説明

レーザ装置

【課題】レーザ装置の定格出力範囲の全体に渡り、環境の変化や構成要素の位置ずれ等に起因して生じ得る出力偏差を排除して、指令値に正確に対応した出力を確保する。
【解決手段】レーザ装置10の電源制御部18は、レーザ発振指令値Cに従い、電源14にレーザ発振部12への電力供給動作を指令する電力供給指令部20と、電力供給指令部に与えられる複数の異なるレーザ発振指令値Cとそれらレーザ発振指令値に従いレーザ発振部が発振したレーザビームLに関して出力測定部16で得た複数の異なるレーザ出力測定値Mとに基づいて、レーザ発振指令値に対するレーザ出力測定値の相関性を近似的に表す関数Fを求める関数演算部22とを備える。電力供給指令部は、関数演算部が関数を求めた後には、その関数に基づいてレーザ発振指令値に補正処理を施すとともに、補正処理を施したレーザ発振指令値に従い、電源に電力供給動作を指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置に関し、特に、レーザビームの出力の自動補正機能を備えたレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工、医療、計測等の分野で用いられるレーザ装置において、レーザ発振部と、レーザ発振部で発振されるレーザビームの出力を測定する出力測定部と、オペレータが入力するレーザ発振指令値(通常は出力指令値)と出力測定部で得たレーザ出力測定値とに基づいて、レーザ発振部の動作を制御する発振制御部とを備えたものが知られている。レーザ発振部は通常、流動ガス、結晶体等のレーザ媒質を励起する励起部(放電、光、熱、化学反応等による)と、励起部により励起したレーザ媒質の光エネルギを増幅してレーザビームとして出射する光共振部(互いに対向する出射ミラー(部分透過鏡)及びリアミラーを含む)とを備えて構成される。
【0003】
出力測定部は、フォトダイオードやサーモパイル等の光検出器を備え、この光検出器が、レーザ発振部の外側で光共振部のリアミラーに近接して配置される。そして、光共振部のリアミラーを、僅かな透過率を有する部分透過鏡から構成することにより、リアミラーを透過したレーザビームの一部分が、光検出器によって検出される。リアミラーを透過する部分光の出力は、出射ミラーから出射されるレーザビームの出力に比例するので、結果として出力測定部により、レーザビームの実効出力が測定される。
【0004】
上記構成を有するレーザ装置においては、環境(温度、湿度等)の変化や、経時での構成要素(ミラー等)の位置ずれ、汚損等により、レーザ発振(出力)指令値に対する実際のレーザビームの出力の偏差が大きくなる場合がある。このような場合に、発振制御部は、出力測定部で得たレーザ出力測定値に基づいて、出力偏差を収束させるフィードバック制御を行なうことができる。しかし、応答性に優れたフィードバック制御を実行するためには、出力測定部の測定精度を可及的に向上させる必要がある。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1に開示されるレーザ装置では、レーザ発振の立ち上げ時に、数値制御装置(電源制御部)が、出力の所望の指令値と対応の測定値との比率を計算し、この比率を補正係数として、実際の作業時の指令値を自動的に補正する構成を採用している。この補正係数は、予め定めた複数の異なる指令値範囲に関して、各範囲における任意の指令値と対応の測定値との比率として、それぞれ求めておくこともできる。この構成によれば、環境の変化や構成要素の位置ずれ等に起因して生じる出力の偏差を相殺するように自動補正された指令値に従って、レーザ発振部が動作するので、出力測定部の測定精度に依存することなく、要求される出力のレーザビームを発振することができる。
【0006】
【特許文献1】特許第2804027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ装置におけるレーザビームの出力の指令値と測定値とは、レーザ装置の定格出力範囲の全体に渡って線形的な関係を呈する訳ではないことが知られている。例えば、定格出力範囲における比較的高い出力領域で、指令値の増分に対する測定値の増分率が、比較的低い出力領域に比べて低下する場合がある。そこで、上記特許文献1に開示されるレーザ装置の出力補正手法では、複数の異なる指令値範囲のそれぞれに関して予め補正係数を求めることで、補正の信頼性を向上させるようにしている。しかしこの構成では、出力の個々の指令値範囲における任意の指令値を基準として補正係数を求めているから、指令値範囲内で指令値と測定値とが非線形的な関係を呈している場合は、補正係数の算出基準となった指令値以外の指令値に関し、正確に対応した出力を確保することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、レーザ装置の定格出力範囲の全体に渡り、環境の変化や、経時での構成要素の位置ずれ、汚損等に起因して生じ得る出力偏差を排除して、指令値に正確に対応した出力を確保できるレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、レーザ発振部と、レーザ発振部に発振用電力を供給する電源と、レーザ発振部で発振されるレーザビームの出力を測定する出力測定部と、レーザ発振指令値と出力測定部で得たレーザ出力測定値とに基づいて電源を制御する電源制御部とを具備するレーザ装置において、電源制御部は、レーザ発振指令値に従い、電源にレーザ発振部への電力供給動作を指令する電力供給指令部と、電力供給指令部に与えられる複数の異なるレーザ発振指令値とそれらレーザ発振指令値に従いレーザ発振部が発振したレーザビームに関して出力測定部で得た複数の異なるレーザ出力測定値とに基づいて、レーザ発振指令値に対するレーザ出力測定値の相関性を近似的に表す関数を求める関数演算部とを具備し、電力供給指令部は、関数演算部が関数を求めた後には、その関数に基づいてレーザ発振指令値に補正処理を施すとともに、補正処理を施したレーザ発振指令値に従い、電源に電力供給動作を指令すること、を特徴とするレーザ装置を提供する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、関数演算部は、レーザ発振指令値として供給電力指令値を用いて、供給電力指令値に対するレーザ出力測定値の相関性を近似的に表す関数を求め、電力供給指令部は、レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いるとともに、レーザ発振指令値に施す補正処理として、関数演算部が求めた関数の逆関数に従い、レーザ出力指令値から供給電力指令値を演算し、供給電力指令値を電源に与えることで電力供給動作を指令する、レーザ装置を提供する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ装置において、関数演算部は、レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いて、レーザ出力指令値に対するレーザ出力測定値の相関性を近似的に表す関数を求め、電力供給指令部は、レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いるとともに、レーザ発振指令値に施す補正処理として、関数演算部が求めた関数が表す相関性とは反対の相関性に従い、レーザ出力指令値から供給電力指令値を演算し、その供給電力指令値を電源に与えることで電力供給動作を指令する、レーザ装置を提供する。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ装置において、電源制御部は、複数の異なるレーザ発振指令値及び複数の異なるレーザ出力測定値と、関数との、少なくとも一方を記憶する記憶部をさらに具備する、レーザ装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、指令値補正前の状態でのレーザ発振指令値とレーザ出力測定値との相関性を考慮に入れて、レーザ発振部が、所望の出力範囲(例えばレーザ装置の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ発振指令値に正確に対応する出力のレーザビームを発振できるように、レーザ発振指令値を自動的に補正することができる。したがって、例えばレーザ装置が、定格出力範囲における比較的高い出力領域で、指令値の増分に対する測定値の増分率が、比較的低い出力領域に比べて徐々に低下するような、非線形的な入出力特性を有している場合にも、与えられたレーザ発振指令値を、そのような非線形的な特性に追従するように的確に自動補正して、レーザ発振部に、レーザ発振指令値に正確に対応する出力のレーザビームを発振させることができる。このようなレーザ発振指令値の補正処理は、例えばレーザ装置を起動させる度に、或いはオペレータが要求する時点で、自動的に実行することができる。その結果、レーザ装置によれば、定格出力範囲の全体に渡り、環境(温度、湿度等)の変化や、経時での構成要素(ミラー等)の位置ずれ、汚損等に起因して生じ得る出力偏差を排除して、レーザ発振指令値に正確に対応した出力を確保することが可能になる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、電力供給指令部は、関数演算部が求めた関数の逆関数を、レーザ工程用のレーザ出力指令値から供給電力指令値を演算するための規則として用いる。この規則の下で、電力供給指令部がレーザ工程用のレーザ出力指令値から求める供給電力指令値は、補正処理前の状態での供給電力指令値に対するレーザ出力測定値の相関性における、非線形領域を相殺するものとなる。つまり、補正処理前の状態でレーザ出力測定値が、供給電力指令値に線形対応する理想のレーザ出力測定値に比べて低くなっている領域では、不足分だけ出力を上昇させるべく、レーザ工程用のレーザ出力指令値から求める供給電力指令値を増加させることになる。電力供給指令部は、この演算規則に従ってレーザ工程用のレーザ出力指令値から求めた供給電力指令値を、電源に与えることで、電源にレーザ発振部への電力の供給を指令する。その結果、レーザ発振部は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ出力指令値に正確に対応する出力で、レーザビームを発振する。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、電力供給指令部は、関数演算部が求めた関数が表す相関性とは反対の相関性を、レーザ工程用のレーザ出力指令値から供給電力指令値を演算するための規則として用いる。この規則の下で、電力供給指令部がレーザ工程用のレーザ出力指令値から求める供給電力指令値は、補正処理前の状態でのレーザ出力指令値に対するレーザ出力測定値の相関性における、非線形領域を相殺するものとなる。つまり、補正処理前の状態でレーザ出力測定値がレーザ出力指令値よりも低くなっている領域では、不足分だけ出力を上昇させるべく、レーザ工程用のレーザ出力指令値から求める供給電力指令値を増加させることになる。電力供給指令部は、この演算規則に従ってレーザ工程用のレーザ出力指令値から求めた供給電力指令値を、電源に与えることで、電源にレーザ発振部への電力の供給を指令する。その結果、レーザ発振部は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ出力指令値に正確に対応する出力で、レーザビームを発振する。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、外部の記憶装置に依存することなく、適正な指令値自動補正処理を迅速かつ正確に実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図面を参照すると、図1は、本発明に係るレーザ装置10の基本構成を機能ブロック図で示す。レーザ装置10は、レーザ発振部12と、レーザ発振部12に発振用電力Eを供給する電源14と、レーザ発振部12で発振されるレーザビームLの出力Pを測定する出力測定部16と、レーザ発振指令値Cと出力測定部16で得たレーザ出力測定値Mとに基づいて電源14を制御する電源制御部18とを備える。
【0018】
電源制御部18は、レーザ発振指令値Cに従い、電源14にレーザ発振部12への電力供給動作を指令する電力供給指令部20と、電力供給指令部20に与えられる複数の異なるレーザ発振指令値C(C1、C2、…Cn)とそれらレーザ発振指令値Cに従いレーザ発振部12が発振したレーザビームL(L1、L2、…Ln)に関して出力測定部14で得た複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)とに基づいて、レーザ発振指令値Cに対するレーザ出力測定値Mの相関性を近似的に表す関数Fを求める関数演算部22とを備える。電力供給指令部20は、関数演算部22が関数Fを求めた後には、関数Fに基づいてレーザ発振指令値Cに補正処理を施すとともに、補正処理を施したレーザ発振指令値Cに従い、電源14に電力供給動作を指令する。
【0019】
さらに詳述すると、電源制御部18の電力供給指令部20は、レーザ発振指令値C(例えばオペレータが入力したもの)から得た供給電力指令値Csを電源14に与えることで、電源14に電力供給動作を指令することができる。ここで、レーザ発振指令値Cがレーザ出力指令値である場合には、電力供給指令部20は、所与の規則(初期状態では一次関数)に従って、レーザ出力指令値から、電源14に与える供給電力指令値Csを演算する。また、レーザ発振指令値Cが供給電力指令値である場合には、電力供給指令部20は、その供給電力指令値を適正化して(初期状態ではそのままで)、電源14に与える供給電力指令値Csを得る。
【0020】
レーザ装置10が初期状態(或いは指令値補正前の状態)にあるときに、電力供給指令部20は、予備補正用の複数の異なるレーザ発振指令値(レーザ出力指令値又は供給電力指令値)C(C1、C2、…Cn)に従い、電源14にレーザ発振部12への電力供給動作を指令する。それにより電源14は、それらレーザ発振指令値C(C1、C2、…Cn)に対応する電力E(E1、E2、…En)をレーザ発振部12に供給し、レーザ発振部12が、それら電力E(E1、E2、…En)に対応する出力P(P1、P2、…Pn)で、複数の異なるレーザビームL(L1、L2、…Ln)を発振する。そして、出力測定部16が、それらレーザビームL(L1、L2、…Ln)の出力P(P1、P2、…Pn)を個々に測定して、複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)を得る。
【0021】
そこで、関数演算部22は、複数の異なるレーザ発振指令値C(C1、C2、…Cn)と、それらレーザ発振指令値Cに対応する複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)とに基づいて、補間法により、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)におけるレーザ発振指令値Cとレーザ出力測定値Mとの相関性を近似的に表す関数Fを求める。このようにして求めた関数Fは、線形領域及び非線形領域の双方を含み得るものである。
【0022】
関数演算部22が関数Fを求めた後に、加工、医療、計測等のレーザ工程を実施する際には、電力供給指令部20は、レーザ工程用のレーザ発振指令値C(例えばオペレータが入力したもの)に対し、関数Fに基づいた適当な補正処理を施す。この補正処理は、関数Fに基づくことにより、前述した初期状態でのレーザ発振指令値Cとレーザ出力測定値Mとの相関性を考慮に入れて、レーザ発振部12が、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ発振指令値Cに正確に対応する出力PのレーザビームLを発振できるように、レーザ発振指令値Cを自動的に改変ないし適正化するものとなる。
【0023】
このようにして適正化したレーザ発振指令値Cを電源14に与えることで、電源14は、レーザ工程用のレーザ発振指令値C(例えばオペレータが入力したもの)に正確に対応する電力Eをレーザ発振部12に供給する。その結果、レーザ発振部12は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ発振指令値Cに正確に対応する出力Pで、レーザビームLを発振する。
【0024】
このように、レーザ装置10では、初期状態でのレーザ発振指令値Cとレーザ出力測定値Mとの相関性を考慮に入れて、レーザ発振部12が、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ発振指令値Cに正確に対応する出力PのレーザビームLを発振できるように、レーザ発振指令値Cを自動的に補正することができる。したがって、例えばレーザ装置10が、定格出力範囲における比較的高い出力領域で、指令値の増分に対する測定値の増分率が、比較的低い出力領域に比べて徐々に低下するような、非線形的な入出力特性を有している場合にも、与えられたレーザ発振指令値Cを、そのような非線形的な特性に追従するように的確に自動補正して、レーザ発振部12に、レーザ発振指令値Cに正確に対応する出力PのレーザビームLを発振させることができる。
【0025】
上記したレーザ発振指令値Cの補正処理は、例えばレーザ装置10を起動させる度に、或いはオペレータが要求する時点で、自動的に実行することができる。その結果、レーザ装置10によれば、定格出力範囲の全体に渡り、環境(温度、湿度等)の変化や、経時での構成要素(ミラー等)の位置ずれ、汚損等に起因して生じ得る出力偏差を排除して、レーザ発振指令値Cに正確に対応した出力Pを確保することが可能になる。
【0026】
図2は、上記したレーザ装置10の具体的構成を模式図的に示す。レーザ装置10のレーザ発振部12は、流動ガス、結晶体等のレーザ媒質を励起する励起部24(放電、光、熱、化学反応等による)と、励起部24により励起したレーザ媒質の光エネルギを増幅してレーザビームLとして出射する光共振部26とを備える。電源14は、励起部24に接続され、電源制御部18の制御下で、励起部24に所望の電力を供給する。
【0027】
光共振部26は、励起部24の両側に互いに対向して設置される出射ミラー(部分透過鏡)28とリアミラー(部分透過鏡)30とを有する。出力測定部16は、フォトダイオードやサーモパイル等の光検出器32を備え、光検出器32が、レーザ発振部12の外側で光共振部26のリアミラー30に近接して配置される。リアミラー30は、僅かな透過率を有する部分透過鏡から形成され、リアミラー30を透過したレーザビームLの一部分が、光検出器32によって検出される。リアミラー30を透過する部分光の出力は、出射ミラー28から出射されるレーザビームLの出力に比例するので、結果として出力測定部16により、レーザビームLの実効出力が測定される。
【0028】
次に、図3及び図4を参照して、本発明の幾つかの好適な実施形態によるレーザ装置10の作用効果を説明する。なお、以下に説明する実施形態の構成は、上記した図1及び図2に示す基本構成と実質的に同一である。したがって、対応する構成要素には共通の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0029】
図3は、本発明の第1の実施形態によるレーザ装置10の、指令値自動補正機能を説明するものである。この実施形態では、電力供給指令部20は、レーザ発振指令値Cとしてレーザ出力指令値Cpを用いて、所与の規則(初期状態では一次関数)に従い、レーザ出力指令値Cpから、電源14に与える供給電力指令値Csを演算する。また、この実施形態では、供給電力指令値Csの特定の閾値を境として、閾値未満の領域ではレーザ出力Pが供給電力指令値Csに対して一次関数的に生起され、閾値以上の領域ではレーザ出力Pが供給電力指令値Csに対して二次関数的に生起されることが、経験上予測されているものとする。
【0030】
まず、電源制御部18の関数演算部22は、レーザ発振指令値Cとして、電力供給指令部20がレーザ出力指令値Cpから求めた供給電力指令値Csを用いて、前述したように、予備補正用の複数の異なる供給電力指令値Cs(Cs1、Cs2、…Csn)と、それらに対応する複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)とに基づき、供給電力指令値Csに対するレーザ出力測定値Mの相関性を近似的に表す関数Fsを求める(図3(a))。関数Fsは、上記した予測に従ってデータを補間することにより、供給電力指令値Csの閾値Cs2未満では一次関数として求められ、閾値Cs2以上では二次関数として求められている。
【0031】
次いで、電力供給指令部20は、レーザ発振指令値Cに施す前述した補正処理として、関数演算部22が求めた関数Fsの逆関数IFs(図3(b))を、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから供給電力指令値Csを演算するための規則として用いる(図3(c))。この規則(つまり逆関数IFs)の下で、電力供給指令部20がレーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求める供給電力指令値Csは、補正処理前の状態での供給電力指令値Csに対するレーザ出力測定値Mの相関性における、二次関数的領域を相殺するものとなる。つまり、補正処理前の状態でレーザ出力測定値Mが、供給電力指令値Csに線形対応する理想のレーザ出力測定値に比べて低くなっている領域では、不足分だけ出力Pを上昇させるべく、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求める供給電力指令値Csを増加させる、適正化された新たな演算規則が適用される(図3(c))。
【0032】
電力供給指令部20は、上記した演算規則(つまり逆関数IFs)に従ってレーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求めた供給電力指令値Csを、電源14に与えることで、電源14にレーザ発振部12への電力Eの供給を指令する。その結果、レーザ発振部12は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpに正確に対応する出力Pで、レーザビームLを発振する(図3(d))。なお、上記した演算規則(つまり逆関数IFs)は、次の指令値自動補正処理が実行されるまでの間、電力供給指令部20でレーザ出力指令値Cpから供給電力指令値Csを求めるために使用される。
【0033】
図4は、本発明の第2の実施形態によるレーザ装置10の、指令値自動補正機能を説明するものである。この実施形態では、図3の実施形態と同様に、電力供給指令部20は、レーザ発振指令値Cとしてレーザ出力指令値Cpを用いて、所与の規則(初期状態では一次関数)に従い、レーザ出力指令値Cpから、電源14に与える供給電力指令値Csを演算する。また、この実施形態では、レーザ出力指令値Cpの特定の閾値を境として、閾値未満の領域ではレーザ出力Pがレーザ出力指令値Cpに対して一次関数的に生起され、閾値以上の領域ではレーザ出力Pがレーザ出力指令値Cpに対して二次関数的に生起されることが、経験上予測されているものとする。
【0034】
まず、電源制御部18の関数演算部22は、レーザ発振指令値Cとして、電力供給指令部20に与えられるレーザ出力指令値Cpを用いて、前述したように、予備補正用の複数の異なるレーザ出力指令値Cp(Cp1、Cp2、…Cpn)と、それらに対応する複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)とに基づき、レーザ出力指令値Cpに対するレーザ出力測定値Mの相関性を近似的に表す関数Fpを求める(図4(a))。関数Fpは、上記した予測に従ってデータを補間することにより、レーザ出力指令値Cpの閾値Cp1未満では一次関数として求められ、閾値Cp1以上では二次関数として求められている。
【0035】
次いで、電力供給指令部20は、レーザ発振指令値Cに施す前述した補正処理として、関数演算部22が求めた関数Fpが表す相関性とは反対の相関性を表す関数RFpを、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから供給電力指令値Csを演算するための規則として用いる(図4(b))。この規則(つまり関数RFp)の下で、電力供給指令部20がレーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求める供給電力指令値Csは、補正処理前の状態でのレーザ出力指令値Cpに対するレーザ出力測定値Mの相関性における、二次関数的領域を相殺するものとなる。つまり、補正処理前の状態でレーザ出力測定値Mがレーザ出力指令値Cpよりも低くなっている領域では、不足分だけ出力Pを上昇させるべく、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求める供給電力指令値Csを増加させる、適正化された新たな演算規則が適用される(図4(b))。
【0036】
電力供給指令部20は、上記した演算規則(つまり関数RFp)に従ってレーザ工程用のレーザ出力指令値Cpから求めた供給電力指令値Csを、電源14に与えることで、電源14にレーザ発振部12への電力Eの供給を指令する。その結果、レーザ発振部12は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ出力指令値Cpに正確に対応する出力Pで、レーザビームLを発振する(図4(c))。なお、上記した演算規則(つまり関数RFp)は、次の指令値自動補正処理が実行されるまでの間、電力供給指令部20でレーザ出力指令値Cpから供給電力指令値Csを求めるために使用される。
【0037】
図示しないが、本発明に係るレーザ装置10は、電力供給指令部20に与えられるレーザ発振指令値Cが、電源14に対して直接的な指令となる供給電力指令値Csである場合にも、有効な指令値自動補正機能を発揮できる。この場合には、関数演算部22は、レーザ発振指令値Cとして、電力供給指令部20に与えられる供給電力指令値Csを用いて、前述したように、予備補正用の複数の異なる供給電力指令値Cs(Cs1、Cs2、…Csn)と、それらに対応する複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)とに基づき、供給電力指令値Csに対するレーザ出力測定値Mの相関性を近似的に表す関数Fsを求める(図3(a))。
【0038】
そして、電力供給指令部20は、レーザ発振指令値Cに施す補正処理として、関数演算部22が求めた関数Fsに従い、レーザ工程用の供給電力指令値Csを補正する。この補正により、電力供給指令部20が電源14に与えるレーザ工程用の供給電力指令値Csは、補正処理前の状態での供給電力指令値Csに対するレーザ出力測定値Mの相関性における、二次関数的領域を相殺するものとなる。つまり、補正処理前の状態でレーザ出力測定値Mが、供給電力指令値Csに線形対応する理想のレーザ出力測定値に比べて低くなっている領域では、不足分だけ出力Pを上昇させるべく、レーザ工程用の供給電力指令値Csを増加させる補正が施される(図3(c))。
【0039】
電力供給指令部20は、上記した補正後の供給電力指令値Csを電源14に与えることで、電源14にレーザ発振部12への電力Eの供給を指令する。その結果、レーザ発振部12は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用の供給電力指令値Csに正確に対応する出力Pで、レーザビームLを発振する。なお、上記した補正規則(つまり関数Fs)は、次の指令値自動補正処理が実行されるまでの間、電力供給指令部20で供給電力指令値Csを補正するために使用される。
【0040】
本発明に係るレーザ装置10において、電源制御部18は、予備補正用の複数の異なるレーザ発振指令値C(C1、C2、…Cn)及びそれらに対応する複数の異なるレーザ出力測定値M(M1、M2、…Mn)と、関数演算部22が求めた補正処理用の関数Fとの、少なくとも一方を記憶する記憶部34を、さらに備えることが有利である(図5参照)。このような構成によれば、外部の記憶装置に依存することなく、適正な指令値自動補正処理を迅速かつ正確に実行することができる。
【0041】
本発明に係るレーザ装置10は、例えば切断や溶接等のレーザ加工システム(例えばロボットシステム)に、好適に採用できる。また、医療用途(例えば診断や治療)等の、レーザ加工システム以外の種々のレーザシステム(例えばロボットシステム)にも適用できる。いずれの場合も、レーザ装置10は、所望の出力範囲(例えばレーザ装置10の定格出力範囲)に渡り、レーザ工程用のレーザ発振指令値Cに正確に対応する出力Pで、レーザビームLを発振できるので、レーザ工程の安定化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るレーザ装置の基本構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1のレーザ装置の具体的構成を模式図的に示す。
【図3】本発明の第1実施形態によるレーザ装置の指令値自動補正機能を説明する図である。
【図4】本発明の第2実施形態によるレーザ装置の指令値自動補正機能を説明する図である。
【図5】変形例によるレーザ装置の基本構成を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
10 レーザ装置
12 レーザ発振部
14 電源
16 出力測定部
18 電源制御部
20 電力供給指令部
22 関数演算部
34 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振部と、該レーザ発振部に発振用電力を供給する電源と、該レーザ発振部で発振されるレーザビームの出力を測定する出力測定部と、レーザ発振指令値と該出力測定部で得たレーザ出力測定値とに基づいて該電源を制御する電源制御部とを具備するレーザ装置において、
前記電源制御部は、
レーザ発振指令値に従い、前記電源に前記レーザ発振部への電力供給動作を指令する電力供給指令部と、
前記電力供給指令部に与えられる複数の異なるレーザ発振指令値とそれらレーザ発振指令値に従い前記レーザ発振部が発振したレーザビームに関して前記出力測定部で得た複数の異なるレーザ出力測定値とに基づいて、該レーザ発振指令値に対する該レーザ出力測定値の相関性を近似的に表す関数を求める関数演算部とを具備し、
前記電力供給指令部は、前記関数演算部が前記関数を求めた後には、該関数に基づいてレーザ発振指令値に補正処理を施すとともに、該補正処理を施した該レーザ発振指令値に従い、前記電源に前記電力供給動作を指令すること、
を特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記関数演算部は、前記レーザ発振指令値として供給電力指令値を用いて、該供給電力指令値に対する前記レーザ出力測定値の相関性を近似的に表す前記関数を求め、前記電力供給指令部は、前記レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いるとともに、前記レーザ発振指令値に施す前記補正処理として、前記関数演算部が求めた前記関数の逆関数に従い、該レーザ出力指令値から供給電力指令値を演算し、該供給電力指令値を前記電源に与えることで前記電力供給動作を指令する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記関数演算部は、前記レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いて、該レーザ出力指令値に対する前記レーザ出力測定値の相関性を近似的に表す前記関数を求め、前記電力供給指令部は、前記レーザ発振指令値としてレーザ出力指令値を用いるとともに、前記レーザ発振指令値に施す前記補正処理として、前記関数演算部が求めた前記関数が表す前記相関性とは反対の相関性に従い、該レーザ出力指令値から供給電力指令値を演算し、該供給電力指令値を前記電源に与えることで前記電力供給動作を指令する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記電源制御部は、前記複数の異なるレーザ発振指令値及び前記複数の異なるレーザ出力測定値と、前記関数との、少なくとも一方を記憶する記憶部をさらに具備する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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