説明

モータポンプ

【課題】羽根車のふらつきを抑えて、安定した始動を可能とするモータポンプを提供する。
【解決手段】本発明に係るモータポンプは、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、複数の永久磁石5に作用する磁界を発生するモータ固定子6と、吸込口13及び吐出口12を有し、羽根車1及びモータ固定子6を収容するケーシング2と、羽根車1を支持する球面軸受10とを備える。モータ固定子6は、羽根車1の吸込側に配置され、球面軸受10は、羽根車1に形成された液体入口1aに接続される液体流路11を有し、吸込口13と羽根車1の液体入口1aとは液体流路11を通じて連通しており、羽根車1の前面とケーシング2との最小隙間は、羽根車1の背面とケーシング2との最小隙間よりも大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石が埋設された羽根車を、モータ固定子が発生する磁界により回転させるモータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石が埋設された羽根車を、モータ固定子が発生する磁界により回転させるモータポンプの従来例として、特許文献1に記載されているポンプが知られている。この特許文献1に記載のモータポンプは、永久磁石が埋設された羽根車と、羽根車に対向して配置されたモータ固定子とを有し、モータ固定子が発生する磁界により羽根車が回転するようになっている。羽根車はケーシングに収容され、球面軸受により回転自在に支持されている。この球面軸受はいわゆる動圧軸受であり、羽根車を回転自在に支持しつつ、傾動自在に支持することが可能となっている。
【0003】
しかしながら、上述の構成では、羽根車の回転が不安定になりやすいという問題がある。
その第1の原因は、モータ固定子の固定子巻線の通電により固定子鉄心の磁極が断続的に切り替わるため、羽根車に埋設された永久磁石と固定子鉄心とが吸引及び反発を繰り返すからである。
第2の原因は、永久磁石と固定子鉄心との間に生じる吸引力は、それらの間隔が小さくなるほど強くなるため、羽根車の傾きが助長されやすいことにある。すなわち、球面軸受に支持されている羽根車は傾動自在であるので、羽根車の傾き角が大きくなるにつれて永久磁石と固定子鉄心との吸引力が強まり、ついには羽根車とケーシングとが接触してしまう。羽根車がケーシングに接触した状態で回転すると、転がり摩擦によりケーシングが摩耗し、やがてケーシング内のモータ固定子が露出して液体と接触してしまう。
【0004】
羽根車の回転速度が速くなればなるほど、羽根車のジャイロモーメントが大きくなり、羽根車の回転が安定し、結果として羽根車がケーシングに接触することはなくなる。つまり、羽根車の回転が不安定になるのは主に始動時である。したがって、始動時での羽根車のふらつきを抑えることが要望されていた。
【0005】
【特許文献1】特許第2544825号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、羽根車のふらつきを抑えて、安定した始動を可能とするモータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、複数の永久磁石が埋設された羽根車と、前記複数の永久磁石に作用する磁界を発生するモータ固定子と、吸込口及び吐出口を有し、前記羽根車及び前記モータ固定子を収容するケーシングと、前記羽根車を支持する球面軸受とを備えたモータポンプであって、前記モータ固定子は、前記羽根車の吸込側に配置され、前記球面軸受は、前記羽根車に形成された液体入口に接続される液体流路を有し、前記吸込口と前記羽根車の液体入口とは前記液体流路を通じて連通しており、前記羽根車の前面と前記ケーシングとの最小隙間は、前記羽根車の背面と前記ケーシングとの最小隙間よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明の好ましい態様は、前記羽根車の背面の中央部には凹部が形成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記羽根車はプラスチック材料から形成されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記プラスチック材料は、フッ素樹脂であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記複数の永久磁石の磁極中心を結んで形成される円の直径は、前記モータ固定子の磁極中心を結んで形成される円の直径よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明によれば、羽根車の前面がケーシングに接触する前に、羽根車の背面がケーシングに接触するので、永久磁石とモータ固定子との吸引力がある大きさ以下に制限される。したがって、羽根車の傾きは助長されず、安定した始動が可能となる。また、羽根車の前面によってケーシングが削られることないので、ケーシングに収容されているモータ固定子に液体が浸入することがない。したがって、接液を原因とするモータ固定子の故障が防止され、長寿命のモータポンプを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るモータポンプを示す断面図であり、図2は図1に示すモータポンプを矢印II方向から観た図である。このモータポンプは、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、これらの永久磁石5に作用する磁力を発生させるモータ固定子6と、羽根車1及びモータ固定子6を収容するケーシング2とを備えている。ケーシング2は、羽根車1を収容するポンプケーシング2Aと、モータ固定子6を収容するモータケーシング2Bとから基本的に構成されている。ポンプケーシング2Aとモータケーシング2Bとは、図2に示す複数の連結ボルト8によって互いに固定されている。ポンプケーシング2Aとモータケーシング2Bとの間にはシール部材としてのOリング9が設けられている。
【0011】
羽根車1は球面軸受10によって回転自在かつ傾動自在に支持されている。この球面軸受10は、羽根車1に固定された回転側摺動部材10Aと、モータケーシング2Bに固定された固定側摺動部材10Bとを備えている。回転側摺動部材10A及び固定側摺動部材10Bはいずれもセラミックから形成されている。回転側摺動部材10Aと固定側摺動部材10Bとは互いに摺動し、それらの摺動面は球面となっている。回転側摺動部材10Aの摺動面にはスパイラル溝が形成されており、羽根車1と共に回転側摺動部材10Aが回転すると摺動面間に動圧が発生し、これにより羽根車1及び回転側摺動部材10Aが固定側摺動部材10Bに非接触で支持される。回転側摺動部材10Aと固定側摺動部材10Bの摺動面は球面であるので、回転側摺動部材10Aは固定側摺動部材10Bに対してある程度傾動自在となっている。また、摺動面を球面とすることにより、球面軸受10はスラスト荷重のみならずラジアル荷重を受けることが可能となっている。
【0012】
ポンプケーシング2Aには吐出口12が形成され、モータケーシング2Bには吸込口13が形成されている。球面軸受10には、その軸心に沿って貫通する液体流路11が形成されている。この液体流路11の一端は、羽根車1の中央に形成された液体入口1aに接続されており、他端は吸込口13に接続されている。すなわち、吸込口13と羽根車1の液体入口1aとは液体流路11を通じて連通している。羽根車1、球面軸受10、及び吸込口13は、同心上に配列されている。
【0013】
図3は羽根車1に埋設されている永久磁石5を示す平面図である。図3に示すように、複数の永久磁石5は環状に配列されており、S極とN極とが交互に配置されている。本実施形態では、それぞれの永久磁石5は扇形の形状を有しており、永久磁石5の数は8つ(すなわち8極)である。図1に示すように、羽根車1には複数の永久磁石5に隣接して環状のマグネットヨーク(磁性体)15が埋設されている。永久磁石5はマグネットヨーク15の吸込側に配置されている。永久磁石5とモータ固定子6とは互いに対向するように配置されている。モータ固定子6はモータケーシング2B内に配置されており、モータ固定子6が収容される空間はモータカバー16によって塞がれている。
【0014】
図4は、モータ固定子6を示す平面図である。図4に示すように、モータ固定子6は、複数の歯6aを有する固定子鉄心6Aと、これらの歯6aにそれぞれ巻回された固定子巻線6Bとを有している。歯6a及び固定子巻線6Bは環状に配列されている。本実施形態では、6つの歯6aにそれぞれ固定子巻線6Bが巻かれており、磁極数は6となっている。環状に配列された永久磁石5の中心と、環状に配列された歯6a及び固定子巻線6Bの中心とは互いに一致している。さらに、永久磁石5およびモータ固定子6は、羽根車1、球面軸受10、及び吸込口13と同心上に配列されている。
【0015】
固定子巻線6Bには、3本のリード線17(図2参照)が接続されており、そのリード線17の端子は図示しない駆動回路に接続される。この駆動回路は、スイッチング素子を用いて各固定子巻線6Bに供給する電流のタイミングを制御する機器である。より具体的には、駆動回路は、回転する永久磁石5の位置に基づいて各固定子巻線6Bに供給する電流のタイミングを制御する。永久磁石5の位置を検出する方法としては、ホール素子などの位置センサを用いる方法や、位置センサを用いずに固定子巻線6Bに発生する逆起電力を利用した方法などが挙げられる。本実施形態に係るモータポンプは、位置センサを用いたセンサ駆動方式または位置センサを用いないセンサレス駆動方式のいずれを採用してもよい。
【0016】
上述した駆動回路は、永久磁石5の位置に基づいて固定子巻線6Bへの直流電流の通電を適宜切り替え、これによって永久磁石5、すなわち羽根車1が回転する。羽根車1が回転すると、液体は吸込口13から液体流路11を通って羽根車1の液体入口1aに導入される。液体は羽根車1の回転によって昇圧され、吐出口12から吐出される。羽根車1が液体を移送している間、羽根車1の背面は昇圧された液体によって吸込側に(すなわち吸込口13に向かって)押圧される。球面軸受10は、羽根車1の吸込側に配置されているので、羽根車1のスラスト荷重を吸込側から支持する。本実施形態に係る構成によれば、1つの球面軸受10により羽根車1を非接触で支持することができるので、パーティクルを発生させることのないコンパクトなモータポンプを実現することができる。
【0017】
羽根車1の前面とケーシング2との最小隙間δ1は、羽根車1の背面とケーシング2との最小隙間δ2よりも大きく設定されている。より具体的には、羽根車1の前面の外周端とモータケーシング2Bとの隙間δ1は、羽根車1の背面の外周端1bとポンプケーシング2Aとの隙間δ2よりも大きく設定されている。ここで、羽根車1の前面とは、羽根車1の吸込側の面、すなわち液体入口1aが設けられている側の面であり、羽根車1の背面とは、羽根車1の前面とは反対側の面、すなわち、羽根車1の吐出側の面をいう。
【0018】
このような構成によれば、羽根車1が傾いたときに、羽根車1の背面(背面の外周端1b)がポンプケーシング2Aと接触し、羽根車1の前面はモータケーシング2Bには接触しない。この場合、隙間δ2を小さくすることによって、羽根車1の傾き角を小さくすることができる。羽根車1は、滑りやすく、かつ摩耗しにくい材料から形成されることが好ましい。例えば、テフロン(登録商標)に代表されるフッ素樹脂などのプラスチック材料が好適に使用される。ポンプケーシング2A及びモータケーシング2Bも羽根車1と同じ材料から形成することができる。
【0019】
羽根車1の前面がモータケーシング2Bに接触する前に羽根車1の背面がポンプケーシング2Aに接触するので、永久磁石5とモータ固定子6との吸引力がある大きさ以下に制限されることとなる。したがって、羽根車1の傾きは助長されず、安定した始動が可能となる。また、羽根車1の前面がモータケーシング2Bに接触することないので、モータケーシング2Bが破壊されず、モータケーシング2Bに収容されているモータ固定子6に液体が浸入することがない。したがって、接液を原因とするモータ固定子6の故障が防止され、長寿命のモータポンプを実現することができる。
【0020】
羽根車1の背面とポンプケーシング2Aとの最小隙間δ2を小さくするほど、羽根車1の傾きが抑制されるが、その一方で、羽根車1の背面とポンプケーシング2Aとの間に存在する液体の粘性により羽根車1の回転が抵抗を受ける。そこで、図1に示すように、液体が羽根車1の回転を阻害しないように、羽根車1の背面に凹部20を設けることが好ましい。図1に示す例では、凹部20は円形であり、羽根車1の背面の中央部に形成されている。凹部20は、羽根車1の背面の外周端1bの径方向内側に位置している。なお、ポンプケーシング2Aに凹部を形成することもできる。すなわち、羽根車1の背面に対向する、ポンプケーシング2Aの部位に該背面の直径よりも小さい径を有する凹部を形成してもよい。この場合、羽根車1の背面とポンプケーシング2Aの両方に凹部を形成することもできる。
【0021】
図1に示すように、羽根車1に埋設されている永久磁石5の磁極中心を結んで形成される円の直径Φ1は、モータ固定子6の磁極中心を結んで形成される円の直径Φ2よりも小さく設定されている(Φ1<Φ2)。この理由は、羽根車1が傾いたときに、永久磁石5の磁極中心はモータ固定子6の磁極中心から外れる方向に移動するからである。これに対し、直径Φ1が直径Φ2よりも大きいと(Φ1>Φ2)、羽根車1が傾いたときに、永久磁石5の磁極中心はモータ固定子6の磁極中心に近づく方向に移動する。その結果、吸引力が大きくなり、羽根車1の傾きを助長してしまう。したがって、直径Φ1を直径Φ2よりも小さくすることにより、より安定した羽根車1の回転を可能とすることができる。
【0022】
以上述べた実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータポンプを示す断面図である。
【図2】図1に示すモータポンプを矢印II方向から観た図である。
【図3】羽根車に埋設されている永久磁石を示す平面図である。
【図4】モータ固定子を示す平面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 羽根車
2 ケーシング
5 永久磁石
6 モータ固定子
8 連結ボルト
9 Oリング
10 球面軸受
11 液体流路
12 吐出口
13 吸込口
15 マグネットヨーク
16 モータカバー
17 リード線
20 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の永久磁石が埋設された羽根車と、
前記複数の永久磁石に作用する磁界を発生するモータ固定子と、
吸込口及び吐出口を有し、前記羽根車及び前記モータ固定子を収容するケーシングと、
前記羽根車を支持する球面軸受とを備えたモータポンプであって、
前記モータ固定子は、前記羽根車の吸込側に配置され、
前記球面軸受は、前記羽根車に形成された液体入口に接続される液体流路を有し、
前記吸込口と前記羽根車の液体入口とは前記液体流路を通じて連通しており、
前記羽根車の前面と前記ケーシングとの最小隙間は、前記羽根車の背面と前記ケーシングとの最小隙間よりも大きいことを特徴とするモータポンプ。
【請求項2】
前記羽根車の背面の中央部には凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモータポンプ。
【請求項3】
前記羽根車はプラスチック材料から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータポンプ。
【請求項4】
前記プラスチック材料は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項3に記載のモータポンプ。
【請求項5】
前記複数の永久磁石の磁極中心を結んで形成される円の直径は、前記モータ固定子の磁極中心を結んで形成される円の直径よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のモータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−48162(P2010−48162A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212801(P2008−212801)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000140111)株式会社荏原電産 (51)
【Fターム(参考)】