説明

乗用型田植機

【課題】 前後車輪を備えた走行機体の後部に苗植付け装置を昇降可能に連結するとともに、前記走行機体の後部にエンジンを搭載して、その上方に運転座席を配置した乗用型田植機において、機体操縦操作の容易化を図る構造を有効に活用して、機体の前後重量バランスを改善する。
【解決手段】 走行機体3の前部に前車輪1を操向するステアリング軸を立設するとともに、ステアリング軸の下端部近傍にパワーステアリングユニット31を配備してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付け条数の少ない小型の乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の乗用型田植機としては、前後車輪を備えた走行機体の後部に3条植え仕様の苗植付け装置を昇降可能に連結するとともに、走行機体の後部にエンジンを搭載して、その上方に運転座席を配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−217838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の構成では、走行機体の前部にステアリング軸を立設支持するブラケットを鋳造部材で構成してバランスウエイト機能を発揮させ、機体の前後重量バランスが後方に偏りがちとなるのを抑制しているのであるが、更なる機体の前後重量バランスの改善が望まれている。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、機体操縦操作の容易化を図る構造を有効に活用して、機体の前後重量バランスを改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、前後車輪を備えた走行機体の後部に苗植付け装置を昇降可能に連結するとともに、前記走行機体の後部にエンジンを搭載して、その上方に運転座席を配置した乗用型田植機において、
前記走行機体の前部に前車輪を操向するステアリング軸を立設するとともに、ステアリング軸の下端部近傍にパワーステアリングユニットを配備してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、重量の大きい装置であるパワーステアリングユニットが、機体前部に配備されることでバランスウエイトの機能を効果的に発揮する。
従って、第1の発明によると、機体操縦操作の容易化を図る構造(パワーステアリングユニット)を有効に活用して、機体の前後重量バランスを改善することができる。
【0007】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記パワーステアリングユニットを油圧式に構成し、このパワーステアリングユニットを前記走行機体の前部に設けた支持部材の上部に連結支持するとともに、前記支持部材の内部に、パワーステアリングユニットからのリーク油を回収する油受け部を設けてあるものである。
【0008】
上記構成によると、パワーステアリングユニットのケーシングにリーク油を回収する油受け部を特別に設ける必要がなく、パワーステアリングユニットにおけるケーシングを構造簡単なものにすることができる。
【0009】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記パワーステアリングユニットの下端を位置決め嵌入する嵌合部を前記支持部材の上面に凹入形成するとともに、この嵌合部の底部を前記油受け部としてあるものである。
【0010】
上記構成によると、パワーステアリングユニットの下端を位置決め嵌入するのに必要な嵌合部を、位置決め嵌合に要する深さよりも少し深く凹入形成することで簡単に油受け部を形成することができる。
【0011】
第4の発明は、上記第2または第3の発明において、
前記油受け部に回収したリーク油を、前記パワーステアリングユニットからの戻り油を流動させる戻り油路に合流して油タンクに還元するよう構成してあるものである。
【0012】
上記構成によると、リーク油を油タンクに戻す長い管路が不要となり、リーク油をパワーステアリングユニットから戻り油路に合流させるための管路を、短いものですますことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係る乗用型田植機の全体側面が、また、図2に、その全体平面がそれぞれ示されている。この乗用型田植機は、操向自在な前車輪1と操向不能な後車輪2を備えた四輪駆動型の走行機体3の後部に、単動型の油圧シリンダ4で上下に揺動駆動されるリンク機構5を介して3条植え仕様の苗植付け装置6が昇降可能に連結され構成されている。前記走行機体3の後部にエンジン7が搭載配備されるとともに、エンジン7および走行機体3を上方から覆うステップ8が設けられ、このステップ8における後方隆起部の左右中央部位に運転座席9が設けられている。運転座席9の左右横側には予備苗を載置収容する予備苗のせ台10が配備され、走行機体3の前端部に立設されたセンターポスト11の上部にステタリングハンドル12が配備された構造となっている。
【0014】
前記苗植付け装置6には、3条分のマット状苗を並列載置して一定ストロークで往復横移動する苗のせ台13、この苗のせ台13の下端から1株分づつ苗を切り出して田面に植付けてゆく3組のクランク式の植付け機構14、田面の植付け箇所を均平整地する整地フロート15、等が備えられている。
【0015】
前記走行機体3は、太いパイプ材からなる主フレーム20の後端に、後車輪2を軸支したミッションケース21が連結されるとともに、主フレーム20の前端に、前車輪1を装備した前車軸ケース22が連結された構造となっており、主フレーム20はミッションケース21からの走行動力を前車軸ケース22に伝達する前車輪駆動軸23が挿通される動力伝達ケースとしての機能を備えている。
【0016】
図3に示すように、前記エンジン7は、左側面に出力軸24が突出された空冷式のガソリンエンジンが使用されており、シリンダ軸心が後傾斜した嵩低い姿勢で主フレーム20とミッションケース21とに亘って防振支持されている。前記出力軸24とミッションケース21の左側面に突設された入力軸25とが伝動ベルト26を介して巻掛け連動されるとともに、出力軸24と2つの油圧ポンプP1,P2とが伝動ベルト27,28を介して巻掛け連動されている。一方の油圧ポンプP1はミッションケース21に内装され、苗植付け装置6の昇降駆動用の油圧源とされ、ミッションケース21の外部に配備された他方の油圧ポンプP2は後述するパワーステアリング用の油圧源とされ、両油圧ポンプP1,P2は、油タンクとして機能する前記ミッションケース21の潤滑油を作動油として吸引加圧して送出するようになっている。
【0017】
図4に示すように、前記センターポスト11は、板金材で形成された剛性の高い半割り筒状の主部11Rと樹脂材で形成されたフロントカバー部11Fとから構成されており、主部11Rの下端が前車軸ケース22から前方に突設された支持部材30にボルト連結されるとともに、この主部11Rの前部にフロントカバー部11Fが脱着可能に係止連結されるようになっている。前記支持部材30は重量の大きい鋳鉄品が利用され、走行機体3の前後重量バランスをとるためのフロントウエイトとしての機能を備えている。
【0018】
センターポスト11の内部において、前記支持部材30の上に油圧式のパワーステアリングユニット31が連結されるとともに、パワーステアリングユニッ31に丸パイ製のハンドルポスト32が立設されている。前記ハンドルポスト32の上端部がセンターポスト11の主部11Rに連結されるとともに、上端に前記ステアリングハンドル12を連結したステアリング軸33がハンドルポスト32に挿通支持され、このステアリング軸33の下部がパワーステアリングユニット31の操作軸34に同芯状に連結されている。
【0019】
パワーステアリングユニット31の下面からは出力軸35が突出され、この出力軸35に一体回動可能に嵌合連結された操作軸36が支持部材30の下方まで貫通延出され、操作軸36の下方突出端に一体形成されたピニオンギヤ36aが、支持部材30の下方に支軸37を中心にして回動自在に装着された大径の扇形ギヤ38に咬合されるとともに、図3に示すように、ピットマンアームとして機能する前記扇形ギヤ38と左右前車輪1を操向回動させるナックルアーム39とがタイロッド40で連動連結されて、前車輪操向用のステアリング機構41が構成されている。前記支持部材30の下面には左右一対のストッパ42が一体突設され、前記扇形ギヤ38の一部がこれらストッパ42に接当することで、前車輪1の最大操向角度が制限されるようになっている。
【0020】
図6に示すように、前記支持部材30の上面にパワーステアリングユニット31の下端部が位置決め嵌入する嵌合部43が凹入形成され、この嵌合部43の底部に、パワーステアリングユニット31の出力軸軸支箇所から流出してくるリーク油を回収する油受け部43dが形成されている。前記油受け部43dには排出管44が連通接続されており、この排出管44がパワーステアリングユニット31に接続された戻り油配管45に接続され、油受け部43に回収したリーク油を、パワーステアリングユニット31からの戻り油配管45に合流して、ミッションケース(油タンク)21に還元するよう構成されている。
前記油圧ポンプP2からの圧油をパワーステアリングユニット31に供給する油供給管46および前記戻り油配管45は、センターポスト1における主部11Rの内方角部に形成された大きい空間でパワーステアリングユニット31に接続され、斜め後方下方に延出
されて、ステップ8の下側に沿って配置されている。
【0021】
図3に示すように、前記ミッションケース21には、左右の車後輪2への動力伝達を断続する左右一対のサイドクラッチ51が装備されるとともに、各サイドクラッチ51の操作アーム52が前記扇形ギヤ38から後方に延出された左右一対の操作ロッド53にそれぞれ連動連結されており、扇形ギヤ38が回動操作されて前車輪1が直進位置から左方あるいは右方に設定角度(例えば30°)以上に操向されると、これに連動して旋回内側となる後車輪2のサイドクラッチ51が自動的に切り操作され、操向された左右の前車輪1と旋回外側の一方の後車輪2との3輪駆動状態での小回り旋回が行われるようになっている。
【0022】
〔他の実施例〕
(1)油圧式の前記パワーステアリングユニット31の内部に戻り油路を形成し、パワーステアリングユニット31内の戻り油路の適所に前記戻り油配管45を接続するとともに、パワーステアリングユニット31内の戻り油路の他の箇所に、油受け部43dからの排出管44を接続する形態で実施することも可能である。
【0023】
(2)油圧式の前記パワーステアリングユニット31としては、上記のように、操作軸34と出力軸35を同芯に装備したインテグラル型のものを利用する他に、ブースタ型のものを利用することも可能である。
【0024】
(3)上記実施例では苗植付け装置6の昇降用の油圧源となる油圧ポンプP1とは別にパワーステアリングユニット31用の油圧源となる油圧ポンプP2を配備しているが、油圧ポンプP1の容量を大きくすれば、単一の油圧ポンプP1で前記油圧シリンダ4およびパワーステアリングユニット31を駆動することもできる。
【0025】
(4)前記パワーステアリングユニット31として電動式のものを利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】乗用型田植機の全体平面図
【図3】走行系の平面図
【図4】機体前部の縦断側面図
【図5】パワーステアリングユニット設置部位の横断平面図
【図6】パワーステアリングユニット設置部位の一部切欠き側面図
【符号の説明】
【0027】
1 前車輪
2 後車輪
3 走行機体
6 苗植付け装置
7 エンジン
9 運転座席
21 油タンク(ミッションケース)
30 支持部材
31 パワーステアリングユニット
33 ステアリング軸
43 嵌合部
43d 油受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後車輪を備えた走行機体の後部に苗植付け装置を昇降可能に連結するとともに、前記走行機体の後部にエンジンを搭載して、その上方に運転座席を配置した乗用型田植機において、
前記走行機体の前部に前車輪を操向するステアリング軸を立設するとともに、ステアリング軸の下端部近傍にパワーステアリングユニットを配備してあることを特徴とする乗用型田植機。
【請求項2】
前記パワーステアリングユニットを油圧式に構成し、このパワーステアリングユニットを前記走行機体の前部に設けた支持部材の上部に連結支持するとともに、前記支持部材の内部に、パワーステアリングユニットからのリーク油を回収する油受け部を設けてある請求項1記載の乗用型田植機。
【請求項3】
前記パワーステアリングユニットの下端を位置決め嵌入する嵌合部を前記支持部材の上面に凹入形成するとともに、この嵌合部の底部を前記油受け部としてある請求項2記載の乗用型田植機。
【請求項4】
前記油受け部に回収したリーク油を、前記パワーステアリングユニットからの戻り油を流動させる戻り油路に合流して油タンクに還元するよう構成してある請求項2または3に記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−89673(P2009−89673A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264677(P2007−264677)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】