説明

ミジンコの培養用餌料

【課題】魚類種苗生産用の生物餌料として使用されている動物性プランクトンのミジンコの培養用餌料に関するものであり、各餌料材料を併用することによりミジンコの安定した培養の継続を可能にして安定した収穫量を得ること、また餌料の低コスト化を実現しようとするものである。
【解決手段】濃縮クロレラを主材料として、焼酎粕と酵母の三者併用または焼酎粕もしくは酵母を使用しないで二者を併用して与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有用魚種や甲殻類等の種苗生産用の生物餌料として使用されている動物性プランクトンであるミジンコの培養用餌料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、魚類の種苗生産現場では稚魚用の初期餌料として主に輪虫類のワムシ、甲殻類のアルテミアなどの動物性プランクトンが使用されている。孵化後の魚種の口の大きさに合わせて給餌を行い、ワムシは大きさが150〜350μmなので孵化直後の餌料として、またアルテミア幼生は400〜800μmなのでワムシ給餌後の餌料として使用されている。ワムシに関してはその大量培養技術が確立され、わが国の海産魚介類の種苗生産に必要不可欠のものとなっており、国内での自給自足は可能となっている。
【0003】
アルテミア幼生も同様に種苗生産現場で使用されるが、その耐久卵を米国、中国など海外から輸入して使用しており、その資源変動により価格が高騰することがあり、また我が国未進入の病原体を持ち込む可能性も指摘されており、アルテミアに代わりうる大きさであるミジンコを国内で自給自足して、種苗生産現場で安定供給できるようになることが強く望まれている。(特許文献1、特許文献2、特許文献3)
【0004】
アルテミア幼生に代わりうる大きさを持つミジンコとしては、淡水魚介類の餌料として淡水産ミジンコのモイナマクロコパ(Moina macrocopa、和名:タマミジンコ)、海産魚介類の餌料として汽水産ミジンコのディアファノソーマセレベンシス(Diaphanosoma celebensis)、モイナモンゴリカ(Moina mongolica)などの利用が考えられる。それぞれの大きさは500〜1200μmでアルテミア幼生に代わるワムシ給餌後の餌料として期待されており、モイナマクロコパ(Moina macrocopa)はこれまでも淡水魚介類の種苗生産に使用されていた。
【0005】
その培養方法としては、粗放的な方法と集約的な方法の2種類があり、粗放的な方法は屋外の池を利用した方法で、鶏糞、醤油粕を撒いて池に水を張りミジンコの休眠卵が孵化して増殖してくるのを待つために必要量のミジンコを得るために時間がかかり、また天候の影響を受けやすくミジンコ生育のための良好な環境を維持することが困難であるため安定的な生産は難しかった。(非特許文献1)
【0006】
近頃開発された集約的な方法(特許文献1、特許文献2、非特許文献2)は空気や酸素の吹き込みそして定期的な餌料給餌を行う小規模水槽を利用した方法で、あまり場所を取られることなくミジンコが培養でき、計画的な生産が可能となって種苗生産現場で普及が図られつつある。これらの方法での餌料はクロレラが使用されて実績を上げているが、クロレラ単独の使用では安定的な培養を継続するには未だ問題点を残している。
【0007】
特許文献3はミジンコ生育のための良好な環境を維持するために、ミジンコの無菌的な培養方法を提案している。餌料としてはクロレラ、またその栄養不足を補うため有機物やビタミンを使用するが、無菌培養のため実用的ではない。
【0008】
粗放的・集約的な方法とも餌料として酵母が使用されることがあるが、安定的なミジンコの培養は困難である。また、安定的な培養が可能であるクロレラは価格が高い。
【0009】
【特許文献1】特開2002−125509
【特許文献2】特開2002−238396
【特許文献3】特開平10−113095
【非特許文献1】「ミジンコの繁殖法」、470頁、水産百科事典、海文堂出版、1972
【非特許文献2】「ミジンコの大量培養システムの開発」、アクアネット、4巻、12号、36〜39頁、2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、集約的ミジンコ培養で餌料として使用されているクロレラは単独使用では安定的な培養を継続することが困難なことがあるため、餌料材料を併用することにより安定した培養の継続を可能にして安定した収穫量を得ること、また餌料の低コスト化ができるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはワムシの培養での使用が普及している濃縮クロレラをミジンコ培養用餌料の主材料とし、併用する餌料材料の選択を行い、その中で焼酎粕と酵母を選び出した。
【0012】
その結果、濃縮クロレラとこれまでミジンコの餌料に使用されることのなかった新規の餌料材料である焼酎粕と酵母の三者を併用して給餌することが有効であることを知見した。また濃縮クロレラが使用されていれば三者併用でなくても、即ち焼酎粕もしくは酵母のどちらかがなくても三者併用の場合と同様に有効であることを知見した。
【発明の効果】
【0013】
ミジンコの餌料として各餌料材料を単独で使用しないで併用することにより、ミジンコの安定した培養を継続することを可能にして安定した収穫量を得ること、また餌料の低コスト化ができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係わるミジンコの餌料は、広い水面を利用した粗放的な培養でも、「タマミジンコの大量培養システム」(特許文献1)に見られるような100Lから1トン規模の集約的培養でも、また10Lから100L程度の鑑賞魚用水槽レベルの培養でも、1L程度のビーカー・レベルの培養でも使用できる。
【0015】
本発明はミジンコ全般に使用することができ、淡水産ミジンコのモイナマクロコパ(Moina macrocopa)、また汽水産ミジンコのディアファノソーマセレベンシス(Diaphanosoma celebensis)、モイナモンゴリカ(Moina mongolica)などの培養に使用することができるが、これらに限定するものではない。
【0016】
用いるクロレラは、クロレラ属に属するものであれば、特に制限はない。クロレラの一例として、クロレラブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラピレノイドーサ(Chlorella pyrenoidosa)、クロレラレギュラリス(Chlorella regularis)、クロレラサッカロフィラ(Chlorella saccharophila)、クロレラソロキニアーナ(Chlorella sorokiniana)等が挙げられる。これらのクロレラは、例えば、東京大学IAMカルチャーコレクションや財団法人地球・人間環境フォーラム(GEF)のカルチャーコレクションから容易に入手することができる。
【0017】
クロレラの形態は、濃縮冷蔵したものや、乾燥粉末としたものが使用できるが、ミジンコの増殖が優れている点から、生のまま濃縮冷蔵したものが好ましい。例えば、ワムシ生産用に製造・販売されているクロレラ濃縮液(商品名「生クロレラV―12」、クロレラ工業社製など)を使用することができるが、特にこれに限定するものではない。なお、「生クロレラV−12」1Lは、乾燥重量換算で145gのクロレラを含んでいる。
【0018】
クロレラの培養方法としては、光独立栄養培養、従属栄養培養、混合栄養培養などが知られているが、培養方法に特に制限はない。
【0019】
本発明で使用する焼酎粕は、焼酎製造の過程で発酵した醪から蒸留によりアルコールや香気成分を取り出した後の蒸留釜に残ったもので、タンパク質・糖質などを多く含み優秀な栄養源となる。ミジンコが摂餌できる酵母が多く残っており、その他液部も栄養価が高く、濃縮クロレラとの併用でミジンコの培養に好影響を及ぼす。また、焼酎粕は米、麦、蕎麦、芋などで製造されたものがあるが、特に限定するものではない。さらに、蒸留法も常圧蒸留、減圧蒸留があるが特定するものではない。焼酎粕は焼酎製造業者から簡単に手に入れることが出来る。
【0020】
焼酎粕をそのまま餌料として与えると、ミジンコの摂餌できない粒子径の大きいものが底に沈んでヘドロのようになり飼育環境を悪化させるので、ミジンコの増殖が非常に悪くなる。これを避けるため、使用前にオープニング350μmのメッシュでろ過してミジンコが摂餌できない大きさのものを除いてから使用する。ろ過後の乾燥重量は1L当たりほぼ60gとなる。
【0021】
酵母は製パンや酒類の醸造に使用されるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のことを指し、製パンで使用されるドライ・イースト、生イーストは容易に入手することが出来る。
【0022】
酵母を併用する場合、酵母は生きているもの(以下、生酵母と記す)でも死んだもの(以下、死酵母と記す)でも使用可能である。
【0023】
酵母を併用する場合、生酵母でも死酵母でも水に溶かして濃縮クロレラと同じ濃度(145g/L)に調製して使用することが望ましいが、特に限定するものではない。
【0024】
各餌料材料の併用比率は、三者併用の場合、濃縮クロレラ100に対して焼酎粕を1〜300の範囲で、酵母を1〜300の範囲で併用して与えるのが望ましく、また二者併用の場合、濃縮クロレラ100に対して焼酎粕もしくは酵母を1〜600の範囲で併用して与えるのが望ましいが特に限定するものではなく、ミジンコの活力によって変更は可能である。この説明での酵母は濃縮クロレラと同じ濃度に調製したものである。
【0025】
本発明品のミジンコに対する給餌量はビーカー、観賞魚用水槽レベルの場合、例えば淡水産のモイナマクロコパ(Moina macrocopa)では1000個体に対し、本発明品を50〜100μlを初回給餌量の目安として、また100Lから1トンの集約的培養では、開始湿重量が50g(約25万個体)であるならば25mlから50mlを初回給餌量の目安として与え、その後の増殖量を観察しながら、その量を調整することが好ましい。
【0026】
汽水産のミジンコの場合は、ビーカー、観賞魚用水槽レベルでも、100Lから1トンの集約的培養でも初回給餌量の目安は淡水産ミジンコの場合の、3分の1から2分の1の量を与え、その後の増殖量を観察しながら、その量を調整することが好ましい。
【0027】
本発明品をミジンコに給餌するには、給餌直前に各餌料材料を混ぜ合わせて与えるか、それぞれ別に給餌する。給仕ポンプ、タイマーを組み合わせて連続・断続的に与えても良いし、混ぜ合わせたものもしくは混ぜ合わせないで別々のものをジョウロに入れて給餌毎に散布しても良い。
[比較例1、比較例2、実施例1〜実施例3]
【0028】
「タマミジンコの大量培養システム」の100L水槽を使用して淡水産のモイナマクロコパ(Moina macrocopa)の大量培養実験を行った。培養液量は80L、培養温度は29℃で、通気はコンプレッサーを用いて行い、通気量は0.6〜1.2L/分、給餌は朝・夕2〜4回行った。培養日数は3日間で、4日目に収穫した。タマミジンコの開始量は湿重量で50gであり、これは個体数としてはほぼ25万個体に当たる。濃縮クロレラ単独給餌を対照区とし、実験区を以下の5区(比較例1:焼酎粕単独給餌区、比較例2:酵母単独給餌区、実施例1:濃縮クロレラ+焼酎粕+酵母、実施例2:濃縮クロレラ+焼酎粕、実施例3:濃縮クロレラ+酵母)を設定し、順次試験を行いモイナマクロコパ(Moina macrocopa)の増殖を比較した。表1に実施例の餌料材料の併用比率を示す。対照区と実験区で与えた餌料の乾燥重量は同じである。濃縮クロレラは「生クロレラV―12」(クロレラ工業社製)を使用した。焼酎粕は焼酎製造業者より入手したものを使用した。酵母はカネカインスタントドライイースト(発売元:鐘淵科学工業)を使用した。その結果、実施例1、実施例2、実施例3は濃縮クロレラ単独給餌の対照区より増加率(収穫時のミジンコの重量(g)/開始時のミジンコの重量(g))に優れ、安定した収穫量が得られた。表2に試験の結果を示す。表2で濃縮クロレラの収穫時のミジンコの重量と増加率は対照区とした濃縮クロレラ単独給餌の平均値である。実施例1〜実施例3についてはその後4回試験を行い、すべてで実験区の増加率が対照区を上回り、実験区は安定した収穫量が得られた。
【表1】

【表2】

[実施例4]
【0029】
15Lのバットを使用して汽水産のディアファノソーマセレベンシス(Diaphanosoma celebensis)の培養実験を行った。培養液量は10L、培養温度は27℃で、通気はエアーポンプを用いて行い、通気量は10ml/分、給餌は朝・夕2回行った。海水は塩分濃度を1%に調製した人工海水(マリンアートハイ、千寿製薬社製)を用いた。培養日数は10日間で、11日目に収穫した。ミジンコの開始量は湿重量で3gであり、これは個体数としてはほぼ6万個体に当たる。濃縮クロレラ単独給餌を対照区とし、実施例1と同じ濃縮クロレラ+焼酎粕+酵母の餌料を併用して与えた。対照区と実験区で与えた餌料の乾燥重量は同じである。その結果、実験区は濃縮クロレラ単独給餌の対照区より増加率に優れていた。濃縮クロレラ、焼酎粕、酵母は実施例1と同じものを使用した。表3に試験の結果を示す。その後2回試験を行い、2回とも実験区の増加率が対照区を上回り、実験区は安定した収穫量が得られた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0030】
水産種苗生産現場で使用されている餌料生物ミジンコの餌料として使用できる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロレラと焼酎粕と酵母の三者またはクロレラと焼酎粕の二者もしくはクロレラと酵母の二者を併用して与えることを特徴としたミジンコの培養用餌料
【請求項2】
焼酎粕のうち1〜350μmの大きさのものを単離して使用する請求項1のミジンコの培養用餌料
【請求項3】
酵母としてサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を使用する請求項1のミジンコの培養用餌料

【公開番号】特開2007−97463(P2007−97463A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290882(P2005−290882)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000105051)クロレラ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】