説明

マーキング装置

【課題】 従来のマーキング液を用いたマーキング装置において、マーキング液の漏れが固まることによる塊の発生による命中精度の悪化といった課題を解決することができるマーキング装置を提供する。
【解決手段】 相対的に走行するレール1の異常を検出する異常検出手段からの作動信号に応じて異常検出付近のレール1に向けて、発射ノズル28から、塗料液を固体またはゲル状物質の外皮部によって被覆した塗料弾20を発射する。外皮部はレール1に衝突する時に破裂し、内部の塗料液がレール1に付着してマーク44となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に走行する被検査体の異常を検出する異常検出手段からの作動信号に応じて、被検査体の異常が検出された部位付近に向けてマーキング材を発射するマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対的に走行する被検査体の検査においては、被検査体の異常を検出したときに、その異常検出付近の位置を記録しておくための手段として、次のような手段が知られている。
【0003】
第1の手段は、ある基準点からの走行距離を走行車輪の回転数を計数することによって求めており、異常を検知したときに基準点からの距離を該回転数から求め、異常データにその距離データを付加して記録しておくものである。
【0004】
第2の手段は、異常検出手段からの作動信号に応じて異常検出付近の被検査体に向けて塗料液を噴射するマーキング装置である。
【0005】
第1の手段は一般的に実施されているが、走行車輪が空転したりすると位置がずれるために、距離データに誤差が生じるという問題がある。
【0006】
第2の手段によるマーキング装置については、例えば特許文献1に記載されたものが知られており、この特許文献1記載のマーキング装置は、マーキング液をノズルの先端開口から被検査体に高圧噴射して、マーキングを行なうものである。特許文献1では、マーキング液の発射を止めた後、マーキング液が貯溜するノズルの先端開口に、マーキング液中の造膜性ポリマーに相溶し且つマーキング液に可溶性を有する洗浄液を供給し、その液膜でノズル先端開口を封鎖することにより、ノズルの目詰まりを防止するようにしている。
【0007】
【特許文献1】特公昭55−47813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、以上のような特許文献1のようなマーキング装置では、次のような課題がある。
・洗浄液をノズルの先端開口に供給しているものの、ノズルの外にマーキング液の漏れが固まることによる塊ができることを防ぐことができず、生成された塊によってノズルから噴射した塗料が目標とする方向外に噴射されてしまう。
例えば、被検査体が鉄道レールで、マーキング装置が鉄道レールに対して走行する構成となっているレール探傷装置に使用するマーキング装置では、走行しながら作動するために、ノズル付近は常に走行するときの風に晒されており、マーキング液の漏れによる塊の発生は頻繁に起こり、しかも塊の成長が早い。
・マーキング液を噴射する際に、マーキング液が風の影響を受けやすく、目標とする方向外に噴射されてしまう。
・鉄橋の上などでマーキングするときに、マーキング液が目標を外れて鉄橋下に向うと、鉄橋下の人間や車両等に当たって、これらを汚してしまうおそれがある。
・洗浄液は、揮発性の液体で引火性があるために取扱に注意を要し、また、揮発性ガスが取扱者の健康にも害をもたらす可能性がある。
・マーキング液の装備において、マーキング液及び洗浄液のための配管を行なう必要があり、装備コストがかかる。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、従来のマーキング液を用いたマーキング装置の抱える課題を一掃することができるマーキング装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、相対的に走行する被検査体の異常を検出する異常検出手段からの作動信号に応じて、被検査体の異常が検出された部位付近に向けてマーキング材を発射するマーキング装置において、
前記マーキング材が、塗料液を固体またはゲル状物質の外皮部によって被覆した塗料弾で構成され、外皮部は被検査体に衝突する時に破裂可能なものであることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のものにおいて、前記塗料弾が複数個収納される収納部と、該収納部から塗料弾を1つずつ送り出す送出し機構と、塗料弾を発射させる駆動力を発生する発射駆動部と、前記作動信号に応じて発射駆動部からの駆動力によって送出し機構によって送り出された塗料弾を発射する発射部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の前記外皮部が、自然環境下で腐敗性を有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マーキング材をマーキング液単体で構成するのではなく、塗料液が固体またはゲル状物質の外皮部で被覆された塗料弾で構成し、塗料弾を被検査体に向けて発射するようにし、被検査体に塗料弾が衝突した際に、外側の外皮部が破裂して、内部の塗料液が被検査体に付着するようにしたので、発射口に塗料液が付着することがなく、常に安定した発射方向を維持することができる。
【0014】
塗料弾であれば、受風面積を小さくすることができ、風の抵抗も受けにくいため、走行しながら使用する場合にも風の影響を受けて流されることを防ぎ、命中精度を一層向上させることができる。よって、鉄橋の上で走行しながら使用する場合でも、雫が垂れて人間や車両を汚すことを防ぐことができる。
【0015】
また、洗浄液を不要することができ、引火性、揮発性の危険性も解消することができる。さらに、塗料タンクや洗浄液、及びこれらのための配管を不要とすることができ、簡単に低コストで装備することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、送出し機構によって複数個の塗料弾が収納された収納部から1つずつ塗料弾を発射することができるので、一定間隔での連射も可能とすることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、被検査体に衝突した外皮部は自然環境下で分解するために、環境を汚染することも防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のマーキング装置が搭載されるレール探傷車を含む全体概略図である。
【0019】
図1において、このマーキング装置10は、異常検出手段としての超音波探傷装置12と共にレール探傷車2などに搭載され、被検査体であるレール1に沿って移動するものである。
【0020】
超音波探傷装置12は、レール1上を移動しながら超音波パルスをレール1内部に入射し、その反射エコーを受信して、傷の有無を判定するものである。このため超音波探傷装置12は、おおまかに、レール探傷車2の台車に取り付けられて、レール1に接触しながらレール1に沿って移動する超音波センサ14と、超音波センサ14からの信号を処理する信号処理回路16と、遅延回路18とを備えている。信号処理回路16では、超音波センサ14からの受信信号に基づき、レール1の傷の有無を主として判定するが、傷以外に腐食の有無、摩耗の有無、レールの軌道狂い等の異常を判定するものとすることができ、傷または傷を含む任意の異常を判定したときに、マーキング装置10を作動させるための作動信号を出力する。遅延回路18は、信号処理回路16からの作動信号を、図示しない車速センサからの信号を取り込んで、所定距離に対応する時間だけ遅延させるためのものである。
【0021】
マーキング装置10は、レール探傷車2の台車に取り付けられて、前記超音波センサ14から走行方向に前記所定距離を置いて、設けられる。レール探傷車2の走行方向に対応するべく、レール探傷車2の前側と後側にそれぞれ設けられるとよい。
【0022】
詳細には、マーキング装置10は、図2に示すように、マーキング材としての塗料弾20が多数個収納された収納部としてのホッパー22と、ホッパー22に連結され塗料弾20を1つずつ送り出す送出し機構部24と、塗料弾20の発射のための駆動力を発生する発射駆動部26と、発射部としての発射ノズル28と、制御部30とを有している。
【0023】
塗料弾20は、図3に示すように、塗料液が固体またはゲル状物質で被覆されたものからなっている。即ち、塗料弾20は、着色剤を含有する塗料液20aと、塗料液20aを包囲する外皮部20bとからなる。外皮部20bを構成する固体またはゲル状物質は、耐衝撃性が低く、レール1に衝突したときには破裂するものとなっている。外皮部20bとして具体的には、ゼラチン等とすることができ、好ましくは、自然環境下で時間の経過と共に腐敗して自然分解されるものがよい。また、適度な弾力や粘着力を有するようにしてもよい。
【0024】
送出し機構部24は、ホッパー22から伸びる送り通路31と、送り通路31に配設されたコイル部材32と、コイル部材32を回転するモータ34と、モータドライバ36とを有する。コイル部材32は、ホッパー22の下端部に基端が位置づけられており、そのピッチが塗料弾20の外径よりもやや大きくなったらせん状に巻回されて形成されている。
【0025】
発射駆動部26は、切換バルブ40と、駆動源となる空気圧源42とを有する。切換バルブ40によって、空気圧源42と発射ノズル28との連通/非連通が切り換えられる。そして、発射ノズル28の基端に前記コイル部材32の先端が位置づけられている。
【0026】
制御部30は、遅延回路18からの作動信号を受けると、切換バルブ40を所定時間開放するべく開放信号を送出すると共に、モータドライバ36に所定角度モータ34を回転させるモータ作動信号を送出するものである。
【0027】
以上のように構成されるマーキング装置10においては、発射ノズル28の発射口がレール1の根元付近に指向した状態を維持しつつ(図4(a)参照)、レール探傷車2によって、超音波探傷装置12と共にレール1の長手方向に沿って移動する。そして、送出し機構部24の初期動作により、ホッパー22からの塗料弾20が1つずつ分離して送り出されており、コイル部材32の先端に係止された先頭の塗料弾20が発射ノズル28の基端で待機している。
【0028】
超音波探傷装置12の信号処理回路16は、移動と共に、超音波センサ14からの受信信号を受けて、レール1に異常が発生しているか否かをリアルタイムで判定しており、異常が発生していると判定された場合には、作動信号を遅延回路18に送出する。遅延回路18は、該作動信号を、車速センサからの信号を取り込み該信号のタイミングによって、超音波センサ14で異常が発生していると検出された走査位置をマーキング装置10が通過するまでにレール探傷車2が移動するのに必要な時間だけ遅延させた後、作動信号をマーキング装置10の制御部30に出力する。
【0029】
マーキング装置10の制御部30は、作動信号を受けると、開放信号を送出して切換バルブ40を開放するので、空気圧源42と発射ノズル28とが連通されて、先頭で待機中の塗料弾20が、圧縮エアによって発射ノズル28から発射される(図4(a))。
【0030】
発射された塗料弾20は、レール1の根元部に衝突すると、外皮部20bが破裂するために、内部の塗料液20aがレール1に塗布され、マーク44が付される(図4(b))。
【0031】
発射ノズル28から発射されるときには、塗料弾20は液体の形態を成してはいないために、発射ノズル28における液漏れなどの発生はなく、よって発射ノズル28における塊の生成はなく、常に正しい指向方向に塗料弾20を発射させることができる。また、塗料弾20とすることにより、受風面積を小さくすることができ、且つ密度を高くすることができるので、風の抵抗を受けにくく風によって流されることを防ぐことができ、命中精度を上げることができる。
【0032】
レール1との衝突力により外皮部20bが破裂されるために、レール1が水で濡れている場合であっても、衝突力を水を押しのける力に利用することができる。従来のマーキング液を噴射させるマーキング装置では、レール1が水で濡れている場合でもマーキングを行なうために速乾性マーキング液などを使用する必要があり、それがノズルの目詰まりを発生させやすくする原因となっていたが、本発明のように塗料弾20を使用すると、塗料液20aに特殊な液体を使用する必要がなくなり、塗料液の選択の自由度が高くなる。
【0033】
先頭の塗料弾20の発射後、制御部30の開放信号の停止と共に切換バルブ40が閉じられた後は、制御部30からのモータ作動信号によりモータ34が所定角度回転されて、次の塗料弾20が発射ノズル28へと送り出される。連続的に異常が検出された場合には、所定時間毎に塗料弾20が連射されて、レール1にほぼ所定間隔で塗料液20aが付着される。
【0034】
レール1に衝突して破裂した外皮部20bの残骸はレール1付近に散乱するが、外皮部20bを自然環境下で腐敗性のあるものとすることにより、自然分解されるために、環境に悪影響を及ぼすことがない。
【0035】
以上のように本実施形態によるマーキング装置10は、揮発性、引火性の洗浄液などを不要とすることができ、塗料弾20は、発射前は固体の形態を成しているので、その取扱は簡単であり、装備も低コストで行なうことができる。
【0036】
以上の例では、被検査体として鉄道レールを例にとったが、これに限るものではなく鋼材といった任意の被検査体へのマーキングに適用することができる。
【0037】
また、本発明は、以上の例のように被検査体に対して移動して走行風を受けるマーキング装置においてその効果を十分に発揮するが、これに限るものではなく、マーキング装置が移動せずに被検査体が移動する場合であっても同様に適用することができる。
【0038】
また、この例では、1種類の作動信号によって、1種類の塗料弾を発射するようにしていたが、これに限るものではなく、異常の種類に応じて多種類の作動信号が異常検出手段から出力される場合に、この種類に応じて異なる塗料弾を発射することができる。異なる塗料弾としては、内部の塗料液の色が異なるものとすることができる。そして、複数の塗料弾毎にホッパー22、送出し機構部24及び発射ノズル38を設けて、異常信号に応じて、対応するホッパー22からの塗料弾を発射させるようにしてもよい。
【0039】
また、この例では、超音波探傷による異常検出を説明したが、これに限らず、任意の非破壊検査を含む検査手段による異常検出に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のマーキング装置が搭載されるレール探傷車を含む全体概略図である。
【図2】本発明のマーキング装置の全体概略図である。
【図3】本発明の塗料弾の断面図である。
【図4】本発明のマーキング装置とレールとの関係を表す斜視図であり、(a)は塗料弾発射直後、(b)は塗料弾がレールに衝突後の状態を表す。
【符号の説明】
【0041】
1 レール(被検査体)
10 マーキング装置
12 超音波探傷装置(異常検出手段)
20 塗料弾
22 ホッパー(収納部)
24 送出し機構部
26 発射駆動部
28 発射部(発射ノズル)
44 マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に走行する被検査体の異常を検出する異常検出手段からの作動信号に応じて、被検査体の異常が検出された部位付近に向けてマーキング材を発射するマーキング装置において、
前記マーキング材が、塗料液を固体またはゲル状物質の外皮部によって被覆した塗料弾で構成され、外皮部は被検査体に衝突する時に破裂可能なものであることを特徴とするマーキング装置。
【請求項2】
前記塗料弾が複数個収納される収納部と、該収納部から塗料弾を1つずつ送り出す送出し機構と、塗料弾を発射させる駆動力を発生する発射駆動部と、前記作動信号に応じて発射駆動部からの駆動力によって送出し機構によって送り出された塗料弾を発射する発射部と、を備えることを特徴とする請求項1記載のマーキング装置。
【請求項3】
前記外皮部は、自然環境下で腐敗性を有するものであることを特徴とする請求項1または2記載のマーキング装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−284289(P2006−284289A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102590(P2005−102590)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
【出願人】(504412451)株式会社トキメックレールテクノ (14)
【Fターム(参考)】