説明

乗用型田植機

【課題】エンジン横置きでミッドシップ配置するタイプの田植機において、左右の重量バランスを改善しつつ、各構成を合理的に配置して車体をコンパクトに構成する。
【解決手段】エンジン10は、車体2の前後方向で前輪4と後輪5との間に配置されるとともに、車体2の左右方向で略中央部に配置され、その駆動出力軸10aの先端が車体左側に向くように横置き配置される。ミッションケース11は、エンジン10の前方に配置される。HST26は、ミッションケース11内において、左側に寄って配置される。植付変速部43は、ミッションケース11の後方に配置され、当該ミッションケース11からの出力を変速してPTO軸13に出力する。植付駆動伝達軸52は、ミッションケース11からの出力を植付変速部43まで伝達する。そして、植付駆動伝達軸52及び植付変速部43は、車体2の右側に寄って配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機に関する。詳細には、乗用型田植機におけるエンジン、駆動伝達部材、油圧管路等のレイアウトに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機において、エンジンを車体の前部に配置するレイアウトとした場合、当該エンジンは運転座席の足元付近に配置されることが多いため、足元のスペースが狭くなりがちであるという問題がある。また、エンジンを縦置きで配置した場合、車体が前後方向で大型化してしまうという問題がある。
【0003】
このような理由から、乗用田植機において、エンジンを車体中央部に配置し(いわゆるミッドシップ)、かつ横置きとするレイアウトが採用される場合がある。このように構成することで、運転座席の足元のスペースを確保しつつ、車体を前後方向でコンパクトに構成することができる。このように、エンジンをミッドシップかつ横置きとするレイアウトの乗用型田植機は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
また、田植機においては、植付部に伝達する駆動力を変速する植付変速部(株間変速機構)を備えた構成とする場合がある。このように、植付部に伝達する駆動力を変速可能とすることにより、植付部による苗の植付間隔を変更することができる。特許文献2は、このような株間変速機構をミッションケース内に備えた乗用型田植機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−141411号公報
【特許文献2】特開2006−94743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンを横置きするレイアウトとした場合、車体左右方向に沿って配置されたクランクシャフトの一側の端部から駆動力が出力される。従って、当該クランクシャフトからの出力を変速するための変速装置は、左右何れか一方に寄った位置に配置されることが多い。このように、重量物である変速装置等が左右の一方に寄って配置されると、車体全体で左右の重量バランスを取ることが難しくなる。従って、エンジンを横置きとした場合は、各構成の配置を工夫して左右の重量バランスを取るように構成する必要があるが、特許文献1にはこの点に関する記載は無い。
【0007】
一方、エンジンをミッドマウントするレイアウトとした場合、田植機においては、ミッションケースの後方にエンジンを配置する構成とすることが一般的であると考えられる(例えば特許文献1)。従って、エンジンの配置スペースを確保するという観点からは、ミッションケースが車体前後方向でコンパクトであることが望ましい。この点、特許文献1には、ミッションケース内部の構成についての詳しい説明は記載されておらず、ミッションケースをコンパクトに構成する旨の記載も無い。一方、特許文献2のようにミッションケース内に株間変速機構を配置する構成とした場合、ミッションケースが車体前後方向で大型化してしまう。従って、ミッションケース内に株間変速機構を配置した構成において、仮にエンジンをミッドシップレイアウトとする構成を採用した場合には、車体が前後方向で大型化してしまう。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、エンジン横置きでミッドシップ配置するタイプの田植機において、左右の重量バランスを改善しつつ、各構成を合理的に配置して車体をコンパクトに構成することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の観点によれば、以下の構成の乗用型田植機が提供される。即ち、この乗用型田植機は、エンジンと、ミッションケースと、油圧式変速装置と、植付変速部と、植付変速用駆動伝達部材と、を備える。前記エンジンは、車体前後方向で前輪と後輪との間に配置されるとともに、車体左右方向で略中央部に配置され、その駆動出力軸の先端が車体左右方向の一側に向くように横置き配置される。前記ミッションケースは、前記エンジンの前方に配置される。前記油圧式変速装置は、前記ミッションケース内において、前記一側に寄って配置される。前記植付変速部は、前記ミッションケースの後方に配置され、前記ミッションケースからの出力を変速してPTO軸に出力する。前記植付変速用駆動伝達部材は、前記ミッションケースからの出力を前記植付変速部まで伝達する。そして、前記植付変速用駆動伝達部材及び前記植付変速部は、車体左右方向の他側に寄って配置される。
【0011】
即ち、エンジンを横置き配置した場合、エンジンの駆動出力軸が車体左右方向の一側に向くので、当該駆動出力軸からの駆動力を変速するための油圧式変速装置も前記一側に寄って配置される場合が多く、左右の重量バランスが崩れてしまいがちである。この点、上記のように、車体左右方向で油圧式変速装置とは反対側に寄せて植付変速部を配置することにより、左右の重量バランスを良好に構成することができる。また、上記のように、植付変速部をミッションケースとは別に設けることで、ミッションケースを小型化してエンジンの配置スペースを確保することができる。更に、植付変速用駆動伝達部材を左右の一方に寄せて配置することにより、車体左右方向中央部に配置されたエンジンに干渉することなく、植付変速部まで駆動力を伝達することができる。
【0012】
上記の乗用型田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この乗用型田植機は、パワーステアリング用油圧バルブと、昇降用油圧シリンダと、ストップバルブと、油圧ポンプと、油圧管路と、を備える。前記昇降用油圧シリンダは、作業機を昇降駆動する。前記ストップバルブは、前記昇降用油圧シリンダへの圧油の供給を制御する。前記油圧管路は、前記油圧ポンプ、前記パワーステアリング用油圧バルブ、前記ストップバルブ及び前記昇降用油圧シリンダを接続する。また、前記油圧式変速装置は、車体の左右方向に沿って配置された駆動入力軸を備え、当該駆動入力軸の前記一側の端部には前記エンジンの前記駆動出力軸からの駆動力が入力されるとともに、当該駆動入力軸の前記他側の端部には、前記油圧ポンプが接続される。そして、前記油圧管路の少なくとも一部は、車体の前記他側に沿って配管される。
【0013】
この構成で、駆動入力軸の一側の端部に対してエンジンの駆動力を入力することにより、当該駆動入力軸の他側の端部に配置された油圧ポンプを駆動することができる。このように、油圧ポンプが入力軸の他側の端部に配置されるので、当該油圧ポンプからのオイルを供給する油圧管路を、車体の他側に沿って無理なく配管することができる。そして、油圧管路を、エンジンの駆動出力軸や油圧式変速装置が配置された側とは反対側に配管することにより、当該油圧管路の取付性やメンテナンス性を向上させることができる。
【0014】
上記の乗用型田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記パワーステアリング用油圧バルブ及び前記昇降用油圧シリンダは、車体左右方向で略中央部に配置され、前記油圧ポンプ及び前記ストップバルブは、車体の前記他側に寄って配置される。
【0015】
上記のように、油圧管路が接続する個々の構成要素が車体の左右方向中央部又は車体の他側に寄って配置されることにより、油圧管路を車体の他側に沿って配管するという上記の配管レイアウトを無理なく実現することができる。また、油圧ポンプ及びストップバルブが、車体左右方向で油圧式変速装置の反対側に配置されるので、車体の左右の重量バランスを更に向上させることができる。
【0016】
上記の乗用型田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この乗用型田植機は、前記エンジンに燃料を供給する燃料タンクを備える。そして、当該燃料タンクは、前記エンジンの上方に配置される。
【0017】
このように、エンジンの上方に燃料タンクを配置することで、燃料ポンプを省略することができる。また、エンジンの近傍に燃料タンクを配置することとなるので、エンジンと燃料タンクの間の配管を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植機の全体的な構成を示す側面図。
【図2】田植機の駆動伝達経路を示すスケルトン図。
【図3】田植機の油圧経路の配管レイアウトを示す模式図。
【図4】田植機の油圧回路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る乗用型田植機1の全体的な構成について説明する。
【0020】
乗用型田植機1は、車体2と、当該車体2の後方に配置された植付部(作業機)3と、から構成されている。
【0021】
車体2は、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5を備えている。また、車体2は、その前後方向で前輪4と後輪5の間に運転座席6を備えている。運転座席6の近傍には、車体2の操向操作を行うためのステアリングハンドル7、車体2の走行速度を調節するための変速ペダル8、車体2の前後進を切り換えるための前後進切換レバー9等、各種の操作具が配置されている。また、車体2において運転座席6の後方には、施肥装置23が配置されている。
【0022】
また、車体2において、運転座席6の下方にはエンジン10が、当該エンジン10の前方にはミッションケース11が、それぞれ配置されている。また、運転座席6とエンジン10との間には、燃料タンク59が配置されている。このように、エンジン10の上方に燃料タンク59を配置することで、燃料タンク59からエンジン10に燃料を供給する燃料ポンプを省略することができる。また、エンジン10のすぐ上方に燃料タンク59が配置されることにより、燃料タンク59からエンジン10までの燃料供給管路を短くすることができる。
【0023】
車体2の後方には、植付部3を取り付けるための昇降リンク機構12、エンジン10の駆動力を植付部3に出力するためのPTO軸13、植付部3を昇降駆動するための昇降シリンダ(昇降用油圧シリンダ)14等が配置される。
【0024】
また、車体2は、図略の制御部を備えている。制御部は例えばマイクロコントローラからなり、田植機1の各部に備えられたセンサ等の信号に基づいて、田植機1の各構成を制御するように構成されている。
【0025】
前記植付部3は、植付ケース15と、複数のフロート16と、苗載台17と、を備えている。
【0026】
植付ケース15には、前記昇降リンク機構12が連結されている。この昇降リンク機構12は、トップリンク18、ロワーリンク19等からなる平行リンク構造から構成されており、ロワーリンク19に連結された昇降シリンダ14を駆動することにより、植付ケース15を上下に昇降駆動可能に構成されている(これにより、植付部3全体を上下に昇降することができる)。
【0027】
植付ケース15には、1つ以上の植付ユニット20が取り付けられている。植付ユニット20は、回転ケース21に2つの植付爪22を備えるロータリ式植付装置として構成されている。また、植付ケース15には、前記PTO軸13が出力する駆動力が入力されており、この駆動力によって回転ケース21が回転駆動されるように構成されている。ロータリ式植付装置の構成は公知であるので詳細な説明は省略するが、回転ケース21を回転駆動することにより、植付爪22の先端部が所定の軌跡を描きながら上下に駆動されるように構成したものである。そして、植付爪22の先端部は、上から下に向かって動くときに、後述の苗載台17に載せられた苗マットの下端から1株分の苗を掻き取り、当該苗の根元を保持したまま下方に動いて地面に植え込むように構成されている。
【0028】
前記フロート(浮き)16は、植付部3の下部に左右対称に設けられる。このフロート16を地面に接触させることにより、植付部3を地面に対して水平に保ち、植付姿勢を安定させて正確な植付けを行うことができるように構成されている。
【0029】
また、複数のフロート16のうち、少なくとも1つは、支点を中心に揺動可能に取り付けられるとともに、当該揺動角度を図略のフロートセンサによって検出するように構成されている。このフロート16は、地面に接触することにより揺動するので、前記フロートセンサによって前記揺動角を検出することにより、当該フロート16が地面に適切に接触しているか否かを検出することができる。即ち、フロートセンサの検出結果に基づいて、植付部3が、地面に対して適切な高さとなっているか否かを判断することができる。なお、フロートセンサの検出結果は、前記制御部に出力される。
【0030】
苗載台17は、前記植付ケース15の上方に配置されている。この苗載台17は、図略のガイドレール上を車体左右方向に往復摺動可能に支持されている。そして、植付部3は、苗マットの左右幅の範囲内で苗載台17を左右に往復駆動する図略の横送り機構を備えている。これにより、苗載台17に載せた苗マットを、植付ユニット20に対して左右に相対運動させることができる。また、苗載台17は、苗マットを、下方に向かって(即ち、植付ユニット20側に向かって)間欠的に送る苗送りベルト(縦送り機構)を備えている。以上の構成で、横送り機構と縦送り機構とを適切に連動させることにより、各植付ユニット20に対して苗を順次供給し、連続的に植付けを行うことができる。
【0031】
また、本実施形態の田植機1において、上記の植付部3は、車体2から取り外すことができるように構成されている。具体的には、昇降リンク機構12及びPTO軸13と、植付部3と、の間の接続を取り外すことにより、車体2と植付部3とを離間させることができるように構成されている。また、植付部3を取り外した車体2には、他の種類の作業機(例えば除草機、溝切機など)を取り付けることができるようになっている。このように、本実施形態の田植機1は、いわゆる多目的田植機として構成されている。
【0032】
続いて、本実施形態の田植機1における駆動伝達経路について、図2を参照して説明する。
【0033】
エンジン10は車体2の前後方向で前輪4と後輪5の間に配置されており、いわゆるミッドシップレイアウトとなっている。また、エンジン10は、車体2の左右方向では略中央部に配置されており、その駆動出力軸(クランクシャフト)10aの長手方向が、車体の左右方向に沿うようにして配置されている(いわゆる横置き配置)。この駆動出力軸10aは、エンジン10の筐体から車体の左側方に向けて突出している。また、当該駆動出力軸10aの左側の端部には、駆動伝達ベルト34が配置されている。
【0034】
エンジン10の駆動力は、前記駆動伝達ベルト34を介して、エンジン10の前方に配置されたミッションケース11内に配置されているHMT(油圧機械式無段変速機)25に入力される。HMT25は、HST(静油圧式無段変速機)26と、遊星歯車機構27と、から構成されている。
【0035】
HST26は、ミッションケース11内において、車体2の左寄りの位置に配置されており、可変容量油圧ポンプ28と、固定容量油圧モータ29と、を油圧回路で接続した構成となっている。可変容量油圧ポンプ28は入力軸28aを備えており、これがHST26の駆動入力軸となっている。また、固定容量油圧モータ29は出力軸29aを備えており、これがHST26の駆動出力軸となっている。
【0036】
図2に示すように、可変容量油圧ポンプ28の入力軸28aは、車体2の左右方向に沿って配置されているとともに、HST26の筐体から左右に突出している。この入力軸28aの左側の端部には、前記駆動伝達ベルト34が配置されており、エンジン10の出力が入力されている。また、前記入力軸28aの右側の端部には、油圧ポンプ24が接続されている。即ち、入力軸28aには、可変容量油圧ポンプ28及び油圧ポンプ24が接続されているので、エンジン10の駆動力によって入力軸28aを回転駆動することにより、可変容量油圧ポンプ28及び油圧ポンプ24の両方を同時に駆動することができるように構成されている。
【0037】
可変容量油圧ポンプ28が駆動されることにより吐出されるオイルは、固定容量油圧モータ29に供給され、当該固定容量油圧モータ29の出力軸29aを回転駆動させるように構成されている。また、可変容量油圧ポンプ28のオイルの吐出量は、変速ペダル8の操作量に連動して変更できるように構成されている。これにより、固定容量油圧モータ29の出力軸29aの回転速度を、オペレータが変速ペダル8を操作することによって無段階で変更することができる。なお、前記油圧ポンプ24については、後述する。
【0038】
また、遊星歯車機構27は、サンギア30と、プラネタリギア31を回転可能に支持したプラネタリキャリア32と、アウターギア33と、から構成されている。プラネタリキャリア32には、可変容量油圧ポンプ28の入力軸28aを介してエンジン10の駆動力が入力されている。また、サンギア30は、固定容量油圧モータ29の出力軸29aに固定されている。そして、アウターギア33は、HMT25の出力軸25aに固定されている。
【0039】
以上の構成で、エンジン10の出力(入力軸28aの回転)と、HST26の出力(出力軸29aの回転)と、が遊星歯車機構27において合成されて、HMT25の出力軸25aから出力される。ここで、HST26の出力は変速ペダル8の操作に応じて無段階で変速可能であるから、当該HST26の出力とエンジン10の出力との合成であるHMT25の出力も、無段階で変速可能である。即ち、HMT25によって、エンジン10の出力を、変速ペダル8の操作に応じて無段階に変速することが可能となっている。
【0040】
HMT25の出力軸25aから出力される回転駆動力の一部は、ミッションケース11内に配置されたメインクラッチ35を介してギア式の主変速部36に入力され、適宜変速される。また、主変速部36は図略のリバースギアを備えており、車体の前後進の切換を行うことができるように構成されている。そして、主変速部36で変速された回転駆動力の一部は、フロントアクスルケース37に出力される。フロントアクスルケース37は、ミッションケース11の前方に配置されるとともに、当該ミッションケース11と一体的に形成されている。主変速部36からの回転駆動力は、フロントアクスルケース37内に配置された左右の前車軸38,38に伝達され、左右の前輪4,4を駆動する。
【0041】
また、主変速部36が出力する回転駆動力の一部は、ミッションケース11から取り出され、プロペラシャフト39を介して、エンジン10の後方に位置するリアアクスルケース40に伝達される。リアアクスルケース40内に入力された回転駆動力は、左の後車軸42L及び右の後車軸42Rに伝達される。左の後車軸42Lは左の後輪5を駆動し、右の後車軸42Rは右の後輪5を駆動する。
【0042】
以上の構成により、変速ペダル8の操作に応じて、前輪4及び後輪5の回転速度を無段階で変更することができるようになっている。即ち、オペレータが変速ペダル8を操作することにより、所望の車速で車体2を走行させることができるように構成されている。
【0043】
また、プロペラシャフト39から左の後車軸42Lまでの駆動伝達経路の間には、左のサイドクラッチ41Lが配置されている。同様に、プロペラシャフト39から右の後車軸42Rまでの駆動伝達経路の間には、右のサイドクラッチ41Rが配置されている。左右のサイドクラッチ41L,41Rは、それぞれ独立して断接を切り換えることができる。即ち、本実施形態の田植機1は、左右の後輪5,5に対する駆動力の伝達の有無を、個別に切り換えることができるように構成されている。これにより、車体2の急旋回を行う時に、内側の後輪に対する駆動力の伝達を切断することができるので、スムーズな急旋回を実現することができる。
【0044】
また、HMT25の出力の一部は、ミッションケース11の後部右寄りの位置に設けられた植付駆動取出部51から外部に取り出される。植付駆動取出部51には、ユニバーサルジョイントを介して植付駆動伝達軸(植付変速用駆動伝達部材)52が接続されている。この植付駆動伝達軸52は、ミッションケース11の後方において、車体の右寄りの位置に配置された植付変速部43に接続されている。
【0045】
ここで、図3に示すように、植付駆動伝達軸52は、エンジン10の右側方を通過するように配置されている。このように、植付駆動伝達軸52を車体2の右寄りに配置することにより、エンジン10と干渉することなく、植付変速部43に対して駆動力を伝達することができる。
【0046】
植付変速部43内には複数のギアからなる変速装置が設けられており、入力された駆動力を適宜変速してPTO軸13から出力するように構成されている。このPTO軸13が伝達する駆動力によって、植付部3が駆動される。以上の構成により、回転ケース21を回転駆動する速度を変速することができるので、苗を植え付ける間隔を変更することができる。また、植付変速部43内において、PTO軸13には、植付クラッチ50を介して駆動力が伝達されるように構成されている。この植付クラッチ50を切断することにより、植付部3の駆動を停止することができる。
【0047】
また、植付変速部43内には、施肥クラッチ53が設けられている。植付変速部43に入力された駆動力の一部は、この施肥クラッチ53を介して、施肥駆動軸54から出力されるように構成されている。施肥駆動軸54は、施肥装置23に接続されている。以上の構成により、施肥装置23に駆動力を伝達し、当該施肥装置23を駆動することで、圃場に肥料を散布することができるようになっている。
【0048】
ここで、植付変速部を仮にミッションケース11の内部に配置する構成とした場合、当該ミッションケース11が車体前後方向で大きくなる結果、当該ミッションケース11後方のエンジン10配置スペースを圧迫してしまう。この点、本実施形態のように植付変速部43をミッションケース11とは別体に構成し、当該植付変速部43を、例えばリアアクスルケース40の上方などの空いたスペースに配置することにより、ミッションケース11を前後方向でコンパクトに構成するとともに、空いたスペースを有効活用することができる。結果として、車体2の全体を、前後方向でコンパクトに構成することができる。
【0049】
また、上記のように、植付変速部43は、ミッションケース11の後方において、車体2の右寄りの位置に配置されている。一方で、前述のように、HST26は、車体2の左寄りの位置に配置されている。このように、植付変速部43とHST26を、車体2の左右方向で反対側に配置することにより、車体2の左右の重量バランスを改善することができる。
【0050】
次に、田植機1に配設された油圧管路について説明する。図3及び図4に示すように、この油圧管路は、油圧ポンプ24から、パワーステアリング用油圧バルブ55及び昇降制御バルブユニット56を介して、昇降シリンダ14まで圧油を供給するように構成されている。
【0051】
パワーステアリング用油圧バルブ55は、車体2が備えたパワーステアリング機構60を作動させるオイルの流れを切り換えるためのバルブであり、ステアリングハンドル7の操作に応じて駆動されるスプール55aを備えている。
【0052】
昇降制御バルブユニット56は、昇降制御バルブ57と、ストップバルブ58と、をまとめて1つのユニットとして構成したものである。
【0053】
昇降制御バルブ57は、昇降シリンダ14の駆動方向を切り換えるためのソレノイドバルブであり、前記制御部からの制御信号に基づいて駆動されるスプール57aを備えている。このスプール57aの位置を変更することにより、昇降シリンダ14に対してオイルを供給、又は昇降シリンダからオイルを排出するように、当該昇降シリンダ14に対する送油通路を切り換えることが可能に構成されている。制御部は、この昇降制御バルブ57を適宜制御することで、昇降シリンダ14を駆動し、植付部3を上昇又は下降させることができる。
【0054】
ストップバルブ58は、昇降シリンダ14と昇降制御バルブ57との間のオイルの流れを遮断することが可能なバルブであり、オペレータが直接操作することができるように構成されている。このストップバルブ58は、通常の運転時には開いた状態とておき、昇降シリンダ14と昇降制御バルブ57との間でオイルの流通が可能であるようにしておく。一方、エンジン10を停止する際などには、必要に応じてストップバルブ58を閉じた状態とする。このストップバルブ58を閉じることにより、昇降シリンダ14からオイルが流出することを防止できるので、エンジン10を停止させた状態でも植付部3の位置を維持することができる。
【0055】
ここで、前述のように、前記油圧ポンプ24は、入力軸28aの右側の端部に接続されている。これにより、油圧ポンプ24は、車体2の右側に寄った位置に配置されている。また、図3に示すように、パワーステアリング用油圧バルブ55及び昇降シリンダ14は、車体2の前部において左右方向略中央部に配置されている。また、昇降制御バルブユニット56(昇降制御バルブ57及びストップバルブ58)は、車体の左右方向で右側に寄った位置に配置されている。
【0056】
このように、油圧管路に接続される各構成は、車体2の左右方向中央部又は右寄りの位置に配置されており、車体2の左寄りには配置されていない。従って、図3に太線で示すように、油圧管路の大部分を車体2の右側部に沿って無理なく配設することができる。このように、駆動伝達ベルト34が配設されている側とは反対側に沿うようにして油圧管路を配管することにより、当該管路の組付時やメンテナンス時において、駆動伝達ベルト34やエンジン10の駆動出力軸10a等が邪魔になることがない。
【0057】
また、上記のように、油圧ポンプ24及び昇降制御バルブユニット56は、車体の右寄りの位置に配置されている。また前述のように、植付変速部43も車体2の右寄りの位置に配置されている。一方で前述のように、HST26は車体2の左寄りの位置に配置されている。このように、重量物であるHST26に対して、車体2の左右方向で反対側に他の構成を配置することにより、車体2の左右の重量バランスを改善することができる。
【0058】
このように、各構成の配置レイアウトを工夫することにより、車体2の左右の重量バランスを改善するという効果と、油圧管路の組付け性及びメンテナンス性の向上を向上させるという効果、更に車体を前後方向でコンパクト化するという効果を実現することができる。
【0059】
また、昇降制御バルブユニット56は、運転座席6の側方近傍に配置されている。また、昇降制御バルブユニット56の筐体の外部には、ストップバルブ58を操作するための油圧ストップレバー61が設けられている。そして、前記油圧ストップレバー61は、運転座席6から操作できる位置に突出するように配置している。この構成により、オペレータが運転座席6に座った状態でストップバルブ58を操作することができる。
【0060】
以上で説明したように、本実施形態の田植機1は、エンジン10と、ミッションケース11と、HST26と、植付変速部43と、植付駆動伝達軸52と、を備える。エンジン10は、車体2の前後方向で前輪4と後輪5との間に配置されるとともに、車体2の左右方向で略中央部に配置され、その駆動出力軸10aの先端が車体左側に向くように横置き配置される。ミッションケース11は、エンジン10の前方に配置される。HST26は、ミッションケース11内において、左側に寄って配置される。植付変速部43は、ミッションケース11の後方に配置され、当該ミッションケース11からの出力を変速してPTO軸13に出力する。植付駆動伝達軸52は、ミッションケース11からの出力を植付変速部43まで伝達する。そして、植付駆動伝達軸52及び植付変速部43は、車体2の右側に寄って配置される。
【0061】
上記のように、車体左右方向でHST26とは反対側に寄せて植付変速部43を配置することにより、左右の重量バランスを良好に構成することができる。また、上記のように、植付変速部43をミッションケース11とは別に設けることで、ミッションケース11を小型化してエンジン10の配置スペースを確保することができる。更に、植付駆動伝達軸52を右側に寄せて配置することにより、車体左右方向中央部に配置されたエンジン10に干渉することなく植付変速部43まで駆動力を伝達することができる。
【0062】
また、本実施形態の田植機1は、パワーステアリング用油圧バルブ55と、昇降シリンダ14と、ストップバルブ58と、油圧ポンプ24と、油圧管路と、を備える。昇降シリンダ14は、植付部3を昇降駆動する。ストップバルブ58は、昇降シリンダ14への圧油の供給を制御する。油圧管路は、油圧ポンプ24、パワーステアリング用油圧バルブ55、ストップバルブ58及び昇降シリンダ14を接続する。また、HST26は、車体2の左右方向に沿って配置された入力軸28aを備え、入力軸28aの左側の端部にはエンジン10の駆動出力軸10aからの駆動力が入力されるとともに、当該入力軸28aの右側の端部には、油圧ポンプ24が接続される。そして、前記油圧管路の少なくとも一部は、車体の右に沿って配管される。
【0063】
このように、油圧ポンプ24が入力軸28aの右側の端部に配置されるので、当該油圧ポンプ24からのオイルを供給する油圧管路を、車体2の右に沿って無理なく配管することができる。そして、油圧管路を、エンジン10の駆動出力軸10aやHST26、駆動伝達ベルト34とは反対側に配管することにより、当該油圧管路の取付性やメンテナンス性を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の田植機1は、以下のように構成されている。即ち、前記パワーステアリング用油圧バルブ55及び昇降シリンダ14は、車体2の左右方向で略中央部に配置され、油圧ポンプ24及びストップバルブ58は、車体2の右側に寄って配置される。
【0065】
上記のように、油圧管路が接続する個々の構成要素が車体の左右方向中央部又は車体の右側に寄って配置されることにより、油圧管路を車体の右側に沿って配管するという上記の配管レイアウトを無理なく実現することができる。また、油圧ポンプ24及びストップバルブ58が、車体左右方向でHST26の反対側に配置されるので、車体2の左右の重量バランスを更に向上させることができる。
【0066】
また本実施形態の田植機1は、以下のように構成されている。即ち、この田植機1は、エンジン10に燃料を供給する燃料タンク59を備える。そして、当該燃料タンク59は、エンジン10の上方に配置される。
【0067】
このように、エンジン10の上方に燃料タンク59を配置することで、燃料ポンプを省略することができる。また、エンジン10の近傍に燃料タンク59を配置することとなるので、エンジン10と燃料タンク59の間の配管を短くすることができる。
【0068】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0069】
上記の説明では、車体の左側を「一側」、右側を「他側」として説明したが、逆であっても良いことは勿論である。
【0070】
上記実施形態では、ミッションケース11内に、HST26及び遊星歯車機構27からなるHMT25が無段変速装置として配置される構成とした。この構成に代えて、無段変速装置としてHST26のみを備える構成としても良い。ただし、HSTのみの構成に比べて、HSTと遊星歯車機構とを組み合わせたHMTの方が伝達効率の観点からは有利である。
【0071】
上記実施形態では、田植機1の植付部3は取外し可能としたが、取外しが不可能であっても良い。
【0072】
上記実施形態では、植付部3はロータリ式の植付部としたが、クランク式であっても良い。
【0073】
油圧管路は、必ずしも駆動伝達ベルト34の反対側に配管されなければならないわけではなく、その一部が、車体左右方向で駆動伝達ベルト34が配置されている側に配管されていても良い。ただし、上記のように、油圧管路を駆動伝達ベルト34とは反対側に配管することで、当該油圧管路の取付性及びメンテナンス性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 田植機(乗用型田植機)
2 車体
3 植付部(作業機)
10 エンジン
11 ミッションケース
13 PTO軸
26 HST(油圧式変速装置)
43 植付変速部
52 植付駆動伝達軸(植付変速用駆動伝達部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向で前輪と後輪との間に配置されるとともに、車体左右方向で略中央部に配置され、その駆動出力軸の先端が車体左右方向の一側に向くように横置き配置されたエンジンと、
前記エンジンの前方に配置されたミッションケースと、
前記ミッションケース内において、前記一側に寄って配置された油圧式変速装置と、
前記ミッションケースの後方に配置され、前記ミッションケースからの出力を変速してPTO軸に出力する植付変速部と、
前記ミッションケースからの出力を前記植付変速部まで伝達する植付変速用駆動伝達部材と、
を備え、
前記植付変速用駆動伝達部材及び前記植付変速部は、車体左右方向の他側に寄って配置されていることを特徴とする乗用型田植機。
【請求項2】
請求項1に記載の乗用型田植機であって、
パワーステアリング用油圧バルブと、
作業機を昇降駆動するための昇降用油圧シリンダと、
前記昇降用油圧シリンダへの圧油の供給を制御するストップバルブと、
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプ、前記パワーステアリング用油圧バルブ、前記ストップバルブ及び前記昇降用油圧シリンダを接続する油圧管路と、
を備え、
前記油圧式変速装置は、車体の左右方向に沿って配置された駆動入力軸を備え、当該駆動入力軸の前記一側の端部には前記エンジンの前記駆動出力軸からの駆動力が入力されるとともに、当該駆動入力軸の前記他側の端部には、前記油圧ポンプが接続されており、
前記油圧管路の少なくとも一部は、車体の前記他側に沿って配管されることを特徴とする乗用型田植機。
【請求項3】
請求項2に記載の乗用型田植機であって、
前記パワーステアリング用油圧バルブ及び前記昇降用油圧シリンダは、車体左右方向で略中央部に配置され、
前記油圧ポンプ及び前記ストップバルブは、車体の前記他側に寄って配置されることを特徴とする乗用型田植機。
【請求項4】
請求項3に記載の乗用型田植機であって、
前記エンジンに燃料を供給する燃料タンクを備え、
当該燃料タンクは、前記エンジンの上方に配置されることを特徴とする乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−193808(P2011−193808A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64570(P2010−64570)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】