説明

光学素子、レンズユニット、および撮像装置

【課題】本発明は、相互に屈折率が異なる、相互に不混和な、それぞれが光透過性を有する、絶縁性液体および導電性の水溶液が内部に収容された光学素子、レンズユニット、および、このような光学素子が組み込まれた撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置に関し、重力の影響を受けても界面部分の形状が維持される光学素子、レンズユニット、および、このような光学素子が組み込まれた撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置を提供することを目的とする。
【解決手段】水の比重との差が「0.1」以下の化合物のうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に屈折率が異なる、相互に不混和な、それぞれが光透過性を有する、絶縁性液体および導電性の水溶液が内部に収容された光学素子、レンズユニット、および、このような光学素子が組み込まれた撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、Charge Coupled Device(CCD)固体撮像素子上に被写体の像を結像させて、その被写体を表す画像データを信号として取り込む電子スチールカメラや、写真フィルム上に写真撮影を行うフィルムカメラなどといったカメラの中には、撮影画角を自在に設定するズーム機能を備えたものがあり、このようなカメラにはズームスイッチの操作に応じて焦点距離の変化する撮影レンズが備えられている。この撮影レンズは、一般に、複数のレンズエレメントの組み合わせからなる複合レンズであって、ズームスイッチによって設定された焦点距離に応じて複数のレンズエレメントの相対位置が調整される。このようなカメラにはカム機構が備えられており、ズームスイッチの操作に応じてそのカム機構がモータの回転を伝達することによって複数のレンズエレメントそれぞれが光軸方向に前後して相対位置が調整され、焦点距離が変化する。
【0003】
また、複数のレンズエレメントの中にはピント調整用のフォーカスレンズもあり、このフォーカスレンズを移動させるレンズ駆動機構が上記カム機構とは別に配備されている場合もある。
【0004】
近年、上述した、駆動機構を有する撮影レンズに替えて、相互に屈折率が異なる、相互に不混和な2種類の液体が内部に収容された焦点距離可変の液体レンズが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
この非特許文献1に提案された液体レンズには、相互に屈折率が異なる、相互に不混和な2種類の液体が内部に収容されており、これら2種類の液体のうちの一方の液体は導電性水溶液であり、もう一方の液体は絶縁性オイルである。これら2種類の液体は、短いチューブの両端が、光透過性を有する透明なエンドキャップで塞がれた液体収容器の中に収容されている。また、このチューブの内壁と一方のエンドキャップの内壁とが撥水性膜で被覆されている。このように構成された液体レンズによれば、2種類の液体のうちの導電性水溶液が、撥水性膜で被覆されたチューブの内壁、および一方のエンドキャップの内壁と反撥することとなり、この導電性水溶液が、他方のエンドキャップに接触する状態で半球形状を有して滞留するため、導電性水溶液と絶縁性オイルとの界面部分が凹レンズとして機能する。また、この液体レンズには、導電性水溶液に対して電圧を印加するための2つの電極も備えられていて、これら2つの電極のうちの一方の電極は導電性水溶液に接するように配設され、他方の電極は撥水性膜の裏側に配設されている。このような電極に対して電圧が印加されると、導電性水溶液に接するように配設された電極からこの導電性水溶液中に電荷が放出され、放出された電荷が導電性水溶液中の、絶縁性オイルとの界面部分に溜まる現象が生じる。この界面部分に溜まった電荷と、この電荷とは逆極性の、撥水性膜の裏側に配設された電極に集まった電荷とがクーロン力によって引き合って、導電性水溶液中の電荷が撥水性膜付近に引き付けられる。その結果、導電性水溶液がチューブの内壁に被覆された撥水性膜を濡らし始めて、2種類の液体の界面形状が変化する。即ち、導電性水溶液に対して電圧が強くかけられるに従って、最初に凹レンズとして機能していた導電性水溶液の、絶縁性オイルとの界面部分の曲率半径が変化し、例えば、その界面部分が完全に平らになったり、その導電性水溶液が凸レンズとして機能するようになったりして、焦点距離が変化することとなる。
【非特許文献1】“Philips´Fluid Lenses”、[online]、平成16年3月3日、Royal Philips Electronics、[平成16年3月31日検索]、インターネット<URL:http://www.dpreview.com/news/0403/04030302philipsfluidlens.asp>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、上記非特許文献1に提案された液体レンズでは、液体収容器の中に収容された導電性水溶液および絶縁性オイルそれぞれの比重が異なるため、その液体レンズの向きによっては、重力の影響によってそれら2種類の液体の界面部分の形状が歪むおそれがある。このようにして界面形状が歪むことは、即ち、レンズの形状が変形することと同意であるため、結果として、レンズ性能の劣化が引き起こされ、例えば、このような液体レンズが組み込まれたカメラによって撮影されると撮影画像の画質低下をもたらすおそれがある。
【0007】
なお、上述したような問題は液体レンズに限られるものではなく、上記非特許文献1に提案された液体レンズにおける界面変形の原理が他種の光学素子に応用された場合であっても、このような問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、重力の影響を受けても界面部分の形状が維持される光学素子、レンズユニット、および、このような光学素子が組み込まれた撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の光学素子は、
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
上記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
上記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、水と上記各化合物との比重の差は「0.1」以下である。
【0011】
本発明の光学素子は、水の比重との差が「0.1」以下の化合物のうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体が適用されるものであるため、重力の影響によって絶縁性液体および導電性の水溶液の界面部分の形状が歪むことが回避され、その界面部分の形状が維持される。
【0012】
ここで、上記本発明の光学素子は、上記絶縁性液体が、1つ以上の炭化水素系の化合物を含有するものであることが好ましい。
【0013】
炭化水素系の化合物は、電気的な安定性が高い。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明のレンズユニットは、
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
上記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
上記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極とを備え、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に印加される電圧に応じて、上記絶縁性液体と上記水溶液との境界面の形状が変化することを特徴とする。
【0015】
本発明のレンズユニットによると、本発明の光学素子と同様に、重力の影響によって絶縁性液体および導電性の水溶液の界面部分の形状が歪むことが回避され、その界面部分の形状が維持される。
【0016】
なお、本発明にいうレンズユニットについては、ここではその基本形態のみを示すのにとどめるが、これは単に重複を避けるためであり、本発明にいうレンズユニットには、上記の基本形態のみではなく、上述した光学素子の各形態に対応する各種の形態が含まれる。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の撮像装置は、
撮影光学系を有し、その撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置において、
上記撮影光学系が、
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
上記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
上記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極と、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に電圧を印加することによって、上記絶縁性液体と上記水溶液との境界面の形状を変化させる制御部とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の撮像装置は、水の比重との差が「0.1」以下の化合物のうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体が適用されるものであるため、重力の影響によって絶縁性液体および導電性の水溶液の界面部分の形状が歪むことが回避され、その界面部分の形状が維持される。さらに、本発明の撮像装置は、従来、焦点距離を変化させるにあたって複数のレンズエレメントそれぞれを移動させていたレンズ駆動機構が不要であるため、薄型化、小型化が実現される。
【0019】
ここで、上記本発明の撮像装置は、上記被写体光による被写体像が結像され、その被写体像を表す画像信号を出力する固体撮像素子を備えたものであることが好ましい。
【0020】
このような固体撮像素子を備えた撮像装置によれば、より一層薄型化、小型化することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重力の影響を受けても界面部分の形状が維持される光学素子、レンズユニット、および、このような光学素子が組み込まれた撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明するのに先立って、上述した非特許文献1に記載された液体レンズの問題点について詳しく分析する。
【0023】
図1は、比較例である液体レンズの概略構成図である。以下では、矢印Oの方向に光が透過するものとし、光の入射側(図1の上側)を上側、光の出射側(図1の下側)を下側と称する。
【0024】
図1に示すように、液体レンズ1は、ガラス製のチューブ11aの両端がガラス製のキャップ11b,11cで塞がれたガラス製の容器11の内部に、支持電解質が加えられた透明な水21と、絶縁性液体である透明な油22とが互いに混じり合わずに収容されている。水21よりも油22の方が光の屈折率が大きいため、液体レンズ1では、油22が光を屈折させるレンズの役割を担う。
【0025】
容器11の、チューブ11aの内面と、チューブ11aの上端を塞ぐキャップ11bの内面は、撥水性を有する撥水性膜15で覆われており、チューブ11aの下端を塞ぐキャップ11cの内面は、親水性を有する親水性膜16で覆われている。
【0026】
また、チューブ11aと撥水性膜15との間には、絶縁膜14が設けられており、液体レンズ1には、水21と接する第1電極12と、絶縁膜14によって水21と絶縁された第2電極13も備えられている。
【0027】
第1電極12と第2電極13との相互間に電圧が印加されていない状態では、図1のパート(A)に示すように、水21は撥水性膜15と反撥して親水性膜16と接触するため、水21と撥水性膜15との接触部分P1が小さくなる。このため、水21は半球形状に滞留し、水21に押された油22は円筒形状から半球を刳り貫いた形状に滞留する。油22からみたときの、水21と油22との境界面の形状は凹状であるため、パート(A)では、液体レンズ1は凹レンズとして機能する。
【0028】
また、例えば、第1電極12にプラスの電圧を印加し、第2電極13にマイナスの電圧を印加すると、第1電極12から水21にプラス電荷31aが放出され、第2電極13にはマイナス電荷31bが溜まる。このとき、水21に放出されたプラス電荷31aが、クーロン力によって第2電極13のマイナス電荷31bに引き付けられ、水21と撥水性膜15との接触部分P2が印加電圧に応じて大きくなる。パート(B)では、油22からみたときの、水21と油22との境界面の形状は凸状となっており、液体レンズ1は凸レンズとして機能する。また、第1電極12および第2電極13に印加される電圧を調整することによって、水21と油22との境界面の形状を少しずつ変化させることができる。
【0029】
このように、液体レンズ1によると、レンズを移動させる機構を設けなくても、水21と油22との境界面の形状を変化させることによって、ズーム機能やフォーカス機能を実現することができる。
【0030】
ここで、図1に示す液体レンズ1は図1の下側に重力がかかっているものとして説明したが、以下の図2の説明では、図1に示す液体レンズ1を重力に対して90度回転させた場合に生じる問題点を説明する。
【0031】
図2は、図1に示す液体レンズの問題点を説明する図である。なお、点線で示した、水21と油22との境界面41の形状は、図1のパート(B)で示した境界面の形状である。
【0032】
この液体レンズ1の容器11の中に収容された水21および油22それぞれの比重が異なるため、図2に示すように、水21と油22との境界面42の形状が、重力の影響を受けて、実線で示すような形状に歪む。
【0033】
このようにして界面形状が歪むことは、即ち、レンズの形状が変形することと同意であるため、結果として、レンズ性能の劣化が引き起こされ、例えば、このような液体レンズ1が組み込まれたカメラによって撮影されると撮影画像の画質低下をもたらすおそれがある。
【0034】
本発明は、上記のような詳しい分析に基づいたものである。
【0035】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態が適用されたデジタルカメラを前面斜め上から見た外観斜視図である。
【0037】
図3に示すように、このデジタルカメラ100の前面中央部には、撮影レンズ101が備えられている。また、このデジタルカメラ100の前面上部には、光学式ファインダ対物窓102および補助光発光部103が備えられている。さらに、このデジタルカメラ100の上面には、スライド式の電源スイッチ104およびレリーズスイッチ150が備えられている。
【0038】
図4は、図3に示すデジタルカメラの概略構成図である。
【0039】
図4に示すように、デジタルカメラ100の内訳は、大きく分けて撮影光学系110と信号処理部120とに分かれる。デジタルカメラ100には、それらのほかにも、撮影した画像を表示させるための画像表示部130、撮影した画像信号を記録しておくための外部記録媒体140、撮影のための各種処理をデジタルカメラ100に行なわせる、ズームスイッチ170、撮影モードスイッチ160、およびレリーズスイッチ150が設けられている。
【0040】
まず撮影光学系110の構成を、図4を参照して説明する。
【0041】
デジタルカメラ100では、図4の左方から被写体光が入射し、ズームレンズ115およびフォーカスレンズ114を経て、被写体光の光量を調整するアイリス113を通過した後、シャッタ112が開いている場合は固体撮像素子111に結像する。この固体撮像素子111は、本発明にいう撮像素子の一例に相当する。本来、撮影光学系には複数のレンズが配備され、それら複数のレンズのうち少なくとも1つのレンズがピント調節に大きく関与し、各レンズの相対位置が焦点距離に関与するが、この図4では、焦点距離の変化に係わるレンズをズームレンズ115として模式的に示しており、同じくピントの調節に係わるレンズをフォーカスレンズ114として模式的に示している。
【0042】
ズームレンズ115、アイリス113、およびシャッタ112は、ズームモータ115a、アイリスモータ113a、およびシャッタモータ112aによりそれぞれ駆動され移動する。また、フォーカスレンズ114には、モータの替わりに、フォーカスレンズ114のレンズ形状を変化させるフォーカスコントローラ114aが設けられている。これらズームモータ115a、アイリスモータ113a、およびシャッタモータ112aを作動させる指示は、信号処理部120中のデジタル信号処理部120bからモータドライバ120cを通じて伝達されるとともに、フォーカスコントローラ114aを作動させる指示は、デジタル信号処理部120bから直接伝達される。
【0043】
ズームレンズ115は、ズームモータ115aによって光軸に沿う方向に移動される。ズームレンズ115が、信号処理部120からの信号に応じた位置に移動されることによって、焦点距離が変化して撮影倍率が決定される。
【0044】
フォーカスレンズ114は、TTLAF(Through The Lens Auto Focus)機能を実現するためのレンズである。このTTLAF機能とは、一般的には、光軸に沿う方向にフォーカスレンズを移動させながら、固体撮像素子111で得られた画像信号のコントラストを信号処理部120のAF/AE演算部126で検出し、そのコントラストのピークが得られるレンズ位置をピント位置として、フォーカスレンズ114をピント位置に調節するものである。このTTLAF機能によって、コントラストがピークになる被写体(つまり、最も近くにある最近被写体)に自動的に焦点を合わせて撮影を行うことができる。本実施形態においては、フォーカスレンズ114を移動させる替わりに、フォーカスコントローラ114aでフォーカスレンズ114のレンズ形状を変化させることによって、最近被写体に焦点を合わせる。このフォーカスレンズ114の構成と、レンズ形状を変化させる方法については、後で詳しく説明する。
【0045】
アイリス113は、デジタル信号処理部120bのAF/AE演算部126から与えられた指示に基づいて駆動されることによって、被写体光の光量を調整する。
【0046】
以上が撮影光学系110の構成である。
【0047】
続いて信号処理部120の構成を説明する。撮影光学系で固体撮像素子111に結像させた被写体像が画像信号としてアナログ処理(A/D)部120aに読み出され、このアナログ処理部(A/D)120aでアナログ信号がデジタル信号に変換されデジタル信号処理部120bへと供給される。デジタル信号処理部120bにはシステムコントローラ121が配備されており、そのシステムコントローラ121内の動作の手順を示したプログラムにしたがってデジタル信号処理部120b内の信号処理が行なわれる。このシステムコントローラ121と、画像信号処理部122、画像表示制御部123、画像圧縮部124、メディアコントローラ125、AF/AE演算部126、キーコントローラ127、バッファメモリ128、内部メモリ129との間のデータの受け渡しはバス1200を介して行なわれ、そのバス1200を介してデータの受け渡しが行なわれるときのバッファとして内部メモリ129が働いている。この内部メモリ129に各部の処理プロセスの進行状況に応じて変数となるデータが随時書き込まれて、システムコントローラ121、および画像信号処理部122、画像表示制御部123、画像圧縮部124、メディアコントローラ125、AF/AE演算部126、キーコントローラ127の各部では、そのデータを参照することにより適切な処理が行なわれる。つまり、システムコントローラ121からの指示がバス1200を介して上記の各部に伝えられ、各部の処理プロセスが立ち上げられる。そして、その内部メモリ129のデータがプロセスの進行状況に応じて書き換えられ、さらにシステムコントローラ121側で参照されて上記の各部の動作が管理される。言い換えれば、電源が投入され、システムコントローラ121内のプログラムの手順にしたがって各部のプロセスが立ち上げられる。たとえば、レリーズスイッチ150、ズームスイッチ、撮影モードスイッチのスイッチが操作されると、その操作されたという情報がキーコントローラ127を経由してシステムコントローラ121に伝えられ、その操作に応じた処理がシステムコントローラ121内のプログラムの手順にしたがって行われる。
【0048】
レリーズ操作が行われると、固体撮像素子から読み出された画像データは、アナログ処理(A/D)部120aでアナログ信号からデジタル信号に変換され、このデジタル化された画像データがデジタル信号処理部120b内のバッファメモリ128にいったん蓄えられる。このデジタル化された画像データのRGB信号が画像信号処理部122でYC信号に変換され、さらに画像圧縮部124でJPEG圧縮と呼ばれる圧縮が行なわれて画像信号が画像ファイルとなってメディアコントローラ125を介して外部記録媒体140に記録される。この画像ファイルとして記録された画像データは、画像表示制御部123を通じて画像表示部130において再生される。この処理の際、RGB信号に基づいてピント調節および露出調節の演算を行なっているのがAF/AE演算部である。このAF/AE演算部126ではピント調節のためにRGB信号から被写体距離ごとにコントラストを検出することが行なわれる。この検出結果に基づいて、フォーカスレンズ114によってピント調整が行われる。またAF/AE演算部ではRGB信号から輝度信号が抽出され、そこから被写界輝度が検出される。この結果に基づき、固体撮像素子に与えられる被写体光の光量が適切になるように、アイリス113によって露出調節が行なわれる。
【0049】
デジタルカメラ100は、基本的には以上のように構成されている。
【0050】
ここで、デジタルカメラ100における本発明の特徴は、フォーカスレンズ114にある。以下では、このフォーカスレンズ114について詳しく説明する。
【0051】
図5は、図4に示すフォーカスレンズの概略構成図である。なお、図5の左側から矢印Oの方向に被写体光が入射し、光が入射する側(図5の左側)を前側、光が出射する側(図5の右側)を後側と称して説明を行う。
【0052】
フォーカスレンズ114は、チューブ201aの両端がキャップ201b,201cで塞がれた液体収容器201内に、導電性水溶液301と、導電性水溶液301と不混和な絶縁性液体302とが収容されて形成されている。この液体収容器201は、透明なガラスで構成されており、本発明にいう液体収容器の一例に相当する。
【0053】
チューブ201aの後端を塞ぐキャップ201cの、液体と接触する面(内面)は、導電性水溶液301に対する濡れ性が高い親水性膜206で覆われている。また、液体収容器201の、親水性膜206で覆われた部分以外の内面は、導電性水溶液301に対する濡れ性が絶縁性液体302に対する濡れ性よりも低い撥水性膜205で覆われている。
【0054】
また、液体収容器201には、親水性膜206を挟むように配置された、液体と接触する第1電極202と、チューブ201aと撥水性膜205に挟まれた絶縁膜204と、絶縁膜204によって液体と絶縁された第2電極203も備えられている。これら第1電極202、および第2電極203は、図4に示すフォーカスコントローラ114aと接続されており、フォーカスコントローラ114aによって、これらの電極間に電圧が印加される。この第1電極202は、本発明にいう第1の電極の一例に相当し、第2電極203は、本発明にいう第2の電極の一例に相当する。また、フォーカスコントローラ114aは、本発明にいう制御部の一例に相当する。
【0055】
上記のような液体収容器201に、相互に屈折率が異なる導電性水溶液301と、絶縁性液体302とが収容される。本実施形態では、導電性水溶液301として、水に支持電解質(テトラブチルアンモニウムパークロレイト0.1mol/L)が加えられたものが適用され、絶縁性液体302として、有機溶媒(テトラリン)が適用される。絶縁性液体302として適用されたテトラリンの比重は「0.97」であって、水の比重「1.0」との差が「0.03」であるため、重力の影響によって絶縁性液体および導電性の水溶液の界面部分の形状が歪むことが回避され、重力に対するフォーカスレンズ114の姿勢にかかわらず、その界面部分の形状が維持される。この導電性水溶液301は、本発明にいう導電性の水溶液の一例にあたり、絶縁性液体302は、本発明にいう絶縁性液体の一例に相当する。
【0056】
第1電極202と第2電極203との間に電圧が印加されていない状態では、導電性水溶液301が撥水性膜205と反撥することによって、導電性水溶液301と絶縁性液体302との境界面は実線で示すような形状になる。このとき、第2電極202と導電性水溶液301とが接触する。
【0057】
図4に示す信号処理部120からの指示に従って、フォーカスコントローラ114aが第1電極202と第2電極203との相互間に電圧を印加すると、第1電極202から導電性水溶液301に電荷が放出され、第2電極203には、導電性水溶液301に放出された電荷とは逆極性の電荷が集まる。この導電性水溶液301に放出された電荷と、第2電極203の電荷とがクーロン力によって引き合い、導電性水溶液301中の電荷が撥水性膜205付近に引き付けられる。その結果、導電性水溶液301と絶縁性液体302との境界面が、例えば、図5の点線で示すような形状に変化する。
【0058】
このフォーカスレンズ114を用いて、以下のような手順でTTLAF機能が実現される。
【0059】
まず、フォーカスコントローラ114aによって、第1電極202、および第2電極203に印加される電圧が少しずつ変えられることによって、導電性水溶液301と絶縁性液体302との境界面の形状が変えられながら、図4に示す固体撮像素子111で画像信号が取得される。続いて、撮像信号のコントラストがAF/AE演算部126で検出され、コントラストのピークが得られるときの電圧が第1電極202、および第2電極203に印加される。このようにして、レンズ形状が確定された状態で撮影が行われることによって、最も近い位置にある被写体に焦点を合わせることができる。
【0060】
尚、上述した各実施形態では、Charge Coupled Device(CCD)固体撮像素子上に被写体の像を結像させて、その被写体を表す画像データを信号として取り込むデジタルカメラに本発明を適用した例で説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、例えば、写真フィルム上に写真撮影を行うフィルムカメラ、あるいはフィルムをカメラ外部に送り出すとともに現像するインスタントカメラ、あるいは動画を撮影するビデオカメラのいずれにも適用することができる。
【0061】
また、上述した各実施形態では、液体収容器中に、導電性液体と絶縁性液体の2種類の液体が収容された例について説明したが、本発明にいう液体収容器には、3種類以上の液体が収容されていてもよい。
【0062】
また、上述した各実施形態では、本発明にいう光学素子がフォーカスレンズに適用される例について説明したが、本発明にいう光学素子は、ズームレンズなどに適用されてもよい。
【0063】
最後に、本発明を構成する各構成部分において採用可能な種々の形態について付記する。
<絶縁性液体>
本発明にいう絶縁性液体は、本発明にいう導電性の水溶液の比重との差が「0.1」以下の比重の有機溶媒である。具体的には、テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、ニトロプロパンなどが挙げられる。また、これらの化合物のうち1つ以上の化合物を主成分とする有機溶媒であってもよい。
<導電性の水溶液>
本発明にいう導電性の水溶液としては、いかなるものであってもよいが、水には、電気伝導度を高める目的で、支持電解質を添加することが好ましい。支持電解質としては、TMAP:Tetramethylammonium perchlorate、あるいは、TBAF:Tetrabutylammonium hexafluorophosphate等が用いられる。
【0064】
ここで、上記では、本発明の概念を実現するための基本的な実施形態について説明したが、本発明に採用する光学素子を実用化するにあたっては、光路上にゴミや水滴などが付着してレンズ性能が劣化してしまう不具合を防止するための工夫を施すことが好ましい。
【0065】
例えば、液体が収容された容器の光路と交わる外面(以下では、この面を光透過面と称する)に撥水性膜を付設することが好ましい。光透過面に撥水性を付与することによって、ゴミや水滴の付着などが防止され、光学素子の高い光透過性を維持することができる。この撥水性膜を構成する材料としては、シリコーン樹脂、オルガノポリシロキサンのブロック共重合体、フッ素系ポリマー、およびポリテトラフルオロエタンなどが好ましい。
【0066】
また、光学素子を構成する容器の光透過面に、親水性膜を付設することも好ましい。光透過面に親水撥油性を付与することによっても、ゴミの付着を防止することができる。この親水性膜としては、アクリレート系ポリマーで構成されたものや、非イオン性オルガノシリコーン系界面活性剤などといった界面活性剤を塗布したものなどが好ましく、親水性膜の作製方法としては、シラン系モノマーのプラズマ重合や、イオンビーム処理などを適用することができる。
【0067】
また、光学素子を構成する容器の光透過面に、酸化チタンなどといった光触媒を付設することも好ましい。光と反応した光触媒によって汚れなどが分解され、光透過面をきれいに保つことができる。
【0068】
また、光学素子を構成する容器の光透過面に、帯電防止膜を付設することも好ましい。容器の光透過面に静電気が溜まったり、電極によって帯電してしまうと、光透過面にゴミや埃がくっついてしまう恐れがある。光透過面に帯電防止膜を付設することによって、このような不要物の付着を防止し、光学素子の光透過性を維持することができる。この帯電防止膜は、ポリマーアロイ系の材料で構成されていることが好ましく、このポリマーアロイ系が、ポリエーテル系や、ポリエーテルエステルアミド系や、カチオン性基を有するものや、レオミックス(商品名、第一工業製薬株式会社)であることが特に好ましい。また、この帯電防止膜が、ミスト法によって作製されたものであることが好ましい。
【0069】
また、光学素子を構成する容器に、防汚性素材を適用しても良い。防汚性素材としてはフッ素樹脂が好ましいが、具体的には、含フッ素アルキルアルコキシシラン化合物や、含フッ素アルキル基含有ポリマー、オリゴマー等が好ましく、上記硬化性樹脂と架橋可能な官能基を有するものが特に好ましい。また、防汚性素材の添加量は、防汚性を発現する必要最低量であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】比較例である液体レンズの概略構成図である。
【図2】図1に示す液体レンズの問題点を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態が適用されたデジタルカメラを前面斜め上から見た外観斜視図である。
【図4】図3に示すデジタルカメラの概略構成図である。
【図5】図4に示すフォーカスレンズの概略構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 液体レンズ
11 容器
11a チューブ
11b,11c キャップ
12 第1電極
13 第2電極
14 絶縁膜
15 撥水性膜
16 親水性膜
21 水
22 油
31a プラス電荷
31b マイナス電荷
41 境界面
42 境界面
100 デジタルカメラ
101 撮影レンズ
102 光学式ファインダ対物窓
103 補助光発光部
104 電源スイッチ
110 撮影光学系
111 固体撮像素子
112 シャッタ
112a シャッタモータ
113 アイリス
113a アイリスモータ
114 フォーカスレンズ
114a フォーカスコントローラ
115 ズームレンズ
115a ズームモータ
120 信号処理部
120a アナログ処理(A/D)部
120b デジタル信号処理部
120c モ−タドライバ
121 システムコントローラ
122 画像信号処理部
123 画像表示制御部
124 画像圧縮部
125 メディアコントローラ
126 AF/AE演算部
127 キーコントローラ
128 バッファメモリ
129 内部メモリ
1200 バス
130 画像表示部
140 外部記録媒体
150 レリーズスイッチ
160 撮影モードスイッチ
170 ズームスイッチ
201 液体収容器
201a チューブ
201b,201c キャップ
202 第1電極
203 第2電極
204 絶縁膜
205 撥水性膜
206 親水性膜
301 導電性水溶液
302 絶縁性液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
前記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
前記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極とを備えたことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記絶縁性液体が、1つ以上の炭化水素系の化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
前記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
前記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極とを備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加される電圧に応じて、前記絶縁性液体と前記水溶液との境界面の形状が変化することを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
撮影光学系を有し、該撮影光学系を経由して入射した被写体光を捉えることにより撮影を行う撮像装置において、
前記撮影光学系が、
テトラリン、フェニルシクロヘキサン、ジフェニルエタン、重芳香族ナフサ、クレオソート油、パイン油、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、アニソール、ジメチルアニリン、ジクロロペンタン、クロルコサン、クロロトルエン、デイフノン、およびニトロプロパンのうち1つ以上の化合物を主成分とする絶縁性液体、および導電性の水溶液が内部に収容された、少なくとも所定の光軸方向については光を透過させる液体収容器と、
前記液体収容器内の水溶液に接触した第1の電極と、
前記液体収容器内の水溶液に対して絶縁された第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって、前記絶縁性液体と前記水溶液との境界面の形状を変化させる制御部とを備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
前記被写体光による被写体像が結像され、該被写体像を表す画像信号を出力する固体撮像素子を備えたことを特徴とする請求項4記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−65042(P2006−65042A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248298(P2004−248298)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】