説明

光ケーブルとその製造方法

【課題】ケーブル被覆内にケーブル切裂き用の溝を設けた光ケーブルにおいて、曲げに対する方向性がなく、曲げ癖やキンク発生が生じにくい光ケーブルとその製造方法を提供する。
【解決手段】保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆18とケーブル被覆14の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルである。中心の単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維12を配し、単心光ファイバ心線の保護被覆17と接着しないようにコード被覆18を形成し、コード被覆18の外側にケーブル被覆14をコード被覆とは接着されないが互いに滑り難い密着状態となるように押出し被覆で形成する。同時にケーブル被覆14の内面側の少なくとも2箇所に、ケーブル被覆引裂き用のノッチ19a,19bを形成すると共に、ノッチの間隙部分をケーブル被覆とは接着性を有しない材料20で満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宅内や構内の光配線等に用いるような光通信用の光ケーブルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宅内の光配線等で使用される光ケーブルは、一般に光ファイバの引張り強度を補強するためにテンションメンバを沿わせて、ケーブル被覆等で一括した構成とされている。また、この種の光ケーブルは、光コネクタ等を接続する端末処理に際して、ケーブル被覆を除去する必要がある。そこで、ケーブル被覆の除去を容易にするために、ケーブル被覆の長手方向に切裂き用の溝を設けることが知られている。ただ、切裂き用の溝をケーブル被覆の表面から内部に向けて設けると、複数本の光ケーブルを布設するような場合、引裂き用の溝部分同士が互いに引っ掛かって、光ケーブルに外傷を発生させる恐れがある。また、ケーブル被覆を引裂く際に、内部の光ファイバにテンションをかけたり、損傷を与えたりする恐れがあった。
【0003】
これを改善するために、ケーブル被覆の内面側に引裂き用の溝を設ける構成のものが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。図10(A)及び図10(B)は、前記の特許文献1に開示の光ケーブルの構成例を示す図である。図10(A)に示す光ケーブル1aは、1本のテンションメンバ2と、このテンションメンバ2に並列して配置された光ファイバコード3と、この光ファイバコード3とテンションメンバ2の外周部を覆い、外周部がほぼ楕円状になるようにシース4(ケーブル被覆)で覆った構造である。
【0004】
テンションメンバ2は、光ケーブルの強度を保つためのもので、鋼線2aの外周部をシース2bで覆った構造を有している。光ファイバコード3は、光ファイバ心線6の外周部を樹脂層7で覆い、さらにその外周部をシース8で覆った構造を有している。テンションメンバ2及び光ファイバコード3を覆うシース4の内周面には、断面が三角形状の切裂き用の溝9a,9bが形成されている。また、図10(B)に示す光ケーブル1bは、テンションメンバ2を中心にしてその周囲に複数本の光ファイバコード3を配置してシース5で覆い、さらにその周囲を外周部がほぼ円形状になるようにシース4で覆った構造である。そして、シース4の内周面の対称位置には、同様に断面が三角形状の切裂き用の溝9a,9bが形成されている。
【0005】
切裂き用の溝9a,9bが形成されている部分にニッパ等で切れ目を入れ、シース4を上下方向に引裂く。切裂き用の溝9a,9bが形成されている部分は、断面積が小さくなっているので容易に引裂くことができる。しかも、シース4の表面には溝による凹凸が無く、多数本の光ファイバケーブル1を同時に布設する際に、光ケーブルに外傷を発生させる恐れがなく、また、切込みを入れるときに、内部の光ファイバコード3に損傷を与えるのを防止できるとされている。
【特許文献1】特開2004−264473号公報
【特許文献2】特開2004−77888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10(A)及び図10(B)に示す光ケーブルは、断面が円形の光ファイバコードとテンションメンバを併設し、外側をケーブル被覆となるシースで覆った構成である。このため、テンションメンバと光ファイバコードの間、或いは、複数の光ファイバコード間の接触部に隣接して空隙が生じ、光ケーブル内には相互に密着しないコード要素が配置された状態となる。このような構造の光ケーブルを曲げると、シース内部でケーブル要素が相互に動き光ケーブルに曲げ癖がつきやすい。曲げ癖のついた光ケーブルを宅内や構内への布設に際して、配線用の配管内に挿通すると挿入抵抗が大きく、また既設の光ケーブルと絡み配線の作業性が悪いというような問題がある。また、図10(A)のような楕円形状のシースを施した光ケーブルでは、曲げ方向に方向性が生じる。このため、角部での配線で曲げ方向が限定されたり、局所的な小さな曲がりが生じて伝送特性を低下させるという問題があった。
【0007】
そこで、光ファイバコード内にテンションメンバを同心状に配した単心構造とし、ケーブル被覆を光ファイバコードに同心状に設け、ケーブル被覆の内面に引裂き用の溝を設ける構造が検討された。ケーブル被覆に除去性を持たせるためには、コード被覆の外周に設けるケーブル被覆がコード被覆に対して接着せず剥離性を有している必要がある。しかしながら、ケーブル被覆がコード被覆に対して滑りやすい状態であると、やはり曲げ癖が生じ、コード被覆とケーブル被覆が局所的にずれて応力集中による損傷やキンクが生じやすいという問題がある。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、ケーブル被覆内にケーブル切裂き用の溝を設けた光ケーブルにおいて、曲げに対する方向性がなく、曲げ癖やキンク発生が生じにくい光ケーブルとその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光ケーブル及びその製造方法は、保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆とケーブル被覆の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルである。中心の単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維を配し、単心光ファイバ心線の保護被覆と接着しないようにコード被覆を形成し、コード被覆の外側にケーブル被覆をコード被覆とは接着されないが互いに滑り難い密着状態となるように押出し被覆で形成する。同時にケーブル被覆の内面側の少なくとも2箇所に、ケーブル被覆引裂き用のノッチを形成すると共に、ノッチの間隙部分にケーブル被覆とは接着性を有しない材料で満たすようにする。ノッチの間隙部分を満たすものとしては、例えば、抗張力繊維、樹脂テープのエッジ部分、コード被覆と一体に形成された突条などがある。また、ノッチを実質的に間隙がないスリット状に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明による単心の光ケーブルは、ケーブル被覆の内面側にノッチが設けられるので、従来と同様に光ケーブルに外傷を発生させる恐れがなく、内部の光ファイバコードに損傷を与えることなくケーブル被覆を切裂くことができる。しかも、ケーブル被覆は、コード被覆とは接着されないが互いに滑り難い状態で形成されているので、光ケーブルは、曲げ癖や折れ曲げによるキンク発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明が対象とする光ケーブルの基本構成を説明するための図、図2〜図6は本発明の種々の実施形態を示す図である。図中、11,11a〜11eは光ケーブル、12は抗張力繊維、13は光ファイバコード、14はケーブル被覆、15は境界面、16は光ファイバ、17は保護被覆、18はコード被覆、19a,19bはノッチ、19a’,19b’はスリット状のノッチ、20は充填材、21は抗張力繊維、22は樹脂テープ、22aはテープエッジ、23は突条を示す。
【0011】
図1に示すように、光ケーブル11は、光を伝送する光ファイバ16を保護被覆17で被覆した光ファイバ心線の外周に抗張力繊維12を配置し、その外側に保護被覆17と接着しないように同心円状にコード被覆18を施した光ファイバコード13から成っている。単心の光ファイバコード13の外周には、コード被覆18には接着しないが、コード被覆18に対して滑りにくいように密着状態で円形状のケーブル被覆14が設けられる。すなわち、コード被覆18とケーブル被覆14の境界面15で、互いに接着しないが密着ないしは摩擦力で滑りが生じにくい状態で同心円状に配置される。また、ケーブル被覆14の内部には、内面側から外面側に向けてケーブル被覆引裂き用のノッチ(溝ともいわれる)19a,19bが設けられる。
【0012】
光ファイバ16には、シングルモードファイバ、マルチモードファイバ等の標準外径が125μmのガラスファイバ、或いは、ガラスコアとプラスチッククラッドからなるプラスチッククラッドガラスファイバ、コアとクラッドがプラスチックからなるプラスチックファイバ等の種々のものを用いることができる。これらの光ファイバは、例えば、外周を紫外線硬化樹脂やシリコーン樹脂などの内部被覆と、ナイロンや難燃ポリオレフィンなどの外層被覆からなる保護被覆17で保護されている。なお、保護被覆17は、例えば、外径が0.5mm〜0.9mmで形成されている。
【0013】
抗張力繊維12は、光ケーブル或いは光ファイバコードとして、その端末部分を光コネクタ等に接続した際に、接続部に張力が加わった場合に一定以上の力が及ばないようにする保護機能を持たせるものである。この抗張力繊維12としては、高強度のアラミド繊維等が用いられ、例えば、ケブラー(デュポン登録商標)、トワロン(AKZO登録商標)、テクノーラ(テイジン登録商標)などが用いられる。
【0014】
光ファイバ心線を囲むように抗張力繊維12の外側から、コード被覆18が形成される。コード被覆18は、例えば、ポリ塩化ビニルや難燃ポリオレフィンなどが用いられ、外径が1.1mm〜3.0mmとなるように押出し成形機で形成される。このコード被覆18は、抗張力繊維12を介して光ファイバ被覆上に形成されるので、保護被覆17に接着する可能性は低く、光ファイバ心線がコード被覆18の伸縮で応力を受けることはない。しかし、コード被覆18の押出し成形時に、抗張力繊維12がコード被覆18の押出し温度では軟化しないが溶融状態にあるコード被覆18に索引されて特性変動を起こしたり、コード被覆内に取り込まれたりするのを回避するために、抗張力繊維12にタルク等の離型材を付着しておくことが望ましい。
【0015】
コード被覆18が設けられた状態で、その端末に光コネクタ等を接続して、機器内や機器間の光配線が可能な単心の光ファイバコード13とされる。なお、コード被覆18を厚くすると、低温収縮による伝送損失増、被覆材の除去性や屈曲性が低下し、被覆厚さを厚くすれば良好な特性が得られるというものではない。このため、宅内や構内の布設、或いは光配管内に挿通させて布設するには、光ファイバコード13の外周に、さらにケーブル被覆14を設けて光ケーブルとされたものが使用される。ケーブル被覆14は、コード被覆18と同様なポリ塩化ビニルや難燃ポリオレフィンなどが用いられ、例えば、外径が5.0mm程度となるように押出し成形機で形成される。
【0016】
ケーブル被覆14は、除去が容易なようにコード被覆18とは接着しないように(コード被覆18とケーブル被覆14とを非接着とする方法については後述する)設けられる。しかし、ケーブル被覆14とコード被覆18との境界面15が滑りやすい状態、光ファイバコード13がケーブル被覆14に対する引抜力が小さいと挫屈径が大きくなり、キンクが発生しやすく、また、曲げ癖も生じやすくなる。このため、本発明においては、ケーブル被覆14を、コード被覆18とは接着しないが互いに滑りにくい状態となるように形成している。ケーブル被覆14とコード被覆18とが互いに滑りにくい状態とするには、以下に説明するように、ケーブル被覆14をコード被覆18の外周に密着状態でその摩擦力を高めることにより実現することができる。
【0017】
また、本発明においては図10で説明したのと同様に、ケーブル被覆14の内側には、内面側から外面側に向かうノッチ19a,19bを、対向する位置の少なくとも2個所に設ける。ノッチ19a,19bは、例えば、ケーブル被覆14の内面側を幅0.8mmの底辺とし、高さ1.0mmとした断面三角形状で形成される。ケーブル被覆14を除去する際には、ケーブル被覆14の端部にカッターナイフやニッパで切込みを入れ、ケーブル被覆14を切込み部分を起点として引裂いて、内側の光ファイバコード13を取出すことができる。この場合、ノッチ19a,19bが形成されている部分では、ケーブル被覆14の表面からの厚さが小さくなっているので、切込みが入れやすく、引裂きやすく、内部の光ファイバコードに損傷を与えることなく容易に引裂くことができる。
【0018】
ノッチ19a,19bとして、三角形状の例を示したが、これに限定するものではなく、ケーブル被覆14の全体の厚さより表面からの厚さが小さくなるように形成されていればよく、ノッチ19a,19bの空隙容積を大きくする必要もない。このため、本発明では、図2の光ケーブル11aで示すように、ノッチ19a,19bの空隙部分にケーブル被覆14とは接着されない材料からなる充填材20を充填する構成としている。ノッチ19a,19bの空隙部分に充填材20を充填することにより、ノッチの空隙部分を埋めて、コード被覆18との接触面積の減少分を補償することができる。また、充填材20としてコード被覆18及びケーブル被覆14に対して摩擦係数の大きい材料を用いることにより、コード被覆18及びケーブル被覆14との間の摩擦力を高め、滑り発生を低減することができる。
【0019】
図3に示す光ケーブル11bは、ノッチ19a,19bの空隙部分ないしその近傍に抗張力繊維21を縦添えで配置し、ノッチ19a,19bの空隙部分が抗張力繊維21で満たされるようにしたものである。ここで用いる抗張力繊維21としては、光ファイバ心線の保護被覆17とコード被覆18との間に介在させたアラミド繊維等の抗張力繊維12と同じものを用いることができる。ノッチ19a,19bの空隙部分を抗張力繊維21で満たすことにより、コード被覆18とケーブル被覆14との間の摩擦力を高め、滑り発生を低減することができる。
【0020】
図4に示す光ケーブル11cは、樹脂テープ22をコード被覆18の外面に縦添えした際に、接合されるテープエッジ22aを側方に張り出させ、ノッチ19a,19bの空隙部分を満たすようにしたものである。なお、樹脂テープ22は、後述するコード被覆18とケーブル被覆14と、非接着機能を持たせるのに用いられるものである。このノッチ19a,19bの空隙部分を樹脂テープ22のエッジ部22aで満たすことにより、図2,3の場合と同様に、コード被覆18とケーブル被覆14との間の摩擦力を高め、滑り発生を低減することができる。
【0021】
図5に示す光ケーブル11dは、コード被覆18を押出し成形機で形成する際に、コード被覆の側面に張り出すように三角形状の突条23を、対称な位置の少なくとも2個所に一体成形で設ける。このコード被覆18の外側に接着しないようにケーブル被覆14を押出し成形機で形成したとき、突条23によりケーブル被覆14の内部にノッチ19a,19bが成形される。このときのノッチ19a,19bの空隙部分は、突条23によって満たされた状態となり、図2〜図4で説明したのと同様に、コード被覆18とケーブル被覆14との間の摩擦力を高め、滑り発生を低減することができる。
【0022】
図6に示す光ケーブル11eは、ノッチ内の空隙部分が実質的はゼロに近いスリット状としたノッチ19a’,19b’で形成したものである。スリット状のノッチ19a’,19b’は、実質的に空隙がない状態となるので、ケーブル被覆14とコード被覆18との接触面積が大きく、また、密着性を高めることができるので、図2〜図5で説明したのと同様に、全体の摩擦力を高め、滑り発生を低減することができる。
【0023】
以上のように形成された光ケーブルは、例えば、数m程度の長さの宅内布設用として用意され、その端末部は接続箱あるいは光機器内に導入して光コネクタを接続するため、ケーブル被覆が除去される。ケーブル被覆の除去は、対称位置にあるノッチにニッパ等で切込みを入れ、約10mm程度の切れ口を作る。なお、ノッチの位置を識別しやすいように、ケーブル被覆の表面に、ノッチ位置を示す識別ラインを入れておいてもよい。ケーブル被覆に切込みを入れた後、ケーブル被覆を両側に引っ張ることにより、ノッチに添ってケーブル被覆を容易に引裂くことができる。なお、ケーブル被覆の引裂き時に、図2〜図4で説明したノッチへの充填物は引裂き紐としても利用することができる。
【0024】
ケーブル被覆を引裂いて、内部の光ファイバコードを所定長さ(例えば、20cm〜50cm)だけ取出し、その端部のコード被覆を除去し、光ファイバ心線を露出させて光コネクタに接続すると共に、抗張力繊維を光コネクタの筐体部に引き止め固定する。なお、光コネクタへの光ファイバコードの導入部分、ケーブル被覆の除去際で光ファイバコードに急激な曲げが生じないように、ブーツを取り付けて光コネクタ付き光ケーブルとしておくこともできる。
【0025】
図7〜図9は、上述した光ケーブルの種々の製造方法を示す図である。図中、10は光ファイバ心線、25,26は押出し成形機、27は離型材塗布装置、28は巻付け装置、29はダイ、30はニップル、31は刃状部材を示す。その他の符号は図1〜図6で用いたのと同じ符号を用いることにより説明を省略する。
【0026】
図7(A)は、図2,図3で説明した光ケーブルの製造例を示す図で、先ず、単心の光ファイバ心線10の外周にアラミド繊維等の抗張力繊維12を縦添えし、その外側に押出し成形機25でコード被覆18を形成し、単心の光ファイバコード13とされる。抗張力繊維12自体は、コード被覆18の被覆温度では軟化しないが、この抗張力繊維12が溶融状態にあるコード被覆18に索引されて特性変動を起こしたり、コード被覆内に取り込まれたりするのを回避するために、抗張力繊維12にタルク等の離型材を塗布しておくことが望ましい。
【0027】
単心の光ファイバコード13の外周には、押出し成形機26によりケーブル被覆14を形成し、断面が円形の単心の光ケーブル11とされる。ケーブル被覆14は、図1で説明したように、コード被覆18に対して接着はされないが、互いに滑らないように設ける必要がある。ケーブル被覆14をコード被覆18に接着させない方法の一つとして、コード被覆18の表面が変形を生じる温度以下でケーブル被覆14を形成することにより、実現させることができる。
【0028】
しかし、ケーブル被覆14の加工温度が、コード被覆18の加工温度より低い材料を用いるということではなく、コード被覆18の表面にケーブル被覆14が接触するときの温度である。すなわち、ケーブル被覆14とコード被覆18の加工温度が同じであっても、軟化状態にあるケーブル被覆14の温度が、コード被覆18の外周を被覆するときの温度が低ければよいということである。例えば、コード被覆18の変形温度に対して20℃程度低い温度で、ケーブル被覆14が形成されれば、ケーブル被覆14とコード被覆18とは接着されない。これには、ケーブル被覆18を予め低温状態にしておいて、ケーブル被覆14を形成することも有用である。
【0029】
ケーブル被覆14は、コード被覆18には接着しないが、互いに滑りが生じないように押出し被覆で密着状態で形成する必要がある。また、ケーブル被覆14の内面にノッチを設けるため、後述する図8(A)に示すように引き落とし形態で形成する必要がある。このため、十分な密着状態が得られない場合もあり、図2、図3で説明したように、ノッチの間隙部分を充填する抗張力繊維などの充填材20がコード被覆18の側面に縦添えで供給される。
【0030】
図7(B)は、コード被覆18の表面に離型材を付着しておいて、ケーブル被覆14との接着を回避する方法を示す図である。離型材としては、ケーブル被覆14の形成時の温度でも安定して残存するタルクやシリコーンオイルが好ましい。光ファイバコード13の外周にケーブル被覆14を押出し形成する前に、離型材塗布装置27を通過させてタルクやシリコーンオイルを塗布し、不織布でぬぐうことにより付着させる。また、抗張力繊維などの充填材20をコード被覆18の側面に縦添えして、ケーブル被覆14のノッチの間隙部分に充填することは、図7(A)の場合と同様である。
【0031】
なお、図5に示した光ケーブルにおいても、コード被覆18の表面が変形を生じる温度以下でケーブル被覆14を形成し、また、コード被覆18の表面に離型材を付着しておいて、ケーブル被覆14を形成する方法が用いられる。ただ、図5の光ケーブルの場合は、コード被覆18に、ケーブル被覆14のノッチの空隙部分を満たす突条が一体に成形されているため、別途充填材を縦添えする必要がないので省略することができる。
【0032】
図7(C)は、コード被覆18の表面を樹脂テープ22で覆っておいて、ケーブル被覆14を形成する方法を示す図である。この方法は、図4で説明したように、樹脂テープ22をコード被覆18の外面に縦添えし、その接合するエッジ部がケーブル被覆内のノッチの空隙部分を満たすのにも利用される。樹脂テープ22は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアミドなどの熱変形温度の高い樹脂からなるテープが用いられる。樹脂テープ22は、巻付け装置28で巻付けるか、縦添えして光ファイバコード13の全周を覆うようにする。なお、図4の構成を兼ねさせるには、2枚の樹脂テープを縦添えして、その接合するエッジ部を側方に張り出すようにする。
【0033】
また、樹脂テープ22に代えて、アラミド繊維等の抗張力繊維で光ファイバコード13の全周を覆うようにしてもよい。図3においては、ケーブル被覆のノッチの近傍部分に抗張力繊維を縦添えする例で説明したが、樹脂テープ22と同様に、巻付け装置28等で光ファイバコード13の全周を覆うように巻きつけるか、縦添えすることでも同様の機能を持たせることができる。
【0034】
図8(A),(B)は、押出し成形機26のヘッド部分の詳細を示す図である。樹脂の押出し口部分では、ダイ29とニップル30の端面をほぼ一致させて、ケーブル被覆14を引き落とし形態で形成するようにしている。光ファイバコード13の外周への密着度は、軟化状態のケーブル被覆14と光ファイバコード13との間の吸引圧力を変えることによって調整することができる。ニップル30の外面には、少なくとも対称位置に、刃状部材31を設けておくことによりケーブル被覆14の内面にノッチを設けることができる。この刃状部材31の形状を薄くすることにより、図6で説明したスリット状のノッチを形成することもできる。
【0035】
図9は、スリット状のノッチを形成する他の例を示す図である。図9(A)は、押出し成形機の出口付近では、例えば、ケーブル被覆14を2つの半円柱状のケーブル被覆14aと14bで形成する。次いで、光ファイバコード13の外周面に円筒状になるように側面のエッジ部を重ね、互いに密着するように押しつけると共に、外側を加熱してエッジ部の外側部分のみを融着させる。この結果、スリット状のノッチ19a’,19b’を形成することができる。
【0036】
図9(B)は、押出し成形機の出口付近では、例えば、ケーブル被覆14cを楕円状に成形すると共に、短径側の内面にニップルの刃で三角形状のノッチ19a,19bを形成しておく。次いで、光ファイバコード13の外周面に円筒状に変形させながら密着させることにより、三角形状のノッチ19a,19bの空隙部分が閉じられて微小の間隙となる。この結果、スリット状のノッチ19a’,19b’が得られる。
【0037】
本発明を評価するために、図3に示す形状の光ケーブル11bを作製した。光ファイバ心線としては、標準のシングルモードの光ファイバを外径が0.9mmの保護被覆で被覆されたものを用いた。光ファイバ心線の外周にケブラー繊維を配して、難燃ポリエチレンで外径が2.0mmのコード被覆を形成して光ファイバコードとした。この光ファイバコードの外周にコード被覆と同じ難燃ポリエチレンを用いて外径が5.0mmのケーブル被覆を形成して光ケーブルとした。また、図8に示した方法で、三角形状のノッチ(高さ1.0mm、幅0.3mm)を形成し、ケブラー繊維(1140デニール1本)を添わせたものと、ケブラー繊維を用いないものとを作製した。
【0038】
上記の2種の光ケーブルについて、JIS−C6851によるキンク試験を行なった。ノッチの空隙部分にケブラー繊維を用いない光ケーブルの場合は、光ケーブルの内周直径が10cmに達する前に、10サンプル中の全てでキンクが発生した。一方、ノッチの空隙部分にケブラー繊維を満たした光ケーブルの場合は、光ケーブルの内周直径が8cmに至ってもキンク発生が生じなかった。
【0039】
このような差が生じた理由としては、コード被覆とケーブル被覆の間に、相互に力の及ばない間隙部分があると、この間隙部分が変形して、コード被覆とケーブル被覆との間で、滑りが生じる起点となりやすいためと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の対象とする光ケーブルの基本構成を説明するための図である。
【図2】本発明によるノッチの空隙部分に、充填材を充填する例を説明する図である。
【図3】本発明によるノッチの空隙部分に、抗張力繊維を充填する例を説明する図である。
【図4】本発明によるノッチの空隙部分に、樹脂テープのエッジ部を充填する例を説明する図である。
【図5】本発明によるノッチの空隙部分に、コード被覆の突条を充填する例を説明する図である。
【図6】本発明によるノッチをスリット状とした例を説明する図である。
【図7】本発明による光ケーブルの製造方法を説明する図である。
【図8】本発明による光ケーブルの製造方法を説明する押出し成形機のヘッド部の構成を説明する図である。
【図9】本発明による他の光ケーブルの製造方法を説明する図である。
【図10】従来の技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
11,11a〜11e…光ケーブル、12…抗張力繊維、13…光ファイバコード、14…ケーブル被覆、15…境界面、16…光ファイバ、17…保護被覆、18…コード被覆、19a,19b…ノッチ、19a’,19b’…スリット状のノッチ、20…充填材、21…抗張力繊維、22…樹脂テープ、22a…テープエッジ、23…突条、25,26…押出し成形機、27…離型材塗布装置、28…巻付け装置、29…ダイ、30…ニップル、31…刃状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆とケーブル被覆の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルであって、
前記単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維を配し、前記単心光ファイバ心線の保護被覆と接着しないようにコード被覆が設けられ、前記コード被覆の外側にコード被覆とは接着しないが互いに滑り難い状態でケーブル被覆が設けられ、前記ケーブル被覆の内面側の少なくとも2箇所にケーブル被覆引裂き用のノッチが形成され、前記ノッチの間隙部分が前記ケーブル被覆とは接着性を有しない材料で満たされていることを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記ノッチの間隙部分が、抗張力繊維で満たされていることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
前記ノッチの間隙部分が、樹脂テープのエッジ部分で満たされていることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項4】
前記ノッチの間隙部分が、前記コード被覆と一体に形成された突条で満たされていることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項5】
保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆とケーブル被覆の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルであって、
前記単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維を配し、前記単心光ファイバ心線の保護被覆と接着しないようにコード被覆が設けられ、前記コード被覆の外側にコード被覆とは接着しないが互いに滑り難い状態でケーブル被覆が設けられ、前記ケーブル被覆の内面側の少なくとも2箇所にケーブル被覆引裂き用のノッチが形成され、前記ノッチはスリット状の狭い間隙で形成されていることを特徴とする光ケーブル。
【請求項6】
保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆とケーブル被覆の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルの製造方法であって、
前記単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維を配し、前記単心光ファイバ心線の保護被覆と接着しないようにコード被覆を形成し、前記コード被覆の外側にケーブル被覆をコード被覆とは接着されないが互いに滑り難い密着状態となるように押出し被覆で形成し、同時に前記ケーブル被覆の内面側の少なくとも2箇所に、ケーブル被覆引裂き用のノッチを形成すると共に、前記ノッチの間隙部分を前記ケーブル被覆とは接着性を有しない材料で満たすことを特徴とする光ケーブルの製造方法。
【請求項7】
保護被覆が施された単心光ファイバ心線に、少なくともコード被覆とケーブル被覆の2層の被覆を同心円状に施した光ケーブルの製造方法であって、
前記単心光ファイバ心線の外周に抗張力繊維を配し、前記単心光ファイバ心線の保護被覆と接着しないようにコード被覆を形成し、前記コード被覆の外側にケーブル被覆をコード被覆とは接着されないが互いに滑り難い密着状態となるように押出し被覆で形成し、同時に前記ケーブル被覆の内面側の少なくとも2箇所に、ケーブル被覆引裂き用のスリット状のノッチを形成することを特徴とする光ケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記ケーブル被覆の押出し被覆温度を、前記コード被覆の表面が変形する温度以下とすることを特徴とする請求項6又は7に記載の光ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−243624(P2006−243624A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62410(P2005−62410)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2005年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】