説明

乳酸菌のスクリーニング方法

【課題】 プロバイオティクス機能を有する乳酸菌のスクリーニング方法並びにプロバイオティクス機能を有する乳酸菌及びそれを含む機能性食品を提供する。
【解決手段】 本発明の乳酸菌のスクリーニング方法は、乳酸菌と腸上皮細胞を共培養した後、当該腸上皮細胞における指標となりうる遺伝子発現を測定することからなる。本発明によれば、乳酸菌と共培養した腸上皮細胞の遺伝子発現変化を測定することにより、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌をスクリーニングすることができ、疾患モデル動物を使用する評価方法に比べて、時間、手間などを著しく軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸菌のスクリーニング方法に関する。より詳細には、アレルギー疾患や炎症性腸疾患等に対する改善効果を有する乳酸菌のスクリーニング方法、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌及びそれを含む機能性食品並びに新規な微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー患者は、年々増加しており、我が国では国民の3人に一人が何らかのアレルギー疾患を有しているといわれている。
近年のアレルギー疾患の増加に関しては、特に都市部における急激な環境変化が要因の一つであると考えられている。衛生的な環境改善による寄生虫感染症や細菌感染症等の減少に加えて、屋外での粉塵、花粉などのアレルゲン物質の増加、屋内でのペット、ダニ等のハウスダストの増加、さらに、食生活の欧米化によるタンパク質摂取量の増加がアレルギー等の免疫異常を引き起こす原因と考えられている。
更に、炎症性腸疾患も我が国で急速に増加しており、その原因として腸管免疫系の異常が示唆されている。
このように、免疫系の異常に基づく疾患が急増しているが、その根本療法が確立していないことから、これら疾患の発症メカニズムの解明、治療法や発症予防法の確立が必要とされている。
このようなことから、プロバイオティクス治療法(Probiotics therapy)が注目されている。プロバイオティクスとは一般的に「生体内、特に腸管内の正常細菌叢に作用し、そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす微生物の機能」と解される。
プロバイオティクス機能を有する微生物としては、Lactobacillus属、Enterococcus属、Streptococcus属、Bifidobacterium属などの乳酸菌(乳酸菌とは一般的略称(学名ではない)で、代謝産物として乳酸を産生する細菌を含む)や酪酸菌等であり、腸内細菌叢を改善して、整腸作用等を発揮する。また、生菌のみならず、死菌もプロバイオティクス機能を有すると考えられている。
【0003】
さらに、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌は、体内の免疫系にも影響し、アレルギー症状を抑制することが示唆されており、アトピー症状を有する患児に乳酸菌を投与した場合には、症状の改善が認められたと報告されている(非特許文献1)。
また、妊娠中の母親に乳酸菌を投与し、更に出産後も乳児に6ヶ月間乳酸菌を投与した場合には、2歳時のアトピーの発症率が半分に抑えられたと報告されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】J Allergy Clin. Immunol. 2003 Feb; 111(2) 389-95
【非特許文献2】Lancet. 2001 Apr 7; 357 (9262) 1076-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳酸菌の投与がアレルギー疾患や炎症性腸疾患の改善に有効であることが知られているが、その効果は乳酸菌の種類によって異なり、乳酸菌が生体に影響するメカニズムの詳細は知られていない。
プロバイオティクス機能を有する乳酸菌は、これまでは、食経験や胃酸、胆汁酸への耐性を指標としてスクリーニングされてきた。一方、各種疾患モデルマウスを用いた試験から、乳酸菌は整腸作用の外に、抗アレルギー作用、抗腫瘍、免疫賦活作用等を発揮すること分かってきた。しかし、これらの機能を有する乳酸菌のスクリーニングを疾患モデル動物を用いて評価しようとすると、長期の期間と煩雑な手間が必要であり、多数の乳酸菌株を同時にスクリーニングすることは出来なかった。
近年、免疫反応の分子機構が急速に解明され、乳酸菌はプロバイオティクス機能を発揮するのみならず、その菌体成分や代謝物などがバイオジェニクス効果を発揮することが明らかにされてきた。また、乳酸菌の菌体、菌体成分、代謝産物及び/又はそれらの組合せによって発揮する効果が異なることが知られるようになってきた。そこで、目的に合った効果を発揮する菌体、菌体成分、代謝産物及び/又はそれらの至適組合せを見いだす必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、腸上皮細胞は腸内細菌に常に曝されていることに着目し、乳酸菌が腸上皮細胞の遺伝子発現に及ぼす影響をDNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip)を用いて解析し、乳酸菌と共存することによって発現が亢進する遺伝子群の存在することを見出し、更にそれらの遺伝子発現量をreal time PCRにより測定することで、疾患改善に効果のある乳酸菌を簡便かつ短期間にスクリーニングする方法を確立した。
本方法においては、まず、アレルギー疾患や炎症性腸疾患の改善等の望ましい効果をもたらす種々のサイトカインやタンパク質をコードする遺伝子の発現パターンが如何なるものかを調べる必要があった。そこで、アレルギー疾患の予防効果を有することが知られているLactobacillus GGを望ましい効果を発揮する標準菌として、一方、E. coliを望ましくない効果を発揮する標準菌として用いた。
この一連の研究の結果、疾患改善の指標となる物質(TJP1、SOCS4、TGFβ1、及びClaudin 1)をコードする遺伝子及び炎症の指標となる物質(LARC、IL-8、及びIP-10)をコードする遺伝子を見出した。
本発明は係る知見に基づいてなされたもので、本発明は疾患改善に効果のある乳酸菌をスクリーニングする方法を提供するものである。
【0006】
本発明の要旨は、乳酸菌と腸上皮細胞を共培養した後、当該腸上皮細胞における疾患改善の指標となる物質をコードする遺伝子の発現を測定することからなる乳酸菌のスクリーニング方法である。
上記の指標となる物質としては、TJP1、SOCS4、TGFβ1、Claudin 1、LARC、IL-8、及びIP-10を好適な例とすることができる。
更に、本発明は(1)腸上皮細胞のTJP1、SOCS4、TGFβ1及びClaudin 1のいずれかをコードする遺伝子の発現を亢進させる、又は(2)腸上皮細胞のLARC、IL-8及びIP-10のいずれかをコードする遺伝子の発現を亢進させない乳酸菌及びそれを含む機能性食品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乳酸菌と共培養した腸上皮細胞の遺伝子発現を測定することにより、アレルギー疾患や炎症性腸疾患等、免疫系の異常による疾患の改善に適した乳酸菌、菌体成分、代謝産物及び/又はそれらの至適組合せをスクリーニングすることができ、疾患モデル動物を使用するスクリーニング法に比べて、時間と手間などを著しく軽減することができる。従って、本発明によれば、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌、菌体成分、代謝産物及び/又はそれらの至適組合せを簡便且つ正確にスクリーニングすることが可能となる。
また、本発明の乳酸菌及び機能性食品は、上記のスクリーニング方法で選抜されたプロバイオティクス機能を有する乳酸菌及びそれを含む機能性食品であり、プロバイオティクス治療法において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は前記の構成よりなり、乳酸菌と腸上皮細胞を共培養して腸上皮細胞の遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip)を用いて網羅的に解析することによって、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌をスクリーニングすることができる。
また、悪玉細菌と言われているBacteroides属、Eubacterium属、C. perfringens属や、E.coliなどと腸上皮細胞を共培養することにより、腸上皮細胞で発現が亢進する遺伝子を確認し、炎症誘発性遺伝子を選定した。
更にそれらの遺伝子発現測定用のプライマーを作製し、real time PCR測定系を構築した。
【0009】
より具体的には、まず乳酸菌(又は悪玉細菌)と腸上皮細胞を共培養する。
上記の乳酸菌は、生菌であってもよく、また加熱殺菌された食品を想定した死菌、プロテオグリカンや核酸等の菌体成分、有機酸やペプチド等の代謝産物であってもよい。腸上皮細胞及び悪玉細菌は既に公知の細胞株を利用することができる。
共培養は種々の方法により行うことができ、例えば、腸上皮細胞を最初1.5x105cells/mlで適当な培地(例えば、DMEMにFBSを10%、非必須アミノ酸1%、抗生物質0.1%を添加した培地)に播種し、培養してコンフルエントになった状態(約1X106 cells/ml)の細胞と乳酸菌(例えば、生菌:1x106 CFU/ml,死菌:1x108 CFU/ml)又は悪玉細菌を共培養する(例えば、5%炭酸ガス環境、37℃で3時間又は1時間)。
【0010】
その後、共培養された腸上皮細胞からtotal RNAを抽出し、その遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip)を用いて網羅的に解析し、上皮細胞のみで培養した場合よりも乳酸菌(又は悪玉細菌)と共培養することにより発現が亢進する遺伝子を特定する。
更に上記の遺伝子の発現量をreal time PCRなどを用いて測定する。係るPCR測定法自体は既に公知であり、その測定法、条件などは当業者に知られている。
【0011】
本研究では、まず最初に、アレルギー疾患の予防効果を発揮することが知られているLactobacillus GGを望ましい効果を発揮する標準菌として、一方、E. coliを望ましくない効果を発揮する標準菌として用いて上記の一連の実験を実施した。そして、疾患改善の指標となる物質(TJP1、SOCS4、TGFβ1、及びClaudin 1)をコードする遺伝子、及び炎症の指標となる物質(LARC、IL-8、及びIP-10)をコードする遺伝子を見出した。そして、更に、これらを指標とし、新規なプロバイオティクス機能を有する乳酸菌として、(1)腸上皮細胞のTJP1、SOCS4、TGFβ1及びClaudin 1をコードする遺伝子の発現を亢進させる乳酸菌、並びに(2)腸上皮細胞のLARC、IL-8、及びIP-10をコードする遺伝子の発現を亢進させない乳酸菌を見出した。
TJP1は、腸上皮細胞間の接着タンパク質に結合しているタンパク質であり、この発現が亢進することにより腸上皮細胞間の結合がより強固になり、腸管のバリア機能が向上すると考えられる。そして、食物や細菌に由来する抗原の過剰な体内侵入を防ぎ、アレルギーや炎症反応を予防すると考えられる。
SOCS4は炎症等のシグナル抑制に働く物質である。
【0012】
TGFβ1は様々な作用を有するが、炎症を起こす細胞の反応を抑制する作用、IgAの産生を促進させる機能を有することが知られている。従って、TGFβ1をコードする遺伝子の発現が亢進することにより、腸の炎症を抑える効果や細菌感染の予防に効果を発揮することが期待される。
Claudin
1は、細胞間のtight
junctionを形成するタンパク質であり、TJP1と同様に、この発現が亢進することにより、腸管のバリア機能が高まり、腸内の病原菌感染や食物アレルゲンの過剰な侵入を防止すると考えられる。
【0013】
一方、腸上皮細胞の炎症反応の誘導に関係するLARC、IL-8、及びIP-10をコードする遺伝子の発現を確認することにより、炎症を誘導しない乳酸菌のスクリーニングが可能になり、疾患予防のみならず、炎症の治療に適した乳酸菌を供することができる。
LARCは、病原菌の感染等を受けたときに病原菌を攻撃する細胞であるリンパ球、好酸球を呼び寄せるCCケモカインである。従って、この遺伝子の発現亢進は腸の炎症を起こす可能性がある。
また、IL-8も、病原菌の感染等を受けたときに病原菌を攻撃する細胞(好中球)を呼び寄せるCXCケモカインであり、LARCと同様に、この遺伝子の発現亢進は腸の炎症を起こす可能性がある。
IP-10はT細胞の中でも特にTh1を呼び寄せるCXCケモカインである。T細胞には細菌、ウイルス感染に対しての防御機構を促進するTh1と、寄生虫感染に対する防御やアレルギー反応等を促進するTh2があり、両者のバランスにより局所的な免疫応答が制御されている。Th1の過剰反応は、感染防御の結果として炎症、組織障害を引き起こすため、腸管組織が未熟であったり、腸に疾患がある場合は、腸管における炎症を促進する可能性がある。
【0014】
上記のように、腸上皮細胞のTJP1、SOCS4、TGFβ1及び/又はClaudin 1をコードする遺伝子の発現亢進は、アレルギーや炎症反応を抑制し、感染を防御する。一方、LARC、IL-8及び/又はIP-10は炎症に関係するので、これらをコードする遺伝子の発現亢進は炎症を惹起する。
本発明の方法は、乳酸菌(生菌及び死菌)のスクリーニングに限らず、乳酸菌に由来するプロテオグリカン、核酸成分、分泌・代謝物質などについてのスクリーニングにも利用することができる。
【0015】
本発明は、(1)腸上皮細胞のTJP1、SOCS4、TGFβ1及びClaudin 1をコードする遺伝子の発現を亢進させる乳酸菌、並びに(2)腸上皮細胞のLARC、IL-8、及びIP-10をコードする遺伝子の発現を亢進させない乳酸菌であり、また本発明は当該乳酸菌を含む機能性食品である。
上記の乳酸菌は、前記のとおり、アレルギーや炎症反応を抑制し、感染の防御を図ることができ、また炎症の発症を抑制することができる。
機能性食品としては、例えば、ヨーグルト、飲料などを例示することができる。係る機能性食品は、当該製品の従来の製造方法において、乳酸菌として本発明の乳酸菌を使用(又は従来からの乳酸菌と併用)することにより製造することができる。
【0016】
後記実施例に示されるように、本発明者らは種々検討をしたところ、プロバイオティクス機能を有する乳酸菌として新規な微生物を見出し、ラクトバチルス
カゼイ CL10 (Lactobacillus casei CL10)及びストレプトコッカス サーモフィルス TS20 (Streptococcus thermophilus TS20)と命名し、それらの微生物はそれぞれ特許微生物寄託センターに受託番号NITE
P−220及び受託番号NITE P−221として寄託されている。
これらの菌株の細菌学的性状は下記のとおりである。
【0017】
(1)ラクトバチルス カゼイ CL10 (Lactobacillus
casei CL10、受託番号NITE P−220)
・形態学的性質
細胞形態:桿菌
運動性:−
胞子の有無:−
・生理学的性質
グラム染色性:+
カタラーゼ反応性:−
酸素に対する態度:通性嫌気性
ガス産生:−
15℃での増殖:−
45℃での増殖:+
・糖発酵性
D-アラビノース:−
L-アラビノース:−
D-キシロース:−
L-キシロース:−
ガラクトース:+
グルコース:+
フルクトース:+
マンノース:+
ラムノース:−
セロビオース:+
マルトース:+
ラクトース:+
メリビオース:−
シュークロース:+
トレハロース:+
メレチトース:−
ラフィノース:−
マンニトール:+
ソルビトール:+
サリシン:+
スターチ:−
【0018】
(2)ストレプトコッカス サーモフィルス TS20
(Streptococcus thermophilus TS20、受託番号NITE P−221)
・形態学的性質
細胞形態:球菌・連鎖
運動性:−
胞子の有無:−
・生理学的性質
グラム染色性:+
カタラーゼ反応性:−
酸素に対する態度:通性嫌気性
ガス産生:−
15℃での増殖:−
45℃での増殖:+
・糖発酵性
D-アラビノース:−
L-アラビノース:−
D-キシロース:−
L-キシロース:−
ガラクトース:−
グルコース:+
フルクトース:−
マンノース:−
ラムノース:−
セロビオース:−
マルトース:−
ラクトース:+
メリビオース:−
シュークロース:+
トレハロース:−
メレチトース:−
ラフィノース:−
マンニトール:−
ソルビトール:−
サリシン:−
スターチ:−
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(1)材料及び方法
下記の試験に使用した材料、方法などは以下のとおりである。
腸上皮細胞
腸管モデルの細胞はATCCより購入したCaco-2細胞を使用した。Caco-2はヒト結腸癌由来細胞で、多孔性のメンブレンフィルター上に融合性単層膜を形成することが知られており、小腸膜モデルとして繁用される。培地にはDMEM(Gibco製)にFBSを10%、非必須アミノ酸1%、抗生物質0.1%を添加したものを使用した。6 wellセルカルチャーインサート(BD製)にCaco-2を1.5×10/wellで播種し、37℃、5%CO2環境にて2週間培養し、単層膜を形成させた。
【0021】
評価細菌
評価に使用した乳酸菌のうちLactobacillus acidophilus、Lactobacillus
casei CL10、Streptococcus thermophilus TS20、Lactococcus lactis、及びBifidobacterium
infantisは日本ルナ社より入手した。Lactobacillus GG、E. coliはATCCより購入した。
Lactobacillus
acidophilus、Lactobacillus casei CL10、Streptococcus thermophilus TS20、Lactococcus
lactis、及びLactobacillus GGは、MRS培地(Difco製)にて37℃で培養し、遠心分離し、濃縮菌懸濁液を調製した。また、その菌懸濁液を70℃、40分間加熱処理し、死菌懸濁液を調製した。
Bifidobacterium
infantisはReinforced Clostridium medium(Difco製)にて37℃で嫌気培養し、上記と同様に、菌懸濁液、死菌懸濁液を調製した。
E. coliは、Nutrient培地にて37℃で振とう培養し、上記と同様に、菌懸濁液、死菌懸濁液を調製した。
【0022】
共培養
Caco-2と、乳酸菌又は大腸菌(生菌:1x106 CFU/ml又は死菌:1x108
CFU/mlを2ml使用)を5%炭酸ガス環境下、37℃で3時間又は1時間(SOCS4をコードする遺伝子を測定する場合のみ)共培養し、共培養後のCaco-2よりtotal
RNAを抽出し、共培養後のCaco-2のmRNA発現量の変化をマイクロアレイを用いて調べた。
【0023】
プライマー
Real
time PCRのプライマーとして、Lactobacillus GGとE. coliを用いた共培養試験の結果、指標となることが確認された下記の遺伝子に対してそれぞれプライマーを合成して使用した。
TJP1
センス:gcaaagagtgaaccacgagacg(配列番号1)
アンチセンス:aggcgaataatgccagagctac(配列番号2)
SOCS4
センス:gatggtgatggcagcagttac(配列番号3)
アンチセンス:ttctgctccgactagttttgg(配列番号4)
TGFβ1
センス:caacaattcctggcgatacctc(配列番号5)
アンチセンス:aagccctcaatttcccctcc(配列番号6)
LARC
センス:ggccaatgaaggctgtgacat(配列番号7)
アンチセンス:tggatttgcgcacacagaca(配列番号8)
IL-8
センス:gtctgctagccaggatccacaa(配列番号9)
アンチセンス:gagaaaccaaggcacagtggaa(配列番号10)
IP-10
センス:gccaattttgtccacgtgttg(配列番号11)
アンチセンス:agcctctgtgtggtccatcct(配列番号12)
Claudin 1
センス:gtgttggtaaatccaacagcaag(配列番号13)
アンチセンス:cgtcagctgccagctaacag(配列番号14)
【0024】
Caco-2からのtotal RNAの抽出
共培養後のCaco-2のtotal RNAはRNeasy(キアゲン製)を使用して抽出し、含有されるDNAはDNaseI(キアゲン製)により除去した。
【0025】
Real time PCR
Applied
Biosystems 7700 Sequence Detection Systemを使用してReal time
PCRを行い、目的遺伝子の発現量を測定した。Real time PCRは当該システムのマニュアルに準じ、変性95℃、15秒、アニーリング/伸長温度60℃、60秒の2 step反応を40サイクル行った。
目的遺伝子の発現の亢進の有無は、(細菌で刺激したCaco-2の遺伝子の発現量) ÷ (細菌培養に用いた培地のみを添加したCaco-2の遺伝子の発現量)の値を求め、その値が1は変化無し、>1は発現亢進、<1は発現抑制と評価した。TJP1、TGFβ1、SOCS4、Claudin 1、LARC、IL-8、及びIP-10をコードする遺伝子について調べた結果を図1〜7に示した。
【0026】
なお、図中及び以下の記載における菌種の略号は以下のとおりである。
L. GG: Lactobacillus GG ATCC 53103
L. casei (CL10):
Lactobacillus casei CL10
S. thermophilus (TS20): Streptococcus thermophilus TS20
L. acidophilus: Lactobacillus acidophilus
L. lactis: Lactococcus lactis
B. infantis: Bifidobacterium infantis
E. coli: Esherichia coli ATCC 29425
なお、L. GGはアレルギー疾患の予防に効果を有することが知られている。
【0027】
(2)結果
図1が示すように、TJP1をコードする遺伝子は、S. thermophilus (TS20)、L. casei (CL10)、及びL. acidophilusとの共培養で発現を亢進した。B. infantis との共培養では発現は変化しなかった。
また、図2が示すように、TGFβ1をコードする遺伝子は、S. thermophilus (TS20) との共培養で顕著に発現を亢進した。また、L. casei (CL10)、L. acidophilus、及びL. lactisとの共培養においても発現を亢進した。
【0028】
更に、図3が示すように、SOCS4をコードする遺伝子の発現には、供試細菌の種類や生菌または死菌の別に関わりなく、大きな差はなかったが、L.
GGの死菌との共培養は若干発現を亢進した。
加えて、図4が示すように、Claudin 1をコードする遺伝子は、L. acidophilusとの共培養で発現を亢進した。また、S. thermophilus
(TS20)の生菌、及びL. lactisの死菌との共培養も若干、発現を亢進した。
【0029】
一方、図5が示すように、LARCをコードする遺伝子は、E. coliとの共培養で顕著に発現を亢進した。B. infantis 及びL.
lactisとの共培養は、LARCをコードする遺伝子の発現を亢進する傾向にあった。また、生菌よりも死菌が発現を亢進した。従って、B. infantis及びL.
lactisは、腸に疾患を持つヒトへの投与は避けた方がよいと考えられる。また、S. thermophilus
(TS20)の生菌との共培養は若干発現を亢進した。
また、図6及び図7が示すように、E. coliとの共培養はIL-8及びIP-10をコードする遺伝子の発現を亢進した。また、B. infantisと L.
lactisとの共培養はIL-8及びIP-10をコードする遺伝子の発現を亢進した。
【0030】
実施例2
供試細菌の菌体濃度の変化がCaco-2の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。Caco-2と共培養する乳酸菌(又は大腸菌)の菌体濃度を変化(1x108
CFU/ml、1x109
CFU/ml、1x1010 CFU/ml又は1x1011 CFU/mlを200μl使用)させた以外は実施例1と同様に試験した。
【0031】
その結果を図8〜10に示す。図8〜10が示すように、E. coliとの共培養は菌体の濃度依存的にCaco-2の炎症誘導性ケモカイン(LARC、IL-8、及びIP-10)の発現を亢進した。
乳酸菌に関しては、各菌種で傾向が異なっていたが、アレルギー疾患予防効果を有することが知られているL. GGと同様にL. casei CL10との共培養はケモカインを誘導しなかった。従って、L. casei CL10 はL. GGと同様にプロバイオティクス機能を有する乳酸菌であることが判明した。
【0032】
実施例3
本菌を含有した機能性食品の製造例を以下に示す。
まず、牛乳、糖質、香料などの原料を混合タンクに入れ混合し、乳原料のミックスをつくり、125℃の温度で2秒間、加熱・殺菌した。その後、上記処理を行った原料を混合タンクに入れ、スターターとしてのL. casei CL10培養液を1%接種し、容器に詰め、発酵室で40℃の温度に保ち、8時間発酵させその後冷却して、機能性食品となるヨーグルトを製造した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】TJP1をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図2】TGFβ1をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図3】SOCS4をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図4】Claudin1をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図5】LARCをコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図6】IL-8をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図7】IP-10をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図8】微生物の濃度変化に対するLARCをコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図9】微生物の濃度変化に対するIL-8をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。
【図10】微生物の濃度変化に対するIP-10をコードする遺伝子の亢進状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌と腸上皮細胞を共培養した後、当該腸上皮細胞における指標となりうる遺伝子発現を測定することからなる乳酸菌のスクリーニング方法。
【請求項2】
指標となる遺伝子が、TJP1 (Tight junction protein 1)、SOCS4
(Suppression of cytokine signalling 4)、TGFβ1 (Transforming growth factor β1)、Claudin 1、LARC (Macrophage inflammatory
protein 3α)、IL-8 (Interleukin-8)及び/又はIP-10 (Interferon-gamma-inducible 10kD protein)をコードする遺伝子である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
TJP1、SOCS4、TGFβ1及びClaudin 1をコードする遺伝子のいずれかの発現を亢進させる、又はLARC、IL-8及びIP-10をコードする遺伝子のいずれかの発現を亢進させない乳酸菌。
【請求項4】
TJP1、SOCS4、TGFβ1及びClaudin 1をコードする遺伝子のいずれかの発現を亢進させる、又はLARC、IL-8及びIP-10をコードする遺伝子のいずれかの発現を亢進させない乳酸菌を含む機能性食品。
【請求項5】
受託番号NITE P−220として寄託されているラクトバチルス
カゼイ CL10 (Lactobacillus casei CL10)及び受託番号NITE P−221として寄託されているストレプトコッカス
サーモフィルス TS20 (Streptococcus thermophilus TS20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−143544(P2007−143544A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124774(P2006−124774)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年4月30日 日本アレルギー学会事務所発行の「アレルギー 第54巻 第3・4号」に発表
【出願人】(502196050)国立成育医療センター総長 (8)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【出願人】(505159560)日本ルナ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】