説明

光合成パネル、光合成ラック及び植物育成システム

【課題】植物の温度を適切に調節することができる光合成パネル、光合成ラック及び植物育成システムを提供すること。
【解決手段】光合成パネル10は、植物Pとの間で輻射熱交換を行う輻射パネルと、植物Pに光を照射するLED照明とを備える。光合成ラック20は、複数の中空の光合成パネル10及びこれを支持する中空の支持フレーム24を備える。植物育成システム100は、光合成ラック20と、空気A1の温度を調節する空気温度調節機31と、空気温度調節機31で温度が調節された空気A1を支持フレーム24内に導く調温空気ダクト32とを備える。温度調節された空気A1を、中空の支持フレーム24を介して輻射パネルに供給し、輻射パネルが植物Pとの間で輻射熱交換を行うので、蒸散を抑制して植物Pの温度を適切に調節することができる。LED照明は、照射に伴う発熱を抑制して輻射パネルの熱負荷を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光合成パネル、光合成ラック及び植物育成システムに関し、特に植物の温度を適切に調節することができる光合成パネル、これを用いた光合成ラック及び植物育成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業の効率向上を図る方策として、植物工場が推奨されている。一方で、植物工場は、植物の生育のために必要な電気照明用電力費及び空調用電力費が大きな割合を占めるランニングコストが嵩む点が指摘されている。このようなランニングコストを低減するシステムとして、栽培植物を水耕栽培する培養液槽の栽培棚が設置されているガラス壁で形成された温室内に、夜間電力で駆動されたチラーユニットで製造されて蓄冷された冷水で冷却された、温度22℃、相対湿度95%の冷気を供給して局所的に空調するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−93010号公報(段落0030、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガラス壁で形成された温室内は、太陽光による輻射熱を受けるため、仮に外気温が33℃程度であったとしても温室内の温度は極めて高温となり、22℃程度の冷気では冷房負荷を処理することが難しい。他方、太陽光を遮断して人工光で栽培しようとすると、従来の照明は発熱量が大きいために22℃程度の冷気では冷房負荷を処理することが難しい。いずれの場合も冷房負荷を処理するために供給空気の温度を下げることになるが、供給空気の温度を下げると温室内の絶対湿度が低下してしまい、植物に過度の蒸散が生じて、植物を栽培に適した温度下に置くことが難しくなる。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑み、植物の温度を適切に調節することができる光合成パネル、これを用いた光合成ラック及び植物育成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る光合成パネルは、例えば図1に示すように、表面温度が可変に構成され、近接して載置された植物との間で輻射による熱交換を行う輻射パネル11と;輻射パネル11の植物に対向した表面13に設けられ、植物に向けて光を照射するLED照明16とを備える。
【0007】
このように構成すると、植物との間で輻射による熱交換を行う輻射パネルを備えるので、絶対湿度が低い低温空気の供給を回避することができて、過度の蒸散を抑制して植物の温度を適切に調節することができる。また、植物に向けて光を照射するLED照明を備えるので、照射に伴う発熱を抑制することができて輻射パネルの熱負荷を低減することができる。
【0008】
また、本発明の第2の態様に係る光合成ラックは、例えば図2に示すように、上記本発明の第1の態様に係る光合成パネル10を複数備え;複数の光合成パネル10を、上下に間隔を空けて支持する中空の支持フレーム24をさらに備え;輻射パネル11が、中空に形成され、内部に温度が調節された流体A1を流通させて表面温度を変化させるように構成され;輻射パネル11の内部と支持フレーム24の内部とが連通して構成されている。
【0009】
このように構成すると、省スペースで効率的に光合成を行わせることができる。
【0010】
また、本発明の第3の態様に係る植物育成システムは、例えば図4に示すように、上記本発明の第2の態様に係る光合成ラック20と;空気A1の温度を調節する空気温度調節機31と;空気温度調節機31で温度が調節された空気A1を支持フレーム24の内部に導く調温空気ダクト32とを備える。
【0011】
このように構成すると、輻射パネルからの輻射熱を適切に調節することが可能となり、植物の温度を適切な温度に調節することができる。
【0012】
また、本発明の第4の態様に係る植物育成システムは、例えば図4に示すように、上記本発明の第3の態様に係る植物育成システム100において、空気A2の湿度を調節する空気湿度調節機41と;空気湿度調節機41で湿度が調節された空気A2を光合成ラック20が設置されている室内Rに導く調湿空気ダクト42と;光合成ラック20が設置されている室内Rに二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置50とを備える。
【0013】
このように構成すると、植物の周囲の環境を適切にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、植物との間で輻射による熱交換を行う輻射パネルを備えるので、絶対湿度が低い低温空気の供給を回避することができて、過度の蒸散を抑制して植物の温度を適切に調節することができ、植物に向けて光を照射するLED照明を備えるので、照射に伴う発熱を抑制することができて輻射パネルの熱負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光合成パネルの概略構成を示す図である。(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は斜視図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る光合成ラックの側面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る光合成ラックの概略構成を示す図である。(a)は部分斜視図、(b)は部分平面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る植物育成システムの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
まず図1及び図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る光合成パネル10及び本発明の第2の実施の形態に係る光合成ラック20を説明する。図1は、光合成パネル10の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は斜視図である。図1では、内部構造を明らかにする便宜上、(a)の平面図において右上及び左下の一部を切り欠いて示しており、(c)の斜視図において中央部分の一部を切り欠いて示している。図2は、光合成ラック20の側面図である。光合成ラック20は、光合成パネル10を複数備えている。光合成パネル10は、典型的には、植物Pの上方に、植物Pに近接して設けられる。ここで、光合成パネル10が植物Pに近接しているとは、光合成パネル10と植物Pとの間で輻射による熱交換を効果的に行うことができる程度に接近していることを意味する。
【0018】
先に図1を主に参照して光合成パネル10の構成を説明する。光合成パネル10は、輻射パネル11と、LED照明16とを備えている。輻射パネル11は、植物P(図2参照)のまわりの熱負荷を処理する器具であり、矩形の上面板12と、この上面板12と同じ形状の下面板13とが間隔をもって平行に配置され、上面板12と下面板13との隙間を外周で塞ぐように側面板14が設けられて構成されている。このように構成されることで、輻射パネル11は中空に形成されている。さらに、輻射パネル11の内部には、流体としての温度が調節された空気である調温空気A1の流路を形成する流路形成部材15が設けられている。流路形成部材15は、細長い矩形板状の部材であり、輻射パネル11の中空の内部を仕切るように、周囲の4つの辺が上面板12、下面板13及び側面板14に接している。本実施の形態では、上面板12及び下面板13が長方形に形成されており、流路形成部材15は、上面板12(下面板13)を形成する長方形の短辺に対して平行に延びるように(換言すれば長方形の長辺を分割するように)、複数設けられている。また、上面板12、下面板13、側面板14及び流路形成部材15は、熱伝導率の大きな材料で形成されているとよく、本実施の形態ではアルミニウムで形成されている。
【0019】
流路形成部材15は、その2つを上面板12の長方形の長辺方向に隔てることで、2つの流路形成部材15の間に溝流路11dを形成するように、輻射パネル11の中空内部に配設されている。さらに、溝流路11dが複数形成されるように、流路形成部材15は複数設けられている。隣り合う溝流路11dの間は、中空部11bが形成される。溝流路11dの幅は、溝流路11dに調温空気A1を流したときに乱流境界層が形成される程度(例えば空気の流速が5m/s程度)になるように形成するのが好ましく、本実施の形態では輻射パネル11の厚さ(上面板12と下面板13との間隔)と同程度に形成されている。中空部11bの幅は、溝流路11dの幅よりも広く形成されており、溝流路11dに調温空気A1を流したときに調温空気A1からの熱伝導によって中空部11bを形成する下面板13の温度を意図する温度にすることができる範囲で極力広くすることが好ましい。中空部11bの幅は、溝流路11dの幅に対して、2〜6倍が好ましく、3〜5倍がより好ましく、本実施の形態では4倍に形成されている。
【0020】
上面板12には、各溝流路11dの上方で、上面板12の長方形の長手方向の2つの辺のそれぞれに近接して、通気孔12hが形成されている。換言すれば、通気孔12hの列が、上面板12の長方形の長手方向の一方の辺及び他方の辺にそれぞれ近接して形成されている。このように構成されていることにより、溝流路11dの両端に通気孔12hが形成されていることとなり、溝流路11dに対して一方の通気孔12hから調温空気A1を導入し他方の通気孔12hから調温空気A1を導出することができる。
【0021】
LED照明16は、植物P(図2参照)の育成に必要な光を供給するための器具である。LED照明16を用いることで、蛍光灯や白熱電球といった従来型の照明器具に比べて発熱に伴う冷房負荷を低減することができる。また、LED照明16は消費電力が小さいので、ランニングコストを低減することができる。LED照明16は、隣り合う溝流路11dの間の距離よりもやや短い幅で、溝流路11dの両端に形成された通気孔12hの間の距離よりもやや短い長さの大きさをもつ長方形に形成されており、中空部11bの裏側となる下面板13に取り付けられている。LED照明16は、溝流路11dの裏側ではなく中空部11bの裏側に設けられていると、溝流路11dを流れる調温空気A1の熱の影響を受けにくくなるため好ましい。LED照明16は、植物P(図2参照)に対して必要な光を供給できる範囲で間隔を空けて複数設けられている。本実施の形態では、溝流路11dで区画された中空部11bの3箇所に1つの割合で、下面板13の長方形の長辺方向に所定の間隔を空けて設けられている。
【0022】
光合成パネル10は、さらに、LED照明16が取り付けられた輻射パネル11をラックに載置するための載置片18を有している。載置片18は、長方形の板状部材を両短辺の中央付近で長辺に沿って折り曲げて形成された、側面視がL字状の部材である。載置片18は、断面L字状の1つの面が上面板12に直交して下面板13から離れる方向に延び、断面L字状の残りの面が輻射パネル11の外側に延びるように、長方形の輻射パネル11の短辺の側面板14に取り付けられている。載置片18の長さは、溝流路11dの両端の通気孔12hの間の距離よりも短く形成されており、LED照明16の長さと同程度に形成されていてもよい。
【0023】
次に主に図2を参照して光合成ラック20の構成を説明する。光合成ラック20の説明において、上述した光合成パネル10及びこれを構成する各部材に言及しているときは、適宜図1を参照することとする。光合成ラック20は、上述した光合成パネル10を複数備えるほか、支持フレーム24として、水平フレーム21、横フレーム22、及び竪フレーム23を備えている。水平フレーム21、横フレーム22、及び竪フレーム23を総称して、支持フレーム24ということとする。支持フレーム24は、内部に調温空気A1を流すことができるように中空に形成されており、本実施の形態では断面正方形の角鋼材が用いられている。竪フレーム23は鉛直方向に延び、水平フレーム21は2本の竪フレーム23の間で水平に延びており、横フレーム22は水平フレーム21に対して直交して水平に延びている。水平フレーム21は、長方形の輻射パネル11の長辺の長さに対し、竪フレーム23への接続代の分だけ長く形成されている。横フレーム22は、両端が竪フレーム23に接続されたときに、両端の竪フレーム23の表面間の距離が、溝流路11dの両端の通気孔12hの最内部間の距離よりも小さくなる長さに形成されている。水平フレーム21及び横フレーム22は、1つの竪フレーム23に対して間隔を空けて複数設けられており、この間隔が光合成パネル10の間隔となる。
【0024】
ここで図3を併せて参照して、光合成ラック20の構成をさらに詳細に説明する。図3は、光合成ラック20の概略構成を示す図であり、(a)は部分斜視図、(b)は部分平面図である。図3では内部構造の説明の便宜上、適宜構成部材を省略して示している。竪フレーム23の側面には、水平フレーム21が接続される位置に水平フレーム21の内部と連通する水平開口23hが適宜形成されており、横フレーム22が接続される位置に横フレーム22の内部と連通する横開口23sが適宜形成されている。水平開口23h及び横開口23sが形成される「適宜」の意味は後述する。水平フレーム21は、組み立てたときに下方を向く面に、輻射パネル11の上面板12に形成された通気孔12hと対応して水平フレーム21と溝流路11dとの間で調温空気A1の流通を可能にする連通小孔21hが、長手方向に沿って複数形成されている。
【0025】
光合成ラック20は次のように組み立てられる。まず、竪フレーム23に横フレーム22が取り付けられる。そして、横フレーム22に載置片18が載置されるようにして、光合成パネル10が横フレーム22に支持される。光合成パネル10が設置されたら、竪フレーム23に水平フレーム21を組み込む。このとき、光合成パネル10の通気孔12hと水平フレーム21の連通小孔21hとが連通する位置で、水平フレーム21を上面板12に密着させる。
【0026】
組み立てられた光合成ラック20は、支持フレーム24及び光合成パネル10の溝流路11dの内部を満遍なく調温空気A1が流通するように、水平開口23h及び横開口23sが適宜形成される。本実施の形態では、水平フレーム21の一方の端部から流入してきた調温空気A1が溝流路11dに入らずに他方の端部から流出してしまうことを回避するために、1つの水平フレーム21について、竪フレーム23に対し、一方の端部が連通して他方の端部が連通しないように、水平開口23hが形成されている。また、この水平フレーム21の隣りとなる水平フレーム21は、竪フレーム23に対し、一方の端部が連通せずに他方の端部が連通するように、水平開口23hが形成されている。つまり、隣り合う水平フレーム21の竪フレーム23と連通する水平開口23hは、交互に形成されている。また、交互に形成される水平開口23hが横開口23sと出会う位置では、竪フレーム23に調温空気A1が流入しないように竪フレーム23の内部が塞がれている。なお、ここで説明した水平開口23h及び横開口23sの形成の仕方は例示であって、光合成パネル10の溝流路11dの内部に満遍なく調温空気A1を流通させることができるようにすればよい。
【0027】
引き続き図4を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る植物育成システム100を説明する。図4は、植物育成システム100の系統図である。以下の説明において、光合成パネル10及び光合成ラック20の構成に言及しているときは、適宜図1乃至図3を参照することとする。植物育成システム100は、上述の光合成ラック20と、光合成ラック20に供給する調温空気A1の温度を調節する空気温度調節機としてのパネル空調機31と、パネル空調機31から光合成ラック20へ調温空気A1を導く調温空気ダクトとしてのパネル給気ダクト32と、光合成ラック20が設置してある栽培室R内に供給する空気である調湿空気A2の湿度等の状態を調節する空気湿度調節機としての室内空調機41と、室内空調機41から栽培室R内へ調湿空気A2を導く調湿空気ダクトとしての室内給気ダクト42と、栽培室R内に二酸化炭素を供給する炭酸ガス供給装置50と、制御装置60とを備えている。
【0028】
本実施の形態に係る植物育成システム100が設置される植物工場Fは、植物Pの栽培が行われる栽培室Rと、植物育成システム100を構成する主要機器が設置される機械室Mとを有している。栽培室Rは、太陽の輻射熱による温度上昇を抑制する観点から、太陽光が透過しない屋根及び外壁を有している。なお、外壁には採光窓が形成されていてもよい。光合成ラック20は、栽培室R内に、管理者の要望に応じた配列で、設置されている。パネル空調機31、室内空調機41、炭酸ガス供給装置50は、機械室Mに設置されている。機械室Mには、外気OAを取り入れる外気ガラリ45が設けられている。
【0029】
パネル空調機31は、本実施の形態ではエアハンドリングユニットであり、調温空気A1を冷却又は加熱するコイル31cを有している。コイル31cには、冷水又は温水(以下「冷温水」という)を導入する冷温水往管35と、冷温水を導出する冷温水還管36とが接続されている。冷温水往管35及び冷温水還管36は、冷温水の温度を調節する熱源機(不図示)に接続されている。冷温水往管35には、コイル31cに流入する冷温水の流量を調節する冷温水調節弁63が設けられている。冷温水調節弁63は、典型的には電動二方弁が用いられる。パネル空調機31には、温度が調節された調温空気A1を流すパネル給気ダクト32と、温度を調節するべき調温空気A1を導入するパネル還気ダクト33とが接続されている。
【0030】
パネル給気ダクト32は、機械室Mと栽培室Rとを区画する壁Wを貫通し、栽培室R内を延びるように配設されている。パネル給気ダクト32は、栽培室R内で、光合成ラック20の数に応じて枝ダクト(パネル給気枝ダクト)32bが分岐した構成になっている。パネル給気枝ダクト32bは、光合成ラック20の平面視における角の竪フレーム23の端部に接続されている。光合成ラック20の平面視におけるパネル給気枝ダクト32bが接続された角の対角に位置する竪フレーム23の端部には、パネル還気枝ダクト33bが接続されている。パネル還気枝ダクト33bは、パネル給気枝ダクト32bに対応する数が設けられることとなる。各パネル還気枝ダクト33bは、パネル還気ダクト33に接続されており、各パネル還気枝ダクト33bを流れる調温空気A1がパネル還気ダクト33で合流するように構成されている。パネル還気ダクト33は、壁Wを貫通して機械室M内に延びて敷設されており、機械室M内でパネル空調機31に接続されている。光合成ラック20まわりの各ダクト32、32b、33、33bは、リバースレタンを構成するように設けられているとよい。
【0031】
室内空調機41は、本実施の形態ではエアハンドリングユニットであり、調湿空気A2を冷却除湿及び加熱(再熱)ができるようにコイル(不図示)及びヒータ(不図示)を有している。調湿空気A2は、主として湿度が調節された空気であるが、適宜温度も調節された空気である。室内空調機41には、湿度が調節された調湿空気A2を流す室内給気ダクト42と、湿度を調節するべき空気ROAを導入する導入ダクト46とが接続されている。導入ダクト46の他端には、栽培室R内からの還気RAを室内空調機41に向けて流す室内還気ダクト43と、外気ガラリ45から取り入れた外気OAを導入するための外気ダクト44とが接続されている。室内還気ダクト43の他端は、壁Wに設置された制気口47に接続されている。なお、導入ダクト46を省略して、室内還気ダクト43及び外気ダクト44を個別に室内空調機41のミキシングチャンバに接続することとしてもよい。
【0032】
室内空調機41の、室内給気ダクト42の接続口の上流には、調湿空気A2を清浄化するフィルタ41fが設けられている。フィルタ41fは、栽培室Rに求められる清浄度に応じたフィルタを用いればよく、本実施の形態ではHEPAフィルタが用いられている。室内給気ダクト42は、機械室Mと栽培室Rとを区画する壁Wを貫通し、栽培室R内を延びるように配設されている。室内給気ダクト42は、栽培室R内へ適切に調湿空気A2を拡散させることができるように、枝ダクト(室内給気枝ダクト)42bが分岐した構成になっている。室内給気枝ダクト42bは、植物Pまわりの水分が低くなりすぎない程度に調湿空気A2を拡散させる観点から配設され、本実施の形態では、各光合成ラック20の中央上方で拡口した状態に構成されている。
【0033】
炭酸ガス供給装置50は、空気と炭酸ガスとを混合して炭酸ガスを希釈する混合タンク51と、混合タンク51に空気を圧入するブロワ55と、混合タンク51に導入される炭酸ガスを貯留する炭酸ガスボンベ56とを有している。混合タンク51へ圧入される空気は機械室M内に敷設された混合用ダクト48を介して導入される構成となっており、混合用ダクト48は室内給気ダクト42に接続されて調湿空気A2の一部が混合タンク51へ導入されるように構成されている。ブロワ55は、混合用ダクト48に配設されている。混合タンク51と炭酸ガスボンベ56とは、圧力調節弁56vが設けられた連結管56tで接続されている。圧力調節弁56vが設けられていることで、ブロワ55の羽根車の回転速度の変化に伴う混合タンク51の内圧に応じた所定量の炭酸ガスが混合タンク51に導入されるように構成されている。
【0034】
混合タンク51には、炭酸ガス含有空気AGを搬送する混合給気ダクト52が接続されている。混合給気ダクト52には、内部を流れる炭酸ガス含有空気AGの流路を開閉する開閉弁65が配設されている。開閉弁65は、典型的には電磁弁が用いられる。混合給気ダクト52は、壁Wを貫通して栽培室R内を延び、各光合成ラック20の複数の光合成パネル10に対向している植物Pそれぞれに炭酸ガス含有空気AGを供給するように、適宜分岐している。光合成ラック20の近傍には、植物Pの温度を測定する植物検温センサ62と、植物Pまわりの二酸化炭素濃度を検出する濃度センサ64とが設置されている。植物検温センサ62は、典型的には赤外線センサが用いられる。植物検温センサ62は、適宜ピックアップした植物Pの温度を代表として測定するように、1つ又は複数設置されていればよい。濃度センサ64も同様に、適宜ピックアップした植物Pまわりの二酸化炭素濃度を代表として測定するように、1つ又は複数設置されていればよい。植物検温センサ62と濃度センサ64とは、対で設置しなくてもよく、それぞれの機能を発揮できるように独自の観点から設置位置を決めればよい。
【0035】
制御装置60は、植物育成システム100の運転を制御する。制御装置60は、植物検温センサ62及び濃度センサ64とそれぞれ信号ケーブルで接続されており、植物検温センサ62から温度信号を、濃度センサ64から濃度信号を、それぞれ受信することができるように構成されている。また、制御装置60は、パネル空調機31及び冷温水調節弁63と信号ケーブルで接続されており、パネル空調機31の発停や、植物検温センサ62から受信した温度信号に基づいて調温空気A1を意図する温度にするべく冷温水調節弁63の開度を調節することができるように構成されている。また、制御装置60は、室内空調機41と信号ケーブルで接続されており、調湿空気A2の温度及び湿度を調節することができるように構成されている。また、制御装置60は、ブロワ55と信号ケーブルで接続されており、ブロワ55の発停を制御することができるように構成されている。また、制御装置60は、開閉弁65と信号ケーブルで接続されており、濃度センサ64から受信した濃度信号に基づいて植物Pまわりの二酸化炭素濃度を植物Pの育成に適した所定の範囲に維持するべく、開閉弁65の開閉を制御することができるように構成されている。
【0036】
引き続き図1乃至図4を参照して、光合成パネル10、光合成ラック20、及び植物育成システム100の作用を説明する。なお、光合成パネル10及び光合成ラック20の作用は、植物育成システム100の作用の説明の一環として説明する。まず、主に図4を参照して植物育成システム100に着目すると、制御装置60からの指令によりパネル空調機31が起動する。これにより、調温空気A1がパネル空調機31から導出される。また、熱源機(不図示)で温度調節された冷温水が、冷温水往管35及び冷温水還管36を介してコイル31cとの間を循環し、コイル31cを調温空気A1が通過することで調温空気A1の温度が植物Pの育成に適した温度に調節される。パネル空調機31で温度が調節された調温空気A1は、パネル給気ダクト32及びパネル給気枝ダクト32bを介して光合成ラック20に導入される。
【0037】
図1乃至図3を主に参照して光合成ラック20に着目すると、パネル給気枝ダクト32bを流れてきた調温空気A1は、パネル給気枝ダクト32bに接続された竪フレーム23の端部から竪フレーム23内に流入する。竪フレーム23を流れる調温空気A1は、横フレーム22を介して水平フレーム21に、あるいは竪フレーム23から水平フレーム21に直接流入する。水平フレーム21を流れる調温空気A1は、連通小孔21h及び通気孔12hを介して、光合成パネル10の複数の溝流路11dの一端に流入する。溝流路11dの一端に流入した調温空気A1は、溝流路11dの他端に向かって流れる。この際、調温空気A1の熱が輻射パネル11に伝達され、輻射パネル11及び調温空気A1の温度が互いの温度に近づく。このとき、溝流路11dを流れる調温空気A1の流速が概ね5m/sとなる(乱流境界層が形成される)ように構成されているので、調温空気A1と輻射パネル11との間の境膜が破壊されて伝達熱量を大きくすることができる。調温空気A1から輻射パネル11へ伝達した熱は、さらに下面板13を伝導して溝流路11dの部分から中空部11bの部分へと伝わり、輻射パネル11は概ね均一な温度となる。このようにして、輻射パネル11の表面温度が変化する。そして、表面温度が変化した輻射パネル11は、下方で対向する植物Pとの間で輻射による熱交換を行う。
【0038】
一般に、植物の育成には、光合成、呼吸、細胞の分裂と伸長、適度な蒸散が必要とされており、適度な蒸散により水分吸収、栄養塩類の取り込み、葉の冷却が行われるとされている。光合成は、温度、二酸化炭素、及び光の影響を受ける。呼吸及び細胞の分裂と伸長は、温度及び光合成の影響を受ける。水分と栄養塩類の取り込みは、地上部及び根の温度、並びに空気湿度の影響を受ける。また、水分と栄養塩類の取り込みは、細胞の分裂と伸長に影響を与える。これらの影響因子のうち、温度は18℃〜33℃程度とするのが、光合成にとって好ましい。また、この温度範囲は、呼吸等の育成のための作用の妨げにならない。本実施の形態では、調温空気A1を溝流路11dに流すことで輻射パネル11の温度を調節し、輻射パネル11と植物Pとの間で輻射による熱交換を行わせるので、輻射パネル11は顕熱の処理を行うこととなる。そして、植物Pの育成に影響を与える栽培室R内の湿度の調節は、室内空調機41の系統で調湿空気A2によって行われる。このように、顕熱の処理と潜熱の処理とが分離して行われるため、それぞれに最適な制御を行うことが可能となる。これにより、対流空調方式の場合に発生し得るような植物Pの過度の蒸散を抑制することができる。
【0039】
上述のように輻射パネル11と植物Pとで輻射熱交換を行う一方で、LED照明16からは、植物Pの育成に影響を与える光が照射される。LED照明16は、発熱量が小さいため、輻射パネル11が調温空気A1によって冷却される場合でも熱ロスが小さくて済む。また、LED照明16は、光量を必要に応じて増減しても温度への影響がほとんどない。加えて、LED照明16は、光の強度や波長を調節しやすいため、植物Pの種類に応じた適切なLED照明16を構築することができる。LED照明16も、顕熱の処理及び潜熱の処理と分離して行われるため、LED照明16にとって最適な状態に調節できる。
【0040】
さて、輻射パネル11の溝流路11dを流れた調温空気A1は、溝流路11dの他端の通気孔12h及び連通小孔21hを介して、水平フレーム21に流入する。水平フレーム21に流入した調温空気A1は、適宜横フレーム22を介して、パネル還気枝ダクト33bが接続された竪フレーム23に流入する。
【0041】
再び図4を主に参照して説明を続ける。竪フレーム23に流入した調温空気A1は、その後パネル還気枝ダクト33b及びパネル還気ダクト33を介して再びパネル空調機31に流入する。パネル空調機31に流入した調温空気A1は、コイル31cを通過する際に温度が調節され、上述の要領で再び輻射パネル11に導入され、植物Pとの輻射熱交換の熱媒体としての利用に供される。このように、調温空気A1が、パネル空調機31と輻射パネル11との間を循環することで、継続して輻射パネル11と植物Pとの輻射熱交換を行わせることができる。調温空気A1が循環している際、制御装置60は、随時植物検温センサ62から温度信号を受信し、植物検温センサ62が検出する温度があらかじめ設定した温度になるように、冷温水調節弁63の開度を調節する。なお、あらかじめ設定した温度は幅があってもよい。
【0042】
上述したパネル空調機31の運転と並行して、室内空調機41の運転も行われる。制御装置60からの指令により室内空調機41の運転が開始されると、導入ダクト46に対し、外気ダクト44を介して外気OAが導入されると共に、栽培室Rからの還気RAが室内還気ダクト43を介して導入される。導入ダクト46内に導入された外気OA及び還気RAは、混合されて空気ROAとなり、室内空調機41内に導入される。室内空調機41に導入された調湿空気A2は、植物Pまわりの雰囲気を植物Pが適度に蒸散する状態にするために適切な湿度に調節されると共に、温度が輻射パネル11の目標温度になるように調節される。室内空調機41で湿度及び温度が調節された調湿空気A2は、室内給気ダクト42を介して植物Pまわりに供給される。植物育成システム100では、輻射パネル11が顕熱処理を受け持つので、調湿空気A2の温度を輻射パネル11の目標温度にすることが可能となり、植物Pまわりに輻射パネル11の目標設定温度における飽和空気を供給することが可能となって、植物Pまわりをあらゆる相対湿度に調節することが可能となる。換言すれば、外部環境がどのような状態にあっても、植物Pが適度な蒸散を行う湿度に調節することが可能となる。
【0043】
上述したパネル空調機31及び室内空調機41の運転と並行して、さらに炭酸ガス供給装置50の運転も行われる。制御装置60は、随時濃度センサ64から濃度信号を受信し、検出した二酸化炭素濃度があらかじめ設定した濃度の下限に到達したときに、ブロワ55を起動すると共に開閉弁65を開にする。ブロワ55起動すると、室内給気ダクト42を流れる調湿空気A2の一部が、混合用ダクト48を介して混合タンク51に導入される。このとき、炭酸ガスボンベ56から炭酸ガスも混合タンク51に導入される。混合タンク51内では、調湿空気A2に炭酸ガスが混入され、炭酸ガス含有空気AGとなる。炭酸ガス含有空気AGは、開閉弁65が開いているため、混合給気ダクト52を介して植物Pまわりに供給される。このようにして、植物Pの育成に影響を与える炭酸ガスが補充される。制御装置60は、濃度センサ64で検出した濃度があらかじめ設定した濃度の上限に達したときに、ブロワ55を停止すると共に開閉弁65を閉にする。
【0044】
以上で説明したように、植物育成システム100では、植物Pを過度に蒸散させることなく、植物Pまわりの環境を、植物Pの育成に適した温度、湿度、二酸化炭素濃度に調節することができる。さらに、植物Pの温度調節が輻射パネル11を用いた輻射熱交換により行われるので、熱媒体としての調温空気A1の目標温度に対する温度差及び冷温水の目標温度に対する温度差を大きく取らなくて済み、省エネルギー、省コストを図ることができると共に、急激な温度変化を避けてマイルドな温度調節を行うことができる。
【0045】
以上の説明では、輻射パネル11の内部に流通させる流体が空気であるとしたが、液体であってもよい。つまり、輻射パネル11の表面温度を変化させる熱媒体として利用可能な流体であればよい。しかしながら、空気あるいはその他の気体すると、漏れ対策を施さなくてよいため構成を簡便にすることができる。また、流体を空気とすることで、熱媒体のコストを低減することができる。
【0046】
以上の説明では、通気孔12hが上面板12に形成されているとしたが、1つの溝流路11dに対して両端に形成される通気孔12hのうち、両方又は一方が下面板13に形成されていてもよい。つまり、溝流路11dに調温空気A1の流れを作り出すことができるように1つの溝流路11dに対して両端に通気孔12hが形成されていればよい。
【0047】
以上の説明では、炭酸ガス含有空気AGが混合給気ダクト52を介して栽培室R内に供給されることとしたが、混合給気ダクト52を混合用ダクト46との接続部よりも下流側で室内給気ダクト42に接続し、炭酸ガス含有空気AGを調湿空気A2と混合させて栽培室R内に供給してもよい。しかしながら、炭酸ガス含有空気AGを混合給気ダクト52で直接植物Pまわりに供給することとすると、植物Pまわりの雰囲気を栽培室R内の平均よりも高い二酸化炭素濃度とすることができるため好適である。
【符号の説明】
【0048】
10 光合成パネル
11 輻射パネル
13 下面板
16 LED照明
20 光合成ラック
24 支持フレーム
31 パネル空調機
32 パネル給気ダクト
41 室内空調機
42 室内給気ダクト
50 炭酸ガス供給装置
100 植物育成システム
A1 調温空気
A2 調湿空気
P 植物
R 栽培室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面温度が可変に構成され、近接して載置された植物との間で輻射による熱交換を行う輻射パネルと;
前記輻射パネルの前記植物に対向した表面に設けられ、前記植物に向けて光を照射するLED照明とを備える;
光合成パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の光合成パネルを複数備え;
複数の前記光合成パネルを、上下に間隔を空けて支持する中空の支持フレームをさらに備え;
前記輻射パネルが、中空に形成され、内部に温度が調節された流体を流通させて表面温度を変化させるように構成され;
前記輻射パネルの内部と前記支持フレームの内部とが連通して構成された;
光合成ラック。
【請求項3】
請求項2に記載の光合成ラックと;
空気の温度を調節する空気温度調節機と;
前記空気温度調節機で温度が調節された空気を前記支持フレームの内部に導く調温空気ダクトとを備える;
植物育成システム。
【請求項4】
空気の湿度を調節する空気湿度調節機と;
前記空気湿度調節機で湿度が調節された空気を前記光合成ラックが設置されている室内に導く調湿空気ダクトと;
前記光合成ラックが設置されている室内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置とを備える;
請求項3に記載の植物育成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−229454(P2011−229454A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102477(P2010−102477)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(307018405)株式会社エコ・パワー (19)
【出願人】(510247489)
【Fターム(参考)】