説明

光CT応用装置

【課題】 この発明は、光CTに含まれる光ファイバ伝送路等の光学系に破断その他の異常が生じたとしても、それに基づいて誤動作をすることがない光CT応用装置を提供すること
【解決手段】 光電流センサ11,21と、光電流センサに接続され光電流センサから出力される電流値に対応する光信号を伝送する第1,第2光ファイバ伝送路13a,13b,23a,23bと、この2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる光信号を電気信号に変換し、その電気信号から被測定導体に流れる電流値を求める光電変換器と、を備える。2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる光信号を変換した電気信号に含まれる直流成分を加算する加算部31a,41aと、加算手部の出力に対して閾値処理する判定部31b,41bと有し、判定部で一定時間以上異常を検出した場合、ロック判定部32,42の出力(H)をAND素子54の反転入力に入力することで、AND素子54の出力をLowにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地中線事故区間検出装置や、系統事故判定装置や、保護リレー装置などの光CTの出力に基づき、所定の判定処理を実行する光CT応用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光CT(current transformer)は、ファラデー効果を利用した電流計測装置であり、電力分野において従来から広く用いられている巻線CTと比較して、電磁誘導ノイズの影響を受けず、広帯域で測定でき、長距離信号伝送が可能であるなどの優れた特長を有している。これにより、たとえば特許文献1に開示されたように、光CTのセンサ部である光電流センサを地中ケーブルの所定位置に取付け、その光電流センサにて検出した地中ケーブルを流れる電流(検出電流)に応じてファラデー効果を受けた光信号を光強度信号に変換し、遠方に設置された受光部まで光ファイバ伝送路により伝送し、受光した光信号を光電変換することにより検出電流に対応した電気信号を出力するように光CTを構成し、その光CTの出力信号を処理することにより系統事故判定処理を行う地中線事故区間判定装置等に応用される。
【0003】
上記の地中線事故区間判定装置の場合、基本波成分(例えば、50Hz)付近の周波数帯を抽出するフィルタ等を用い、光CT出力を当該フィルタに入力させることで、フィルタ出力に基づいて事故の有無を判定することができる。
【0004】
また、本発明者らは、光CT応用装置の新たな適用分野として、変電所に設置された変圧器の保護システムに適用することを考えた。この保護システムは、変圧器の一次側と二次側にそれぞれ光電流センサを取付け、両光電流センサの出力を光ファイバ伝送路により伝送し、光電変換して得られる両光CTの出力を比率差動リレーに入力する。すると、定常状態では一次側と二次側の電流値は所定の範囲内に収まっているため両光CTの出力信号レベルも一定の範囲内となるが、たとえば変圧器内部事故等が発生した場合、両光CTの出力信号レベル(電流に対応)が大きく異なる。そこで、比率差動リレーは、両光CTの出力信号の差が一定値以上か否かを判断し、一定値以上の場合に検出信号(トリップ信号)を出力し、それに基づいて系統に挿入された遮断器を切り、それより下流への電力供給を停止するようにしている。そして、上記の一定値は、出力のX%のように、光CTの出力信号レベルに応じて変動させる比率差動特性によって、電流値が大きくなるほど許容誤差の範囲内は大きくなるようにしている。
【0005】
光電流センサと、信号処理装置とは、光ファイバ伝送路及び光電変換器を介して接続される。光ファイバ伝送路を用いることで、センサを取り付ける箇所(変圧器を設置する変電所)と、異常の有無を判断する信号処理装置を設置する箇所を離すことができる。その離反距離は、たとえば、10km程度にすることも可能となる。
【0006】
その結果、変圧器の一次側遮断器及び母線を省略した系統とした受電変電所(以下、“ユニット受電変電所”とも称する)において、光電流センサはユニット受電変電所の変圧器の一次側並びに二次側に設置するとともに、ユニット受電変電所に設置された変圧器内部事故等の異常を検知するための信号処理装置を送電端側の送電用変電所に設置し、光ファイバ伝送路及び光電変換器を介して接続する。信号処理装置内に実装される比率差動リレーは、両光CTの出力信号レベルの差が一定値以上になった場合に検出信号を出力し、それに基づいて送電用変電所内の系統に設置された遮断器を開放し、ユニット受電変電所に対する電力供給を停止する。これにより、ユニット受電変電所の変圧器保護をその上位変電所から行う変圧器保護継電システムが構築される。
【特許文献1】特開2006−46978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各種の光CT応用装置では、光CTのセンサ部である光電流センサで検出した信号を光ファイバ伝送路を用いて光CTの光電変換部に伝送しているため、電磁誘導等を利用した光を用いない通常の巻線CTの出力を、電線を利用して伝送するものに比べ、伝送距離が長くなることも相俟って光ファイバ伝送路中並びにその伝送路の接続部分等の光学系の部分での断線その他の故障・異常が発生するおそれが高い。そして、例えば、保護対象区間の両側の電流を光CTで検出し、両光CTの出力を比率差動リレーに入力する保護システムでは、一方の光CTの出力信号を伝送する光ファイバ伝送路で断線等が生じた場合、その光ファイバ伝送路の出力は“0”となり、断線等が生じていない他方の光CT側の光ファイバ伝送路の出力は、その時流れている電流に応じた光CTの出力信号のままであるため、双方の出力に差が生じることになり、光CTの出力信号に基づいて各種の信号処理をする装置では、誤判定・誤動作をすることになる。
【0008】
このような誤動作を防止するため、たとえば電子回路系では、回路を二重化したフェールセーフ機構を設け、一つの回路系に破断等の故障が生じた場合でも他の回路系により正常な判定・処理が行えるようにすることが取られる。このフェールセーフの考えを光学系にも適用しようとした場合、光ファイバ伝送路を複数系統設置する必要があり、コスト高になるばかりでなく、設置スペースの関係からフェールセーフのために光ファイバ伝送路を複数本設置することができないことがあり、実用に供し得ないことが多々ある。
【0009】
この発明は、光CTに含まれる光ファイバ伝送路等の光学系に破断その他の異常が生じたとしても、それに基づいて誤動作をすることがない光CT応用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光CT応用装置は、(1)光CTの出力に基づき、所定の処理を実行する光CT応用装置であって、前記光CTは、光電流センサと、その光電流センサに接続されその光電流センサから出力される光信号を伝送する2つの光ファイバ伝送路と、この2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる前記光信号を電気信号に変換し、その電気信号から被測定導体に流れる電流値を求める光電変換器と、を備え、前記光電流センサは、一方の光ファイバ伝送路から送られてくる光信号を、ファラデー効果を利用して被測定導体に流れる電流の大きさに対応する位相が反転した2つの光強度信号に変換し、その変換した光強度信号を前記2つの光ファイバ伝送路にそれぞれ前記光信号として出力するものであり、前記2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる光信号を変換した前記電気信号或いはその電気信号に含まれる直流成分を加算する加算手段と、その加算手段の出力から前記光ファイバ伝送路の異常の有無を判断する判定手段と、を備えた。
【0011】
光電流センサからの出力信号(光信号)が、位相が反転した状態で2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくるので、電気信号に変換後の信号或いはその信号から直流成分を抽出した信号を加算手段で加算すると、正常状態では両信号が加算され比較的大きな値をとるが、少なくとも一方の光ファイバ伝送路が断線したり、コネクタの接続不良・外れなどの異常が生じた場合、その異常を生じた光ファイバ伝送路からは出力が0となり、加算した値も小さくなる。よって、加算値を監視することで異常の有無を検出できる。異常が検出された場合、下記(4)に示すように所定の処理を無効にするようにしてもよいし、警報ランプやブザーその他の警報手段により、異常を通知するようにしてもよい。
【0012】
(2)前記判定手段は、前記加算手段の出力を予め設定された閾値と比較し、閾値以下または未満の場合に光ファイバ伝送路に異常ありと判定する機能を備えることができる。この判定する機能は、実施形態の判定部に対応する。
【0013】
(3)前記判定手段は、前記加算手段の出力を予め設定された閾値と比較する比較手段と、その比較手段の出力を監視し、その比較結果が、一定時間以上継続して閾値以下または未満の場合に光ファイバ伝送路に異常ありと判定する機能と、を備えることもできる。この“一定時間以上継続して閾値以下または未満の場合に光ファイバ伝送路に異常ありと判定する機能”は、実施形態では、ロック判定部に対応する。
【0014】
(4)前記判定手段が前記光ファイバ伝送路の異常と判定した場合、前記光CTの出力に基づく所定の処理を無効とするように構成するとよい。この無効とする処理は、実施形態では、AND素子により実現されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、光CTに含まれる光ファイバ伝送路等の光学系に破断その他の異常が生じたとしても、それに基づいて誤動作をすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1,図2は、光CT及び光CT応用装置を含むシステムの一例を示している。この例では、光CT応用装置として、変圧器保護継電装置に適用している。図1を用いて、変圧器保護継電システムについて簡単に説明する。
【0017】
送変電システムの一形態として、上位の送電用変電所1から送電線3を介して電力供給される受電変電所2内に設置される変圧器4の一次側遮断器及び母線を省略したシステムがある。この種の受電変電所2は、ユニット受電変電所とも称される。そして、例えば変圧器4の内部事故が発生した場合、送電用変電所1に設置された遮断器5を開放し、送電用変電所1から受電変電所2に対する電力供給を停止することで、変圧器4を保護するようになっている。本実施形態の変圧器保護継電システムは、係る構成の送配電システムに実装され、変圧器4の内部事故等を検出し、遮断器5に対してトリップ指令を与えるもので、具体的な構成は、以下の通りである。
【0018】
まず、受電変電所2内に設置される設備として、変圧器4の一次各相電流を検出する一次側光電流センサ群6aと、変圧器4の二次各相電流を検出する二次側光電流センサ群6bと、を備える。各光電流センサ群6a,6bは、それぞれ3相の各電線にそれぞれ光電流センサを装着することで構成される。
【0019】
各光電流センサ群6a,6bの出力は、光ファイバ伝送路を経由して上位の送電用変電所1に伝送される。すなわち、一次側光電流センサ群6aは、一次側光ファイバ伝送路7aの一端に接続され、その一次側光ファイバ伝送路7aの他端は、送電側変電所1内に設置された一次側光電変換器8aに接続される。同様に、二次側光電流センサ群6bは、二次側光ファイバ伝送路7bの一端に接続され、その二次側光ファイバ伝送路7bの他端は、送電側変電所1内に設置された二次側光電変換器8bに接続される。光CT(1相)につき2本の光ファイバ伝送路が必要であるため、それらを1組とすると光ファイバ伝送路7a、7bは3組の光ファイバ伝送路で構成される。また、3相分の信号を適宜の異なる波長で伝送する波長分割多重伝送方式を採ることで光ファイバ伝送路7a、7bを1組の光ファイバ伝送路で構成することもできる。
【0020】
両光電変換器8a,8bにて、対応する光電流センサ群の出力信号(検出した電流値に対応する光信号)を電圧信号に変換し、変圧器保護用比率差動継電装置9に与える。変圧器保護用比率差動継電装置9は、一次側光電変換器8aと二次側光電変換器8bと、から与えられる2つの出力(電圧信号)の差が、一定値以上になった場合に検出信号(トリップ指令)を出力し、それに基づいて送電用変電所1内の遮断器5を開放し、ユニット受電変電所に対する電力供給を停止する。
【0021】
光ファイバ伝送路は、伝送距離が長く(たとえば、10km)、光電流センサの出力信号を、遮断器5が設置される上位の送電用変電所1に伝送することができる。係る構成にすると、電子回路系の信号処理装置部分は、送電用変電所1内に設置されるので、メンテナンスが容易に行なえる。遠隔に位置する送電用変電所1の遮断器5を転送遮断するため、受電変電所2に設置する遮断器を直接遮断するより事故除去が遅延するが、光電流センサの出力信号(検出信号)を、光ファイバ伝送路を用いて光伝送するため、その伝達が高速に行なえ、転送遮断であっても事故発生から早期に遮断することができる。
【0022】
ところで、一次側,二次側光ファイバ伝送路7a,7bが断線やコネクタの外れなどの光学系に異常が生じた場合、断線等した光ファイバ伝送路では光信号を伝送できず、変圧器保護用比率差動継電装置9が変圧器4に異常有りと誤判定し、誤ってトリップ指令を出力するおそれがある。そこで、本実施形態では、図2に示すように、送電用変電所1内に設置された信号処理装置を構成する電子回路系側を工夫することで、光ファイバ伝送路を二重化することなく、光学系の異常に伴う誤動作を防止できるようにした。なお、図2は、図示の便宜上、1相分のみを示しており、実際のシステム構成は、3相分を並列に設けている。
【0023】
具体的には、図2に示すように、監視対象の変圧器4の一次側の電力線が貫通するように光電流センサ11を設置する。一次側の電力線は、3相であるので、実際には各相の電力線に対して光電流センサ11を設置することになり、3つの光電流センサ11により、一次側光電流センサ群6aが構成される。
【0024】
この光電流センサ11に、2本の光ファイバ伝送路(第1光ファイバ伝送路13a,第2光ファイバ伝送路13b)を接続する。第1光ファイバ伝送路13aには、光サーキュレータからなる3ポートの分光素子14に接続され、その分光素子14の他のポートには、光源51と、光電変換器たる第1受光部16aと、が接続される。なお、分光素子14は、実際には、分光部52を介して光源51に接続される。これは、光源51から出射される光を、一次側と二次側で共用するためである。
【0025】
また、第2光ファイバ伝送路13bには、光電変換器たる第2受光部16bが接続される。そして、両受光部16a,16bの出力には、平均化処理部17が接続され、両受光部16a,16bの出力を平均化した値(電圧値)を一次側光電変換器8aの出力としている。これら第1,第2受光部16a,16bと平均化処理部17にて、一次側光電変換器8aが構成される。また、第1光ファイバ伝送路13aと第2光ファイバ伝送路13bが、一次側光ファイバ伝送路7aを構成する。つまり、本実施形態では、1つの光電流センサに対し、2本の光ファイバ伝送路を接続し、後述するように、その2本の光ファイバ伝送路から出力される各信号に基づいて電流値を求めるようになっている。
【0026】
同様に、監視対象の変圧器4の二次側の電力線が貫通するように光電流センサ21を設置する。実際には三相の各電力線に対して光電流センサ21を設置することになり、3つの光電流センサ21により、二次側光電流センサ群6bが構成される。
【0027】
この光電流センサ21に、2本の光ファイバ伝送路(第1光ファイバ伝送路23a,第2光ファイバ伝送路23b)を接続する。第1光ファイバ伝送路23aには、光サーキュレータからなる3ポートの分光素子24が接続される。その分光素子24の他のポートには、光源51と、光電変換器たる第1受光部26aと、が接続される。なお、この分光素子24は、実際には、分光部52を介して光源51に接続される。
【0028】
また、第2光ファイバ伝送路23bには、光電変換器たる第2受光部26bが接続される。そして、両受光部26a,26bの出力には、平均化処理部27が接続され、両受光部26a,26bの出力を平均化した値(電圧値)を二次側光電変換器8bの出力としている。これら第1,第2受光部26a,26bと平均化処理部27にて、二次側光電変換器8bが構成される。また、第1光ファイバ伝送路23aと第2光ファイバ伝送路23bが、二次側光ファイバ伝送路7bを構成する。
【0029】
光源51には、希土類元素添加物ファイバを半導体レーザ等の励起用光源で励起することにより生じた自然放出光がファイバ内を導波するに従い増幅する現象を利用した光源(ASE)を使用する。また、第1,第2光ファイバ伝送路13a,13b,23a,23b,は、単一モード光ファイバを使用する。ASEは、出力光量が大きい(数十mW)、時間的コヒーレンスが低い、空間的コヒーレンスが高いなどの特徴を有しており、光CT(電流センサ)の光源として適している。また、出力光の偏光度は小さいため、単一モードファイバからなる光ファイバ伝送路を用いた光CTにおける光源として優れている。特許文献1に開示されたように、光ファイバ伝送路中(分光素子14(24)と第1光ファイバ伝送路13a(23a)との間)に、偏光解消素子を介在させる構成を採るとよく、このようにすると偏光度が小さいことから偏光解消素子による無偏光化が容易となる。
【0030】
また、分光素子14,24は、偏波無依存型サーキュレータから構成される。この分光素子14(24)は、光源51から出射された光を第1光ファイバ伝送路13a(23a)に供給し、第1光ファイバ伝送路13a(23a)から入力される光を第1受光部16a(26a)に供給する。このとき、偏波無依存型サーキュレータを分光素子14(24)として使用することにより、光の偏波状態と強度を変化させることなく各ポートから入力された光を所定のポートに出力することができる。
【0031】
よって、この光CTによれば、光源51から出射した光を光サーキュレータからなる分光素子14(24)に与えると、その光は第1光ファイバ伝送路13a(23a)へ供給される。そして、第1光ファイバ伝送路13a(23a)内を伝播されてきた光は、それぞれ光電流センサ11(21)に入射される。
【0032】
光電流センサ11(21)は、ファラデー効果を利用することで、入射した光を検出対象の電力線に流れる電流により発生する磁界の大きさに依存した光の偏波方位の回転角度を2つの光強度に変換して出射する。一方の光信号は、上記の第1光ファイバ伝送路13a(23a)に入射され、その第1光ファイバ伝送路13a(23a)内を伝播され、分光素子14(24)を介して第1受光部16a(26a)に入射される。他方の光信号は、第2光ファイバ伝送路13b(23b)に入射され、その第2光ファイバ伝送路13b(23b)内を伝播され、第2受光部16b(26b)に入射される。これにより、光電流センサ11(21)から出射された2つの出力光(検出電流値に応じた光)は、2つの受光部16a,16b(26a,26b)にて光の強度に応じた電圧に変換され、それらの平均値を最終的な出力電圧とすることで、高精度な測定を行えるようにしている。
【0033】
なお、光電流センサ11,21の具体的な構造は、たとえば特許文献1の実施形態や従来例として示された構成を適用することができるし、それ以外の構成を採ることももちろんできる。同様に、光CTも、図1,図2に示す構成や、特許文献1に開示されたものの他、各種の構成を採ることができるのはもちろんである。
【0034】
信号処理装置を構成する変圧器保護比率差動継電装置9は、一次側と二次側の両平均化処理部17,27の出力を受け、その差が所定の値(入力された値に応じて変動)よりも大きい場合に出力がONとなる比率差動リレー53と、一次側の断線等の光学系の異常を検出する異常検出部31並びにロック判定部(ロック判定タイマ)32と、二次側の断線等の光学系の異常を検出する異常検出部41並びにロック判定部(ロック判定タイマ)42と、比率差動リレー53と、両ロック判定部32,42の出力に基づき論理演算をするAND素子54と、を、備えている。比率差動リレー53は、T87とも記述されるリレーであり、従来からこの種のシステムに一般的に用いられるものである。
【0035】
異常検出部31,41は、第1受光部16a,26aと、第2受光部16b,26bの出力をそれぞれ加算する加算部31a,41aと、その加算部31a,41aの出力を閾値処理し、異常の有無を判定する判定部31b,41bと、を備えて構成される。
【0036】
すなわち、第1光ファイバ伝送路13a(23a),第2光ファイバ伝送路13b(23b)をそれぞれ伝送されてくる光電流センサ11(21)からの2つの戻り信号は、図3に示すように、位相が反転している。そのため、光学系が正常な場合には、両光ファイバ伝送路の出力を加算すると、図3(c)のx区間のようになり、1本の光ファイバ伝送路が断線等の異常を生じて出力が0になると、他方の光ファイバ伝送路からの信号となり、その加算はy区間のようになり、2本とも断線等の異常を生じて出力が0になると、z区間のようになる。従って、判定部31b,41bは、図3(c)のように正常時の加算部の出力よりも小さく、1本断線した際の加算部の出力よりも高い所定の値(図では中間値)を閾値に設定し、加算部31a,41aの出力に対して閾値処理をする。よって、判定部31b,41bの出力は、正常時は“1(ON)”で異常時は“0(OFF)”(論理値は逆でも可)となり、異常を検出することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、光ファイバ伝送路で伝送される光電流センサの出力信号は、直流成分に交流成分が重畳した波形となるが、各受光部16aと16bでは交流成分の位相が反転しているため両受光部の出力信号を加算部31a,41aにて加算することにより交流成分を打ち消し、直流成分のみを抽出している。
【0038】
ロック判定部32,42は、異常検出部31,41の出力を監視し、一定時間(たとえば、10ms)異常検出信号が継続して出力されている場合に、光ファイバ伝送路の異常が発生していると判断してロック(出力をHigh)する。これにより、AND素子54の一つの入力端子がLow(反転入力のため)となり、比率差動リレー(T87リレー)53の出力の如何に関わらずAND素子54の出力はLowのままとする。これより、ノイズその他の要因で瞬間的に加算部の出力が閾値未満となる場合に光学系の異常発生と誤検出をし、不必要なトリップロックが行なわれるのを抑制する。つまり、一次側,二次側の光学系の少なくとも一方で、断線等の異常が発生した場合には、AND素子54に対する少なくとも一つの入力がLowとなるので、その出力はLowとなる。よって、光学系の異常に基づいて比率差動リレー53からON(High)が出力されたとしても、AND素子54の出力はLowのままとなり、トリップ信号は出力されない。
【0039】
また、このロック判定部32,42が監視する一定時間であるが、実際に光学系で異常が発生してから、比率差動リレーが動作する(トリップ信号発生:ON)前にロック判定部がロックする必要があるので、係る条件を満たす適当な時間が設定される。すなわち、比率差動リレー(T87)は、最小動作時間について、動作時間の使用は60ms以下とされており、設計値として、たとえば、45ms±10msとされているとすると、実際の製品における最小動作時間は、35ms〜55msの範囲内となる。一方、断線等の異常が発生してから、異常検出部で異常を検知するまでの時間は、電子回路(フォトダイオードモジュールやオペアンプ等)による遅れ時間があるので、1ms程度となる。なお、後述するように、大電流が流れている場合には、最大11ms程度の遅れが生じるおそれがある。そこで、係る遅れを加味し、
ロック判定時間<最小動作時間(35ms)−断線等の検出時間(11ms)
<24ms
なる条件式を満たす必要がある。そして、本実施形態では、一定時間は、余裕を見て10msとした。
【0040】
なお、本発明は、実施形態のように直流成分のみを抽出し加算した値に基づいて判定するものに限ることはなく、直流成分に交流成分が重畳した出力信号を加算した値に基づいて判定するように構成することもできる。すなわち、たとえば第1光ファイバ伝送路の出力信号は、図4(a)のようにDC2.5Vに交流成分が重畳した波形となり、正常状態が継続したものとする。そして、第2光ファイバ伝送路の出力信号は、図4(b)のようにt=2まではDC2.5Vに交流成分が重畳した波形の正常状態であるが、t=2のときに断線が発生し出力が0になったものとする。すると、図4(a),(b)から明らかなように共に正常状態の時は位相が反転しているので、両者を加算した波形は、図4(c)に示すように5V一定となり、断線発生後は、第1光ファイバ伝送路の出力信号のみとなるので2.5Vを中心に振動する波形となる。そこで、判定部31b,41bの閾値を、正常時の出力信号のレベル(この場合、5V)の50%超えから100%未満の間の設定範囲内の適宜の値(ここでは、75%)に設定すると、片方の出力信号(AC+DC)では閾値を越えることができないので、異常を検出することができる。
【0041】
一方、光電流センサ11(21)の出力信号は、検出する電流値が大きいほど振幅も大きくなる。したがって、図5に示すように、大電流が流れるとそれに伴い両光ファイバ伝送路を伝送される出力信号の振幅も大きくなる。すると、図示するように、通常の振幅の2倍或いはそれ以上の大きい振幅となると、図5(b)に示すように、t=3の時に第2光ファイバ伝送路側で断線が発生したとしても、図5(c)に示すように、第1光ファイバ伝送路のみの出力信号でも閾値を超えた状態がある。その場合でも、一定の遅れのあと閾値未満となるので異常を検出することができる。そして、閾値を正常時の出力信号の通常のレベルの50%付近に設定した場合には、事故が発生したタイミングにより最大で半周期の検出遅れが生じる。そのため、50Hzでは10ms,60Hzでは8.3msの遅れが生じる。ただし、上述したように比率差動リレーの最小動作時間が35msとすると、上記の遅れは問題なく適切に動作できる範囲内であり、ロック判定部を設けても問題はない。
【0042】
図6は、別の実施形態を示している。本システムの場合、トリップ信号が発せられると、遮断器5が開放され、それより下流側への電力供給が遮断される。従って、誤動作でトリップ信号が発せられることを可及的に抑制する必要がある。上述した実施形態では、光学系に対する誤動作防止機能は実現されるが、電子回路系では誤動作防止機能は施されていない。そこで、電子回路系は、回路を二重化しフェールセーフを図るようにする。この場合、図6に示すように、第1光ファイバ伝送路13a,23aを伝送する出力信号は、分光素子14,24の後段(第1受光部16a,26aの入力側)から分岐し、第2光ファイバ伝送路13b,23bを伝送する出力信号は、第2受光部16b,26bの入力側から分岐し、フェールセーフ用の補助回路へ与える。この補助回路は、図示は省略するが、図6に示す主回路(第1,第2受光部以降)と同じ構成を採ることができる。そして、この補助回路には、異常検出部やロック判定部並びにAND素子も組み込まれる。係る構成を採ると、光学系と電子回路系のいずれにおける故障発生をしても、誤ってトリップ信号が発せられるのを可及的に抑制できる。
【0043】
さらに具体的な図示は省略するが、光CT応用装置として実用化されている地中線事故区間検出装置や、系統事故判定装置などにおいても、上述の実施形態の第1光ファイバ伝送路と第2光ファイバ伝送路のように、光電流センサに接続した2つの光ファイバ伝送路にセンサ部の検出信号が伝送される構成の光CTを用いたものであれば、本発明を適用することができる。つまり、当該2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる出力信号の直流成分を抽出して加算したり、直流成分と交流成分の合成信号を加算し、その加算した値に基づいて光学系の異常の有無を判断する機能を組み込むことができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、変圧器の一次側と二次側にそれぞれ光電流センサ群を取り付ける構成を採った結果、光学系並びに電子回路系は、大きくいうと一次側と二次側の二系統設けたが、本発明は、この系統の数は問わず、実装するシステムに応じて3系統以上になったり、1系統になったりするのはいずれも含む。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】光CT応用装置を含むシステムの一例を示す図である。
【図2】光CT応用装置の好適な一実施形態を示す図である。
【図3】動作原理を説明する図である。
【図4】動作原理を説明する図である。
【図5】動作原理を説明する図である。
【図6】光CT応用装置の好適な別の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
11,21 光電流センサ
13a,23a 第1光ファイバ伝送路
13b,23b 第2光ファイバ伝送路
31,41 異常検出部
31a,41a 加算部
31b,41b 判定部
32,42 ロック判定部
53 比率差動リレー
54 AND素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光CTの出力に基づき、所定の処理を実行する光CT応用装置であって、
前記光CTは、光電流センサと、その光電流センサに接続されその光電流センサから出力される光信号を伝送する2つの光ファイバ伝送路と、この2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる前記光信号を電気信号に変換し、その電気信号から被測定導体に流れる電流値を求める光電変換器と、を備え、
前記光電流センサは、一方の光ファイバ伝送路から送られてくる光信号を、ファラデー効果を利用して被測定導体に流れる電流の大きさに対応する位相が反転した2つの光強度信号に変換し、その変換した光強度信号を前記2つの光ファイバ伝送路にそれぞれ前記光信号として出力するものであり、
前記2つの光ファイバ伝送路を伝送されてくる光信号を変換した前記電気信号或いはその電気信号に含まれる直流成分を加算する加算手段と、その加算手段の出力から前記光ファイバ伝送路の異常の有無を判断する判定手段と、
を備えた光CT応用装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記加算手段の出力を予め設定された閾値と比較し、閾値以下または未満の場合に光ファイバ伝送路に異常ありと判定する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光CT応用装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記加算手段の出力を予め設定された閾値と比較する比較手段と、その比較手段の出力を監視し、その比較結果が、一定時間以上継続して閾値以下または未満の場合に光ファイバ伝送路に異常ありと判定する機能と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光CT応用装置。
【請求項4】
前記判定手段が前記光ファイバ伝送路の異常と判定した場合、前記光CTの出力に基づく所定の処理を無効とするように構成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光CT応用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−244176(P2009−244176A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92626(P2008−92626)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】