説明

二次電池の充電状態推定装置

【課題】二次電池の充電状態を異常状態においても適切に推定する。
【解決手段】制御部26は、充放電電流から電流オフセットを差し引いた充放電電流を積算してSOCを推定する。また、測定モデルにより二次電池30の端子電圧を推定し、電圧測定部22で測定された端子電圧との誤差及びゲインを用いてSOCをそれぞれ補正する。制御部26は、二次電池30の異常状態において、測定モデルの不確かさの重みと電圧検出手段の不確かさの重みのいずれかを変化させてゲインを変化させ、SOCを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の充電状態推定装置に関し、特に拡張カルマンフィルタを用いた充電状態の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の二次電池の充電状態(SOC:State of Charge)を推定し、推定したSOCに基づいて二次電池の充放電を制御する技術が知られている。
【0003】
下記の特許文献には、バッテリに流れる充放電電流、バッテリの温度及び端子電圧を測定するセンシング部と、充放電電流を積算してバッテリのSOCを推定する予測部と、バッテリ温度、充放電電流、SOC、及び充放電電流の時間変化率のうちの少なくともいずれか1つに従って、測定モデルにより発生する誤差に対応する情報を生成するデータリジェクション部と、測定モデル及び誤差に対応する情報を利用して推定されたバッテリのSOCを修正する測定部とを含むバッテリ管理システムが開示されている。データリジェクション部は、具体的にはモデル化されたバッテリの等価回路を測定モデルに設定し、測定モデルにより発生する誤差の分散に対応するゲインを生成する。そして、測定モデル誤差の分散ゲインを利用してカルマンゲインを生成し、生成されたカルマンゲインを利用して、推定されたSOCを修正する。
【0004】
具体的には、予測部は、状態方程式を利用して、状態変数(x)であるバッテリのSOC及び拡散インピーダンスに印加される電圧Vdiffを予測する。予測部は、予測した状態変数及び状態変数の推定誤差に対する共分散を生成して測定部に供給する。測定部は、予測部で予測されたSOCと電圧Vdiffを利用して測定できる値、すなわちバッテリの端子電圧を予測する。測定部は、SOCとOCVとの間の非線形性を解決し、カルマンフィルタを使用するために微分形式の方程式を使用する。そして、測定部は、予測されたSOC及び電圧Vdiffを修正するためのカルマンゲインを生成する。カルマンゲインは、共分散を最小化する値に定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−10420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術では、温度,SOC,電流の時間変化率及び電流の大きさに対して各々信頼できる期間と信頼できない期間とを設定し、区間により誤差の分散を調整している。すなわち、信頼できる期間では誤差の分散は予め設定された一定の値に固定されるが、信頼できない区間ではデータリジェクション部により変更される。例えば、電流の大きさが所定の基準値を超えて信頼できない区間では誤差の分散の値が増加し、カルマンゲインは減少し、予測部で予測したSOCが測定部で測定モデルにより修正される範囲が減少する。
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、予測されたSOCを修正するためにカルマンフィルタを用い、修正するための重みを予め設定しているが、バッテリが過充電等の異常状態になった際には充電効率が悪化するため測定モデルの精度が低下するにもかかわらず、予め設定された固定的な重みでSOCを修正しており、電池の異常状態を迅速に検出できない問題がある。
【0008】
本発明の目的は、二次電池の充電状態を推定するとともに、推定された充電状態を二次電池の測定モデルを用いて推定された充電状態を補正する際に、二次電池の異常状態においても充電状態を適切に検出できる二次電池の充電状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、二次電池の充電状態推定装置であって、前記二次電池の端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記二次電池の充電状態を推定する充電状態推定手段と、所定の測定モデルにより前記二次電池の端子電圧を推定する端子電圧推定手段と、前記測定モデルの不確かさを示す重みと前記電圧検出手段の不確かさを示す重みを用いて算出されるゲインに基づき、推定された前記充電状態を補正するための補正値を算出する補正値算出手段と、算出された補正値を用いて推定された前記充電状態を補正する充電状態補正手段とを備え、前記補正値算出手段は、前記二次電池の状態に応じて前記測定モデルの不確かさを示す重みと、前記電圧検出手段の不確かさを示す重みの少なくともいずれかを変化させて前記ゲインを変化させることを特徴とする。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、前記ゲインは、前記測定モデルの不確かさを示す重みが大きいほど大きく、前記電圧検出手段の不確かさを示す重みが小さいほど大きい特性を備え、前記測定モデルの不確かさを示す重みは、前記測定モデルの不確かさが大きいほど大きい特性を備え、前記電圧検出手段の不確かさを示す重みは、前記電圧検出手段の不確かさが大きいほど大きい特性を備え、前記補正値算出手段は、前記二次電池の状態に応じて前記電圧検出手段の不確かさを示す重みを相対的に小さくして前記ゲインを増大させる。
【0011】
また、本発明の他の実施形態では、前記補正値算出手段は、前記二次電池の過充電状態である場合に前記ゲインを変化させる。
【0012】
また、本発明の他の実施形態では、前記二次電池の過充電状態は、前記二次電池の端子電圧、前記二次電池の温度上昇率、前記二次電池の内圧の少なくともいずれかが閾値を超えたか否かにより検出される。
【0013】
また、本発明の他の実施形態では、前記充電状態推定手段は、前記電流検出手段に含まれる電流オフセットを推定し、該電流オフセットにより前記電流検出手段で検出された充放電電流を補正して前記二次電池の充電状態を推定し、推定された端子電圧と前記電圧検出手段で検出された端子電圧との誤差を用いて、推定された前記電流オフセットの補正値を算出するオフセット補正値算出手段と、前記オフセット補正値算出手段で算出された補正値を用いて、推定された前記電流オフセットを補正するオフセット補正手段を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二次電池の異常状態において、測定モデルの不確かさを示す重みと、電圧検出手段の不確かさを示す重みの少なくともいずれかを変化させてゲインを変化させることにより、重みを一定としている場合に比べて二次電池の異常状態においても二次電池の充電状態を適切に推定することができる。これにより、例えば過充電状態においてもその充電状態を適切に推定でき、推定した充電状態に基づいて二次電池の過充電状態を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態のシステム構成図である。
【図2】実施形態の二次電池及び電池ECUの構成図である。
【図3】実施形態の制御部の機能ブロック図である。
【図4】分極電圧の等価回路図である。
【図5】起電力と充電状態SOCとの関係を示すグラフ図である。
【図6】実施形態の処理フローチャートである。
【図7】2つのモデルを用いた電流オフセットシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【図8】重みRと端子電圧との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について、ハイブリッド電気自動車を例にとり説明する。なお、本実施形態では電気自動車の1つであるハイブリッド電気自動車を例示するが、駆動源としてモータを備える他の電気自動車にも適用可能である。
【0017】
1.基本構成
図1に、ハイブリッド電気自動車の概略構成を示す。車両ECU10は、インバータ50、エンジンECU40を制御する。エンジンECU40は、エンジン60を制御する。電池ECU20は、充電状態推定装置として機能し、二次電池30から電池電圧V,充放電電流I、電池温度T等の情報を受信して二次電池30の充電状態(SOC)を推定する。また、電池ECU20は、二次電池30のSOCや電池温度等の電池情報を車両ECU10に送信する。車両ECU10は、各種電池情報に基づいてエンジンECU40やインバータ50等を制御することで、二次電池30の充放電を制御する。
【0018】
二次電池30は、モータ52に電力を供給する。インバータ50は、二次電池30の放電時に、二次電池30から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ52に供給する。
【0019】
エンジン60は、動力分割機構42、減速機44及びドライブシャフト46を介して車輪に動力を伝達する。モータ52は、減速機44及びドライシャフト46を介して車輪に動力を伝達する。二次電池30に充電が必要な場合、エンジン60の動力の一部が動力分割機構42を介して発電機54に供給され、充電に利用される。
【0020】
車両ECU10は、エンジンECU40からのエンジン60の運転状態の情報やアクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、シフトレバーで設定されるシフトレンジ等の運転情報や電池ECU20からのSOC等の電池情報に基づいて、エンジンECU40やインバータ50に制御命令を出力し、エンジン60やモータ52を駆動させる。
【0021】
図2に、二次電池30及び電池ECU20の構成を示す。二次電池30は、例えば電池ブロックB1〜B20を直列に接続して構成される。電池ブロックB1〜B20は、電池ケース32に収容される。電池ブロックB1〜B20は、それぞれ複数の電池モジュールを電気的に直列接続して構成され、各電池モジュールは、複数の単電池(セル)を電気的に直列接続して構成される。電池ケース32内には、複数の温度センサ34が設けられる。
【0022】
次に、電池ECU20の構成について説明する。
【0023】
電圧測定部22は、二次電池30の端子電圧を測定する。電圧測定部22は、電池ブロックB1〜B20それぞれの端子電圧を測定し、制御部26に出力する。制御部26は、電圧計測値を記憶部28に格納する。制御部26への電圧データの出力は、予め設定された周期、例えば100msecで行われる。制御部26は、各電池ブロックB1〜B20の端子電圧を合計することで電池電圧Vを算出する。
【0024】
電流測定部23は、二次電池30の充放電時における充放電電流Iを測定し、制御部26に出力する。制御部26は、電流計測値を記憶部28に格納する。電流測定部23は、例えば充電時をマイナス、放電時をプラスとして電流計測値を生成する。
【0025】
温度測定部24は、二次電池30の電池温度を測定し、制御部26に出力する。制御部26は、温度データを記憶部26に格納する。
【0026】
制御部26は、DCIR(内部抵抗)部261,分極電圧算出部262,起電力算出部263,充電状態推定部264,拡張カルマンフィルタ(EKF)265,及び補正部266を備える。制御部26は、充放電電流Iに基づいて二次電池30の充電状態(SOC)を推定する。具体的には、充放電電流Iを積算して二次電池30のSOCを推定し、測定モデルにより発生する誤差に対応する情報を生成する。そして、測定モデル誤差の分散ゲインを利用してカルマンゲインを生成し、生成されたカルマンゲインを利用して、推定されたSOCを補正あるいは更新する。
【0027】
図3に、制御部26の詳細な機能ブロック図を示す。制御部26は、所定の測定モデルに基づき、DCIR部261で算出される内部抵抗電圧降下分と、分極電圧算出部262で算出される長期分極電圧及び短期分極電圧と、起電力算出部263で算出される起電力を用いて二次電池30の端子電圧を推定する推定部267と、電圧測定部22で測定された電圧と推定端子電圧との誤差を算出する誤差算出部268と、誤差を用いてカルマンゲインを生成し、各種の補正値を算出する拡張カルマンフィルタ(EKF)265と、算出された補正値を用いて補正する補正部266とを備える。起電力算出部263は、充電状態推定部264で充電電流を積算して得られる推定SOCを、所定の起電力マップを用いて起電力に換算して算出する。拡張カルマンフィルタ(EKF)265は、補正値として、電流センサオフセット補正値(第1補正値)及びSOC補正値(第2補正値)を算出するとともに、長期分極電圧補正値(第3補正値)、短期分極補正値(第4補正値)を算出する。補正部266は、電流センサオフセット補正値を用いて電流測定部23に含まれる電流センサオフセット推定値を補正するとともに、SOC補正値を用いて充電状態推定部264で算出された推定SOCを補正する。また、補正部266は、長期分極電圧補正値及び短期分極補正値を用いてそれぞれ長期分極電圧及び短期分極電圧を補正する。
【0028】
以下、制御部26におけるSOCの推定方法について説明する。ゲイン(カルマンゲイン)とは、上記したように、推定SOCを補正する補正値を算出するための伝達関数であるが、本実施形態では、ゲインの算出に、測定モデルで算出する推定端子電圧と電圧検出手段で算出する端子電圧との誤差に加え、測定モデルの不確かさを示す重みと電圧検出手段の不確かさを示す重みも考慮する。具体的には、測定モデルで算出する端子電圧と電圧検出手段で算出する端子電圧の利用比率(いずれをより用いるか)を考慮してゲインを生成する。すなわち、電池状態に応じて、この利用比率を変化させることでゲインを変化させ、好適な補正値を算出する。以下、より具体的に説明する。
【0029】
2.SOCの推定方法
制御部26は、電流測定部23からの電流計測値には電流センサオフセットが含まれているとみなし、電流センサオフセット推定値δIを設定し、電流計測値Iと電流センサオフセット推定値δIとの差分演算を行う。すなわち、I−δIを演算する。差分値は、DCIR(内部抵抗)部261、分極電圧算出部262、及び充電状態推定部264に供給される。
【0030】
DCIR(内部抵抗)部261は、予め電流計測値と電圧計測値の組をプロットし、その一次近似直線の傾きから二次電池30のDCIR(内部抵抗)を算出し、このDCIRを用いた電圧降下(電圧ドロップ)分を演算する。すなわち、DCIR・(I−δI)を演算する。DCIR部は、演算結果を端子電圧推定部267に出力する。
【0031】
分極電圧算出部262は、分極電圧の等価回路モデルに基づいて分極電圧を演算する。分極電圧は、電流計測値に基づいて演算される。分極電圧には、短期分極電圧と長期分極電圧があり、分極電圧算出部262は、短期分極推定値及び長期分極推定値を演算する。分極電圧算出部262は、それぞれの演算結果を端子電圧推定部267に出力する。
【0032】
充電状態推定部264は、電流計測値から電流センサオフセットを差し引いた分(I−δI)を積算してSOC推定値を演算する。充電状態推定部264は、電流を積算して得られたSOC推定値を起電力算出部263に出力する。
【0033】
起電力算出部263は、予めSOCと起電力との関係を規定した起電力マップをメモリに記憶しており、起電力マップを参照してSOC推定値に対応する起電力を求める。起電力算出部は、求めた起電力を端子電圧推定部267に出力する。
【0034】
端子電圧推定部267は、予め定めた測定モデルに基づいて二次電池30の電圧を推定する。測定モデルは、放電の場合と充電の場合で異なり、放電の場合には、
【数1】

であり、このモデルから電圧は
【数2】

となる。
【0035】
一方、充電の場合には、
【数3】

であり、このモデルから電圧は
【数4】

となる。
但し、
x:状態推定値
Vpl:長期分極
Vps:短期分極
δI:電流センサオフセット推定値
u=I:計測電流値
y=Vb:計測電圧値
Cpl:分極電圧の等価回路モデルにおける長期分極キャパシタ
Cps:分極電圧の等価回路モデルにおける短期分極キャパシタ
Rpl:分極電圧の等価回路モデルにおける長期分極抵抗
Rps:分極回路の等価回路モデルにおける短期分極抵抗
DCIR:内部抵抗
ηc:充電効率
τδI:電流センサオフセットの相関時間
Vemf(SOC):SOC推定値から算出された起電力
である。また、本実施形態では、電流センサオフセットを、時間変化量が現在の値によって決まる、いわゆるECRP(Exponentially correlated Random Process)でモデル化して、δI(・)=−δI/τδI+σ(2/τδI0.5ωとしている。ここで、(・)は時間微分を表し、ωはランダムノイズを表す。
【0036】
図4に、分極電圧の等価モデルを示す。分極電圧の時間変化は、
【数5】

である。
【0037】
また、図5に、起電力マップ、すなわちSOC推定値と起電力との関係を規定するマップの一例を示す。
【0038】
端子電圧推定部267は、上記の(2)式あるいは(4)式に従って、長期分極電圧Vpl、短期分極電圧Vps、SOC推定値から算出された起電力Vemf(SOC)、及び内部抵抗降下分DCIR(I−δI)を用いて計測電圧Vbを算出する。
【0039】
誤差算出部268は、電圧測定部22で実測された電圧計測値と、端子電圧推定部267で算出された計測電圧Vbとの差分、すなわち測定モデルにより発生する誤差を算出する。算出された誤差は、拡張カルマンフィルタ(EKF)265に供給される。
【0040】
拡張カルマンフィルタ(EKF)265は、測定モデル誤差の分散ゲインを利用してカルマンゲインを生成し、生成されたカルマンゲインを利用して、SOC補正値を算出するとともに、電流センサオフセット補正値、長期分極補正値、短期分極補正値を算出する。これらの補正値は、補正部266に供給される。
【0041】
SOC補正値は、SOCを補正する補正部266に供給される。補正部266は、SOC補正値を用いて充電状態推定部264で得られたSOC推定値を補正する。補正後のSOCは、車両ECU10に送信される。
【0042】
電流センサオフセット補正値は、電流センサオフセットを補正する補正部266に供給される。補正部266は、電流センサオフセット補正値を用いて電流センサオフセット推定値を補正する。
【0043】
長期分極補正値及び短期分極補正値は、それぞれの補正部266に供給され、長期分極推定値及び短期分極推定値の補正に用いられる。
【0044】
図6に、本実施形態における処理フローチャートを示す。まず、測定モデルを線形化する(S101)。非線形システムは、
【数6】

であり、xは状態ベクトル、uは入力ベクトル、関数fはxとuについて非線形な関数である。これを、xの微分がxに依存しないゲインとなるように近似する。すなわち、連続時間では、
【数7】

であり、離散時間では、
【数8】

である。ここで、Aは状態行列、Bは入力行列である。Aは、具体的には、(1)式、(3)式を微分して得られ、放電の場合には、
【数9】


であり、充電の場合には、
【数10】

である。
【0045】
離散化されたAの(k−1)成分Adk−1は、
【数11】

で与えられる。ここで、Eは、
【数12】

である。ΔTは、離散時間における最小の時間単位(サンプリング時間)である。ソフトウェアによる処理では、動作周期(例えば100msec)が最小の時間単位として用いられる。
【0046】
線形化した後、次に、時間更新処理を行う(S102)。時間更新処理は、
【数13】

である。なお、ハット( ^ )は推定値を表す。また、
【数14】

は時間更新状態推定値であり、
【数15】

は観測更新状態推定値である。
【0047】
また、誤差共分散推定値は、
【数16】

である。Pは、真の状態と推定値の誤差の共分散値であり、状態数×状態数の行列で本実施形態では4×4である。xkを真の状態とすると、誤差は
【数17】

であり、誤差共分散推定値は、
【数18】

である。対角成分が状態推定値の誤差共分散値である。具体的には、
【数19】

【数20】

【数21】

【数22】

である。
【0048】
また、(16)式におけるQは、状態推定誤差の重み行列であり、
【数23】

で定義される。例えば、分極モデルによる長期分極の推定誤差が0.1Vと推定できるならば、Q1=0.1となる。
【0049】
時間更新処理を行った後、線形化を行う(S103)。すなわち、
【数24】

である。
【0050】
最後に、観測更新処理を行う(S104)。観測更新処理は、
【数25】


【数26】


【数27】


である。xkにおける(−)は補正値で補正される前の値であり、(+)は補正値で補正された後の更新値である。ここで、(27)式の右辺第2項が補正値であり、カルマンゲイン、すなわち観測更新ゲインを
【数28】


として算出される。具体的に示すと、長期分極電圧推定値、短期分極電圧推定値、SOC推定値、電流センサオフセット推定値は、それぞれ
【数29】


【数30】


【数31】


【数32】


によって更新処理される。
【0051】
なお、(25)式におけるRは、計測誤差の重み行列であり、
【数33】


として定義される。式(33)から分かるように、電圧計測の不確かさ、すなわち電圧計測の誤差が大きくなると重み行列Rの値は大きくなる。言い換えれば、電圧計測の誤差が小さく電圧計測の信頼性が高い場合には、重み行列Rの値は小さくなる。重み行列Qについても同様であり、式(23)を再び参照すれば分かるように、測定モデルの不確かさ、すなわち推定誤差が大きくなると重み行列Qの値は大きくなる。言い換えれば、測定モデルの推定誤差が小さく測定モデルの信頼性が高い場合には、重み行列Qの値は小さくなる。
【0052】
したがって、状態推定誤差の重み行列Qと計測誤差の重み行列Rのバランスを調整することで、測定モデルに基づく推定と観測値のいずれをより用いるかを設定することができる。例えば、測定モデルの推定精度が高く信頼性が高い場合にはQ<Rとすることで測定モデルによるSOC推定を重視する。一方、測定モデルと実際のずれが大きいことが想定される場合には、Q>Rとすることで計測電圧に基づくSOC推定を行うようにできる。定性的には、測定モデルの信頼性が低いと評価される場合には、Qを相対的に大きくするか、あるいはRを相対的に小さくする。すなわち、二次電池が通常状態におけるQをQ0、RをR0とし、二次電池30が異常状態となって測定モデルの信頼性が低下していると評価される場合には、そのときのQをQ0より相対的に大きくし、あるいはそのときのRをR0よりも相対的に小さくする。二次電池30の異常状態は、例えば過充電状態であり、二次電池30の計測電圧が所定の上限閾値を超えたか(過充電状態)により検出することができる。このときの計測電圧は、二次電池30の異常状態を正確に反映しているものと考えられるから、計測電圧の増大とともにRを相対的に小さくして、計測電圧に基づくSOC推定を行う。
【0053】
なお、式(16)及び式(25)から分かるように、ゲインKkの分母にR、分子にQが存在しているため、Qが大きくなる、あるいはRが小さくなるとゲインKkは大きくなる特性を有する。簡易的には、ゲインKkは、Q/Rに略比例するといえる。式(31)を参照すると、SOC値(補正後)=SOC値(補正前)+Kk(計測電圧値−モデル推定電圧値)であり、補正後のSOC推定値はゲインKkが増大すると大きくなるから、Rを相対的に小さくするとゲインKkが増大し、結果としてSOCの推定値も大きくなる。したがって、過充電状態においてRを小さくすることでSOC推定値が大きくなり、二次電池30の過充電状態に応じた適切なSOC推定値を出力することができる。すなわち、仮に計測電圧が上限閾値を超えてもRの値を固定しておくと、測定モデルの信頼性低下に起因して二次電池30の本来のSOC値よりも低いSOC値を推定して出力してしまうおそれがあるが、本実施形態では、Rを相対的に小さく変化させることでSOC値を増大補正し、二次電池30の本来のSOC値に近づけることができる。
【0054】
図8に、計測電圧に応じたRの変化の様子を示す。計測電圧が閾値Tr1以下の場合には、Rは一定値、例えば10である。この一定値は、式(33)により、事前に設定された電圧計測の不確かさにより決定される。
【0055】
一方、計測電圧が閾値Tr1を超えると、Rは小さくなるように補正され、例えば5に設定される。さらに、計測電圧が閾値Tr2(Tr1<Tr2)を超えると、Rはさらに小さくなるように補正され、例えば1に設定される。このようなRの変化は、言い換えれば計測電圧が増大するに従い、電圧計測の不確かさが小さくなる(電圧計測の信頼性が高くなる)ということができる。
【0056】
もちろん、図8は一例であり、計測電圧に対してRが負の相間を有するような任意の関係を規定することができ、計測電圧に対してステップ的にRが変化する場合だけでなく、計測電圧に対して連続的にRが変化するように設定してもよい。
【0057】
また、二次電池30の過充電状態を検出するためには、計測電圧に代えて、二次電池30の温度上昇率を用いることもできる。計測電圧と温度上昇率の2つのパラメータを用いてもよい。例えば、計測電圧が閾値を超え、かつ、温度上昇率が閾値を超えた場合に、Rを小さくする等である。計測電圧あるいは温度上昇率の少なくともいずれかが閾値を超えた場合にRを小さくすることも可能であろう。
【0058】
また、二次電池30の過充電状態を検出するために、二次電池30の内圧を用いてもよい。二次電池30の内圧が閾値を超えた場合にRを小さくする等である。
【0059】
以上のようにして、拡張カルマンフィルタ(EKF)により長期分極電圧推定値、短期分極電圧推定値、電流センサオフセット推定値、SOC推定値をそれぞれ補正するための補正値を算出して補正することができるので、SOC推定の精度を向上させることができる。特に、本実施形態では、二次電池30の過充電状態に応じた適切なSOC値を出力することができ、これにより二次電池30の充電を直ちに中止する等の措置を講じることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、電流センサオフセットを、時間変化量が現在の値によって決まる、いわゆるECRPでモデル化して、δI(・)=−δI/τδI+σ(2/τδI0.5ωとしているが、本発明には、電流センサオフセットを、ω(ランダムノイズ)で時間変化するようモデル化して、δI(・)=ωとする場合も含まれる。この場合、数(1)、(3)、(9)、(10)において、−1/τδIは「0」となる。但し、ECRPを使用したモデルの方が、真の誤差に早く到達し、ばらつきも少ないため好ましい。図7に、ECRPを使用したモデルと、ωで時間変化するモデルのシミュレーション結果を示す。図において、横軸は時間、縦軸は電流センサオフセットδIである。符号100はECRPを使用したモデル、符号102はωで時間変化するモデルを示す。ωで時間変化するモデルでは、真値付近で推定値がばらつくという現象が生じる。これに対し、ECRPを使用したモデルでは推定値が真値に迅速に近づき、ばらつきが生じない。このシミュレーション結果より、ECRPを使用したモデルの方が望ましいことが理解される。
【0061】
また、本実施形態では、推定された端子電圧と、電圧検出手段で検出された端子電圧との誤差から、拡張カルマンフィルタを用いて補正を算出したが、拡張カルマンフィルタに限られず、Unscentedカルマンフィルタや粒子フィルタ等、他の適応フィルタも用いることができる。また、本実施形態では、電流センサオフセット推定の精度を向上させ、ひいてはSOC推定の精度を向上させるため、電流センサオフセット推定値の補正を行っているが、当該補正は必ずしも行わなくてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、二次電池30の異常状態として、過充電状態を例にとり説明したが、充電効率が悪化する他の異常状態においても、同様にRを変化させることができる。要するに、測定モデルの信頼性が低下するような異常状態を検出し、このような異常状態を検出した場合に、Q,Rを一定値に維持するのではなく、Qを相対的に大きくする、あるいはRを相対的に小さくするように変化させることで、測定モデルの不確かさを示す重みと電圧検出手段の不確かさを示す重みの重み付けを変化させればよい。
【符号の説明】
【0063】
10 車両ECU、20 電池ECU、22 電圧測定部、23 電流測定部、26 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の充電状態推定装置であって、
前記二次電池の端子電圧を検出する電圧検出手段と、
前記二次電池の充電状態を推定する充電状態推定手段と、
所定の測定モデルにより前記二次電池の端子電圧を推定する端子電圧推定手段と、
前記測定モデルの不確かさを示す重みと前記電圧検出手段の不確かさを示す重みを用いて算出されるゲインに基づき、推定された前記充電状態を補正するための補正値を算出する補正値算出手段と、
算出された補正値を用いて推定された前記充電状態を補正する充電状態補正手段と、
を備え、
前記補正値算出手段は、前記二次電池の状態に応じて前記測定モデルの不確かさを示す重みと、前記電圧検出手段の不確かさを示す重みの少なくともいずれかを変化させて前記ゲインを変化させる
ことを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記ゲインは、前記測定モデルの不確かさを示す重みが大きいほど大きく、前記電圧検出手段の不確かさを示す重みが小さいほど大きい特性を備え、
前記測定モデルの不確かさを示す重みは、前記測定モデルの不確かさが大きいほど大きい特性を備え、
前記電圧検出手段の不確かさを示す重みは、前記電圧検出手段の不確かさが大きいほど大きい特性を備え、
前記補正値算出手段は、前記二次電池の状態に応じて前記電圧検出手段の不確かさを示す重みを相対的に小さくして前記ゲインを増大させる
ことを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記補正値算出手段は、前記二次電池の過充電状態である場合に、前記ゲインを変化させることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項4】
請求項3記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記二次電池の過充電状態は、前記二次電池の端子電圧、前記二次電池の温度上昇率、前記二次電池の内圧の少なくともいずれかが閾値を超えたか否かにより検出される
ことを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記所定の測定モデルは、前記二次電池の分極電圧の等価回路モデルに基づくことを特徴とする二次電池の状態推定装置。
【請求項6】
請求項5記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記端子電圧推定手段は、前記等価回路モデルにおける長期分極電圧、短期分極電圧、内部抵抗による電圧降下分、及び前記充電状態推定手段により推定された前記充電状態に対応する起電力を用いて端子電圧を推定することを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記補正値算出手段は、拡張カルマンフィルタであることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の二次電池の充電状態推定装置において、
前記充電状態推定手段は、前記電流検出手段に含まれる電流オフセットを推定し、該電流オフセットにより前記電流検出手段で検出された充放電電流を補正して前記二次電池の充電状態を推定し、
推定された端子電圧と前記電圧検出手段で検出された端子電圧との誤差を用いて、推定された前記電流オフセットの補正値を算出するオフセット補正値算出手段と、
前記オフセット補正値算出手段で算出された補正値を用いて、推定された前記電流オフセットを補正するオフセット補正手段と、
を備えることを特徴とする二次電池の充電状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72677(P2013−72677A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210310(P2011−210310)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(399107063)プライムアースEVエナジー株式会社 (193)
【Fターム(参考)】