説明

レーザ装置

【課題】 直接上準位を励起することにより、UV光または可視光領域のレーザを発生させることができるレーザ装置を提供することである。
【解決手段】 励起光源と該励起光源から放出される励起光を透過し且つ励起光の波長を除く所望の波長帯の光を反射する第1のミラーと該所望の波長帯の光を反射する第2のミラーが対向して設置され、さらに第1のミラーと第2のミラーの光路間に該励起光により発光するレーザ媒質が配置されている共振器を備えるレーザ装置において、
励起光源に励起光の波長が340〜500nmの範囲内であるチッ化ガリウム系半導体光源、レーザ媒質に少なくともEr3+、Ho3+、Sm3+、Tm3+、Dy3+、Eu3+、Tb、またはNd3+が少なくとも1つ添加されているフッ化物ガラスまたはフッ化物結晶を用い、かつレーザ発振波長が励起波長よりも長いことを特徴とするレーザ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UV光または可視光などの短波長のレーザを発生させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、加工・通信・計測などの多くの分野でレーザが用いられるようになってきた。最近では、光技術の進展に伴い、UVや可視波長のような、より短波長なレーザが必要とされている。特に、半導体の製造、蛍光顕微鏡分野、医療・バイオ用途などの分野では、UV〜可視波長のレーザが必要不可欠になりつつある。
【0003】
しかし、現存する高出力レーザのほとんどは、特に近赤外〜赤外の波長領域にあり、例えば、Ti:Sapphireレーザ(650nm〜1100nm)、Nd:YAGレーザ(1064nm)、半導体レーザ(波長808nm、915nm、960nm、970〜980nm、等)などが挙げられる。
【0004】
可視波長領域で直接発光する半導体レーザは少なく、チッ化ガリウム系半導体光源による380〜500nm、赤半導体635nm、650nm帯など、限られたものしかない。これらの波長以外で、現在入手できる可視レーザのほとんどは、上記の高出力な近赤外レーザを波長変換することにより得られている(非特許文献1)。
【0005】
波長変換には非線形光学結晶(BBO結晶、LBO結晶等)や分極反転素子(PPLN等)などの波長変換デバイスが用いられる。
【0006】
しかし、非線形光学結晶を用いた場合、基本波と高調波の進行方向が異なる(いわゆるウォークオフ)ため、高効率な波長変換が得られない。また、分極反転素子を用いた場合にも、分極反転の周期構造の不均一や素子温度の変化などに起因した損失が必ず発生する。以上から分かるように、現存しない可視波長のレーザを波長変換により生成する場合、基本波となる近赤外レーザを新たに作製し、かつ、非線形光学結晶または分極反転素子を新たに設計し、さらには、波長変換デバイスの温度調節を正確に行う必要があり、極めて困難である。
【0007】
また、可視光レーザを得る他の手段として、アップコンバージョン現象を用いる方法がある。この方法は、所望の発光波長よりも長い波長の励起光を、希土類イオンに多段階に吸収させることによって、より短波長の光を得る方法である(非特許文献2)。しかし、アップコンバージョンによる発光は、多段階の吸収過程を必要とするが故に、途中の準位から所望の準位以外へと電子状態が遷移してしまうので、その分の励起エネルギーを損失してしまう。
【0008】
高効率なレーザ発振を得るための1つの手段は、レーザ発振の上準位以上を直接励起することである。最近、波長445nmのチッ化ガリウム系半導体レーザを励起光源としたPr3+添加フッ化物ファイバレーザ(レーザ発振波長635nm)が提案されている(非特許文献3)。波長445nm付近は、Pr3+イオンの吸収帯にまさに一致している上、635nm帯のレーザ発振は4準位系のレーザ発振であるため、基底準位吸収(GSA)がなく、容易にレーザ発振させることができる。しかし、その他の希土類において、半導体レーザで直接上準位を励起してレーザ発振させることが困難であり、今までに報告がない。
【0009】
また、非特許文献3では、チッ化ガリウム系半導体レーザのビーム形状を整形する際に、アナモルフィックプリズム対を利用している。アナモルフィックプリズム対を用いた光学系では、プリズムにより光軸がシフトするため非点収差が発生する。特に、励起光を光導波路等に集光する場合、この非点収差が結合効率を悪化させてしまう。
【0010】
また、チッ化ガリウム系半導体光源として、チッ化ガリウム(GaN)半導体の他に、アルミニウムが添加されているチッ化アルミニウムガリウム(GaAlN)半導体、インジウムが添加されているチッ化インジウムガリウム(GaInN)半導体を用いる光源が知られており、チッ化ガリウム(GaN)のバンドギャップは360nmであり、In(インジウム)を加えると発光波長は長波長側にシフトし、Al(アルミニウム)を加えると発光波長は短波長側にシフトすることが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Klaus Schneider、 Stephan Schiller、 Jurgen Mlynek、 Markus Bode, and Ingo Freitag,:‘1.1−W single−frequency 532−nm radiation by second−harmonic generation of A miniature Nd:YAG ring laser’,Optics Letters, Vol. 21 Issue 24, pp.1999−2001 (1996)
【非特許文献2】Whitley,T.J., Millar,C.A., Wyatt, R., Brierley,M.C., Szebesta, D.:‘Upconversion pumped green lasing in erbium doped fluorozirconate fibre’,Electronics Letters,Volume 27, Issue 20, pp1785 − 1786
【非特許文献3】WEICHMANN, U., BAIER, J., BENGOECHEA, J., and MOENCH, H. : ‘GaN−diode pumped Pr3+:ZBLAN fiber−lasers for the visible wavelength range’, Proc. CLEO/Europe−IQEC, European Conference on., Munich, Germany, 2007
【非特許文献4】Vurgaftman,I., Meyer,J.R.‘Band parameters for nitrogen-containing semiconductors’ J. Appl. Phys. 94, 3675 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、レーザ媒質の発光波長が所望の波長帯域(UVや可視領域)にない場合、異なる波長帯の既存レーザに対して、必ず損失を伴う波長変換手段をとる必要がある。たとえ既存のレーザ波長と波長変換デバイスの組み合わせたとしても、得ることのできないレーザ波長帯も存在することは言うまでもない。
【0013】
また、 アップコンバージョン現象を用いて所望の波長帯域(UVや可視領域)の発光を得る場合においても、複数の励起過程を経る間に、一部の励起エネルギーを失ってしまうので効率的ではない。
【0014】
唯一、GSAが存在しないため、レーザ発振させることができるPr3+を用いたレーザにおいては、チッ化ガリウム系半導体レーザを用いた上準位を直接励起する方法が報告されているが、アナモルフィックプリズム対を利用するため非点収差が発生し、結合効率を悪化する。さらにその他の希土類において、直接上準位を励起してレーザ発振させる報告されておらず、UVおよび可視波長領域のレーザ装置は限られている。
【0015】
本発明では、波長変換手段およびアップコンバージョン現象を用いずに、直接上準位を励起することにより、UV光または可視光領域のレーザを発生させることができるレーザ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、波長変換手段およびアップコンバージョン現象を用いずに、種々の希土類元素を用いて、UV光・可視光領域のレーザが構成できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0017】
すなわち本発明は、励起光源と、該励起光源から放出される励起光を透過し且つ励起光の波長を除く所望の波長帯の光を反射する第1のミラーと該所望の波長帯の光を反射する第2のミラーが対向して設置され、さらに第1のミラーと第2のミラーの光路間に該励起光により発光するレーザ媒質が配置されている共振器を備えるレーザ装置において、励起光源に、励起光の波長が340nm〜500nmの範囲内である、チッ化ガリウム系半導体光源、レーザ媒質に、少なくともEr3+、Ho3+、Sm3+、Tm3+、Dy3+、Eu3+、Tb、またはNd3+のいずれか1種類が添加されているフッ化物ガラスまたはフッ化物結晶を用い、かつ、レーザ発振波長が励起波長よりも長いことを特徴とするレーザ装置を提供するものである。
【0018】
さらには、該共振器の光路中に、該所望の波長帯においてシングルモードとなる光導波路が少なくとも1つ挿入されていることを特徴とする記載のレーザ装置、該レーザ媒質が光導波路のコア部を形成すること特徴とするレーザ装置、または該レーザ媒質の片端または両端に石英系ガラスからなる光導波路が接続されていることを特徴とするレーザ装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、UV光または可視光領域のレーザ発振を高効率に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による実施形態の例を示すものである。
【図2】本発明による実施形態の例を示すものである。
【図3】本発明の第1の実施例を示す。
【図4】本発明の第1の実施例による発振スペクトルを示す。
【図5】本発明の第1の実施例による出力特性を示す。
【図6】本発明の第2の実施例を示す。
【図7】本発明の第3の実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明における実施形態の例を、図1を用いて示す。図1の例は、励起光源101、集光レンズ102、励起光透過/レーザ光反射フィルタ103、希土類添加フッ化物ガラスファイバ104、レーザ光部分反射ミラー105により構成される。励起光源101より放出される励起光は、集光レンズ102により集光され、希土類添加フッ化物ガラスファイバ104の端面104−aへ結合される。励起側のファイバ端104−aは直角に研磨されており、励起光透過/レーザ光反射フィルタ103に隙間なく密着させられている。出力側のファイバ端104−bも直角に研磨されており、レーザ光部分反射ミラー105に隙間なく密着させられている。
【0022】
希土類添加フッ化物ガラスファイバ104へ結合された励起光は、希土類添加フッ化物ガラスファイバ104内を伝搬する間に吸収され、自然放出光(ASE光)を放出する。ASE光は励起光透過/レーザ光反射フィルタ103およびレーザ光部分反射ミラー105により構成された共振器中を往復することによりレーザ光となり、一部がレーザ光部分反射ミラー105を透過して出力される。
【0023】
集光レンズ102、励起光透過/レーザ光反射フィルタ103は、励起光の波長においてARコーティングされていることが望ましい。レーザ光部分反射ミラー105の反射率は、該ミラー105を透過して出力されるレーザ光が最大になるように定められるのが望ましい。
【0024】
ファイバ端面(104−aまたは104−b)と励起光透過/レーザ光反射フィルタ103またはレーザ光部分反射ミラー105との密着面に空気層ができると、該ファイバ端面のコアと空気の屈折率差に起因するフレネル反射が生じ、所望の波長帯以外でレーザ発振してしまう可能性があるため、励起光透過/レーザ光反射フィルタ103またはレーザ光部分反射ミラー105に密着させるファイバ端の研磨面は、該ファイバの光軸に対して垂直であることが好ましい。
【0025】
該フレネル反射に起因する、所望の波長帯以外でのレーザ発振を抑制するために、図2に示すような構成をとることができる。図2は、図1の構成に加え、コリメートレンズ201が希土類添加フッ化物ガラスファイバ104とレーザ光部分反射ミラー105の間に配置されている。さらに励起側と反対の希土類添加フッ化物ガラスファイバ端104−bはフレネル反射による戻り光を抑制するために、8°以上に斜め研磨され、コリメートレンズ201は希土類添加フッ化物ガラスファイバ104の発光波長帯において反射防止コーティングされている。これにより、励起側と反対の希土類添加フッ化物ガラスファイバ端104−bで発生するフレネル反射を抑制できるため、所望の波長帯以外のレーザ発振を抑制することができる。上記のようなフレネル反射抑制手段は、励起側のファイバ端104−aにおいても実施することができる。
【0026】
また、図2においてコリメートレンズ201とレーザ光部分反射ミラー105の代わりに、凹面状のレーザ光部分反射ミラーの凹面側を希土類添加フッ化物ガラスファイバ端面104−bに向けて設置することにより、希土類添加フッ化物ガラスファイバ端面104−bより放出されるASE光を反射し再び該ファイバ端面104−bに結合させることもできる。凹面状のレーザ光部分反射ミラーを用いた場合においても、発生するASE光は励起光透過/レーザ光反射フィルタ103および凹面状のレーザ光部分反射ミラーにより構成される共振器中を往復してレーザ光となり、一部が凹面状のレーザ光部分反射ミラーを透過して出力される。
【0027】
あるいは、図1において、励起光透過/レーザ光反射フィルタ103をファイバ端面に接触させる代わりに、同じ機能を有するコーティングをファイバ端面104−a上に直接施しても良い。また、レーザ光部分反射ミラー105をファイバ端面に接触させる代わりに、同じ機能を有するコーティングをファイバ端面104−b上に直接施しても良い。
【0028】
また、レーザ媒質の例として希土類添加フッ化物ガラスファイバ104を用いているが、該ファイバ104の位置に配置されるレーザ媒質はファイバ形状である必要はなく、希土類添加フッ化物バルクガラス、希土類添加フッ化物バルク結晶、またはファイバ形状でない希土類添加フッ化物光導波路も使用できる。さらには、該レーザ媒質の両端または片端に石英系ガラスからなる光導波路を接続して用いることができる。
【0029】
レーザ媒質に添加される希土類元素は、励起光源の発振波長が340nm〜500nmの範囲内のいずれかの波長である光を吸収する希土類元素であればよいが、特に、Er3+、Ho3+、Sm3+、Tm3+、Dy3+、Eu3+、Tb3+、Nd3+が好ましい。
【0030】
例えば、コアに添加される希土類元素が、Er3+では、発振波長が355nm〜390nm、400nm〜415nmnm、438nm〜460nm、477nm〜497nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Ho3+では、発振波長が340nm〜370nm、380nm〜390nm、410nm〜420nm、440nm〜495nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Sm3+では、発振波長が355nm〜380nm、390nm〜410nmnm、455nm〜490nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Tm3+では、発振波長が345nm〜365nm、455nm〜485nmの範囲内にある励起光を用いることができ、Dy3+では、発振波長が340nm〜〜405nm、440nm〜460nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Eu3+では、発振波長が390nm〜400nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Tb3+では、発振波長が340nm〜385nm、475nm〜495nmのいずれかの範囲内にある励起光を用いることができ、Nd3+では、発振波長が340nm〜360nm、425nm〜435nm、445nm〜485nm、490nm〜500nmの範囲内にある励起光を用いることができる。
【0031】
また、励起光を添加されている希土類元素の励起に効率的に利用するためには、レーザ媒質のホストガラスとして低フォノンエネルギーを有する物質が好ましいことから、レーザ媒質にフッ化物ガラスまたはフッ化物結晶を用いる。フッ化物ガラスよりフォノンエネルギーが大きい石英ガラスなどを増幅部の光導波路のコア部に用いると、非輻射緩和速度が速いために、添加されている希土類元素を励起しても、非発光の過程を経て基底状態に戻る割合が多くなるため、効率が悪い。
【0032】
励起光源としては、発振波長が340nm〜500nmの範囲より選ばれる1つ以上の波長を有するものであれば特に限定されない。
【0033】
例えば、チッ化ガリウム系半導体光源、He−Cdレーザ、色素レーザ、Arイオンレーザ、波長変換レーザなどが利用できる。
【0034】
しかし、サイズおよび消費電力を考慮すると、小型で消費電力の小さい光源である波長変換レーザまたはチッ化ガリウム系半導体光源が好ましい。また、電気/光変換効率に注目すると、波長変換レーザでは、基本波レーザを波長変換する際に損失が生じるので、直接340nm〜500nm付近の波長を発光できる、チッ化ガリウム系半導体光源がより好ましい。
【0035】
特にチッ化ガリウム系半導体光源において、チッ化ガリウム系半導体レーザを用いる場合、その出射ビームは楕円形状をしているため、レーザ媒質が円形のコアを有する光ファイバなどの光導波路に対しては、円形ビームに変形するビームの整形を行うことが好ましい。例えば、シリンドリカルレンズを用いてビームを整形した励起光とすることがより望ましい。
【0036】
また、光導波路のレーザ媒質を用い、且つ、該レーザ媒質の片側または両側に石英系ガラスからなる光導波路を接続して用いる場合、該光導波路の導波路パラメータは、接続する導波路間の接続損失が0.2dB以下であるように設定されることが好ましい。導波路パラメータが大きく異なる場合には、接続部で損失が発生するだけではなく、構造の不整合に起因する反射が発生する可能性がある。さらに好ましくは、接続部分での反射を抑制するために、融着接続を用いるのが好ましい。
【0037】
さらに、光導波路のレーザ媒質に石英系ガラスからなる光導波路を接続することは、下記の理由から、該レーザ媒質の励起光入射端の破損を防ぐ効果もある。励起光の形状が完全なシングルモードでない場合、励起光が光導波路に入射される際に、光の一部が光導波路のコアの外に放射されてしまう。また、励起光入射側の光導波路端面において、コア部近傍に傷や構造不整が在った場合には、電場集中により発熱する場合がある。特に、ガラス転移温度の低いフッ化物ガラス(ZBLANガラスでは約280℃)では注意が必要である。レーザ媒質の端面を保護するために、例えば図1に示される例において、励起側の希土類添加フッ化物ガラスファイバ端面104−aに石英系ファイバを融着接続することもできる。石英系ガラスはフッ化物ガラスに比べてガラス転移温度が高いので、発熱に対する耐性が高い。
【0038】
また、共振器中を往復している所望のレーザ光がマルチモードで発振している場合、該共振器の光路中に所望の波長帯でシングルモードである光導波路を挿入することにより、シングルモード以外の成分へ損失を与え、選択的にシングルモードでレーザ発振させることもできる。
【0039】
また、使用する石英系ガラスからなる光導波路は、コア部が石英系ガラスであればよいが、紫外光〜可視光領域に対して吸収の少ないものが好ましい。特に、紫外〜青紫領域のレーザ発振を行う場合は、該光導波路のコア材料として、紫外〜青紫にかけて吸収を有するGeが高添加されている石英ガラスは好ましくなく、例えば、純粋石英ガラスを用いることが好ましい。
【0040】
以下に、本発明を用いた具体的な実施例を開示する。
【実施例1】
【0041】
図3に第1の実施例を示す。図3に示される光学系は、励起光源であるチッ化ガリウム系半導体レーザ401(インジウム添加有り、中心波長448nm:日亜化学工業製)、非球面レンズ402(NA:0.60)、シリンドリカルレンズ403(f=−25mm)、シリンドリカルレンズ404(f=50mm)、非球面レンズ405(NA:0.30)、フィルタ406(AR:448nm、HR:470−570nm)、レーザ媒質であるEr3+添加フッ化物ガラスファイバ407(ホストガラス:ZBLANガラス、Er3+:3000ppm、NA:0.22、コア径:3.3μm、ファイバ長:65cm)、非球面レンズ408(NA:0.55)、ミラー409(波長:543±10nmにおいて反射率:76%、その他の波長は透過)により構成される。
【0042】
励起光が透過する光学部品(402,403,404,405,406)は波長448nmにおいて反射防止コーティングされている。レーザ光が透過する光学部品408には波長500nm〜600nm、820nm〜880nm、および1500nm〜1580nmにおいて反射防止コーティングされている。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ端面407−aは直角に研磨され、フィルタ406に隙間なく密着させた。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ端面407−bはフレネル反射を抑制するために、8°研磨した。ミラー409を透過してきた光を測定用ファイバ(コア径:62.5μm、マルチモードGI型ファイバ)に結合し、その波長スペクトルを光スペクトラムアナライザ(ANDO製:AQ−6315A)を用いて測定した。
【0043】
その結果、励起光120mW以上投入したとき、波長543nm帯でレーザ発振を確認した。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ407に励起光176mWを結合させたとき、レーザ共振器から出力されたレーザ光の波長スペクトルを図4に示す。
【0044】
また、透過光のうち波長543±10nmに含まれる光パワーをバンドパスフィルタ(透過波長:543±10nm)および、パワーメータヘッド(Anritsu製:MA9411A)を用いて測定した。図5にファイバに投入した励起光パワーと得られたレーザ出力の関係を示す。最大200mWの励起光をファイバに投入すると、最大12mWのレーザ出力を得た。
【実施例2】
【0045】
図6に第2の実施例を示す。図6に示される光学系は、励起光源であるチッ化ガリウム系半導体レーザ701(インジウム添加有り、中心波長448nm:日亜化学工業製)、非球面レンズ702(NA:0.60)、シリンドリカルレンズ703(f=−25mm)、シリンドリカルレンズ704(f=50mm)、非球面レンズ705(NA:0.30)、フィルタ706(AR:448nm、HR:470−570nm)、レーザ媒質であるEr3+添加フッ化物ガラスファイバ707(ホストガラス:ZBLANガラス、Er3+:3000ppm、NA:0.22、コア径:3.3μm、ファイバ長:65cm)、石英ファイバ709(Nufern製460HP、ファイバ長:1m、波長543nmにおいてシングルモード)、非球面レンズ710(NA:0.55)、ミラー711(波長:543±10nmにおいて反射率:82%、その他の波長は透過)により構成される。励起光が透過する光学部品(702,703,704,705,706)は波長448nmにおいてARコーティングされている。レーザ光が透過する光学部品710には波長520nm〜560nm、830nm〜870nm、1510nm〜1570nmにおいて反射防止コーティングされている。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ端面707−aは直角に研磨され、フィルタ706に隙間なく密着させた。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ707と石英ファイバ709は融着接続(融着接続部708)されている。
【0046】
レーザ媒質であるEr3+添加フッ化物ガラスファイバ707は所望のレーザ波長(本実施例では543nm)において、シングルモードであることが望ましいが、その必要はない。一般に、高出力なチッ化ガリウム系半導体光源のエミッタサイズ(今回使用した励起光源のエミッタサイズは約1μm×7μm)は、可視波長で動作するシングルモードファイバのコアサイズ(およそ3μm)に比べて大きい。故に、より多くの励起光をファイバのコアに導入させたい場合、コア直径を少し大きく設定するのがより好ましい。
【0047】
本実施例では、より多くの励起光を利用するために、所望波長の543nmにおいてマルチモードとなる希土類添加ファイバを用い、さらに、543nmのレーザ光をシングルモード化するために、波長543nmにおいてシングルモードである石英ファイバ709を導入した。好ましくは、励起光の伝搬を妨げないように、シングルモードファイバはEr3+添加フッ化物ガラスファイバ707とミラー711の間に配置されるのがよい。
【0048】
部分反射ミラー711を透過して得られたレーザ光を光スペクトラムアナライザ(ANDO製:AQ−6315A)によりモニタしながら、励起パワーを増加させたとき、130mW以上の励起パワーにおいて、波長543nmでレーザ発振を確認した。また、ミラー711を透過したレーザ光の光パワーをバンドパスフィルタ(透過波長:543±10nm)および、パワーメータヘッド(Anritsu製:MA9411A)を用いて測定した。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ707に励起光200mWを入射させたとき、543nmレーザの出力は8mWであった。尚、ミラー711を透過した光はシングルモードファイバより出射されているので、そのビーム形状はシングルモード(LP01)であることは明らかである。
【実施例3】
【0049】
図7に第3の実施例を示す。図7に示される光学系は、励起光源であるチッ化ガリウム系半導体レーザ801(インジウム添加有り、中心波長448nm:日亜化学工業製)、非球面レンズ802(NA:0.60)、シリンドリカルレンズ803(f=−25mm)、シリンドリカルレンズ804(f=50mm)、非球面レンズ805(NA:0.30)、フィルタ806(AR:448nm、HR:470−570nm)、レーザ媒質であるEr3+添加フッ化物ガラスファイバ807(ZBLAN、Er3+:3000ppm、NA:0.22、コア径:3.3μm、ファイバ長:65cm)、石英ファイバで構成されたタップカプラ809(Nufern製460HP:波長543nmにおいてシングルモード、波長543nmにおける分岐比は9:1)、ミラー811(波長:543±10nmにおいて反射率:99.5%、その他の波長は透過)により構成される。
【0050】
Er3+添加フッ化物ガラスファイバ807は石英ファイバ809−aと融着接続(融着接続部808)されている。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ807で発生した光はカプラの809−aポートに入力され、809−bポートに90%、809−dポートに10%出力される。809−bポートに出力された光のうち、543±10nmの範囲の光はミラー811によって反射されて逆向きに進行し、再度、カプラのポート809−bに結合される。逆向きに進行する光のうち、90%は809−aポートに結合され、10%は809−cポートに結合される。故に、レーザ光は809−cおよび809−dの両ポートから出力され、共振器より外部に取り出されるレーザ光は共振器内部に蓄えられているエネルギーの19%に相当する。809−cおよび809−dポートのファイバ先端で発生した反射光は共振器内部へ再結合される可能性があるので、809−cおよび809−dポートのファイバ端面は、斜めクリーブの処理を施してある。斜めクリーブの処理の他に、光アイソレータを設置することでも反射光を抑制できる。
【0051】
809−cポートより得られたレーザ光を光スペクトラムアナライザ(ANDO製:AQ−6315A)によりモニタしながら、励起光200mWをEr3+添加フッ化物ガラスファイバ807に投入し、励起パワーを増加させたとき、120mW以上の励起パワーにおいて、波長543nmでレーザ発振を確認した。
次にポート809−cおよびポート809−dより出力されたレーザ光の光パワーをバンドパスフィルタ(透過波長543±10nm)および、パワーメータヘッド(Anritsu製:MA9411A)を用いて測定した。Er3+添加フッ化物ガラスファイバ807に励起光200mWを入射させたとき、2つの出力ポートから得られた543nmレーザの出力の合計値は11mWであった。尚、ミラー811を透過した光はシングルモードファイバより射出されているので、そのビーム形状はシングルモード(LP01)であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、医療・生物分野で使用される光源、工業用検査光源、ディスプレイ用光源、プロジェクション用光源、光ジャイロ用光源などとして利用できる。
【符号の説明】
【0053】
101:励起光源
102:集光レンズ
103:励起光透過/レーザ光反射フィルタ
104:希土類添加フッ化物ガラスファイバ
104−a:励起側の希土類添加フッ化物ガラスファイバ端面
104−b:励起側と反対の希土類添加フッ化物ガラスファイバ端面
105:レーザ光部分反射ミラー
201:コリメートレンズ
401、701、801:チッ化ガリウム系半導体レーザ
402、405、408、702、705、710、802、805:非球面レンズ
403、404、703、704、803、804:シリンドリカルレンズ
406、706、806:フィルタ
407、707、807:Er3+添加フッ化物ガラスファイバ
407−a、707−a:励起側のEr3+添加フッ化物ガラスファイバ端面
407−b:励起側と反対のEr3+添加フッ化物ガラスファイバ端面
409、711、811:ミラー
708、808:融着接続部
709:石英ファイバ
809:タップカプラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源と、該励起光源から放出される励起光を透過し且つ励起光の波長を除く所望の波長帯の光を反射する第1のミラーと該所望の波長帯の光を反射する第2のミラーが対向して設置され、さらに第1のミラーと第2のミラーの光路間に該励起光により発光するレーザ媒質が配置されている共振器を備えるレーザ装置において、
励起光源に、励起光の波長が340nm〜500nmの範囲内である、チッ化ガリウム系半導体光源、レーザ媒質に、少なくともEr3+、Ho3+、Sm3+、Tm3+、Dy3+、Eu3+、Tb、またはNd3+のいずれか1種類が添加されているフッ化物ガラスまたはフッ化物結晶を用い、
かつ、レーザ発振波長が励起波長よりも長いことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
該共振器の光路中に、該所望の波長帯においてシングルモードとなる光導波路が少なくとも1つ挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
該レーザ媒質が光導波路のコア部を形成すること特徴とする請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
該レーザ媒質の片端または両端に石英系ガラスからなる光導波路が接続されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−80927(P2010−80927A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170384(P2009−170384)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】