説明

作業機の車輪支持構造

【課題】 大きな荷重や偏荷重を支える十分な反力を確保しつつ、組み付け作業が容易で十分な作動範囲を確保できるような前輪又は後輪のサスペンション機構を備える作業機の車輪支持構造に関する。
【解決手段】 前輪1又は後輪2のサスペンション機構44に、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネ39,40を備え、前輪1又は後輪2を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいサスペンションバネ40のみが伸縮し、前記荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネ39,40が伸縮するように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機や乗用型直播機等の作業機における車輪支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機の一例である乗用型田植機では、例えば特許文献1に開示されているように、左右それぞれ1本のサスペンションバネを備えたサスペンション機構を介して左右の前輪又は左右の後輪を支持するように構成したものがあり、水田や路上での走行性能の向上を図っている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−330918号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業機の一例である乗用型田植機では運転席の他に、予備苗を搭載する予備苗のせ台を備えたものが多く、予備苗の搭載量によっては、前輪又は後輪にかかる荷重も大きく異なってくる。特に、作業性を考えた場合には、予備苗を多く積めば積むほど効率的になるため、作業者は、なるべく多くの予備苗を積む傾向にある。そのため、想定している以上に前輪又は後輪にかかる荷重も大きく、作業が進めば予備苗は減っていくため荷重の変動も比較的大きい。乗用型田植機に限らず他の作業機においても作業を効率的に行うため種々の農具や肥料などを搭載する場合が多く、その場合には前述した乗用型田植機の場合と同様に前輪又は後輪にかかる荷重も大きくなる。
【0005】
平坦な路上を走行することが大部分である乗用車に対して、作業機は一般に凹凸のある作業地や傾斜した作業地を比較的低速で走行することが多く機体の姿勢が変化することが多い。そのため、機体左右方向に偏荷重がかかりやすい。
このような大きな荷重や偏荷重をサスペンション機構で支えるためには、反力の大きいサスペンションバネを使用する必要がある。
【0006】
しかし、サスペンションバネの反力を大きくするためには、サスペンションバネの線径を大きくするか又は巻数を増やす必要があり、そうすると、バネの作動範囲が短くなるためサスペンション機構の作動範囲を確保することが難しくなり、また、バネの反力が大きくなることに伴い組み付け作業が困難になる場合が多い。
【0007】
本発明は、前輪又は後輪を支持する荷重が変動する作業機の車輪支持構造において、大きな荷重や偏荷重を支える十分な反力を確保しつつ、組み付け作業が容易で十分な作動範囲を確保できるようなサスペンション機構を構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は作業機の車輪支持構造において次のように構成することにある。
左右の前輪と、左右の後輪とを備えて、前輪又は後輪にサスペンション機構を備える。サスペンション機構は、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネを介して上下変位可能に弾性支持する。前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいサスペンションバネのみが伸縮し、前記荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネが伸縮するように構成する。
【0009】
(作用)
本発明の第1特徴によると、サスペンション機構としてバネ定数の異なる2本のサスペンションバネを備え、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいバネのみが伸縮することにより、バネ反力が小さい状態でサスペンション機構が作動する。一方、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネが伸縮することにより、バネ反力が大きい状態でサスペンション機構が作動する。
【0010】
例えば、設定値の一例として、設定値を作業機の自重に設定した場合には、自重が作用するまでの状態、すなわち、サスペンション機構に全く荷重がかからない状態から作業機の自重がかかるまでの状態はバネ定数の小さいサスペンションバネのみが働く。この場合のサスペンション機構の主な機能は車輪を地面の凹部に接地させ車輪の浮き上がりを防止することである。そのため、サスペンション機構が荷重を受けるわけではなくサスペンション機構に必要な反力は比較的小さい。一方、設定値以上の荷重、すなわち自重以上の荷重が働く場合には、2本のサスペンションバネが働く。この場合のサスペンション機構の主な機能は荷重を支えることであるためサスペンション機構に必要な反力も比較的大きい。以上の例に示したように、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満か設定値以上かにより、2つの異なる荷重条件に適したサスペンション機構を実現できる。
【0011】
通常、サスペンション機構を組み付ける時は、前輪又は後輪を支持する荷重が小さいため、バネ定数の小さいサスペンションバネのみを働かせることにより、バネ反力の小さい状態で組立作業ができる。
【0012】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネの伸縮により大きなバネ反力を得ることができるため、大きな荷重や偏荷重が作用した場合に十分なバネ反力を確保することができる。
【0013】
また、バネ反力の小さい状態でサスペンションバネをサスペンション機構に組み付けることができる。そのため、サスペンション機構の組立作業が容易になり、組立工数を削減することができ、コスト削減を図ることができる。
【0014】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業機の車輪支持構造において次のように構成することにある。
バネ定数の異なる2本のサスペンションバネを受けるための一対の受け部材を伸縮方向に備え、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満では、バネ定数の大きなサスペンションバネの長さが自由長となり、前記バネ定数の大きなサスペンションバネの自由長が前記一対の受け部材の間の距離より短くなるように構成するとともに、バネ定数の小さなサスペンションバネの自由長が前記一対の受け部材の間の距離より長くなるように構成する。
【0015】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
上記構成を採用することにより、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満では、バネ定数の大きなサスペンションバネは自由長のままで、受け部材との間に隙間を生じた状態で存在しバネ反力は働かない。そのため、バネ定数の小さなサスペンションバネのバネ反力のみが働く。一方、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値以上では、前記バネ定数の大きなサスペンションバネと受け部材との間の隙間がなくなり、バネ定数の小さなサスペンションバネのバネ反力とともにバネ定数の大きなサスペンションバネのバネ反力が働く。
【0016】
本発明の第2特徴によれば、一対の受け部材を伸縮方向に備えることにより、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネを受けるための受け部材をそれぞれ個別に備える必要がなく、サスペンション機構の部品点数を削減できる。また、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネの自由長を上記の構成とすることにより、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいサスペンションバネのみを伸縮させ、前記荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネを伸縮させることができる。
【0017】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によれば、サスペンション機構の部品点数を削減できるため、コスト削減が図れる。また、前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいサスペンションバネのみを伸縮させ、前記荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネが伸縮させることができるため、本発明の第1特徴に示した作業機の車輪支持構造の機能を比較的容易に実現することができる。
【0018】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第1特徴又は第2特徴の作業機の車輪支持構造において次のように構成することにある。
サスペンション機構が最も縮んだ状態では、バネ定数の大きなサスペンションバネが密着状態となる構成とする。
【0019】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1特徴又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第3特徴によれば、サスペンション機構が最も縮んだ状態では、バネ定数の大きなサスペンションバネが密着状態となるように構成することにより、大きな荷重や偏荷重が作用した場合であってもサスペンションバネが収縮限度に達することによりサスペンションバネ自体が荷重受けとなる。そのため、大きな荷重や偏荷重を受けた場合においてもサスペンションバネの収縮限度を超えてサスペンション機構がスライドすることがなく、サスペンション機構の破損を防止することができる。
【0020】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1特徴又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、サスペンションバネ自体が荷重受けとなりサスペンションバネの収縮限度を超えてサスペンション機構がスライドすることがないため、大きな荷重や偏荷重が作用した場合でも壊れにくく信頼性の高いサスペンション機構を実現できる。
【0021】
[IV]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第1〜第3特徴の作業機の車輪支持構造のうちいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
サスペンション機構の2本のサスペンションバネを、それぞれ同心状に内外二重に構成する。
【0022】
(作用)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I][II][III]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
バネ定数の異なる2本のサスペンションバネをサスペンション機構に取り付けようとした場合、それぞれのサスペンションバネを別々に配置することが考えられる。しかし、別々に配置した場合には設置スペースを広く確保する必要がある。
【0023】
本発明の第4特徴によれば、サスペンション機構の2本のサスペンションバネを、それぞれ同心状に内外二重に配置することにより、コンパクトにサスペンション機構に配置することができ、組立作業時やメンテナンス作業時において2本のサスペンションバネを同時に組み付け又は分解することができるため当該作業が効率的になる。
【0024】
(発明の効果)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I][II][III]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4特徴によると、2本のサスペンションバネをコンパクトにサスペンション機構に配置することができるため、低コストのサスペンション機構を実現できる。また、組立作業やメンテナンス作業を効率的に行うことができるため、組立工数を削減でき、コスト削減を図る事ができるとともに、メンテナンス性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[1]
図1に示すように、左右の前輪1、左右の後輪2を備えた機体の後部に、リンク機構3及びリンク機構3を昇降駆動する油圧シリンダ4が備えられており、リンク機構3の後部に苗植付装置5(作業装置に相当)が支持され、機体前部の左右には複数の受け板71を備えた予備苗のせ台70が配備された作業機の一例である乗用型田植機が構成されている。
【0026】
図1に示すように、苗植付装置5は、伝動ケース6、伝動ケース6の後部に回転駆動自在に支持された植付ケース7、植付ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接地フロート9及び苗のせ台10等を備えて構成されている。これにより、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面に植え付ける。
【0027】
図1に示すように、肥料を貯留するホッパー12及び繰り出し部13が運転座席11の後側に固定されており、運転座席11の下側にブロア14が備えられている。接地フロート9に作溝器15が備えられており、繰り出し部13と作溝器15とに亘ってホース16が接続されている。これにより、前述のような苗の植え付けに伴って、ホッパー12から肥料が所定量ずつ繰り出し部13によって繰り出され、ブロア14の送風により肥料がホース16を通って作溝器15に供給され、作溝器15を介して肥料が田面に供給される。
【0028】
[2]
次に、左右の前輪1、左右の後輪2の支持構造について説明する。
図1,3に示すように、機体の前部にミッションケース17が固定され、ミッションケース17の前部に連結された支持フレーム18に、エンジン19が支持されている。角パイプ状の右及び左の機体フレーム21が、ミッションケース17の後部に連結されて後方に延出されており、ミッションケース17の後部と右及び左の機体フレーム21とに亘って、側面視三角形状の補強部材20が連結されている。
【0029】
図1,4,5に示すように、ミッションケース17の右及び左の横側面から右及び左の前車軸ケース23が延出されて、右及び左の前車軸ケース23の端部に円筒状の支持部23aが斜め前方下方に向いて備えられている。左右の前輪1を支持する前輪支持部24が、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されている。
【0030】
図2及び図3に示すように、ミッションケース17の下部にピットマンアーム25が縦軸芯P8周りに揺動自在に支持され後向きに延出されて、前輪支持部24とピットマンアーム25とに亘ってタイロッド26が接続されている。図1に示すように、ピットマンアーム25を揺動操作する操縦ハンドル27が備えられており、操縦ハンドル27によりピットマンアーム25を揺動操作することによって、左右の前輪1を操向操作する。
【0031】
図1,3,4に示すように、後車軸ケース28が備えられて、後車軸ケース28に左右の後輪2が支持されている。断面コ字状で縦長の右及び左のブラケット22が後車軸ケース28の前部に固定され、右及び左のブラケット22の上部の横軸芯P2周りに、右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、右及び左の機体フレーム21の中間部に固定されたブラケット21aの横軸芯P3周りに、右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されている。
【0032】
図3,4,6に示すように、右及び左のブラケット22の下部に支持ピン31が横外向きに固定されて、支持ピン31の横軸芯P4周りに右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、ミッションケース17の後部の下部の横軸芯P5周りに、右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されている。右及び左の機体フレーム21に受け部21bが固定されて、支持ピン31に受け部31aが固定されており、右及び左の機体フレーム21の受け部21bと支持ピン31の受け部31aとに亘って、右及び左のサスペンションバネ32(後輪サスペンション機構に相当)が取り付けられている。左の機体フレーム21の後端の前後軸芯P6周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持され、後車軸ケース28の右の後部の前後軸芯P7周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持されている。
【0033】
これにより、図3,4,6に示すように、後車軸ケース28が右及び左のサスペンションバネ32により上下動及びローリング自在に支持され、右及び左の上リンク29、右及び左の下リンク30により後車軸ケース28の前後方向の位置が決められ、ラテラルロッド34により後車軸ケース28の左右方向の位置が決められる。
【0034】
[3]
次に、左右の前輪1への伝動構造及び前輪1のサスペンション機構44について説明する。
図1,4に示すように、ミッションケース17の左の横側部に静油圧式無段変速装置33が連結されており、エンジン19の動力が静油圧式無段変速装置33に伝動ベルト35を介して伝達されている。静油圧式無段変速装置33の動力が、ギヤ式の副変速装置(図示せず)及び前輪デフ機構(図示せず)を介して、図5に示すように、右及び左の前車軸ケース23の内部に配置された伝動軸53に伝達される。右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに、ベアリング55を介してベベルギヤ56及び受け部材57が支持され、伝動軸53に固定されたベベルギヤ54とベベルギヤ56とが咬合している。伝動軸58がスプライン構造によりベベルギヤ56及び受け部材57と一体回転及びスライド自在に取り付けられ、伝動軸58の下端にベベルギヤ59が固定されている。
【0035】
図5に示すように、前輪支持部24に右(左)の前輪1を支持する車軸60、車軸60に固定されたベベルギヤ61が備えられ、前輪支持部24の上端に円筒状のスリーブ62が固定されている。前輪支持部24及びスリーブ62がベアリング63により伝動軸58に回転自在に支持され、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aとスリーブ62との間にシール部材64が備えられて、ベベルギヤ59,61が咬合している。スリーブ62に内嵌されたベアリング63に受け部材65が当て付けられている。以上の構成により、静油圧式無段変速装置33から伝動軸53に伝わった動力が伝動軸58及び車軸60を介して左右の前輪1に伝達される。
【0036】
前輪支持部24が右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持され、前輪支持部24の縦軸芯P1の方向へのスライドに対して内側サスペンションバネ39と外側サスペンションバネ40が作用する。
【0037】
図5はサスペンション機構44が最も伸びた状態を示す。外側サスペンションバネ40は内側サスペンションバネ39よりもバネ定数が小さく設定されており、自由長から圧縮された取付長さで受け部材57と受け部材65との間に備えられている。最も伸びた状態で外側サスペンションバネ40に反力を持たせたのは、バネ反力により受け部材65を安定させ、バネのずれや破損を防止するためである。一方、内側サスペンションバネ39は自由長で受け部材65の上部に、外側サスペンションバネ40と縦軸芯P1に対し同心状に内外二重に設置されている。内側サスペンションバネ39の自由長は、受け部材57と受け部材65との間の距離より短く設定されており、受け部材57と内側サスペンションバネ39の上部が離れた状態で設置されている。
【0038】
サスペンション機構44を組み立てる場合には、通常、図5に示した外側サスペンションバネ40のみが働くので、外側サスペンションバネ40をバネ定数の小さいものに設定することにより、バネ反力が小さい状態で組立でき効率的な作業が可能となり、コスト削減を図れる。
【0039】
図8(イ)は作業機の自重が働いている場合、すなわち、図1の予備苗のせ台70の受け板71に全く苗が載せられていない時のサスペンション機構44の状態を示す。この場合、内側サスペンションバネ39と外側サスペンションバネ40はともにバネ反力が作用している状態で、前輪1に働く荷重を左右それぞれ2本のサスペンションバネ39,40で支えている。作業機の自重が働いている場合に2本のサスペンションバネ39,40で支えるのは、外側サスペンションバネ40の反力をなるべく小さく設定し、内側と外側のサスペンションバネ39,40のバネ反力の差を大きくすることにより、二つの荷重状態、すなわち荷重を支えない状態(組立作業時や地面の凹部に車輪を接地させる場合)と荷重を支える状態(自重以上の荷重が働く場合)で適切なバネ反力を確保するためである。
【0040】
図8(ロ)は、図1の予備苗のせ台70が満載で、受け板71のすべてに苗が載せられている時の、サスペンション機構44が最も縮んだ状態を示す。バネ定数の小さい外側サスペンションバネ40は密着状態にないが、バネ定数の大きい内側サスペンションバネ39は、最大バネ荷重を受けた状態、すなわち密着状態にある。このようにサスペンション機構44が最も縮んだ状態で内側サスペンションバネ39を密着状態にすることにより、内側サスペンションバネ39を荷重受けとして作用させることができる。その結果、図8(ロ)に示すように、サスペンション機構44が最も縮んだ状態で、支持部23aとスリーブ62との間に隙間50及び隙間51を設けることができる。そのため、仮に、想定外の大きな荷重がサスペンション機構44に作用した場合であっても支持部23aとスリーブ62とが互いに干渉し合うことがなく、サスペンション機構44の損傷を防ぐことができ、信頼性の高いサスペンション機構44を実現できる。
【0041】
[4]
次に、後車軸ケース28の左右の後輪2への伝動構造について説明する。
図2,3,4に示すように、ミッションケース17後部の下部に走行出力軸66が備えられ後向き突出して、前輪デフ機構(図示せず)から分岐した動力が走行出力軸66に伝達されている。走行出力軸66の端部に自在継手67が取り付けられ、伝動軸69が円筒継手68を介して自在継手67に接続されている。後車軸ケース28の前部に入力軸38が前向きに突出しており、伝動軸69と入力軸38とが自在継手67を介して接続されている。
【0042】
図2,7に示すように、後車軸ケース28に伝動軸37が備えられ、入力軸38に固定されたベベルギヤ38aが、伝動軸37に固定されたベベルギヤ37aに咬合している。伝動軸37の右及び左の端部に、摩擦多板式のサイドクラッチ41が備えられており、サイドクラッチ41と後輪2を支持する車軸43との間に、伝動軸42が備えられている。これにより、図2及び図4に示すように、静油圧式無段変速装置33の動力が、走行出力軸66、伝動軸69、入力軸38、伝動軸37、右及び左のサイドクラッチ41、ギヤ式減速機構48,伝動軸42,車軸43を介して左右の後輪2に伝達される。
【0043】
前記サイドクラッチ41は、スプリング46により常時はクラッチ入り側に付勢されているが、切り操作可能なシフト部材47を横向きの伝動軸37に挿嵌してあり、操作ハンドル27の所定角度以上の操向操作に連動して旋回内側の後輪2に対する伝動を断つように、前記シフト部材47をクラッチ切り側に操作する操作アーム45と連係されている。
【0044】
図2,7に示すように、後車軸ケース28は中央の後車軸ケース28aと左右の後車軸ケース28bとからなり、操作アーム45は中央の後車軸ケース28aの左右に配設され、ピットマンアーム25と連係ロッド52を介して操縦ハンドル27の回転を伝える。操作アーム45を後車軸ケース28b側に配設せず、後車軸ケース28a側に配設したのは、連係ロッド52の組立作業やメンテナンス作業において、操作アーム45周辺に作業スペースを確保し、作業性を向上させるためである。
【0045】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、左右の前輪1についてのみ、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネ39,40を用いた場合を示したが、左右の後輪2についても同様のサスペンション機構44を採用してもよい。
【0046】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、二つの荷重状態を分ける設定値として作業機の自重がかかった状態を示したが、作業機の荷重状態に合わせ設定値を他の荷重状態に設定してもよい。また、二つの荷重状態に分けて2本のサスペンションバネ39,40を使用したが、さらに複雑な荷重がかかる場合には、2本以上のサスペンションバネを用いたサスペンション機構44を採用してもよい。
【0047】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、乗用型田植機のサスペンション機構44について示したが、サスペンションバネをサスペンション機構44に採用する作業機であれば乗用型田植機に限らず他の作業機でも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】乗用型田植機の全体左側面図
【図2】後車軸ケース、左右の後輪への伝動系を示す平面図
【図3】後車軸ケースの支持構造を示す右側面図
【図4】後車軸ケースの支持構造を示す平面図
【図5】前輪支持部付近の縦断正面図
【図6】後車軸ケース付近の正面図
【図7】後輪支持部付近の横断平面図
【図8】異なる荷重状態における前輪支持部の縦断正面図
【符号の説明】
【0049】
1 前輪
2 後輪
39 サスペンションバネ
40 サスペンションバネ
44 サスペンション機構
57 受け部材
65 受け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の前輪と、左右の後輪とを備えて、前輪又は後輪にサスペンション機構を備え、
前記サスペンション機構は、バネ定数の異なる2本のサスペンションバネを介して上下変位可能に弾性支持され、
前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満ではバネ定数の小さいサスペンションバネのみが伸縮し、前記荷重が設定値以上では2本のサスペンションバネが伸縮するように構成してある作業機の車輪支持構造。
【請求項2】
前記バネ定数の異なる2本のサスペンションバネを受けるための一対の受け部材を伸縮方向に備え、
前輪又は後輪を支持する荷重が設定値未満では、バネ定数の大きなサスペンションバネの長さが自由長となり、前記バネ定数の大きなサスペンションバネの自由長が前記一対の受け部材の間の距離より短くなるように構成するとともに、バネ定数の小さなサスペンションバネの自由長が前記一対の受け部材の間の距離より長くなるように構成した請求項1記載の作業機の車輪支持構造。
【請求項3】
サスペンション機構が最も縮んだ状態では、バネ定数の大きなサスペンションバネが密着状態となる請求項1又は請求項2に記載の作業機の車輪支持構造。
【請求項4】
前記サスペンション機構の2本のサスペンションバネが、それぞれ同心状に内外二重に構成してある請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の作業機の車輪支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−237787(P2007−237787A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59618(P2006−59618)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】