、96…カラー、104…ネジ、106…ネジ孔、108…頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室内の流体に対するシール構造を有するステータ収容室を備え、前記ステータ収容室にステータが収容されたモータケースと、
前記モータケースとで前記ポンプ室を形成し、前記ポンプ室にロータ及びインペラが収容されたポンプケースと、
前記モータケースと前記ポンプケースとの間に前記ポンプ室の内圧が所定値以上となったときに前記ポンプ室内の流体を外部に逃がす逃がし構造と、
を備えたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記逃がし構造は、前記シール構造に比して低耐圧に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記逃がし構造は、弾性材により構成されたシール部材を備え、
前記シール部材は、前記ポンプ室の内圧が所定値以上となったときには前記ポンプ室内の流体を外部に逃がすように弾性変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記モータケースと前記ポンプケースとを離間する方向に変位可能に固定する固定構造を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記ポンプ室は、径方向内側の部分に流体吸入口を備えると共に、径方向外側の部分に流体吐出口を備え、
前記シール構造、前記逃がし構造、前記固定構造は、径方向内側から外側に向けて順に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−315282(P2007−315282A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145568(P2006−145568)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】