説明

中性化抑制型早強セメント組成物

【課題】先に開発した高CSかつ極低CSの高活性セメントの有効利用を図るとともに、寒冷地のような低温環境下あるいは中性化が進み易い環境下で用いるコンクリートやモルタルのセメントとして好適な中性化抑制型早強セメント組成物を提供する。
【解決手段】ボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%で、L.S.D.が1を超え、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%である高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%添加してなる高活性セメント60〜97重量%と、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材3〜40重量%とからなることを特徴とする中性化抑制型早強セメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クリンカ中のボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%の高活性セメントを母体とした中性化抑制型早強セメント組成物であって、混合セメントに類するものであっても普通ポルトランドセメント並みの強度発現性と中性化抑制性能を有し、寒冷地のような低温環境下あるいは中性化が進み易い環境下で用いるコンクリートやモルタルのセメントとして好適な中性化抑制型早強セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止策の一つとして二酸化炭素の排出量の削減が求められておりセメント業界でも該削減に取り組んできているが、削減策の一つとしてポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュ等の無機混和材を混和した混合セメント、セメント組成物の活用が着目されている。
【0003】
これら混合セメント、セメント組成物を活用すれば、セメント焼成に伴う燃料から発生する二酸化炭素の削減のみでなく、主原料である石灰石の脱炭酸による二酸化炭素の発生をも削減できる。また、一般に、高炉スラグやフライアッシュ等の無機混和材を混和した混合セメント、セメント組成物は、ポルトランドセメントと比較して低熱、遮塩性、耐硫酸塩性、アルカリ骨材反応抑制といった点で優れているので、性能面からもニーズが高まってきている。
【0004】
しかし、幾つか欠点もあり、一つとして、上記混合セメント、セメント組成物はポルトランドセメントに比べアルカリ分(主としてカルシウム分)が少なく中性化が進み易いといったことがある。中性化抑制については従来から検討されてきており、例えば、特許文献1には製鋼スラグ、高炉スラグ微粉末及びフライアッシュと、更に、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント及び消石灰の群から選択された1種または2種以上とからなる、中性化が進み易い環境下においても鉄筋の腐食を抑制するセメント組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には(A)高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフュームから選ばれる一種以上の粉末と、(B)2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を含有し、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3が10〜100質量部であり、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下である焼成物の粉砕物と、(C)石膏と、(D)ポルトランドセメントクリンカ粉砕物を含む耐中性化特性が良好なセメント組成物が開示されている。
【0006】
また、上記混合セメント、セメント組成物における欠点の他の一つとして、短期材令での強度発現性が小さく、特に冬場のような低温下では良くないといったことがある。
【0007】
低温下における強度発現性の改善についても検討されてきており、例えば、特許文献3には3CaO・SiO2含有量が60重量%以上でブレーン値が3500〜7000cm/gのセメント100重量部に対し、無水セッコウ100重量部、硫酸アルミニウムを無水物換算で20〜150重量部、アルミン酸アルカリ金属塩5〜15重量部、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硝酸塩及び/又は亜硝酸塩を20〜150重量部含有してなるセメント混和材2〜10重量部を含有してなるセメント組成物が開示されている。
【0008】
更には、上記中性化と上記低温環境下での強度発現の両方の問題の解決を図ったものとして特許文献4がある。ここには、ブレーン比表面積が6000〜10000cm/gでガラス化率70%以上のCaO40〜55質量%、Al2O325〜40質量%、SiO210〜25質量%およびLi2O1〜10質量%のCaO- Al2O3-SiO2-Li2O系ガラス100質量部と、ブレーン比表面積が2000〜8000cm/gのγ-2CaO・SiO25〜300質量部とを含有してなる、低温環境下での強度発現性と耐硫酸塩抵抗性と中性化抵抗性に優れる水硬性セメント組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−210850号公報
【特許文献2】特開2008−105902号公報
【特許文献3】特許第3549579号公報
【特許文献4】特許第4459786公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1や特許文献2に示すように、中性化抑制を図ったセメント組成物は幾つか知られているものの、使用されているセメントが従来のポルトランドセメント、混合セメントであるため短期強度発現が良好とは言えず、低温環境下での短期強度が十分確保できなくなる場合がある。
【0011】
また、特許文献3に示すように、低温下における強度発現性の改善を図ったセメント組成物も知られているが、中性化抑制を考慮した混合セメントではなく、硬化促進剤等の種々の添加材を併用しているため高価なものになってしまう。
【0012】
特許文献4には低温環境下での強度発現性と中性化抵抗性に優れる水硬性セメント組成物が開示されているが、特殊な化学組成の水硬性組成物であるため製造し難く汎用性に欠ける。
【0013】
一方、本願発明者らは、本願発明に先立ち、高CSで遊離石灰があり極低CSの「高活性セメント」を開発した。(特願2011−35810参照)このセメントは、早強ポルトランドセメントよりも水和活性が高く、セメント焼成原料として産業廃棄物も使用できる従来の規格には当てはまらないセメントである。
【0014】
本願発明は、上記課題を鑑み、上記「高活性セメント」の有効利用を図るとともに、混合セメントに類するものであっても普通ポルトランドセメント並みの強度発現性と中性化抑制性能を有することにより、寒冷地のような低温環境下あるいは中性化が進み易い環境下で用いるコンクリートやモルタルのセメントとして好適な中性化抑制型早強セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、ボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%で、L.S.D.が1を超え、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%である高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%添加してなる高活性セメント60〜97重量%と、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材3〜40重量%とからなることを特徴とする中性化抑制型早強セメント組成物である。
【0016】
高活性セメントクリンカとは、水和活性が高く、該セメントクリンカによるセメントのコンダクションカロリーメータでの水和発熱速度のピーク値が早強セメントクリンカ相当のクリンカによるセメントのそれより大きく、かつ、水和発熱量が早強セメントクリンカ相当のクリンカによるセメントのそれより多いクリンカをいう。
【0017】
この高活性セメントクリンカは、鉱物組成がボーグ式による計算値で、CS>70%、CS<5%であり、好ましくはCS<3%である。
【0018】
Sが70%以下では、従来の早強セメントと同等以上の水和活性を有する高活性セメントが得られ難くなる。また、環境条件によっては中性化抑制が不十分となる虞がある。
【0019】
Sが5%以上であるとカルシウムアルミネート系鉱物や非晶質物等からなる間隙相が少なくなるので高活性セメントクリンカを焼成し難くなったりアルミニウム分を多く含む産業廃棄物のセメント焼成原料としての使用が難しくなったりする。
【0020】
また、従来の早強セメントでは、セメントクリンカのL.S.D.(石灰飽和度)が1以下となるようにセメント焼成原料の調合がなされるが、本発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1である。L.S.D.>1となるようにセメント焼成原料を調合することによって、CS>70%、CS<5%の高活性セメントクリンカが得られ易くなる。
【0021】
上記の通り、本発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1であるので、セメントクリンカ中に遊離石灰を含むことになるが、その量を0.5〜7.5重量%に限定する。
【0022】
0.5重量%未満では、高温の焼成または焼成帯の位置・長さが変化してキルン内部のレンガが破損する場合がある。7.5重量%を超えると、セメントクリンカ中の遊離石灰の水和により過剰な膨張をする場合がある。
【0023】
高活性セメントは、上記高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%となるよう添加してなるものである。1.5重量%未満ではセメントクリンカ中のCAが急結してコンクリート製品を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。4.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。
【0024】
この高活性セメントは、上記高活性セメントクリンカを母体としているので、早強ポルトランドセメント以上の水和活性を有する。また、従来のセメント規格にとらわれたものではないので、セメント規格が重視されポルトランドセメント等でなければならない用途には使用し難いが、そうでなければ幅広く使える汎用性の高いセメントである。
【0025】
また、シリカ分に比べカルシウム分が多く遊離石灰も含むので水酸化カルシウムを生成し易く中性化抑制に対して有効である。
【0026】
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、上記高活性セメント60〜97重量%と、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材3〜40重量%とからなるものである。
【0027】
上記高活性セメントを用い、この高活性セメントの配合割合を多めにすることにより、種々の無機塩や有機ポリマーからなる化学添加剤を用いなくても、短期強度発現性、特に低温下での短期強度発現性に優れ、中性化抑制能もあるセメント組成物が得られる。
【0028】
本願発明で用いる無機混和材は、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなるものである。
【0029】
高炉スラグは従来から高炉セメントやセメント混和材やセメント組成物に用いられているものであれば特に限定されない。高炉スラグは単味で用いても他の無機混和材料と組み合わせて用いてもよい。高炉スラグは流動性の確保、長期強度の伸び、水和熱の抑制、遮塩性に寄与する。
【0030】
無水石膏も従来からセメント混和材やセメント組成物に用いられているものであれば特に限定されない。無水石膏は流動性の確保、短期強度の伸び、収縮の抑制に寄与する。無水石膏は他の無機混和材料と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0031】
石灰石微粉末も従来からセメント混和材やセメント組成物に用いられているものであれば特に限定されない。石灰石微粉末は流動性の確保、短期強度の伸び、収縮の抑制に寄与する。石灰石微粉末も他の無機混和材料と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0032】
ポゾラン物質としては、シリカフューム、メタカオリン、活性シリカ粉、珪藻土、籾殻灰、活性白土、フライアッシュ微粉、フライアッシュ粗粉などの従来からセメント混和材料として用いているものが挙げられる。ポゾラン物質は強度発現、流動性の確保、水和熱の抑制に寄与する。ポゾラン物質は単味で用いても他の無機混和材料と組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物において、高活性セメントの含有量は60〜97重量%である。
【0034】
60重量%未満(無機混和材が40重量%以上)では低温環境下で十分な強度が得られなかったり中性化が進み易い環境下での中性化を抑制できなかったりする場合がある。97重量%を超える(無機混和材が3重量%以下)と上記無機混和材を混和したことによる効果が十分得られず、従来の混合セメントが有する作用効果(例えば、低熱、遮塩性、耐硫酸塩性等)が得難くなって混合セメント相当のものとは言い難くなる。
【0035】
上記本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物において、無機混和材の好ましい形態は複数あり、これらのうちのいずれを用いてもよい。下記の各系において各構成材料が下記の範囲にあれば、強度改善や中性化抑制だけでなく、従来の混合セメントが持っている性能(例えば、低熱、遮塩性、耐硫酸塩性等)と同等の性能も得られ易くなる。
【0036】
<高炉スラグ−石灰石微粉末系無機混和材>
好ましい形態の一つとして、高炉スラグ−石灰石微粉末系がある。この系は、収縮や発熱も抑制したい、コストを抑えたい場合等に用いるとよい。産業副産物である高炉スラグの有効活用も図れる。この系では前記無機混和材が高炉スラグと石灰石微粉末からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が2〜39重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%である。
【0037】
高炉スラグの含有量を2〜39重量%とするのは、2重量%未満では添加効果が十分得られなかったり39重量%を超えると短期強度の発現性が悪くなったりする場合があるからである。
【0038】
また、石灰石微粉末の含有量を1〜10重量%とするのは、1重量%未満では添加効果が十分得られなかったり10重量%を超えると長期強度の伸びが不十分となったりする場合があるからである。
【0039】
<高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系無機混和材>
好ましい形態の他の一つとして、高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系がある。この系は上記高炉スラグ−石灰石微粉末系に無水石膏を加えたものである。無水石膏を加えることによってエトリンガイトの生成が増えるので、低温環境下での初期強度発現性を更に高めることができる。
【0040】
この系は、収縮も抑制したい、硫酸塩などの耐薬品性も得たい、即脱製品を製造する場合等に用いるとよい。この系では前記無機混和材が高炉スラグと石灰石微粉末と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%、前記無水石膏の含有量が1〜5重量%である。
【0041】
高炉スラグの含有量を1〜38重量%とするのは上記理由と同じである。石灰石微粉末の含有量を1〜10重量%とするのも上記理由と同じである。無水石膏の含有量を1〜5重量%とするのは、1重量%未満では添加効果が十分得られなかったりする場合があり、5重量%を超えると遅れ膨張が発生する可能性が生じるからである。なお、高炉スラグの好適含有量の範囲が上記系とわずかにずれる理由は、無水石膏が更に加わったことによる
ものである。
【0042】
<高炉スラグ−ポゾラン物質−石灰石微粉末−無水石膏系無機混和材>
好ましい形態の他の一つとして、高炉スラグ−ポゾラン物質−石灰石微粉末−無水石膏系がある。この系は上記高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系にポゾラン物質を加えたものである。
【0043】
この系は、水和熱も抑制したい、高耐久性のものを得たい、加熱養生製品を製造する場合等に用いるとよい。ポゾラン物質を加えることによってポゾラン反応によりカルシウムシリケート水和物(C−S−H)が生成され易くなるので、硫酸浸漬などでの水酸化カルシウムの中和反応といった劣化要因に対する耐久性も向上する。
【0044】
ポゾラン物質はポゾラン活性が高いものであれば限定されないが、フライアッシュは好ましい。フライアッシュは産業副産物であるので高炉スラグと同様に有効利用が図れるとともに、流動性も向上する。
【0045】
したがって、この系では前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質と石灰石微粉末と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるフライアッシュの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が0.5〜5重量%、前記無水石膏の含有量が0.5〜5重量%である。高炉スラグの含有量を1〜38重量%とするのは上記理由と同じである。
【0046】
石灰石微粉末の含有量を0.5〜5重量%とするのも上記理由と同じである。無水石膏の含有量を0.5〜5重量%とするのも上記理由と同じである。フライアッシュの含有量を1〜38重量%とするのは、1重量%未満では添加効果が十分得られなかったり38重量%を超えると短期強度の発現性が悪くなったりする場合があるからである。
【0047】
なお、無水石膏、石灰石微粉末の好適含有量の範囲が上記系とわずかにずれる理由は、ポゾラン物質を更に加えて整合性を図ったことよるものである。
【0048】
<ポゾラン物質系無機混和材>
好ましい形態の他の一つとして、ポゾラン物質系がある。この系はポゾラン物質単味からなる最も単純な系である。この系は、水和熱を抑制しつつ安価に高強度製品を得たいときに用いるとよい。
【0049】
ポゾラン物質を加えることによってポゾラン反応によりカルシウムシリケート水和物(C−S−H)が生成され易くなるので、中〜長期強度の発現性は良い。また、セメントが前記高活性セメントであるので短期強度も十分確保でき、中性化抑制性能も有する。ポゾラン物質はポゾラン活性が高いものであれば限定されないが、単味で用いる場合は極めてポゾラン活性の高いシリカフュームが好ましい。
【0050】
したがって、この系では前記無機混和材がポゾラン物質からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が3〜15重量%である。シリカフュームの含有量を3〜15重量%とするのは、3重量%未満では添加効果が十分得られなかったりする場合があり15重量%を超えると作業性が確保し難くなるとともにコスト高となるからである。
【0051】
<高炉スラグ−ポゾラン物質系無機混和材>
好ましい形態の他の一つとして、高炉スラグ−ポゾラン物質系がある。この系は上記ポゾラン物質系に高炉スラグを加えたものである。この系は、高炉スラグの有効利用を図りつつ安価に高強度を得たいときに用いるとよい。ポゾラン物質としてシリカフュームを用いる場合は高炉スラグを加えることによって流動性や長期強度の伸びの向上、コスト低減ができる。
【0052】
したがって、この系では前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が2〜15重量%である。高炉スラグの含有量を1〜38重量%とするのは上記理由と同じである。
【0053】
シリカフュームの含有量を2〜15重量%とするのも上記と同じ理由である。シリカフュームの好適含有量の範囲が上記系とわずかにズレルのは、高炉スラグを更に加えて整合性を図ったことよるものである。
【0054】
<高炉スラグ−ポゾラン物質−無水石膏系無機混和材>
好ましい形態の他の一つとして、高炉スラグ−ポゾラン物質−無水石膏系がある。この系は上記高炉スラグ−ポゾラン物質系に無水石膏を加えたものである。この系は、高強度の加熱養生製品、高強度の即脱製品を得たいときに用いるとよい。
【0055】
無水石膏を加えることによってエトリンガイトの生成が増えるので、低温環境下での初期強度発現性を更に高めることができる。したがって、この系では前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜37重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が1〜15重量%、前記無水石膏の含有量が1〜9重量%である。
【0056】
高炉スラグの含有量を1〜37重量%とするのは上記と同じ理由である。シリカフュームの含有量を1〜15重量%とするのも上記と同じ理由である。無水石膏の含有量を1〜9重量%とするのは、1重量%未満では添加効果が十分得られなく場合があり9重量%を超えると遅れ膨張が発生する可能性が生じるためである。高炉スラグ、シリカフュームの好適含有量の範囲が上記系とわずかにずれる理由は、無水石膏を更に加えて整合性を図ったことよるものである。
【0057】
<上記系以外の無機混和材>
各材料の供給面、経済面等から、上記系以外の系の無機混和材にすることもできる。例えば、高炉スラグ−無水石膏系、ポゾラン物質−無水石膏系等である。これらの系においても各材料の含有量の好ましい範囲は上記範囲と同程度である。
【0058】
なお、上記本願発明での高活性セメントにおける高活性セメントクリンカは、上記の通り、鉱物組成がボーグ式による計算値でCS<5%であるが、前記CSのボーグ式による計算値が0%未満(マイナス値)になるようにすることは好ましい。ボーグ式によるクリンカ鉱物組成は計算値であるので、条件によっては計算値がマイナスになってしまうことがある。
【0059】
現実的には含有量がマイナスになることはないので、X線回折で分析すると、わずかにピークが確認されることもある。この発明では、C2Sのボーグ式による計算値が0%未満(マイナス値)であり、計算上はC2Sを含まないことを示すものである。マイナス値としては、例えば、−4%〜−14%程度である。
【0060】
また、上記高活性セメントクリンカ中の硫酸分がSO換算で1重量%未満となるようにすることも好ましい。1重量%未満にすることによって、クリンカ焼成時の排ガス中におけるSO(硫黄酸化物)の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0061】
(1)本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物によれば、ボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%で、L.S.D.が1を超え、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%である高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%添加してなる新たに開発した「高活性セメント」の有効利用が図れる。また、この高活性セメントは規格に捉われないセメントであるのでセメント焼成原料として産業廃棄物を用いることができ、産業廃棄物の処理も兼ねることができる。
【0062】
(2)本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、高活性セメントをベースとしているので低温環境下での強度発現性に優れ中性化抑制効果も合せ持ち、混合セメント相当のものであるにも関わらず、普通ポルトランドセメントと同等以上の強度発現性および中性化抑制性能を有する。また、該中性化抑制型早強セメント組成物の配合組成形態によっては従来からの混合セメントが有する遮塩性、耐硫酸塩性等の性能も合せ持つことができるので、従来から寒冷地で使用されてきた混合セメント、中性化が進み易い環境下で使用されてきた混合セメントの代替セメントとして好適である。
【0063】
(3)本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、高活性セメントと無機混和材(高炉スラグ、石灰石微粉末、無水石膏、ポゾラン物質)の組合せからなり、目的や用途に応じて無機混和材の系や配合割合、高活性セメントと無機混和材の配合割合を自由に設計できるので、低温環境下、耐中性化が必要な環境下だけでなく、従来から混合セメントが使用されてきている土木建築分野、土壌・地盤分野、廃棄物処理等の環境分野で巾広く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物について、より詳しく説明する。
【0065】
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、前述の通り、本願発明者らが先に開発した「高活性セメント」と無機混和材(高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上)とからなる。まず、これらの各材料について説明する。
【0066】
[構成材料]
A.高活性セメント
本願発明で用いる高活性セメントは、本願発明に先立ち本願発明者らが先に開発したものであり、先に開発した高活性セメントクリンカに石膏を添加してなるものである。短期強度発現性、中〜長期発現性のいずれも良く、中性化抑制に対して有効である。
【0067】
[高活性セメントクリンカ]
(1)鉱物組成
本願発明で用いる高活性セメントクリンカは、鉱物組成がボーグ式による計算値で、CS>70%、CS<5%であり、残りがカルシウムアルミネート系を主体とした間隙相である。
【0068】
ボーグ式は従来からセメントクリンカ中の主鉱物組成を算定するのに用いられている式であり、各鉱物の割合は化学組成の分析結果から算定される。得られた割合は、あくまで化学組成の分析結果に基づく算定値であるからして、セメントクリンカ中の実際の割合と合致するものではない。なお、%は質量%である。
【0069】
[ボーグ式]
S(%)=(4.07×CaO%)−(7.60×SiO%)−(6.7×Al%)−(1.43×Fe%)−(2.85×SO%)
S(%)=(2.8×SiO%)−(0.754×CS%)
A(%)=(2.65×Al%)−(1.69×Fe%)
AF(%)=3.04×Fe
【0070】
Sは短期材令から長期材令に渡ってセメント強度発現の主となる鉱物であって、これが多いほど高強度かつ早強となる。CSは短期材令での強度発現にはあまり寄与しないが、長期にわたり水和を継続するため長期材令での強度発現には寄与し、これが多いほど低発熱で長期材令での強度の伸びが良いものとなる。また、化学抵抗性や乾燥収縮に優れたものとなる。
【0071】
Aは水和活性が高く、短期材令での強度発現に大きく寄与する。しかし、これが多いと急硬性で長期材令での強度の伸びが悪いものとなる。また、水和発熱が高く化学抵抗性や乾燥収縮に劣ったものとなる。
【0072】
AFは水和性能としては目立った特徴はないが、クリンカ焼成では間隙相として易焼成に貢献する。
【0073】
本願発明でCS>70%とするのは、極めて初期水和活性が高いセメントを得るためであり、CSが70%以下では従来の早強セメントと同等以上の水和活性を有する高活性セメントが得難くなる。上限は特に限定されないが、85%以下が好ましい。
【0074】
85%を超えると遊離石灰量も著しく増えてしまう場合があり、セメントクリンカの品質安定が維持できなくなってしまう。また、より水和活性の高いCA等のカルシウムアルミネート系の鉱物を多用しないのは、長期での強度発現、ワーカビリティー、耐久性等を考慮したことによる。
【0075】
一方、本願発明でCS<5%とするのは、クリンカ焼成条件を従来と比べ大きく変えることなく極めて初期水和活性が高いセメントを得るためであり、CSが5%以上であるとカルシウムアルミネート系鉱物や非晶質物等からなる間隙相が少なくなるのでセメントクリンカを焼成し難くなったり相対的にCS量が減ったりするので本願発明の目的が達成し難くなる。
【0076】
下限値は特に限定されないが、ボーグ式による計算値でありCS量は上式の通り、SiO量とCS量との関係で決まるので、SiO量が少なくCS量が多い場合は、計算値が0未満(マイナス値)となる場合も起こる。本発明では、このような0未満も含み、安定してCSを多量に得るために0未満となることが好ましい。
【0077】
本願発明で用いる高活性セメントクリンカは、上記CSとCS以外はカルシウムアルミネート系を主体とした間隙相からなる。間隙相にはCA、CAF等の鉱物が含まれる。CAは上記ボーグ式による計算値で4〜9%含まれていることが好ましい。また、CAFは8〜16%含まれていることが好ましい。この範囲にあれば、CS>70%、CS<5%のセメントクリンカが安定して焼成しやすくなる。残りは非晶質間隙相などである。
【0078】
(2)硫酸分
本願発明で用いる高活性セメントクリンカ中の硫酸分は、SO換算で1重量%未満が好ましい。1重量%以上だと排ガス中にSO(硫黄酸化物)が発生したり、プレヒータ内部で固結物が生成して閉塞する場合があるので好ましくない。
【0079】
(3)遊離石灰
本願発明で用いる高活性セメントクリンカでは、CSの水和活性をより高くするために、発熱量を大きくして練り上がり温度を高くするための遊離石灰をクリンカ中に含ませることは好ましい。その量は、0.5〜7.5重量%である。0.5重量%未満では十分な効果が得られない。7.5重量%を超えると膨張を起こしたり、流動性の低下を生じたりするので好ましくない。
【0080】
次に、上記高活性セメントクリンカの製造方法について説明する。
(4)製造方法
上記高活性セメントクリンカの製造は、従来の早強ポルトランドセメントクリンカの製造と特に大きく変わることはなく、所定のセメント焼成原料をCS>70%、CS<5%、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%で、なるべく硫酸分がSO換算で1重量%未満となるセメントクリンカが得られるように調合し調合原料をセメントキルン等で焼成して製造する。
【0081】
i)セメントクリンカ焼成原料
従来からクリンカ主原料として使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等が従来と同様にして使える。この他、再利用のあまり進んでいない、カルシウム分をCaO換算で20重量%以上を含むカルシウムリッチな産業廃棄物を利用することが好ましい。
【0082】
カルシウム分をCaO換算で20重量%以上を含む廃棄物としては、溶銑予備処理による脱硫スラグ、これを磁選して鉄分を除去した脱硫スラグ、還元処理により鉄分を除去した転炉スラグ、窯業系サイディング廃材などの廃建材、生コンスラッジ等があげられる。
【0083】
溶銑予備処理による脱硫スラグは、銑鉄中の硫黄分を除去したスラグであり、主成分がカルシウムと鉄である。磁石で選別して鉄分を除去したカルシウムが多い脱硫スラグも利用できる。溶銑予備処理とは、鉄鋼の高純度化のために転炉精錬の前工程で珪素、リン、硫黄を除去する工程である。
【0084】
還元処理により鉄分を除去した転炉スラグとは、例えば下記文献のLDスラグである。このLDスラグも利用できる。
【0085】
S.Kubodera, T.Koyama, R.Ando and R.Kondo, An Approach to the full utilization of LD Slag, Transactions of The Iron and Steel Institute of Japan, 419-427(1979)
【0086】
窯業系サイディング材は主原料としてセメント質原料と繊維質原料を成型し、養生・硬化させたもので、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強ケイカル板などがあり住宅の外壁仕上げ材として用いられている。
【0087】
昨今の住宅補修や住宅解体に伴い廃材が増えてきておりその処理が検討されている。廃材におけるセメント質部分はカルシウムリッチなセメント組成となっているので、高活性セメントクリンカの製造原料として利用可能である。
【0088】
生コンスラッジは、レディーミクストコンクリート工場でプラントのミキサ、ホッパ、アジテータ車などに付着したコンクリート、戻りコンクリート、および戻りコンクリートの洗浄排水を濃縮して流動性を失った状態のスラッジ、またはスラッジを乾燥したものである。
【0089】
これらの産業廃棄物は、石灰石や粘土の一部代替として利用できる。セメントクリンカ焼成原料への添加量は、石灰石および粘土の化学成分によるがセメントクリンカ1tあたり400kg以下が好ましい。セメントクリンカ1tあたり400kg以上添加すると不純物が増えてしまいクリンカ焼成がし難くなったり得られるセメントクリンカの品質に悪影響を及ぼしたりする場合がある。産業廃棄物を石灰石の一部代替として利用すれば、炭酸ガス排出量の削減にも繋がるので、環境負荷低減の観点から好ましい。
【0090】
ii)原料調合
焼成後に目的の化学組成・鉱物組成のクリンカが得られるよう調合設計され、これに基づき上記各セメントクリンカ焼成原料が計量され原料ミルでの混合粉砕やブレンディングサイロでの混合が行われる。
【0091】
上記調合設計は、従来と同様、H.M.(水硬率)、A.I.(活動係数)、S.M.(ケイ酸率)、I.M.(鉄率)、L.S.D.(石灰飽和度)の比率係数 (モジュラス)を用いて行う。通常は、CSの生成量に大きく関わるH.M.と焼成のし易さと関係するS.M.が重視されるが、本願発明ではL.S.D.(石灰飽和度)を重視する。
【0092】
L.S.D.(石灰飽和度)は二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄と結合できる酸化カルシウム量を1.0とする指標であり、次の式で示される。
【0093】
L.S.D.=100CaO/(2.80×SiO%+1.18×Al%+0.65Fe%)
【0094】
L.S.D.が1以下であれば、充分時間をかけることにより遊離石灰を0%にすることができるが、L.S.D.>1の場合には、焼成温度を高くしても、焼成時間を長くしても、常に遊離石灰が残ってしまう。通常のセメントクリンカでは0.92〜0.96であり、早強ポルトランドセメントクリンカでも0.94〜1.00である。
【0095】
本願発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1である。L.S.D.>1とし、あえて遊離石灰が残るようにセメント焼成原料を調合することによって、CS>70%、CS<5%のカルシウム分が多いセメントクリンカを焼成できる。遊離石灰の存在により初期水和熱が高くなるのでCSを活性化でき、高炉スラグと混合したときには刺激剤としても作用する。
【0096】
上限値は特に限定されないが、遊離石灰量が多すぎると膨張するなどクリンカの安定性を欠くので1.16程度以下が好ましい。
【0097】
従来と同様、H.M(水硬率)、A.I.(活動係数)、S.M.(ケイ酸率)、I.M.(鉄率)の比率係数(モジュラス)を用いる場合は、H.M(水硬率)が2.2〜2.3のときはS.M.(ケイ酸率)が1.7〜2.4かつI.M.(鉄率)が1.0〜2.1であり、H.M(水硬率)が2.1〜2.2未満のときはS.M.(ケイ酸率)が1.5〜2.0かつI.M.(鉄率)が0.9〜1.4であるのが好ましい。
【0098】
iii)クリンカ焼成
本願発明で用いる高活性セメントクリンカは、上記原料調合によるセメント焼成原料を、セメント焼成キルンにより、従来の早強ポルトランドセメントクリンカ焼成と同様にして焼成することにより得られる。少量の焼成であれば電気炉焼成でもよい。
【0099】
焼成温度は1250〜1600℃が好ましい。1250℃未満ではCSの生成自体が不可能である。また、1600℃を超えるとロータリーキルン内部の耐火物が溶解するなどセメントクリンカの焼成に差し支える。焼成後のクリンカ冷却、粗砕等は従来と同様である。
【0100】
[高活性セメント]
本願発明で用いる高活性セメントは、上記高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%となるよう添加し、粉砕助剤とともに仕上ミル等で混合粉砕されて得られる。工程や装置は従来のセメント製造における仕上工程と同じである。石膏と粉砕助剤も従来のセメント製造で使用されているものと同じである。
【0101】
添加する石膏の量は、SO換算で1.5〜4.0重量%である。1.5重量%未満では、セメントクリンカ中のCAが急結してコンクリート製品等を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。4.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。粉末度は、とくに限定しないが、ブレーン値で3000cm/g以上が好ましい。
【0102】
従来の早強ポルトランドセメントは粉末度が大きく高性能減水剤が効き難いので、所定の流動性を得るには水比を高くしたり高性能減水剤の量を少し多くしなければならなかったが、本願発明で用いる上記高活性セメントは、従来の早強ポルトランドセメント以上に水和活性が高いので従来の早強ポルトランドセメントほど粉末度を大きくする必要はなく、また、大きくしても水に接した際に遊離石灰等が速やかに水和し粒子表面に水和物層を形成するので、必要以上に水比を高くしたり高性能減水剤の量を多くしなくても所定の流動性が得られる。
【0103】
B.無機混和材
(a)高炉スラグ
高炉スラグは、製鉄所の高炉で銑鉄を造るときに発生する副産物で、高炉から銑鉄と共に約1500℃の溶融状態で取出された後、水冷固化された砂状の非晶質体を粉砕したもので、アルカリ刺激剤により水和反応を起こす潜在水硬性を有するものである。従来から高炉セメントやセメント混和材に使用されているものでブレーン値が1500cm/g以上のものであれば品質は特に限定されないが、JIS A 6206:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に適合するものが好ましい。高炉スラグは流動性の確保、水和熱抑制、長期強度の伸び、遮塩性等に寄与する。
【0104】
(b)石灰石微粉末
石灰石微粉末は、炭酸カルシウムからなり純度は通常入手可能な石灰石であれば問題なく使用できる。従来からセメント、セメント組成物、セメント混和材に使用されているものであれば、供給面、経済面からも好ましい。石灰石微粉末は、石灰石を粉砕し必要に応じて分級することによって製造されるが、ブレーン比表面積は2000〜10000cm/gが好ましい。2000cm/g未満では石灰石微粉末の添加効果が得られない。1000cm/gを超えると含有量によっては流動性が悪くなるとともにコスト高にもなる。石灰石微粉末は流動性の確保、短期強度の伸び、収縮抑制に寄与する。
【0105】
(c)無水石膏
無水石膏としては、天然無水石膏、フッ酸無水石膏、天然2水石膏や副産2水石膏或いは廃石膏ボードから回収した2水石膏を焼成して製造した無水石膏等があるが、無水石膏を90%以上含有している石膏であれば、すべて使用できる。また、無水石膏の粉末度は、特に限定しないが、ブレーン値で3000〜8000cm2 /g、好ましくは4000〜6000cm2 /gである。無水石膏は主として短期強度改善に寄与するが流動性の確保、収縮抑制にも働く。
【0106】
(d)ポゾラン物質
ポゾラン物質とは水の存在下でCa(OH)またはCaイオンと反応して新たな水和物を生成する反応特性(ポゾラン反応特性)を有するSiOやAlに富む無機物質を言い、シリカフューム、メタカオリン、活性シリカ粉、珪藻土、籾殻灰、活性白土、フライアッシュ微粉、フライアッシュ粗粉などが挙げられる。(上記高炉スラグもポゾラン物質の一種と見れなくもないが、本願発明で言うポゾラン物質には高炉スラグは含まれない。)
【0107】
中でも、アーク式電気炉などにより金属シリコンやフェロシリコンを精錬する際の排ガス中に含まれる副産物であるシリカフュームは高いポゾラン反応特性を有しており副産物の有効利用にもなるので、従来から高強度化材料として数多く使用されてきているが、本願発明でもポゾラン物質としてシリカフュームを用いることは好ましい。
【0108】
シリカフュームは従来からセメント混和材などに使用されてきているものであれば特に品質は限定されないが、JIS A 6207:2000「コンクリート用シリカフューム」に適合するものが好ましい。ポゾラン物質は強度発現に寄与し、耐久性の向上、水和熱抑制にも働く。
【0109】
次に、上記各材料を用いた本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物の配合例について説明する。
[配合例]
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、上記高活性セメントに上記高炉スラグと上記石灰石微粉末と上記無水石膏と上記ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材を混和してなる。
【0110】
この中性化抑制型早強セメント組成物は、少なくとも高活性セメントを60重量%以上かつ無機混和材を3重量%以上含んでいなければならない。高活性セメントが60重量%未満では本願発明が目的とする強度改善、中性化抑制が得られ難い。すなわち、普通ポルトランドセメントと同等の強度発現性および中性化抑制性能を有する混合セメント相当のものが得られない。
【0111】
また、無機混和材が3重量%未満では、無機混和材を構成する上記各材料の作用効果が得られ難くなり、強度改善や中性化抑制だけでなく、従来の混合セメントが持っている性能(例えば、低熱、遮塩性、耐硫酸塩性等)と同等の性能も得られ難くなり、混合セメントに類するものとは言い難くなる。
【0112】
上記の通り、ポゾラン物質は単味で用いても高炉スラグや石灰石微粉末や無水石膏と組み合わせて用いても何れでも良いが、高炉スラグ、石灰石微粉末、無水石膏は少なくとも他二者のいずれかと組み合わせて用いるのが好ましい。
【0113】
これは、上記の通り、ポゾラン物質は短〜長期強度発現に大きく寄与するので単味でも本願発明の目的を達成し易いが、高炉スラグ、石灰石微粉末、無水石膏は短〜長期強度発現の少なくとも一部には寄与するものの単味では十分な効果が得られないからである。
【0114】
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、上記条件を満たすものであれば良く、材料供給、廃材利用、コスト等の観点を考慮して無機混和材は様々な系のものにすることができる。
【0115】
好ましい系としては、(イ)高炉スラグ−石灰石微粉末系、(ロ)高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系、(ハ)高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏−ポゾラン物質系、(ニ)ポゾラン物質系、(ホ)高炉スラグ−ポゾラン物質系、(ヘ)高炉スラグ―ポゾラン物質―無水石膏系である。
【0116】
これらの系であれば強度改善や中性化抑制の向上が図れるだけでなく、従来の混合セメントが有している作用効果も維持し易くなる。これら(イ)〜(ヘ)の無機混和材を用いた各中性化抑制型早強セメント組成物の使い分けは、前述の通りである。
【0117】
〔無機混和材〕
(イ)高炉スラグ−石灰石微粉末系
高炉スラグ−石灰石微粉末系における好適な配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が2〜39重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%である。このような配合にするのは前述の通りである。
【0118】
(ロ)高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系
高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏系における好適な配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%、前記無水石膏の含有量が1〜5重量%である。このような配合にするのは前述の通りである。
【0119】
(ハ)高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏−ポゾラン物質系
高炉スラグ−石灰石微粉末−無水石膏−ポゾラン物質系における好適な材料と配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるフライアッシュの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が0.5〜5重量%、前記無水石膏の含有量が0.5〜5重量%である。このような材料と配合にするのは前述の通りである。
【0120】
(ニ)ポゾラン物質系
ポゾラン物質系における好適な材料と配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が3〜15重量%である。このような材料と配合にするのは前述の通りである。
【0121】
(ホ)高炉スラグ−ポゾラン物質系
高炉スラグ−ポゾラン物質系における好適な材料と配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が2〜15重量%である。このような材料と配合にするのは前述の通りである。
【0122】
(ヘ)高炉スラグ―ポゾラン物質―無水石膏系
高炉スラグ−ポゾラン物質−無水石膏系における好適な材料と配合は、中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜37重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が1〜15重量%、前記無水石膏の含有量が1〜9重量%である。このような材料と配合にするのは前述の通りである。
【0123】
次に本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物の製造方法について説明する。
[中性化抑制型早強セメント組成物の製造]
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物の製造は、従来の混合セメントを製造する混合設備を適宜用いればよい。また、生コンクリート工場などでコンクリート製造時に高活性セメントと無機系混和材とを別計量により製造してもよい。
【0124】
次に本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物の性能確認試験について説明する。
[中性化抑制型早強セメント組成物の性能確認試験]
本願発明は、前述の通り、強度発現性、特に低温環境下での短期強度発現性に優れ、中性化抑制効果もある中性化抑制型早強セメント組成物を提供することを目的とする。
【0125】
そこで、促進中性化試験と10℃及び20℃での圧縮強度試験を行った。
【0126】
<使用材料>
(1)セメント
1)高活性セメント
石灰石、粘土等の工業原料を所定の成分となるように調整したセメント焼成原料を1450℃で焼成することによりCSが72%かつCSが1%で、L.S.D.が1.02であり、遊離石灰量が2.5重量%である高活性セメントクリンカを製造し、これに二水石膏をSO換算で3.0重量%添加して試製高活性セメントを得た。製造は原料工程から仕上工程まですべてセメント工場の実機を用いた。
2)普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;比較用)
【0127】
(2)無機混和材
1)高炉スラグ微粉末(デイ・シイ社のセラメント;ブレーン値4470cm/g)
2)石灰石微粉末(秩父太平洋社製;ブレーン値10240cm/g)
3)無水石膏(デイ・シイ社製;ブレーン値3840cm/g)
4)ポゾラン物質
・フライアッシュ(電源開発社製)
・シリカフューム(エジプト産)
5)砂
・JIS R 5201「セメントの物理試験」に準拠した標準砂
【0128】
<セメント組成物の配合>
本願発明の中性化抑制型早強セメント組成物及び比較例でのセメント組成物の各配合を表1に示す。
【0129】
【表1】

上記各セメント組成物は、所定配合の各構成材料をV型混合機で混合して得た。
【0130】
<モルタルの調合と練混ぜ>
モルタルの調合と練混ぜは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載されるモルタルの調合と練混ぜ方法に準じて行った。なお、セメント組成物は全体をセメントとみなして調合した。
【0131】
<促進中性化試験>
上記方法により作製したモルタルをJIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠して促進中性化を行い、促進中性化深さを測定した。測定材令は、1週、4週、8週とした。
【0132】
<圧縮強度試験>
上記方法により作製したモルタルによる4×4×16cmのモルタル供試体を用い、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載される圧縮強度試験方法に準じて行った。但し、試験材令は、3日、7日、28日とした。また、試験材令までの養生は、10℃と20℃の2通りの養生温度で行った。
【0133】
また、短期材令(3日、7日)においては、強度発現性に及ぼす養生温度の影響を見るため、10℃での強度と20℃での強度との比率『強度比率=(10℃での圧縮強度/20℃での圧縮強度)×100』を求めた。
【0134】
<結果>
促進中性化試験の結果を表2に示す。また、圧縮強度試験の結果を表3に示す。
【0135】
【表2】

【0136】
上記表2からわかるように、実施例は、混合セメント相当とは言えない比較例No.2以外の比較例と比べ促進中性化深さが小さい。特に、高炉セメント相当の混合セメントである比較例No.3、普通ポルトランドセメント単味である比較例No.4と比べても促進中性化深さが小さい。
【0137】
したがって、本発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、従来の混合セメントに類するものであるにも関わらず従来の混合セメントより中性化抑制性能が高く、普通ポルトランドセメントと同等以上の中性化抑制性能を有するものであると言える。
【0138】
【表3】

【0139】
上記表3からわかるように、実施例は、概して、比較例に比べ強度発現性が良い。高炉セメント相当の混合セメントである比較例No.3、普通ポルトランドセメント単味である比較例No.4と比べても強度発現性が良く、特に材令3日の短期強度の差は大きい。強度比率は75%以上あることが好ましいが、実施例はいずれも75%以上と高い。
【0140】
また、セメントの種類以外は同一配合の配合No.9とNo.10、配合No.15とNo.16、配合No.23とNo.24、配合No.28とNo.29の各比較からわかるように、高活性セメントを用いた方が強度発現性はよく、特に10℃といった低温環境下での短期強度が大きく改善される。
【0141】
本発明の中性化抑制型早強セメント組成物は、従来の混合セメントに類するものであるにも関わらず従来の混合セメントより強度発現性がよく、特に低温環境下での短期強度が改善され、普通ポルトランドセメントと同等以上の強度発現性を有するものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式による計算値の鉱物組成がCS>70%かつCS<5%で、L.S.D.が1を超え、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%である高活性セメントクリンカに石膏をSO換算で1.5〜4.0重量%添加してなる高活性セメント60〜97重量%と、高炉スラグ、無水石膏、石灰石微粉末、ポゾラン物質のうちの一種以上からなる無機混和材3〜40重量%とからなることを特徴とする中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項2】
前記無機混和材が高炉スラグと石灰石微粉末からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が2〜39重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項3】
前記無機混和材が高炉スラグと石灰石微粉末と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が1〜10重量%、前記無水石膏の含有量が1〜5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項4】
前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質と石灰石微粉末と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるフライアッシュの含有量が1〜38重量%、前記石灰石微粉末の含有量が0.5〜5重量%、前記無水石膏の含有量が0.5〜5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項5】
前記無機混和材がポゾラン物質からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が3〜15重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項6】
前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜38重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が2〜15重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。
【請求項7】
前記無機混和材が高炉スラグとポゾラン物質と無水石膏からなり、前記中性化抑制型早強セメント組成物中、前記高炉スラグの含有量が1〜37重量%、前記ポゾラン物質であるシリカフュームの含有量が1〜15重量%、前記無水石膏の含有量が1〜9重量%であることを特徴とする請求項1に記載の中性化抑制型早強セメント組成物。

【公開番号】特開2013−47153(P2013−47153A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185663(P2011−185663)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【Fターム(参考)】