ロボット手首機構および回転アームの左右配置替え方法
【課題】 ロボット動作域にワーク保持装置などの配置を余儀なくされる場合に、基準軸線からオフセット状態にあるアーム本体を反転させ、周囲物との干渉を回避すると共にその位置から左右略同等量の回転を可能にする。
【解決手段】 制御ケーブル10,11を中空駆動シャフト3Cから出る時点で通過する引出し部14,15を、中空駆動シャフト3Cに180度隔てて二箇所設ける。アーム本体3Bの過回転を阻止するストッパの取付部も180度隔てて二箇所設けられる。制御ケーブル10,11には、引出し部14,15と駆動すべきモータ8,9との間で切り離しを可能にしたコネクタ23,24を介在させておく。コンジットケーブルの延伸経路を反転後も変えないようにしつつ、アーム本体の動きを周囲物に影響されない状態にしておくことができる。
【解決手段】 制御ケーブル10,11を中空駆動シャフト3Cから出る時点で通過する引出し部14,15を、中空駆動シャフト3Cに180度隔てて二箇所設ける。アーム本体3Bの過回転を阻止するストッパの取付部も180度隔てて二箇所設けられる。制御ケーブル10,11には、引出し部14,15と駆動すべきモータ8,9との間で切り離しを可能にしたコネクタ23,24を介在させておく。コンジットケーブルの延伸経路を反転後も変えないようにしつつ、アーム本体の動きを周囲物に影響されない状態にしておくことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットの手首機構および回転アームの左右配置替え方法に係り、詳しくは、基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、その基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延ばされている手首機構にあって、偏在状態にあるアーム本体が周囲物と干渉するのを回避すべく配置替えできる機構ならびに配置替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多関節型アーク溶接ロボットは一般的に6つの軸を備え、各軸の回転や傾動さらには旋回といった動作を重ね合わせて、溶接用トーチを所望する姿勢に保持すると共に、その先端を目的とする位置へ変位させる。図11の(a)はその一例のロボット30であり、それに示される6つの軸部は以下のものからなる。
【0003】
それらは、装着された溶接用トーチ(図示せず)を矢印31の方向へ旋回または回転させる第6軸部7、この第6軸部を支持する傾動アーム5に首振り等の矢印28方向の動作を与える第5軸部6、この第5軸部を先端に備える上アーム3を矢印32方向に回転させる第4軸部33、略水平に延びた姿勢であることの多い上アーム3の非回転部3Aを、直立した状態で傾動する下アーム34に対し矢印35方向へ回転して俯仰させる第3軸部36、下アーム34を旋回台37に対して矢印38方向に傾動させるための第2軸部39、旋回台37を基台上で矢印40のごとく水平に回すための第1軸部41である。
【0004】
このような溶接ロボットにおいては、第4軸線2の回りに回転する上アーム3のアーム本体3Bが左右いずれかの側に偏在されていることがある。このような形態の一例が特開2002−370190にも開示されており、現在では決して珍しいことでない。詳しく述べれば、上アーム3は上記した非回転部3Aの外に、主として中空駆動シャフト3Cとそれに一体のアーム本体3Bとからなる回転部で形成される。
【0005】
アーム本体3Bは、その基端にあって第4軸線2を中心に持つ中空駆動シャフト3Cから第4軸線2の一方の側、図11の例では右手から左後方を眺めた場合に右側へオフセットしており、その状態で第4軸線2に沿うように延ばされている。このアーム本体3Bの先端は、第4軸線2に直交して水平をなす交差軸線4の回りに傾動する傾動アーム5を片持ち的に支承している。
【0006】
このような片持ちオフセット形式の上アーム3が採用される所以は、(1)図12の(b)に示すように、溶接ワイヤや溶接用電力、シールドエア等を溶接用トーチ42に供給するために欠くことのできないコンジットケーブル43を、(a)の平面矢視にあるように第4軸線2上にできるだけ定置させ、ロボット動作域にある別装置等にケーブルが触れたり絡んだりするのを可及的に少なくできることである。
【0007】
さらに、(2)傾動アーム5が上アーム3に対して傾動するとき、コンジットケーブル43が(b)に示すように上または下に凸となるような曲がりを許容すべく空間を上下に大きく確保できることや、(3)図12の(a)に示すごとく一方のスペース44が空くことになるので、コンジットケーブル43の点検や交換のための保守作業が行いやすくなるということも挙げられる。ちなみに、(b)においては傾動アーム5が標準的な垂直姿勢となっている状態で表されているが、(a)は傾動アーム5が上アーム3の延長線上となる水平姿勢にした状態で描かれている。
【0008】
ところで、図13の(a)のごとくワークを保持するための装置や他のロボットといった周囲物45が溶接ロボット30の動作域に存在し、かつ上アーム3に運悪く近接させざるを得ない場合がある。上アーム3に片持ちオフセット形式のアーム本体3Bが採用されている場合、その周囲物45に触れるようなことが起こればロボットの稼働は論外となるか、周囲物を不便な位置にずらせるなどしなければならなくなる。
【0009】
このような事態を想定するなら、左右反対形状の(b)に示した上アーム体を準備しておけばよい。すなわち、中空駆動シャフト(図示せず)からアーム本体を外して対称形のアーム本体3Bにつけ替えると、上アーム3の側方には周囲物45と間に余空間46を生じさせることができる。この場合、アーム本体を二種類保有しなければならないという費用や保管の面で負担が大きくなるだけでなく、交換にも面倒な作業が課せられることになる。
【0010】
このような不利不便の解消手立てとして考えられるのは、第4軸線2の回りに回転させることができる上アーム3を、図13の(a)の状態から(b)のように180度反転させることである。上で述べた先行文献には、この種の要領による左右勝手違い操作が開示されている。反転前状態からも反転後の状態からも、例えば±190度程度の回転が許容されるようになっているなら、所期の目的は達成されることになる。
【0011】
ちなみに、±190度としておけば、左右いずれへの回転であるにせよ傾動アーム5や第6軸部7をトータル360度を少し上回るように振らせることができ、溶接用トーチに如何なる姿勢をも与えることができるからである。しかし、片側で約190度を超えないようにしているのは、後述する制御ケーブルやコンジットケーブルに大きな捻じれを与えないように、さらにはそれらがアームに絡んで動けなくならないようにしておくためである。
【0012】
ところで、第4軸線2を中心にして上アーム3を矢印32の方向へ180度回転し、その回転によって天地逆となった第6軸部7と後述する第6軸駆動用モータ9(後述する図16の右部分を参照)とを、傾動アーム5の矢印28方向への180度傾転により正規の姿勢に戻せば、図13(b)のようにすることができる(図11の(b)も参照)。上記した余空間46が確保されることになっても、第6軸部7の周囲物(ワーク保持装置45)に対する離間距離Ltwは残しておくことができる。もちろん、ワーク等にさらに近づけることも可能となる。なお、上記した先行文献に開示のロボットではアーム本体を反転させることができても、第6軸部のモータは周囲物側に残されており、勝手違いが全うされているわけではない。
【0013】
いずれにしても問題となるのは、図12に示した第5軸部6やそれより先に設けられた第6軸部7を個々に駆動するモータ8,9のための制御ケーブル10,11が、上アーム3の回転角を大きくするに伴ってひきつれないかどうかということである。もちろん、図14の(a)から分かるように、中空駆動シャフト3Cの外周に上アーム3の回転時のひきつれ回避用弛ませ部12が設けられ、±190度程度の回転が許容されると共に、上アーム3の回転に追従させる際に過度な緊張を制御ケーブルに生じさせない長さが与えられる。
【0014】
ちなみに、下アーム34内を上がりショルダ20に到達してからこの弛ませ部12を含めてコネクタ23,24の近傍まで保護管13で覆われている制御ケーブルは、中空駆動シャフト3Cの前端のフランジ16の一部を切り欠いて形成された引出し部14(図14の(b)も参照)に通される。この引出し部の手前でクランプ17により固縛されることもあって、上アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部12におけるケーブルのばたつきを抑え、また引出し部14からコネクタ23,24に至るまでも、上アーム3の回転の影響を左右大きく違わないようにして、ケーブル10,11の損傷を少なくする配慮がなされる。
【0015】
このような形態で制御ケーブルが敷設されるにしても、上アーム3を反転させ、そこを基準にしても少なくとも±180度の回転を確保しようとすると、次に示す図15の説明からも明らかなように、制御ケーブルには+180度、−360度の回転に耐える長さを与えておかなければならなくなる。すなわち、制御ケーブルにはトータル540度分の動きを許容する長さが必要とされる。
【0016】
引出し部14が上に位置するときをニュートラル(A0 と表す)として、(a)から(b)や(c)のように±180度回転(A+180、A-180と表す)させるという挙動は当然であるが(図14(a)から図16および図17に変化する)、(c)をニュートラルとみなして(d)や(e)のように±180度回転(A-180+180=A0 、A-180-180=A-360と表す)させるという挙動も可能にしておかなければならない。なお、(d)は(a)に戻っているが、(e)は(a)から見れば360度も離れる方向に回転しており、制御ケーブルにはこの360度分に耐える弛ませ量が確保されねばならない。
【0017】
制御ケーブルの捻じれ抑止の観点から±190度を超えて回転させないことはすでに述べたとおりであり、一方の側のみとはいえ360度の回転を許容しておくことは好ましいことでない。それはともかくとして、通常、ロボットには±190度以上の過回転を阻止しておくために、図14に示すごとく中空駆動シャフト3Cを囲繞するショルダ20にストッパ18を取り付けておくなど、メカニカルストッパ機構が導入される。
【0018】
詳しく述べると、中空駆動シャフト3Cにはドグ19が植設され、中空駆動シャフトの回転に伴われたドグ19がショルダ20の内側へ突出するストッパ18に上からもしくは下から当接すると、中空駆動シャフトのそれ以上の回転が阻まれるようになっている(図16および図17を参照)。
【0019】
なお、ストッパやドグには厚みがあってドグが±180度まで回転できないことから、若干の工夫が施される。簡単に述べると、図18の(a)に示すように、中空駆動シャフト3Cの外周の一部に補助リング25(図14も参照)が嵌められ、その一箇所には周方向へ延びる切欠き26または長溝が形成される。中空駆動シャフト3Cに植設されたインナドグ19Aを切欠き26に臨ませ、その間での遊動を許容しておく。補助リング25にはアウタドグ19Bを設けておくが、これがストッパ18に当たることによって180度未満しか回転を許されなくても、インナドグ19Aすなわち中空駆動シャフト3Cは180度を超えて回転することができる。
【0020】
以上の説明からすれば、図18の(a)から(b)を経て(c)に至る反時計方向回転においても、(a)から(d)へ至る時計方向回転においても±190度前後まで上アーム3を回転させることができる。ところが、図13の(b)のように反転させると、すなわち、図19において(a)から反時計方向に(b)を経て(c)へ180度反転させたとすれば、この(c)から(e)を経て(f)まで約190度時計方向に回転させることはできても、(c)から(d)のように反時計方向回転では、10数度も回転しないうちにアウタドグ19Bがストッパ18に衝突する。
【0021】
図20は(a)から時計方向に(b)まで180度分反転させた場合であるが、この(b)から(c)を経て(d)まで約190度反時計方向へ回転させることはできるにしても、(b)から(e)のように時計方向回転では、10数度も回転しないうちにアウタドグ19Bがストッパ18に衝突する。なお、ニュートラルを図21の(a)のA'0の状態に置いたとしても、すなわち、インナドグ19Aを切欠き26の中間に位置させたとしても、それぞれの方向へ180度反転させて得られる(c)や(e)から始める±190度の回転は、図19および図20の場合と同様に不可能であることを、図21は暗に教えている。
【0022】
以上の説明から分かるように、制御ケーブル等の過大な捻じれを阻止するメカニカルストッパが存在するかぎりは、図15で説明した動作は不可能であることが分かる。すなわち、制御ケーブルを+180度から−360度の回転に耐える長さを与えておくことができたとしても、図19や図20の挙動が発生して反転後の±190度の回転の実現は不可能となる。
【0023】
仮に何らの方法により実現できるとしても、制御ケーブルには+180度は当然としても−360度の回転を許容しなければならず、それに伴いひきつれ回避用弛ませ部において保護管が中空駆動シャフトの外面で擦れる機会を多くしてしまう。制御ケーブルの劣化が数ケ月で進行し、交換頻度を高めるなど保守点検の機会を多くせざるを得なくなる。
【0024】
上記した特許文献においては、アーム本体を反転させるに先立ち制御ケーブルが取り外され、過大な捻じれをケーブルに蓄積させておかない配慮がなされているが、如何せん制御ケーブルを第4軸部のみならずその手前の第3軸部から以降の全部を取外しの対象としている。加えて、アーム本体とそれより先の各機構との分離操作も課せられ、アーム本体の180度反転という簡易操作に着目した割りには付随的な手間を伴う。これらの点を考慮して、これよりも操作工数の少ない勝手違い要領やそのための機構の提案が望まれるところである。
【特許文献1】特開2002−370190
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ロボット動作域にワーク保持装置などの周囲物の配置を余儀なくされる場合に、ロボット動作中に第4軸線を基準軸線としてそれからオフセット状態にある上アームのアーム本体が周囲物と干渉するおそれがあるなら、逆側にオフセットさせることによってアーム本体の動きが周囲物に影響されない状態にできると共に、周囲物に干渉するおそれの高いコンジットケーブルの延伸経路を反転後も変更をきたさないようにしておくことができることである。
【0026】
さらに、逆オフセットのために左右対称な形のアーム本体を別途準備しておく必要がなく、アーム本体を180度反転操作しても、そこから例えば±190度の回転が過回転阻止用のメカニカルストッパに邪魔されることなく許容されること、過回転阻止によって保護される制御ケーブルには反転させてもひきつれ回避用弛ませ量を変更しなくてよいようにしておくこと、もちろん、多くの工数を要しない反転操作要領やそのための機構を実現したロボット手首機構および回転アームの左右配置替え方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、その基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構に適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、制御ケーブル10,11を中空駆動シャフト3Cから出る時点で通過する引出し部14,15が、その中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けられる。その中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突設し中空駆動シャフト3Cの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグ19を当接させるストッパ18の取付部21,22(図5の(a)を参照)が、180度隔てて二箇所設けられる。そして、各制御ケーブル10,11には、引出し部14と該当するモータ8,9との間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタ23,24が介在されていることである。
【0028】
回転アームの左右配置替え方法の発明は、以下の手順により進められる。アーム本体3Bを、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置とする。ひきつれ回避用弛ませ部12と制御ケーブル10,11が接続されるモータ8,9との間に介在させたコネクタ23,24を切り離す。中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に形成された引出し部14から制御ケーブル10,11を取り外して、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にする。アーム本体3Bを右もしくは左方向へ180度回転させる。中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突出するストッパ18を現用取付部21から取り除き、その取付部から180度隔ててショルダ20内に設けられた未用取付部22につけ替える。そして、制御ケーブル10,11が取り外された引出し部14から180度隔てた未用引出し部15に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを通過させた後に、コネクタ23,24を接続するようにしたことである。
【発明の効果】
【0029】
制御ケーブルを中空駆動シャフトから出る時点で通過する引出し部を、中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けたので、周囲物との干渉を回避するためにアーム本体を反転させても、他の引出し部に制御ケーブルを通し替えできる。その引出し部を基準にして左右必要量の回転を行わせてもコンジットケーブルの延伸経路の変更はきたさず、アーム本体の動きに対する制御ケーブルの挙動も反転前とほとんど同等にしておくことができ、結局はひきつれ回避用弛ませ量を過度に与えておく必要もなくなる。
【0030】
アーム過回転阻止用ドグを当接させるストッパの取付部も180度隔てて二箇所設けられるので、アーム本体を反転させても他の取付部を使用してストッパを配置することができる。反転後を基準にして左右回転を行わせる場合も、制御ケーブルの捻じれ許容量を依然として左右略同等に確保でき、また上アームの回転角をそれぞれの回転方向で所要量与えることができる。
【0031】
このようなことは、引出し部とモータとの間で制御ケーブルの切り離しをコネクタによって可能にしたからであるが、これはまた、反転操作中も制御ケーブルをロボット上に残しておくことを許し、勝手違い変更機構を簡素な構造で与えることができると共に、勝手違い操作を極めて容易なものとする。
【0032】
回転アームの左右配置替え方法においては、アーム本体を左右それぞれの方向の限界回転角が略等しくなる中間基準位置とし、コネクタを切り離し、引出し部から制御ケーブルを取り外してから、アーム本体を180度回転させるようにしたので、アーム本体の反転操作中主たる装着品をロボットから離脱させる必要がない。ストッパは現用取付部から未用取付部につけ替えそしてコネクタを接続すれば、その反転操作は極めて簡単になされ、追加部品や治具が必要となることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明に係るロボット手首機構および回転アームの左右配置替え方法を、その実施の形態を表した図面を参照しながら詳細に説明する。図1の(a)は本発明が適用された6軸アーク溶接ロボット1の上半図である。その概略構成は図11ないし図14のところですでに述べたとおりであるが、本発明においては、着目すべき第4軸線2を基準軸線と称することにする。この軸線回りに回転する上アーム3を回転アームと称し、それを構成するアーム本体3Bが、その基端にあって基準軸線2を中心に持つ中空駆動シャフト3Cから基準軸線の一方の側(向かって右側)へオフセットして延びている。
【0034】
そのアーム本体3Bの先端には、第4軸線2に直交する交差軸線4の回りに傾動する傾動アーム5が片持ち的に軸承されている。その交差軸は第5軸であり、この第5軸部6とそれより先に設けられた他の軸すなわち溶接用トーチを旋回させるなどする第6軸部7とを個々に駆動するモータ8,9の制御ケーブル10,11が、各モータへ向うように敷設される。
【0035】
そして、回転アーム3が、図2に示すように、基準となるA0 の姿勢である(a)から(b)、もしくは(a)から(c)を経て(d)の左右いずれの方向に対しても所要の角をなすまで回転できるように、回転時のひきつれ回避用弛ませ部12(図1の(a)を参照)が中空駆動シャフト3Cの外周の一部に残される。すなわち、制御ケーブルの一部が保護管13で覆われるなどするが、アーム本体3Bに至る前の段階では中空駆動シャフト3Cに部分的に巻きつき巻き戻されている。
【0036】
このような構成をベースにして、本発明においては、回転アーム3の基準姿勢を180度変更してもコンジットケーブル(図示せず)の延伸経路の変更をきたさず、ワークを固定している装置等のロボット周囲物との干渉を回避できるように、アーム本体3Bの基準姿勢を180度反転させることができるようにすることを主たる目的とする。その際に制御ケーブルのねじれ許容量を依然として左右略同等に確保しておくことができると共に、制御ケーブルの弛ませ量の増大を可及的に回避できるようにしようとする。
【0037】
制御ケーブルは給電、制動、接地、位置速度トルク制御、センサ電力、センサデータバックアップ用電力供給等に供され、溶接ワイヤを送給するコンジットケーブルと共に欠くことのできないケーブルである。その制御ケーブルをアーム本体に出す時点で通過する図1の(b)に示す引出し部14,15が180度隔てて二箇所設けられる。これらは、アーム本体が反転前位置にあるときに使用される引出し部14と、それに対して正反対の反転後位置にあるとき使用されるもう一つの引出し部15である。いずれも制御ケーブルのうち保護管13によって覆われた部位を図1の(a)のようにひっ掛けておき、その位置から下流側における制御ケーブル10,11のアーム本体3Bの回転に伴う挙動を、可及的に変化の少ないものにしておこうとする意図である。
【0038】
なお、中空駆動シャフト3Cにはアーム本体を一体化させるためのフランジ16を備えるので、その一部を切り欠いて引出し部14,15を容易に形成しておくことができる。引出し部は当然に中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に設けられるから、その手前部分でクランプ17により保護管13をフランジ16に固縛しても、上記したひきつれ回避用弛ませ部12を中空駆動シャフト3Cの外周面上だけに形成させることができる。
【0039】
このフランジ16に設けられた引出し部14,15は、制御ケーブル10,11の挙動をフランジ16を境にして独立させる効果を発揮する。もし、中空駆動シャフト側における挙動がアーム本体側を延びる制御ケーブルに及んだり、その逆の現象が生じることになると、ケーブルの挙動は予測し難くなり、制御ケーブルに無用の絡み付きが生じたり予期しないひきつれが現れたりする事態を招くが、それを回避するために引出し部はおおいに寄与する。
【0040】
アーム本体3Bを反転させ、その姿勢を基準に左右回転させるという意味で無視することができないのは、メカニカルストッパである。ストッパ18は、中空駆動シャフト3Cの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグ19を当接させるべく、中空駆動シャフトを格納するショルダ20の内側へ突設される。図2の(a)に示すように、このストッパ18を螺着させるための差し込み口21,22も、引出し部と同様に180度隔てて二箇所設けられる。
【0041】
これらは、アーム本体3Bが反転前の位置にあるときに使用される差し込み口21と、それに対して正反対の位置にあるとき使用されるもう一つの差し込み口22である。これらのストッパの取付部21,22はショルダケーシング等に設けられるが、図2においてはショルダ外皮が便宜上厚く描かれている。実際には、螺着部を形成するためにねじ座を外面もしくは内面に形成させるなどすれば十分である。180度反対側においては図とは違って該当位置に外皮がないとしても、取付部を形成するに相応しいブラケットを立てたり装着するなどして、それにねじ座を与えればよい。ショルダの背後のカバー20aを開けば、ストッパ18を取付部22に向けて挿入することができる(後述する図5の(a)を参照)。
【0042】
一方、制御ケーブルはアーム本体の反転に際してロボットから離脱させる必要のないようにしておくと共に、アーム本体の反転前の状態から見て過回転となる反転状態からの左右回転時に無用の力や捻じれが掛からないように、中間で分離可能とされる。そのため、図1の(a)に示すように、各制御ケーブル10,11には、引出し部14,15と該当するモータ8,9との間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタ23,24が介在される。
【0043】
このような構成としたロボット手首機構によれば、以下のようにして回転アームの左右位置替えを行うことができる。まず、アーム本体が如何なる位置にあろうとも、例えば図3の(a)のCi のようであっても、インナドグ19Aが補助リング25の切欠き26の上端に当接した状態で、(b)を経て(c)のように回転すれば、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置に整えられる。これは、取りも直さず、反転させる以前の動作における基準姿勢である。
【0044】
次に、図4の(a)に示すように、ひきつれ回避用弛ませ部12と制御ケーブル10,11が接続されるモータ8,9との間に介在させたコネクタ23,24を切り離す。中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に形成されたフランジ16の引出し部14から保護管13で覆われた制御ケーブルを取り外し、クランプ17も外して、(b)のように、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にする。
【0045】
そこで、図3の(c)から(d)のように、上アーム3を反転させる。その様子は図5の(a)にも表される。アーム本体3Bを例えば左方向(反時計方向回転)へ180度回転させる。このとき制御ケーブル10,11は分断状態にあるから第5軸用モータ8、第6軸用モータ9は不作動状態にある。第4軸用モータ27の制御ケーブル(図示せず)は断線されているわけではないので、ティーチペンダント等での操作で上アームをいずれの方向であっても180度回転させることができる。もちろん、制御系を解除して手動操作で180度回転させることもできる。反転前位置や反転後位置を教える罫書き線をアーム本体のケーシングとショルダのケーシングに渡って与えておけば、難しいことでない。
【0046】
第4軸を電気操作して反転させる場合には、その後に第4軸用モータにブレーキを掛けておくことができ、以後の操作を容易にすることができ、都合がよい。反転されたアーム本体は反転前と全く同じ形状でなければならないということはないが、アーム本体を予め上下対称に製作しておくなら、反転後の見栄えが変らないようにすることができる。逆に言えば、形もしくは塗装を上下で異ならせておけば、基準姿勢が反転前であるか後であるかが教えられやすくなる。
【0047】
図5の(a)に示すごとく、中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突出するストッパ18を現用取付部21から取り除き、その取付部から180度隔ててショルダ内に設けられた未用取付部22につけ替える。図3の(e)はそれを模式的に表している。予めもう一本のストッパを準備しているなら、現用取付部での取り除きと未用取付部での取り付けを同時に行うこともできる。最後に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルの保護管13を、図5の(b)に示すように、上に位置する未用引出し部15に通過させ、コネクタ23,24を接続する。ケーブルが復旧すれば、天地逆となっている第6軸用モータ9の姿勢を、傾動アーム5の矢印28方向の傾転により正す。
【0048】
反転前においては図6や図7のように左右方向へ回転させていたものを、反転後は図8や図9のような回転となる。いずれにしても反転のための上記した一連の操作によって、回転アームの反転後の基準姿勢をきっちりと与え、これが原点となるように制御上のリセットを行えば、反転前には干渉するおそれがあった周囲物からアーム本体を遠ざけると共に(図13の(a)から(b)へ)、変更された基準位置からも制御ケーブルの捻じれ許容量を左右略同等に確保しておくことができる。上記した図8は上アーム3の動きが図10の(a)を基準にして(b)の方向へ移り、図9は図10の(a)から(c)を経て(d)の方向へ移るものである。
【0049】
このように、アーム本体を左右それぞれの方向の限界回転角が略等しくなる中間基準位置とし、コネクタを切り離し、引出し部から制御ケーブルを取り外してから、アーム本体を右もしくは左方向へ180度回転させるようにしておけば、アーム本体の反転操作中に複雑に配線された制御ケーブルをアームから取り除いたり、主要な動作部品をロボットから外す必要がない。ストッパも180度反対側へつけ替えるだけであり、コネクタを接続すればその反転操作は終わり、特殊な追加部品が特に必要となるわけでもない。
【0050】
以上の詳細な説明から分かるように、引出し部を基準にして左右必要量の回転を反転の前後いずれにおいて行ってもコンジットケーブルの延伸経路の変更は起こらず、ロボットの複雑な動きによってはコンジットケーブルが例えば2,3ケ月で劣化していたものを、その交換頻度を大きく低下させる。アーム本体の動きに対する制御ケーブルの挙動も反転前とほとんど変わらなく、ケーブルに与える余裕量も変更する必要がない。
【0051】
アーム本体を反転させたときには180度反対に位置する取付部にストッパを設置することで、反転後を基準にして左右回転を行わせる場合も、制御ケーブルの捻じれ許容量を依然として左右略同等に確保でき、また上アームの回転角がそれぞれの回転方向で所要量与えられる。引出し部と該当するモータとの間で制御ケーブルの切り離しをコネクタによって可能にしているので、制御ケーブルを常時ロボット上に残しておくことができ、アーム本体の反転とコネクタ操作によって勝手違い操作を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るロボット手首機構が適用された溶接ロボットであり、(a)はその上半部の斜視図、(b)は中空駆動シャフトの拡大斜視図。
【図2】中空駆動シャフトが初期状態から左右各方向へ回転できることの動作説明図。
【図3】任意の位置にあった中空駆動シャフトをニュートラルに整え、その後に180度反転させかつストッパをつけ替える作業手順図。
【図4】回転アームの左右配置替えの要領を表し、(a)は初期状態図、(b)は制御ケーブルを完全に解放した状態図。
【図5】図4に続く動作であり、(a)はストッパを180度異なる位置の未用取付部へ移す作業図、(b)は制御ケーブルの接続完了寸前の作業図。
【図6】図1の初期状態から上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図7】図1の初期状態から上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図8】反転されたときを基準にして上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図9】反転されたときを基準にして上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図10】ストッパのつけ替え後の反転位置から左右各方向へ回転できることの動作説明図。
【図11】溶接ロボットの一例の設置状態で、(a)は初期状態斜視図、(b)は180度反転後の状態の斜視図。
【図12】溶接ロボットの中空駆動シャフト部分を断面で表した上アーム、傾動アームおよび第6軸部からなる手首機構を表し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図13】上アームの側方にワーク保持装置等が近接する状態を表し、(a)は干渉のおそれの極めて高い状態にあるアーム本体の平面図、(b)は反転操作により干渉のおそれをなくした状態のアーム本体の平面図。
【図14】上アームにおける制御ケーブルの敷設状態を表し、(a)は各モータ側コネクタとの繋がりを説明する斜視図、(b)は中空駆動シャフトの単体斜視図。
【図15】中空駆動シャフトの回転の変遷を表した説明図。
【図16】上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図17】上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図18】中空駆動シャフトの過回転阻止用ストッパの存在時の中空駆動シャフトの回転の変遷を表した説明図。
【図19】上アームを反時計方向へ180度反転させ、その状態から左右それぞれに回転を試みたときの動作説明図。
【図20】上アームを時計方向へ180度反転させ、その状態から左右それぞれに回転を試みたときの動作説明図。
【図21】中空駆動シャフトの初期状態を少し違えたときの反時計方向および時計方向に180度反転させたときのニュートラル状態の再現図。
【符号の説明】
【0053】
1…アーク溶接ロボット、2…第4軸線(基準軸線)3…上アーム(回転アーム)、3B…アーム本体、3C…中空駆動シャフト、4…交差軸線、5…傾動アーム、6…第5軸部、7…第6軸部、8,9…モータ、10,11…制御ケーブル、12…ひきつれ回避用弛ませ部、14…引出し部(現用引出し部)、15…引出し部(未用引出し部)、18…ストッパ、19…アーム過回転阻止用ドグ、19A…インナドグ、19B…アウタドグ、20…ショルダ、21…差し込み口(取付部:現用取付部),22…差し込み口(取付部:未用取付部)、23,24…コネクタ。
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットの手首機構および回転アームの左右配置替え方法に係り、詳しくは、基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、その基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延ばされている手首機構にあって、偏在状態にあるアーム本体が周囲物と干渉するのを回避すべく配置替えできる機構ならびに配置替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多関節型アーク溶接ロボットは一般的に6つの軸を備え、各軸の回転や傾動さらには旋回といった動作を重ね合わせて、溶接用トーチを所望する姿勢に保持すると共に、その先端を目的とする位置へ変位させる。図11の(a)はその一例のロボット30であり、それに示される6つの軸部は以下のものからなる。
【0003】
それらは、装着された溶接用トーチ(図示せず)を矢印31の方向へ旋回または回転させる第6軸部7、この第6軸部を支持する傾動アーム5に首振り等の矢印28方向の動作を与える第5軸部6、この第5軸部を先端に備える上アーム3を矢印32方向に回転させる第4軸部33、略水平に延びた姿勢であることの多い上アーム3の非回転部3Aを、直立した状態で傾動する下アーム34に対し矢印35方向へ回転して俯仰させる第3軸部36、下アーム34を旋回台37に対して矢印38方向に傾動させるための第2軸部39、旋回台37を基台上で矢印40のごとく水平に回すための第1軸部41である。
【0004】
このような溶接ロボットにおいては、第4軸線2の回りに回転する上アーム3のアーム本体3Bが左右いずれかの側に偏在されていることがある。このような形態の一例が特開2002−370190にも開示されており、現在では決して珍しいことでない。詳しく述べれば、上アーム3は上記した非回転部3Aの外に、主として中空駆動シャフト3Cとそれに一体のアーム本体3Bとからなる回転部で形成される。
【0005】
アーム本体3Bは、その基端にあって第4軸線2を中心に持つ中空駆動シャフト3Cから第4軸線2の一方の側、図11の例では右手から左後方を眺めた場合に右側へオフセットしており、その状態で第4軸線2に沿うように延ばされている。このアーム本体3Bの先端は、第4軸線2に直交して水平をなす交差軸線4の回りに傾動する傾動アーム5を片持ち的に支承している。
【0006】
このような片持ちオフセット形式の上アーム3が採用される所以は、(1)図12の(b)に示すように、溶接ワイヤや溶接用電力、シールドエア等を溶接用トーチ42に供給するために欠くことのできないコンジットケーブル43を、(a)の平面矢視にあるように第4軸線2上にできるだけ定置させ、ロボット動作域にある別装置等にケーブルが触れたり絡んだりするのを可及的に少なくできることである。
【0007】
さらに、(2)傾動アーム5が上アーム3に対して傾動するとき、コンジットケーブル43が(b)に示すように上または下に凸となるような曲がりを許容すべく空間を上下に大きく確保できることや、(3)図12の(a)に示すごとく一方のスペース44が空くことになるので、コンジットケーブル43の点検や交換のための保守作業が行いやすくなるということも挙げられる。ちなみに、(b)においては傾動アーム5が標準的な垂直姿勢となっている状態で表されているが、(a)は傾動アーム5が上アーム3の延長線上となる水平姿勢にした状態で描かれている。
【0008】
ところで、図13の(a)のごとくワークを保持するための装置や他のロボットといった周囲物45が溶接ロボット30の動作域に存在し、かつ上アーム3に運悪く近接させざるを得ない場合がある。上アーム3に片持ちオフセット形式のアーム本体3Bが採用されている場合、その周囲物45に触れるようなことが起こればロボットの稼働は論外となるか、周囲物を不便な位置にずらせるなどしなければならなくなる。
【0009】
このような事態を想定するなら、左右反対形状の(b)に示した上アーム体を準備しておけばよい。すなわち、中空駆動シャフト(図示せず)からアーム本体を外して対称形のアーム本体3Bにつけ替えると、上アーム3の側方には周囲物45と間に余空間46を生じさせることができる。この場合、アーム本体を二種類保有しなければならないという費用や保管の面で負担が大きくなるだけでなく、交換にも面倒な作業が課せられることになる。
【0010】
このような不利不便の解消手立てとして考えられるのは、第4軸線2の回りに回転させることができる上アーム3を、図13の(a)の状態から(b)のように180度反転させることである。上で述べた先行文献には、この種の要領による左右勝手違い操作が開示されている。反転前状態からも反転後の状態からも、例えば±190度程度の回転が許容されるようになっているなら、所期の目的は達成されることになる。
【0011】
ちなみに、±190度としておけば、左右いずれへの回転であるにせよ傾動アーム5や第6軸部7をトータル360度を少し上回るように振らせることができ、溶接用トーチに如何なる姿勢をも与えることができるからである。しかし、片側で約190度を超えないようにしているのは、後述する制御ケーブルやコンジットケーブルに大きな捻じれを与えないように、さらにはそれらがアームに絡んで動けなくならないようにしておくためである。
【0012】
ところで、第4軸線2を中心にして上アーム3を矢印32の方向へ180度回転し、その回転によって天地逆となった第6軸部7と後述する第6軸駆動用モータ9(後述する図16の右部分を参照)とを、傾動アーム5の矢印28方向への180度傾転により正規の姿勢に戻せば、図13(b)のようにすることができる(図11の(b)も参照)。上記した余空間46が確保されることになっても、第6軸部7の周囲物(ワーク保持装置45)に対する離間距離Ltwは残しておくことができる。もちろん、ワーク等にさらに近づけることも可能となる。なお、上記した先行文献に開示のロボットではアーム本体を反転させることができても、第6軸部のモータは周囲物側に残されており、勝手違いが全うされているわけではない。
【0013】
いずれにしても問題となるのは、図12に示した第5軸部6やそれより先に設けられた第6軸部7を個々に駆動するモータ8,9のための制御ケーブル10,11が、上アーム3の回転角を大きくするに伴ってひきつれないかどうかということである。もちろん、図14の(a)から分かるように、中空駆動シャフト3Cの外周に上アーム3の回転時のひきつれ回避用弛ませ部12が設けられ、±190度程度の回転が許容されると共に、上アーム3の回転に追従させる際に過度な緊張を制御ケーブルに生じさせない長さが与えられる。
【0014】
ちなみに、下アーム34内を上がりショルダ20に到達してからこの弛ませ部12を含めてコネクタ23,24の近傍まで保護管13で覆われている制御ケーブルは、中空駆動シャフト3Cの前端のフランジ16の一部を切り欠いて形成された引出し部14(図14の(b)も参照)に通される。この引出し部の手前でクランプ17により固縛されることもあって、上アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部12におけるケーブルのばたつきを抑え、また引出し部14からコネクタ23,24に至るまでも、上アーム3の回転の影響を左右大きく違わないようにして、ケーブル10,11の損傷を少なくする配慮がなされる。
【0015】
このような形態で制御ケーブルが敷設されるにしても、上アーム3を反転させ、そこを基準にしても少なくとも±180度の回転を確保しようとすると、次に示す図15の説明からも明らかなように、制御ケーブルには+180度、−360度の回転に耐える長さを与えておかなければならなくなる。すなわち、制御ケーブルにはトータル540度分の動きを許容する長さが必要とされる。
【0016】
引出し部14が上に位置するときをニュートラル(A0 と表す)として、(a)から(b)や(c)のように±180度回転(A+180、A-180と表す)させるという挙動は当然であるが(図14(a)から図16および図17に変化する)、(c)をニュートラルとみなして(d)や(e)のように±180度回転(A-180+180=A0 、A-180-180=A-360と表す)させるという挙動も可能にしておかなければならない。なお、(d)は(a)に戻っているが、(e)は(a)から見れば360度も離れる方向に回転しており、制御ケーブルにはこの360度分に耐える弛ませ量が確保されねばならない。
【0017】
制御ケーブルの捻じれ抑止の観点から±190度を超えて回転させないことはすでに述べたとおりであり、一方の側のみとはいえ360度の回転を許容しておくことは好ましいことでない。それはともかくとして、通常、ロボットには±190度以上の過回転を阻止しておくために、図14に示すごとく中空駆動シャフト3Cを囲繞するショルダ20にストッパ18を取り付けておくなど、メカニカルストッパ機構が導入される。
【0018】
詳しく述べると、中空駆動シャフト3Cにはドグ19が植設され、中空駆動シャフトの回転に伴われたドグ19がショルダ20の内側へ突出するストッパ18に上からもしくは下から当接すると、中空駆動シャフトのそれ以上の回転が阻まれるようになっている(図16および図17を参照)。
【0019】
なお、ストッパやドグには厚みがあってドグが±180度まで回転できないことから、若干の工夫が施される。簡単に述べると、図18の(a)に示すように、中空駆動シャフト3Cの外周の一部に補助リング25(図14も参照)が嵌められ、その一箇所には周方向へ延びる切欠き26または長溝が形成される。中空駆動シャフト3Cに植設されたインナドグ19Aを切欠き26に臨ませ、その間での遊動を許容しておく。補助リング25にはアウタドグ19Bを設けておくが、これがストッパ18に当たることによって180度未満しか回転を許されなくても、インナドグ19Aすなわち中空駆動シャフト3Cは180度を超えて回転することができる。
【0020】
以上の説明からすれば、図18の(a)から(b)を経て(c)に至る反時計方向回転においても、(a)から(d)へ至る時計方向回転においても±190度前後まで上アーム3を回転させることができる。ところが、図13の(b)のように反転させると、すなわち、図19において(a)から反時計方向に(b)を経て(c)へ180度反転させたとすれば、この(c)から(e)を経て(f)まで約190度時計方向に回転させることはできても、(c)から(d)のように反時計方向回転では、10数度も回転しないうちにアウタドグ19Bがストッパ18に衝突する。
【0021】
図20は(a)から時計方向に(b)まで180度分反転させた場合であるが、この(b)から(c)を経て(d)まで約190度反時計方向へ回転させることはできるにしても、(b)から(e)のように時計方向回転では、10数度も回転しないうちにアウタドグ19Bがストッパ18に衝突する。なお、ニュートラルを図21の(a)のA'0の状態に置いたとしても、すなわち、インナドグ19Aを切欠き26の中間に位置させたとしても、それぞれの方向へ180度反転させて得られる(c)や(e)から始める±190度の回転は、図19および図20の場合と同様に不可能であることを、図21は暗に教えている。
【0022】
以上の説明から分かるように、制御ケーブル等の過大な捻じれを阻止するメカニカルストッパが存在するかぎりは、図15で説明した動作は不可能であることが分かる。すなわち、制御ケーブルを+180度から−360度の回転に耐える長さを与えておくことができたとしても、図19や図20の挙動が発生して反転後の±190度の回転の実現は不可能となる。
【0023】
仮に何らの方法により実現できるとしても、制御ケーブルには+180度は当然としても−360度の回転を許容しなければならず、それに伴いひきつれ回避用弛ませ部において保護管が中空駆動シャフトの外面で擦れる機会を多くしてしまう。制御ケーブルの劣化が数ケ月で進行し、交換頻度を高めるなど保守点検の機会を多くせざるを得なくなる。
【0024】
上記した特許文献においては、アーム本体を反転させるに先立ち制御ケーブルが取り外され、過大な捻じれをケーブルに蓄積させておかない配慮がなされているが、如何せん制御ケーブルを第4軸部のみならずその手前の第3軸部から以降の全部を取外しの対象としている。加えて、アーム本体とそれより先の各機構との分離操作も課せられ、アーム本体の180度反転という簡易操作に着目した割りには付随的な手間を伴う。これらの点を考慮して、これよりも操作工数の少ない勝手違い要領やそのための機構の提案が望まれるところである。
【特許文献1】特開2002−370190
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、ロボット動作域にワーク保持装置などの周囲物の配置を余儀なくされる場合に、ロボット動作中に第4軸線を基準軸線としてそれからオフセット状態にある上アームのアーム本体が周囲物と干渉するおそれがあるなら、逆側にオフセットさせることによってアーム本体の動きが周囲物に影響されない状態にできると共に、周囲物に干渉するおそれの高いコンジットケーブルの延伸経路を反転後も変更をきたさないようにしておくことができることである。
【0026】
さらに、逆オフセットのために左右対称な形のアーム本体を別途準備しておく必要がなく、アーム本体を180度反転操作しても、そこから例えば±190度の回転が過回転阻止用のメカニカルストッパに邪魔されることなく許容されること、過回転阻止によって保護される制御ケーブルには反転させてもひきつれ回避用弛ませ量を変更しなくてよいようにしておくこと、もちろん、多くの工数を要しない反転操作要領やそのための機構を実現したロボット手首機構および回転アームの左右配置替え方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、その基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構に適用される。その特徴とするところは、図1を参照して、制御ケーブル10,11を中空駆動シャフト3Cから出る時点で通過する引出し部14,15が、その中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けられる。その中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突設し中空駆動シャフト3Cの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグ19を当接させるストッパ18の取付部21,22(図5の(a)を参照)が、180度隔てて二箇所設けられる。そして、各制御ケーブル10,11には、引出し部14と該当するモータ8,9との間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタ23,24が介在されていることである。
【0028】
回転アームの左右配置替え方法の発明は、以下の手順により進められる。アーム本体3Bを、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置とする。ひきつれ回避用弛ませ部12と制御ケーブル10,11が接続されるモータ8,9との間に介在させたコネクタ23,24を切り離す。中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に形成された引出し部14から制御ケーブル10,11を取り外して、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にする。アーム本体3Bを右もしくは左方向へ180度回転させる。中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突出するストッパ18を現用取付部21から取り除き、その取付部から180度隔ててショルダ20内に設けられた未用取付部22につけ替える。そして、制御ケーブル10,11が取り外された引出し部14から180度隔てた未用引出し部15に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを通過させた後に、コネクタ23,24を接続するようにしたことである。
【発明の効果】
【0029】
制御ケーブルを中空駆動シャフトから出る時点で通過する引出し部を、中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けたので、周囲物との干渉を回避するためにアーム本体を反転させても、他の引出し部に制御ケーブルを通し替えできる。その引出し部を基準にして左右必要量の回転を行わせてもコンジットケーブルの延伸経路の変更はきたさず、アーム本体の動きに対する制御ケーブルの挙動も反転前とほとんど同等にしておくことができ、結局はひきつれ回避用弛ませ量を過度に与えておく必要もなくなる。
【0030】
アーム過回転阻止用ドグを当接させるストッパの取付部も180度隔てて二箇所設けられるので、アーム本体を反転させても他の取付部を使用してストッパを配置することができる。反転後を基準にして左右回転を行わせる場合も、制御ケーブルの捻じれ許容量を依然として左右略同等に確保でき、また上アームの回転角をそれぞれの回転方向で所要量与えることができる。
【0031】
このようなことは、引出し部とモータとの間で制御ケーブルの切り離しをコネクタによって可能にしたからであるが、これはまた、反転操作中も制御ケーブルをロボット上に残しておくことを許し、勝手違い変更機構を簡素な構造で与えることができると共に、勝手違い操作を極めて容易なものとする。
【0032】
回転アームの左右配置替え方法においては、アーム本体を左右それぞれの方向の限界回転角が略等しくなる中間基準位置とし、コネクタを切り離し、引出し部から制御ケーブルを取り外してから、アーム本体を180度回転させるようにしたので、アーム本体の反転操作中主たる装着品をロボットから離脱させる必要がない。ストッパは現用取付部から未用取付部につけ替えそしてコネクタを接続すれば、その反転操作は極めて簡単になされ、追加部品や治具が必要となることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明に係るロボット手首機構および回転アームの左右配置替え方法を、その実施の形態を表した図面を参照しながら詳細に説明する。図1の(a)は本発明が適用された6軸アーク溶接ロボット1の上半図である。その概略構成は図11ないし図14のところですでに述べたとおりであるが、本発明においては、着目すべき第4軸線2を基準軸線と称することにする。この軸線回りに回転する上アーム3を回転アームと称し、それを構成するアーム本体3Bが、その基端にあって基準軸線2を中心に持つ中空駆動シャフト3Cから基準軸線の一方の側(向かって右側)へオフセットして延びている。
【0034】
そのアーム本体3Bの先端には、第4軸線2に直交する交差軸線4の回りに傾動する傾動アーム5が片持ち的に軸承されている。その交差軸は第5軸であり、この第5軸部6とそれより先に設けられた他の軸すなわち溶接用トーチを旋回させるなどする第6軸部7とを個々に駆動するモータ8,9の制御ケーブル10,11が、各モータへ向うように敷設される。
【0035】
そして、回転アーム3が、図2に示すように、基準となるA0 の姿勢である(a)から(b)、もしくは(a)から(c)を経て(d)の左右いずれの方向に対しても所要の角をなすまで回転できるように、回転時のひきつれ回避用弛ませ部12(図1の(a)を参照)が中空駆動シャフト3Cの外周の一部に残される。すなわち、制御ケーブルの一部が保護管13で覆われるなどするが、アーム本体3Bに至る前の段階では中空駆動シャフト3Cに部分的に巻きつき巻き戻されている。
【0036】
このような構成をベースにして、本発明においては、回転アーム3の基準姿勢を180度変更してもコンジットケーブル(図示せず)の延伸経路の変更をきたさず、ワークを固定している装置等のロボット周囲物との干渉を回避できるように、アーム本体3Bの基準姿勢を180度反転させることができるようにすることを主たる目的とする。その際に制御ケーブルのねじれ許容量を依然として左右略同等に確保しておくことができると共に、制御ケーブルの弛ませ量の増大を可及的に回避できるようにしようとする。
【0037】
制御ケーブルは給電、制動、接地、位置速度トルク制御、センサ電力、センサデータバックアップ用電力供給等に供され、溶接ワイヤを送給するコンジットケーブルと共に欠くことのできないケーブルである。その制御ケーブルをアーム本体に出す時点で通過する図1の(b)に示す引出し部14,15が180度隔てて二箇所設けられる。これらは、アーム本体が反転前位置にあるときに使用される引出し部14と、それに対して正反対の反転後位置にあるとき使用されるもう一つの引出し部15である。いずれも制御ケーブルのうち保護管13によって覆われた部位を図1の(a)のようにひっ掛けておき、その位置から下流側における制御ケーブル10,11のアーム本体3Bの回転に伴う挙動を、可及的に変化の少ないものにしておこうとする意図である。
【0038】
なお、中空駆動シャフト3Cにはアーム本体を一体化させるためのフランジ16を備えるので、その一部を切り欠いて引出し部14,15を容易に形成しておくことができる。引出し部は当然に中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に設けられるから、その手前部分でクランプ17により保護管13をフランジ16に固縛しても、上記したひきつれ回避用弛ませ部12を中空駆動シャフト3Cの外周面上だけに形成させることができる。
【0039】
このフランジ16に設けられた引出し部14,15は、制御ケーブル10,11の挙動をフランジ16を境にして独立させる効果を発揮する。もし、中空駆動シャフト側における挙動がアーム本体側を延びる制御ケーブルに及んだり、その逆の現象が生じることになると、ケーブルの挙動は予測し難くなり、制御ケーブルに無用の絡み付きが生じたり予期しないひきつれが現れたりする事態を招くが、それを回避するために引出し部はおおいに寄与する。
【0040】
アーム本体3Bを反転させ、その姿勢を基準に左右回転させるという意味で無視することができないのは、メカニカルストッパである。ストッパ18は、中空駆動シャフト3Cの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグ19を当接させるべく、中空駆動シャフトを格納するショルダ20の内側へ突設される。図2の(a)に示すように、このストッパ18を螺着させるための差し込み口21,22も、引出し部と同様に180度隔てて二箇所設けられる。
【0041】
これらは、アーム本体3Bが反転前の位置にあるときに使用される差し込み口21と、それに対して正反対の位置にあるとき使用されるもう一つの差し込み口22である。これらのストッパの取付部21,22はショルダケーシング等に設けられるが、図2においてはショルダ外皮が便宜上厚く描かれている。実際には、螺着部を形成するためにねじ座を外面もしくは内面に形成させるなどすれば十分である。180度反対側においては図とは違って該当位置に外皮がないとしても、取付部を形成するに相応しいブラケットを立てたり装着するなどして、それにねじ座を与えればよい。ショルダの背後のカバー20aを開けば、ストッパ18を取付部22に向けて挿入することができる(後述する図5の(a)を参照)。
【0042】
一方、制御ケーブルはアーム本体の反転に際してロボットから離脱させる必要のないようにしておくと共に、アーム本体の反転前の状態から見て過回転となる反転状態からの左右回転時に無用の力や捻じれが掛からないように、中間で分離可能とされる。そのため、図1の(a)に示すように、各制御ケーブル10,11には、引出し部14,15と該当するモータ8,9との間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタ23,24が介在される。
【0043】
このような構成としたロボット手首機構によれば、以下のようにして回転アームの左右位置替えを行うことができる。まず、アーム本体が如何なる位置にあろうとも、例えば図3の(a)のCi のようであっても、インナドグ19Aが補助リング25の切欠き26の上端に当接した状態で、(b)を経て(c)のように回転すれば、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置に整えられる。これは、取りも直さず、反転させる以前の動作における基準姿勢である。
【0044】
次に、図4の(a)に示すように、ひきつれ回避用弛ませ部12と制御ケーブル10,11が接続されるモータ8,9との間に介在させたコネクタ23,24を切り離す。中空駆動シャフト3Cのアーム本体側端に形成されたフランジ16の引出し部14から保護管13で覆われた制御ケーブルを取り外し、クランプ17も外して、(b)のように、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にする。
【0045】
そこで、図3の(c)から(d)のように、上アーム3を反転させる。その様子は図5の(a)にも表される。アーム本体3Bを例えば左方向(反時計方向回転)へ180度回転させる。このとき制御ケーブル10,11は分断状態にあるから第5軸用モータ8、第6軸用モータ9は不作動状態にある。第4軸用モータ27の制御ケーブル(図示せず)は断線されているわけではないので、ティーチペンダント等での操作で上アームをいずれの方向であっても180度回転させることができる。もちろん、制御系を解除して手動操作で180度回転させることもできる。反転前位置や反転後位置を教える罫書き線をアーム本体のケーシングとショルダのケーシングに渡って与えておけば、難しいことでない。
【0046】
第4軸を電気操作して反転させる場合には、その後に第4軸用モータにブレーキを掛けておくことができ、以後の操作を容易にすることができ、都合がよい。反転されたアーム本体は反転前と全く同じ形状でなければならないということはないが、アーム本体を予め上下対称に製作しておくなら、反転後の見栄えが変らないようにすることができる。逆に言えば、形もしくは塗装を上下で異ならせておけば、基準姿勢が反転前であるか後であるかが教えられやすくなる。
【0047】
図5の(a)に示すごとく、中空駆動シャフト3Cを格納するショルダ20の内側へ突出するストッパ18を現用取付部21から取り除き、その取付部から180度隔ててショルダ内に設けられた未用取付部22につけ替える。図3の(e)はそれを模式的に表している。予めもう一本のストッパを準備しているなら、現用取付部での取り除きと未用取付部での取り付けを同時に行うこともできる。最後に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルの保護管13を、図5の(b)に示すように、上に位置する未用引出し部15に通過させ、コネクタ23,24を接続する。ケーブルが復旧すれば、天地逆となっている第6軸用モータ9の姿勢を、傾動アーム5の矢印28方向の傾転により正す。
【0048】
反転前においては図6や図7のように左右方向へ回転させていたものを、反転後は図8や図9のような回転となる。いずれにしても反転のための上記した一連の操作によって、回転アームの反転後の基準姿勢をきっちりと与え、これが原点となるように制御上のリセットを行えば、反転前には干渉するおそれがあった周囲物からアーム本体を遠ざけると共に(図13の(a)から(b)へ)、変更された基準位置からも制御ケーブルの捻じれ許容量を左右略同等に確保しておくことができる。上記した図8は上アーム3の動きが図10の(a)を基準にして(b)の方向へ移り、図9は図10の(a)から(c)を経て(d)の方向へ移るものである。
【0049】
このように、アーム本体を左右それぞれの方向の限界回転角が略等しくなる中間基準位置とし、コネクタを切り離し、引出し部から制御ケーブルを取り外してから、アーム本体を右もしくは左方向へ180度回転させるようにしておけば、アーム本体の反転操作中に複雑に配線された制御ケーブルをアームから取り除いたり、主要な動作部品をロボットから外す必要がない。ストッパも180度反対側へつけ替えるだけであり、コネクタを接続すればその反転操作は終わり、特殊な追加部品が特に必要となるわけでもない。
【0050】
以上の詳細な説明から分かるように、引出し部を基準にして左右必要量の回転を反転の前後いずれにおいて行ってもコンジットケーブルの延伸経路の変更は起こらず、ロボットの複雑な動きによってはコンジットケーブルが例えば2,3ケ月で劣化していたものを、その交換頻度を大きく低下させる。アーム本体の動きに対する制御ケーブルの挙動も反転前とほとんど変わらなく、ケーブルに与える余裕量も変更する必要がない。
【0051】
アーム本体を反転させたときには180度反対に位置する取付部にストッパを設置することで、反転後を基準にして左右回転を行わせる場合も、制御ケーブルの捻じれ許容量を依然として左右略同等に確保でき、また上アームの回転角がそれぞれの回転方向で所要量与えられる。引出し部と該当するモータとの間で制御ケーブルの切り離しをコネクタによって可能にしているので、制御ケーブルを常時ロボット上に残しておくことができ、アーム本体の反転とコネクタ操作によって勝手違い操作を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るロボット手首機構が適用された溶接ロボットであり、(a)はその上半部の斜視図、(b)は中空駆動シャフトの拡大斜視図。
【図2】中空駆動シャフトが初期状態から左右各方向へ回転できることの動作説明図。
【図3】任意の位置にあった中空駆動シャフトをニュートラルに整え、その後に180度反転させかつストッパをつけ替える作業手順図。
【図4】回転アームの左右配置替えの要領を表し、(a)は初期状態図、(b)は制御ケーブルを完全に解放した状態図。
【図5】図4に続く動作であり、(a)はストッパを180度異なる位置の未用取付部へ移す作業図、(b)は制御ケーブルの接続完了寸前の作業図。
【図6】図1の初期状態から上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図7】図1の初期状態から上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図8】反転されたときを基準にして上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図9】反転されたときを基準にして上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図10】ストッパのつけ替え後の反転位置から左右各方向へ回転できることの動作説明図。
【図11】溶接ロボットの一例の設置状態で、(a)は初期状態斜視図、(b)は180度反転後の状態の斜視図。
【図12】溶接ロボットの中空駆動シャフト部分を断面で表した上アーム、傾動アームおよび第6軸部からなる手首機構を表し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図13】上アームの側方にワーク保持装置等が近接する状態を表し、(a)は干渉のおそれの極めて高い状態にあるアーム本体の平面図、(b)は反転操作により干渉のおそれをなくした状態のアーム本体の平面図。
【図14】上アームにおける制御ケーブルの敷設状態を表し、(a)は各モータ側コネクタとの繋がりを説明する斜視図、(b)は中空駆動シャフトの単体斜視図。
【図15】中空駆動シャフトの回転の変遷を表した説明図。
【図16】上アームを反時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図17】上アームを時計方向へ180度回転させたときの斜視図。
【図18】中空駆動シャフトの過回転阻止用ストッパの存在時の中空駆動シャフトの回転の変遷を表した説明図。
【図19】上アームを反時計方向へ180度反転させ、その状態から左右それぞれに回転を試みたときの動作説明図。
【図20】上アームを時計方向へ180度反転させ、その状態から左右それぞれに回転を試みたときの動作説明図。
【図21】中空駆動シャフトの初期状態を少し違えたときの反時計方向および時計方向に180度反転させたときのニュートラル状態の再現図。
【符号の説明】
【0053】
1…アーク溶接ロボット、2…第4軸線(基準軸線)3…上アーム(回転アーム)、3B…アーム本体、3C…中空駆動シャフト、4…交差軸線、5…傾動アーム、6…第5軸部、7…第6軸部、8,9…モータ、10,11…制御ケーブル、12…ひきつれ回避用弛ませ部、14…引出し部(現用引出し部)、15…引出し部(未用引出し部)、18…ストッパ、19…アーム過回転阻止用ドグ、19A…インナドグ、19B…アウタドグ、20…ショルダ、21…差し込み口(取付部:現用取付部),22…差し込み口(取付部:未用取付部)、23,24…コネクタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、該アーム本体の基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は前記基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を前記中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構において、
制御ケーブルを中空駆動シャフトから出る時点で通過する引出し部が、該中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けられ、
該中空駆動シャフトを格納するショルダの内側へ突設し中空駆動シャフトの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグを当接させるストッパの取付部が、180度隔てて二箇所設けられ、
各制御ケーブルには、前記引出し部と該当するモータとの間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタが介在されていることを特徴とするロボット手首機構。
【請求項2】
基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、該アーム本体の基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は前記基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を前記中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構における回転アームの左右配置替え方法において、
前記アーム本体を、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置とし、
前記ひきつれ回避用弛ませ部と制御ケーブルが接続されるモータとの間に介在させたコネクタを切り離し、
該中空駆動シャフトのアーム本体側端に形成された引出し部から制御ケーブルを取り外して、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にし、
前記アーム本体を右もしくは左方向へ180度回転させ、
中空駆動シャフトを格納するショルダの内側へ突出するストッパを現用取付部から取り除き、該取付部から180度隔ててショルダ内に設けられた未用取付部につけ替え、
制御ケーブルが取り外された引出し部から180度隔てた未用引出し部に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを通過させた後に、前記コネクタを接続することを特徴とするロボット手首機構における回転アームの左右配置替え方法。
【請求項1】
基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、該アーム本体の基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は前記基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を前記中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構において、
制御ケーブルを中空駆動シャフトから出る時点で通過する引出し部が、該中空駆動シャフトのアーム本体側端に180度隔てて二箇所設けられ、
該中空駆動シャフトを格納するショルダの内側へ突設し中空駆動シャフトの表面から突出したアーム過回転阻止用ドグを当接させるストッパの取付部が、180度隔てて二箇所設けられ、
各制御ケーブルには、前記引出し部と該当するモータとの間でケーブルの切り離しを可能にしたコネクタが介在されていることを特徴とするロボット手首機構。
【請求項2】
基準軸線の回りに回転する回転アームのアーム本体が、該アーム本体の基端にあって基準軸線を中心に持つ中空駆動シャフトから基準軸線の一方の側へオフセットして基準軸線に沿うように延び、アーム本体の先端は前記基準軸線に直交する交差軸線回りに傾動する傾動アームを片持ち的に軸承し、その交差軸やそれより先に設けられた他の軸があればそれらを個々に駆動するモータの制御ケーブルが、回転アーム回転時のひきつれ回避用弛ませ部を前記中空駆動シャフト外周の一部に残した後に各モータへ向うように敷設されているロボット手首機構における回転アームの左右配置替え方法において、
前記アーム本体を、右方向ひきつれ限界回転角と左方向ひきつれ限界回転角とが略等しくなる中間基準位置とし、
前記ひきつれ回避用弛ませ部と制御ケーブルが接続されるモータとの間に介在させたコネクタを切り離し、
該中空駆動シャフトのアーム本体側端に形成された引出し部から制御ケーブルを取り外して、ひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを自由状態にし、
前記アーム本体を右もしくは左方向へ180度回転させ、
中空駆動シャフトを格納するショルダの内側へ突出するストッパを現用取付部から取り除き、該取付部から180度隔ててショルダ内に設けられた未用取付部につけ替え、
制御ケーブルが取り外された引出し部から180度隔てた未用引出し部に自由状態にあるひきつれ回避用弛ませ部側のケーブルを通過させた後に、前記コネクタを接続することを特徴とするロボット手首機構における回転アームの左右配置替え方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−21299(P2006−21299A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203630(P2004−203630)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
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