説明

作業車両

【課題】変速操作具13の初期の手動操作方向を感知して補助力アクチュエータ222を正逆回転駆動させ、変速操作具13の手動操作に対して、補助力アクチュエータ222の回転駆動力を補助力として付与する構造を備えた作業車両において、油圧無段変速機53からのトルク反力の影響を抑制して、補助力アクチュエータ222のコンパクト化を図る。
【解決手段】変速操作具13の手動操作にて作動する変速部材227と、補助力アクチュエータ222の駆動にて作動するアシスト部材277とを備える。変速部材227とアシスト部材277とをアーム杆281にて連動連結する。アシスト部材277の作動にて油圧無段変速機53の変速出力を調節するように構成する。変速部材227及びアシスト部材277は、それぞれを位置保持する摩擦部材230,280を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばコンバインやトラクタのように、油圧無段変速機の変速出力を手動操作して、走行機体の前進、停止、後進及びその車速を無段階に変更する変速操作具(主変速レバー)を操縦部に備えたものにおいては、一対のリミットスイッチにて変速操作具の初期の手動操作方向を感知して、各リミットスイッチの感知結果に基づいて電動モータを正逆回転駆動させ、変速操作具の手動操作に対して、電動モータの回転駆動力を補助力として付与するという操作力軽減構造が採用されている(例えば特許文献1等参照)。このような構造を採用すると、変速操作具の手動操作に要する操作力を軽減でき、変速操作具の操作性を向上できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−355228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の操作力軽減構造では、変速操作具が油圧無段変速機の変速出力を調節する出力調節軸に機械的に連動連結されていて、中立状態に戻ろうとする油圧無段変速機のトルク反力は、出力調節軸を介して変速操作具にまで直接伝播される。このため、特許文献1の構造では、変速操作具の回動支点に、摩擦板と皿バネとからなる摩擦部材を設け、当該摩擦部材の摩擦力により、油圧無段変速機からのトルク反力に抗して変速操作具を位置保持していた。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の摩擦部材は、油圧無段変速機からのトルク反力に抗するだけの大きな摩擦力を発揮するものであり、摩擦部材の摩擦力が変速操作具の動作を妨げる方向に働くから、操作力軽減用の電動モータを摩擦部材の摩擦力に抗する高出力のものにせざるを得ない。高出力の電動モータを採用するということは、電動モータを大型化するということでもあるから、操作力軽減構造の配置スペースの面でも限界があり、コスト面でも得策ではなかった。
【0006】
そこで、本願発明は、上記の問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、走行機体に搭載された原動機の動力を変速する無段変速機と、前記無段変速機の変速出力を手動操作する変速操作具と、前記変速操作具の手動操作に伴い前記手動操作への補助力を付与する補助力アクチュエータと、前記変速操作具の手動操作方向を検出する方向検出手段とを備えている作業車両であって、前記変速操作具の手動操作にて作動する変速部材と、前記補助力アクチュエータの駆動にて作動するアシスト部材とを備えており、前記変速部材と前記アシスト部材とがアーム杆を介して連動連結されており、前記アシスト部材の作動にて前記無段変速機の変速出力を調節するように構成されており、前記変速部材及び前記アシスト部材は、それぞれを位置保持する摩擦部材を有しているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記方向検出手段が前記アシスト部材に関連付けて設けられている一方、前記変速部材には、前記走行機体を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作具が連動連結されており、前記駐車ブレーキ操作具の操作にて前記変速操作具を中立位置に位置させるように構成されているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記走行機体における操縦部の一側にあるサイドコラム内に、前記変速部材、前記アシスト部材及び前記アーム杆が配置されており、前記アシスト部材から前記無段変速機への操作力伝達経路中にあるステアリングボックスが、前記操縦部の床下に配置されており、前記ステアリングボックスから突出した入力軸につながる変速ロッドが前記アシスト部材に連動連結されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る作業車両は、走行機体に搭載された原動機の動力を変速する無段変速機と、前記無段変速機の変速出力を手動操作する変速操作具と、前記変速操作具の手動操作に伴い前記手動操作への補助力を付与する補助力アクチュエータと、前記変速操作具の手動操作方向を検出する方向検出手段とを備えている。そして、前記変速操作具の手動操作にて作動する変速部材と、前記補助力アクチュエータの駆動にて作動するアシスト部材とを備えており、前記変速部材と前記アシスト部材とがアーム杆を介して連動連結されており、前記アシスト部材の作動にて前記無段変速機の変速出力を調節するように構成されており、前記変速部材及び前記アシスト部材は、それぞれを位置保持する摩擦部材を有している。
【0011】
このような構成において、中立状態に戻ろうとする前記無段変速機のトルク反力は、前記アシスト部材に向けて伝播されることになるが、前記変速部材及び前記アシスト部材がそれぞれ前記摩擦部材を備えているから、それぞれの前記摩擦部材に、前記トルク反力を分担して受けさせることが可能になる。このため、個々の前記摩擦部材が発揮すべき摩擦力を小さくできることに加えて、前記アシスト部材を駆動させる前記補助力アクチュエータにかかる負荷を軽減できる。従って、前記アシスト部材を比較的小さな回転トルクで駆動でき、前記補助力アクチュエータの小型化・コンパクト化を図れるという効果を奏する。
【0012】
請求項2の発明によると、請求項1に記載した作業車両において、前記方向検出手段が前記アシスト部材に関連付けて設けられている一方、前記変速部材には、前記走行機体を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作具が連動連結されており、前記駐車ブレーキ操作具の操作にて前記変速操作具を中立位置に位置させるように構成されているから、前記駐車ブレーキ操作具を操作した場合、前記変速操作具の中立戻し動作を妨げる方向に作用するのは、直接的には前記変速部材側の前記摩擦部材だけになる。従って、前記駐車ブレーキ操作具の操作に必要な操作力を小さくでき、前記変速操作具の操作力軽減構造を採用したものでありながら、前記駐車ブレーキ操作具の操作性を向上できるという効果を奏する。
【0013】
請求項3の発明によると、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記走行機体における操縦部の一側にあるサイドコラム内に、前記変速部材、前記アシスト部材及び前記アーム杆が配置されており、前記アシスト部材から前記無段変速機への操作力伝達経路中にあるステアリングボックスが、前記操縦部の床下に配置されており、前記ステアリングボックスから突出した入力軸につながる変速ロッドが前記アシスト部材に連動連結されているから、前記操縦部周辺のスペースを有効利用して、前記変速操作具の操作力軽減構造(前記変速部材、前記アシスト部材及び前記アーム杆等)と、前記ステアリングボックスとをコンパクトに配置でき、前記操作力伝達経路を短縮することが可能になる。このため、操作力の伝達精度向上に寄与できる。また、個々の前記摩擦部材が発揮すべき摩擦力を小さくできるため、それぞれの小型化も可能である(厚みを薄くできる)。従って、前記変速操作具の操作力軽減構造(前記変速部材、前記アシスト部材及び前記アーム杆等)を前記サイドコラム内にコンパクトに収容できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】動力伝達系統のスケルトン図である。
【図4】ミッションケース内部のスケルトン図である。
【図5】変速操向制御のための構造を示す正面図である。
【図6】操縦部の右側面図である。
【図7】操縦部周辺の操作力伝達経路を示す右側面図である。
【図8】補助力付与機構の斜視図である。
【図9】補助力付与機構の正面図である。
【図10】図7のX−X視断面図である。
【図11】主変速レバーが中立位置にあるときの補助力付与機構の右側面図である。
【図12】主変速レバーを手動にて前進操作した初期の補助力付与機構の右側面図である。
【図13】主変速レバーを主変速電動モータの補助力を伴って前進操作したときの補助力付与機構の右側面図である。
【図14】補助力付与機構と駐車ブレーキペダルとの連動関係を示す概略説明図である。
【図15】駐車ブレーキペダルを踏み込み操作したときの補助力付与機構を示す概略説明図である。
【図16】安全回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0016】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0017】
刈取装置3とグレンタンク7との間に設けられた操縦部9内には、走行機体1の旋回方向及び旋回速度を変更操作する旋回操作具としての操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方(左側方)に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う変速操作具としての主変速レバー13、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー14、刈取装置3及び脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバー15が設けられている。
【0018】
主変速レバー13は、走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものである。副変速レバー14は、作業状態に応じて後述するミッションケース18内の副変速機構51を変更操作し、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を、中立を挟んで低速と高速の2段階の変速段に設定保持するためのものである。クラッチレバー15は、刈取装置3の動力継断操作手段と脱穀装置5の動力継断操作手段とを1本で兼ねたものであり、サイドコラム12のクランク溝151に沿って前後傾動(回動)可能に構成されている。クラッチレバー15をクランク溝151の後端部に傾動させると刈取クラッチ89及び脱穀クラッチ91(図3参照)が共に切り状態になり、クランク溝151の中途部に傾動させると脱穀クラッチ91のみが入り状態になり、クランク溝151の前端部にまで傾動させると両クラッチ89,91とも入り状態になる。
【0019】
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方で且つ左右走行クローラ2の間には、エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
【0020】
刈取装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取装置3の骨組を構成する刈取フレーム41(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム41の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈取る。
【0021】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25(唐箕ファン)とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。刈取装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸95は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている(図3参照)。
【0022】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。両選別機構24,25による選別を経て一番受け樋27内に集められた精粒等の一番物は、当該一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図3参照)を介してグレンタンク7に送られる。
【0023】
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから、二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図3参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
【0024】
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0025】
(2).コンバインの動力伝達系統
次に、図3及び図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系統について説明する。
【0026】
エンジン17からの動力の一方は、走行クローラ2(刈取装置3)と脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17からの他の動力は排出オーガ8に向けて伝達される。エンジン17から走行クローラ2に向かう分岐動力は一旦、プーリ・ベルト伝動系及びアイドルプーリ87を介して、ミッションケース18のHST機構53,54(詳細は後述する)に伝達される。この場合、エンジン17からの分岐動力は、ミッションケース18のHST機構53,54等にて適宜変速され、ミッションケース18から左右外向きに突出した駆動出力軸77を介して左右の駆動輪90に出力するように構成されている。
【0027】
ミッションケース18は、第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56からなる直進用HST機構53(直進用変速機)と、第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58からなる旋回用HST機構54(旋回用変速機)と、複数の変速段を有する副変速機構51と、左右一対の遊星ギヤ機構68等を有する差動機構52とを備えている(図4参照)。直進用HST機構53及び旋回用HST機構54は、エンジン17の動力を変速して左右の走行クローラ2に伝達する油圧無段変速機を構成している。
【0028】
エンジン17の出力軸49からミッションケース18に向かう動力は、第1油圧ポンプ55から突出した第1ポンプ軸59aに伝達される。直進用HST機構53では、第1ポンプ軸59aに伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。第1ポンプ軸59aと、第2油圧ポンプ57から突出した第2ポンプ軸59bとは、各プーリ112,113、ベルト114及びアイドルプーリ88等の伝動系(図3及び図6参照)を介して動力伝達可能に連結されている。旋回用HST機構54では、第2ポンプ軸59bに伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
【0029】
直進用HST機構53は、操縦部9に配置された主変速レバー13や操向ハンドル10の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0030】
直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62を経由して副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、操縦部9に配置された副変速レバー14の操作にて、直進用モータ軸60からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速、中速又は高速という3段階の変速段に切り換えるものである。なお、副変速の低速・中速間及び中速・高速間には、中立(副変速の出力が0(零)になる位置)が設けられている。
【0031】
副変速機構51のうち上流側にある副変速軸51aは、ワンウェイクラッチ63等を介して、ミッションケース18に突設された刈取PTO軸64に動力伝達可能に連結されている。刈取PTO軸64に伝達された動力は、刈取クラッチ89の入り作動にて、刈取装置3の骨組を構成する横長の刈取入力パイプ42(図1参照)内にある刈取入力軸43を介して、刈取装置3の各装置19〜21に伝達される。このため、刈取装置3の各装置19〜21は、車速同調速度で駆動することになる。副変速機構51のうち下流側にある駐車ブレーキ軸65には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ66が設けられている。
【0032】
副変速機構51の副変速軸51aから駐車ブレーキ軸65に伝達された回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から差動機構52に伝達される。差動機構52は、左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構68を備えている。駐車ブレーキ軸65の副変速出力ギヤ67は、遊星ギヤ機構68と駐車ブレーキ軸65との間の中継軸69に取り付けられた中間ギヤ70に噛み合っており、中間ギヤ70は、サンギヤ軸75に固定されたセンタギヤ76(詳細は後述する)に噛み合っている。
【0033】
左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71の外周に噛み合う複数個の遊星ギヤ72と、これら遊星ギヤ72の外周に噛み合うリングギヤ73と、複数個の遊星ギヤ72を同一半径上に回転可能に軸支してなるキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。左右の遊星ギヤ機構68の間に位置したサンギヤ軸75の中央部には、中間ギヤ70と噛合うセンタギヤ76が固着されている。サンギヤ軸75のうちセンタギヤ76を挟んだ両側にはサンギヤ71がそれぞれ固着されている。
【0034】
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する左右の各リングギヤ73は、その内歯を複数個の遊星ギヤ72に噛み合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸77に回転可能に軸支されている。駆動出力軸77の先端部には駆動輪90が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、各キャリヤ74の駆動出力軸77から左右の駆動輪90に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を駆動させることになる。
【0035】
旋回用HST機構54においては、操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0036】
実施形態では、ミッションケース18内に、操向ブレーキ79を有する操向ブレーキ軸78と、操向クラッチ81を有する操向クラッチ軸80と、左右リングギヤ73の外歯に常時噛み合う左右の入力ギヤ82,83とを備えている。第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61に、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80が連結されている。操向クラッチ軸80には、正転ギヤ84を介して右入力ギヤ83が連結されていると共に、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85を介して左入力ギヤ82が連結されている。
【0037】
旋回用モータ軸68の回転動力は、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80に伝達され、操向クラッチ軸80に伝達された回転動力は、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85から、これらに対応する左右の入力ギヤ82,83に伝達される。
【0038】
副変速機構51を中立にして、操向ブレーキ79を入り状態とし且つ操向クラッチ81を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。中立以外の副変速出力時に、操向ブレーキ79を切り状態とし且つ操向クラッチ81を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、正転ギヤ84及び右入力ギヤ83を介して右リングギヤ73に伝達される一方、正転ギヤ84、逆転ギヤ85及び左入力ギヤ82を介して左リングギヤ73に伝達される。その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)することになる。
【0039】
以上の構成から分かるように、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51及び差動機構52を経由して左右の走行クローラ2の駆動輪90にそれぞれ伝達される。その結果、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
【0040】
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力はセンタギヤ76から左右のサンギヤ71に同一回転数で伝達され、両遊星ギヤ機構68の遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行することになる。
【0041】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58が駆動すると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左遊星ギヤ機構68が正又は逆回転し、右遊星ギヤ機構68は逆又は正回転する。そうすると、左右の走行クローラ2の駆動輪90のうち一方が前進回転、他方が後退回転するため、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。
【0042】
また、第1油圧モータ56を駆動させつつ第2油圧モータ58を駆動させると、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回することになる。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0043】
さて、図3に示すように、エンジン17からの動力のうち脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ91を介して脱穀入力軸92に伝達される。脱穀入力軸92には風選別機構25(唐箕ファン)が設けられている。脱穀入力軸92に伝達された動力の一部は、扱胴駆動軸93及びべベルギヤ機構94を介して、扱胴23の回転軸95と排稈チェン37とに伝達される。また、脱穀入力軸92からは、プーリ及びベルト伝動系を介して、一番コンベヤ29と揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30と還元コンベヤ34と二番処理胴35、揺動選別機構24の揺動軸97、排塵ファン36の排塵軸98、及び排稈カッタ38にも動力伝達される。排塵軸98を経由した分岐動力は、フィードチェンクラッチ99及びフィードチェン軸100を介してフィードチェン6に伝達される。
【0044】
なお、脱穀入力軸92からの動力は、刈取装置3に一定回転力を伝達する流し込みクラッチ101を介して刈取入力軸43にも伝達可能である。すなわち、ミッションケース18を経由せずに、エンジン17からの動力を刈取装置3に直接伝達することにより、車速の速い遅いに拘らず、一定の高速回転数にて刈取装置3を強制駆動させ得る構成になっている。
【0045】
エンジン17から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構102及び動力継断用のオーガクラッチ103を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ104及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ105に動力伝達され、次いで、受継スクリュー106を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ107に動力伝達される。
【0046】
(3).変速操向制御のための構造
次に、図5〜図7を参照しながら、走行機体1の車速及び進行方向を調節する変速操向制御のための構造について説明する。
【0047】
操縦部9の底面を構成するステップ床部材191(図6参照)のうち操縦座席11の前方には、上下に延びる操向入力軸192が配置されている。操向入力軸192の上端側には、上自在継手194を介してハンドル軸193の下端部が連結されている。ハンドル軸193の上端部には、丸形の操向ハンドル10が取り付けられている。上自在継手194の屈曲動作にて操向ハンドル10の取り付け位置を前後方向に変更することにより、操向ハンドル10がオペレータの体格等に見合った位置に調節される。操向入力軸192の下端側は、ステップ床部材191の下面側にあるステアリングボックス200から上向きに突出した入力中継軸195に、下自在継手196を介して連結されている。
【0048】
ステアリングボックス200は、ステップ床部材191を支持する箱枠状のステップフレーム197内に配置されている。実施形態では、ステップフレーム197における下矩形枠部の内周側に、平面視L字状の支持パイプ198が固定されている。ステアリングボックス200は、ステップフレーム197の下矩形枠部及び支持パイプ198上に載置された状態で取外し可能に取り付けられている。なお、ステアリングボックス200は、作動油を封入した密閉構造になっている。また、ステアリングボックス200の下面は、左右走行クローラ2の上面より高い高さ位置にある。
【0049】
ステアリングボックス200には、主変速レバー13及び操向ハンドル10に対する出力制御機構としての機械式連動機構(図示省略)が内蔵されている。主変速レバー13や操向ハンドル10は、機械式連動機構を介して、各HST機構53,54の制御軸205,208に連動連結されている。実施形態では、ミッションケース18の上部に、直進用HST機構53と旋回用HST機構54とが、旋回用を前に直進用を後ろにして並べて配置されている。
【0050】
詳細は省略するが、機械式連動機構は、
1.主変速レバー13を中立以外の操作位置に傾動操作(直進用HST機構53から直進出力)した状態で、操向ハンドル10を中立以外の位置に回動操作(旋回用HST機構54から旋回出力)すると、操向ハンドル10の回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速(前進時又は後進時の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー13を前進又は後進のいずれの方向に傾動操作した場合であっても、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する(操向ハンドル10を左に回せば走行機体1が左旋回し、操向ハンドル10を右に回せば走行機体1は右旋回する)、
3.主変速レバー13が中立位置(直進用HST機構53からの直進出力が零)にあるときには操向ハンドル10を操作しても機能しない(旋回用HST機構54の旋回出力が零に維持される)、
という各種動作を実行するために、主変速レバー13や操向ハンドル10からの操作力を適宜変換して、ステアリングボックス200の側面から外向きに突出する入力軸としての主変速レバー入力軸201、変速出力軸及び旋回出力軸(共に図示省略)に伝達するように構成されている。
【0051】
図5〜図7に示すように、主変速レバー入力軸201の突出端に主変速アーム202が固着されている。サイドコラム12上の主変速レバー13は、主変速ロッド203及び後述する補助力付与機構220を介して、主変速アーム202に連結されている。主変速レバー13の前後傾動動作によって、主変速レバー入力軸201が回動するように構成されている。この場合、主変速アーム202に主変速ロッド203の一端側(下端側)が回動可能に連結されている。主変速ロッド203の他端側(上端側)は、補助力付与機構220のアシスト制御板277(詳細は後述する)に回動可能に連結されている。
【0052】
ステアリングボックス200から突出した変速出力軸は、直進用リンク機構204(図4参照)を介して、ミッションケース18の直進用HST機構53から突出した直進制御軸205(図4参照)に連動連結されている。直進制御軸205は、直進用HST機構53における第1油圧ポンプ55の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節する出力制御部に相当するものである。ステアリングボックス200側の変速出力軸の回動にて直進用リンク機構204が変速作動することにより、直進制御軸205が正逆回転するように構成されている。そして、直進制御軸205の正逆回転にて第1油圧ポンプ55の斜板角が調節される結果、第1油圧モータ56の回転数制御又は正逆転切換が実行され、走行速度(車速)の無段階変更や前後進の切換が行われることになる。
【0053】
ステアリングボックス200から突出した旋回出力軸は、走行機体1の進行方向を微調節制御するための油圧シリンダ機構206(図6参照)及び旋回用リンク機構207(図4参照)を介して、ミッションケース18の旋回用HST機構54から突出した旋回制御軸208(図4参照)に連動連結されている。旋回制御軸208は、旋回用HST機構54における第2油圧ポンプ57の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節する出力制御部に相当するものである。ステアリングボックス200側の旋回出力軸の回動にて油圧シリンダ機構206及び旋回用リンク機構207が変速作動することにより、旋回制御軸208が正逆回転するように構成されている。そして、旋回制御軸208の正逆回転にて第2油圧ポンプ57の斜板角が調節される結果、第2油圧モータ58の回転数制御及び正逆転切換が実行され、走行機体1の操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切換が行われることになる。なお、これらの説明から分かるように、機械的連動機構を内蔵したステアリングボックス200は、補助力付与機構220のアシスト制御板277から油圧無段変速機53に向かう操作力伝達経路の途中に位置している。
【0054】
さて、図6及び図7に示すように、サイドコラム12の右側下部(操縦座席11の下方側)には、横向きに延びるペダル支軸210が回動可能に軸支されている。ペダル支軸210のうち操縦部9側(サイドコラム12の外側)に突出した一端部には、駐車ブレーキ操作具の一例である前後長手の駐車ブレーキペダル211の基端側が固着されている。ペダル支軸210のうちサイドコラム12内にある他端部には、ペダル支軸210と一体回動する切換板212が固着されている。切換板212は一対のリンク213,214を介して後述する補助力付与機構220に連動連結されている。
【0055】
駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作していないときは、切換板212及び両リンク213,214が主変速レバー13の前後傾動動作に干渉せず、駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作したときは、切換板212及び両リンク213,214の作用にて主変速レバー13を中立位置に復帰させるように構成されている。実施形態では、切換板212のうちペダル支軸210を挟んだ一方に第1リンク213の基端側が連結され、他方に第2リンク214の基端側が連結されている。両リンク213,214の先端側は、共通の横向きピンにて補助力付与機構220の主変速板227(詳細は後述する)に連結されている。
【0056】
図示は省略するが、切換板212は、ブレーキワイヤを介してミッションケース18内の駐車ブレーキ66(図4参照)に連動連結されている。駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作したときは、主変速レバー13を中立位置に復帰させると共に、ブレーキワイヤの作用にてミッションケース18内の駐車ブレーキ66を制動作動させるように構成されている。なお、サイドコラム12の右側前部には、踏み込み操作した駐車ブレーキペダル211をロックするためのロックレバー215が縦軸回りに回動可能に設けられている。ロックレバー215を回動操作して、ロックレバー215下端側のロックアーム部216を駐車ブレーキペダル211の上面側にある係合溝に嵌合させることによって、駐車ブレーキペダル211の戻り方向への跳ね上げ回動を阻止するように構成されている。
【0057】
(4).主変速レバー及びその周辺の詳細
次に、図7〜図15を参照しながら、主変速レバー13及びその周辺の詳細について説明する。
【0058】
サイドコラム12内には、主変速レバー13の手動回動操作(前後傾動操作)に補助力を付与するための補助力付与機構220が、主変速レバー13に関連付けて配置されている。実施形態では、サイドコラム12内にあるコラムパイプ217の前部縦パイプ部と、コラムパイプ217の水平パイプ部に固定された下向きの中間縦バー219との間に、モータ支持板221がボルト締結されている。モータ支持板221には、互いに平行な横向きの変速回動軸226とアシスト回動軸276とが前後に並べて取り付けられている。変速回動軸226には、変速部材の一例である主変速板227が回動可能に軸支されている。主変速板227は、一対の摩擦板228及び皿ばね229からなる第1摩擦部材230(図8参照)の作用によって、設定トルク以下で変速回動軸226に連動して回動するように構成されている。従って、主変速板227は、皿バネ229にて押圧調節された両摩擦板228の挟持摩擦力によって、変速回動軸226に対して位置保持される。その結果、操作していないときの主変速レバー13が位置保持される。
【0059】
主変速板227の下部側に、第1及び第2リンク213,214の先端側が共通の横向きピンにて連結されている。駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作していない場合において主変速レバー13を前後傾動操作すれば、主変速板227が変速回動軸226回りに回動して両リンク213,214が押し引き作動するものの、各リンク213,214の基端側に形成された長穴によって、両リンク213,214の押し引き動作が切換板212に伝わらない。従って、切換板212及び両リンク213,214が主変速レバー13の前後傾動動作に干渉することはない。駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作したときは、切換板212がペダル支軸210回りに回動して両リンク213,214を押し引き作動させる。このため、主変速板227が変速回動軸226回りに回動して、主変速レバー13を中立位置に復帰させることになる。
【0060】
図9に示すように、主変速板227の左側面上部に、前後に貫通する主変速ボス部材233が固定されている。主変速ボス部材233の上面側には、レバー固定板232が立設されている。レバー固定板232の下端側には、前後に貫通する主変速ボス部材233が固定されている。一方、主変速レバー13における縦長レバー部234の基端側(下端側)には、L字状のピン軸体235が固定されている。ピン軸体235の前向き突状部が主変速ボス部材233に後方から外れ不能に差し込まれている。ピン軸体235の縦長部は、連結補助板236を介してレバー固定板232の上部にボルト締結されている。なお、主変速レバー13の縦長レバー部234は、サイドコラム12のうちクランク溝151より前方に形成された案内溝152(図2参照)を貫通してサイドコラム12上に突出している。主変速レバー13の前後傾動範囲は案内溝152によって規制される。
【0061】
図7に示すように、モータ支持板221の下方に位置する横桟フレーム245には、前後回動可能な二股状感知アーム247を有する主変速位置センサ246が取り付けられている。主変速位置センサ246は、主変速板227の下部側に固着された作動ピン248との当接による二股状感知アーム247の回動角度から、主変速レバー13の(変速回動軸226回りの)操作位置を検出するというポテンショメータ式のものである。
【0062】
アシスト回動軸276は、軸受部材271を介してモータ支持板221に回動可能に軸支されている。アシスト回動軸276においてモータ支持板221を挟んで一方側にはアシストギヤ275が固定されている。また、モータ支持板221においてアシスト回動軸276の前方側に、補助力アクチュエータとしての正逆回転可能な主変速電動モータ222が取り付けられている。アシスト回動軸276に固定されたアシストギヤ275は、主変速電動モータ222のモータ出力軸223に設けられたピニオンギヤ224に噛み合わせている。モータ支持板221には、補助力アクチュエータとしての正逆回転可能な主変速電動モータ222が取り付けられている。モータ支持板221のうち主変速電動モータ222の後方側には、アシストギヤ225が横向きの変速回動軸226にて回動可能に枢着されている。アシストギヤ225は、主変速電動モータ222のモータ出力軸223に設けられたピニオンギヤ224に噛み合わせている。
【0063】
アシスト回動軸276においてモータ支持板221を挟んで他方側(アシストギヤ275と反対側)には、アシスト部材の一例であるアシスト制御板277が回動可能に軸支されている。アシスト制御板277は、側面視略三角形の板状に形成されていて、主変速板227と同様に、一対の摩擦板278及び皿ばね279からなる第2摩擦部材280(図8及び図9参照)の作用によって、設定トルク以下でアシスト回動軸276に連動して回動するように構成されている。アシスト制御板277における下部後方の頂部に、主変速ロッド203の他端側(上端側)が回動可能に連結されている。アシスト制御板277は、皿バネ279にて押圧調節された両摩擦板278の挟持摩擦力によって、アシスト回動軸276に対して位置保持される。すなわち、主変速レバー13を操作していない状態では、第2摩擦部材280の作用によってアシスト制御板277が位置保持される。
【0064】
中立状態に戻ろうとする油圧無段変速機53のトルク反力は、ステアリングボックス200内の機械的連動機構や主変速ロッド203等を経由してアシスト制御板277に伝播されるが、アシスト制御板277だけでなく主変速板227も、摩擦部材280,230の作用によって位置保持されるため、それぞれの摩擦部材230,280が、前記トルク反力を分担して受けることになる。
【0065】
図7〜図14に示すように、主変速板227の上部側とアシスト制御板277の上部側とは、アーム杆281を介して連動連結されている。この場合、主変速板227とアシスト制御板277とは平行リンクの関係になっている。アシストギヤ275とピニオンギヤ224との噛み合いによって、主変速電動モータ222からの回転駆動力は、アシスト制御板277からアーム杆281及び主変速板227を介して主変速レバー13に伝達される。その結果、主変速レバー13が変速回動軸226回りに前後傾動することになる。
【0066】
主変速板227の上部側には、アーム杆281の一端側が横向きの枢支ピン282にて回動可能に枢支されている。アシスト制御板277の上部側には、アシスト回動軸276を曲率半径の中心とする円弧状の遊嵌穴283が形成されている。図10に示すように、アシスト回動軸276の軸受部材271には、ボス筒体272が回動可能に被嵌されている。ボス筒体272に上向き突設された軸固定板284の上部側には、アーム杆281の他端側を貫通してアシスト制御板277の遊嵌穴283に差し込まれる摺動軸285が突設されている。主変速レバー13の手動傾動操作の初期において、主変速板227は、主変速レバー13の傾動とほぼ同じタイミングで変速回動軸226回りに回動するが、アシスト制御板227は、アーム杆281他端側の摺動軸285が嵌る遊嵌穴283の遊び隙間の分だけ遅れて、アシスト回動軸276回りに回動することになる。
【0067】
アシスト制御板277における下部前方の頂部には、センサ固定板286が設けられている。センサ固定板286には、主変速レバー13の初期の手動傾動操作方向(前進(増速)方向か後進(減速)方向か)を検出する方向検出手段としての方向検出センサ287が取り付けられている。実施形態では、ボス筒体272に固定されたS字湾曲状のピン固定板288の先端側に検出ピン289が固着されている。そして、方向検出センサ287に回動可能に設けられた感知アーム290を、ボス筒体272側の検出ピン289に当接させている。アーム杆281や遊嵌穴283との関係上、ボス筒体272は主変速板227と同様に、主変速レバー13の傾動とほぼ同じタイミングでアシスト回動軸276回りに回動する(ボス筒体272がアシスト制御板277より先に回動開始する)。このことを利用して、方向検出センサ287は主変速レバー13の初期の手動傾動操作方向を検出するように構成されている。
【0068】
図5及び図6に示すように、主変速レバー13には、補助力付与機構220(主変速電動モータ222)の駆動の可否を選択操作する選択手段としてのアシストスイッチ250が設けられている。実施形態では、アシストスイッチ250を許可(押下)操作したときのみ、補助力付与機構220(主変速電動モータ222)が駆動して主変速レバー13の手動傾動操作に補助力を付与するように構成されている。実施形態のアシストスイッチ250は、押下状態を維持する間だけ主変速電動モータ222に電力供給する自動復帰形のプッシュスイッチ(モーメンタリスイッチともいう)を採用しており、主変速レバー13の握り部251に設けられている。
【0069】
上記の構成において、主変速レバー13の握り部251を掴んでアシストスイッチ250を押下した状態で、主変速レバー13を前後傾動操作すると、その初期段階では、主変速板227が変速回動軸226回りに回動してアーム杆281を押し引き移動させる。そうすると、アーム杆281他端側の摺動軸285が、アシスト制御板277の遊嵌穴283内を移動する。このとき、摺動軸285の移動に伴い、ボス筒体272が軸受部材271回りに回動し、ピン固定板288の検出ピン289が方向検出センサ287の感知アーム290を回動させ、ボス筒体272ひいては主変速レバー13の初期の手動傾動操作方向が検出される(図12参照)。
【0070】
それから、感知アーム290の挙動に応じた方向検出センサ287の検出結果に基づいて、主変速電動モータ222がピニオンギヤ224、ひいてはアシストギヤ275を正逆回転駆動させ、アシスト制御板277がアシストギヤ275と共に、アシスト回動軸276回りに正逆回動する。アシスト制御板277の正逆回動はアーム杆281及び主変速板227を介して主変速レバー13に伝達され、主変速レバー13を前記初期の手動傾動操作方向と同じ方向に変速回動軸226回りに回動させる(図13参照)。すなわち、主変速レバー13の初期の手動傾動操作に伴って、主変速電動モータ222が手動傾動操作に補助力を付与するのである。
【0071】
そして、アシスト制御板277のアシスト回動軸276回りの回動に伴い、主変速ロッド203が押し引きされ、その押し引き力がステアリングボックス200内の機械式連動機構を経由して、ミッションケース18における直進用HST機構53の直進制御軸205に伝達される。その結果、車速の無段階変更や前後進の切換が行われる。
【0072】
その後、主変速レバー13の握り部251(アシストスイッチ250)から手を離すと、アシストスイッチ250が切り状態になり、バッテリ253(図16参照)から主変速電動モータ222への電力供給が遮断され、主変速電動モータ222が駆動停止する。その結果、主変速レバー13が所定の操作位置に保持されることになる。
【0073】
また、図7、図14及び図15に示すように、主変速レバー13が前進又は後進の操作位置(中立位置以外の操作位置)にある場合において、駐車ブレーキペダル211を踏み込み操作すると、駐車ブレーキペダル211の下向き回動に連動して切換板212がペダル支軸210回りに回動し、両リンク213,214を押し引き作動させる。そうすると、主変速板227が変速回動軸226回りに回動して中立状態になり、主変速レバー13を中立位置に復帰させる。このとき、主変速板227の変速回動軸226回りの回動は、アーム杆281を介してアシスト制御板277に伝達され、アシスト制御板277をアシスト回動軸276回りに回動させて中立状態にする。そして、アシスト制御板277の回動によって主変速ロッド203を押し引き作動させ、その押し引き力をステアリングボックス200内の機械式連動機構に伝達して、直進用HST機構53の直進制御軸205を中立位置に戻す。その結果、走行機体1が停止することになる。この場合、主変速電動モータ222は駆動せず、主変速レバー13や直進制御軸205の中立戻し動作に一切関与しないのである。
【0074】
(5).安全回路及びその関連構造
次に、主として図16を参照しながら、補助力付与機構220に関連させた安全回路252及びその関連構造について説明する。
【0075】
主変速レバー13のアシストスイッチ250は、走行機体1に設けられた安全回路252(図16参照)に関連付けられている。安全回路252は、主変速電動モータ222とこれに電力を供給するバッテリ253とを接続してなるものである。安全回路252中に、選択手段としてのアシストスイッチ250が直列に接続されている。
【0076】
すなわち、バッテリ253の出力端子+には、自動復帰形のアシストスイッチ250が接続されている。バッテリ253の入力端子−は接地されている。安全回路252のうちアシストスイッチ250と主変速電動モータ222との間には、3位置切換形の方向検出センサ287の可動接点287cが分岐して接続されている。方向検出センサ287の前進(増速)側固定接点287aは、前進(増速)側リレー254におけるコイル部255の入力側に直列に接続されている。コイル部255の出力側は接地されている。方向検出センサ287の後進(減速)側固定接点287bは、後進(減速)側リレー260におけるコイル部261の入力側に直列に接続されている。コイル部261の出力側は接地されている。主変速レバー13を前進方向に傾動操作した場合は、方向検出センサ287の可動接点287cが前進側固定接点287aに接触し、主変速レバー13を後進方向に傾動操作した場合は、可動接点287cが後進側固定接点287bに接触する。
【0077】
安全回路252のうち主変速電動モータ222の上流側には、前進側リレー254における常開形のスイッチ部256のA接点257が接続されている。主変速電動モータ222の下流側には、後進側リレー260における常開形のスイッチ部262のA接点263が接続されている。前進側リレー254におけるスイッチ部256の可動接点259と、後進側リレー260におけるスイッチ部262の可動接点265との間に、主変速電動モータ222が設けられている。前進側リレー254におけるスイッチ部256のB接点258と、後進側リレー260におけるスイッチ部262のB接点264とは接地されている。
【0078】
上記の構成において、主変速レバー13の握り部251を掴んでアシストスイッチ250を押下した状態で、主変速レバー13を前進方向に傾動操作し、方向検出センサ287の感知アーム290を回動させると、方向検出センサ287の可動接点287cが前進側固定接点287aに接触する。そうすると、バッテリ253からアシストスイッチ250及び方向検出センサ287を介して、前進側リレー254のコイル部255に電力が供給されて、当該コイル部255が励磁され、前進側リレー254のスイッチ部256が入り状態になる(スイッチ部256の可動接点259がA接点257に接続される)。その結果、主変速電動モータ222が正転駆動(前進(増速)方向に駆動)する。
【0079】
逆に、主変速レバー13の握り部251を掴んでアシストスイッチ250を押下した状態で、主変速レバー13を後進方向に傾動操作し、方向検出センサ287の感知アーム290を回動させると、方向検出センサ287の可動接点287cが後進側固定接点287bに接触する。そうすると、バッテリ253から方向検出センサ287を介して、後進側リレー260のコイル部261に電力が供給されて、当該コイル部261が励磁され、後進側リレー260のスイッチ部262が入り状態になる(スイッチ部262の可動接点265がA接点263に接続される)。その結果、主変速電動モータ222が逆転駆動(後進(減速)方向に駆動)する。
【0080】
主変速レバー13の握り部251(アシストスイッチ250)から手を離すと、アシストスイッチ250が切り状態になり、バッテリ253から主変速電動モータ222への電力供給が遮断され、主変速電動モータ222が駆動停止する。その結果、主変速レバー13が所定の操作位置に保持されることになる。
【0081】
上記の記載並びに図16に示すように、変速操作具13に、補助力アクチュエータ222の駆動の可否を選択操作するための選択手段250を備えており、前記選択手段250を許可操作したときのみ、前記補助力アクチュエータ222が駆動して手動操作に補助力を付与し得るように構成されているから、前記選択手段250の許可操作によって、オペレータが意識的に前記変速操作具13を手動操作して車速又は前後進方向を変化させるようとしていることを確認できることになる。このため、前記補助力アクチュエータ222の誤作動等により、前記変速操作具13が勝手に動いて、意図せず車速が増減速したり走行機体1の前後進方向が変わったりする危険を確実に防止できる。
【0082】
また、前記補助力アクチュエータ222とこれに電力を供給するバッテリ253とを接続した安全回路252を備えており、前記安全回路252中に前記選択手段250が直列に接続されているから、前記補助力アクチュエータ222の駆動にコントローラを介する必要がない。このため、複雑な制御を行うコントローラのエラー・故障等の影響を受けることがなく、簡単な構成でありながら、前記補助力アクチュエータ222の駆動の可否を確実に選択でき、安全性が非常に高まる。
【0083】
更に、前記選択手段250は、押下状態を維持する間だけ前記補助力アクチュエータ222の駆動を許可する自動復帰形のプッシュスイッチであり、且つ前記変速操作具13の握り部251に設けられているから、前記選択手段250から手を離すだけで前記補助力アクチュエータ222を駆動不能にでき、前記選択手段250の操作性が向上するのである。
【0084】
(6).まとめ
上記の記載並びに図7〜図13に示すように、本願発明の作業車両は、走行機体1に搭載されたエンジン17の動力を変速する油圧無段変速機53と、前記油圧無段変速機53の変速出力を手動操作する変速操作具13と、前記変速操作具13の手動操作に伴い前記手動操作への補助力を付与する補助力アクチュエータ222と、前記変速操作具13の手動操作方向を検出する方向検出手段287とを備えている。そして、前記変速操作具13の手動操作にて作動する変速部材227と、前記補助力アクチュエータ222の駆動にて作動するアシスト部材277とを備えており、前記変速部材227と前記アシスト部材277とがアーム杆281を介して連動連結されており、前記アシスト部材277の作動にて前記油圧無段変速機53の変速出力を調節するように構成されており、前記変速部材227及び前記アシスト部材277は、それぞれを位置保持する摩擦部材230,280を有している。
【0085】
このような構成において、中立状態に戻ろうとする前記油圧無段変速機53のトルク反力は、前記アシスト部材277に向けて伝播されることになるが、前記変速部材227及び前記アシスト部材277がそれぞれ前記摩擦部材230,280を備えているから、それぞれの前記摩擦部材230,280に、前記トルク反力を分担して受けさせることが可能になる。このため、個々の前記摩擦部材230,280が発揮すべき摩擦力を小さくできることに加えて、前記アシスト部材277を駆動させる前記補助力アクチュエータ222にかかる負荷を軽減できる。従って、前記アシスト部材277を比較的小さな回転トルクで駆動でき、前記補助力アクチュエータ222の小型化・コンパクト化を図れるという効果を奏する。
【0086】
上記の記載並びに図7、図14及び図15から明らかなように、前記方向検出手段287が前記アシスト部材277に関連付けて設けられている一方、前記変速部材227には、前記走行機体1を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作具211が連動連結されており、前記駐車ブレーキ操作具211の操作にて前記変速操作具13を中立位置に位置させるように構成されているから、前記駐車ブレーキ操作具211を操作した場合、前記変速操作具13の中立戻し動作を妨げる方向に作用するのは、直接的には前記変速部材227側の前記摩擦部材230だけになる。従って、前記駐車ブレーキ操作具211の操作に必要な操作力を小さくでき、前記変速操作具13の操作力軽減構造を採用したものでありながら、前記駐車ブレーキ操作具211の操作性を向上できるという効果を奏する。
【0087】
上記の記載並びに図5〜図7から明らかなように、前記走行機体1における操縦部9の一側にあるサイドコラム12内に、前記変速部材227、前記アシスト部材277及び前記アーム杆281が配置されており、前記アシスト部材277から前記油圧無段変速機53への操作力伝達経路中にあるステアリングボックス200が、前記操縦部9の床下に配置されており、前記ステアリングボックス200から突出した入力軸201につながる変速ロッド203が前記アシスト部材277に連動連結されているから、前記操縦部9周辺のスペースを有効利用して、前記変速操作具13の操作力軽減構造(前記変速部材227、前記アシスト部材277及び前記アーム杆281等)と、前記ステアリングボックス200とをコンパクトに配置でき、前記操作力伝達経路を短縮することが可能になる。このため、操作力の伝達精度向上に寄与できる。また、個々の前記摩擦部材230,280が発揮すべき摩擦力を小さくできるため、それぞれの小型化も可能である(厚みを薄くできる)。従って、前記変速操作具13の操作力軽減構造(前記変速部材227、前記アシスト部材277及び前記アーム杆281等)を前記サイドコラム12内にコンパクトに収容できるという利点もある。
【0088】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 走行機体
9 操縦部
13 主変速レバー(変速操作具)
200 ステアリングボックス
201 主変速レバー入力軸(入力軸)
203 主変速ロッド
211 駐車ブレーキペダル(駐車ブレーキ操作具)
220 補助力付与機構
222 主変速電動モータ(補助力アクチュエータ)
227 主変速板(変速部材)
230,280 摩擦部材
277 アシスト制御板(アシスト部材)
281 アーム杆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載された原動機の動力を変速する無段変速機と、前記無段変速機の変速出力を手動操作する変速操作具と、前記変速操作具の手動操作に伴い前記手動操作への補助力を付与する補助力アクチュエータと、前記変速操作具の手動操作方向を検出する方向検出手段とを備えている作業車両であって、
前記変速操作具の手動操作にて作動する変速部材と、前記補助力アクチュエータの駆動にて作動するアシスト部材とを備えており、前記変速部材と前記アシスト部材とがアーム杆を介して連動連結されており、前記アシスト部材の作動にて前記無段変速機の変速出力を調節するように構成されており、前記変速部材及び前記アシスト部材は、それぞれを位置保持する摩擦部材を有している、
作業車両。
【請求項2】
前記方向検出手段が前記アシスト部材に関連付けて設けられている一方、前記変速部材には、前記走行機体を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作具が連動連結されており、前記駐車ブレーキ操作具の操作にて前記変速操作具を中立位置に位置させるように構成されている、
請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記走行機体における操縦部の一側にあるサイドコラム内に、前記変速部材、前記アシスト部材及び前記アーム杆が配置されており、前記アシスト部材から前記無段変速機への操作力伝達経路中にあるステアリングボックスが、前記操縦部の床下に配置されており、前記ステアリングボックスから突出した入力軸につながる変速ロッドが前記アシスト部材に連動連結されている、
請求項1又は2に記載した作業車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−177108(P2011−177108A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44601(P2010−44601)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】