説明

側鎖含有型有機シラン化合物、有機薄膜トランジスタ及びそれらの製造方法

【課題】有機化合物を用いた半導体(有機半導体)が着目され、デバイスの研究開発とともに半導体材料の開発が行われている中で、基板との強い相互作用を有し、かつ結晶性薄膜を形成しうる材料を提供することを課題とする。
【解決手段】式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖含有型有機シラン化合物、有機薄膜トランジスタ及びそれらの製造方法に関し、更に詳しくは、電気材料として有用な、導電性又は半導電性の新規物質である側鎖含有型有機シラン化合物、有機薄膜トランジスタ及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物を用いた半導体(有機半導体)は、無機材料を用いた半導体に対し、製造が簡単で加工しやすく、デバイスの大型化にも対応でき、かつ量産によるコスト低下が見込める。また、無機材料よりも多様な機能を有した有機化合物を合成できることから、有機化合物を用いた半導体(有機半導体)の研究開発が行われ、その成果が報告されている。
【0003】
なかでも、π電子共役系分子を含有する有機化合物を利用することにより、大きな移動度を有するTFTを作製することができることが知られている。従来、有機半導体の層は主に蒸着法により形成されていたことより、有機化合物開発は、主にπ電子共役系分子の骨格に注力されており、その骨格の代表例がペンタセンである(例えば、IEEE Electron Device Lett.,18,606−608(1997):非特許文献1)。ここでは、ペンタセンを用いて有機半導体層を作製し、この有機半導体層でTFTを形成すると、電界効果移動度が1.5cm2/Vsとなると記載されている。従ってこの文献では、アモルファスシリコンよりも大きな移動度を有するTFTを構築することが可能であるとの報告がなされている。
【0004】
しかし、上記文献では、有機半導体膜の作製には、抵抗加熱蒸着法や分子線蒸着法等の真空プロセスを必要とするため、製造工程が煩雑となるとともに、ある特定の条件下でしか結晶性を有する膜が得られない。また、基板上への有機化合物膜の吸着が物理吸着であるため、膜の基板への吸着強度が低く、容易に剥がれるという問題がある。更に、膜中での有機化合物の分子の配向をある程度制御するために、通常、あらかじめ膜を形成する基板にラビング処理等による配向制御が行われている。しかし、物理吸着による成膜では、物理吸着した有機化合物と基板との界面での化合物の分子の整合性や配向性を制御できるとの報告は未だなされていない。
【0005】
一方、このTFTの特性の代表的な指針となる電界効果移動度に大きな影響を及ぼす膜の秩序性(すなわち、規則性、結晶性)については、近年、秩序性(結晶性)の向上した膜の製造が簡便なことから、有機化合物を用いた自己組織化膜が着目され、その膜を利用する研究がなされている。
【0006】
自己組織化膜とは、有機化合物の一部を、基板表面の官能基と結合させたものである。この膜は、きわめて欠陥が少なく、高い秩序性(結晶性)を有した膜である。この自己組織化膜は、製造方法がきわめて簡便であるため、基板への成膜を容易に行うことができる。通常、自己組織化膜として、金基板上に形成されたチオール膜や、親水化処理により表面に水酸基を突出可能な基板(例えば、シリコン基板)上に形成されたシラン系化合物膜が知られている。なかでも、耐久性が高い点で、シラン系化合物膜が注目されている。シラン系化合物膜は、従来から撥水コーティングとして使用されており、撥水効果の高いアルキル基や、フッ化アルキル基を有機官能基として有するシランカップリング剤を用いて成膜されていた。
【0007】
しかし、自己組織化膜の導電性は、膜に含まれるシラン系化合物中の有機官能基によって決定されるが、市販のシランカップリング剤には、有機官能基にπ電子共役系分子が含まれる化合物はなく、そのため自己組織化膜に導電性を付与することが困難である。従って、TFTのようなデバイスに適した、π電子共役系分子が有機官能基として含まれるシラン系化合物が求められている。
【0008】
このようなシラン系化合物として、分子の末端に官能基としてチオフェン環を1つ有し、チオフェン環が直鎖炭化水素基を介してケイ素原子と結合した化合物が提案されている(例えば、特許第2889768号公報:特許文献1)。
【0009】
【非特許文献1】IEEE Electron Device Lett.,18,606−608(1997)
【特許文献1】特許第2889768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記に提案されている化合物は、基板との化学吸着可能な自己組織化膜は作製可能であるが、TFT等の電子デバイスに使用できる高い秩序性(結晶性)、電気伝導特性を有する有機薄膜を必ずしも作製できなかった。
【0011】
高い秩序性(結晶性)を得るためには、分子間に高い引力相互作用が働く必要がある。分子間力とは、引力項と反発項により構成されており、前者は分子間距離の6乗に、後者は分子間距離の12乗に反比例する。従って、引力項と反発項を足し合わせた分子間力は図1に示す関係を有する。ここで、図1での極小点(図中の矢印部分)が、引力項と反発項との兼ね合いから最も分子間に高い引力が作用するときの分子間距離である。すなわち、より高い結晶性を得るためには、分子間距離を極小点にできる限り近づけることが重要である。従って、本来、抵抗加熱蒸着法や分子線蒸着法等の真空プロセスにおいては、ある特定の条件下においてのみ、π電子共役系分子同士の分子間相互作用をうまく制御することで、高い秩序性(結晶性)が得られている。このように分子間相互作用により構築される結晶性でのみ、高い電気伝導特性を発現することが可能となる。
【0012】
一方、上記化合物は、Si−O−Siの2次元ネットワークを形成することで基板と化学結合し、かつ、特定の長鎖アルキル同士の分子間相互作用による秩序性が得られる可能性はある。しかし、官能基である1つのチオフェン分子がπ電子共役系分子であるため、長鎖アルキルだけでは分子間の相互作用が弱く、また電気伝導性に不可欠なπ電子共役系分子の広がりが非常に小さいという問題があった。仮に、上記官能基であるチオフェン分子の分子数を増やすことができたとしても、膜の秩序性を形成する因子が、長鎖アルキル部とチオフェン部と2つあり、それら因子が有する分子間相互作用を秩序性が最適になるように整合一致させることは困難である。
【0013】
更に、官能基である1つのチオフェン分子は、電気伝導特性としてのHOMO−LUMOエネルギーギャップが大きい。そのため、上記化合物を有機半導体層としてTFT等に使用しても、十分なキャリア移動度が得られないという課題が存在していた。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、簡便な製造方法により容易に結晶化させて有機薄膜を形成することができ、基板表面に強固に吸着して、物理的な剥がれのない有機薄膜を形成することができ、かつ、高い秩序性(結晶性)、電気伝導特性を有する有機薄膜を作製できる化合物を提供することを目的とする。更に、TFTのような電子デバイスとして用いた場合に、十分なキャリア移動度を確保することができる新規な有機シラン化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
鋭意検討した結果、TFTのような電子デバイスに適応可能な有機薄膜を作製しうる有機シラン化合物には、
(1)基板と強固に化学結合しうるSi−O−Siの2次元ネットワークを形成できる構造、
(2)有機薄膜の秩序性(結晶性)をSi−O−Siの2次元ネットワーク上の分子(ここではπ電子共役系分子)の相互作用すなわち分子間力によって制御できる構造
が必要であることを本発明者等は見いだし、これら構造を有する新規な有機シラン化合物を発明するに至った。
【0016】
かくして本発明によれば、式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物が提供される。
【0017】
更に、本発明によれば、式 R−Li (II)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有している)
で表される化合物と、
式 Y−SiX123 (III)
(式中、X1、X2及びX3は、同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基であり、Yは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコシキ基である)
で表される化合物とを反応させて、
式 R−SiX123 (I)
(式中、R、X1、X2及びX3は上記と同義である)
で表される有機シラン化合物を得ることを特徴とする側鎖含有型有機シラン化合物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、基板と、有機薄膜と、該有機薄膜の一表面にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、該ゲート電極の両側であって、前記有機薄膜の一表面又は他表面に接触して形成されたソース/ドレイン電極とを備えており、かつ、前記有機薄膜が、
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物に由来する膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタが提供される。
【0019】
更に、本発明によれば、基板と、有機薄膜と、該有機薄膜の一表面にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、該ゲート電極の両側であって、前記有機薄膜の一表面又は他表面に接触して形成されたソース/ドレイン電極とを備えた有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物を、単分子膜又は累積膜として積層することで有機薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の化合物は、有機残基に側鎖が含まれるため、有機溶媒への溶解性が高く、従って溶液系プロセスで容易に膜を形成できる。また、有機シラン化合物に含まれるシリル基により隣接する化合物間に形成されるケイ素原子及び酸素原子から構成される網目構造により、基板に化学結合できる。加えて、π電子共役系分子同士に作用する分子間力が効率的に働くため、非常に高い安定性を有し、かつ、高度に結晶化された有機薄膜を構成することが期待できる。
更に、本発明の化合物は、有機残基の主鎖間のみならず、側鎖間にも分子間力が働くため、膜にすることによって更に高い結晶性を得ることが期待できる。
【0021】
更に本発明の化合物は、膜にすることによって、有機残基の主鎖の分子平面に対して垂直方向への特に高い伝導性と、他方向への伝導性の異なる二つの伝導性を持たせることが可能である。そのため、伝導性材料として、有機薄膜トランジスタ材料のみならず、太陽電池、燃料電池、センサー等への広い応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の側鎖含有型有機シラン化合物(以下、単にシラン化合物と称する)は、式(I)、すなわちR−SiX123で表される。上記式(I)中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有している。
【0023】
ここで、縮合多環化合物としては、π電子共役系分子構造を有する化合物であれば特に制限されず、導電性の観点からは対称性、特に線対称性を有するものが好ましい。また、生産性を考慮すれば、5員環あるいは6員環の縮合数が2〜10の縮合多環化合物が好ましい。そのような好ましい化合物の骨格の具体例として、例えば一直線縮合環系であるアセン(acene)骨格、翼状縮合環系であるアフェン(aphene)骨格、2個の同じ環が並んだ縮合環系であるアレン(alene)骨格、1個の環を中心にベンゼン環が集中した縮合環であるフェニレン(phenylene)骨格がある。この内、キャリア移動度を考慮すると、特にベンゼン環が直線状に結合されてなるアセン骨格あるいはフェニレン骨格が好ましい。アセン骨格の具体例としては例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン(ナフタセン)、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、オクタセン等が挙げられる。また、フェニレン骨格としては例えばフェナレン、ペリレン、コロネン、オバレン等が挙げられるが、中でも特に下記構造式で示されるベンゼン環数が2〜10(n=0〜8)のアセン骨格が好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
有機残基は、末端に官能基を有していてもよい。具体的な官能基としては、ヒドロキシル基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、又は、カルボキシル基、エステル基、トリアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0026】
更に、Rは、有機残基と結合するアリール基を介してSiと結合していてもよい。アリール基としては、ベンゼン、ビフェニル等に由来するフェニル基、チオフェン、ビチオフェン等に由来するチエニル基、及びそれらの組み合わせによって構成される基が挙げられ、間にビニレン基が含まれていてもかまわない。
【0027】
また、上記式(I)に含まれるX1、X2及びX3における加水分解により水酸基を与える基としては、特に限定されるものではなく、例えば、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素原子が挙げられる。低級アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、その一部が更に別の官能基(トリアルキルシリル基、他のアルコキシ基等)で置換されたものでもよい。X1、X2及びX3は、同一であってもよいが、必ずしも全てが同一でなくてもよく、その内の2つ又は全てが異なっていてもよい。なかでも、全てが同一であることが好ましい。
【0028】
また、上記式(I)でのRは、いずれも側鎖を有する。ここで側鎖としては、有機溶剤に対する溶解性を向上させる親油性を付与する基であることが望ましい。特に、隣接分子と反応しなければどのような基であってもかまわない。側鎖としては、置換又は無置換のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ジアリールアミノ基、ジ又はトリアリールアルキル基、アルコキシ基、オキシアリール基、ニトリル基、ニトロ基、エステル基、トリアルキルシリル基、トリアリールシリル基、フェニル基、アセン基があげられる。中でも、有機薄膜材料として使用することを考え、隣接分子との分子間相互作用を大きく作用させること、有機薄膜の結晶性を高め、高い導電性を付与することを考慮すると、側鎖の分子占有体積が、側鎖以外の有機残基の主骨格の分子占有体積の100%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。これは分子占有体積が主骨格の100%よりも大きくなると、主骨格同士の分子間相互作用が側鎖のものよりも小さくなるために、結晶性が著しく低下する場合があるためである。
【0029】
このような側鎖としては、たとえば炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、炭素数1〜4のジまたはトリアルキルシリル基、2級及び3級炭化水素に炭素数1〜4のアルキル基が結合した分岐状アルキル基、炭素数5〜18のアリール基を有するモノ、ジまたはトリアリールアルキル基、炭素数5〜18のアリール基を有するモノ、ジまたはトリアリールシリル基、炭素数5〜18のアリール基を有するジまたはトリアリールアミノ基が好ましい。特に、ベンゼン環数が1〜3のアリール基(例えば、フェニル基や、ナフタレン及びアントラセンに由来する基)、炭素数1〜4のアルキル基を含む3級アルキル基、ベンゼン環数が1〜3のアリール基(例えば、フェニル基や、ナフタレン及びアントラセンに由来する基)を含むトリアリールアルキルならびにトリアリールシリル基が好ましい。
本発明のシラン化合物の具体例としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
以下に本発明のケイ素化合物の合成方法を説明する。
本発明のシラン化合物は、
・式 R−Li (II)で表される化合物と、式 Y−SiX123 (III)(式中、X1、X2、X3及びYは上記と同義である)で表される化合物とを反応させるか、
又は、
・式 R−MgX (IV)(式中、R及びXは上記と同義である)で表される化合物と、上記式(III)で表される化合物とをグリニヤール反応させることにより得ることができる。
【0033】
式(II)又は(IV)の化合物は、例えば、RHで表される化合物を、アルキルリチウムと反応させて得るか、あるいはR−X(Xはハロゲン原子)で表される化合物をアルキルマグネシウムハライド又は金属マグネシウム等と反応させて得ることができる。
【0034】
この反応で用いられるアルキルリチウムとしては、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等の低級(炭素数1〜4程度)アルキルリチウムが挙げられる。その使用量は化合物RH1モルに対して1〜5モルが好ましく、より好ましくは1〜2モルである。アルキルマグネシウムハライドとしてはエチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド等が挙げられる。その使用量は原料化合物R−X1モルに対して1〜10モルが好ましく、より好ましくは1〜4モルである。
【0035】
(II)と(III)の化合物の反応時の反応温度及び(IV)と(III)の化合物の反応時の反応温度は、例えば、−100〜150℃が好ましく、より好ましくは−20〜100℃である。反応時間は、例えば、0.1〜48時間程度である。反応は、通常、反応に影響のない有機溶媒中で行われる。反応に悪影響のない有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等脂肪族又は芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等が挙げられ、これらは単独で又は混合液として用いることができる。なかでも、ジエチルエーテルとTHFが好適である。反応は、任意に触媒を用いてもよい。触媒としては、白金触媒、パラジウム触媒、ニッケル触媒等、触媒として公知のものを用いることができる。
【0036】
本発明のシラン化合物の合成方法をより具体的に以下に説明する。以下の合成方法における反応温度や反応時間は上記内容と同様であり、例えば−100〜150℃、0.1〜48時間である。
【0037】
以下では、5員環あるいは6員環で構成される縮合環の例であるアセン骨格に由来するユニットから構成される有機残基の前駆体の合成例を示す。なお、側鎖は、Rの所望の位置にハロゲン原子を有する原料を使用し、グリニヤール試薬を利用することで、その所望の位置に導入できる。これらの合成方法は一例であり、他にも公知の合成方法が適用できる。
【0038】
アセン骨格の合成方法としては、例えば(1)原料化合物の所定位置の2つの炭素原子に結合する水素原子をエチニル基で置換した後に、エチニル基同士を閉環反応させ工程を繰り返す方法、(2)原料化合物の所定位置の炭素原子に結合する水素原子をトリフラート基で置換し、フラン又はその誘導体と反応させ、続いて酸化させる工程を繰り返す方法等が挙げられる。これらの方法を用いたアセン骨格の合成法の一例を以下に示す。
【0039】
【化4】

【0040】
また、上記方法(2)では、アセン骨格のベンゼン環を一つずつ増やす方法であるため、予め側鎖を有する原料を使用して、下記合成例のように、縮合環数を増加させることで側鎖を導入することもできる。
【0041】
【化5】

【0042】
Ra、Rbは、側鎖を意味する。
また、上記方法(2)の反応式中、2つのアセトニトリル基及びトリメチルシリル基を有する出発化合物を、これら基が全てトリメチルシリル基である化合物に変更してもよい。また、上記反応式中、フラン誘導体を使用した反応後、反応物をヨウ化リチウム及びDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)下で、還流させることで、出発化合物よりベンゼン環数が1つ多く、かつヒドロキシル基が2つ置換した化合物を得ることができる。更に、この化合物のヒドロキシル基を公知の方法でブロモ化し、ブロモ基をグリニヤール反応に付せば、ブロモ基の位置に疎水基を導入することができる。
【0043】
なお、上記合成例で使用した原料は、汎用の試薬であり、試薬メーカーより入手、利用できる。例えばテトラセンは東京化成より純度97%以上で入手できる。
【0044】
このようにして得られるシラン化合物は、公知の手段、例えば転溶、濃縮、溶媒抽出、分留、結晶化、再結晶、クロマトグラフィー等により反応溶液から単離、精製することができる。
【0045】
シラン化合物は、例えば、以下のように有機薄膜とすることができる。
まず、ケイ素化合物をヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素等の非水系有機溶媒に溶解する。得られた溶液中に、有機薄膜を形成しようとする基板(好ましくは、水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する基板)を浸漬して、引き上げることで塗膜を得る。あるいは、得られた溶液を基板表面に塗布することで塗膜を得てもよい。その後、得られた塗膜を非水系有機溶媒で洗浄し、水洗し、放置するか加熱することにより乾燥して、塗膜を有機薄膜として定着させる。
【0046】
この有機薄膜は、直接電気材料として用いてもよいし、更に電解重合等の処理を施してもよい。このシラン化合物を用いることで、Si−O−Siネットワーク化とともに、隣り合うπ電子共役系分子間距離が小さく、高度に秩序化(結晶化)した有機薄膜が得られる。また、ユニットが、直鎖状に配置されている場合には、隣り合うシラン化合物のユニット同士は結合せず、更に、隣り合うユニット間距離が小さくできるので、高度に結晶化された有機薄膜を得ることができる。このような有機薄膜はとくに有機薄膜トランジスタとして有用である。
【0047】
続いて、本発明の有機薄膜トランジスタ(有機TFT)を図に従って説明する。
図2は本発明の有機TFTの一例の概念図である。図2の有機TFTはボトムゲート及びボトムコンタクト型の構造である。図2中、1は基板、2はゲート電極、3はゲート絶縁膜、4は有機薄膜、5及び6はソース/ドレイン電極を意味する。なお、図2は、有機薄膜の下面を一表面とし、一表面側にソース/ドレイン電極が形成された例である。
【0048】
なお、有機TFTの構造は、図2の構造に限定されない。他の構造としては、例えば、
(1)基板上に有機薄膜とソース/ドレイン電極をこの順で備え、ソース/ドレイン電極間の有機薄膜上にゲート絶縁膜及びゲート電極をこの順で備えた構成(有機薄膜の上面を一表面とし、一表面側にソース/ドレイン電極が形成された例)
(2)基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、有機薄膜及びソース/ドレイン電極をこの順で備えた構成(有機薄膜の下面を一表面とし、有機薄膜の上面である他表面側にソース/ドレイン電極が形成された例)
(3)基板上にソース/ドレイン電極を備え、ソース/ドレイン電極を覆うように有機薄膜及びゲート絶縁膜をこの順で備え、ゲート絶縁膜上にゲート電極を備えた構成(有機薄膜の上面を一表面とし、有機薄膜の下面である他表面側にソース/ドレイン電極が形成された例)
が挙げられる。
【0049】
以下、本発明の有機TFTの構成要素を具体的に説明する。
(ゲート、ソース/ドレイン電極)
ゲート、ソース/ドレイン電極材料は、特に限定されず、当該分野で公知の材料をいずれも使用できる。具体的には、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属;チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属;高融点金属とのシリサイド、ポリサイド等;p型又はn型ハイドープシリコン;ITO、NESA等の導電性金属酸化物;PEDOTのような導電性高分子が挙げられる。
【0050】
膜厚は、特に限定されるものではなく、通常トランジスタに使用される膜厚(例えば30〜60nm)に適宜調整することができる。
【0051】
これら電極の製造方法は、電極材料に応じて適宜選択できる。例えば、蒸着、スパッタ、塗布等が挙げられる。
【0052】
(ゲート絶縁膜)
ゲート絶縁膜は、特に限定されず、当該分野で公知の膜をいずれも使用できる。具体的には、シリコン酸化膜(熱酸化膜、低温酸化膜:LTO膜等、高温酸化膜:HTO膜)、シリコン窒化膜、SOG膜、PSG膜、BSG膜、BPSG膜等の絶縁膜;PZT、PLZT、強誘電体又は反強誘電体膜;SiOF系膜、SiOC系膜もしくはCF系膜又は塗布で形成するHSQ(hydrogen silsesquioxane)系膜(無機系)、MSQ(methyl silsesquioxane)系膜、PAE(polyarylene ether)系膜、BCB系膜、ポーラス系膜もしくはCF系膜又は多孔質膜等の低誘電体膜等が挙げられる。
【0053】
膜厚は、特に限定されるものではなく、通常トランジスタに使用される膜厚(例えば100〜500nm)に適宜調整することができる。
ゲート絶縁膜の製造方法は、その種類に応じて適宜選択できる。例えば、蒸着、スパッタ、塗布等が挙げられる。
【0054】
(有機薄膜)
有機薄膜の材料は式(1)
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、単環の芳香族炭化水素及び単環の複素環化合物に由来する基から選択されるユニットが3〜10個結合したπ電子共役系の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は、同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である。)で表される側鎖含有型有機シラン化合物を用いる。
【0055】
有機薄膜の製造方法としては、SAM法(例えば、LB法、蒸着、ディップ、浸漬、キャスト、CVD法等)のような有機薄膜を形成しうる一般的な手法がすべて適用できるが、材料・量産のコストを勘案して適宜設定される。
【0056】
なお、本明細書における、SAM法、LB法、蒸着、ディップ、浸漬、キャスト、CVD法の定義を下記する。
SAM法は、Self−Assembled Monolayerの略であり、自己組織化可能な材料を用いて膜を形成する手法を指しており、LB法/ディップ法/浸漬法/キャスト法/CVD法いずれの方法も含まれる。
【0057】
LB法は、Langmuir−Blodgett法の略であり、水面上に疎水基と親水基のバランスのとれた両親媒性の物質を水面上に展開し、単分子膜といわれる分子一層の膜を作製、さらにそれを基板に転写する手法である。
蒸着法は、原料を加熱することにより蒸気とし、それを所望の領域に堆積させる方法であり、例えば有機半導体材料の場合には、抵抗加熱による蒸着法が使用できる。
【0058】
浸漬法は、単に溶液に基板を漬け込み、取り出すことにより膜を形成する方法を意味する。
キャスト法は、所望の領域に対して原料を含む溶液を滴下、乾燥することにより膜を形成する方法を意味し、インクジェットも含まれる。
CVD法は、密閉容器や密閉空間内で、溶液を加熱/蒸発させ、気化された分子を基板表面に気相で吸着させる方法を意味する。
【0059】
また、有機TFTの製造方法としては、例えば、
(1)基板上にゲート電極を形成する工程と、該ゲート電極上にゲート絶縁膜を形成する工程と、該ゲート絶縁膜上に有機薄膜を形成する工程と、該有機薄膜を形成する工程前もしくは後にソース/ドレイン電極を形成する工程とを含む
(2)基板上にソース/ドレイン電極を形成する工程と、該ソース/ドレイン電極を形成する前もしくは後に有機薄膜を形成する工程と、該有機薄膜上にゲート絶縁膜を形成する工程と、該ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程とを含む
方法が挙げられる。
【0060】
以下に、本発明のシラン化合物及びその製造方法を実施例により具体的に説明する。以下実施例1〜3にてフェニル基、チオフェン基を有する本発明のシラン化合物の合成方法を記述するが、以下の実施例の化合物に限定されない。
【実施例】
【0061】
実施例1 式(a)にて表される有機シラン化合物の合成
【化6】

【0062】
表記の化合物は以下の手法により合成した。
まず、5mMの5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを含む四塩化炭素溶液中に、20mMのNBS及び20mMのAIBNを加え、65℃1時間反応させることで、3−ブロモ−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを合成した。続いて、前記3−ブロモ−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを2mM含むジクロロエタン溶液中に金属マグネシウム2mMを加えてグリニヤール試薬を形成した後、2mMのクロロトリメトキシシランを加え、20℃2時間反応させることで、表記の化合物を合成した。
上記合成法のスキームを下記する。
【0063】
【化7】

【0064】
上記スキーム中、Meはメチルを意味する。
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1090cm-1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
【0065】
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.9ppm(m) (4H 芳香族)
7.5ppm(m) (8H 芳香族)
7.4ppm(m) (3H 芳香族)
7.3ppm(m) (8H 芳香族)
7.2ppm(m) (4H 芳香族)
3.6ppm(m) (9H メトキシ基メチル基)
この結果から、得られた化合物が式(a)に示す化合物であることを確認した。
【0066】
更に、得られた化合物の主骨格及び側鎖の分子占有体積、主骨格の分子占有体積に対する側鎖の分子占有体積の割合(体積率)を表1に示す。なお、側鎖及び主骨格の分子占有体積は、以下の様に計算した。
【0067】
まず、主骨格について、主骨格全体を円柱であると近似し、円柱の体積を主骨格の分子占有体積とした。具体的には、主骨格を構成する分子の構造式の主軸(π電子により形成される軸と垂直で、最も分子長が長い2原子間(水素を除く)を通る軸)を中心軸として、360度回転させて得られる円柱の体積を主骨格の分子占有体積とした。
【0068】
側鎖について、側鎖全体を円錐であると近似し、円錐の体積を側鎖の分子占有体積とした。具体的には、側鎖と結合する主骨格の原子と、主骨格と直接結合する原子との2点を通る直線を中心軸として、360度回転させて得られる円錐の体積を側鎖の分子占有体積とした。
【0069】
なお、原子間距離は、分子軌道計算(AM1)により円柱及び円錐の構造を最適化した上で算出した。
上記計算方法に準じて実施例2〜5の化合物の分子占有体積も計算した。
【0070】
実施例2 式(b)にて表される有機シラン化合物の合成
【0071】
【化8】

【0072】
表記の化合物は以下の手法にて合成した。
【0073】
参考例
まず、2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンを、以下の方法により合成した。
【0074】
詳細には、まず、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた200mlガラスフラスコに、マグネシウム0.4M、HMPT(ヘキサメチル亜リン酸トリアミド)100mL、THF20mL及びI2(触媒)、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン0.1Mを加えた後、温度80℃にて、クロロトリメチルシラン0.4Mを滴下し、30分間攪拌した後、130℃にて4日間還流させることにより、1,2,4,5−テトラ(トリメチルシリル)ベンゼンを合成した。
【0075】
続いて、200mLナスフラスコに、i−PrNH20mM、PhI(OAc)2(ジアセトキシヨードベンゼン)50mM、ジクロロメタン50mLを加えた後、0℃にてCF3CO2H(TfOH)50mMを滴下し、2時間攪拌した。続いて前記1,2,4,5−テトラ(トリメチルシリル)ベンゼン50mMを含むジクロロメタン溶液10mLを0℃にて滴下し、室温にて2時間攪拌することにより、フェニル[2,4,5−トリス(トリメチルシリル)フェニル]ヨードニウム トリフレートを合成した。更に続いて、50mLナスフラスコに、Bu4NF2.0MのTHF溶液を仕込み、前記フェニル[2,4,5−トリス(トリメチルシリル)フェニル]ヨードニウム トリフレート5mM及び2,5−トリ(イソプロピル)シリル−3,4−ジ(トリメチルシリル)フラン10mMを含むジクロロメタン溶液10mLを0℃にて滴下し、30分間攪拌することで反応を進行させた。反応終了後、ジクロロメタン及び水にて抽出を行ない、カラムクロマトグラフにて精製を行うことで、1,4−ジヒドロ−1,4−エポキシナフタレン誘導体を合成した。その後、前記1,4−ジヒドロ−1,4−エポキシナフタレン誘導体をヨウ化リチウム1mM,DBU10mMを含むTHF溶液10mLを、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた50mlガラスフラスコに仕込み、前記1,4−ジヒドロ−1,4−エポキシナフタレン誘導体1mMを加えた後、窒素雰囲気下にて3時間還流させることで、反応を進行させた。反応終了後、抽出及びMgSO4による水分除去を行うことで、標記の2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンを合成した。
【0076】
式(b)の化合物の合成例
次に、上記2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)を出発原料とし、合成手法は、2,5−トリ(イソプロピル)シリル−3,4−ジ(トリメチルシリル)フランの代わりに3,4−ジ(トリメチルシリル)フランを使用することを除き、参考例の1,2,4,5−テトラ(トリメチルシリル)ベンゼンから2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンを合成する手法と同様の手法にて2,3,7,8−テトラ(トリメチルシリル)−6,9−ジ(トリイソプロピルシリル)アントラセンを合成した。
【0077】
更に、3,4−ジ(トリメチルシリル)フランの代わりに、2,5−トリ(イソプロピル)シリル−3,4−ジ(トリメチルシリル)フランを使用することを除き、上記2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンから2,3,7,8−テトラ(トリメチルシリル)−6,9−ジ(トリイソプロピルシリル)アントラセンを合成する手法と同様の手法を適用することより、2,3,8,9−テトラ(トリメチルシリル)−5,7,10,12−ジ(トリイソプロピルシリル)テトラセンを合成した。
【0078】
更に、2,5−トリ(イソプロピル)シリル−3,4−ジ(トリメチルシリル)フランの代わりに、3,4−ジ(トリメチルシリル)フランを使用することを除き、上記2,3,7,8−テトラ(トリメチルシリル)−6,9−ジ(トリイソプロピルシリル)アントラセンから2,3,8,9−テトラ(トリメチルシリル)−5,7,10,12−テトラ(トリイソプロピルシリル)テトラセンを合成する手法と同様の手法を適用することより、2,3,9,10−テトラ(トリメチルシリル)−5,7,12,14−テトラ(トリイソプロピルシリル)ペンタセンを合成した。
【0079】
続いて、前記2,3,9,10−テトラ(トリメチルシリル)−5,7,12,14−テトラ(トリイソプロピルシリル)ペンタセン10mMを少量の水及びPhNMe3Fを含むTHF溶媒に溶解させた後、攪拌することで、5,7,12,14−テトラ(トリイソプロピルシリル)ペンタセンを合成した。
【0080】
更に、窒素雰囲気下にて、200mlナスフラスコに乾燥THF5ml、前記5,7,12,14−テトラ(トリイソプロピルシリル)ペンタセンを5mM、マグネシウムを加えた後、1時間攪拌することにより、グリニヤール試薬を形成したのち、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた100mlナスフラスコにクロロトリメトキシシラン5mM、THF30mlを仕込み、氷冷したのち、前記グリニヤール試薬を加え、30℃にて1時間成熟を行った。次いで、反応液を減圧にてろ過し、塩化マグネシウムを除いた後、ろ液からTHF及び未反応のクロロトリメトキシシランをストリップすることにより標記化合物を10%の収率で得た。
上記合成法のスキームを下記する。
【0081】
【化9】

【0082】
上記スキーム中、Meはメチル、i−Prはイソプロピル、Phはフェニル、Acはアセチル、Buはブチルを意味する。
【0083】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1090cm-1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
【0084】
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.9ppm(m) (6H 芳香族)
7.4ppm(m) (2H 芳香族)
3.6ppm(m) (9H メトキシ基メチル基)
1.5ppm(m) (48H イソプロピル基)
1.2ppm(m) (12H イソプロピル基)
この結果から、得られた化合物が式(b)に示す化合物であることを確認した。
【0085】
更に、得られた化合物の主骨格及び側鎖の分子占有体積、主骨格の分子占有体積に対する側鎖の分子占有体積の割合(体積率)を表1に示す。
【0086】
実施例3 式(c)にて表される有機シラン化合物の合成
【0087】
【化10】

【0088】
表記の化合物は以下の手法により合成した。
5mMの5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを含む四塩化炭素溶液中に、40mMのNBS及びAIBNを加え、65℃6時間反応させることで、3,8−ジブロモ−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを合成した。続いて、ブロモジフェニルを10mM含む四塩化炭素溶液中に金属マグネシウムを加え、60℃1時間反応させることによって、グリニヤール試薬を形成し、前記3,8−ジブロモ−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセン4mMを加え、20℃で8時間反応させることで、2,8−ビス−ビフェニル−4−イル−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを合成した。続いて、前記2,8−ビス−ビフェニル−4−イル−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを2mM含む四塩化炭素溶液中に、10mMのNBS及び10mMのAIBNを加え、65℃1時間反応させた後、金属マグネシウムを用いてグリニヤール試薬を形成し、テトラクロロシラン2mMを含むTHF溶液に加えて45℃2時間反応させることで表記の化合物を合成した。
上記合成法のスキームを下記する。
【0089】
【化11】

【0090】
得られた化合物について、赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、1075cm-1にSiC由来の吸収が観測され、化合物がSiC結合を有することが確認できた。
【0091】
更に化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。得られた化合物を直接NMR測定することは、化合物の反応性が高いことより不可能であるため、化合物をエタノールと反応させ(塩化水素の発生を確認した)、末端の塩素をエトキシ基に変換した後、測定を行った。
【0092】
8.1ppm(m) (2H 芳香族テトラセン骨格)
7.9ppm(m) (2H 芳香族テトラセン骨格)
7.6ppm(m) (2H 芳香族テトラセン骨格)
7.5ppm(m) (8H 芳香族フェニル基)
7.4ppm(m) (12H 芳香族フェニル基)
7.3ppm(m) (12H 芳香族フェニル基)
7.2ppm(m) (5H 芳香族フェニル基)
3.6ppm(m) (6H エトキシ基メチレン基)
1.4ppm(m) (9H エトキシ基メチル基)
この結果から、得られた化合物が式(c)に示す化合物であることを確認した。
【0093】
更に、得られた化合物の主骨格及び側鎖の分子占有体積、主骨格の分子占有体積に対する側鎖の分子占有体積の割合(体積率)を表1に示す。
【0094】
実施例4 式(d)にて表される有機シラン化合物の合成
【0095】
【化12】

【0096】
表記の化合物は以下の手法により合成した。まず、i−PrNHの代わりにPh−Si(CH32NHを使用することを除き、実施例2の参考例と同様の手法を適用することで、2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(ジメチルフェニルシリル)ナフタレンを合成した。続いて、2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンの代わりに前記2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(ジメチルフェニルシリル)ナフタレンを出発原料ならびに合成途中の試料とすることを除き、実施例2の合成例と同様の手法を適用することで、表記の化合物を得た。
【0097】
得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
【0098】
7.9ppm(m) (6H ペンタセン)
7.5ppm(m) (8H ジメチルフェニルシリル基)
7.4ppm(m) (14H ペンタセン及びジメチルフェニルシリル基)
3.6ppm(m) (18H メトキシ基メチル基)
1.1ppm(m) (12H ジメチルフェニルシリル基メチル基)
この結果から、得られた化合物が式(d)に示す化合物であることを確認した。
【0099】
更に、得られた化合物の主骨格及び側鎖の分子占有体積、主骨格の分子占有体積に対する側鎖の分子占有体積の割合(体積率)を表1に示す。
【0100】
実施例5 式(e)にて表される有機シラン化合物の合成
【0101】
【化13】

【0102】
表記の化合物は以下の手法により合成した。まず、i−PrNHの代わりにNaphtalene−C(CH32NHを使用することを除き、実施例2の参考例と同様の手法を適用することで、2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(ジメチルナフチルアルキル)ナフタレンを合成した。続いて、2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(トリイソプロピルシリル)ナフタレンの代わりに前記2,3,6,7−テトラ(トリメチルシリル)−5,8−ジ(ジメチルナフチルアルキル)ナフタレンを出発原料ならびに合成途中の試料とすることを除き、実施例2の合成例と同様の手法を適用することで、表記の化合物を得た。
【0103】
得られた化合物の核磁気共鳴(NMR)測定を行った。
7.9ppm(m) (6H ペンタセン)
7.8ppm(m) (4H ナフタレン)
7.6ppm(m) (4H ナフタレン)
7.5ppm(m) (4H ナフタレン)
7.4ppm(m) (2H ペンタセン)
7.3ppm(m) (8H ナフタレン)
7.2ppm(m) (4H ナフタレン)
7.1ppm(m) (4H ナフタレン)
3.6ppm(m) (18H メトキシ基メチル基)
1.1ppm(m) (12H ジメチルフェニルシリル基メチル基)
この結果から、得られた化合物が式(e)に示す化合物であることを確認した。
【0104】
更に、得られた化合物の主骨格及び側鎖の分子占有体積、主骨格の分子占有体積に対する側鎖の分子占有体積の割合(体積率)を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
実施例6 有機薄膜トランジスタの形成
図2に示す有機薄膜トランジスタを作製するために、まず、シリコンからなる基板1上にクロムを蒸着し、ゲート電極2を形成した。
【0107】
次に、プラズマCVD法によりチッ化シリコン膜からなるゲート絶縁膜3を堆積した後、クロム、金の順に蒸着を行い、通常のリソグラフィー技術によりソース/ドレイン電極(5、7)を形成した。
【0108】
続いて、得られた基板を、過酸化水素と濃硫酸の混合溶液(混合比3:7)中において1時間浸漬し、ゲート絶縁膜3表面を親水化処理した。その後、得られた基板を嫌気条件において、3−トリメトキシシリル−5,6,11,12−テトラフェニル−ナフタセンを非水系溶媒(例えば、n−ヘキサデカン)に溶解した20mM溶液に5分間浸漬させ、ゆっくりと引き上げ、溶媒洗浄を行って有機薄膜6を形成することで、有機TFTを形成した。
【0109】
また、上記で得られた有機薄膜トランジスタは、電界効果移動度が7.2×10-2cm2/Vsで、オン/オフ比が約6桁であり、良好な性能が得られた。
【0110】
実施例7〜10
実施例6と同様の方法にて、以下の表に示す化合物を製膜してなる有機薄膜トランジスタを形成した。各々の特性を評価したところ、下記の表に示す良好な性能が得られた。
【0111】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】分子間距離と分子間力との関係を説明するための図である。
【図2】本発明の有機TFTの一例の概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項2】
前記RとSiの間にアリール基R2を介する請求項1に記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項3】
前記Rが
【化1】

(式中、nは0〜8である)にて表されるアセン骨格を有する請求項1又は2に記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項4】
前記側鎖が、側鎖以外の有機残基の主骨格の分子占有体積の60%以下の分子占有体積を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項5】
前記側鎖が、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するトリアルキルシリル基、炭素数5〜18のアリール基を有するジ又はトリアリールアルキル基、炭素数5〜18のアリール基を有するジ又はトリアリールシリル基である請求項1〜4のいずれか1つに記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項6】
前記Rが、全体として分子軸に対する線対称性を有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項7】
前記Rが、全体として中心に対する点対称性を有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項8】
前記X1、X2及びX3が、いずれも同種のハロゲン原子又は低級アルコキシ基である請求項1〜7のいずれか1つに記載の側鎖含有型有機シラン化合物。
【請求項9】
式 R−Li (II)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有している)
で表される化合物と、
式 Y−SiX123 (III)
(式中、X1、X2及びX3は、同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基であり、Yは水素原子、ハロゲン原子又は低級アルコシキ基である)
で表される化合物とを反応させて、
式 R−SiX123 (I)
(式中、R、X1、X2及びX3は上記と同義である)
で表される有機シラン化合物を得ることを特徴とする側鎖含有型有機シラン化合物の製造方法。
【請求項10】
基板と、有機薄膜と、該有機薄膜の一表面にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、該ゲート電極の両側であって、前記有機薄膜の一表面又は他表面に接触して形成されたソース/ドレイン電極とを備えており、かつ、前記有機薄膜が、
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物に由来する膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
基板と、有機薄膜と、該有機薄膜の一表面にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、該ゲート電極の両側であって、前記有機薄膜の一表面又は他表面に接触して形成されたソース/ドレイン電極とを備えた有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
式 R−SiX123 (I)
(式中、Rは、5員環あるいは6員環が2〜10縮合した縮合多環化合物の有機残基であり、少なくとも1つ以上の側鎖を有しており、X1、X2及びX3は同一又は異なって、加水分解により水酸基を与える基である)で表される側鎖含有型有機シラン化合物を、単分子膜又は累積膜として積層することで有機薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−89465(P2006−89465A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234768(P2005−234768)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】