説明

位置計測装置およびそれを用いた露光装置

【課題】 干渉計と波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの量子化誤差に起因する計測誤差を低減した位置計測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 移動体の位置を計測する干渉計と、前記干渉計の計測光の光路における気体の状態に起因する前記計測光の波長変動を補償する波長補償器と、前記干渉計と前記波長補償器の出力に応じた位置計測値を出力する制御器と、を備える位置計測装置であって、前記制御器は前記干渉計および前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器を含み、前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの分解能が、前記干渉計の出力をデジタル信号に変換するときの分解能よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位置計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光の干渉を利用して移動体の位置を計測する干渉計は、露光装置など様々な分野で利用されている。このような干渉計を利用した位置計測装置では、レーザー光の光路における気体の屈折率変動が波長変動を引き起こすため、波長変動を補償する波長補償器を備える(特許文献1)。
【0003】
特許文献1において、レーザヘッドから照射されるレーザー光はビームスプリッタで分割され、一部は干渉計へ導かれ、一部は波長補償器へ導かれる。干渉計に導かれたレーザー光は、移動体の位置を計測するために利用され、波長補償器に導かれたレーザー光は、干渉計と移動体との間の光路における気体の屈折率変動によって生じるレーザー光の波長変動を補償するために利用される。
【0004】
波長補償器は、干渉計と移動体との間の光路と同等の環境である光路と、真空にされた光路の2つの異なる光路を備え、これらの光路の長さは等しい。これらの光路に同時に2つのレーザー光を導光させ、両者の干渉光を検出することによって、干渉計と移動体との間の光路におけるレーザー光の波長変動を検出する。そして、干渉計と波長補償器のそれぞれの出力にもとづいて波長変動を補償して移動体の位置が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特登録3219349号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の位置計測装置において、干渉計の出力値をD、波長補償器の出力値をDw、干渉計と移動体との間の光路の長さをL、波長補償器におけるレーザー光の光路の長さをLwとすると、補償された計測値Cは以下の式で表される。
C=D−(L/Lw)Dw
ここで、出力値D、Dwはアナログ/デジタル変換器を介してデジタル信号に変換されているため、量子化誤差を含んでいる。また、光路の長さLwは一定であり、補償精度を向上させるために短く設定されるのに対して、光路の長さLは移動体の位置によって変化し、長くなってしまう。このため、出力値Dwの量子化誤差が(L/Lw)倍されることによって、計測値Cに大きな影響を与えてしまうという問題があった。
【0007】
量子化誤差をデジタルフィルタで低減する方法もあるが、移動体の位置制御は高い応答性が要求されることが多く、位相遅れが問題となってしまう。
【0008】
また、量子化誤差を抑えるようにすべてのアナログ/デジタル変換器の分解能を高くすると、コストが高くなってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、干渉計と波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの量子化誤差に起因する計測誤差を低減した位置計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的のために、本願発明は、移動体の位置を計測する干渉計と、前記干渉計の計測光の光路における気体の状態に起因する前記計測光の波長変動を補償する波長補償器と、前記干渉計と前記波長補償器の出力に応じた位置計測値を出力する制御器と、を備える位置計測装置であって、前記制御器は前記干渉計および前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器を含み、前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの分解能が、前記干渉計の出力をデジタル信号に変換するときの分解能よりも高いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、干渉計と波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの量子化誤差に起因する計測誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の位置計測装置を示す図
【図2】波長補償器を示す図
【図3】制御部を示す図
【図4】効果を示す図
【図5】実施例2の位置計測装置を示す図
【図6】実施例3の制御部を示す図
【図7】露光装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施例1)
図1は、移動体1の位置を計測する位置計測装置を示す図である。位置計測装置10は、干渉計2と、波長補償器3と、制御部4とを備え、干渉計2と波長補償器3の出力は制御部4に送信され、制御部4の出力(位置計測値)は駆動制御部8に送信される。
【0014】
レーザーヘッド5から照射されるレーザー光はビームスプリッタ−6により分割され、一部は干渉計2に導かれ、一部は波長補償器3に導かれる。干渉計2に導かれたレーザー光は、干渉計2の内部に配置されたビームスプリッタ−(不図示)によって計測光と参照光に分けられる。計測光は、移動体1に搭載されたミラー7へ照射される。そして、干渉計2は、ミラー7から反射された計測光と参照光とを干渉させる。
【0015】
図2は、波長補償器3を示す図である。波長補償器3は、干渉計2の計測光の光路における気体の状態に起因する計測光の波長変動を補償するために用いられる。波長補償器3は、干渉計11と、長さの等しい2つの光路を備える。2つの光路のうち一方(以下、光路Aとする)は干渉計2と移動体1との間の光路と同等の環境にされており、他方(以下、光路Bとする)は真空にされている。本実施例では、対向して配置されたフランジ12a、12bと、2つのフランジ12a,12bの間に配置され、フランジ12a,12bとともに密閉空間を形成する隔壁13とを用いて2つの光路を形成している。フランジ12a、12bと隔壁13とで囲まれた光路Bを真空にするための真空形成手段として、例えば真空ポンプ(不図示)が使用される。
【0016】
波長補償器3に導かれたレーザー光は、波長補償器3が有する干渉計11に導かれる。干渉計11の内部に配置されたビームスプリッター(不図示)によって計測光と参照光に分けられ、前者は光路Aに導かれ、後者は光路Bに導かれる。すなわち、計測光は透明なフランジ12bを透過して、光路Aを経て、フランジ12aの表面に設けられたミラー14によって反射されて、再び光路Aを経て、干渉計11に導かれる。そして、参照光は透明なフランジ12bを透過して、光路Bを経て、フランジ12aの表面に設けられたミラー14によって反射されて、再び光路Bを経て、干渉計11に導かれる。なお、本実施例では干渉計11はダブルパス方式であるため、光路Aを通る計測光、光路Bを通る参照光は往路と復路でずれている。そして、干渉計11は戻された計測光と参照光とを干渉させる。
【0017】
図3は、制御部4を示す図である。制御部4は、干渉計2、11で干渉された干渉光を検出し、その強度を電気信号(干渉信号)に変換する光検出器21と、増幅器(不図示)と、アナログ/デジタル変換器22と、干渉信号に応じて値をカウントするカウンタ23と、演算器24とを備える。光検出器21は、例えばフォトダイオードを含む。カウンタ23は、カウントされた干渉計2の出力値Dと、干渉計11(波長補償器)の出力値Dwを演算器24に送信する。演算器24は、干渉計2と移動体との間の光路の長さをL、波長補償器におけるレーザー光の光路(光路AまたはB)の長さをLwとしたときに、以下の式にもとづいて計測値Cを算出する。
C=D−(L/Lw)Dw ・・・(1)
そして、制御部4の出力は、移動体を駆動するための駆動制御部8に送信され、駆動制御部8からの信号はアンプを介して移動体を駆動する駆動装置に入力される。駆動装置として、例えば、リニアモータが使用される。
【0018】
ここで、出力値D、Dwはアナログ/デジタル変換器を介してデジタル信号に変換されているため、量子化誤差を含んでいる。また、光路の長さLwは一定であり、補償精度を向上させるために短く設定されるのに対して、光路の長さLは移動体の位置によって変化し、長くなってしまう。このため、出力値Dwの量子化誤差が(L/Lw)倍されることによって、計測値Cに大きな影響を与えてしまう。
【0019】
そこで、本発明では干渉計2の出力値D、波長補償器3の出力値Dwの分解能を示す値をR1、R2としたときに、以下の関係になるように制御器4を設定している。
R1>R2 ・・・(2)
本発明において、波長補償器の出力値Dwの分解能を高く(つまり、R2の値を小さく)することは、以下のような技術的意義を有する。
【0020】
位置決め装置では、干渉計2の分解能を高く(R1の値を小さくする)すると、制御部4のカウンタ23、応答性を低下させないために、演算器24はより速く処理しなければならない。例えば、干渉信号の量子化ビット数を12bitから16bitに変えると分解能を示す値は1/2となるが、このときにカウンタ23は2倍の速さでカウントする必要がある。また、移動体が高速に移動するときにはより速い処理が要求される。しかしながら、カウンタ23や演算器24の性能には制限があるため、干渉計2の分解能を高くすることは制限される。それに対して、波長補償器3は一定の長さを計測しているため、このような制限を受けにくい。すなわち、本発明では波長補償器3の分解能を高くしているので、演算器の処理能力の影響を大きく受けずに量子化誤差を低減することが可能となる。
【0021】
また、出力値Dwの量子化誤差が(L/Lw)倍されるため計測値に対する影響が大きいが、本発明はこの影響が大きいDwの量子化誤差を低減することによって効果的に計測誤差を低減するようにしている。
【0022】
分解能を設定するに際して、移動体1と干渉計2との間の光路の長さが最大となるときを考慮することが好ましい。具体的には、最大となる光路の長さをLmaxとしたときに、以下の式(条件式)を満たすように分解能を示す値R2を設定する。
Lw/Lmax ≧ R2/R1 ・・・(3)
このように分解能を設定することによって、移動体がどの位置にいても波長補償器の出力の量子化誤差が計測値に与える誤差を低減することができる。
【0023】
なお、干渉計2の出力をアナログ/デジタル変換器21により高い分解能で量子化し、演算器24で処理する際に低い分解能で処理するようにしてもよい。この場合でも、演算器の処理能力による制限を緩和することができる。
【0024】
図4は、本発明の効果を示す図である。移動体1を静止した状態において、干渉計2の出力値Dと波長補償器3の出力値Dwから計測値Cを(1)式にもとづいて算出した結果である。横軸は時間[msec]、縦軸は計測値[nm]である。移動体1は静止しているため、計測値の変動(静止位置を0としている)は主として波長変動によるものである。なお、移動体1を静止させた状態での移動体1と干渉計2との間の光路の長さは、波長補償器3の光路の長さよりも大きく設定している。波長補償器3の出力値の分解能を示す値R2を干渉計2の出力値の分解能を示す値R1と等しくしたものを破線で示し、値R2をR1/8としたものを実線で示している。図からわかるように、分解能を示す値R2を小さくすることにより計測値の変動が小さくなっている。
【0025】
(実施例2)
図5は実施例2の位置計測装置を示す図であり、図6は実施例2の制御部を示す図である。本実施例は、1つの波長補償器に対して移動体の位置を計測する干渉計を複数設けた点で実施例1と異なる。以下、実施例1と同じ部分については説明を省略する。
【0026】
移動体1に移動体のX方向の位置を計測するためのミラー3aと、Y方向の位置を計測するためのミラー3bが設けられる。干渉計2aは移動体1のX方向の位置を計測し、干渉計2bは移動体1のY方向の位置を計測する。制御部9は、干渉計2a、2b、11で干渉された干渉光を検出し、その強度を電気信号(干渉信号)に変換する光検出器31と、増幅器(不図示)と、アナログ/デジタル変換器32と、干渉信号に応じて値をカウントするカウンタ33と、演算器34とを備える。
【0027】
干渉計2aの出力値Dxおよび干渉計2bの出力値Dyの分解能を示す値をR1、波長補償器3の出力値の分解能を示す値をR2とする。そして、干渉計2aおよび干渉計2bと移動体との間の光路の長さの最大値をL1maxとしたときに、以下の式(条件式)を満たすように分解能R1、R2を設定する。
L2/L1max ≧ R2/R1 ・・・(4)
すなわち、複数方向のうち移動体が最も大きく移動する方向における移動体1と干渉計との間の光路の長さの最大値をL1maxとしている。
【0028】
なお、干渉計の数は2つに限られず、1つの波長補償器に対して位置を計測する干渉計を3つ以上設けてもよい。また、1つの波長補償器に対して移動体と干渉計を複数設けて、それぞれの干渉計で移動体の位置を計測してもよい。
【0029】
(変形例)
上述の実施例2の構成において、干渉計2aと干渉計2bの出力値の分解能を異なるようにすることも可能である。これは、移動方向に応じて最大速度が異なることを考慮したものであり、移動速度が高い方向では分解能を低くし、移動速度が低い方向では分解能を高くして処理能力の制限を緩和することが考えられる。このような場合には、干渉計2aの出力値の分解能を示す値をR1x、干渉計2bの出力値の分解能を示す値をR1yとしたときに以下の2つの式の両方を満たすように分解能を示す値R2を設定する。ここで、干渉計2aと移動体との間の光路の長さの最大値をL1xmax、干渉計2bと移動体との間の光路の長さの最大値をL1ymaxとしている。
L2/L1xmax ≧ R2/R1x ・・・(5)
L2/L1ymax ≧ R2/R1y ・・・(6)
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0030】
(露光装置の例)
以下、図7を参照して、本発明の位置計測装置が適用される例示的な露光装置を説明する。露光装置100は、照明装置101、レチクル(原版)を搭載したレチクルステージ102、投影光学系103、ウエハ(基板)を搭載したウエハステージ105とを有する。露光装置は、レチクルに形成された回路パターンをウエハに投影露光するものであり、ステップアンドリピート投影露光方式またはステップアンドスキャン投影露光方式であってもよい。
【0031】
照明装置101は回路パターンが形成されたレチクルを照明し、光源部と照明光学系とを有する。光源部は、例えば、光源としてレーザを使用する。しかしながら、使用可能な光源はレーザに限定されるものではなく、一又は複数の水銀ランプやキセノンランプなどのランプも使用可能である。
【0032】
照明光学系はマスクを照明する光学系であり、レンズ、ミラー、ライトインテグレーター、絞り等を含む。
【0033】
投影光学系103は、複数のレンズ素子のみからなる光学系、複数のレンズ素子を少なくとも一枚の凹面鏡とを有する光学系、複数のレンズ素子と少なくとも一枚のキノフォームなどの回折光学素子とを有する光学系、全ミラー型の光学系等を使用することができる。
【0034】
レチクルステージ102およびウエハステージ105は、たとえばリニアモータによって移動可能である。ステップアンドスキャン投影露光方式の場合には、それぞれのステージは同期して移動する。また、レチクルのパターンをウエハ上に位置合わせするためにウエハステージおよびレチクルステージの少なくともいずれかに別途アクチュエータを備える。
【0035】
実施例1および実施例2の位置計測装置は、ウエハステージ105またはレチクルステージ102の位置を計測するために好適に使用される。
【0036】
このような露光装置は、半導体集積回路等の半導体デバイスや、マイクロマシン、薄膜磁気ヘッド等の微細なパターンが形成されたデバイス製造に利用されうる。
【0037】
デバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)は、上述の露光装置を使用して感光剤を塗布した基板(ウエハ、ガラスプレート等)を露光する工程と、その基板を現像する工程と、他の周知の工程と、を経ることにより製造される。
【符号の説明】
【0038】
1 移動体
2,2a,2b 干渉計
3 波長補償器
4,9 制御部
10 位置計測装置
22,32 アナログ/デジタル変換器
100 露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の位置を計測する干渉計と、前記干渉計の計測光の光路における気体の状態に起因する前記計測光の波長変動を補償する波長補償器と、前記干渉計と前記波長補償器の出力に応じた位置計測値を出力する制御器と、を備える位置計測装置であって、
前記制御器は前記干渉計および前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器を含み、
前記波長補償器の出力をデジタル信号に変換するときの分解能が、前記干渉計の出力をデジタル信号に変換するときの分解能よりも高いことを特徴とする位置計測装置。
【請求項2】
前記干渉計の出力をデジタル信号にするときの分解能を示す値をR1、前記波長補償器の出力をデジタル信号にするときの分解能を示す値をR2、前記移動体と前記干渉計との間の光路の長さの最大値をL1max、前記波長補償器の光路の長さをLwとしたときに、
R2/R1 < Lw/L1max
の条件式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の位置計測装置。
【請求項3】
前記移動体の複数方向における位置をそれぞれ計測する複数の干渉計を備え、
前記複数方向のうち前記移動体が最も大きく移動する方向における前記移動体と前記干渉計との間の光路の長さの最大値をL1maxとすることを特徴とする請求項2に記載の位置計測装置。
【請求項4】
前記移動体の複数方向における位置をそれぞれ計測する複数の干渉計を備え、
前記複数方向のそれぞれに分解能、及び前記移動体と前記干渉計との間の光路の長さの最大値が設定されており、各方向で前記条件式を満たすことを特徴とする請求項2に記載の位置計測装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位置計測装置と、基板または原版を搭載して移動する移動体とを備え、前記位置計測装置を用いて前記移動体の位置を計測することを特徴とする露光装置。
【請求項6】
請求項5に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された基板を現像する工程とを備えることを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−266397(P2010−266397A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119809(P2009−119809)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】