説明

光源装置及びプロジェクター

【課題】蛍光体から発せられる蛍光の利用効率を高めた光源装置を提供する。
【解決手段】光源装置100Aは、発散光を射出する光源10と、発散光が入射するレンズ41と、レンズ41の光入射面に設けられた反射防止膜と、を備えた光源装置100Aであって、光入射面に垂直に入射する光に対する光入射面の反射率が、レンズ41の光軸からの距離に応じて異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源装置及びプロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターに用いられる光源装置の一つとして、レーザー光を励起光として蛍光体に照射し、励起光とは異なる波長の蛍光を発生させる光源装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−86815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光体ホイールの蛍光体層から射出される蛍光は、ランバート放射に近い角度分布である。そのためピックアップレンズの外周部に対する入射角度が大きくなり、ピックアップレンズの光入射面における反射光が多くなるという課題がある。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、ピックアップレンズにおける反射光を低減することができる光源装置及びプロジェクターを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光源装置は、発散光を射出する光源と、前記発散光が入射するレンズと、前記レンズの光入射面に設けられた反射防止膜と、を備えた光源装置であって、前記光入射面に垂直に入射する光に対する前記光入射面の反射率が、前記レンズの光軸からの距離に応じて異なることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、垂直に入射する光に対する光入射面の反射率をレンズの光軸からの距離に応じて異ならせることで、反射防止膜の干渉条件を、光源から入射する光の入射角度に応じて設定することができる。これにより、光入射面のうち光軸位置から離れた位置に大きな入射角で入射する光に対する光入射面の反射率と光入射面のうち光軸位置の近傍に小さな入射角で入射する光に対する光入射面の反射率との差を小さくすることができる。従って、光入射面のうち光軸位置から離れた位置においても光入射面による反射光を低減することができ、これにより、光源から射出された光が効率的にレンズに取り込まれる光源装置を実現できる。
【0008】
前記反射防止膜の厚さが前記レンズの光軸位置において最大である構成としてもよい。
この構成によれば、光軸位置以外の反射防止膜の膜厚が光軸位置における膜厚よりも薄くなるため、光入射面のうち光軸から離れた位置に大きな角度で入射する光についても、反射防止膜の干渉条件がずれにくくなる。これにより、光入射面による反射光を低減することができる。
【0009】
前記発散光のうち前記光入射面に第1の入射角で入射する光の前記反射防止膜内での光路長が、前記発散光のうち前記光入射面に前記第1の入射角とは異なる第2の入射角で入射する光の前記反射防止膜内での光路長と等しい構成としてもよい。
この構成によれば、反射防止膜の全体で入射光の干渉条件を満たすことができるため、光入射面による反射光を大きく低減することができる。
【0010】
前記反射防止膜が、前記光入射面の中心部に形成された第1の反射防止膜と、前記第1の反射防止膜の周囲に形成された第2の反射防止膜とを有する構成としてもよい。
この構成によれば、光入射面のうち光軸位置から離れた位置に入射する光に対して最適化された反射防止膜を簡便に形成できる。
【0011】
前記光入射面が凹面である構成としてもよい。この構成によれば、光入射面のうち光軸から離れた位置においても、レンズに対する入射角を小さくすることができるため、光源の光の利用効率を高めることができる。
【0012】
前記発散光がランバート分布を有する光である構成としてもよい。上記構成は、このような大きく広がる発散光に対して特に有効である。
【0013】
本発明のプロジェクターは、上記の光源装置と、前記光源装置から射出された光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、前記光変調装置からの変調光を投写画像として投写する投写光学系と、を備える。この構成によれば、光源装置における反射光が低減されたプロジェクターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態プロジェクターの光学系を示す模式図。
【図2】蛍光板の一例を示す斜視図。
【図3】実施形態のピックアップレンズを示す図。
【図4】ピックアップレンズに形成された反射防止膜の作用説明図。
【図5】反射防止膜の他の構成を示す図。
【図6】ガラス基板上に反射防止膜を形成した光学素子の反射特性を示す図。
【図7】第2実施形態に係るピックアップレンズを示す図。
【図8】第3実施形態に係るピックアップレンズを示す図。
【図9】第4実施形態の光源装置を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0016】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態に係る光源装置とこれを備えたプロジェクターについて説明する。
【0017】
図1は、プロジェクター1000の光学系を示す模式図である。
図1に示すように、プロジェクター1000は、光源装置100Aと、色分離導光光学系200と、光変調装置としての液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bと、クロスダイクロイックプリズム500及び投写光学系600と、を備えている。
【0018】
光源装置100Aは、励起光源10、第1集光レンズ20、蛍光板30、コリメート光学系40、第2集光レンズ50、ロッドインテグレーター60、平行化レンズ70を備えている。励起光源10から射出される励起光ELの光路上には、第1集光レンズ20、蛍光板30、コリメート光学系40、第2集光レンズ50、ロッドインテグレーター60、平行化レンズ70がこの順に配置されている。
【0019】
励起光源10は、例えば、基板上にレーザー光源を5個×5個の正方形状に2次元配列(合計25個)で並べたレーザー光源アレイである。励起光源10は、蛍光板30が備える蛍光物質を励起させる励起光ELとして、青色(発光強度のピーク:450nm付近)のレーザー光を射出する。
なお、励起光源10は、蛍光板30において蛍光物質を励起させることができる波長の光であれば、450nm以外のピーク波長を有する色光を射出する励起光源であっても構わない。
【0020】
第1集光レンズ20は、例えば凸レンズからなる。第1集光レンズ20は、励起光源10から射出されるレーザー光の光線軸上に配置され、励起光源10から射出された励起光EL(複数のレーザー光)を、集光スポット径が1mm以下となるように集光する。
【0021】
図2は、蛍光板30の一例を示す斜視図である。
蛍光板30は透過型の回転蛍光板である。蛍光板30は、図2に示すように、モーター33により回転駆動される円盤状の回転基板31と、回転基板31の周方向(回転方向)に沿って形成されたリング状の蛍光体32とを有する。
【0022】
回転基板31の回転軸は、回転基板31の厚さ方向(回転基板31の板面の法線方向)に平行な方向である。蛍光体32が形成された領域は、励起光ELが入射する領域(励起光入射領域)Sを含む。モーター33により回転基板31が回転されることにより、蛍光体32上の励起光入射領域Sが時間的に変動する。なお、回転基板31の形状は、円盤状に限るものではない。
【0023】
蛍光板30は、使用時において例えば7500rpmで回転する。詳しい説明は省略するが、蛍光板30の直径は50mmであり、蛍光板30に入射する励起光ELの光軸が蛍光板30の回転中心から約22.5mm離れた場所に位置するように構成される。つまり、蛍光板30は、励起光ELの集光スポットが約18m/秒で蛍光体32上を移動するような回転速度で回転する。
【0024】
回転基板31は、励起光ELを透過する材料からなる。回転基板31の材料としては、例えば、石英ガラス、水晶、サファイア、光学ガラス、透明樹脂等を用いることができる。本実施形態では、回転基板31として、円盤状のガラス基板を使用する。図示していないが、回転基板31の蛍光体32が設けられている面と反対側の面には、誘電体多層膜が設けられている。誘電体多層膜はダイクロイックミラーとして機能し、励起光EL(450nm付近の光)は透過し、蛍光体32から射出される蛍光の波長範囲(490nm〜750nm)を含む490nm以上の光は反射する。
励起光源10から射出されたレーザー光(青色光)は、励起光ELとして上記誘電体多層膜を介して蛍光体32に入射し、蛍光体32は励起光ELが入射する側とは反対側に向けて蛍光(赤色光及び緑色光)を射出する。
【0025】
蛍光体32は、蛍光を発する蛍光体粒子を有しており、励起光EL(青色光)を吸収し、概ね490〜750nmの蛍光に変換する機能を有する。この蛍光には、緑色光(波長530nm付近)及び赤色光(波長630nm付近)が含まれる。
【0026】
蛍光体粒子は、図1に示す励起光源10から射出される励起光ELを吸収し、蛍光を発する粒子状の蛍光物質である。例えば、蛍光体粒子には、波長が約450nmの青色光によって励起されて蛍光を発する物質が含まれており、励起光ELの一部を、赤色の波長帯域から緑色の波長帯域まで含む光に変換して射出する。
【0027】
蛍光体粒子としては、通常知られたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体を用いることができる。例えば、平均粒径が10μmの(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ceで示される組成のYAG系蛍光体を用いることができる。なお、蛍光体粒子の形成材料は、1種であっても良く、2種以上の形成材料を用いて形成されている粒子を混合したものを蛍光体粒子として用いることとしても良い。
【0028】
本実施形態の光源装置100Aでは、励起光源10から蛍光体32に励起光(レーザー光)を照射し、励起光を照射された位置の蛍光体粒子が蛍光を発する。この蛍光体32から射出される光はランバート放射に近い角度分布を示す発散光である。本実施形態では、励起光源10と蛍光体32(蛍光板30)とが、発散光を射出する光源として機能する。
【0029】
コリメート光学系40は、蛍光板30から第2集光レンズ50へ進行する光(励起光EL及び蛍光)の光路上に配置されている。コリメート光学系40は、蛍光板30からの光の広がりを抑えるピックアップレンズ41と、ピックアップレンズ41から入射される光を平行化するコリメーターレンズ42と、各レンズ同士を固定するベース部43と、を含んで構成されている。
ピックアップレンズ41は、例えば平凸レンズからなり、コリメーターレンズ42は、例えば凸レンズからなる。コリメート光学系40は、蛍光板30からの光を略平行化した状態で第2集光レンズ50に入射させる。
【0030】
図3は、本実施形態のピックアップレンズを示す図である。図3はピックアップレンズ41の断面図である。図4はピックアップレンズ41に形成された反射防止膜の作用説明図である。図5は反射防止膜の他の構成を示す図である。
【0031】
ピックアップレンズ41は、図3に示すように、ガラスや石英、プラスチック等からなるレンズ本体41aと、レンズ本体41aの光入射面41b(蛍光体32からの光が入射するレンズ面)に形成された反射防止膜45とを有する。
レンズ本体41aは、光入射面41bが平坦面である一方、光入射面41bと反対側の光射出面が非球面とされた平凸レンズである。レンズ本体41aの光軸Lは光入射面41bの中心に位置する。
【0032】
反射防止膜45は、レンズ本体41aの光入射面41bの中心(光軸位置)から径方向の外周側に向かって膜厚が薄くなるように形成されている。より詳しくは、図4に示すように、反射防止膜45の膜厚は、光軸Lの位置において最大値dを持つ。また、光軸Lの位置から外周側では、蛍光体32から照射される発散光の反射防止膜45中での光路長が上記膜厚の最大値dに等しくなるように、反射防止膜45の膜厚が設定されている。
【0033】
反射防止膜45は、例えば、MgFやSiOの単層膜からなる。あるいは、図5に示すような多層膜からなるものとしてもよい。図5に示す多層構造の反射防止膜45は、例えば、SiOからなる第1コート層45aと、ZrOからなる第2コート層45bと、MgFからなる第3コート層45cとを、レンズ本体41aの光入射面41bにこの順に形成したものである。第1コート層45a〜第3コート層45cの構成材料としては、上記以外にもTiO、Ti、TiO、Al、PbF、ThF、YF、BaF、CaF、BaF、SrFなどを用いてもよい。
【0034】
図5に示す多層構造の反射防止膜45は、光軸Lの位置から径方向の外側に向かって各層の膜厚が薄くなるように形成される。光軸Lよりも外周側における各層の膜厚は、蛍光体32から照射される発散光の反射防止膜45中の各光路において、光軸Lの位置における各層の膜厚比が維持されるように形成することが好ましい。例えば、光軸Lの位置における第1コート層45a〜第3コート層45cの膜厚比が1:1:1であれば、光軸Lよりも外周側の光路Lp1における膜厚比及び光路Lp2における膜厚比もそれぞれ、1:1:1となるように各層の膜厚を設定することが好ましい。
【0035】
反射防止膜45は、公知の蒸着プロセスを用いて形成することができる。例えば、点蒸着源を用いて蒸着する場合に生じる膜厚分布を利用してレンズ本体41aの中心部と外周部とで膜厚を異ならせる方法が挙げられる。レンズ本体41aの外周側への蒸着流の一部を時間的、空間的に遮断して膜厚を薄くする方法を用いてもよい。
【0036】
第2集光レンズ50は、例えば凸レンズからなる。第2集光レンズ50は、コリメート光学系40(コリメーターレンズ42)を透過する光の光線軸上(Z軸上)に配置される。第2集光レンズ50は、コリメート光学系40を透過した光を集光する。
【0037】
第2集光レンズ50を透過した光は、ロッドインテグレーター60の一端側に入射する。ロッドインテグレーター60は、光路方向に延在する角柱状の光学部材であり、内部を透過する光に多重反射を生じさせることにより、第2集光レンズ50を透過した光を混合し、輝度分布を均一化するものである。ロッドインテグレーター60の光路方向に直交する断面形状は、液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bの画像形成領域の外形形状と略相似形である。
【0038】
ロッドインテグレーター60の他端側から射出された光は、平行化レンズ70により平行化され、光源装置100Aから射出される。
【0039】
色分離導光光学系200は、ダイクロイックミラー210、ダイクロイックミラー220、反射ミラー230、反射ミラー240、反射ミラー250及びリレーレンズ260を備えている。色分離導光光学系200は、光源装置100Aからの光を赤色光、緑色光及び青色光に分離し、赤色光、緑色光及び青色光のそれぞれの色光を照明対象となる液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bに導光する機能を有する。
【0040】
ダイクロイックミラー210、ダイクロイックミラー220は、基板上に、所定の波長領域の光を反射して、他の波長領域の光を透過させる波長選択透過膜が形成されたミラーである。具体的には、ダイクロイックミラー210は、青色光成分を透過させ、赤色光成分及び緑色光成分を反射する。ダイクロイックミラー220は、緑色光成分を反射して、赤色光成分を透過させる。
【0041】
反射ミラー230、反射ミラー240、反射ミラー250は、入射した光を反射するミラーである。具体的には、反射ミラー230は、ダイクロイックミラー210を透過した青色光成分を反射する。反射ミラー240、反射ミラー250は、ダイクロイックミラー220を透過した赤色光成分を反射する。
【0042】
ダイクロイックミラー210を透過した青色光は、反射ミラー230で反射され、青色光用の液晶光変調装置400Bの画像形成領域に入射する。ダイクロイックミラー210で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー220でさらに反射され、緑色光用の液晶光変調装置400Gの画像形成領域に入射する。ダイクロイックミラー220を透過した赤色光は、入射側の反射ミラー240、リレーレンズ260、射出側の反射ミラー250を経て赤色光用の液晶光変調装置400Rの画像形成領域に入射する。
【0043】
液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bは、通常知られたものを用いることができ、例えば、液晶素子410と液晶素子410を挟持する偏光素子420、偏光素子430とを有した、透過型の液晶ライトバルブ等の光変調装置により構成される。偏光素子420、偏光素子430は、例えば透過軸が互いに直交する構成(クロスニコル配置)となっている。
【0044】
液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bは、入射された色光を画像情報に応じて変調してカラー画像を形成するものであり、光源装置100Aの照明対象となる。これら液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G及び液晶光変調装置400Bによって、入射された各色光の光変調が行われる。
【0045】
例えば、液晶光変調装置400R、液晶光変調装置400G、液晶光変調装置400Bは、一対の透明基板に液晶を密閉封入した透過型の液晶光変調装置であり、ポリシリコンTFTをスイッチング素子として、与えられた画像情報に応じて、入射側の偏光素子420から射出された1種類の直線偏光の偏光方向を変調する。
【0046】
クロスダイクロイックプリズム500は、射出側の偏光素子430から射出された色光毎に変調された光学像を合成してカラー画像を形成する光学素子である。このクロスダイクロイックプリズム500は、4つの直角プリズムを貼り合せた平面視略正方形状をなしている。直角プリズムを貼り合せた略X字状の界面には、誘電体多層膜が形成されている。略X字状の一方の界面に形成された誘電体多層膜は、赤色光を反射するものであり、他方の界面に形成された誘電体多層膜は、青色光を反射するものである。これらの誘電体多層膜によって赤色光及び青色光は曲折され、緑色光の進行方向が揃えられることにより、3つの色光が合成される。
【0047】
クロスダイクロイックプリズム500から射出されたカラー画像は、投写光学系600によって拡大投写され、スクリーンSCR上で画像を形成する。
【0048】
上記の構成を備えた本実施形態の光源装置100Aでは、ピックアップレンズ41の光入射面41bに形成された反射防止膜45が、図3及び図4に示した膜厚分布を有している。これにより、光入射面41bのうち光軸位置から離れた位置に大きな入射角で入射する発散光に対する光入射面41bの反射率R1と光入射面41bのうち光軸位置の近傍に小さな入射角で入射する発散光に対する光入射面41bの反射率R2との差を小さくすることができる。従って、反射率R1を反射率R2と同様に低減することができるため、光入射面41bのうち光軸位置から離れた位置においても光入射面41bによる反射光を低減することができる。なお、入射角は、光入射面41bの法線と入射光の光軸とのなす角度である。
【0049】
ここで図6は、ガラス基板(nd=1.773)上に従来の反射防止膜を形成した光学素子の反射特性を示す図である。ただし、図6において、水平線(a)、水平線(b)および水平線(c)は反射防止膜を形成しない場合の反射特性である。水平線(a)は入射角が60°の入射光に対する反射特性であり、水平線(b)は入射角が70°の入射光に対する反射特性であり、水平線(c)は入射角が80°の入射光に対する反射特性である。
【0050】
図6に示すように、入射光の入射角度が0°以上60°未満の範囲であれば、広い波長域において反射率は3%程度以下である。
一方、入射角度が60°以上になると反射率が急に大きくなる。例えば波長400nm〜700nmの範囲における反射率は、入射角度60°で3〜4%程度、入射角度70°で10〜20%程度、入射角度80°で30〜42%程度である。
【0051】
反射防止膜を形成しない場合と比較すると、反射防止膜を形成することで、入射角度60°以上80°以下の入射光に対する反射率を10%程度低減することができる。しかしそれでも、入射角度60°以上80°以下の入射光に対する反射率は入射角度60°未満の光に対する反射率と比較すると著しく大きい。
【0052】
上記のように入射角度が大きい領域で反射率が大きくなるのは、反射防止膜に入射した光が、反射防止膜の厚さ方向に対して斜め方向に進行するために、反射防止膜の実質的な膜厚が大きくなり、反射防止膜の干渉条件からずれてしまうためである。
【0053】
これに対して、本実施形態の光源装置100Aでは、ピックアップレンズ41に形成された反射防止膜45の膜厚が、光軸Lの位置から外周に向かって漸次薄くなるように形成されている。これにより、蛍光体32から照射され反射防止膜45に入射した発散光の光路長が、反射防止膜45の各位置において一定の長さ(光軸Lの位置における膜厚d)となる。その結果、発散光が反射防止膜45に対して斜めに入射する外周部においても、反射防止膜45の干渉条件から外れにくくなり、反射率R1の上昇を抑えることができる。
【0054】
このように、本発明に係る反射防止膜45を光入射面41bに設けることによって、反射率R1を反射率R2と同様に低減することができる。これにより、蛍光体32から発せられた蛍光光が効率的にピックアップレンズ41に取り込まれる光源装置を実現できる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の光源装置について説明する。本実施形態と第1実施形態との違いは、ピックアップレンズに形成された反射防止膜の形態にあり、それ以外の構成は第1実施形態と共通である。以下の説明では、上記実施形態と共通する構成要素について同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
【0056】
図7は、第2実施形態に係るピックアップレンズを示す図である。図7(a)はピックアップレンズの断面図であり、図7(b)は反射防止膜の平面図である。
本実施形態の光源装置は、図7(a)に示すように、レンズ本体41aの光入射面41bに反射防止膜46が形成されたピックアップレンズ41Aを備えている。
【0057】
反射防止膜46は、レンズ本体41aの光入射面41bのうち光軸位置の周辺に形成された第1の反射防止膜46aと、第1の反射防止膜46aの周囲に形成された第2の反射防止膜46bとからなる。第1の反射防止膜46aは、光軸Lと同軸の円形状に形成されている。第2の反射防止膜46bは、第1の反射防止膜46aの外周を取り囲み、光軸Lと同軸のリング状に形成されている。第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bは、光入射面41b上において隙間無く接続されている。
【0058】
第1の反射防止膜46aは、本実施形態の場合、蛍光体32から射出される発散光のうち、蛍光体32からの射出角度θが0°以上60°未満である第1の発散光成分が入射する光入射面41b上の領域に形成されている。第2の反射防止膜46bは、蛍光体32からの射出角度θが60°以上80°以下である第2の発散光成分が入射する領域に形成されている。射出角度θは、光入射面41bへの入射角に相当する。
【0059】
入射角が0°以上60°未満の入射光に対しては、第1の反射防止膜46aの反射率は、第2の反射防止膜46bの反射率よりも小さく、入射角が60°以上80°以下の入射光に対しては、第2の反射防止膜46bの反射率は第1の反射防止膜46aの反射率よりも小さくなるように、第1の反射防止膜46aおよび第2の反射防止膜46bが構成されている。
【0060】
第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bは、それぞれ異なる入射角度の光に対して最適化された反射防止膜とすることができる。たとえば、第1の反射防止膜46aは第1の発散光に対する反射率を低減させるように形成されている。一方、第2の反射防止膜46bは第2の発散光に対する反射率を低減させるように形成されている。
【0061】
例えば、第1の反射防止膜46aは、第1の発散光に対する反射率を低減できる膜厚を有し、第2の反射防止膜46bは、第2の発散光成分に対する反射率を低減できる膜厚を有する。第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bの材質が共通であれば、第2の反射防止膜46bの膜厚を、第1の反射防止膜の46aの膜厚よりも薄くする。具体的に例示すると、第1の反射防止膜46aは入射角度0°の光に対して干渉条件が設定された膜とされ、第2の反射防止膜46bは入射角度70°の光に対して干渉条件が設定された膜とされる。
【0062】
図6に示したように、反射防止膜に対する入射角度が60°以上になると、反射率が急に大きくなる。そこで本実施形態では、入射角度70°の光に対して第2の反射防止膜46bの膜厚を最適化し、これにより60°以上80°以下の入射角で入射する光に対する反射率を低減する構成とした。なお、第2の反射防止膜46bの干渉条件は、入射角度60°や80°の光に対して最適化してもよい。
【0063】
先の第1実施形態では、反射防止膜45の膜厚を中心から外周に向かって漸次薄くした構成を採用したが、このように反射防止膜45の全面に制御された膜厚分布を形成することが困難であったり、コスト上昇につながる場合がある。これに対して本実施形態では、それぞれ膜厚が一定である第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46b各々を、光入射面41b上の互いに異なる領域に形成するのみでよいため、反射率を低減する効果は第1実施形態に劣るものの、容易かつ安価に反射率の低い反射防止膜46を形成することができる。
【0064】
なお、本実施形態では第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bの膜厚を異ならせることとしたが、他の構成を採用してもよい。
例えば、第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bの膜構成を異ならせてもよい。具体的には、第1の反射防止膜46aを単層膜とし、第2の反射防止膜46bを多層膜とすることで、これらの反射防止膜の干渉条件を異ならせてもよく、第1の反射防止膜46aを3層膜とし、第2の反射防止膜46bを5層膜としてもよい。
【0065】
また、第1の反射防止膜46aと第2の反射防止膜46bの屈折率を異ならせることで、これらの反射防止膜の干渉条件を異ならせてもよい。
また、第2の反射防止膜46bを、さらに複数領域に分割してもよい。例えば、内周側から順に、入射角度65°の入射光に対して最適化された反射防止膜と、入射角度75°の入射光に対して最適化された反射防止膜とが、同心円状に形成されている構成としてもよい。
【0066】
さらには、第1の反射防止膜46aを均一な膜厚の反射防止膜とする一方、第2の反射防止膜46bを内周から外周に向かって膜厚が漸次薄くなる反射防止膜としてもよい。この構成によれば、入射角度60°以上80°以下の光に対して最適化された反射防止膜とすることができる。これにより、蛍光体32から発せられた蛍光光が効率的にピックアップレンズ41に取り込まれる光源装置を実現できる。
【0067】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の光源装置について説明する。本実施形態と第1、第2実施形態との違いは、ピックアップレンズにおけるレンズ本体の形状にあり、それ以外の構成は第1、第2実施形態と共通である。以下の説明では、上記実施形態と共通する構成要素について同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
【0068】
図8は、第3実施形態に係るピックアップレンズを示す図である。
本実施形態の光源装置は、図8に示すように、凹面の光入射面41dを有するレンズ本体41cを備えたピックアップレンズ41Bを備えている。光入射面41dは、光軸Lの位置を最深部とするすり鉢状である。また図示は省略したが、光入射面41dには、先の第1実施形態に係る反射防止膜45、又は第2実施形態に係る反射防止膜46が設けられている。
【0069】
上記構成を備えたピックアップレンズ41Bでは、図8に示すように、蛍光体32から照射される発散光の射出角度θに対して、光入射面41dに対する入射角度αが小さくなる。したがって、仮に反射防止膜の膜厚が一定であったとしても、光軸Lの位置における反射防止膜中の光路長と、光入射面41dの外周部における反射防止膜中の光路長との差が、光入射面が平坦面である場合と比較して小さくなる。その結果、第1実施形態に係る反射防止膜45、又は第2実施形態に係る反射防止膜46による効果との相乗効果によって、光入射面41dの外周部に入射する光が、反射防止膜の干渉条件から外れにくくなる。よって先の第1及び第2実施形態と比較しても、反射率の低いピックアップレンズとなる。これにより、蛍光体32から発せられた蛍光光が効率的にピックアップレンズ41に取り込まれる光源装置を実現できる。
【0070】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態の光源装置について説明する。本実施形態と第1実施形態との違いは、反射型の蛍光板を備えた点にある。以下の説明では、上記実施形態と共通する構成要素について同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
【0071】
図9は、第4実施形態の光源装置を示す側面図である。
光源装置100Bは、図9に示すように、モーター33により回転駆動される蛍光板30Rと、コリメート光学系40と、青反射ダイクロイックミラー90とを備えている。
【0072】
蛍光板30Rは、回転基板31Rと、回転基板31の一方の面に形成された蛍光体32とを有する。コリメート光学系40と青反射ダイクロイックミラー90と励起光源10とが、蛍光板30Rの蛍光体32側に配設されている。コリメート光学系40はピックアップレンズ41と、集光レンズ80とを含む。ピックアップレンズ41は、第2実施形態のピックアップレンズ41A、又は第3実施形態のピックアップレンズ41Bであってもよい。
【0073】
コリメート光学系40のピックアップレンズ41及び集光レンズ80は、ピックアップレンズ41が蛍光体32側となるように、蛍光光の光路上に配置されている。青反射ダイクロイックミラー90は、その表面が励起光源10から射出される励起光ELの光軸と斜めに交差し、かつ、蛍光体32から射出される蛍光光の光軸と斜めに交差するように配置されている。青反射ダイクロイックミラー90は、励起光EL(青色光成分)を反射し、赤色光成分及び緑色光成分を透過させる。
【0074】
以上の構成を備えた光源装置100Bでは、励起光源10から射出された励起光ELは、青反射ダイクロイックミラー90によって集光レンズ80に向かって反射される。反射された励起光ELは、集光レンズ80及びピックアップレンズ41で集光されて蛍光体32の表面に入射する。蛍光体32は、励起光ELを蛍光に変換し、この蛍光を励起光ELが入射する側と同じ側に射出する。射出された蛍光は、ピックアップレンズ41及び集光レンズ80を通過することで略平行化され、青反射ダイクロイックミラー90を通過して、図1に示した第2集光レンズ50に入射する。
【0075】
本実施形態の光源装置100Bを用いた場合にも、先の第1から第3実施形態と同様に、ピックアップレンズ41の光入射面に設けられた本発明に係る反射防止膜の作用によって、蛍光体32から射出される蛍光光のピックアップレンズ41による反射を低減することができる。これにより、蛍光体32から発せられる蛍光光を効率的にピックアップレンズ41に取り込むことができる光源装置を実現できる。
【0076】
なお、上記実施形態のプロジェクター1000では、液晶光変調装置として3つの液晶光変調装置を用いたが、これに限らない。1つ、2つ又は4つの液晶光変調装置を用いたプロジェクターにも適用可能である。
【0077】
また、本実施形態のプロジェクター1000では、透過型のプロジェクターを用いたが、これに限らない。例えば、反射型のプロジェクターを用いてもよい。ここで、「透過型」とは、透過型の液晶表示装置等のように光変調手段としての光変調装置が光を透過するタイプであることを意味している。「反射型」とは、反射型の液晶表示装置等のように光変調手段としての光変調装置が光を反射するタイプであることを意味している。反射型のプロジェクターに本発明を適用した場合にも、透過型プロジェクターと同様の効果を奏することができる。
【0078】
本発明は、投写画像を観察する側から投写するフロント投写型プロジェクターに適用する場合にも、投写画像を観察する側とは反対側から投写するリア投写型プロジェクターに適用する場合にも、適用することができる。
【0079】
(変形例)
第1実施形態では、光軸Lの位置から外周側では、蛍光体32から照射される発散光の反射防止膜45中での光路長が、光軸Lの位置における反射防止膜45の膜厚dに等しくなるように、反射防止膜45の膜厚を設定したが、これに限られない。要は、光軸Lの位置から外周側において、入射角が0度でないことによる反射防止膜の干渉条件からのずれが緩和されるように反射防止膜45の膜厚を設定すればよい。反射防止膜45が図5に示した多層構造を有している場合も同様である。
【符号の説明】
【0080】
L…光軸、41b,41d…光入射面、45,46…反射防止膜、46a…第1の反射防止膜、46b…第2の反射防止膜、100A,100B…光源装置、600…投写光学系、Lp1,Lp2…光路、1000…プロジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発散光を射出する光源と、前記発散光が入射するレンズと、前記レンズの光入射面に設けられた反射防止膜と、を備えた光源装置であって、
前記光入射面に垂直に入射する光に対する前記光入射面の反射率が、前記レンズの光軸からの距離に応じて異なることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記反射防止膜の厚さが前記レンズの光軸位置において最大である、請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記発散光のうち前記光入射面に第1の入射角で入射する光の前記反射防止膜内での光路長が、前記発散光のうち前記光入射面に前記第1の入射角とは異なる第2の入射角で入射する光の前記反射防止膜内での光路長と等しい、請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記反射防止膜が、前記光入射面の中心部に形成された第1の反射防止膜と、前記第1の反射防止膜の周囲に形成された第2の反射防止膜とを有する、請求項1に記載の光源装置。
【請求項5】
前記光入射面が凹面である、請求項1に記載の光源装置。
【請求項6】
前記発散光がランバート分布を有する光である、請求項1から5のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の光源装置と、前記光源装置から射出された光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、前記光変調装置からの変調光を投写画像として投写する投写光学系と、を備えるプロジェクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−105143(P2013−105143A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250712(P2011−250712)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】