モータ制御装置および光学機器
【課題】低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、可動部を移動させる駆動手段と、駆動手段に駆動信号を与えて駆動手段を制御する制御手段と、可動部の基準位置を検出するために用いられる基準位置情報および可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段とを有し、制御手段は、基準位置情報に基づいて可動部の基準位置を設定し、振動状態情報に基づいて可動部の振動量が低減するように駆動信号を補正し、可動部の移動量に対して基準位置情報は第1の変化率を有し、振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。
【解決手段】モータ制御装置は、可動部を移動させる駆動手段と、駆動手段に駆動信号を与えて駆動手段を制御する制御手段と、可動部の基準位置を検出するために用いられる基準位置情報および可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段とを有し、制御手段は、基準位置情報に基づいて可動部の基準位置を設定し、振動状態情報に基づいて可動部の振動量が低減するように駆動信号を補正し、可動部の移動量に対して基準位置情報は第1の変化率を有し、振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ振動量を補正して低減させるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置におけるレンズ駆動手段として、ステッピングモータが採用されている。ステッピングモータは、入力パルス信号の数により回転角度が決定され、また、周波数により回転速度が決定される。また、角度誤差が累積されないという利点がある。
【0003】
しかしながら、ステッピングモータには、回転振動が大きいという問題がある。回転振動の原因としては、大きく2つが挙げられる。一つの振動原因は、励磁パルスに追従する際のロータのトルクリップル振動である。ステッピングモータの励磁パルスに応答する振動運動を軽減する励磁方式として、例えば特許文献1に開示されているようなマイクロステップ駆動方式が知られている。これは、ステッピングモータの各巻線に流す励磁電流をそれぞれ正弦波形状、および余弦波形状になるよう制御して、1ステップの間を多段階に分割することで振動低減を図る方式であり、回転振動の低減策として一般的に実用化されている技術である。もう一つの振動原因は、モータ個々の製造誤差による回転むらである。例えば特許文献2は、モータ個々の製造誤差による回転むらに起因した振動を低減するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平08−008796号公報
【特許文献2】特許第2918183号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では、ステッピングモータ毎に、複数の各相間の角度誤差量に基づくランクを予め求めておく必要がある。角度誤差量は、例えば、ステータ極歯の配置寸法を精密スケール等で計測する方法や実際にモータを駆動した状態で振動量を測定することで算出される。しかし、いずれの方法でもモータ個体の誤差ランクを測定するための工具や工数が必要となり、コストアップとなる。
【0006】
また、モータの誤差ランクを一定の値に定めるため、経時変化によりステッピングモータの特性が変化した場合でも、その変化分は補正対象とはならない。このため、モータ特性に対して常に最適な補正値を適用することができない。
【0007】
また特許文献2では、制御対象となるステッピングモータのランクに対応して予め記憶手段に記憶してある補正値を読み出し、各相励磁電流の位相を調整する。このように記憶手段が必要となるため、システム構成が複雑化する。また、製品生産工程において、特定のモータ制御装置にどのような特性を有するモータが組込まれたかについて、関連付け管理を行う必要があるため管理工数が発生し、モータ交換時には新モータの誤差ランク情報を製品本体へ再登録する必要が生じる。
【0008】
そこで本発明は、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としてのモータ制御装置は、可動部を移動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、前記可動部の基準位置を設定するために用いられる基準位置情報、および、該可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段とを有し、前記制御手段は、前記基準位置情報に基づいて前記可動部の前記基準位置を設定し、前記振動状態情報に基づいて該可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正し、前記可動部の移動量に対して、前記基準位置情報は第1の変化率を有し、前記振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。
【0010】
本発明の他の側面としてのモータ制御装置は、発光素子および受光素子、または、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部が固定された可動部を移動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、を有し、前記遮光部は、前記可動部が移動した際に、前記受光素子に到達する光量が第1の変化率を示す部分を含む第1検出範囲と前記第1の変化率よりも小さい第2の変化率を示す部分を含む第2検出範囲とを有する形状であり、前記制御手段は、前記可動部の移動により前記第1検出範囲から前記第2検出範囲、または、前記第2検出範囲から前記第1検出範囲へ前記受光素子による検出範囲が変化した際の前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の基準位置を決定し、前記可動部の移動により前記第2検出範囲における前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正する。
【0011】
本発明の他の側面としての光学機器は、前記モータ制御装置を有し、前記可動部はズームレンズまたはフォーカスレンズである。
【0012】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における撮像装置(光学機器)の構成図である。
【図2】実施例1におけるステッピングモータを側面からカットした状態で内部を可視化した図である。
【図3】実施例1におけるステータおよびロータの磁極位置の説明図である。
【図4】実施例1におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図5】実施例1におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図6】実施例1において、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するレンズ位置検出センサの構成図である。
【図7】実施例1における撮像装置によるレンズ基準位置の検出動作を示すフローチャートである。
【図8】実施例1における撮像装置によるステッピングモータの駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。
【図9】実施例1における撮像装置による駆動波形補正による振動低減特性である。
【図10】実施例1における撮像装置による駆動波形補正による振動低減特性である。
【図11】実施例2における撮像装置によるステッピングモータの駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。
【図12】実施例2におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図13】実施例1におけるフォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【図14】実施例2におけるフォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【図15】実施例3における周波数帯域フィルタのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0016】
まず、図1乃至図10、および、図13を参照して、本発明の実施例1におけるモータ制御装置について説明する。本実施例のモータ制御装置は、ステッピングモータを備え、各相に与える駆動信号の補正を行うことによりモータの振動を低減させる。本実施例のモータ制御装置は、図1に示されるように、ズームレンズ駆動機構としてレンズ位置検出センサおよびステッピングモータを用いた撮像装置(光学機器)のモータ制御部に適用されるが、これに限定されるものではない。例えば本実施例のモータ制御装置は、光学機器としての交換レンズにも適用可能である。
【0017】
本実施例の撮像装置は、ズームレンズ側にレンズの位置を検出するレンズ位置検出センサを配置し、レンズを移動させる駆動源としてステッピングモータを用いる。そして第1の処理として、レンズ位置検出センサから得られるレンズ基準位置情報に基づいてレンズの基準位置を検出する。また第2の処理として、レンズ位置検出センサから得られるレンズ位置の移動量情報に基づいてレンズの振動量を検出し、レンズの振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する。このような補正により、ステッピングモータから発生する回転振動を低減し、レンズの駆動音の静音化を行う。
【0018】
以下、図1を参照して、本実施例における撮像装置の構成及び動作について詳述する。
【0019】
<撮像装置の構成>
図1は、本実施例における撮像装置100の構成図である。本実施例は、レンズ位置制御装置をビデオカメラなどの撮像装置に適用した場合について説明する。撮像装置100は、被写体像の入射方向から順に、フィールドレンズ101、変倍レンズとしてのズームレンズ102、光量を調節する絞りユニット114、アフォーカルレンズ103、および合焦レンズとしてのフォーカスレンズ104を含む撮像光学系を有する。このようにフォーカスレンズ104が被写体側から見て後ろ側に配置されるレンズ構成はリアフォーカスレンズと呼ばれ、ビデオカメラやコンパクトデジタルカメラなどで一般的に用いられている。116は、撮像光学系により形成された被写体像を光電変換するCCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子である。
【0020】
ズームレンズ102とフォーカスレンズ104はそれぞれ、レンズ保持枠105、106により保持されている。レンズ保持枠105、106は、不図示のガイド軸により光軸方向に移動可能に構成されている。またレンズ保持枠105、106にはそれぞれ、ラック105a、106aが取り付けられている。ラック105a、106aは、ステッピングモータ107、108の出力軸であるスクリュー軸107a、108a(ネジ軸)のスクリュー部(ネジ部)に噛み合っている。ステッピングモータ107、108が駆動されてスクリュー軸107a、108aが回転することで、スクリュー軸107a、108aとラック105a、106aとの噛み合い作用によりレンズ保持枠105、106が光軸方向(図中の矢印方向)に駆動される。ステッピングモータ107、108はそれぞれ、駆動パルスに同期してズームレンズ102およびフォーカスレンズ104(可動部)を移動させるモータである。ステッピングモータ107、108は、後述の駆動回路119、120ととともに、ズームレンズ102およびフォーカスレンズ104を移動させる駆動手段を構成する。駆動手段としてのステッピングモータ107、108は、発光素子201および受光素子202、または、発光素子201と受光素子202との間に配置された遮光部105b(106b)が固定されたフォーカスレンズ104(可動部)を移動させる。
【0021】
続いて、マイクロプロセッサ111(制御手段)は、不図示の電源スイッチ、録画スイッチ、操作手段としてのズームスイッチなどのスイッチからの入力に応じて、撮像装置100の動作全体の制御を司る。マイクロプロセッサ111内に設けられた内部メモリ112には、ズームレンズ102の基準位置に対する望遠側および広角側の位置(テレ端およびワイド端)が記憶されている。また、フォーカスレンズ104の基準位置に対しては、物体距離とズームレンズ102の位置とで決定される位置データが、ステッピングモータ108の回転量に対応したステップ数として記憶されている。
【0022】
ステッピングモータ107、108はそれぞれ、駆動回路119、120により駆動される。駆動回路119、120はそれぞれ、マイクロプロセッサ111から入力される駆動信号に応じてステッピングモータ107、108を駆動する。すなわち、撮像光学系の変倍動作およびこれに伴う合焦動作は、ビデオカメラなどで一般的に用いられているカム軌跡データを利用した電子カム方式により、ステッピングモータ107、108を制御することで行われる。このように、マイクロプロセッサ111は、駆動手段に駆動信号を与えて駆動手段を制御する。
【0023】
絞りユニット114は、絞り羽根114a、114bを備えて構成される。絞り羽根114a、114bの状態は、ホール素子115により検出され、増幅回路122およびA/D変換回路123を介してマイクロプロセッサ111に入力される。マイクロプロセッサ111は、その入力信号に基づいて駆動回路121に制御信号を出力する。駆動回路121は、その制御信号に基づいて絞りアクチュエータ113を駆動する。
【0024】
撮像光学系を通過した光学像は、撮像素子116における光電変換により電気信号(アナログ信号)に変換される。そしてアナログ信号は、A/D変換回路117によりデジタル信号に変換され、信号処理回路118に入力される。信号処理回路118は、入力された電気信号(デジタル信号)に対して各種の画像処理を施すことにより、画像の露出状態を表す輝度信号情報の生成や記録可能なデータ形式への変換が行われる。その後、信号処理回路118からの出力信号(映像信号)が記録部150に送られ、その映像信号が記録部150で記録される。
【0025】
次に、図2および図3を参照して、レンズ移動用モータであるステッピングモータ107、108(PM型2相ステッピングモータ)の構造について説明する。図2は、ステッピングモータを側面からカットした状態で内部を可視化した図である。図2において、41はモータの出力軸であるシャフト、42はシャフト41と一体に取り付けられたマグネットロータである。シャフト41は、ケース40Aに設けられた軸受43Aと、反対側の40Bに設けられた軸受(不図示)により回転可能に支持されている。また、ケース40B内にはコイルを巻いたボビン44A、44Bが配設され、さらにその内部には、くし歯状のステータ45A、45B、45C、45Dが取り付けられている。
【0026】
本実施例のステッピングモータは、1ステップが9度のモータであり、この場合、ロータ42には10極対のN−S極が着磁されている。また、ステータ45A、45B、45C、45Dはそれぞれ、9度の角度差を有し、軸方向に重ね合わされている。また、ボビン44A、44Bに巻かれているコイルは、ステータ45A、45B、45C、45Dのくし歯に磁極を形成する(励磁電流を流す)ために設けられている。ボビン44Aに巻かれているコイルをA相と呼び、ステータ45A、45Bのくし歯を励磁する。また、ボビン44Bに巻かれているコイルをB相と呼び、ステータ45C、45Dのくし歯を励磁する。
【0027】
続いて図3を参照して、ステッピングモータの回転の原理について説明する。図3は、2相励磁駆動の場合におけるステータおよびロータの磁極位置の説明図である。まず、図3(a)は、ボビン44AのコイルA相と、ボビン44BのコイルB相に順方向へ電流を流した場合を示している。このとき、ステータ45AはN極、ステータ45BはS極、ステータ45CはN極、および、ステータ45DはS極にそれぞれ磁化されている。この状態でステータのS極位置に着目すると、S極の中心はステータ45B、45Dの相互中心である図中のP1、P2となり、ロータのN極位置がこれに対向する位置で安定している。
【0028】
次に、図3(b)は、図3(a)の状態のコイルB相の励磁はそのままで、ボビン44AのA相に流す電流を逆方向へ切り換えた状態を示している。ここでは、ステータ45AがS極に変化し、ステータ45BがN極に変化する。このため、S極の中心P1、P2ともに9度だけ移動し、これに伴い対向するロータのN極も9度移動する。同様に、図3(c)および図3(d)に示されるように、電流を流すコイルの相を切り換えることで、S極の中心を9度毎に移動させることができ、ロータを9度ずつ移動(回転)させることが可能となる。
【0029】
<基準位置センサの説明>
前述のように、ステッピングモータは入力された駆動信号の1パルスに対して予め決められた角度だけ回転する。このため、所望の回転角度に対応した駆動パルス数を入力することにより、可動部であるレンズ(ズームレンズ102、フォーカスレンズ104)を目的位置まで移動させることができる。ただし、ステッピングモータで扱われる位置制御はオープンループ制御方式である。このため、相対的な位置制御を行うしかない。そこで絶対位置を検出する必要がある場合には、予め絶対位置としての基準位置を決定しておき、この基準位置からの相対位置制御を行うことで、移動後の絶対位置を把握するように構成する。
【0030】
本実施例において、ステッピングモータ107、108によりズームレンズ102およびフォーカスレンズ104をそれぞれの目標位置に移動させる場合、まず撮像装置100の起動時に、レンズ位置を所定の基準位置に設定する必要がある。この処理をレンズ基準位置設定処理と呼び、具体的な処理は、例えばレンズ位置制御部としてのマイクロプロセッサ111のレンズ位置カウンタを規定値に設定することにより行われる。レンズ基準位置設定処理の完了後、現在位置から目標位置までレンズを移動させるために必要なパルス数の駆動信号をステッピングモータ107、108に入力することにより、レンズ位置の移動制御が行われる。このため、撮像装置100には、ズームレンズ102およびフォーカスレンズ104のそれぞれが基準位置に配置されている否かを検出するレンズ位置検出センサ(検出手段)が設けられている。本実施例では、レンズ位置検出センサとして光学式のフォトインターラプタが用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、容量センサや磁気センサを用いてもよい。
【0031】
図4および図5は、本実施例におけるレンズ位置検出センサの構成図である。レンズ位置検出センサは、発光素子201と受光素子202とが対向配置されたフォトインターラプタ109(フォトインターラプタ110)、および、遮光部105b(遮光部106b)を備えて構成されている。フォトインターラプタ109、110それぞれの発光素子201と受光素子202との間の光路には、レンズ保持枠105、106に設けられた遮光部105b、106bが入り込むように構成されている。遮光部105b、106bは、レンズが光軸方向と平行に移動するのに伴って一体的に移動する。このようにレンズ検出手段は、発光素子201、受光素子202、および、発光素子201と受光素子202との間に配置された遮光部105b、106bを備える。発光素子201からの光量の少なくとも一部を遮光部105b、106bにより遮光して受光素子202に到達する光量を変化させ、この光量に応じてレンズの位置を検出する。
【0032】
フォトインターラプタ109、110の発光素子201および受光素子202は、光路幅のうちどの程度の領域を遮光しているかが識別可能なように、遮光部105b、106bの遮光面積の変化方向に対して広く検出範囲を持つように構成されている。また受光素子202の出力信号としては、受光素子202の受光光量に応じた電圧レベルの出力信号が出力される。このため、出力電圧レベルを監視することにより、遮光部105b、106bによるフォトインターラプタ109、110の遮光状態を検出(把握)することができる。
【0033】
このように本実施例では、フォトインターラプタ109、110と遮光部105b、106bのそれぞれの一対によりレンズ位置検出センサ(検出手段)が構成される。レンズ位置検出センサは、レンズの基準位置を検出するために用いられる基準位置情報、および、レンズの振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する。マイクロプロセッサ111は、基準位置情報に基づいてレンズの基準位置を検出し、振動状態情報に基づいてレンズの振動量が低減するように駆動信号を補正する。
【0034】
次に、レンズ基準位置およびレンズ振動状態それぞれの検出方法について説明する。特に、遮光部105b、106b(遮光壁)の形状、および、出力電圧レベルの監視方法について詳述する。図6は、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するためのレンズ位置検出センサの構成図である。レンズの移動量に対するセンサ出力電圧の変化率は、遮光部105b(遮光部106b)の傾斜度で決定される。遮光部105b、106bはそれぞれ、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するため、2つの異なる傾きを有する部位を備えて構成される。具体的には、遮光部105b、106bはそれぞれ、急峻な傾きの部位(第1検出範囲401)、および、第2検出範囲401における傾きに比べてなだらかな傾きの部位(第2検出範囲402、403)を備える。
【0035】
第1検出範囲401においてレンズの基準位置情報が得られ、第2検出範囲402、403においてレンズの振動状態情報が得られる。このため、レンズの移動量に対して、基準位置情報は第1の変化率を有し、振動状態情報は第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。本実施例において、基準位置情報の第1の変化率は、振動状態情報の第2の変化率よりも大きい。
【0036】
まず、レンズ基準位置の検出方法について説明する。図6中の検出範囲401の遮光境界部分は、図4に示されるような形状となっている。すなわち、僅かなレンズ移動に対して、発光素子201と受光素子202との間を通過する光量のほぼ全てを遮光するか遮光しないかが明確に切り分けられるように、遮光境界部分は急峻な傾きを有する(急峻に変化する)形状を備えている。また、この遮光境界部分は、レンズの可動領域においてほぼ中間位置付近を境界としてセンサ出力が変化するように配置されている。
【0037】
遮光部105bは、ズームレンズ102の位置が、基準位置を境界として望遠側または広角側のいずれに位置するかのゾーン判定ができるように構成されている。また遮光部106bは、フォーカスレンズ104の位置が、基準位置を境界として遠距離物体に対して合焦する位置にあるかまたは至近物体に対して合焦する位置にあるかのゾーン判定ができるように構成されている。このようなゾーン判定は、フォトインターラプタの出力値が所定の閾値電圧THを超えているか否かにより行われる。これにより、撮像装置100(カメラ)の主電源を入れた際に実施されるレンズ基準位置検出処理において、現在のレンズ位置から見ていずれの方向に基準位置があるかを判定し、基準位置があると判定した方向へレンズを移動することが可能となる。
【0038】
このとき、フォトインターラプタ109、110の出力電圧をマイクロプロセッサ111のA/D変換部で取り込む。そして、遮光の有無を判定するため、フォトインターラプタ109、110の出力電圧範囲の約1/2の電圧レベルを閾値THとして設定する。設定した閾値THに対して出力電圧が大きいか小さいかに応じて、「1」、「0」の2値化判定が行われて判定信号(基準位置情報)が生成される。その後、この判定信号を監視しながらレンズを移動させて、判定信号の切り換わり位置がレンズ基準位置として設定される。
【0039】
<振動量検出の説明>
次に、レンズ振動状態の検出方法について説明する。フォトインターラプタ109、110の検出位置が図6中の検出範囲402、403にある場合、遮光状態は図5に示されるような関係になっている。
【0040】
レンズ振動状態の検出が前述のレンズ基準位置の検出と異なるのは、遮光部上に形成された遮光壁の切り欠き部の形状である。レンズ基準位置を検出する場合、レンズ基準位置を正確に検出するため、微小なレンズ移動量に対しても急激に(第1の変化率で)フォトインターラプタの出力が変化するように、レンズ移動方向に対して略垂直に切り欠き部が形成されている。一方、レンズ振動量を検出する場合には、所定のレンズ移動範囲に亘りレンズ位置の微小な揺らぎ量を正確に検出する必要がある。このため、レンズ移動量に対して一定の変化率でフォトインターラプタ出力が変化するように、切り欠き部はなだらかな(第2の変化率の)勾配形状となっている。
【0041】
なお本実施例において、遮光壁の切り欠き部の勾配形状は、レンズ移動量に対して一定の変化率でフォトインターラプタ出力が変化するように形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、その変化特性が既知である場合、曲線特性などのいずれの特性であっても、その既知の変化特性と検出レベルとを比較することで所望の振動量検出が可能である。さらに、切り欠き部を設けなくとも1枚の透明板の中で遮光処理を施すことで、第1の変化率の勾配形状と第2の変化率の勾配形状を有するように構成してもよい。また、前述のレンズ基準位置の検出の場合と同様に、フォトインターラプタ109、110の出力電圧は、マイクロプロセッサ111のA/D変換部で取り込まれる。ただしレンズ振動量を検出する場合、この出力電圧をアナログ的にリニアな値として扱う。
【0042】
次に、図6を参照して、前述のレンズ位置検出センサから得られるレンズ位置の移動量情報に基づき、レンズの振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する方法について説明する。
【0043】
図6の下図は、レンズ位置検出センサの出力波形(出力特性)であり、横軸はレンズ位置、縦軸はフォトインターラプタ出力を示している。図6中の破線Aの特性は無振動状態の理想的な出力特性であり、実線Bの特性はレンズ振動が存在する場合の出力特性である。無振動状態の理想的な場合である破線Aの特性は略直線的に(一定の変化率で)変化している。一方、レンズ振動が存在する場合である実線Bの特性は、破線Aの特性を中心として所定量の揺らぎをもった変化を示す。これら2つの波形には明らかに有意差があり、ステッピングモータの振動量は出力波形の歪み量として表わされる。このため、破線Aの特性に対する実線Bの特性の差分量を求めることにより、レンズの振動量が最小となる状態を知ることができる。本実施例では、振動状態情報の第2の変化率は一定の変化率であり、マイクロプロセッサ111は、レンズが一定の速度で移動している間、所定の時間間隔ごとに振動状態情報を取得し、第2の変化率が一定になるように駆動信号を補正する。
【0044】
本実施例では、駆動パルスに同期してレンズを移動させる駆動モータとしてステッピングモータが用いられているが、これに限定されるものではない。レンズの振動量を検出可能なDCモータやボイスコイルモータ(VCM)などの他の種類のアクチュエータを用いることもできる。また、ステッピングモータの駆動方式は限定されるものではなく、マイクロステップ駆動方式だけでなく、1−2相駆動方式や2−2相駆動方式を用いてもよい。
【0045】
<処理STEPの説明>
次に、レンズの振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する処理手順について詳述する。図7は、撮像装置100におけるレンズ基準位置の検出動作を示すフローチャートである。図8は、撮像装置100におけるレンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。図9は、ステッピングモータの駆動波形補正による振動低減効果を、位相補正の補正角について示す特性図である。図10は、ステッピングモータの駆動波形補正による振動低減効果を、位相補正の補正角および駆動速度について示す特性図である。
【0046】
まず、図7のフローチャートを参照して、レンズ位置検出センサから得られるレンズ位置情報に基づいてレンズ基準位置を検出する動作について説明する。図8に示される各動作は、マイクロプロセッサ111の指令に基づいて実行される。撮像装置100の電源が投入されると、マイクロプロセッサ111が一連の初期化処理を行った後、レンズ基準位置を求めるため、図7に示されるレンズ基準位置の検出処理ルーチン(基準位置検出処理ルーチン)が呼び出される。図7において、まずズームレンズ102の基準位置を設定するため、ステップS101でフォトインターラプタ109の出力PIoutをゾーン判定の閾値電圧THと比較する。この比較結果に基づいて、現在のレンズ位置が基準位置検出点から見て望遠側または広角側のいずれに位置するかが判定される。そして、基準位置P0に向かって駆動するためのレンズ駆動方向を決定し、ステップS102にてレンズ駆動を開始する。
【0047】
続いてステップS103において、マイクロプロセッサ111はフォトインターラプタ109の出力レベルがHighからLow、またはLowからHighへの変化する基準位置P0に到達するタイミングを常時検出し続ける。通常、基準位置P0は、フォトインターラプタ109の出力レベルがHighからLow、またはLowからHighのいずれか一方に切り換わる位置に統一されている。機械的な位置誤差などを無くして高精度に決定する必要がある場合には、最終的に基準位置を検出する際の回転方向も一意に決められている。図6の例において、基準位置P0は、フォトインターラプタの出力PIoutが増加する方向にレンズを移動させた場合にHighからLowに切り換わる点として決められている。ステップS103にて基準位置P0が検出されると次のステップS104に進み、駆動停止処理や内部位置カウンタの設定処理を行い、基準位置の検出処理は完了する(基準位置設定完了)。
【0048】
次に、図8のフローチャートを参照して、レンズ位置検出センサの出力からレンズ振動量を検出し、このレンズ振動量に基づいてステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正し、レンズ振動量が最小となる補正値を算出する動作について説明する。図8に示される各動作は、マイクロプロセッサ111の指令に基づいて実行される。
【0049】
図8の補正処理1のフローチャートにおいて、まずステップS201で、レンズ駆動速度SPの設定と駆動補正値を無補正とする初期値A0に設定する。検出時のレンズ駆動速度SPとしては、補正処理中に駆動速度を変更しながら適切な速度を決定してもよい。ただし、処理時間を短縮するため、予めステッピングモータの振動量がレンズ位置検出手段にて良好に検出可能なレベルとなる速度を求めておくのが好ましい。特に、レンズ振動量が大きくかつ補正値の変化で振動量の変化が著しい速度を設定するのが適切である。
【0050】
ステップS201にて初期設定が完了すると、続いてステップS202において、レンズ駆動を開始する。本実施例のレンズ位置検出センサは、一対のフォトインターラプタおよび遮光部を備えて構成されている。その検出出力は、レンズ移動量に対して一定の増減率(変化率)で変化し、レンズを一定速度で移動させた状態で所定時間ごとにレンズ位置検出センサの出力を取得し、その増減率の安定度によりレンズ振動量を判定する。
【0051】
次のステップS203では、振動量の検出時にレンズ駆動速度を一定で安定した状態に保つため、駆動開始後に加速時間を経て、所定の設定速度に安定したか否かが判定される。設定速度に安定するまでこの判定は繰り返される。ここまでで本フローの準備段階が完了し、続いてレンズ振動量の検出および補正値の調整が行われる。ステップS203において設定速度に安定したと判定されると、次のステップS204において基準時間Tが経過したか否かが判定される。基準時間Tは、フォトインターラプタの出力から得られる、無振動時の理想的な状態の出力変化量と、レンズの振動が存在する場合の出力変化量との比較に必要な時間である。
【0052】
図13は、フォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。図13に示されるように、基準時間Tを用いて一定の駆動速度で移動しているレンズにおいて、理想的な無振動駆動であれば、一定時間内に変化するフォトインターラプタの出力変化量はある一定値で安定している。一方、実際のレンズ駆動では、振動量に応じてフォトインターラプタの出力変化量に揺らぎ(P0、P1、P2)が発生するため、理想値と測定値との差分から振動量を判定することができる。
【0053】
ステップS204にて基準時間Tが経過すると、ステップS205においてレンズ位置検出センサからフォトインターラプタの出力PIoutを取得する。続いてステップS206において、前回取得したフォトインターラプタの出力PIoutとの差分から、今回の基準時間当たりに変化した変化量Pnを算出する。その後、ステップS207において、基準時間当たりの理想変化量とステップS206で算出した変化量Pn(測定変化量)との差分ΔLnを算出する。
【0054】
続いてステップS208では、補正量を徐々に変化させていくことで最適補正値を決定する過程において必要な、補正値を変化させる方向(補正方向)が決定されているかを判定する。補正開始時点では、まだ最適補正値の方向が決定されていないため、ステップS209においてレンズ移動量の差分ΔLnの変化を複数回サンプリングすることで、補正値の変化に対して差分ΔLnが小さくなる方向を求める。そしてステップS210において補正方向を決定する。また、ステップS211にてカウンタ値nを1だけ増加させ、ステップS212にて補正値Anを設定する。その後、ステップS204に戻る。なお本実施例では、サンプリング回数が2より大きい値としているが、これに限定されるものではない。判定時の信頼度や要求される判定精度に応じて、適宜、サンプリング回数を変更してもよい。
【0055】
続いて、補正方向が決定した後の処理フローについて説明する。ステップS208において補正方向が決定されている場合、ステップS213に進む。ステップS213では、今回求められたフォトインターラプタの出力変化量の差分ΔLnと、一つ前の補正値に対するフォトインターラプタの出力変化量の差分ΔLn−1とを比較し、モータの個体特性に対する最適な補正値を見出す。ステップS213において、今回の差分ΔLnが前回の差分ΔLn−1以下である場合、ステップS211に進む。一方、今回の差分ΔLnが前回の差分Ln−1よりも大きい場合(ΔLn>ΔLn−1)、ステップS214に進む。ステップS214では、過去の保存データである差分ΔLnのなかから最小の差分が得られたときの補正値A(n−1)を求め、この補正値A(n−1)を最適な補正値として決定し、本補正処理1を終了する。なおステップS213においては、一度の差分ΔLnの増加により判定してもよいが、前後の複数データの遷移状況を見て判定することにより最適補正値の算出精度を高めることができる。
【0056】
以上のように、本実施例では、レンズ基準位置を設定する処理と、レンズ振動量を検出してレンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号の最適補正量を算出する処理は、同一のレンズ位置検出センサを用いて実施可能である。また、これらの処理を実施するには、レンズを所定位置まで移動する必要があり撮影者の意図しない画像となる恐れがある。このため、本処理中は撮影画像を出力停止とし、また2つの検出処理を同時またはシーケンシャルに実施することにより処理時間の短縮を図ることができ、撮影者に違和感を与えることなく実施可能となる。
【0057】
実際に、補正値Anを徐々に変化させて測定した「補正値(位相差)−振動量」の変化特性を図9に示す。図9中の実線と破線は、2つのモータサンプルの測定値を表わしている。この測定結果からも、補正値である位相差を、振動量が減少する方向に向けて徐々に変化させていきながら最小点を探すことで、最適な補正値を算出することが可能であることが分かる。このように、本実施例の補正処理により、モータの個体特性に合わせた最適な補正値を算出し、モータが発する振動量の低減化を図ることができる。
【0058】
図10は、駆動周波数に対する振動量の特性図であり、本実施例の補正処理により実測した、PM型2相ステッピングモータの2つの励磁相間の位相を補正した場合の軽減効果を示している。その効果は、駆動速度の全域に亘り有効であることが示されており、特にピークポイントである駆動速度900pps付近における振動量が、約1/4にまで低減されていることが分かる。
【実施例2】
【0059】
次に、図11、図12、および図14を参照して、本発明の実施例2における、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正による振動低減方法について説明する。図11は、撮像装置100におけるレンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。図12は、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するためのレンズ位置検出センサの構成図である。図14は、フォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【0060】
本実施例は、図6に示されるレンズ位置検出センサに代えて、図12に示されるレンズ位置検出センサが用いられる点で、実施例1とは異なる。それ以外の構成については実施例1と同様であるため、それらの説明は省略する。このため本実施例では、レンズ位置検出センサにおける遮光部の形状の差異、および、フォトインターラプタの出力によるレンズ振動量の検出方法における差異について説明する。また本実施例は、複数の補正項目を同時に補正して更なるモータ振動量の低減を実現する構成であり、各補正項目の最適補正値を決定するまでの処理手順を中心に説明する。
【0061】
まず、図12のフォトインターラプタと遮光部の構成において、実施例1と異なる点は、遮光部の形状とその形状変更に伴う現在位置から見た基準位置方向の判定方法である。実施例1では、ズームレンズおよびフォーカスレンズの位置が基準位置を境界としていずれの側にあるかを、ゾーン判定の閾値電圧THに基づいて判定するように構成されている。一方、本実施例の遮光部1051b(1061b)、1052b(1062b)は、検出範囲501に対して対称な検出範囲502、503を有する。このため、レンズを移動させた際にフォトインターラプタ出力が低下する移動方向へレンズを移動することにより基準位置の検出が可能である。
【0062】
フォトインターラプタの出力によるレンズ振動量の検出方法に関し、実施例1ではレンズを一定速度で移動させた状態で、基準時間Tの一定時間間隔でフォトインターラプタ出力をサンプリングし、その移動量の安定度から振動量を求めている。一方、本実施例では、図14に示されるように、無振動状態でのレンズ位置におけるフォトインターラプタの出力の基準特性データを予め記憶する。そして、実際にレンズを駆動した時のレンズ位置に対するフォトインターラプタの出力データと基準特性データとの差分(P0、P1、P2)により、レンズ振動量を判定することができる。このため、本実施例の検出方法によれば、一定の基準時間Tを用いることなく、レンズ振動量の検出が可能である。
【0063】
次に、図11のフローチャートを参照して、レンズ振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する処理手順について説明する。図11中のステップS301乃至S306における処理は、実施例1のステップS201乃至S206における処理とそれぞれ同等であるため、それらの説明は省略する。
【0064】
続いてステップS307では、既定数Nデータ(本実施例では10データ)の取得完了まで繰り返し測定を実施するため、ステップS304へのループ処理が行われる。既定数のデータの取得が完了すると、ステップS308では、取得したNデータにおける分散σnを式(1)により算出する。
【0065】
σn=√(1/N・Σ(Pn−Pave)^2) … (1)
ここで、PaveはNデータの平均値である。
【0066】
続いてステップS309において、複数存在する制御補正項目を選択する。本実施例では、補正項目をA補正とB補正の2項目から選択するように構成されている。ただしこれに限定されるものではなく、3項目以上のなかから選択するように構成してもよい。
【0067】
ステップS309にて、補正項目Aが補正調整対象となっている場合にはステップS310へ進む。ステップS310では、今回の分散値σnと前回の分散値σn−1とを比較する。ここでσn≦σn−1の場合、ステップS311、S312に進み、次の補正値の評価を繰り返す。一方、σn>σn−1の場合、最適な補正値を超えたと判定し、ステップS313に進み、前回の補正値A(n−1)を最適な補正値として決定し、補正項目Aの補正調整を完了する。なお、このステップでの値を比較する前提として、補正値を変化させる方向の判定処理が行われた上で、補正値は最適値へ向かって補正調整されているものとする。
【0068】
一方、ステップS309にて、補正項目Bが補正調整対象となっている場合にはステップS320へ進む。ステップS320では、今回の分散値σnと前回の分散値σn−1とを比較する。ここでσn≦σn−1の場合、ステップS321、S322に進み、次の補正値の評価を繰り返す。一方、σn>σn−1の場合、最適な補正値を超えたと判定し、ステップS323に進み、前回の補正値B(n−1)を最適な補正値として決定し、補正項目Bの補正調整を完了する。
【0069】
続いてステップS330では、複数存在する制御補正項目の全てにおいて補正調整が完了したか否かを判定する。補正調整が未完了と判定された場合、ステップS331に進み、未完了である補正調整項目に補正対象を切り換え、以後、同様に最適値を算出する処理を繰り返す。補正調整が完了したと判定された場合、補正処理2のフローは終了する。
【0070】
本実施例では、ステッピングモータの複数の励磁相に印加する励磁信号(励磁電流信号、励磁電圧信号)に対して、補正項目Aでは相間の電流波形または電圧波形の位相差(各相の励磁信号の位相)を補正する。また、補正項目Bでは相間の電流波形の振幅比(各相の励磁信号の振幅)を補正する。また、その他の補正項目として、ステッピングモータに与える各相の励磁信号(励磁電流信号または励磁電圧信号)を正弦波等の三角関数形状になるように、すなわち0度位置に対する180度位置をずらした三角関数波形に補正することもできる。このような補正により、モータ振動を効果的に低減させることが可能である。
【実施例3】
【0071】
次に、図15を参照して、本発明の実施例3における、レンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正による振動低減方法について説明する。本実施例はフォトインターラプタの出力からレンズ振動量を検出する際に、レンズ振動量のみを正確に抽出することができる点で、実施例1、2とは異なる。他の基本的構成は実施例1、2と同様であるため、それらの説明は省略する。
【0072】
レンズ位置検出手段から得られる振動量情報には、モータ振動に起因するレンズ振動成分の他に、レンズ移動中に発生するフォトインターラプタと遮光部の機械的ガタツキ等に起因する出力変動成分などモータ振動に起因しない振動成分も含まれる場合がある。本実施例では、これら複数の要素が複合されたレンズ位置検出手段から得られる振動量情報から、モータ振動に起因するレンズ振動成分を抽出するため、図15に示されるようなFIR(Finite Impulse Response)フィルタが用いられる。
【0073】
例えば、ステッピングモータの駆動速度を1−2相駆動換算で800pps(pulse per second)として回転させている場合、モータ駆動に起因するレンズ振動は約200Hzとなる。このため、約200Hzを中心周波数とするバンドパスフィルタBPFを通過させ抽出して得られた振動成分のみに注目する。そして、前述の補正手順に従って振動量が低減するようにステッピングモータの駆動信号を補正することで、使用するモータの個体特性に適合した補正制御が実現できる。なお本実施例では、FIRデジタルフィルタを用いて帯域抽出を行っているが、これに限定されるものではない。他のデジタルフィルタや、アナログフィルタ、その他の帯域抽出が可能なフィルタ手段を用いることもできる。
【0074】
上記各実施例によれば、モータの製造バラツキ誤差や、モータ駆動回路のバラツキ誤差などが原因でモータ振動が発生する場合でも、モータおよび駆動回路の個々の特性に合わせた最適な補正制御を行うことができる。特に、モータ振動量の低減と停止位置精度の向上を実現する制御方法において、モータ個々の電気角誤差量に基づくランク情報を予め求めて記憶する工程を必要とせず、電気角誤差量が初期の特性から変化した場合にも最適な補正を行うことができる。また、モータ個々の電気角誤差量に基づくランク情報と、モータを制御する機器側とのランク情報の関連付け行為を必要とせずに、モータおよび駆動回路の個体特性に合わせた最適な補正制御が可能となる。また、最適な補正制御を実施するにあたり、その目的のために補正対象の振動量を計測する計測手段を新たに装備せず、既存の検出手段を流用し代用することで、制御装置のコストを増大させることなく最適な補正制御が実現できる。このため、上記各実施例によれば、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供することができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0076】
例えば、マイクロプロセッサは、レンズの基準位置を検出する初期化処理の間に振動状態情報を取得するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
102:ズームレンズ
104:フォーカスレンズ
105b、106b:遮光部
107、108:ステッピングモータ
109、110:フォトインターラプタ
111:マイクロプロセッサ
119、120:ステッピングモータ駆動回路
201:発光素子
202:受光素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ振動量を補正して低減させるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置におけるレンズ駆動手段として、ステッピングモータが採用されている。ステッピングモータは、入力パルス信号の数により回転角度が決定され、また、周波数により回転速度が決定される。また、角度誤差が累積されないという利点がある。
【0003】
しかしながら、ステッピングモータには、回転振動が大きいという問題がある。回転振動の原因としては、大きく2つが挙げられる。一つの振動原因は、励磁パルスに追従する際のロータのトルクリップル振動である。ステッピングモータの励磁パルスに応答する振動運動を軽減する励磁方式として、例えば特許文献1に開示されているようなマイクロステップ駆動方式が知られている。これは、ステッピングモータの各巻線に流す励磁電流をそれぞれ正弦波形状、および余弦波形状になるよう制御して、1ステップの間を多段階に分割することで振動低減を図る方式であり、回転振動の低減策として一般的に実用化されている技術である。もう一つの振動原因は、モータ個々の製造誤差による回転むらである。例えば特許文献2は、モータ個々の製造誤差による回転むらに起因した振動を低減するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平08−008796号公報
【特許文献2】特許第2918183号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では、ステッピングモータ毎に、複数の各相間の角度誤差量に基づくランクを予め求めておく必要がある。角度誤差量は、例えば、ステータ極歯の配置寸法を精密スケール等で計測する方法や実際にモータを駆動した状態で振動量を測定することで算出される。しかし、いずれの方法でもモータ個体の誤差ランクを測定するための工具や工数が必要となり、コストアップとなる。
【0006】
また、モータの誤差ランクを一定の値に定めるため、経時変化によりステッピングモータの特性が変化した場合でも、その変化分は補正対象とはならない。このため、モータ特性に対して常に最適な補正値を適用することができない。
【0007】
また特許文献2では、制御対象となるステッピングモータのランクに対応して予め記憶手段に記憶してある補正値を読み出し、各相励磁電流の位相を調整する。このように記憶手段が必要となるため、システム構成が複雑化する。また、製品生産工程において、特定のモータ制御装置にどのような特性を有するモータが組込まれたかについて、関連付け管理を行う必要があるため管理工数が発生し、モータ交換時には新モータの誤差ランク情報を製品本体へ再登録する必要が生じる。
【0008】
そこで本発明は、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としてのモータ制御装置は、可動部を移動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、前記可動部の基準位置を設定するために用いられる基準位置情報、および、該可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段とを有し、前記制御手段は、前記基準位置情報に基づいて前記可動部の前記基準位置を設定し、前記振動状態情報に基づいて該可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正し、前記可動部の移動量に対して、前記基準位置情報は第1の変化率を有し、前記振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。
【0010】
本発明の他の側面としてのモータ制御装置は、発光素子および受光素子、または、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部が固定された可動部を移動させる駆動手段と、前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、を有し、前記遮光部は、前記可動部が移動した際に、前記受光素子に到達する光量が第1の変化率を示す部分を含む第1検出範囲と前記第1の変化率よりも小さい第2の変化率を示す部分を含む第2検出範囲とを有する形状であり、前記制御手段は、前記可動部の移動により前記第1検出範囲から前記第2検出範囲、または、前記第2検出範囲から前記第1検出範囲へ前記受光素子による検出範囲が変化した際の前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の基準位置を決定し、前記可動部の移動により前記第2検出範囲における前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正する。
【0011】
本発明の他の側面としての光学機器は、前記モータ制御装置を有し、前記可動部はズームレンズまたはフォーカスレンズである。
【0012】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における撮像装置(光学機器)の構成図である。
【図2】実施例1におけるステッピングモータを側面からカットした状態で内部を可視化した図である。
【図3】実施例1におけるステータおよびロータの磁極位置の説明図である。
【図4】実施例1におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図5】実施例1におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図6】実施例1において、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するレンズ位置検出センサの構成図である。
【図7】実施例1における撮像装置によるレンズ基準位置の検出動作を示すフローチャートである。
【図8】実施例1における撮像装置によるステッピングモータの駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。
【図9】実施例1における撮像装置による駆動波形補正による振動低減特性である。
【図10】実施例1における撮像装置による駆動波形補正による振動低減特性である。
【図11】実施例2における撮像装置によるステッピングモータの駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。
【図12】実施例2におけるレンズ位置検出センサの構成図である。
【図13】実施例1におけるフォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【図14】実施例2におけるフォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【図15】実施例3における周波数帯域フィルタのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0016】
まず、図1乃至図10、および、図13を参照して、本発明の実施例1におけるモータ制御装置について説明する。本実施例のモータ制御装置は、ステッピングモータを備え、各相に与える駆動信号の補正を行うことによりモータの振動を低減させる。本実施例のモータ制御装置は、図1に示されるように、ズームレンズ駆動機構としてレンズ位置検出センサおよびステッピングモータを用いた撮像装置(光学機器)のモータ制御部に適用されるが、これに限定されるものではない。例えば本実施例のモータ制御装置は、光学機器としての交換レンズにも適用可能である。
【0017】
本実施例の撮像装置は、ズームレンズ側にレンズの位置を検出するレンズ位置検出センサを配置し、レンズを移動させる駆動源としてステッピングモータを用いる。そして第1の処理として、レンズ位置検出センサから得られるレンズ基準位置情報に基づいてレンズの基準位置を検出する。また第2の処理として、レンズ位置検出センサから得られるレンズ位置の移動量情報に基づいてレンズの振動量を検出し、レンズの振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する。このような補正により、ステッピングモータから発生する回転振動を低減し、レンズの駆動音の静音化を行う。
【0018】
以下、図1を参照して、本実施例における撮像装置の構成及び動作について詳述する。
【0019】
<撮像装置の構成>
図1は、本実施例における撮像装置100の構成図である。本実施例は、レンズ位置制御装置をビデオカメラなどの撮像装置に適用した場合について説明する。撮像装置100は、被写体像の入射方向から順に、フィールドレンズ101、変倍レンズとしてのズームレンズ102、光量を調節する絞りユニット114、アフォーカルレンズ103、および合焦レンズとしてのフォーカスレンズ104を含む撮像光学系を有する。このようにフォーカスレンズ104が被写体側から見て後ろ側に配置されるレンズ構成はリアフォーカスレンズと呼ばれ、ビデオカメラやコンパクトデジタルカメラなどで一般的に用いられている。116は、撮像光学系により形成された被写体像を光電変換するCCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子である。
【0020】
ズームレンズ102とフォーカスレンズ104はそれぞれ、レンズ保持枠105、106により保持されている。レンズ保持枠105、106は、不図示のガイド軸により光軸方向に移動可能に構成されている。またレンズ保持枠105、106にはそれぞれ、ラック105a、106aが取り付けられている。ラック105a、106aは、ステッピングモータ107、108の出力軸であるスクリュー軸107a、108a(ネジ軸)のスクリュー部(ネジ部)に噛み合っている。ステッピングモータ107、108が駆動されてスクリュー軸107a、108aが回転することで、スクリュー軸107a、108aとラック105a、106aとの噛み合い作用によりレンズ保持枠105、106が光軸方向(図中の矢印方向)に駆動される。ステッピングモータ107、108はそれぞれ、駆動パルスに同期してズームレンズ102およびフォーカスレンズ104(可動部)を移動させるモータである。ステッピングモータ107、108は、後述の駆動回路119、120ととともに、ズームレンズ102およびフォーカスレンズ104を移動させる駆動手段を構成する。駆動手段としてのステッピングモータ107、108は、発光素子201および受光素子202、または、発光素子201と受光素子202との間に配置された遮光部105b(106b)が固定されたフォーカスレンズ104(可動部)を移動させる。
【0021】
続いて、マイクロプロセッサ111(制御手段)は、不図示の電源スイッチ、録画スイッチ、操作手段としてのズームスイッチなどのスイッチからの入力に応じて、撮像装置100の動作全体の制御を司る。マイクロプロセッサ111内に設けられた内部メモリ112には、ズームレンズ102の基準位置に対する望遠側および広角側の位置(テレ端およびワイド端)が記憶されている。また、フォーカスレンズ104の基準位置に対しては、物体距離とズームレンズ102の位置とで決定される位置データが、ステッピングモータ108の回転量に対応したステップ数として記憶されている。
【0022】
ステッピングモータ107、108はそれぞれ、駆動回路119、120により駆動される。駆動回路119、120はそれぞれ、マイクロプロセッサ111から入力される駆動信号に応じてステッピングモータ107、108を駆動する。すなわち、撮像光学系の変倍動作およびこれに伴う合焦動作は、ビデオカメラなどで一般的に用いられているカム軌跡データを利用した電子カム方式により、ステッピングモータ107、108を制御することで行われる。このように、マイクロプロセッサ111は、駆動手段に駆動信号を与えて駆動手段を制御する。
【0023】
絞りユニット114は、絞り羽根114a、114bを備えて構成される。絞り羽根114a、114bの状態は、ホール素子115により検出され、増幅回路122およびA/D変換回路123を介してマイクロプロセッサ111に入力される。マイクロプロセッサ111は、その入力信号に基づいて駆動回路121に制御信号を出力する。駆動回路121は、その制御信号に基づいて絞りアクチュエータ113を駆動する。
【0024】
撮像光学系を通過した光学像は、撮像素子116における光電変換により電気信号(アナログ信号)に変換される。そしてアナログ信号は、A/D変換回路117によりデジタル信号に変換され、信号処理回路118に入力される。信号処理回路118は、入力された電気信号(デジタル信号)に対して各種の画像処理を施すことにより、画像の露出状態を表す輝度信号情報の生成や記録可能なデータ形式への変換が行われる。その後、信号処理回路118からの出力信号(映像信号)が記録部150に送られ、その映像信号が記録部150で記録される。
【0025】
次に、図2および図3を参照して、レンズ移動用モータであるステッピングモータ107、108(PM型2相ステッピングモータ)の構造について説明する。図2は、ステッピングモータを側面からカットした状態で内部を可視化した図である。図2において、41はモータの出力軸であるシャフト、42はシャフト41と一体に取り付けられたマグネットロータである。シャフト41は、ケース40Aに設けられた軸受43Aと、反対側の40Bに設けられた軸受(不図示)により回転可能に支持されている。また、ケース40B内にはコイルを巻いたボビン44A、44Bが配設され、さらにその内部には、くし歯状のステータ45A、45B、45C、45Dが取り付けられている。
【0026】
本実施例のステッピングモータは、1ステップが9度のモータであり、この場合、ロータ42には10極対のN−S極が着磁されている。また、ステータ45A、45B、45C、45Dはそれぞれ、9度の角度差を有し、軸方向に重ね合わされている。また、ボビン44A、44Bに巻かれているコイルは、ステータ45A、45B、45C、45Dのくし歯に磁極を形成する(励磁電流を流す)ために設けられている。ボビン44Aに巻かれているコイルをA相と呼び、ステータ45A、45Bのくし歯を励磁する。また、ボビン44Bに巻かれているコイルをB相と呼び、ステータ45C、45Dのくし歯を励磁する。
【0027】
続いて図3を参照して、ステッピングモータの回転の原理について説明する。図3は、2相励磁駆動の場合におけるステータおよびロータの磁極位置の説明図である。まず、図3(a)は、ボビン44AのコイルA相と、ボビン44BのコイルB相に順方向へ電流を流した場合を示している。このとき、ステータ45AはN極、ステータ45BはS極、ステータ45CはN極、および、ステータ45DはS極にそれぞれ磁化されている。この状態でステータのS極位置に着目すると、S極の中心はステータ45B、45Dの相互中心である図中のP1、P2となり、ロータのN極位置がこれに対向する位置で安定している。
【0028】
次に、図3(b)は、図3(a)の状態のコイルB相の励磁はそのままで、ボビン44AのA相に流す電流を逆方向へ切り換えた状態を示している。ここでは、ステータ45AがS極に変化し、ステータ45BがN極に変化する。このため、S極の中心P1、P2ともに9度だけ移動し、これに伴い対向するロータのN極も9度移動する。同様に、図3(c)および図3(d)に示されるように、電流を流すコイルの相を切り換えることで、S極の中心を9度毎に移動させることができ、ロータを9度ずつ移動(回転)させることが可能となる。
【0029】
<基準位置センサの説明>
前述のように、ステッピングモータは入力された駆動信号の1パルスに対して予め決められた角度だけ回転する。このため、所望の回転角度に対応した駆動パルス数を入力することにより、可動部であるレンズ(ズームレンズ102、フォーカスレンズ104)を目的位置まで移動させることができる。ただし、ステッピングモータで扱われる位置制御はオープンループ制御方式である。このため、相対的な位置制御を行うしかない。そこで絶対位置を検出する必要がある場合には、予め絶対位置としての基準位置を決定しておき、この基準位置からの相対位置制御を行うことで、移動後の絶対位置を把握するように構成する。
【0030】
本実施例において、ステッピングモータ107、108によりズームレンズ102およびフォーカスレンズ104をそれぞれの目標位置に移動させる場合、まず撮像装置100の起動時に、レンズ位置を所定の基準位置に設定する必要がある。この処理をレンズ基準位置設定処理と呼び、具体的な処理は、例えばレンズ位置制御部としてのマイクロプロセッサ111のレンズ位置カウンタを規定値に設定することにより行われる。レンズ基準位置設定処理の完了後、現在位置から目標位置までレンズを移動させるために必要なパルス数の駆動信号をステッピングモータ107、108に入力することにより、レンズ位置の移動制御が行われる。このため、撮像装置100には、ズームレンズ102およびフォーカスレンズ104のそれぞれが基準位置に配置されている否かを検出するレンズ位置検出センサ(検出手段)が設けられている。本実施例では、レンズ位置検出センサとして光学式のフォトインターラプタが用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、容量センサや磁気センサを用いてもよい。
【0031】
図4および図5は、本実施例におけるレンズ位置検出センサの構成図である。レンズ位置検出センサは、発光素子201と受光素子202とが対向配置されたフォトインターラプタ109(フォトインターラプタ110)、および、遮光部105b(遮光部106b)を備えて構成されている。フォトインターラプタ109、110それぞれの発光素子201と受光素子202との間の光路には、レンズ保持枠105、106に設けられた遮光部105b、106bが入り込むように構成されている。遮光部105b、106bは、レンズが光軸方向と平行に移動するのに伴って一体的に移動する。このようにレンズ検出手段は、発光素子201、受光素子202、および、発光素子201と受光素子202との間に配置された遮光部105b、106bを備える。発光素子201からの光量の少なくとも一部を遮光部105b、106bにより遮光して受光素子202に到達する光量を変化させ、この光量に応じてレンズの位置を検出する。
【0032】
フォトインターラプタ109、110の発光素子201および受光素子202は、光路幅のうちどの程度の領域を遮光しているかが識別可能なように、遮光部105b、106bの遮光面積の変化方向に対して広く検出範囲を持つように構成されている。また受光素子202の出力信号としては、受光素子202の受光光量に応じた電圧レベルの出力信号が出力される。このため、出力電圧レベルを監視することにより、遮光部105b、106bによるフォトインターラプタ109、110の遮光状態を検出(把握)することができる。
【0033】
このように本実施例では、フォトインターラプタ109、110と遮光部105b、106bのそれぞれの一対によりレンズ位置検出センサ(検出手段)が構成される。レンズ位置検出センサは、レンズの基準位置を検出するために用いられる基準位置情報、および、レンズの振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する。マイクロプロセッサ111は、基準位置情報に基づいてレンズの基準位置を検出し、振動状態情報に基づいてレンズの振動量が低減するように駆動信号を補正する。
【0034】
次に、レンズ基準位置およびレンズ振動状態それぞれの検出方法について説明する。特に、遮光部105b、106b(遮光壁)の形状、および、出力電圧レベルの監視方法について詳述する。図6は、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するためのレンズ位置検出センサの構成図である。レンズの移動量に対するセンサ出力電圧の変化率は、遮光部105b(遮光部106b)の傾斜度で決定される。遮光部105b、106bはそれぞれ、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するため、2つの異なる傾きを有する部位を備えて構成される。具体的には、遮光部105b、106bはそれぞれ、急峻な傾きの部位(第1検出範囲401)、および、第2検出範囲401における傾きに比べてなだらかな傾きの部位(第2検出範囲402、403)を備える。
【0035】
第1検出範囲401においてレンズの基準位置情報が得られ、第2検出範囲402、403においてレンズの振動状態情報が得られる。このため、レンズの移動量に対して、基準位置情報は第1の変化率を有し、振動状態情報は第1の変化率と異なる第2の変化率を有する。本実施例において、基準位置情報の第1の変化率は、振動状態情報の第2の変化率よりも大きい。
【0036】
まず、レンズ基準位置の検出方法について説明する。図6中の検出範囲401の遮光境界部分は、図4に示されるような形状となっている。すなわち、僅かなレンズ移動に対して、発光素子201と受光素子202との間を通過する光量のほぼ全てを遮光するか遮光しないかが明確に切り分けられるように、遮光境界部分は急峻な傾きを有する(急峻に変化する)形状を備えている。また、この遮光境界部分は、レンズの可動領域においてほぼ中間位置付近を境界としてセンサ出力が変化するように配置されている。
【0037】
遮光部105bは、ズームレンズ102の位置が、基準位置を境界として望遠側または広角側のいずれに位置するかのゾーン判定ができるように構成されている。また遮光部106bは、フォーカスレンズ104の位置が、基準位置を境界として遠距離物体に対して合焦する位置にあるかまたは至近物体に対して合焦する位置にあるかのゾーン判定ができるように構成されている。このようなゾーン判定は、フォトインターラプタの出力値が所定の閾値電圧THを超えているか否かにより行われる。これにより、撮像装置100(カメラ)の主電源を入れた際に実施されるレンズ基準位置検出処理において、現在のレンズ位置から見ていずれの方向に基準位置があるかを判定し、基準位置があると判定した方向へレンズを移動することが可能となる。
【0038】
このとき、フォトインターラプタ109、110の出力電圧をマイクロプロセッサ111のA/D変換部で取り込む。そして、遮光の有無を判定するため、フォトインターラプタ109、110の出力電圧範囲の約1/2の電圧レベルを閾値THとして設定する。設定した閾値THに対して出力電圧が大きいか小さいかに応じて、「1」、「0」の2値化判定が行われて判定信号(基準位置情報)が生成される。その後、この判定信号を監視しながらレンズを移動させて、判定信号の切り換わり位置がレンズ基準位置として設定される。
【0039】
<振動量検出の説明>
次に、レンズ振動状態の検出方法について説明する。フォトインターラプタ109、110の検出位置が図6中の検出範囲402、403にある場合、遮光状態は図5に示されるような関係になっている。
【0040】
レンズ振動状態の検出が前述のレンズ基準位置の検出と異なるのは、遮光部上に形成された遮光壁の切り欠き部の形状である。レンズ基準位置を検出する場合、レンズ基準位置を正確に検出するため、微小なレンズ移動量に対しても急激に(第1の変化率で)フォトインターラプタの出力が変化するように、レンズ移動方向に対して略垂直に切り欠き部が形成されている。一方、レンズ振動量を検出する場合には、所定のレンズ移動範囲に亘りレンズ位置の微小な揺らぎ量を正確に検出する必要がある。このため、レンズ移動量に対して一定の変化率でフォトインターラプタ出力が変化するように、切り欠き部はなだらかな(第2の変化率の)勾配形状となっている。
【0041】
なお本実施例において、遮光壁の切り欠き部の勾配形状は、レンズ移動量に対して一定の変化率でフォトインターラプタ出力が変化するように形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、その変化特性が既知である場合、曲線特性などのいずれの特性であっても、その既知の変化特性と検出レベルとを比較することで所望の振動量検出が可能である。さらに、切り欠き部を設けなくとも1枚の透明板の中で遮光処理を施すことで、第1の変化率の勾配形状と第2の変化率の勾配形状を有するように構成してもよい。また、前述のレンズ基準位置の検出の場合と同様に、フォトインターラプタ109、110の出力電圧は、マイクロプロセッサ111のA/D変換部で取り込まれる。ただしレンズ振動量を検出する場合、この出力電圧をアナログ的にリニアな値として扱う。
【0042】
次に、図6を参照して、前述のレンズ位置検出センサから得られるレンズ位置の移動量情報に基づき、レンズの振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する方法について説明する。
【0043】
図6の下図は、レンズ位置検出センサの出力波形(出力特性)であり、横軸はレンズ位置、縦軸はフォトインターラプタ出力を示している。図6中の破線Aの特性は無振動状態の理想的な出力特性であり、実線Bの特性はレンズ振動が存在する場合の出力特性である。無振動状態の理想的な場合である破線Aの特性は略直線的に(一定の変化率で)変化している。一方、レンズ振動が存在する場合である実線Bの特性は、破線Aの特性を中心として所定量の揺らぎをもった変化を示す。これら2つの波形には明らかに有意差があり、ステッピングモータの振動量は出力波形の歪み量として表わされる。このため、破線Aの特性に対する実線Bの特性の差分量を求めることにより、レンズの振動量が最小となる状態を知ることができる。本実施例では、振動状態情報の第2の変化率は一定の変化率であり、マイクロプロセッサ111は、レンズが一定の速度で移動している間、所定の時間間隔ごとに振動状態情報を取得し、第2の変化率が一定になるように駆動信号を補正する。
【0044】
本実施例では、駆動パルスに同期してレンズを移動させる駆動モータとしてステッピングモータが用いられているが、これに限定されるものではない。レンズの振動量を検出可能なDCモータやボイスコイルモータ(VCM)などの他の種類のアクチュエータを用いることもできる。また、ステッピングモータの駆動方式は限定されるものではなく、マイクロステップ駆動方式だけでなく、1−2相駆動方式や2−2相駆動方式を用いてもよい。
【0045】
<処理STEPの説明>
次に、レンズの振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する処理手順について詳述する。図7は、撮像装置100におけるレンズ基準位置の検出動作を示すフローチャートである。図8は、撮像装置100におけるレンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。図9は、ステッピングモータの駆動波形補正による振動低減効果を、位相補正の補正角について示す特性図である。図10は、ステッピングモータの駆動波形補正による振動低減効果を、位相補正の補正角および駆動速度について示す特性図である。
【0046】
まず、図7のフローチャートを参照して、レンズ位置検出センサから得られるレンズ位置情報に基づいてレンズ基準位置を検出する動作について説明する。図8に示される各動作は、マイクロプロセッサ111の指令に基づいて実行される。撮像装置100の電源が投入されると、マイクロプロセッサ111が一連の初期化処理を行った後、レンズ基準位置を求めるため、図7に示されるレンズ基準位置の検出処理ルーチン(基準位置検出処理ルーチン)が呼び出される。図7において、まずズームレンズ102の基準位置を設定するため、ステップS101でフォトインターラプタ109の出力PIoutをゾーン判定の閾値電圧THと比較する。この比較結果に基づいて、現在のレンズ位置が基準位置検出点から見て望遠側または広角側のいずれに位置するかが判定される。そして、基準位置P0に向かって駆動するためのレンズ駆動方向を決定し、ステップS102にてレンズ駆動を開始する。
【0047】
続いてステップS103において、マイクロプロセッサ111はフォトインターラプタ109の出力レベルがHighからLow、またはLowからHighへの変化する基準位置P0に到達するタイミングを常時検出し続ける。通常、基準位置P0は、フォトインターラプタ109の出力レベルがHighからLow、またはLowからHighのいずれか一方に切り換わる位置に統一されている。機械的な位置誤差などを無くして高精度に決定する必要がある場合には、最終的に基準位置を検出する際の回転方向も一意に決められている。図6の例において、基準位置P0は、フォトインターラプタの出力PIoutが増加する方向にレンズを移動させた場合にHighからLowに切り換わる点として決められている。ステップS103にて基準位置P0が検出されると次のステップS104に進み、駆動停止処理や内部位置カウンタの設定処理を行い、基準位置の検出処理は完了する(基準位置設定完了)。
【0048】
次に、図8のフローチャートを参照して、レンズ位置検出センサの出力からレンズ振動量を検出し、このレンズ振動量に基づいてステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正し、レンズ振動量が最小となる補正値を算出する動作について説明する。図8に示される各動作は、マイクロプロセッサ111の指令に基づいて実行される。
【0049】
図8の補正処理1のフローチャートにおいて、まずステップS201で、レンズ駆動速度SPの設定と駆動補正値を無補正とする初期値A0に設定する。検出時のレンズ駆動速度SPとしては、補正処理中に駆動速度を変更しながら適切な速度を決定してもよい。ただし、処理時間を短縮するため、予めステッピングモータの振動量がレンズ位置検出手段にて良好に検出可能なレベルとなる速度を求めておくのが好ましい。特に、レンズ振動量が大きくかつ補正値の変化で振動量の変化が著しい速度を設定するのが適切である。
【0050】
ステップS201にて初期設定が完了すると、続いてステップS202において、レンズ駆動を開始する。本実施例のレンズ位置検出センサは、一対のフォトインターラプタおよび遮光部を備えて構成されている。その検出出力は、レンズ移動量に対して一定の増減率(変化率)で変化し、レンズを一定速度で移動させた状態で所定時間ごとにレンズ位置検出センサの出力を取得し、その増減率の安定度によりレンズ振動量を判定する。
【0051】
次のステップS203では、振動量の検出時にレンズ駆動速度を一定で安定した状態に保つため、駆動開始後に加速時間を経て、所定の設定速度に安定したか否かが判定される。設定速度に安定するまでこの判定は繰り返される。ここまでで本フローの準備段階が完了し、続いてレンズ振動量の検出および補正値の調整が行われる。ステップS203において設定速度に安定したと判定されると、次のステップS204において基準時間Tが経過したか否かが判定される。基準時間Tは、フォトインターラプタの出力から得られる、無振動時の理想的な状態の出力変化量と、レンズの振動が存在する場合の出力変化量との比較に必要な時間である。
【0052】
図13は、フォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。図13に示されるように、基準時間Tを用いて一定の駆動速度で移動しているレンズにおいて、理想的な無振動駆動であれば、一定時間内に変化するフォトインターラプタの出力変化量はある一定値で安定している。一方、実際のレンズ駆動では、振動量に応じてフォトインターラプタの出力変化量に揺らぎ(P0、P1、P2)が発生するため、理想値と測定値との差分から振動量を判定することができる。
【0053】
ステップS204にて基準時間Tが経過すると、ステップS205においてレンズ位置検出センサからフォトインターラプタの出力PIoutを取得する。続いてステップS206において、前回取得したフォトインターラプタの出力PIoutとの差分から、今回の基準時間当たりに変化した変化量Pnを算出する。その後、ステップS207において、基準時間当たりの理想変化量とステップS206で算出した変化量Pn(測定変化量)との差分ΔLnを算出する。
【0054】
続いてステップS208では、補正量を徐々に変化させていくことで最適補正値を決定する過程において必要な、補正値を変化させる方向(補正方向)が決定されているかを判定する。補正開始時点では、まだ最適補正値の方向が決定されていないため、ステップS209においてレンズ移動量の差分ΔLnの変化を複数回サンプリングすることで、補正値の変化に対して差分ΔLnが小さくなる方向を求める。そしてステップS210において補正方向を決定する。また、ステップS211にてカウンタ値nを1だけ増加させ、ステップS212にて補正値Anを設定する。その後、ステップS204に戻る。なお本実施例では、サンプリング回数が2より大きい値としているが、これに限定されるものではない。判定時の信頼度や要求される判定精度に応じて、適宜、サンプリング回数を変更してもよい。
【0055】
続いて、補正方向が決定した後の処理フローについて説明する。ステップS208において補正方向が決定されている場合、ステップS213に進む。ステップS213では、今回求められたフォトインターラプタの出力変化量の差分ΔLnと、一つ前の補正値に対するフォトインターラプタの出力変化量の差分ΔLn−1とを比較し、モータの個体特性に対する最適な補正値を見出す。ステップS213において、今回の差分ΔLnが前回の差分ΔLn−1以下である場合、ステップS211に進む。一方、今回の差分ΔLnが前回の差分Ln−1よりも大きい場合(ΔLn>ΔLn−1)、ステップS214に進む。ステップS214では、過去の保存データである差分ΔLnのなかから最小の差分が得られたときの補正値A(n−1)を求め、この補正値A(n−1)を最適な補正値として決定し、本補正処理1を終了する。なおステップS213においては、一度の差分ΔLnの増加により判定してもよいが、前後の複数データの遷移状況を見て判定することにより最適補正値の算出精度を高めることができる。
【0056】
以上のように、本実施例では、レンズ基準位置を設定する処理と、レンズ振動量を検出してレンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号の最適補正量を算出する処理は、同一のレンズ位置検出センサを用いて実施可能である。また、これらの処理を実施するには、レンズを所定位置まで移動する必要があり撮影者の意図しない画像となる恐れがある。このため、本処理中は撮影画像を出力停止とし、また2つの検出処理を同時またはシーケンシャルに実施することにより処理時間の短縮を図ることができ、撮影者に違和感を与えることなく実施可能となる。
【0057】
実際に、補正値Anを徐々に変化させて測定した「補正値(位相差)−振動量」の変化特性を図9に示す。図9中の実線と破線は、2つのモータサンプルの測定値を表わしている。この測定結果からも、補正値である位相差を、振動量が減少する方向に向けて徐々に変化させていきながら最小点を探すことで、最適な補正値を算出することが可能であることが分かる。このように、本実施例の補正処理により、モータの個体特性に合わせた最適な補正値を算出し、モータが発する振動量の低減化を図ることができる。
【0058】
図10は、駆動周波数に対する振動量の特性図であり、本実施例の補正処理により実測した、PM型2相ステッピングモータの2つの励磁相間の位相を補正した場合の軽減効果を示している。その効果は、駆動速度の全域に亘り有効であることが示されており、特にピークポイントである駆動速度900pps付近における振動量が、約1/4にまで低減されていることが分かる。
【実施例2】
【0059】
次に、図11、図12、および図14を参照して、本発明の実施例2における、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正による振動低減方法について説明する。図11は、撮像装置100におけるレンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正動作を示すフローチャートである。図12は、レンズ基準位置およびレンズ振動状態の両方を検出するためのレンズ位置検出センサの構成図である。図14は、フォトインターラプタの出力とレンズ位置の関係図である。
【0060】
本実施例は、図6に示されるレンズ位置検出センサに代えて、図12に示されるレンズ位置検出センサが用いられる点で、実施例1とは異なる。それ以外の構成については実施例1と同様であるため、それらの説明は省略する。このため本実施例では、レンズ位置検出センサにおける遮光部の形状の差異、および、フォトインターラプタの出力によるレンズ振動量の検出方法における差異について説明する。また本実施例は、複数の補正項目を同時に補正して更なるモータ振動量の低減を実現する構成であり、各補正項目の最適補正値を決定するまでの処理手順を中心に説明する。
【0061】
まず、図12のフォトインターラプタと遮光部の構成において、実施例1と異なる点は、遮光部の形状とその形状変更に伴う現在位置から見た基準位置方向の判定方法である。実施例1では、ズームレンズおよびフォーカスレンズの位置が基準位置を境界としていずれの側にあるかを、ゾーン判定の閾値電圧THに基づいて判定するように構成されている。一方、本実施例の遮光部1051b(1061b)、1052b(1062b)は、検出範囲501に対して対称な検出範囲502、503を有する。このため、レンズを移動させた際にフォトインターラプタ出力が低下する移動方向へレンズを移動することにより基準位置の検出が可能である。
【0062】
フォトインターラプタの出力によるレンズ振動量の検出方法に関し、実施例1ではレンズを一定速度で移動させた状態で、基準時間Tの一定時間間隔でフォトインターラプタ出力をサンプリングし、その移動量の安定度から振動量を求めている。一方、本実施例では、図14に示されるように、無振動状態でのレンズ位置におけるフォトインターラプタの出力の基準特性データを予め記憶する。そして、実際にレンズを駆動した時のレンズ位置に対するフォトインターラプタの出力データと基準特性データとの差分(P0、P1、P2)により、レンズ振動量を判定することができる。このため、本実施例の検出方法によれば、一定の基準時間Tを用いることなく、レンズ振動量の検出が可能である。
【0063】
次に、図11のフローチャートを参照して、レンズ振動量を検出し、レンズ振動量が小さくなるようにステッピングモータの各相に与える駆動信号を補正する処理手順について説明する。図11中のステップS301乃至S306における処理は、実施例1のステップS201乃至S206における処理とそれぞれ同等であるため、それらの説明は省略する。
【0064】
続いてステップS307では、既定数Nデータ(本実施例では10データ)の取得完了まで繰り返し測定を実施するため、ステップS304へのループ処理が行われる。既定数のデータの取得が完了すると、ステップS308では、取得したNデータにおける分散σnを式(1)により算出する。
【0065】
σn=√(1/N・Σ(Pn−Pave)^2) … (1)
ここで、PaveはNデータの平均値である。
【0066】
続いてステップS309において、複数存在する制御補正項目を選択する。本実施例では、補正項目をA補正とB補正の2項目から選択するように構成されている。ただしこれに限定されるものではなく、3項目以上のなかから選択するように構成してもよい。
【0067】
ステップS309にて、補正項目Aが補正調整対象となっている場合にはステップS310へ進む。ステップS310では、今回の分散値σnと前回の分散値σn−1とを比較する。ここでσn≦σn−1の場合、ステップS311、S312に進み、次の補正値の評価を繰り返す。一方、σn>σn−1の場合、最適な補正値を超えたと判定し、ステップS313に進み、前回の補正値A(n−1)を最適な補正値として決定し、補正項目Aの補正調整を完了する。なお、このステップでの値を比較する前提として、補正値を変化させる方向の判定処理が行われた上で、補正値は最適値へ向かって補正調整されているものとする。
【0068】
一方、ステップS309にて、補正項目Bが補正調整対象となっている場合にはステップS320へ進む。ステップS320では、今回の分散値σnと前回の分散値σn−1とを比較する。ここでσn≦σn−1の場合、ステップS321、S322に進み、次の補正値の評価を繰り返す。一方、σn>σn−1の場合、最適な補正値を超えたと判定し、ステップS323に進み、前回の補正値B(n−1)を最適な補正値として決定し、補正項目Bの補正調整を完了する。
【0069】
続いてステップS330では、複数存在する制御補正項目の全てにおいて補正調整が完了したか否かを判定する。補正調整が未完了と判定された場合、ステップS331に進み、未完了である補正調整項目に補正対象を切り換え、以後、同様に最適値を算出する処理を繰り返す。補正調整が完了したと判定された場合、補正処理2のフローは終了する。
【0070】
本実施例では、ステッピングモータの複数の励磁相に印加する励磁信号(励磁電流信号、励磁電圧信号)に対して、補正項目Aでは相間の電流波形または電圧波形の位相差(各相の励磁信号の位相)を補正する。また、補正項目Bでは相間の電流波形の振幅比(各相の励磁信号の振幅)を補正する。また、その他の補正項目として、ステッピングモータに与える各相の励磁信号(励磁電流信号または励磁電圧信号)を正弦波等の三角関数形状になるように、すなわち0度位置に対する180度位置をずらした三角関数波形に補正することもできる。このような補正により、モータ振動を効果的に低減させることが可能である。
【実施例3】
【0071】
次に、図15を参照して、本発明の実施例3における、レンズ振動量を検出し、ステッピングモータの各相に与える駆動信号の補正による振動低減方法について説明する。本実施例はフォトインターラプタの出力からレンズ振動量を検出する際に、レンズ振動量のみを正確に抽出することができる点で、実施例1、2とは異なる。他の基本的構成は実施例1、2と同様であるため、それらの説明は省略する。
【0072】
レンズ位置検出手段から得られる振動量情報には、モータ振動に起因するレンズ振動成分の他に、レンズ移動中に発生するフォトインターラプタと遮光部の機械的ガタツキ等に起因する出力変動成分などモータ振動に起因しない振動成分も含まれる場合がある。本実施例では、これら複数の要素が複合されたレンズ位置検出手段から得られる振動量情報から、モータ振動に起因するレンズ振動成分を抽出するため、図15に示されるようなFIR(Finite Impulse Response)フィルタが用いられる。
【0073】
例えば、ステッピングモータの駆動速度を1−2相駆動換算で800pps(pulse per second)として回転させている場合、モータ駆動に起因するレンズ振動は約200Hzとなる。このため、約200Hzを中心周波数とするバンドパスフィルタBPFを通過させ抽出して得られた振動成分のみに注目する。そして、前述の補正手順に従って振動量が低減するようにステッピングモータの駆動信号を補正することで、使用するモータの個体特性に適合した補正制御が実現できる。なお本実施例では、FIRデジタルフィルタを用いて帯域抽出を行っているが、これに限定されるものではない。他のデジタルフィルタや、アナログフィルタ、その他の帯域抽出が可能なフィルタ手段を用いることもできる。
【0074】
上記各実施例によれば、モータの製造バラツキ誤差や、モータ駆動回路のバラツキ誤差などが原因でモータ振動が発生する場合でも、モータおよび駆動回路の個々の特性に合わせた最適な補正制御を行うことができる。特に、モータ振動量の低減と停止位置精度の向上を実現する制御方法において、モータ個々の電気角誤差量に基づくランク情報を予め求めて記憶する工程を必要とせず、電気角誤差量が初期の特性から変化した場合にも最適な補正を行うことができる。また、モータ個々の電気角誤差量に基づくランク情報と、モータを制御する機器側とのランク情報の関連付け行為を必要とせずに、モータおよび駆動回路の個体特性に合わせた最適な補正制御が可能となる。また、最適な補正制御を実施するにあたり、その目的のために補正対象の振動量を計測する計測手段を新たに装備せず、既存の検出手段を流用し代用することで、制御装置のコストを増大させることなく最適な補正制御が実現できる。このため、上記各実施例によれば、低コストでモータ振動に対する最適な補正制御が可能なモータ制御装置を提供することができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0076】
例えば、マイクロプロセッサは、レンズの基準位置を検出する初期化処理の間に振動状態情報を取得するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
102:ズームレンズ
104:フォーカスレンズ
105b、106b:遮光部
107、108:ステッピングモータ
109、110:フォトインターラプタ
111:マイクロプロセッサ
119、120:ステッピングモータ駆動回路
201:発光素子
202:受光素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部を移動させる駆動手段と、
前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、
前記可動部の基準位置を検出するために用いられる基準位置情報、および、該可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段と、を有し、
前記制御手段は、前記基準位置情報に基づいて前記可動部の前記基準位置を設定し、前記振動状態情報に基づいて該可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正し、
前記可動部の移動量に対して、前記基準位置情報は第1の変化率を有し、前記振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記基準位置情報の前記第1の変化率は、前記振動状態情報の前記第2の変化率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記振動状態情報の前記第2の変化率は一定の変化率であり、
前記制御手段は、前記可動部が一定の速度で移動している間、所定の時間間隔ごとに前記振動状態情報を取得し、前記第2の変化率が一定になるように前記駆動信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記駆動手段はステッピングモータであることを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の位相を補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の振幅を補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の形状が0度位置に対する180度位置をずらした三角関数形状になるように補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記可動部の前記基準位置を検出する初期化処理の間に、前記振動状態情報を取得することを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記検出手段は、発光素子、受光素子、および、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部を備え、前記発光素子からの光量の少なくとも一部を前記遮光部により遮光して前記受光素子に到達する光量を変化させ、該光量に応じて前記可動部の位置を検出することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
発光素子および受光素子、または、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部が固定された可動部を移動させる駆動手段と、
前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、を有し、
前記遮光部は、前記可動部が移動した際に、前記受光素子に到達する光量が第1の変化率を示す部分を含む第1検出範囲と前記第1の変化率よりも小さい第2の変化率を示す部分を含む第2検出範囲とを有する形状であり、
前記制御手段は、前記可動部の移動により前記第1検出範囲から前記第2検出範囲、または、前記第2検出範囲から前記第1検出範囲へ前記受光素子による検出範囲が変化した際の前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の基準位置を決定し、前記可動部の移動により前記第2検出範囲における前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータ制御装置を有し、
前記可動部はズームレンズまたはフォーカスレンズであることを特徴とする光学機器。
【請求項1】
可動部を移動させる駆動手段と、
前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、
前記可動部の基準位置を検出するために用いられる基準位置情報、および、該可動部の振動状態を検出するために用いられる振動状態情報を出力する検出手段と、を有し、
前記制御手段は、前記基準位置情報に基づいて前記可動部の前記基準位置を設定し、前記振動状態情報に基づいて該可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正し、
前記可動部の移動量に対して、前記基準位置情報は第1の変化率を有し、前記振動状態情報は該第1の変化率と異なる第2の変化率を有する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記基準位置情報の前記第1の変化率は、前記振動状態情報の前記第2の変化率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記振動状態情報の前記第2の変化率は一定の変化率であり、
前記制御手段は、前記可動部が一定の速度で移動している間、所定の時間間隔ごとに前記振動状態情報を取得し、前記第2の変化率が一定になるように前記駆動信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記駆動手段はステッピングモータであることを特徴とする請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の位相を補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の振幅を補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ステッピングモータに与える各相の励磁信号の形状が0度位置に対する180度位置をずらした三角関数形状になるように補正することを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記可動部の前記基準位置を検出する初期化処理の間に、前記振動状態情報を取得することを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記検出手段は、発光素子、受光素子、および、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部を備え、前記発光素子からの光量の少なくとも一部を前記遮光部により遮光して前記受光素子に到達する光量を変化させ、該光量に応じて前記可動部の位置を検出することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
発光素子および受光素子、または、該発光素子と該受光素子との間に配置された遮光部が固定された可動部を移動させる駆動手段と、
前記駆動手段に駆動信号を与えて該駆動手段を制御する制御手段と、を有し、
前記遮光部は、前記可動部が移動した際に、前記受光素子に到達する光量が第1の変化率を示す部分を含む第1検出範囲と前記第1の変化率よりも小さい第2の変化率を示す部分を含む第2検出範囲とを有する形状であり、
前記制御手段は、前記可動部の移動により前記第1検出範囲から前記第2検出範囲、または、前記第2検出範囲から前記第1検出範囲へ前記受光素子による検出範囲が変化した際の前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の基準位置を決定し、前記可動部の移動により前記第2検出範囲における前記受光素子に到達する光量の変化を用いて前記可動部の振動量が低減するように前記駆動信号を補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータ制御装置を有し、
前記可動部はズームレンズまたはフォーカスレンズであることを特徴とする光学機器。
【図7】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2013−27215(P2013−27215A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161494(P2011−161494)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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