説明

モード同期固体レーザ装置

【課題】安定性の高い、高出力を得ることができる、小型、かつ低コストのモード同期固体レーザ装置を得る。
【解決手段】モード同期固体レーザ装置直1として、線型共振器と、共振器内に配置された固体レーザ媒質13と、共振器の一端もしくは内部に配置されたモード同期を誘起するための可飽和吸収体12と、共振器の他端もしくは内部に配置された群速度分散補償素子11と、固体レーザ媒質13に励起光Lを入射させる励起光学系18と、共振器内に配置された、共振器内を共振しているパルス光Lの偏光方向を変化させる電気光学変調素子21、および電気光学変調素子21により偏光方向が変化されたパルス光Lを共振器光軸と交差する方向へ偏向させる偏向素子22を含む、パルス光Lを共振器の外部に取り出すためのキャビティダンピング機構20とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で高出力かつ高効率の短パルス動作が可能なモード同期固体レーザ装置に関し、特には、高取出し効率を可能とするモード同期固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス幅がピコ秒またはフェムト秒の超短パルス光は、その非常に大きなピークパワーにより、2光子吸収の誘起や第2次高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS: Coherent Anti Storks Raman Scattering)等の非線形光学効果を生じさせることができ、超短パルス光による非線形光学効果は様々な分野において応用が期待されている。
【0003】
超短パルス光を生成する方法としては、共振器内に配置された固体レーザ媒質を半導体レーザなどで励起し、発振している多くの縦モードの位相を同期させる「モード同期」方式があり、この方式でパルスレーザ光を生成するレーザ装置はモード同期レーザ装置と称されている。現在市販されているモード同期レーザ装置としては、スペクトラフィジックス社製のTSUNAMIやコヒーレント社製Chameleon等が広く知られている。これらの市販されているモード同期レーザ装置は、ピークパワーを大きくするために共振器長を長く(2m程度)構成しているために、複数回光を折り返すための多くの光学部品を備えた、大型で複雑な共振器構造となっている。また、主として固体レーザ媒質としてチタンサファイア結晶を用いており、このチタンサファイア結晶を励起するためには、励起光源としてさらに固体レーザ光源を備える必要があることから、レーザ装置自体が非常に大型かつ高価なものとなっている。また、出力安定性に関しては、出力変動に対し、共振器ミラーを最適化し出力を一定にするフィードバック機能を追加しなければ、数週間で発振が停止してしまうような不安定なものである。
【0004】
これら共振器構造の複雑化および出力不安定化を招いている原因の一つは、2m程度の長い共振器長にある。共振器長が長くなると、ある体積内に共振器を収納するために、共振器を折返す必要があり、そのため共振器構造が複雑になる。また、共振器長が長いと、温度/湿度などによる環境変動により、ミラーなどの共振器を構成する光学部品が微妙に動いた場合、大きく共振器光軸が動くことになり、出力が不安定となる。
【0005】
一方、直線型で小型の超短パルスレーザが特許文献1〜3において提案されている。具体的には、特許文献1には、固体レーザ媒質の一端面を曲率ミラーとし、この曲率ミラーと、固体レーザ媒質の他端面に配置された半導体可飽和吸収ミラー(SESAM)とから共振器を構成することにより小型化したモード同期固体レーザが提案されており、特許文献2には、固体レーザ媒質に可飽和吸収ミラーをコーティング形成すると共に、負分散ミラーが出力ミラーを兼ねる構成とすることで光学部品を低減し小型化したモード同期固体レーザが提案されている。また、特許文献3には、負分散ミラーと、レーザ媒質に近接して配置されたSESAMとにより構成された直線型のモード同期固体レーザが提案されている。それぞれ、モード同期に必要なSESAMを共振器ミラーの一端として備えており、いずれも、SESAMとレーザ結晶を近接あるいは密着させ、SESAM上に共振器ウエストを持たせることで、SESAMとレーザ結晶の双方に別々に共振器スポットを形成する従来の場合に比べ、直線型で小型化が可能な構成例が挙げられている。
【0006】
また、本出願人は、手のひらサイズの小型で安定性の高いモード同期固体レーザ装置として、パルスエネルギー約0.2nJ程度、ピークパワー約10W〜1kWの超短パルス光を出力可能な装置を実現している。
【0007】
超短パルス光による非線形光学効果の応用が期待されている分野としては、生体イメージング、生体加工などが挙げられ、特に生体加工への応用を実現するためには、数nJ〜数十nJ程度の大きなパルスエネルギーが必要とされる。
【0008】
超短パルス光のエネルギーおよびピークパワーを増幅する一般的な方法としては、レーザ発振器の外部に増幅機構を設ける手法が知られている。CPA(Chirped pulse amplifier)と呼ばれる手法では、まず、レーザ発振器からの超短パルス光を、グレーティング等で構成された群速度分散制御機構に通し、パルス幅を拡大してから、増幅媒体を通過させパルスエネルギーを増加させ、さらに再度該群速度分散制御機構を通して元のパルス幅に圧縮して、高エネルギーかつ高ピークパワーのパルス光を得ることができる。しかしながら、このCPA法では、外部に増幅機構を備える必要があるために、高エネルギー、ピークパワーを出力させるための装置全体としてのサイズは大型化し、高コスト化してしまう。
【0009】
一方、特許文献4では、100nJを超えるパルスエネルギーを達成することを目的とし、共振器内に光変調器を配置し、共振器内の高エネルギーかつ高ピークパワーの超短パルス光を共振器外部に取出す手法(「キャビティーダンビング」と称す。)が提案されている。本手法を用いることで、外部に増幅機構を設ける必要なく超短パルス光のエネルギーを増幅することが可能となる。特許文献4においては、100nJを超える非常に高エネルギーの超短パルス光を実現するために、共振器長を約7m(特許文献4に記載の繰り返し周波数から算出。)と長くしており、複雑な共振器構造となっている。従って、共振器自体の小型化が達成できず、出力不安定性、高コスト化が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7106764号明細書
【特許文献2】特開平11−168252号公報
【特許文献3】特開2008−28379号公報
【特許文献4】特表2007−514307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、現時点において、生体加工に応用可能な数nJ〜数十nJ程度のパルスエネルギーの超短パルス光を高い安定性で出力可能な、小型、かつ低コストの超短パルスレーザ装置は実現されていない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生体加工に応用可能な高いパルスエネルギー、ピークパワーの超短パルス光を、安定性高く出力することができる、小型、かつ低コストの超短パルスレーザ装置としてのモード同期固体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のモード同期固体レーザ装置は、直線型共振器と、
該共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
前記共振器の一端もしくは内部に配置されたモード同期を誘起するための可飽和吸収体と、
前記固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光学系と、
前記共振器内に配置された、該共振器内を共振しているパルス光の偏光方向を変化させる電気光学変調素子、および該電気光学変調素子により偏光方向が変化されたパルス光を共振器光軸と交差する方向へ偏向させる偏向素子を含む、前記パルス光を共振器の外部に取り出すためのキャビティダンピング機構と、を備えていることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、直線型共振器とは、2枚の共振器ミラーのみによって構成されている共振器をいう。なお、可飽和吸収体を共振器の一端に配置するとは、可飽和吸収体が共振器ミラーを兼ねることを意味するものである。
また、前記共振器の他端もしくは内部に配置された負群速度分散補償素子をさらに備えてもよい。ここで、負群速度分散補償素子を共振器の他端に備えるとは、負群速度分散補償素子が共振器ミラーを兼ねることを意味するものである。
【0015】
前記直線型共振器の共振器長は150mm以下であることが望ましく、75mm以下であることがさらに望ましい。
【0016】
また、前記可飽和吸収体が、半導体可飽和吸収ミラーであり、前記負群速度分散補償素子が、負分散ミラーであり、前記直線型共振器が、前記半導体可飽和吸収ミラーと負分散ミラーとにより構成されており、前記励起光学系が、前記共振器の共振器光軸に対して、該光軸に交差する方向から前記励起光を入射させる励起光入射光学手段と、前記共振器光軸上に配置された、該励起光入射光学手段により前記共振器内に入射された前記励起光を、前記固体レーザ媒質に向けて反射すると共に、前記パルス光を透過するダイクロイックミラーとを備えてなるものであることが望ましい。
【0017】
前記電気光学変調素子としては、SBN結晶(ニオブ酸ストロンチウムバリウム結晶)またはKTN結晶(タンタル酸ニオブ酸カリウム結晶)を好適に用いることができる。
【0018】
前記共振器内を共振している前記パルス光が第1の方向の直線偏光であるとき、
前記電気光学変調素子が、前記パルス光の前記第1の方向の直線偏光を、90°回転させて第1の方向と直交する第2の方向の直線偏光とするものであることが望ましい。
【0019】
また、この場合、前記偏向素子としては、該偏向素子に入射される光が前記第2の方向の直線偏光である場合にのみ、該光の進路を偏向させるものを用いてもよいし、前記第1の方向の直線偏光を透過し、前記第2の方向の直線偏光を反射するものを用いてもよい。さらに、前記ダイクロイックミラーを、前記偏向素子を兼ねるものとし、前記第1の方向の直線偏光を透過し、前記第2の方向の直線偏光を反射するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のモード同期固体レーザ装置は、小型に構成可能な直線型共振器内に、キャビティダンピング機構を備えたことにより、共振器内部のパルス光を、出力ミラーを介することなく取り出すことができるので、小型、低コスト、出力の高安定性を維持しつつ、一般的な出力ミラーから取り出されるパルス光と比較して高エネルギーのパルス光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置の概略構成図
【図2】本発明の第2の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本発明の第1の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置1について説明する。図1は、第1の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置1の概略構成示す模式図である。
【0023】
本モード同期固体レーザ装置1は、共振器の一端を構成する共振器ミラー11と、共振器の他端を構成する可飽和吸収体であるSESAM(半導体可飽和吸収ミラー)12と、共振器内に配置された固体レーザ媒質13と、励起光(ポンピング光)Lを発する半導体レーザ14および励起光Lを共振器内に共振器光軸に交差する方向から入力させるセルフォックレンズ15からなる励起光入射光学手段16および、この励起光入射光学手段16により共振器光軸に交差する方向から入射された励起光Lを、固体レーザ媒質13に向けて反射すると共に、共振器内で共振するパルス光Lを透過する、共振器内に配されたダイクロイックミラー17からなる励起光学系18と、共振器内からパルス光Lを外部に取り出すためのキャビティダンピング機構20とを備えている。
【0024】
本装置1においては、励起光入射光学手段16により、励起光Lが共振器光軸と交わる方向から共振器に入力され、共振器内の共振器光軸上に配置されたダイクロイックミラー17により反射されて固体レーザ媒質へと導入されるよう構成されている。このダイクロイックミラー17は、励起光Lを高反射(例えば、反射率>85%)で反射するとともに、レーザ発振光(パルス光)Lを無反射(例えば、反射率<0.5%)で透過させる。このため、挿入に伴うレーザ発振効率の低下は最小限に抑制出来るとともに、励起光源を従来の光学系よりも固体レーザ媒質に近づけることが出来、装置を小型に構成できるという利点がある。なお、このダイクロイックミラーは、45度入射あるいはブリュースター角での入射が望ましい。ダイクロイックミラーには、励起光の入射角度に応じたコート設計を施せばよい。
【0025】
共振器ミラー11とSESAM12との距離は、光学的共振器長が150mm以下となるように配置することが望ましい。共振器長を150mm以下とすることにより、レーザ出力の不安定性を抑制し、機械的変動による出力変動を無視できる程度に抑制することができる。なお、共振器長は、さらには、75mm以下であることが好ましい。
【0026】
なお、共振器の両端は、単なる共振器ミラーにより構成し、可飽和吸収体を共振器内に配置するよう構成してもよい。ただし、上記のようにSESAMを用いることにより、より装置の小型化を行うことができ好ましい。
【0027】
固体レーザ媒質13は、SESAM12に近接して配置されている。共振器ミラー11とSESAM12とにより直線型共振器が形成されており、発振光のビームウェストは、SESAM12上にのみ形成される。そのため、固体レーザ媒質とSESAMとの距離が大きくなると、固体レーザ媒質における発振光のビーム半径が大きくなりすぎ、レーザ発振が起きない、あるいはモード同期が掛からずパルス発振ができない恐れがあるためである。なお、固体レーザ媒質13とSESAM12とは、接触配置されていてもよい。
【0028】
固体レーザ媒質13としては、特に制限なく、公知の種々の固体レーザ結晶を用いることができる。具体的には、Yb:KGW(KGd(WO)、Yb:KYW(KY(WO)、Yb:YAG(YAl12)、Yb:Y、Yb:Sc、Yb:Lu、Yb:GdCOB(CaGdO(BO)、Yb:SYS(SrY(SiO)、Yb:BOYS(SrY(BO)、Yb:YVO、Yb:GdVO、Alexandrite(Cr:BeAl)、Cr:LiSAF(LiSrAlF)、Cr:LiSGAF(LiSrGaF)、Cr:LiCAF(LiCaAlF)、Cr:forsterite(MgSiO)、Cr:YAG(YAl12)、Cr:CaGeO、Ti:Al、Nd:YVO、d:Glass、及びEr:Yb:Glassなどが挙げられる。なお、例えば、Yb:KYWにより1045nm、Yb:YAGにより1030nm〜1100nm、Yb:KGWにより1000nmあるいは1045nm、Yb:Y23により1075nm、Yb:Sc23により1041nm、Nd:YVO4により1064nm、Nd:Glassにより1060nmのそれぞれ発振波長を得ることができる。またCr:LiSAF、Cr:LiCAF、アレキサンドライトなどを用いれば、760nm〜1000nmの発振波長を得ることができる。
【0029】
キャビティダンピング機構20は、共振器内に配置された、電気光学変調素子21(21a、21b)およびパルス光を共振器光軸と交差する方向へ偏向させる偏向素子22を備えている。電気光学変調素子21は、電圧印加手段33により電圧が印加されるよう構成されている。なお、本実施形態においては、偏向素子22により偏向されたパルス光Lを反射するミラー23をさらに備えている。本実施形態においては、電気光学変調素子21として、同じ形状の結晶を互いの結晶軸が直交するように2つ(21a、21b)配置することにより、電圧が印加されていない場合における、パルス光の偏光の回転(リタデーション)を補償するよう構成されている。なお、1つの結晶のみを備えた場合であっても、直流電圧を印加することにより補償することが可能である。電気光学変調素子21としては、SBN結晶またはKTN結晶が好適である。
【0030】
本構成においては、電気光学変調素子21(21a、21b)は、電圧が印加されていない状態では、パルス光の偏光を回転させず、電圧が印加された場合、パルス光が電気光学変調素子21(21a、21b)を往復する(2度通る)と、パルス光の偏光を90°回転させるものである。すなわち、電圧印加された電気光学変調素子21を往復することにより、第1の方向の直線偏光P(以下において、「第1の直線偏光P」という。)のパルス光は、その偏光Pが90°回転され、偏光Pと直交する第2の方向の直線偏光P(以下において、「第2の直線偏光P」という。)となる。
【0031】
偏向素子22は、第1の直線偏光Pの光に対しては作用せずそのまま透過させ、第1の直線偏光Pと直交する第2の直線偏光Pの光の進路を変更するものである。
【0032】
本実施形態においては、共振器ミラー11は、パルス光Lを僅かに(例えば、透過率0.1%程度)透過させるものとしており、この共振器ミラー11を透過したパルス光を、フォトディテクタ30により検出し、電気信号に変換して、電気光学変調素子21への電圧印加の際のタイミング信号として用いるよう構成されている。
【0033】
なお、フォトディテクタ30で検出された電気信号は、分周期31、遅延器32を経て、タイミング信号として、電圧印加手段である高電圧パルス発生器33に入力される。タイミング信号と同期した高電圧パルス信号は、高電圧パルス発生器33と電気光学変調素子21との間の位相を整合するための位相整合回路34を通過後、電気光学変調素子21に印加される。
【0034】
上記構成のモード同期固体レーザ装置においては、まず、電気光学変調素子に電圧を印加しない状態下において、半導体レーザ14から出力され、セルフォックレンズ15により共振器光軸に対して光軸と交差する方向(ここでは光軸と直交する方向)から入射された励起光Lがダイクロイックミラー17により反射されて固体レーザ媒質13に入力され、固体レーザ媒質13が励起され、それにより発生した光が共振器の作用で発振する。本構成の装置においては、共振器内で共振するレーザ発振光LのビームウェストはSESAM12上にのみ形成されている。共振器内においては、SESAM12によるモード同期作用により、発振光Lがパルス光として共振器内を周回する。その後、電気光学変調素子21に電圧を印加させた状態で、パルス光が電気光学変調素子21を往復することにより、その直線偏光Pが90°回転せしめられて直線偏光Pと直交する方向の直線偏光Pとなり、直線偏光Pに対してのみ作用して進路を偏向する偏向素子22により、共振器光軸に交差する方向へと偏向される。この偏向されたパルス光をさらにミラー23により反射させることにより共振器外部に取り出す。
【0035】
なお、電気光学変調素子への電圧の印加タイミングは、共振器ミラー11を透過した発振光Lの一部をフォトディテクタ30で検出し、電気信号として変換した信号に基づいて行われる。
【0036】
上記実施形態のモード同期固体レーザ装置1は、小型で安定な共振器構成において、共振器中で周回しているパルス光を、共振器ミラーを介することなく、共振器外にとりだすことにより、非常に大きなパルスエネルギーの超短パルス光を得ることができる。
【0037】
本実施形態の具体的な実施例を説明する。
共振器ミラー11として、共振器内側の凹面側に、波長1064±5nmの光に対して反射率が99.9%の高反射コーティングが施されており、平面側には波長1064±5nmの光に対し透過率が99.9%以上の反射防止コーティングが施されているものを用いた。凹面の曲率半径は50mmとした。なお、この共振器ミラー11は、SESAM12の端面から約70mmの位置に配置した。
【0038】
SESAM12として、波長1064nmの光に対し変調深さ(ΔR)が0.4%、不飽和損失(Rns)が0.2%、飽和フルーエンスが70μJ/cm2であるBATOP社製のSESAMを用いた。
【0039】
固体レーザ媒質13として、厚み1mm、Nd濃度2%のNd:YVOを用いた。この両端面には、波長808±5nmの光に対して透過率が95%以上、波長1064±10nmの光に対して透過率が99.9%以上である反射防止コーティングが施されている。すなわち、本実施例において、パルス光Lの中心波長は1064nmである。
【0040】
半導体レーザ14としては、オプトエナジー社製の波長808nm、発光幅50μm、最大出力2Wのものを使用した。すなわち本実施例において、励起光Lの中心波長は808nmである。
【0041】
セルフォックレンズ15としては、長さ5.4mm、φ1.8mmであり、両端面に波長808nmの光に対する反射防止コーティングが施されているものを用いた。
【0042】
ダイクロイックミラー17としては、励起光入射側の端面には45°入射の波長808±5nmの光に対して95%以上の反射率、波長1064±10nmの光に対して99.9%以上の透過率を有するダイクロイックコーティングが施されており、他方の端面には45°入射の波長1064±10nmの光に対して99.9%以上の透過率を有する反射防止コーティングが施されているものを用いた。なお、ダイクロイックミラーは共振器光軸に対して45°で共振器内に配置した。
【0043】
電気光学変調素子21a、21bとしては、厚み2mm、幅2mm、長さ7.5mmのSBN結晶を用い、2つのSBN結晶を、互いの結晶軸(a軸)が直交するように、長さ方向が共振機軸方向となるように配置した。また、SBN結晶21a、21bの、共振器軸に対して平行となる2mm×7.5mmの対向する2つの側面には、電極が蒸着されており、半波長電圧(a軸に電圧印加)が約54Vとした。このように、同じ形状の結晶を、結晶軸を直交させて配置することにより、上述の通り、リタデーションの補正を行っている。一つの結晶を用いた場合においても、直流電圧を印加することにより、リタデーションを補正することが可能である。また、SBN結晶21a、21bの共振器軸が直交する2mm×2mmの端面には、波長1064±5nmの光に対し透過率が99.9%以上の反射防止コーティングが施されている。
【0044】
偏向素子22としては、YVO結晶からなるビームディスプレイサーを用いた。YVO結晶は厚み3mm、幅3mm、長さ20mmのもの、長さ方向が共振機軸方向となるように配置して使用した。共振機軸と垂直な3mm×3mmの側面には波長1064±5nmの光に対し透過率が99.9%以上の反射防止コーティングが施されている。ビームディスプレイサー22は、P偏光(第1の直線偏向)のパルス光をそのまま透過し、S偏光(第2の直線偏光)のパルス光の進行方向を変化させるものである。
【0045】
反射ミラー23としては、合成石英からなる、厚み0.5mm、幅5mm、長さ5mmのものを使用した。ミラー23の5mm×5mmの端面には、波長1064±5nmの光に対し反射率が99.9%以上の高反射コーティングが施されており、ミラー23は、ビームディスプレイサーにより偏向された光がこの端面に入射し、所望の方向へ反射するように配置した。
【0046】
本実施例において、SBN結晶21a、21bには、高電圧パルス発生器33からのパルス電圧が印加される。共振器ミラー11を透過したパルス光は高速PINフォトディテクタ30により電気信号に変換され、分周器(1/1000)31によりその周波数を1/1000の周波数に分周され、遅延器32により遅延された電気信号は、タイミング信号として、高電圧パルス発生器33に入力される。タイミング信号と同期した、高電圧パルス発生器33からの高電圧パルス信号は、位相整合回路34により、高電圧パルス発生器33とSBN結晶21a、21bとの間の位相整合がなされた上で、SBN結晶21a、21bに印加される。SBN結晶21a、21bにより偏光が90°回転したパルス光は、ディスプレイサー22により偏向され、反射ミラー23で反射されて、共振器外部に取出される。
【0047】
本構成のモード同期固体レーザ装置1によって、SBN結晶が非駆動時(電圧が印加されていない状態)において、繰返し周波数が1.4GHz、平均出力35mW、パルスエネルギー0.025nJ、パルス幅10ps、中心波長1064nmの超短パルス光が透過率0.1%の共振器ミラーを透過して出力された。
【0048】
この共振器ミラーを透過した超短パルス光をタイミング信号として使用し、SBN結晶を駆動(SBN結晶に電圧を印加)した場合、キャビティダンピング機構20により取り出された超短パルス光(ミラー23によって反射された超短パルス光)は、繰返し周波数1.4MHz、平均出力28mW、パルス幅12ps、パルスエネルギー20nJであった。
【0049】
このように、本実施例の構成において、一般に市販されているチタンサファイア超短パルスレーザのパルスエネルギー(10〜30nJ)と同等レベルの超短パルス光を、手のひらサイズの小型のモード同期固体レーザ装置から得ることができた。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置2について説明する。図2は、第2の実施形態に係るモード同期固体レーザ装置2の概略構成を示す模式図である。なお、第1の実施形態のモード同期固体レーザ装置1と同一の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0051】
本モード同期固体レーザ装置2は、第1の実施形態の装置1とは、キャビティダンピング機構の構成が異なる。本実施形態においては、励起光学系18のダイクロイックミラー17’が、キャビティダンピング機構20’におけるパルス光を共振器光軸と交差する方向へ偏向させる偏向素子を兼ねており、ダイクロイックミラー17’は、第1の直線偏光Pを透過し、第2の直線偏光Pを反射するものである。このようにダイクロイックミラーに偏向素子の機能を付加することにより、レーザ装置を構成する部品点数が削減でき、さらなる小型化を図ることができる。なお、励起光学系のダイクロイックミラーに偏向素子の機能を付加するのではなく、第1の直線偏光を透過し、第2直線偏光を反射する偏向ビームスプリッタからなる偏向素子を共振器内に配置してもよい。
また、本実施形態においては、共振器の一端を構成する共振器ミラーとして、負群速度分散補償素子である負分散ミラー11’を備えている。負分散ミラー(負群速度分散補償素子)は、共振器を光が一往復した場合の、該共振器全体での群速度分散が0以下となるようにするため、所定の負の群速度分散を有するものである。
【0052】
本実施形態のモード同期固体レーザ装置2においては、まず、電気光学変調素子に電圧を印加しない状態下において、半導体レーザ14から出力され、セルフォックレンズ15により共振器光軸に対して光軸と交差する方向(ここでは光軸と直交する方向)から入射された励起光Lがダイクロイックミラー17により反射されて固体レーザ媒質13に入力され、固体レーザ媒質13が励起され、それにより発生した光が共振器の作用で発振する。本構成の装置においては、共振器内で共振するレーザ発振光LのビームウェストはSESAM12上にのみ形成されている。ここでは発振光Lは、負分散ミラー11’の作用による負の群速度分散と、主に固体レーザ媒質13での自己位相変調が組み合わさって、フェムト秒領域のパルス光として共振器内を周回することとなる。より詳しくは、SESAM12によりモード同期が始動してパルスを維持安定化させるとともに、群速度分散と自己位相変調がバランスすることによるソリトンパルス形成を経てモード同期パルスの急峻化が起こり、安定したソリトンパルスの発生が可能となる。パルス光Lの共振器外部への取り出しは、キャビティダンピング機構20’において、電気光学変調素子21に電圧を印加し、第1の直線偏光Pのパルス光が電圧が印加された電気光学変調素子21を往復することにより90°回転されて第2の直線偏光Pとなり、ダイクロイックミラー17’で反射されることによりなされる。
【0053】
本実施形態のレーザ装置2においても、第1の実施形態の装置1と同様に、小型で安定な共振器構成において、共振器中で周回しているパルス光を、共振器ミラー(ここでは、負分散ミラー)を介することなく、共振器外にとりだすことにより、非常に大きなパルスエネルギーの超短パルス光を得ることができる。
【0054】
本実施形態の具体的な実施例を説明する。
負分散ミラー11’として、共振器内側の凹面側に、-10000fs2の負の群速度分散を有し、波長1045±10nmの光に対して反射率が99.9%の高反射コーティングが施されており、平面側には、波長1045±10nmの光に対し透過率が99.9%以上の反射防止コーティングが施されているものを用いた。凹面の曲率半径は50mmとした。このような負分散ミラー11’を用いることで、ソリトンモード同期と呼ばれるモード同期形態を誘起することが可能であり、フェムト秒クラスの超短パルス光を得ることが可能となった。なお、負分散ミラー11’はSESAM12の端面から約70mmの位置に配置した。
【0055】
SESAM12として、波長1045nmの光に対し変調深さ(ΔR)が0.4%、不飽和損失(Rns)が0.2%、飽和フルーエンスが70μJ/cm2であるBATOP社製のSESAMを用いた。
【0056】
固体レーザ媒質13として、Yb:KYW結晶を用いた。両端面には、波長980±5nmの光に対して透過率が95%以上、波長1045±10nmの光に対して透過率が99.9%以上である反射防止コーティングが施されている。Yb:KYW結晶は、Nd:YVO4結晶よりも広い発振帯域を有しており、フェムト秒クラスの超短パルス光を得ることが可能である。
【0057】
半導体レーザ14として、オプトエナジー社製の波長980nm、発光幅50μm、最大出力2.5Wのものを使用した。すなわち本実施例において、励起光Lの中心波長は980nmである。
【0058】
セルフォックレンズ15としては、長さ5.4mm、φ1.8mmであり、両端面に980nmに対する反射防止コーティングが施されているものを用いた。
【0059】
ダイクロイックミラー17’としては、励起光入射側の端面には45°入射の波長980±5nmの光に対して95%以上の反射率、波長1045±10nmの光に対して99.9%以上の透過率を有するダイクロイックコーティングが施されており、他方の端面17aに、波長1045±10nmのP偏光光(第1の直線偏光P)に対し透過率が99.9%以上であり、波長1045±10nmのS偏光光(第2の直線偏光P)に対し反射率が95%以上であるコーディングを施したものを用いた。
【0060】
電気光学変調素子21a、21bとしては、第1の実施形態の実施例と同様に、厚み2mm、幅2mm、長さ7.5mmのSBN結晶を用い、2つのSBN結晶を、互いの結晶軸(a軸)が直交するように、長さ方向が共振機軸方向となるように配置した。ただし、SBN結晶21a、21bの共振器軸が直交する2mm×2mmの端面には、波長1045±5nmの光に対し透過率が99.9%以上の反射防止コーティングが施されている。
【0061】
本実施例において、SBN結晶21a、21bには、高電圧パルス発生器33からのパルス電圧が印加される。負分散ミラー11’を透過したパルス光を高速PINフォトディテクタ30により電気信号に変換し、分周器(1/1000)31によりその周波数を1/1000の周波数に分周され、遅延器32により遅延された電気信号は、タイミング信号として、高電圧パルス発生器33に入力される。タイミング信号と同期した、高電圧パルス発生器33からの高電圧パルス信号は、位相整合回路34により、高電圧パルス発生器33とSBN結晶21a、21bとの間の位相整合がなされた上で、SBN結晶21a、21bに印加される。SBN結晶21a、21bにより偏光が90°回転したパルス光は、ダイクロイックミラー17’により反射されて、共振器外部に取出される。
【0062】
本構成のモード同期レーザ2によって、SBN結晶が非駆動時において、繰返し周波数が1.65GHz、平均出力30mW、パルスエネルギー0.02nJ、パルス幅500fs、中心波長1045nmの超短パルス光が負分散ミラー11’を透過して出力された。
【0063】
この負分散ミラー11’を透過した超短パルス光をタイミング信号として使用し、SBN結晶を駆動した場合、キャビティダンピング機構20’により取り出された超短パルス光(ダイクロイックミラー17’により反射された超短パルス光)は、繰返し周波数1.65MHz、平均出力30mW、パルス幅510fs、パルスエネルギー18nJ、ピークパワー36kWであった。
【0064】
なお、本発明のモード同期固体レーザ装置は、上記第1および第2の実施形態の装置構成に限定されるものではない。特に、キャビティダンピング機構を形成する光学部品については適宜、配置構成を偏光することができる。例えば、第1の実施形態において、電気光学変調素子21は偏向素子22より共振器ミラー11側に配置されているが、偏向素子22を電気光学変調素子21よりも共振器ミラー11側に配置するよう構成してもよい。その場合、電気光学変調素子21は、パルス光の偏光を1回の通過で90°回転させるように印加電圧、素子構成等を変更すればよい。
【符号の説明】
【0065】
1、2 モード同期固体レーザ装置
11 共振器ミラー
11’ 負分散ミラー(負群速度分散補償素子)
12 SESAM(可飽和吸収体)
13 固体レーザ媒質
14 半導体レーザ
15 セルフォックレンズ
16 励起光入射光学手段
17 ダイクロイックミラー
18 励起光学系
20 キャビティダンピング機構
21、21a、21b 電気光学変調素子
22 偏向素子(ビームディスプレイサー)
23 反射ミラー
30 フォトディテクタ
31 分周期
32 遅延器
33 高電圧パルス発生器(電圧印加手段)
34 位相整合回路
L パルス光(発振光)
励起光
、P 直線偏光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線型共振器と、
該共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
前記共振器の一端もしくは内部に配置されたモード同期を誘起するための可飽和吸収体と、
前記固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光学系と、
前記共振器内に配置された、該共振器内を共振しているパルス光の偏光方向を変化させる電気光学変調素子、および該電気光学変調素子により偏光方向が変化されたパルス光を共振器光軸と交差する方向へ偏向させる偏向素子を含む、前記パルス光を共振器の外部に取り出すためのキャビティダンピング機構と、
を備えていることを特徴とするモード同期固体レーザ装置。
【請求項2】
前記直線型共振器の共振器長が150mm以下であることを特徴とする請求項1記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項3】
前記共振器の他端もしくは内部に配置された負群速度分散補償素子をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項4】
前記可飽和吸収体が、半導体可飽和吸収ミラーであり、
前記負群速度分散補償素子が、負分散ミラーであり、
前記直線型共振器が、前記半導体可飽和吸収ミラーと負分散ミラーとにより構成されており、
前記励起光学系が、前記共振器の共振器光軸に対して、該光軸に交差する方向から前記励起光を入射させる励起光入射光学手段と、前記共振器光軸上に配置された、該励起光入射光学手段により前記共振器内に入射された前記励起光を、前記固体レーザ媒質に向けて反射すると共に、前記パルス光を透過するダイクロイックミラーとを備えてなるものであることを特徴とする請求項3記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項5】
前記電気光学変調素子がSBN結晶またはKTN結晶であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項6】
前記共振器内を共振している前記パルス光が第1の方向の直線偏光であり、
前記電気光学変調素子が、前記パルス光の前記第1の方向の直線偏光を、90°回転させて第1の方向と直交する第2の方向の直線偏光とするものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項7】
前記偏向素子が、該偏向素子に入射される光が前記第2の方向の直線偏光である場合にのみ、該光の進路を偏向させるものであることを特徴とする請求項6記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項8】
前記偏向素子が、前記第1の方向の直線偏光を透過し、前記第2の方向の直線偏光を反射するものであることを特徴とする請求項6記載のモード同期固体レーザ装置。
【請求項9】
前記ダイクロイックミラーが、前記偏向素子を兼ねるものであり、前記第1の方向の直線偏光を透過し、前記第2の方向の直線偏光を反射するものであることを特徴とする請求項6記載のモード同期固体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−258198(P2010−258198A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106148(P2009−106148)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】