説明

保護膜付きレジストパターン形成用部材とその製造方法、及びレジストパターンの製造方法

【課題】新規な保護膜が形成されたレジストパターン形成用部材を提供する。
【解決手段】保護膜付きレジストパターン形成用部材は、酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト膜に密着して用いられるレジストパターン形成用部材と、レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜とを有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストパターンの形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の一部あるいは実装回路基板においては、加工寸法がミクロンオーダーからサブミクロンオーダーに移行しつつあり、これに伴い、レジストパターン形成に用いられる露光方式は従来の投影方式やプロキシミティ方式からコンタクト方式や縮小投影方式へと移行しつつある。
【0003】
この中でコンタクト露光方式は、比較的安価にサブミクロンの加工が実現できる反面、フォトマスクと基板を密着させて露光を行うがゆえに、フォトレジストや異物が付着してフォトマスクを汚染、損傷するという課題がある。
【0004】
フォトマスクの透光部(ガラスや石英等)に異物が付着すると、コンタクト露光の際にレジストに光が到達しなくなり解像不良が発生する。また、フォトマスクの遮光部(クロム等)に異物が付着すると、コンタクト露光の際にフォトマスクとレジストの間に隙間が生じ、解像性が劣化する。よって、歩留り低下を抑制するために、露光処理毎のフォトマスク洗浄や修復が必要となる。
【0005】
フォトマスクへフッ素樹脂をコーティングし保護膜を形成することで、レジストや異物の付着による汚染を抑止する試みがなされている。しかし、保護膜が厚すぎると、保護膜自体がレジストとマスクの間のギャップとなり、解像性が劣化する。
【0006】
また近年、ナノメートルオーダーの微細加工を比較的簡便に実現すべく、凹凸パターンを形成したモールドを基板上の液状レジスト等に押し付けてパターンを転写するナノインプリント技術の開発が盛んに進められている。このパターン形成技術においても、パターン転写後のモールドと基板の引き離しの際に、モールドにレジストや異物の付着が生じ、繰り返し加工を行う際の歩留りが低下しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−178984号公報
【特許文献2】米国特許第6300042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一目的は、コンタクト露光のフォトマスクや、ナノインプリントのモールド等、レジストパターン形成のためにレジスト材料に密着させる部材への新規な保護膜形成技術、あるいは、そのような保護膜が形成された部材と、そのような保護膜を利用したレジストパターン形成技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト膜に密着して用いられるレジストパターン形成用部材と、前記レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜とを有する保護膜付きレジストパターン形成用部材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜は、酸化物を含むレジストパターン形成用部材の表面に、水素結合により密着性良く形成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1A〜図1Dは、コンタクト露光によるレジストパターン形成工程を概略的に示す断面図である。
【図2】図2A〜図2Cは、ナノインプリントによるレジストパターン形成工程を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、コンタクト露光によるレジストパターン形成技術に係る第1及び第2実施例について説明する。図1A〜図1Dは、コンタクト露光によるレジストパターン形成工程を概略的に示す断面図である。
【0013】
図1Aに示すように、基板1上に、フォトレジスト材料でレジスト膜2が形成されている。基板1は、レジスト膜2で形成するレジストパターンを用いてパターン形成を行いたい基板であり、例えば、前工程で必要に応じて半導体素子や絶縁膜や配線等が形成された半導体基板である。
【0014】
フォトマスク3が、透光性基板3aと遮光膜3bとを含む。透光性基板3aは、例えばガラスや石英で形成される。透光性基板3aのレジスト膜2と対向する表面の、遮光部Pbとする領域上に、例えばクロムで遮光膜3bが形成され、遮光膜3bの形成されない領域が、透光部Paとなる。
【0015】
フォトマスク3の、(少なくとも)レジスト膜2と対向する表面に、遮光膜3b及び露出した透光性基板3aを覆って、保護膜4が形成されている。保護膜4の形成に好適な第1及び第2実施例の材料について、詳細は後述する。
【0016】
図1Bに示すように、フォトマスク3の遮光膜3b側表面を、保護膜4を介してレジスト膜2に密着させ、透光部Paから光Lをレジスト膜2に照射して、コンタクト露光を行う。レジスト膜2の感光部分を2a、非感光部分を2bとする。
【0017】
図1Cに示すように、コンタクト露光後、フォトマスク3をレジスト膜2から引き離す。
【0018】
図1Dに示すように、現像により、感光部分2aを除去し非感光部分2bを残して、レジストパターンRP1を形成する。なお、ポジ型のレジスト材料を例示したが、ネガ型のレジスト材料を用いることも可能である。
【0019】
保護膜4は、コンタクト露光時にレジスト2とフォトマスク3との間に介在することにより、フォトマスク3にレジスト材料が付着することを防止する。保護膜4には、レジスト材料が付着しにくいことや、解像性を劣化させにくいこと等の特性が要求される。本願発明者らは、以下に説明するように、好適な保護膜形成材料について研究を行った。
【0020】
まず、第1実施例として、保護膜形成材料に第1の材料(両親媒性分子及び溶剤)を採用した第1〜第4の実験について説明する。
【0021】
第1実施例では、下記一般式(1)で表されるような、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み、両方の末端基に水酸基を含むフッ素含有両親媒性分子(ソルベイソレクシス社製)を原料とし、これを調整して用いた。
【化1】

【0022】
また、調整した両親媒性分子を溶解する溶剤として、フッ素を含む(フッ素系の)溶剤(HGALDEN:ソルベイソレクシス社製)を用いた。
【0023】
第1の実験について説明する。第1の実験では、(平均分子量2000の両親媒性分子を調製するのに適した分子量分布を持つ)原料の両親媒性分子から、超臨界抽出装置(SCF−201;日本分光製)を用い、温度50℃〜70℃、圧力10MPa〜30MPaの範囲で炭酸ガスによる超臨界抽出を行って、平均分子量2000の両親媒性分子を調製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)より求められた分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、超臨界抽出前の1.45に対し、超臨界抽出後は1.40に減少した。
【0024】
調整した両親媒性分子を、上記溶剤に0.5%の濃度で溶解した。そして、この溶液をフォトマスク上にディップコートで塗布して、保護膜を形成した。
【0025】
第1の実験のフォトマスクは、石英製のブランクス上にクロム製の遮光膜でラインアンドスペースパターンが形成されたものである。線幅0.5μm及び線間0.5μmのラインアンドスペースパターンから、線幅2μm及び線間2μmのラインアンドスペースパターンまで、線幅及び線間を0.1μmずつ変えた複数のラインアンドスペースパターンが形成されている。
【0026】
得られた保護膜の厚みを、X線光電子分光(ESCA)のC1sスペクトル、及び赤外分光光度計(JIR−100;日本電子製)を用い、C−Fの伸縮振動の吸収強度を測定することにより求めたところ、膜厚は9nmであった。
【0027】
また、表面に保護膜を形成したフォトマスクの表面エネルギーを、接触角計(CA−QI;協和界面科学製)を用いて測定した接触角の変化により求めた。この結果、保護膜形成前のフォトマスク透光部(石英部分)及び遮光部(クロム部分)の表面自由エネルギーが50mN/mより大きかったのに対し、保護膜形成後の表面自由エネルギーは30mN/m以下に減少した。
【0028】
シリコン基板上に、市販の(ポジ型の)ノボラックレジスト材料(TMMR P−W1000PM;東京応化工業製)を、1μmの厚みとなるように回転塗布した後、110℃にて90秒間ベークを行って、レジスト膜を形成した。
【0029】
コンタクトアライナー(PEM−2000;ユニオン光学)を用い、フォトマスクとレジスト膜を密着させ、低圧水銀灯を紫外光源としてコンタクト露光を行った。フォトマスクの引き離し後、2.38%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用い、90秒間の現像を行って、レジストパターンを形成した。比較のため、保護膜無しのフォトマスクを用い、同様にしてレジストパターンを形成した。
【0030】
保護膜有りのフォトマスクで形成したレジストパターンと、保護膜無しのフォトマスクで形成したレジストパターンとに対し、限界解像度を測定した。その結果、保護膜の有無に関わらず、限界解像度は1.1μmであった。このように、第1実施例の材料で形成した保護膜は、解像性劣化を抑制してコンタクト露光をできることがわかった。
【0031】
なお、保護膜の平坦性が良くないと、解像性劣化を招くと考えられる。保護膜の平坦性確保の観点から、両親媒性分子の分散度は1.4以下とすることが好ましいと考えられる。
【0032】
第2の実験について説明する。第2の実験も、第1の実験と同様にして、平均分子量2000に調整した両親媒性分子を上記溶剤に濃度0.5%で溶解した材料で、フォトマスクに保護膜を形成した。
【0033】
ただし、第2の実験のフォトマスクは、線幅1.5μm及び線間1.5μmのラインアンドスペースパターンが形成されたものである。このフォトマスクを用いて、1回の露光で1枚のウエハにパターンを露光した。繰り返し露光を行って、複数のウエハにレジストパターンを形成した。各ウエハのレジストパターンについて、ウエハ面内の21ポイントの歩留りを評価した。比較のため、保護膜無しのフォトマスクについても、同様な評価を行った。
【0034】
保護膜無しのフォトマスクを用いた場合は、2回目の露光で歩留りが71%に低下した。一方、保護膜有りのフォトマスクを用いた場合は、20回の露光を繰り返しても、歩留りが90%以上であった。
【0035】
保護膜無しのフォトマスクは、レジスト材料の付着により、繰り返し露光を行うと良好なパターン形成が困難になったと考えられる。一方、保護膜有りのフォトマスクは、低い表面自由エネルギーにより、レジスト材料の付着が抑制されて、繰り返し露光を行っても良好なパターン形成が行えたと考えられる。保護膜の表面自由エネルギーは、50mN/m以下であれば、保護膜無しの場合に比べレジスト材料の付着が抑制され好ましい。
【0036】
第3の実験について説明する。第3の実験では、平均分子量をそれぞれ1000及び5000に調整した両親媒性分子を用意した。
【0037】
平均分子量1000の両親媒性分子は、(平均分子量1000の両親媒性分子を調製するのに適した分子量分布を持つ)原料の両親媒性分子から、超臨界抽出装置を用い、温度50℃〜70℃、圧力10MPa〜30MPaの範囲で炭酸ガスによる超臨界抽出を行って調製した。GPCより求められた分散度は、超臨界抽出前の1.50に対し、超臨界抽出後は1.40に減少した。
【0038】
平均分子量5000の両親媒性分子は、(平均分子量5000の両親媒性分子を調製するのに適した分子量分布を持つ)原料の両親媒性分子から、超臨界抽出装置を用い、温度50℃〜70℃、圧力10MPa〜30MPaの範囲で炭酸ガスによる超臨界抽出を行って調製した。GPCより求められた分散度は、超臨界抽出前の1.40に対し、超臨界抽出後は1.35に減少した。
【0039】
平均分子量1000及び5000の両親媒性分子について、それぞれ、第1及び第2の実験と同様に、上記溶剤に濃度0.5%で溶解して保護膜形成材料とし、第1の実験と同様にして解像性評価を行うとともに、第2の実験と同様にして歩留り評価を行った。
【0040】
平均分子量1000の両親媒性分子を用いた場合、限界解像度は1.1μmであり、歩留りは2回目の露光で86%に低下した。平均分子量5000の両親媒性分子を用いた場合、限界解像度は1.3μmであり、歩留りは20回の露光を繰り返しても、90%以上であった。
【0041】
平均分子量が小さいほど、保護膜の耐熱性や被覆性が低下すると考えられ、被覆性が低下すれば、繰り返し露光での歩留りが低下しやすくなると考えられる。また、平均分子量が大きいほど、保護膜の平坦性が低下してレジストパターンの解像不良が生じやすくなると考えられる。
【0042】
歩留りは、平均分子量1000のサンプルにおいて、2回目の露光で86%に低下しているが、保護膜無しに比べれば保護膜の効果が見られる。これより、好ましい平均分子量の下限は、1000と考えてよいであろう。平均分子量を1500以上とすれば、さらに好ましいであろう。
【0043】
限界解像度は、平均分子量5000のサンプルにおいて、(保護膜無しの1.1μmから)1.3μmに劣化しているが、この程度の限界解像度劣化までは許容される。これより、好ましい平均分子量の上限は、5000と考えてよいであろう。平均分子量を4500以下とすれば、さらに好ましいであろう。
【0044】
第4の実験について説明する。第4の実験も、第1の実験と同様に、平均分子量を2000に調整した両親媒性分子を、上記溶剤に溶解した材料でフォトマスクに保護膜を形成した。ただし、上記溶剤に溶解する濃度を(第1の実験の0.5%に比べ)1%に増やした。
【0045】
X線光電子分光及び赤外分光光度計により測定した保護膜の厚さは10nmであり、第1の実験の9nmに比べて厚くなった。また、第1の実験と同様にして解像性を評価したところ、限界解像度は1.2μmであり、第1の実験の1.1μmに比べてやや劣化した。
【0046】
両親媒性分子の濃度が高いほど、保護膜が厚くなり、フォトマスクとレジスト膜との間のギャップが広がることに起因して、解像性が劣化しやすくなると考えられる。この観点より、両親媒性分子の濃度の上限は1%と見積もられ、保護膜の厚さの上限は10nmと見積もられる。
【0047】
なお、両親媒性分子の濃度が低すぎると、均一な保護膜の形成が難しくなる。この観点より、両親媒性分子の濃度の下限は0.01%程度と思われ、保護膜の厚さの下限は0.5nm程度と思われる。
【0048】
第1〜第4の実験を参照して説明したように、第1実施例の材料で形成した保護膜を用いることにより、解像性劣化を抑制しつつ、フォトマスクへのレジスト材料付着を抑制して、コンタクト露光によるレジストパターンを形成することができる。
【0049】
次に、第2実施例として、保護膜形成材料に第2の材料(両親媒性分子及び溶剤)を採用した第5及び第6の実験について説明する。
【0050】
第2実施例では、下記一般式(2)で表されるような、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み、両方の末端基に水酸基を含むフッ素含有両親媒性分子(ソルベイソレクシス社製)を原料とし、これを調整して用いた。第1実施例と異なるのは、両親媒性分子の末端基として2種類のものが混ざっていることであり、1種類の末端基は、第1実施例と同種のもので水酸基を1つ含み、もう1種類の末端基は、水酸基を2つ含む。
【化2】

【0051】
調整した両親媒性分子を溶解する溶剤として、第1実施例と別の、フッ素系の溶剤(FC−77:ソルベイソレクシス社製)を用いた。
【0052】
第5の実験について説明する。第5の実験では、(平均分子量2500の両親媒性分子を調製するのに適した分子量分布を持つ)原料の両親媒性分子から、超臨界抽出装置(SCF−201;日本分光製)を用い、温度50℃〜70℃、圧力10MPa〜30MPaの範囲で炭酸ガスによる超臨界抽出を行って、平均分子量2500の両親媒性分子を調製した。GPCより求められた分散度は、超臨界抽出前の1.3に対し、超臨界抽出後は1.2に減少した。
【0053】
調整した両親媒性分子を、上記溶剤に0.3%の濃度で溶解した。そして、この溶液をフォトマスク上にディップコートで塗布して、保護膜を形成した。第5の実験のフォトマスクは、第1の実験と同様のものであり、線幅及び線間0.5μm〜線幅及び線間2μmの複数のラインアンドスペースパターンが形成されたものである。
【0054】
保護膜の厚みを、X線光電子分光及び赤外分光光度計により求めたところ、膜厚は6nmであった。
【0055】
また、保護膜を形成したフォトマスクの表面エネルギーを、接触角計を用いて測定したところ、保護膜形成前のフォトマスク透光部(石英部分)及び遮光部(クロム部分)の表面自由エネルギーが50mN/mより大きかったのに対し、保護膜形成後の表面自由エネルギーは35mN/m以下に減少した。
【0056】
レジスト膜を形成したシリコン基板を準備してコンタクト露光を行い、現像を行って、レジストパターンを形成した。レジスト膜の形成方法、コンタクト露光の方法、現像方法は、第1の実験と同様である。比較のため、保護膜無しのフォトマスクを用い、同様にしてレジストパターンを形成した。
【0057】
保護膜有りのフォトマスクで形成したレジストパターンと、保護膜無しのフォトマスクで形成したレジストパターンとに対し、限界解像度を測定した。その結果、保護膜の有無に関わらず、限界解像度は1.1μmであった。
【0058】
第6の実験について説明する。第6の実験も、第5の実験と同様にして、第2実施例の保護膜形成材料で、フォトマスクに保護膜を形成した。
【0059】
第6の実験のフォトマスクは、第2の実験と同様のものであり、線幅及び線間1.5μmのラインアンドスペースパターンが形成されたものである。第2の実験と同様に、繰り返し露光を行って複数のウエハにレジストパターンを形成し、各ウエハのレジストパターンについて、ウエハ面内の21ポイントの歩留りを評価した。比較のため、保護膜無しのフォトマスクについても、同様な評価を行った。
【0060】
保護膜無しのフォトマスクを用いた場合は、2回目の露光で歩留りが71%に低下した。一方、保護膜有りのフォトマスクを用いた場合は、20回の露光を繰り返しても、歩留りが90%以上であった。
【0061】
第5及び第6の実験を参照して説明したように、第2実施例の材料で形成した保護膜を用いても、解像性劣化を抑制しつつ、フォトマスクへのレジスト材料付着を抑制して、コンタクト露光によるレジストパターンを形成することができる。
【0062】
上式(1)及び(2)に示したように、第1及び第2実施例のフッ素含有両親媒性分子は、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み、両方の末端基に水酸基を含む。
【0063】
フォトマスクの透光部は、石英やガラスで形成され表面にシリコン酸化物を含み、また、遮光部は、クロムで形成され表面に自然酸化によるクロム酸化物を含む。実施例の両親媒性分子は、末端に配置された極性の水酸基部分が、フォトマスクの透光部、遮光部双方の酸化物表面(の酸素)に水素結合することができるので、密着性の高い保護膜を形成すると考えられる。一方、主鎖中の非極性のパーフルオロポリエーテルの部分が、レジスト膜側に露出することにより、表面自由エネルギーが低下して、保護膜へのレジスト材料付着が抑制される。
【0064】
次に、ナノインプリントによるレジストパターン形成技術に係る第3実施例について説明する。図2A〜図2Cは、ナノインプリントによるレジストパターン形成工程を概略的に示す断面図である。
【0065】
図2Aに示すように、基板11上に、ナノインプリント用の液状のレジスト材料でレジスト膜12が形成されている。基板11は、レジスト膜12を用いて形成するレジストパターンによりパターン形成を行いたい基板であり、例えば、前工程で必要に応じて半導体素子や絶縁膜や配線等が形成された半導体基板である。
【0066】
モールド13のレジスト膜12と対向する側の表面に、所望のレジストパターンに対応する型が形成されている。モールド13は、例えば石英で形成される。
【0067】
モールド13の、(少なくとも)レジスト膜12と対向する表面に、型を覆って、保護膜14が形成されている。保護膜14の形成に好適な第3実施例の材料について、詳細は後述する。
【0068】
図2Bに示すように、モールド13を、保護膜14を介してレジスト膜12にプレスし密着させ、不要なレジスト材料を型の外部に押し出して、レジスト膜12に型形状を転写する。そして、レジスト膜12を冷却し硬化させて、レジストパターンRP11を形成する。
【0069】
図2Cに示すように、レジストパターンRP11が充分硬化したら、モールド13を引き離す。
【0070】
保護膜14は、プレス時にレジスト12とモールド13との間に介在することにより、モールド13にレジスト材料が付着することを防止する。第1実施例で説明した、コンタクト露光のフォトマスク保護膜形成材料は、以下に説明するように、ナノインプリントのモールド保護膜形成材料として用いることもできる。
【0071】
第3実施例に係る第7の実験について説明する。第7の実験では、第1実施例の第1の実験等と同様に、上式(1)で示される両親媒性分子(ソルベイソレクシス社製)を平均分子量2000に調整したものを、フッ素系溶剤(HGALDEN:ソルベイソレクシス社製)に0.5%の濃度で溶解した。
【0072】
そして、この溶液をモールド上にディップコートで塗布して、保護膜を形成した。第7の実験のモールドは、石英製の基板に溝幅50nm及び溝間50nmのラインアンドスペースパターンが形成されたものである。
【0073】
保護膜の厚みを、X線光電子分光及び赤外分光光度計により求めたところ、膜厚は9nmであった。また、保護膜を形成したモールドの表面エネルギーを、接触角計を用いて測定したところ、保護膜形成前の表面自由エネルギーが50mN/mより大きかったのに対し、保護膜形成後の表面自由エネルギーは25mN/m以下に減少した。
【0074】
シリコン基板上に、市販のポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むレジスト材料(OEBR−1000;東京応化工業製)を回転塗布した後、110℃でベークして、液状レジスト膜を形成した。
【0075】
そして、モールドをレジスト膜にプレスし、レジスト膜を冷却し硬化させ、モールドを引き離して、レジストパターンを形成した。比較のため、保護膜無しのモールドを用い、同様にしてレジストパターンを形成した。
【0076】
繰り返しプレスを行って複数のウエハにレジストパターンを形成し、各ウエハのレジストパターンについて、ウエハ面内の21ポイントの歩留りを評価した。比較のため、保護膜無しのモールドについても、同様な評価を行った。
【0077】
保護膜無しのモールドを用いた場合は、2回目のプレスで歩留りが48%に低下した。一方、保護膜有りのモールドを用いた場合は、5回のプレスを繰り返しても、歩留りが90%以上であった。保護膜有りのモールドは、低い表面自由エネルギーにより、レジスト材料の付着が抑制されて、繰り返しプレスを行っても良好なパターン形成が行えたと考えられる。
【0078】
このように、第1実施例の保護膜形成材料は、コンタクト露光のフォトマスク保護膜に限らず、ナノインプリンティングのモールド保護膜の形成にも用いることができる。モールドは、例えば石英で形成され表面にシリコン酸化物を含み、第1実施例の両親媒性分子は、末端の水酸基がモールドの酸化物表面(の酸素)に水素結合して、密着性の高い保護膜を形成すると考えられる。なお、第2実施例の保護膜形成材料も同様にして、ナノインプリンティングのモールド保護膜形成にも用いることができよう。
【0079】
コンタクト露光のフォトマスクと、ナノインプリントのモールドは、まとめて、レジストパターン形成のためレジスト膜に密着して用いられるレジストパターン形成用部材として捉えることができる。上記実施例の保護膜は、このようなレジストパターン形成用部材の保護膜として好適である。
【0080】
なお、保護膜形成材料を形成する溶剤は、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を溶解するとともに、塗布するレジストパターン形成用部材に反応しない材料であれば限定されないが、フッ素を含む溶剤が特に好ましい。また、保護膜形成材料には、必要に応じて添加剤や界面活性剤を添加することができる。
【0081】
なお、保護膜形成材料のレジストパターン形成用部材への塗布方法は、特に限定されず、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、蒸気コート等の方法を用いることができるが、薄膜の均一な形成の観点から、ディップコートが特に好ましい。保護膜形成材料の塗布装置を、露光装置や現像装置、マスク洗浄装置等に組み合わせることで、利便性を向上させることができる。
【0082】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0083】
以上説明した第1〜第3の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト膜に密着して用いられるレジストパターン形成用部材と、
前記レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜と
を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材。
(付記2)
前記保護膜の厚さは、10nm以下である付記1に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材。
(付記3)
前記レジストパターン形成用部材は、表面にシリコン酸化物を含む透光部と、表面にクロム酸化物を含む遮光部とを有するコンタクト露光用フォトマスクであり、前記保護膜は、前記透光部上及び前記遮光部上に形成されている付記1または2に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材。
(付記4)
前記レジストパターン形成用部材は、表面にシリコン酸化物を含むナノインプリント用のモールドである付記1または2に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材。
(付記5)
直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子の溶液を準備する工程と、
前記溶液を、酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト材料に密着して用いられるレジストパターン形成用部材上に塗布する工程と
を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材の製造方法。
(付記6)
前記両親媒性分子を含む溶液を準備する工程は、分散度が1.4以下で、平均分子量が1000以上5000以下の前記両親媒性分子の溶液を準備する付記5に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材の製造方法。
(付記7)
前記両親媒性分子を含む溶液を準備する工程は、1%以下の濃度で前記両親媒性分子を溶解した溶液を準備する付記5または6に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材の製造方法。
(付記8)
酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト材料に密着して用いられるレジストパターン形成用部材、及び、前記レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜、を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材を準備する工程と、
レジスト膜が形成された基板を準備する工程と、
前記保護膜付きレジストパターン形成用部材を、前記レジスト膜に密着させる工程と
を有するレジストパターンの製造方法。
(付記9)
前記レジストパターン形成用部材は、コンタクト露光用フォトマスクであり、
さらに、
前記保護膜付きコンタクト露光用フォトマスクを前記レジスト膜に密着させた状態で前記レジスト膜に露光を行う工程と、
前記レジスト膜から前記保護膜付きコンタクト露光用フォトマスクを引き離し、前記レジスト膜を現像する工程と
を有する付記8に記載のレジストパターンの製造方法。
(付記10)
前記レジストパターン形成用部材は、ナノインプリント用モールドであり、
さらに、
前記保護膜付きナノインプリント用モールドを前記レジスト膜に密着させた状態で前記レジスト膜を硬化させる工程と、
前記レジスト膜から前記保護膜付きナノインプリント用モールドを引き離す工程と
を有する付記8に記載のレジストパターンの製造方法。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 レジスト膜
3 フォトマスク
3a 透光性基板
3b 遮光膜
Pa 透光部
Pb 遮光部
4 保護膜
L 光
RP1 レジストパターン
11 基板
12 レジスト膜
13 モールド
14 保護膜
RP11 レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト膜に密着して用いられるレジストパターン形成用部材と、
前記レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜と
を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材。
【請求項2】
前記レジストパターン形成用部材は、表面にシリコン酸化物を含む透光部と、表面にクロム酸化物を含む遮光部とを有するコンタクト露光用フォトマスクであり、前記保護膜は、前記透光部上及び前記遮光部上に形成されている請求項1に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材。
【請求項3】
直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子の溶液を準備する工程と、
前記溶液を、酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト材料に密着して用いられるレジストパターン形成用部材上に塗布する工程と
を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材の製造方法。
【請求項4】
前記両親媒性分子を含む溶液を準備する工程は、分散度が1.4以下で、平均分子量が1000以上5000以下の前記両親媒性分子の溶液を準備する請求項3に記載の保護膜付きレジストパターン形成用部材の製造方法。
【請求項5】
酸化物を含む表面を有し、レジストパターン形成のためレジスト材料に密着して用いられるレジストパターン形成用部材、及び、前記レジストパターン形成用部材上に形成され、直鎖状で主鎖がパーフルオロポリエーテルを含み末端基に水酸基を含む両親媒性分子を含む保護膜、を有する保護膜付きレジストパターン形成用部材を準備する工程と、
レジスト膜が形成された基板を準備する工程と、
前記保護膜付きレジストパターン形成用部材を、前記レジスト膜に密着させる工程と
を有するレジストパターンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−133750(P2011−133750A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294532(P2009−294532)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】