説明

併用医薬

本発明の医薬では、活性成分として、フィブラート系化合物(フェノフィブラート、ベザフィブラート又はそれらの塩など)及びHMG−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物、例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、又はそれらの塩など)からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤(ボグリボース、アカルボースなど)とを組み合わせる。α−グルコシダーゼ阻害剤の割合は、前記高脂血症治療剤100重量部に対して、0.001〜50重量部程度であってもよい。本発明により、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病及び糖尿病合併症等の予防及び/又は治療効果に優れ、かつ副作用の少ない医薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症等の予防及び/又は治療剤として有用であり、活性成分としてフィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物など)から選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせた医薬(併用医薬)に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブラート系化合物は、肝臓でのトリグセリド合成ないし分泌を抑制することにより、低密度リポタンパク結合性コレステロール及びトリグリセライドを低下させると同時に高密度リポタンパク結合性コレステロールを上昇させる作用を有する薬剤であり、高脂血症の予防・治療剤として広く知られている。
【0003】
スタチン系化合物は、コレステロール生合成経路の律速酵素であるヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG−CoA)還元酵素を阻害することにより、コレステロールの合成を抑制する作用を有する薬剤であり、フィブラート系化合物と同様に高脂血症の予防・治療剤として広く知られている。
【0004】
これまでフィブラート系化合物及びスタチン系化合物は、単独で用いるほか、様々な薬剤と組み合わせることが知られている。例えば、(1)フェノフィブラート及びベザフィブラートと糖尿病治療剤として知られるメトホルミンとを組み合わせたインスリン非依存性糖尿病による高血糖症を緩和するための医薬組成物(例えば、特許文献1参照。)、(2)フェノフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート等とコレステリルエステル転送タンパク質阻害化合物とを組み合わせた高脂血症、アテローム性動脈硬化症又は高コレステロール血症治療剤(例えば、特許文献2参照。)、(3)フェノフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート等と回腸胆汁酸輸送阻害化合物とを組み合わせた高脂血症、アテローム性動脈硬化症又は高コレステロール血症治療剤(例えば、特許文献3参照。)、(4)ロバスタチン、セリバスタチン等とβ遮断薬とを組み合わせたアテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症及び高リポタンパク質血症の予防・治療剤(例えば、特許文献4参照。)、(5)プラバスタチン、セリバスタチン等とインスリン抵抗性改善薬として知られているピオグリタゾン等とを組み合わせることによる炎症性疾患の予防・治療剤として有用なTNF−α抑制剤(例えば、特許文献5参照。)、(6)プラバスタチン、シンバスタチン等と高血圧治療剤であるアムロジピンとを組み合わせた狭心症、アテローム硬化症又は高血圧と高脂血症の合併症の治療剤(例えば、特許文献6参照。)が知られている。
【0005】
一方、α−グルコシダーゼ阻害剤は、アミラーゼ、マルターゼ、α−デキストリナーゼ、スクラーゼ等の消化酵素を阻害し、澱粉やショ糖の消化及び吸収を遅らせる作用を有する薬剤であり、糖尿病等の予防・治療剤として広く知られている。
【0006】
さらに、この糖尿病に罹患している患者の多くが、高脂血症、高血圧症等を併発しており、糖尿病自体の治療と共に、かかる合併症の治療も医学・薬学上の重要課題として残されている。
【0007】
これまでα−グルコシダーゼ阻害剤は、単独で用いるほか、様々な薬剤と組み合わせることが知られている。例えば、(1)α−グルコシダーゼ阻害剤の一つであるアカルボースとリパーゼ阻害剤とを組み合わせた肥満治療剤(例えば、特許文献7参照。)、(2)アカルボース、ボグリボース及びミグリトールとインスリン感受性増強剤とを組み合わせた糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬(例えば、特許文献8参照。)、(3)アカルボース、ボグリボース、ミグリトール等とデオキシフルクトサジンとを組み合わせた2型糖尿病の予防・治療剤(例えば、特許文献9参照。)及び(4)アカルボース、ボグリボース、ミグリトール等と非スルホニルウレア系インスリン分泌促進薬とを組み合わせた糖尿病の予防・治療剤(例えば、特許文献10参照。)が知られている。
【0008】
しかしながら、このα−グルコシダーゼ阻害剤と本発明のフィブラート系化合物又はヒドロキシメチルグルタリル−CoA阻害剤(スタチン系化合物など)とを組み合わせた医薬に関しては知られていない。
【0009】
メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症等の予防及び/又は治療効果に優れ、かつ副作用が低減されるなど、医薬として十分に優れた性質を有する医薬が望まれていた。
【特許文献1】特表2002−502869号公報
【特許文献2】特表2002−533410号公報
【特許文献3】特表2002−533413号公報
【特許文献4】特表2003−528928号公報
【特許文献5】特開2001−294537号公報
【特許文献6】特開2001−514224号公報
【特許文献7】特許第2780932号公報
【特許文献8】特許第3148973号公報
【特許文献9】国際公開第01/47468号パンフレット
【特許文献10】特開2001−316293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、対象疾患(例えば、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症等)の予防及び/又は治療効果に優れる医薬、この医薬(医薬製剤)の製造に用いられる高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤との使用、並びに対象疾患の予防及び/又は治療方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、α−グルコシダーゼ阻害剤を用いるにも拘わらず、α−グルコシダーゼ阻害剤の使用量が少なくても、対象疾患の予防及び/又は治療効果が高く、α−グルコシダーゼ阻害剤の副作用を抑制可能な医薬、この医薬(医薬製剤)の製造に用いられる高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤との使用、並びに対象疾患の予防及び/又は治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、上記のようなメタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症等に有用な医薬を見出すために、種々の物質について鋭意検討を重ねた結果、活性成分(以下、「有効成分」ともいう)としてのフィブラート系化合物及び/又はスタチン系化合物とα−グルコシダーゼ阻害剤とを組合せた組合せ医薬(併用医薬)が、通常の投与量又は少ない投与量でも優れた治療効果を発揮し、かつ副作用を低減できることを見出し、さらに検討を重ね、本発明を完成した。このような組み合わせ医薬は、前述のように、これまで知られているフィブラート系化合物又はスタチン系化合物などの高脂血症治療剤やα−グルコシダーゼ阻害剤をそれぞれ単独で使用する例、前記高脂血症治療剤又はα−グルコシダーゼ阻害剤と他の薬剤との組み合わせた例からは全く予想できないものである。
【0013】
すなわち、本発明の医薬(組合せ医薬)は、(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせた医薬であって、前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬(i)、又は前記高脂血症治療剤(a)を含む医薬とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)である。
【0014】
前記高脂血症治療剤(a)のうち、フィブラート系化合物は、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、フェノフィブリン酸、ゲムフィブロジル又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種であってもよい。前記ヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤は、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種のスタチン系化合物であってもよい。α−グルコシダーゼ阻害剤(b)は、ボグリボース、アカルボース、ミグリトール、エミグリテート又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種であってもよい。前記組合せ医薬において、α−グルコシダーゼ阻害剤(b)の割合は、高脂血症治療剤(a)100重量部に対して、0.001〜50重量部(例えば、0.01〜10重量部)程度であってもよい。本発明の組合せ医薬には、フェノフィブラートとボグリボースとを組み合わせた医薬であって、前記フェノフィブラートとボグリボースとを含む医薬(i)、又はフェノフィブラートを含む医薬とボグリボースを含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)も含まれる。
【0015】
本発明の医薬(組合せ医薬)は、メタボリックシンドロームを予防又は治療するための予防又は治療剤であってもよい。また、前記組合せ医薬は、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝及び肝炎から選択された少なくとも一種の症状を予防又は治療するための予防又は治療剤であってもよい。
【0016】
前記組合せ医薬は、高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬製剤(i)であってもよく、高脂血症治療剤(a)を含む医薬製剤とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬製剤とを組み合わせた医薬製剤(ii)であってもよい。
【0017】
本発明には、医薬製剤を製造するための(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤との使用も含まれる。
【0018】
また、本発明には、α−グルコシダーゼ阻害剤の副作用又は投与量を低減するために使用され、かつ(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせた医薬であって、前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬(i)、又は前記高脂血症治療剤(a)を含む医薬とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)である組合せ医薬も含まれる。
【0019】
本発明の予防又は治療方法では、ヒト又は非ヒト動物に、(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを投与し、対象疾患(メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝及び肝炎から選択された少なくとも一種の症状など)を予防又は治療する。
【0020】
なお、本明細書中、医薬(又は医薬製剤)は、医薬品、医薬部外品なども含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の組合わせ医薬は、高脂血症治療剤として有用なフィブラート系化合物及び/又はヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物など)と、糖尿病、糖尿病合併症等の治療剤であるα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせるので、対象疾患(例えば、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝、肝炎など)の予防及び/又は治療効果を大幅に増強、改善できる。また、高脂血症治療剤及びα−グルコシダーゼ阻害剤をそれぞれ単独に用いた場合に比べて、予防及び/又は治療効果(例えば、血糖値、血清中総コレステロール及び血中トリグリセリド値などの低減効果など)が大幅に改善されるため、活性成分(特に、α−グルコシダーゼ阻害剤)の投与量(使用量)が通常量でも、高い予防及び/又は治療効果が得られるとともに、投与量を低減することもできる。そのため、α−グルコシダーゼ阻害剤の副作用が少なく、安全性の高い医薬品を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本発明の医薬は、フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル(HMG)−CoAリダクターゼ阻害剤から選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤(a)と、α−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを組み合わせた医薬である。
【0023】
本発明に用いられる高脂血症治療剤のうち、フィブラート系化合物は、脂質改善作用、特に血中トリグリセリド及び/又は血中コレステロールなどを低下させる成分又は薬剤であればよく、例えば、肝臓でのトリグリセリド合成ないし分泌を抑制し、リポタンパク質リパーゼを活性化することなどにより、脂質改善作用を示す化合物であってもよい。このようなフィブラート系化合物としては、例えば、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、フェノフィブリン酸、ゲムフィブロジル、又はそれらの塩(例えば、クロフィブラートアルミニウムなど)等が挙げられる。
【0024】
前記フィブラート系化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記フィブラート系化合物のうち、特に、フェノフィブラート、ベザフィブラート、及びこれらの塩(生理学的又は薬学的に許容可能な塩など)等が好ましい。
【0025】
本発明に用いられる高脂血症治療剤のうち、前記HMG−CoAリダクターゼ阻害剤は、ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG−CoA)還元酵素を阻害する成分又は薬剤であって、脂質改善作用、特に血中コレステロールを低下させる薬剤であればよい。このようなHMG−CoAリダクターゼ阻害剤としては、スタチン系化合物などが使用できる。スタチン系化合物としては、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、又はそれらの塩等が挙げられる。HMG−CoAリダクターゼ阻害剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのHMG−CoAリダクターゼ阻害剤のうち、特に、プラバスタチン、アトルバスタチン、及びそれらの塩(生理学的又は薬学的に許容可能な塩など)等が好ましい。
【0026】
なお、前記フィブラート系化合物及びHMG−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物など)には、それぞれの化合物の誘導体(エステルなど)やプロドラッグも含まれる。
【0027】
上記フィブラート系化合物の塩及びスタチン系化合物の塩(生理学的又は薬学的に許容可能な塩など)としては、前記フィブラート系化合物又はスタチン系化合物と、例えば、無機又は有機塩基との塩、無機又は有機酸との塩、中性、塩基性又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、ならびにアルミニウム、アンモニウム等との塩が挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンとの塩;ピリジン、ピコリンなどの複素環式アミンとの塩;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンとの塩;ジシクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミンとの塩;N,N−ジベンジルエチレンジアミンなどのアルキレンジアミン誘導体との塩等が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などのモノカルボン酸との塩;フマール酸、マレイン酸、シュウ酸などの多価カルボン酸との塩、酒石酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸との塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸との塩などが挙げられる。中性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、グリシン、バリン、ロイシン等との塩が挙げられ、塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。前記高脂血症治療剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
本発明に用いられるα−グルコシダーゼ阻害剤は、アミラーゼ、マルターゼ、α−デキストリナーゼ及びスクラーゼ等の消化酵素を阻害し、澱粉やショ糖の消化及び吸収を遅らせる作用を有する薬剤であればよい。このようなα−グルコシダーゼ阻害剤としては、例えば、ボグリボース、アカルボース、ミグリトール、エミグリテート、又はそれらの塩等が挙げられる。塩としては、前記フィブラート系化合物の塩の項で例示の塩(生理学的又は薬学的に許容可能な塩など)などが挙げられる。なお、α−グルコシダーゼ阻害剤には、前記例示のα−グルコシダーゼ阻害剤の誘導体(エステルなど)やプロドラッグも含まれる。これらのα−グルコシダーゼ阻害剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記α−グルコシダーゼ阻害剤のうち、特に、ボグリボース、アカルボース等が好ましい。
【0029】
なお、前記高脂血症治療剤及びα−グルコシダーゼ阻害剤などの有効成分は、光学活性体であってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0030】
本発明の医薬(又は医薬製剤)において、α−グルコシダーゼ阻害剤の割合は、高脂血症治療剤100重量部に対して、0.001〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.001〜50重量部(例えば、0.05〜20重量部)、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.05〜5重量部程度である。なお、フィブラート系化合物とHMG−CoAリダクターゼ阻害剤とを併用する場合、両者の割合(重量比)は、フィブラート系化合物/HMG−CoAリダクターゼ阻害剤=10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30程度であってもよい。
【0031】
前記高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤との組み合わせには、フィブラート系化合物とα−グルコシダーゼ阻害剤との組合せ、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物など)とα−グルコシダーゼ阻害剤との組合せ、フィブラート系化合物及びHMG−CoAリダクターゼ阻害剤とα−グルコシダーゼ阻害剤との組合せが含まれる。このような組合せのうち、特に、フェノフィブラート及び/又はベザフィブラートと、ボグリボースとの組合せ(特に、フェノフィブラートとボグリボースとの組合せ)、フェノフィブラート及び/又はベザフィブラートと、アカルボースとの組合せ、プラバスタチン及び/又はアトルバスタチンとボグリボースとの組合せ、プラバスタチン及び/又はアトルバスタチンとアカルボースとの組合せ等が好ましい。
【0032】
本発明の組合せ医薬では、高脂血症治療剤(フィブラート系化合物及び/又はHMG−CoAリダクターゼ阻害剤)(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを組み合わせて使用すればよく、(i)前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)との双方を含む医薬(医薬組成物又は医薬製剤)であってもよく、(ii)高脂血症治療剤(a)を含む医薬(医薬組成物又は医薬製剤)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬(医薬組成物又は医薬製剤)とを組み合わせた医薬(又は医薬製剤)であってもよい。前記組合せ医薬において、有効成分である高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを、担体成分などを用いることなく、そのまま医薬として用いてもよい。また、前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とは、医薬製剤(又はその製造)に好適に使用され、通常、医薬製剤の形態で用いる場合が多い。なお、本発明には、高脂血症治療剤(a)を含む医薬(又は医薬製剤)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬(又は医薬製剤)とを組み合わせたキットも含まれる。
【0033】
なお、前記医薬(ii)の投与形態は特に制限されず、例えば、高脂血症治療剤(a)を含む医薬(又は医薬製剤)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬(又は医薬製剤)とを一緒に(同時に)投与してもよく、別々に投与に供してもよい。別々に投与する場合、両医薬(又は医薬製剤)のうち一方の医薬を投与した後、時間差をおいて他方の医薬を同一対象に投与してもよい。通常、予め投与した一方の医薬の活性成分の効果が持続している間に、他方の医薬を投与する場合が多い。高脂血症治療剤とα−グルコシダーゼ阻害剤とを別々に投与する場合、活性成分の使用量を低減したり、α−グルコシダーゼ阻害剤の副作用を有効に低減するには、両者を同時に投与したり、一方の医薬を投与した後、速やかに他方の医薬を投与するのが好ましい。なお、高脂血症治療剤を含む医薬(又は医薬製剤)とα−グルコシダーゼ阻害剤を含む医薬(又は医薬製剤)とを、投与に先立って(例えば、投与直前に)、混合(必要により希釈剤などを用いて混合)し、混合物として投与してもよい。
【0034】
前記有効成分(高脂血症治療剤(a)及び/又はα−グルコシダーゼ阻害剤(b))は、通常、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合して製剤化し、医薬製剤(医薬組成物)として投与する場合が多い。
【0035】
医薬(又は医薬製剤)の剤形は、特に制限されず、液剤(懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤、ゼリー剤、グミ剤など)、半固形剤(軟軟膏、硬軟膏などの軟膏剤など)、固形剤[粉末剤、細粒剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤など)、錠剤、圧搾剤、溶融固化剤など]のいずれであってもよい。
【0036】
また、本発明の医薬の投与形態は、特に制限されず、経口投与及び非経口投与のいずれの形態であってもよい。上記医薬組成物のうち、経口剤としては、例えば、顆粒剤(ドライシロップ剤なども含む)、散剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、チュアブル錠なども含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、ゼリー剤、グミ剤等が挙げられる。なお、経口剤には、公知の製剤成分を用いて、有効成分の体内での放出をコントロールした製剤(例えば、速放性製剤、徐放性製剤など)も含まれる。また、非経口剤としては、例えば、注射剤(皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤を含む)、外用剤(経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤、坐剤を含む)等が挙げられる。
【0037】
前記有効成分を含む医薬製剤は、投与経路を問わず、前記有効成分と担体(医薬製剤に適した製剤添加物(「製剤成分」と称する場合もある))とを組合せ、慣用の方法で製剤化(又は製造)できる。すなわち、医薬製剤は、例えば、局方に記載の錠剤、顆粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、トローチ剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、液剤及び懸濁剤の製造法に従って製造することができる。なお、固形製剤は、通常、結合剤、賦形剤、崩壊剤から選択された少なくとも1つの担体(特に、少なくとも賦形剤)を用いて調製できる。例えば、顆粒剤は、押出造粒、噴霧造粒などにより有効成分と担体成分とを造粒し、必要により整粒することにより調製できる。錠剤は、前記造粒物を必要により添加剤とを混合し、圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性を付与する自体公知の方法でコーティングすることにより製造できる。カプセル剤は、カプセルに顆粒剤を充填することにより調製できる。また、粉末剤などの粉状固形剤(例えば、粉状の外用剤など)は、有効成分を、賦形剤、必要により増粘剤などと共に混合することにより調製できる。なお、固形状の坐剤は、有効成分と担体成分と必要により添加剤とを混合して、圧搾器などにより圧搾することにより圧搾剤として調製でき、また、溶融混合した混合物を冷却固化することにより溶融固化剤として調製できる。
【0038】
液剤(ゼリー剤、グミ剤を含む)は、剤型に応じて、有効成分と液体担体成分(精製水などの水性溶剤、油性溶剤、ゲル基剤(水性又は油性のゲル剤など)など)と必要により添加剤(乳化剤、分散剤や懸濁剤、等張化剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、矯味剤、pH調整剤や緩衝剤など)とを混合(例えば、溶解、懸濁、乳化など)することにより調製でき、必要により滅菌処理される。軟膏剤は、有効成分と、担体成分(油性基剤、水性基剤など)と(必要により添加剤と)を、必要により加熱下、混合又は練合することにより調製できる。
【0039】
前記担体(製剤添加物)としては、前記剤型の医薬品を製造する上で通常使用される添加剤が挙げられ、例えば、局方の他、(1)医薬品添加物ハンドブック、丸善(株)、(1989)、(2)医薬品添加物事典、第1版(薬事日報社、1994年1月14日発行)、(3)医薬品添加物事典追補、第1版、(株)薬事日報社(1995)及び(4)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)に収載されている成分(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤など)の中から、投与経路及び製剤用途に応じて適宜選択してもよい。
【0040】
固形剤に用いられる担体成分又は添加剤のうち賦形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;トウモロコシデンプンなどのデンプン;結晶セルロース(微結晶セルロースも含む)などの多糖類などが例示できる。結合剤としては、α化デンプン、寒天、アラビアゴム、デキストリンなどの多糖類;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリ乳酸などの合成高分子;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースエーテル類などが例示できる。崩壊剤としては、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、クロスポピドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示できる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000などが挙げられる。また、固形剤は、添加剤として、崩壊助剤、界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤など)、脂質類(水素添加植物油などの油脂、リン脂質など)、増粘剤(天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重体など)、油性基剤[高級脂肪酸エステル、例えば、高級脂肪酸のグリセリド(カカオ脂、ウイテプゾル類を含む)など;中級脂肪酸(ミグリオール類を含む);植物油(ゴマ油、大豆油、綿実油を含む);ワセリン、流動パラフィン、ロウなどの炭化水素系基剤;セタノール等]、水性基剤(親水ワセリン、マクロゴールなど)、酸化防止剤(抗酸化剤)、保存剤又は防腐剤、湿潤剤、帯電防止剤などを含有してもよい。なお、圧搾剤及び溶融固化剤(固形状の坐剤など)では、前記油性基剤、水性基剤などを担体成分として用いる場合が多い。
【0041】
なお、前記コーティングに使用するコーティング剤としては、例えば、糖類、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びオイドラギット(メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。コーティング剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの腸溶性成分であってもよく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの塩基性成分を含むポリマー(オイドラギットなど)で構成された胃溶性成分であってもよい。
【0042】
液剤(ゼリー剤、グミ剤などを含む)に用いられる担体成分又は添加剤としては、水性溶剤(蒸留水などの精製水、エタノールなどのアルコール性溶媒、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール類(マグロゴールなど)の他、生理的食塩水、リンゲル液などを含む)、油性溶剤(オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、トリカプリリンを含む)、ゲル基剤又はゲル化剤(例えば、天然ガム類又は多糖類(ペクチン、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガントガム、アルギン酸ナトリウム、寒天、カラゲニン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)、セルロース誘導体(前記結合剤の項で例示のセルロースエーテル類など)、合成高分子(前記結合剤の項で例示の合成高分子(ビニル重合体を含む)の他、ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸コポリマーなどのアクリル酸重合体など)、分散剤(ツイーン(Tween)80、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムを含む)、懸濁剤(アラビアガム、ローカストビーンガムなどの多糖類、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエステル類、ノニオン界面活性剤など)、前記例示の界面活性剤、乳化剤、可溶化剤、溶解補助剤(サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムを含む)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖を含む)、粘度調整剤(前記例示の増粘剤など)、保存剤又は防腐剤(メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウムなど)、酸化防止剤、安定剤(ヒト血清アルブミンを含む)、前記例示の糖類、pH調節剤(炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸などの酸成分;水酸化ナトリウムなどの塩基成分を含む)や緩衝剤(酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素ナトリウムなどの有機酸系緩衝剤;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸塩系緩衝剤;ホウ酸、ホウ砂などのホウ酸系緩衝剤など)等が挙げられる。なお、注射剤などの液剤は、添加剤として、無痛化剤(塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインを含む)などを含んでいてもよい。
【0043】
半固形剤に用いられる担体成分又は添加剤としては、油性基剤[高級脂肪酸エステル、例えば、高級脂肪酸のグリセリド(カカオ脂、ウイテプゾル類を含む)など;中級脂肪酸(ミグリオール類を含む);植物油(ゴマ油、大豆油、綿実油を含む)などの前記例示の油性溶剤;ワセリン、流動パラフィン、ロウなどの炭化水素系基剤;セタノール等]、水性基剤(親水ワセリン、マクロゴールなど)、前記固形剤及び液剤の項で例示の各種添加剤(例えば、水性溶剤、pH調節剤、緩衝剤、保存剤又は防腐剤、酸化防止剤など)などが挙げられる。
【0044】
なお、これらの医薬製剤は、矯味剤(例えば、甘味剤など)やマスキング剤、着色剤、矯臭剤(芳香剤など)、清涼化剤、消泡剤などを含有してもよい。
【0045】
本発明の医薬(又は医薬製剤)は、必要により、他の生理活性成分又は薬理活性成分、例えば、ビタミン類、アミノ酸類、制酸剤、生薬成分、酵素類、降圧薬、他の高脂血症治療剤(ニコチン酸又はその誘導体、イオン交換薬、プロブコール、植物ステロールなど)、糖尿病薬(インスリン製剤、血糖降下薬など)などを含有してもよい。
【0046】
なお、前記液剤のpHは、例えば、通常、4〜9、好ましくは5〜8.5、さらに好ましくは5.5〜8.5程度であってもよい。
【0047】
本発明の医薬は、メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)を予防及び/又は治療するための予防及び/又は治療剤(治療薬)として有用である。ここでメタボリックシンドロームとは、主に、糖代謝の異常、脂質代謝の異常、肥満及び高血圧の4つの危険因子をもとに診断されるものであり、以下に提唱されている2つの診断基準のどちらか一方に当てはまるものであればよい。
(1)米国の診断基準(Adult Treatment Panel III;ATPIII)
(a)内臓肥満
ウエスト周囲径:男性>102cm,女性>88cm
(b)高トリグリセリド血症
トリグリセリド≧150mg/dl
(c)低HDLコレステロール血症
HDLコレステロール:男性<40mg/dl,女性<50mg/dl
(d)高血圧
血圧≧130/85mmHg
(e)空腹時高血糖
空腹時血糖≧110mg/dl
(a)〜(e)のうち、3つ以上を満たす場合、メタボリックシンドロームと定義される。
(2)世界保健機関の基準(WHO)
(A)2型糖尿病
(B)糖代謝異常(境界型)
(C)インスリン抵抗性(グルコースクランプでインスリン感受性が下位25%以内)
(A)〜(C)のうち、少なくとも1つを満たす。・・・(I)
(a)高血圧
収縮期血圧≧160mmHgあるいは拡張期血圧≧90nnHg
(b)肥満
肥満度≧30あるいはウエスト/ヒップ比:男性>0.9,女性>0.85
(c)脂質代謝異常
トリグリセリド≧150mg/dlあるいはHDLコレステロール:男性<35mg/dl,女性<39mg/dl
(d)微量アルブミン量
アルブミン排泄率≧20
(a)〜(d)のうち、少なくとも2つを満たす。・・・(II)
(I)及び(II)ともに満たす場合、メタボリックシンドロームと定義される。
【0048】
さらに、具体的に述べるならば、本発明の医薬は、前記メタボリックシンドロームに加え、例えば、糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等)、糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害、大血管障害等)、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能不全から糖尿病への移行抑制剤、耐糖能低下症、心血管疾患[高脂血症(高トリグリセライド血症、高コレステロール血症、低HDL血症等)、高血圧症など]、高インスリン血症、冠動脈及び脳血管障害、高アンモニウム血症、高アンモニア血症、高尿酸血症、肥満又はそれに伴う合併症、骨代謝障害(骨減少症、骨粗しょう症等)、脂肪肝、肝炎、ダンピング症候群及び糖原病などの症状を予防及び/又は治療するための予防及び/又は治療剤として用いることもできる。なお、本発明の医薬は、これらの症状から選択された少なくとも一種の症状の予防又は治療に適しており、複数の症状の予防又は治療するための予防又は治療剤としても有用である。本発明の医薬は、特に、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝及び肝炎から選択された少なくとも一種の症状を予防又は治療するための予防又は治療剤として有用である。
【0049】
本発明の医薬は、すでに単独で医薬として使用されていることもあり、毒性も低く、その安全性も確立されており、ヒト及び非ヒト動物、通常、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し、安全に用いられる。そのため、本発明では、このようなヒト又は非ヒト動物に、前記高脂血症治療剤(a)と、α−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを投与できる。
【0050】
本発明の医薬の投与量は、個々の薬剤における通常の投与量に準ずればよく、投与対象、投与対象の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法等により、適宜選択することができる。本発明における高脂血症治療剤(フィブラート系化合物及び/又はHMG−CoAリダクターゼ阻害剤)ならびにα−グルコシダーゼ阻害剤は、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することができる。具体的には、このような臨床常用量又はそれ以下の量(例えば、当該常用量の2分の1ないし5分の1程度の用量)によって本発明の目的を達成することができる。例えば、成人1人当たり経口投与の場合の1日用量として、フィブラート系化合物では、20〜400mg、好ましくは30〜350mg程度である。HMG−CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン系化合物など)の1日用量は、成人1人当たり経口投与の場合、0.5〜50mg、好ましくは1〜45mg程度である。また、α−グルコシダーゼ阻害剤の1日用量は、成人1人当たり経口投与の場合、例えば、ボグリボースでは、0.01〜1mg、好ましくは0.03〜0.8mg程度の範囲、アカルボースでは、50〜300mg、好ましくは70〜250mg程度の範囲から選択できる。投与回数は、特に制限されず、例えば、1日1回であってもよく、必要に応じて複数回(例えば、2〜4回)であってもよい。
【0051】
なお、医薬製剤においては、各有効成分の配合比は、投与対象、投与対象の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、有効成分の必要量とその組み合わせ等により、適宜選択することができる。具体的には、上記の臨床使用量を勘案した配合比となるように所望の製剤を調製するのが好ましい。
【0052】
本発明の医薬は、各有効成分(高脂血症治療剤、α−グルコシダーゼ阻害剤)の単独投与に比べてその増強効果を有する。例えば、糖尿病モデルのラットにおいて、2種の有効成分をそれぞれ単独投与した場合に比較し、本発明の医薬は、効果的に糖尿病時の血糖を低下させ、糖尿病及び糖尿病性合併症等の予防及び/又は治療に適用しうる。そのため、本発明の医薬では、有効成分(特にα−グルコシダーゼ阻害剤)の投与量を低減できる。また、本発明の医薬は、各有効成分の単独投与の場合と比較した場合、少ない投与量で十分な効果が得られることから、α−グルコシダーゼ阻害剤の有する副作用、例えば、劇症肝炎等の肝機能障害、下痢、便秘等の消化器障害、貧血等を軽減(又は低減)することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の医薬は、α−グルコシダーゼ阻害剤の単独投与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ、糖尿病及び糖尿病性合併症等の予防あるいは治療に適用しうる。また、本発明の医薬は、各薬剤の単独投与の場合と比較した場合、通常の投与量もしくは少ない投与量で十分な効果が得られることから、薬剤の有する副作用を軽減することができ、前記糖尿病、糖尿病合併症以外に、例えば、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝、肝炎などを予防又は治療するための予防及び/又は治療薬としても有用である。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を試験例及び実施例をもってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0055】
実施例1 錠剤
フェノフィブラート 100.0mg
ボグリボース 0.2mg
ラクトース 69.2mg
微結晶セルロース 29.6mg
ステアリン酸マグネシウム 1.0mg
総重量 200.0mg
実施例2 錠剤
プラバスタチン 10.0mg
ボグリボース 0.2mg
ラクトース 132.2mg
微結晶セルロース 56.6mg
ステアリン酸マグネシウム 1.0mg
総重量 200.0mg
試験例1 ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおけるフェノフィブラートとボグリボースとの併用効果
<試験法>
ストレプトゾトシン(STZ)45mg/kgを生理食塩水に溶解し、ウィスター系雄性ラットに静脈内投与した。該処置の13日後に、採血し、血糖値、血清中総コレステロール及び血中トリグリセリドを測定した。続いて、ボグリボース単体(0.2mg/kg投与)、フェノフィブラート単体(50mg/kg投与)及び両者の併用投与(投与量は同一)のそれぞれの群に分け、検体に経口的に連続投与した。ストレプトゾトシン投与の23〜25日後に、検体から採血し、前記と同様の指標を測定し、比較・検討した。
【0056】
<結果>
両薬剤を併用することにより、フェノフィブラート及びボグリボースの単剤投与と比較して、各指標を有意に低下させた。同様の効果は、ベザフィブラートとボグリボースの組み合わせにおいても見られた。
【0057】
試験例2 ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおけるプラバスタチンとボグリボースとの併用効果
<試験法>
ストレプトゾトシン(STZ)45mg/kgを生理食塩水に溶解し、ウィスター系雄性ラットに静脈内投与した。該処置の13日後に、採血し、血糖値、血清中総コレステロール及び血中トリグリセリドを測定した。続いて、ボグリボース単体(0.2mg/kg投与)、プラバスタチン単体(10mg/kg投与)及び両者の併用投与(投与量は同一)のそれぞれの群に分け、検体に経口的に投与した。ストレプトゾトシン投与の23〜25日後に、検体から採血し、前記と同様の指標を測定し、比較・検討した。
【0058】
<結果>
両薬剤を併用することにより、プラバスタチン及びボグリボースの単剤投与と比較して、各指標を有意に低下させた。
【0059】
以上のように、本発明の医薬は、それぞれの単独の薬物による作用を増強し、それぞれの薬物の投与量を低下させることが可能である。その結果、それぞれ単独で見られる薬物の副作用の発現を抑えることも可能である。
【0060】
試験例3 ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおけるフェノフィブラートとボグリボースとの併用効果
ストレプトゾトシン(STZ)を生理食塩水に溶解した溶液を、STZに基づく投与量が45mg/kgとなるようにウィスター系雄性ラットに静脈内投与した(STZ投与日:day0)。投与から13日後(day13)に採血し、血漿グルコース(GLU)濃度を測定し、GLU濃度に基づいて、STZ処置ラットを6群に群分け(10匹/1群)した。STZ投与から14日(day14)から9日間に亘り、表1に示す被験物質を1日1回の割合で、経口投与した。STZ投与から23日(day23)にGLU濃度を測定した(プレ値:スクロース負荷前GLU濃度)(なお、day23には、被験物質の投与は行わなかった)。プレ値測定の翌日(day24)に、表1に示す被験物質を投与し、この投与の直後に、スクロースを2.5g/kgの投与量で経口投与することによりスクロース負荷を行った。スクロース負荷の60分後、採血し、GLU濃度(スクロース負荷後GLU濃度)を測定した。
【0061】
なお、対照として、STZ処置及び被験物質投与のいずれも行わない群(第1群)、並びにSTZ処置後、被験物質投与を行わない群(第2群)についても上記と同様に、スクロース負荷前及び負荷後のGLU濃度を測定した。
【0062】
表1にスクロース負荷前及び負荷後のGLU濃度(g/L)と共に、負荷前GLU濃度に対する負荷後GLU濃度の変化率(%)を併せて示す。なお、各被験物質は、1回につき、メトホルミン(50mg/kg)、ボグリボース(0.2mg/kg)、フェノフィブラート(50mg/kg)の投与量で投与した。また、表中、Nは、GLU濃度を決定した個体数を示す。
【0063】
【表1】

表から明らかなように、STZ処置した群(第2群)では、スクロース負荷により生じる血糖値の上昇は約20%であったが、ボグリボース投与(第4群)により血糖値の上昇は、STZ未処置対照群(第1群)の上昇率と同程度にまで抑制された。メトホルミンを単独投与した第3群、フェノフィブラートを単独投与した第5群、及びメトホルミンとフェノフィブラートとを投与した第6群でも、血糖値が上昇した。これらの結果に対し、ボグリボースとフェノフィブラートとを投与した第7群では、血糖値の上昇は認められず、プレ値と比較して、血糖値が11.4%下降した。
【0064】
試験例4 ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおけるフェノフィブラートとボグリボースとの併用効果
ストレプトゾトシン(STZ)を生理食塩水に溶解した溶液を、STZに基づく投与量が45mg/kgとなるようにウィスター系雄性ラットに静脈内投与した(STZ投与日:day0)。投与から13日後(day13)に採血し、血漿グルコース(GLU)濃度を測定し、GLU濃度に基づいて、STZ処置ラットを4群に群分け(7匹/1群)した。なお、群分けした4群のうち、3群を、ボグリボース投与群(第3群)、フェノフィブラート投与群(第4群)、並びにボグリボース及びフェノフィブラート投与群(第5群)とした。これらの第3〜5群に、STZ投与から14日(day14)から9日間に亘り、各被験物質を1日1回の割合で、経口投与した。STZ投与から23日(day23)にGLU濃度を測定した(プレ値:スクロース負荷前GLU濃度)(なお、day23には、被験物質の投与は行わなかった)。プレ値測定の翌日(day24)に、第3〜第5群に各被験物質を投与し、この投与の直後に、スクロースを2.5g/kgの投与量で経口投与することによりスクロース負荷を行った。スクロース負荷の60分後、採血し、GLU濃度(スクロース負荷後GLU濃度)を測定した。なお、第3〜第5群に対して、各被験物質は、1回につき、以下の投与量で投与した。
【0065】
ボグリボース投与群(第3群):ボグリボース(0.1mg/kg)
フェノフィブラート投与群(第4群):フェノフィブラート(50mg/kg)
ボグリボース及びフェノフィブラート投与群(第5群):
ボグリボース(0.1mg/kg)+フェノフィブラート(50mg/kg)
なお、対照として、STZ処置及び被験物質投与のいずれも行わない群(第1群)、並びにSTZ処置後、被験物質投与を行わない群(第2群)についても上記と同様に、スクロース負荷前及び負荷後のGLU濃度を測定した。
【0066】
その結果、ボグリボース及びフェノフィブラート投与群(第5群)では、ボグリボース投与群(第3群)及びフェノフィブラート投与群(第4群)と比較して、スクロース負荷後GLU濃度を有意に抑制した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせた医薬であって、前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬(i)、又は前記高脂血症治療剤(a)を含む医薬とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)である組合せ医薬。
【請求項2】
フィブラート系化合物が、フェノフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、フェノフィブリン酸、ゲムフィブロジル又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1記載の医薬。
【請求項3】
フィブラート系化合物が、フェノフィブラート、ベザフィブラート又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1記載の医薬。
【請求項4】
ヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種のスタチン系化合物である請求項1記載の医薬。
【請求項5】
ヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチン、アトルバスタチン又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種のスタチン系化合物である請求項1記載の医薬。
【請求項6】
α−グルコシダーゼ阻害剤(b)が、ボグリボース、アカルボース、ミグリトール、エミグリテート又はそれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1記載の医薬。
【請求項7】
α−グルコシダーゼ阻害剤(b)が、ボグリボース及びアカルボースから選択された少なくとも一種である請求項1記載の医薬。
【請求項8】
α−グルコシダーゼ阻害剤(b)の割合が、高脂血症治療剤(a)100重量部に対して、0.001〜50重量部である請求項1記載の医薬。
【請求項9】
α−グルコシダーゼ阻害剤(b)の割合が、高脂血症治療剤(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部である請求項1記載の医薬。
【請求項10】
フェノフィブラートとボグリボースとを組み合わせた医薬であって、前記フェノフィブラートとボグリボースとを含む医薬(i)、又はフェノフィブラートを含む医薬とボグリボースを含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)である組合せ医薬。
【請求項11】
メタボリックシンドロームを予防又は治療するための予防又は治療剤である請求項1又は10記載の医薬。
【請求項12】
高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝及び肝炎から選択された少なくとも一種の症状を予防又は治療するための予防又は治療剤である請求項1又は10記載の医薬。
【請求項13】
高脂血症を予防又は治療するための予防又は治療剤である請求項1又は10記載の医薬。
【請求項14】
糖尿病、糖尿病合併症及び糖尿病の食後過血糖症状から選択された少なくとも一種の症状を予防又は治療するための予防又は治療剤である請求項1又は10記載の医薬。
【請求項15】
高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬製剤(i)、又は高脂血症治療剤(a)を含む医薬製剤とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬製剤とを組み合わせた医薬製剤(ii)である請求項1記載の医薬。
【請求項16】
医薬製剤を製造するための(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤との使用。
【請求項17】
α−グルコシダーゼ阻害剤の副作用又は投与量を低減するために使用され、かつ(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせた医薬であって、前記高脂血症治療剤(a)とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)とを含む医薬(i)、又は前記高脂血症治療剤(a)を含む医薬とα−グルコシダーゼ阻害剤(b)を含む医薬とを組み合わせた医薬(ii)である組合せ医薬。
【請求項18】
ヒト又は非ヒト動物に、(a)フィブラート系化合物及びヒドロキシメチルグルタリル−CoAリダクターゼ阻害剤からなる群より選択された少なくとも一種の高脂血症治療剤と、(b)α−グルコシダーゼ阻害剤とを投与し、メタボリックシンドローム、高脂血症、糖尿病、糖尿病合併症、糖尿病の食後過血糖症状、耐糖能不全(IGT)、耐糖能低下症、高血圧症、高インスリン血症、高アンモニウム血症、肥満又はそれに伴う合併症、脂肪肝及び肝炎から選択された少なくとも一種の症状を予防又は治療する方法。


【国際公開番号】WO2005/074909
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517778(P2005−517778)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001801
【国際出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【Fターム(参考)】