説明

ロボットハンド

【課題】簡素な構成でフィンガーが指根元から指先にかけて順に曲がる動作を実現する。
【解決手段】ロボットハンド1は、モータ31からの回転動力が入力される遊星歯車ユニット44と、遊星歯車ユニット44から出力される回転動力が伝達される第1及び第2駆動軸3,4と、第1及び第2駆動軸3,4に夫々駆動される第1及び第2関節9、12を有するフィンガーF1,F2と、を備え、遊星歯車ユニット44は、太陽歯車65と、太陽歯車65の外歯に噛み合う遊星歯車66と、遊星歯車66の公転に連動するように遊星歯車66に接続された遊星腕68と、遊星歯車66の自転に連動するように遊星歯車66の外歯に噛み合う内歯歯車67とを有し、太陽歯車65がモータ31に接続され、遊星腕68が第1駆動軸3に接続され、内歯歯車67が第2駆動軸4に接続され、内歯歯車67の運動抵抗を遊星腕68の運動抵抗よりも大きくする抵抗発生手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の関節を有するフィンガーが複数の駆動軸により夫々駆動されるロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、製造現場等においてワーク保管場所から目的とするワークを把持して取り出すためのロボットハンドが知られている。このロボットハンドには様々な機構のものがあり、例えば、一対のフィンガーを単一のモータで駆動する連動駆動ハンドや、1つのフィンガーに対して1つの駆動軸が設けられた単軸平行リンクハンドなどが存在する。しかし、連動駆動ハンドでは、重量のあるワークが一対のフィンガーの間の中央に位置されていない場合には、ワークが先に片方のフィンガーにのみ当接すると、その抗力でモータが動けなくなり、ワークを確実に把持することができない。また、単軸平行リンクハンドは、フィンガーが平行を保ったまま近接/離反する構成であるため、角型ワークを安定して把持することはできるが、丸型ワーク等は安定して把持することができない。
【0003】
そのような問題に鑑みて、近年は、1つのフィンガーに対して複数のモータで夫々制御される複数の駆動軸が設けられた多軸平行リンクハンドのニーズが高まっている。この多軸平行リンクハンドによれば、フィンガーをワーク形状に倣うように形状変化させることができ、多様な形状のワークを安定保持することが可能となる。しかし、ワーク形状に応じて複数の駆動軸の動作を個別に制御する必要があり、制御が複雑となるという問題が残っている。そこで、フィンガーを構成する複数の関節を夫々駆動する複数の駆動軸を機械的に連動させ、1つのモータで複数の関節を動作させるシリアル型のロボットハンドが提供されている(例えば、特許文献1参照)。このようなロボットハンドによれば、複雑な制御を伴うことなく、フィンガーをワーク形状に倣うように形状変化させることが可能となる。
【特許文献1】特許第3179464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バラ積みされたワークや、仕切板で区切られた箱に収容されたワークを取り出す場合には、その僅かな隙間にフィンガーの指先を挿入してワークを把持しなければならない。しかしながら、シリアル型のロボットハンドでは、フィンガーが挟持動作を行う際に、指根元側の関節の動作に機械的に連動して指先側の関節も動作することとなる。そうすると、指先が曲がった状態でフィンガーを隙間に挿入しなければならず、ロボット操作が困難になる場合が生じてしまう。よって、1つのモータで複数の関節を駆動しながらも、指根元側の関節と指先側の関節とを互いに連動させずに個別に駆動可能とし、指根元側の関節の動作時に指先が曲がらないようにすることが望まれる。
【0005】
そこで本発明は、簡素な構成でフィンガーが指根元から指先にかけて順に曲がるような動作を実現可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るロボットハンドは、 動力源からの回転動力が入力される遊星歯車ユニットと、前記遊星歯車ユニットから出力される回転動力が伝達される第1及び第2駆動軸と、前記第1駆動軸に駆動される第1関節と、前記第1関節の指先側に設けられた第1指要素と、前記第1指要素の指先側に設けられて前記第2駆動軸に駆動される第2関節と、前記第2関節の指先側に設けられた第2指要素とを有するフィンガーと、を備え、前記遊星歯車ユニットは、太陽歯車と、前記太陽歯車の外歯に噛み合う遊星歯車と、前記遊星歯車の公転に連動するように前記遊星歯車に接続された遊星腕と、前記遊星歯車の自転に連動するように前記遊星歯車の外歯に噛み合う内歯歯車と、を有し、前記太陽歯車、前記遊星腕及び前記内歯歯車のいずれか1つを動力入力部とし、他の2つをそれぞれ第1動力出力部及び第2動力出力部とし、前記動力入力部が、前記動力源に動力伝達可能に接続され、前記第1動力出力部が、前記第1駆動軸に動力伝達可能に接続され、前記第2動力出力部が、前記第2駆動軸に動力伝達可能に接続され、前記第2動力出力部の運動抵抗を前記第1動力出力部の運動抵抗よりも大きくする抵抗発生手段が設けられていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によれば、遊星歯車ユニットの動力入力部に入力された回転動力が、第1動力出力部と第2動力出力部とに分流され、第1動力出力部及び第2動力出力部のうち何れか一方の回転が不可となっても、何れか他方が回転可能であるので、第1駆動軸と第2駆動軸とが個別に回転しうる。そして、第2動力出力部の運動抵抗は第1動力出力部の運動抵抗よりも大きいので、第1動力出力部の回転運動が第2動力出力部の回転運動よりも優先して行われる。そうすると、動力源からの回転動力を動力入力部に伝達するだけで、第1関節が第2関節よりも優先して動き、第1指要素が第2指要素よりも優先して動くこととなる。したがって、特別な制御を行うことなく、フィンガーが指根元から指先にかけて順に曲がるような動作を実現することが可能となる。
【0008】
前記運動抵抗は、前記第1動力出力部が動作不可となった後に前記第2動力出力部が動作可能となるように設定されており、前記動力入力部に回転動力が伝達された際、前記第1指要素がワークからの抗力で移動不可になった後に前記第2指要素がワークに向って移動するように構成されていてもよい。
【0009】
前記構成によれば、第1関節が駆動されて指根元側の第1指要素が移動しても、第2関節は駆動されず指先側の第2指要素は移動しないので、フィンガーによるワークの把持動作の際にフィンガーを僅かな隙間に挿入しやすくなる。よって、バラ積みされたワークや、仕切板で区切られた箱に収容されたワークも容易に把持して取り出すことが可能となる。また、指根元側の第1指要素でワークを挟持した後には、指先側の第2指要素がワークを挟持し、フィンガーがワーク形状に倣うように形状変化するので、多様な形状のワークを安定保持することが可能となる。
【0010】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの第2動力伝達機構における動力伝達抵抗を、前記第1動力出力部から前記第1駆動軸までの第1動力伝達機構における動力伝達抵抗よりも大きくすることで構成されてもよい。
【0011】
前記構成によれば、第1動力伝達機構における動力伝達抵抗と第2動力伝達機構における動力伝達抵抗との間に差をつけるだけで(例えば、動力伝達機構として用いられるギアの数を第1動力伝達機構と第2動力伝達機構との間で異ならせる等)、容易に第2動力出力部の運動抵抗を第1動力出力部の運動抵抗よりも大きくすることが可能となる。
【0012】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達経路に存在する部材に接触抵抗を付与するボールプランジャであってもよい。
【0013】
前記構成によれば、ボールプランジャのボールを第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達経路に存在する部材に接触させることで、第2動力出力部に所定の運動抵抗を容易に付与することが可能となる。しかも、ボールプランジャのボールは転動するため、前記動力伝達経路に存在する部材の磨耗も抑止することが可能となる。
【0014】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達経路に存在する部材に回転抵抗を付与するバネであってもよい。
【0015】
前記構成によれば、バネの弾性力により第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達経路に存在する部材に回転抵抗を付与することで、第2動力出力部に運動抵抗を容易かつ安価に付与することが可能となる。
【0016】
前記第1動力出力部又は第2動力出力部と前記第1駆動軸又は第2駆動軸との間に、第2の遊星歯車ユニットが介設され、前記第2の遊星歯車ユニットの動力入力部に、前記第1動力出力部又は第2動力出力部が動力伝達可能に接続され、前記第2の遊星歯車ユニットの第1動力出力部に、前記第1駆動軸又は前記第2駆動軸が動力伝達可能に接続され、前記第2の遊星歯車ユニットの第2動力出力部に、第3駆動軸が動力伝達可能に接続されていてもよい。
【0017】
前記構成によれば、遊星歯車ユニットが2つ連なって設けられているので、1つの動力源からの回転動力が3つに分流されることとなる。よって、1つの動力源からの回転動力で第1〜第3駆動軸をそれぞれ独立して駆動することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、特別な制御を行うことなく、フィンガーが指根元から指先にかけて順に曲がるような動作を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るロボットハンド1の平面図である。図2は図1のII-II線断面図である。図3は図1のIII-III線断面図である。図1に示すように、ロボットハンド1は、ケーシング2と、そのケーシング2に設けられた左右一対のフィンガーF1,F2とを有し、ケーシング2を産業用ロボット(図示せず)のアーム先端に取り付けて使用するものである。なお、図1では見易さのために、図中右側においてフィンガーF1の駆動軸3,4より動力伝達下流のリンク構造を主に図示し、図中左側においてフィンガーF2の駆動軸3,4より動力伝達上流のギア構造を主に図示しているが、左右のフィンガーF1,F2は左右対称の略同一構成である。
【0021】
まず、フィンガーF1,F2のリンク構造について説明する。図1及び2に示すように、ケーシング2には、第2駆動軸4が軸受6を介して回動自在に支持されており、その第2駆動軸4に指根元部材8の一端部が軸受7を介して回動自在に支持されている。指根元部材8の他端部には、第1関節軸9(第1関節)が軸受10を介して回動自在に支持されている。第1関節軸9には、指腹部材12(第1指要素)が軸受11を介して回動自在に支持されている。指腹部材12は、指根元側の一端部がもう一方のフィンガーF2から離反するように斜めに屈曲した形状であり、その屈曲部12aに第1関節軸9が支持されている。指腹部材12の他端部には、第2関節軸13(第2関節)が軸受14を介して回動自在に支持されている。第2関節軸13には、指先部材15(第2指要素)の一端部が回動自在に支持されている。
【0022】
図1及び3に示すように、ケーシング2には、第2駆動軸4に対してフィンガーF1の指先から離れた側で且つもう一方のフィンガーF2から離れた側において、第2駆動軸4と平行な軸線を有する第1駆動軸3が軸受5を介して回動自在に支持されている。第1駆動軸3には、帯板状のリンク部材16の一端部が回動自在に支持されている。リンク部材16の他端部には、回転軸17が軸受18を介して回動自在に支持されている。回転軸17には、指腹部材12の一端部が回動自在に支持されている。
【0023】
図1及び2に示すように、第2駆動軸4には、リンク部材19の一端部が一体的に接続されている。リンク部材19の他端部には、回転軸20が軸受21を介して回動自在に支持されている。回転軸20には、リンク部材22の一端部が回動自在に支持されている。リンク部材22の他端部には、回転軸23が回動自在に支持されている。回転軸23には、リンク部材25の一端部が軸受24を介して回動自在に支持されている。リンク部材25の他端部は第1関節軸9に回動自在に支持されている。
【0024】
図1及び3に示すように、リンク部材25の中間部には、回転軸26が軸受27を介して回動自在に支持されている。回転軸26には、リンク部材28の一端部が回動自在に支持されている。リンク部材28の他端部は、指先部材15が回転軸29を介して回動自在に支持されている。指先部材15は、もう一方のフィンガーF2から離れるように突出した突出部15aを有し、回転軸29はその突出部15aに支持されている。
【0025】
以上のリンク構造によれば、例えば、右側のフィンガーF1の第1駆動軸3が図1において時計回りに回転すると、リンク部材16が時計回りに傾動し、第1関節軸9のある第1関節を屈曲させながら、指腹部材12が右方に平行移動する。そして、フィンガーF1の第2駆動軸4が図1において反時計回りに回転すると、リンク部材19が反時計回りに傾動し、リンク部材22,25,28を介して指先部材15が反時計回りに傾動する。
【0026】
次に、フィンガーF1,F2のギア構造について説明する。図1及び2に示すように、ケーシング2には、第1及び第2駆動軸3,4と略平行の出力軸32を有するモータ31(動力源)が取り付けられている。このモータ31には、コントローラ(図示せず)が接続されており、当該コントローラからの指令でモータ31が駆動されるようになっている。モータ31の出力軸32には、ケーシング33に軸受34を介して回動自在に支持された第1ギア35が固定されている。第1ギア35には、ケーシング33に軸受38を介して回動自在に支持された第2ギア40が噛み合っている。第2ギア40の中心にはギア軸37が固定されており、そのギア軸37はケーシング36に軸受39を介して回動自在に支持されている。
【0027】
図1及び3に示すように、第2ギア40には、ケーシング33に軸受42を介して回動自在に支持された第3ギア41が噛み合っている。第3ギア41の中心には、ギア軸43が固定されている。ギア軸43は、ケーシング2,36に支持された遊星歯車ユニット44に入力軸として接続されている。
【0028】
図4は図1に示すロボットハンド1の遊星歯車ユニット44の模式図である。図5は図4に示す遊星歯車ユニット44の模式断面図である。図4及び5に示すように、遊星歯車ユニット44は、ギア軸43が入力軸として一体的に接続される太陽歯車65と、太陽歯車65の外歯に噛み合う複数の遊星歯車66と、遊星歯車66の公転に連動するように遊星歯車66に接続された遊星腕68と、遊星歯車66の自転に連動するように遊星歯車66の外歯に噛み合う内歯歯車67とを有している。そして、太陽歯車65を動力入力部とし、遊星腕68を第1動力出力部とし、内歯歯車67を第2動力出力部としている。
【0029】
再び図3に戻って、遊星歯車ユニット44の遊星腕68には、第1波動歯車減速機48の入力部49が一体的に接続されている。第1波動歯車減速機48の出力部50は第1駆動軸3に一体的に接続されている。遊星歯車ユニット44の内歯歯車67(図4及び5参照)には、ケーシング36に軸受45を介して回動自在に支持された第4ギア46が一体的に外嵌されている。第4ギア46には、第5ギア51(図2参照)が噛み合っている。図2に示すように、第5ギア51の中心にはギア軸53が固定されており、そのギア軸53はケーシング36に軸受52を介して回動自在に支持されている。ギア軸53には、第2波動歯車減速機55の入力部56が一体的に接続されている。第2波動歯車減速機55の出力部57は第2駆動軸4に一体的に接続されている。
【0030】
以上のギア構造によれば、モータ31からの回転動力が、第1〜第3ギア35,40,41及びギア軸43を介して遊星歯車ユニット44の太陽歯車65に入力され、その回転動力が遊星歯車ユニット44において遊星腕68と内歯歯車67との2つに分流出力される。そして、遊星腕68の回転動力が第1波動歯車減速機48を含む第1動力伝達機構61を介して第1駆動軸3を回転駆動し、内歯歯車67の回転動力が第4ギア46、第5ギア51及び第2波動歯車減速機48を含む第2動力伝達機構62を介して第2駆動軸4を回転駆動する。つまり、第2動力伝達機構62には、第1動力伝達機構61に比べて、動力伝達抵抗となるギア(例えば、第4ギア46等)が多く設けられることで、第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗が第1動力伝達機構61の動力伝達抵抗よりも大きくなっており、これにより内歯歯車67の運動抵抗を遊星腕68の運動抵抗よりも大きくする抵抗発生手段が構成されている。
【0031】
よって、遊星腕68に負荷が掛かっていない状態(例えば、遊星腕68に動力伝達可能に接続された指腹部材12にワークからの反力等が掛かっていない状態)では、太陽歯車65の回転動力は全て遊星腕68に伝達され、内歯歯車67は回転しない。即ち、第2駆動軸4が回転せず指先部材15が傾動しない状態で、第1駆動軸3が回転して指腹部材12が平行移動する。一方、遊星腕68に負荷が掛かった状態(例えば、遊星腕68に動力伝達可能に接続された指腹部材12にワークからの反力等が掛かった状態)では、当該負荷が第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗を超えることで、内歯歯車67が回転し始めて、太陽歯車65の回転動力が内歯歯車67に分流され、第2駆動軸4が回転駆動して指先部材15が傾動する。
【0032】
次に、ロボットハンド1のワーク把持動作について説明する。図6は図1に示すロボットハンド1の右半分のみを表した動作図である。図6(a)に示すように、ロボットハンド1は、初期状態において、フィンガーF1の指根元部材8、指腹部材12及び指先部材15が一直線上に並んだ指閉じ状態となっている。次いで、図6(b)に示すように、コントローラ(図示せず)によりモータ31(図1等参照)に指開き動作が指令されると、ボールプランジャ60(図3参照)による運動抵抗で第2駆動軸4は回転せず、第1駆動軸3が時計回りに回転する。そうすると、指腹部材12と指先部材15とが、一直線上に並んだまま、もう一方のフィンガーF2(図1参照)から離れるように平行移動し、指腹部材12と指根元部材8とが直交する状態となった最大開き位置で停止する。
【0033】
次いで、図6(c)に示すように、コントローラ(図示せず)によりモータ31(図1等参照)に指閉じ動作が指令されると、第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗が第1動力伝達機構61の動力伝達抵抗よりも大きいことで第2駆動軸4は回転せず、第1駆動軸3が反時計回りに回転する。そうすると、指腹部材12と指先部材15とが、一直線上に並んだまま、もう一方のフィンガーF2(図1参照)に近づくように平行移動して、指腹部材12がワークWに当接する。この際、図6では図示していないが、もう一方のフィンガーF2(図1参照)の指腹部材12もワークWの反対側に当接する。
【0034】
次いで、図6(d)に示すように、指腹部材12がワークWからの抗力でそれ以上動けなくなると、第4ギア46(図3参照)のトルクが第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗に打ち勝ち、第2駆動軸4が反時計回りに回転できるようになる。そうすると、指先部材15が、もう一方のフィンガーF2(図1参照)に向けて傾動(即ち、ワークWに向って移動)して、ワークWに当接し、フィンガーF1がワークWの形状に倣うようにワークWを把持することとなる。この把持状態で、ロボットハンド1が取り付けられた産業用ロボットのアームを動作させ、ワークWを所要の場所に移動させる。
【0035】
次いで、図6(e)に示すように、コントローラ(図示せず)によりモータ31(図1等参照)に指開き動作が指令されると、第1駆動軸3が時計回りに回転し、指腹部材12及び指先部材15がもう一方のフィンガーF2(図1参照)から離れるように平行移動し、指腹部材12と指根元部材8とが直交する状態となった最大開き位置で停止する。その際、第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗で第2駆動軸4は回転しにくいが、リンク干渉により指先部材15がある程度開いた状態となる。
【0036】
次いで、図6(f)に示すように、モータ31(図1参照)が開き方向に駆動され続けることで、指腹部材12は最大開き位置ではそれ以上動けないため、第4ギア46(図3参照)のトルクが増大して第2動力伝達機構62の動力伝達抵抗に打ち勝ち、第2駆動軸4が時計回りに回転し、指先部材15が指腹部材12と一直線上に並んだ位置まで開く。次いで、図6(g)に示すように、コントローラ(図示せず)によりモータ31(図1等参照)に指閉じ動作が指令され、初期状態に戻る。
【0037】
以上に説明した構成によれば、遊星歯車ユニット44の太陽歯車65に入力された回転動力が遊星腕68と内歯歯車67とに分流され、遊星腕68が回転不可となっても、内歯歯車67が回転可能であるので、第1駆動軸3と第2駆動軸4とが個別に回転しうる。そして、内歯歯車67から第2駆動軸4までの第2動力伝達機構62における動力伝達抵抗は、遊星腕68から第1駆動軸3までの第1動力伝達機構61における動力伝達抵抗よりも大きいので、遊星腕68の回転運動が内歯歯車67の回転運動よりも優先して行われる。そうすると、モータ31からの回転動力を太陽歯車65に伝達するだけで、指腹部材12が指先部材15よりも優先して動かされる。よって、特別な制御を行うことなく、第1関節軸9を第2関節軸13よりも優先して動かすことができ、フィンガーF1、F2が指根元から指先にかけて順に曲がるような動作を実現することが可能となる。
【0038】
また、第1関節軸9が駆動されて指腹部材12が移動しても、第2関節軸13は駆動されず指先部材15は移動しないので、フィンガーF1,F2によるワークWの把持動作の際にフィンガーF1、F2を僅かな隙間に挿入しやすくなる。よって、バラ積みされたワークや、仕切板で区切られた箱に収容されたワークも容易に把持して取り出すことが可能となる。そして、指腹部材12でワークWを挟持した後には、指先部材15がワークWを挟持し、フィンガーF1,F2がワーク形状に倣うように形状変化するので、多様な形状のワークWを安定保持することが可能となる。
【0039】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係るロボットハンド101の図3相当の図面である。図8は図7に示すロボットハンド101のボールプランジャ70の断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。図7及8に示すように、本実施形態では、内歯歯車67の運動抵抗を遊星腕68の運動抵抗よりも大きくする抵抗発生手段としてボールプランジャ70が設けられている。ボールプランジャ70は第4ギア46に押し付けられ、第4ギア46に連動する内歯歯車67に接触抵抗を付与している。
【0040】
ボールプランジャ70は、バネ収容空間73を有するハウジング71と、ハウジング71の先端に設けられた開口部71aと、開口部71aの内径よりも大きい外径を有するボール72と、バネ収容空間73に配置されてボール72の一部を開口部71aから突出させるように付勢するコイルバネ74とを備えている。ボール72は、回動自在に設けられており、開口部71aから出没可能となっている。このボールプランジャ70は、ハウジング71がケーシング33,36に固定されており、ボール72がコイルバネ74の弾性力により第4ギア46の回転軸線に垂直な表面に押し付けられている。これにより、第4ギア46にはボール72からの圧力により回転抵抗が生じ、内歯歯車67の運動抵抗が遊星腕68の運動抵抗よりも大きくなっている。
【0041】
遊星腕68に負荷が掛かっていない状態(例えば、遊星腕68に動力伝達可能に接続された指腹部材12にワークからの反力等が掛かっていない状態)では、太陽歯車65の回転動力は全て遊星腕68に伝達され、内歯歯車67は回転しない。即ち、第2駆動軸4が回転せず指先部材15が傾動しない状態で、第1駆動軸3が回転して指腹部材12が平行移動する。一方、遊星腕68に負荷が掛かった状態(例えば、遊星腕68に動力伝達可能に接続された指腹部材12にワークからの反力等が掛かった状態)では、当該負荷がボールプランジャ70のボール72の第4ギア46への押付力を超えることで、第4ギア46が回転し始めて、太陽歯車65の回転動力が内歯歯車67に分流され、第2駆動軸4が回転駆動して指先部材15が傾動する。この際、ボールプランジャ70のボール72は第4ギア46に接触しながら転がるので、第4ギア46の磨耗が抑止される。
【0042】
なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。また、本実施形態では、抵抗発生手段であるボールプランジャ60は、第4ギア46に当接して接触抵抗を付与しているが、内歯歯車67から第2駆動軸4までの動力伝達機構に存在する部材であれば、他の部材(例えば、第5ギア51等)にボールプランジャを当接させて接触抵抗を付与するようにしてもよい。また、ボールプランジャ60を設ける代わりに、内歯歯車67から第2駆動軸4までの動力伝達経路に存在する回転部材(例えば、第5ギア51の中心に固定されたギア軸53)に抵抗発生手段としてコイルバネ115を設け、その弾性力により前記部材(例えば、ギア軸53)に回転抵抗を付与することで、ギア軸53に連動する内歯歯車67の運動抵抗を遊星腕68の運動抵抗よりも大きくしてもよい。
【0043】
(第3実施形態)
図9は本発明の第3実施形態に係るロボットハンドの遊星歯車ユニット44,244の模式断面図である。図9に示すように、本実施形態のロボットハンドは、遊星歯車ユニット44,244を二段に繋げて回転動力を3つに分流する構成となっている。具体的には、第1の遊星歯車ユニット44の遊星腕68が、第2の遊星歯車ユニット244の太陽歯車265に入力軸として接続されている。そして、第1の遊星歯車ユニット44の内歯歯車67に第1駆動軸(図示せず)が動力伝達可能に接続され、第2の遊星歯車ユニット244の遊星腕268に第2駆動軸(図示せず)が動力伝達可能に接続され、第2の遊星歯車ユニット244の内歯歯車267に第3駆動軸(図示せず)が動力伝達可能に接続されている。
【0044】
これら第1〜第3駆動軸は、1本のフィンガーが有する第1〜第3関節(図示せず)をそれぞれ駆動するもので、第1関節、第2関節、第3関節の順番で指先側に向けて配置されている。第1の遊星歯車ユニット44の内歯歯車67が第1関節を駆動する第1駆動軸に接続され、第2の遊星歯車ユニット244の遊星腕268が第2関節を駆動する第2駆動軸に接続され、第2の遊星歯車ユニット244の内歯歯車267が第3関節を駆動する第3駆動軸に接続されている。そして、第1の遊星歯車ユニット44の内歯歯車67、第2の遊星歯車ユニット244の遊星腕268、第2の遊星歯車ユニット244の内歯歯車267の順で、運動抵抗が大きくなるように設定されている。なお、運動抵抗の調整は、前述したように、ギア数やボールプランジャやバネにより容易に実施可能である。
【0045】
このような構成によれば、遊星歯車ユニット44,244が2つ連なって設けられているので、1つのモータからの回転動力が3つに分流され、1つのモータからの回転動力で第1〜第3駆動軸をそれぞれ独立して駆動することができる。そして、分流される各動力に対する抵抗を調整することで、1本のフィンガーに3つ以上の関節がある場合でも、特別な制御を行うことなく、指根元から指先にかけて順に曲がるような動作を実現することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係るロボットハンドは、特別な制御を行うことなくフィンガーが指根元から指先にかけて順に曲がる動作を実現可能とする優れた効果を有し、産業用ロボットのアーム先端に取り付けるロボットハンドに広く適用すると有益である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係るロボットハンドの平面図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】図1のIII-III線断面図である。
【図4】図1に示すロボットハンドの遊星歯車ユニットの模式図である。
【図5】図4に示す遊星歯車ユニットの模式断面図である。
【図6】図1に示すロボットハンドの右半分を表した動作図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るロボットハンドの図3相当の図面である。
【図8】図7に示すロボットハンドのボールプランジャの断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るロボットハンドの遊星歯車ユニットの模式断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1,101 ロボットハンド
3 第1駆動軸
4 第2駆動軸
8 指根元部材
9 第1関節軸(第1関節)
12 指腹部材(第1指要素)
13 第2関節軸(第2関節)
15 指先部材(第2指要素)
31 モータ(動力源)
44,244 遊星歯車ユニット
60 ボールプランジャ
65 太陽歯車
66 遊星歯車
67 内歯歯車
68 遊星腕
244 第2の遊星歯車ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力が入力される遊星歯車ユニットと、
前記遊星歯車ユニットから出力される回転動力が伝達される第1及び第2駆動軸と、
前記第1駆動軸に駆動される第1関節と、前記第1関節の指先側に設けられた第1指要素と、前記第1指要素の指先側に設けられて前記第2駆動軸に駆動される第2関節と、前記第2関節の指先側に設けられた第2指要素とを有するフィンガーと、を備え、
前記遊星歯車ユニットは、太陽歯車と、前記太陽歯車の外歯に噛み合う遊星歯車と、前記遊星歯車の公転に連動するように前記遊星歯車に接続された遊星腕と、前記遊星歯車の自転に連動するように前記遊星歯車の外歯に噛み合う内歯歯車と、を有し、
前記太陽歯車、前記遊星腕及び前記内歯歯車のいずれか1つを動力入力部とし、他の2つをそれぞれ第1動力出力部及び第2動力出力部とし、
前記動力入力部が、前記動力源に動力伝達可能に接続され、
前記第1動力出力部が、前記第1駆動軸に動力伝達可能に接続され、
前記第2動力出力部が、前記第2駆動軸に動力伝達可能に接続され、
前記第2動力出力部の運動抵抗を前記第1動力出力部の運動抵抗よりも大きくする抵抗発生手段が設けられていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記運動抵抗は、前記第1動力出力部が動作不可となった後に前記第2動力出力部が動作可能となるように設定されており、
前記動力入力部に回転動力が伝達された際、前記第1指要素がワークからの抗力で移動不可になった後に前記第2指要素がワークに向って移動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの第2動力伝達機構における動力伝達抵抗を、前記第1動力出力部から前記第1駆動軸までの第1動力伝達機構における動力伝達抵抗よりも大きくすることで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達機構に存在する部材に接触抵抗を付与するボールプランジャであることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記抵抗発生手段は、前記第2動力出力部から前記第2駆動軸までの動力伝達機構に存在する部材に回転抵抗を付与するバネであることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記第1動力出力部又は第2動力出力部と前記第1駆動軸又は第2駆動軸との間に、第2の遊星歯車ユニットが介設され、
前記第2の遊星歯車ユニットの動力入力部に、前記第1動力出力部又は第2動力出力部が動力伝達可能に接続され、
前記第2の遊星歯車ユニットの第1動力出力部に、前記第1駆動軸又は前記第2駆動軸が動力伝達可能に接続され、
前記第2の遊星歯車ユニットの第2動力出力部に、第3駆動軸が動力伝達可能に接続されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のロボットハンド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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