説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】NOx浄化率が低下する原因の一つである分散板の異常を特定することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジン1には、選択還元型NOx触媒41と、還元剤を排気通路26内に供給する還元剤供給機構200と、排気通路26内に設けられて選択還元型NOx触媒41よりも上流で還元剤を分散させる分散板60と、分散板60よりも上流の排気圧を検出する圧力センサ150とが備えられている。そして、制御装置80は、選択還元型NOx触媒41でのNOx浄化率が所定値以下であって、かつ圧力センサ150で検出される排気圧が予め定められた上限圧力値と下限圧力値との間の値でないときには、分散板60に異常ありと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化するNOx浄化触媒の一つである選択還元型NOx触媒と、この選択還元型NOx触媒でのNOx浄化に利用する還元剤を排気通路内に供給する還元剤供給機構と、排気通路内に設けられて還元剤を分散させる分散板とを備える内燃機関の排気浄化装置が知られている。
【0003】
この排気浄化装置では、還元剤供給機構から排気通路に向けて尿素水が噴射される。噴射された尿素水は、分散板によって霧化が促進され、排気熱による加水分解によってアンモニアとなる。そしてこのアンモニアが還元剤として選択還元型NOx触媒に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−516635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、分散板に変形などの異常が生じると、尿素水の霧化状態が変化するようになる。そのため、選択還元型NOx触媒に供給されるアンモニアの量が変化し、その結果、浄化されるNOxの量、つまりNOx浄化率が低下するようになる。
【0006】
ここで、NOx浄化率の低下は、分散板の異常のみならず、NOx浄化触媒の劣化や、還元剤供給機構の異常(例えば還元剤を噴射する噴射弁の異常など)によっても生じる。そのため、NOx浄化率が低下したときには、分散板に異常があるにもかかわらず、NOx浄化触媒や還元剤供給機構などの誤った部品を交換してしまうおそれがあり、NOx浄化率の低下原因を特定することが望ましい。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、NOx浄化率が低下する原因の一つである分散板の異常を特定することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。なお、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「上流」及び「下流」は、排気系での排気の流れ方向を基準にするものである。
【0009】
請求項1に記載の発明は、還元剤の供給によりNOxを浄化するNOx浄化触媒と、還元剤を排気通路内に供給する還元剤供給機構と、排気通路内に設けられて前記NOx浄化触媒よりも上流で還元剤を分散させる分散板とを備える内燃機関の排気浄化装置において、前記分散板よりも上流の排気圧を検出する圧力センサを備え、前記NOx浄化触媒でのNOx浄化率が所定値以下であって、かつ前記排気圧が予め定められた上限圧力値と下限圧力値との間の値でないときには、前記分散板に異常ありと判定する異常判定を行うことをその要旨とする。
【0010】
分散板に異常が生じると、当該分散板の圧力損失が変化する。そのため、分散板よりも上流の排気圧は、正常時とは異なった異常な値となる。ここで、同排気圧の異常値は、排気系を構成する他の部材での圧力損失が変化した場合にも生じる。しかし、分散板の異常とNOx浄化率の低下とは高い関連性があるため、NOx浄化率の低下と上記排気圧の異常値とがともに生じているときには、分散板に異常が生じている可能性が非常に高い。
【0011】
そこで、同構成では、NOx浄化率が所定値以下に低く、かつ上記排気圧が予め定められた上限圧力値と下限圧力値との間の値ではない異常値のときには、分散板に異常ありと判定するようにしている。従って、分散板の異常を特定することができるようになる。
【0012】
なお、上記上限圧力値としては、分散板の変形や分散板への異物付着等による圧力損失の増大に伴って排気圧が高くなったときの圧力値を設定することができる。また、上記下限圧力値としては、分散板の変形や分散板の破損等による圧力損失の低下に伴って排気圧が低くなったときの圧力値を設定することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記圧力センサの上流には、排気中の微粒子を捕集するとともに再生処理が行われるフィルタが設けられており、前記再生処理が終了した直後の前記排気圧に基づいて前記異常判定を行うことをその要旨とする。
【0014】
排気中の微粒子を捕集するフィルタが上記圧力センサの上流に設けられている場合、フィルタでの微粒子堆積量が圧力センサで検出される排気圧に影響を与える。従って、排気圧に基づく分散板の異常判定を行うに際して、微粒子堆積量の影響による排気圧の変化を、分散板の異常による排気圧の変化であると誤って判定するおそれがある。この点、同構成では、フィルタの再生処理が終了した直後、つまり微粒子堆積量が非常に少なくなっているときの排気圧に基づいて分散板の異常判定を行うようにしている。そのため、分散板の異常判定を行うに際して、微粒子堆積量の影響を極力抑えることができ、これにより分散板の異常判定の精度を高めることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタの上流及び下流の排気圧の圧力差を検出する差圧センサを有しており、前記再生処理が終了した直後の前記圧力差が予め定められた上限差圧値と下限差圧値との間の値でないときには、前記異常判定を禁止することをその要旨とする。
【0016】
上記フィルタでの微粒子堆積量が過剰に多いときや、内燃機関からの微粒子排出量が過剰に多いとき、あるいは上記再生処理が十分に行われていないときには、フィルタの圧力損失が過剰に高くなるため、上記圧力差が大きくなる。一方、溶損等の発生によりフィルタの圧力損失が過剰に低くなると、上記圧力差は小さくなる。
【0017】
こうしたフィルタの圧力損失の変化は、同フィルタの下流にある上記圧力センサの検出値に影響を与える。そのため、フィルタの圧力損失の異常による排気圧の過度な上昇、あるいは過度な低下を分散板の異常と誤判定してしまうおそれがある。この点、同構成では、再生処理が終了した直後の上記圧力差が予め定められた上限差圧値と下限差圧値との間の値ではない、つまりフィルタの圧力損失が過剰に変化しており異常があるときには、排気圧に基づく分散板の異常判定を禁止するようにしている。そのため、分散板の異常判定を行うに際して、フィルタの圧力損失の異常による悪影響を極力抑えることができ、これにより分散板の異常判定の精度を高めることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は、前記フィルタのアッシュ堆積量に応じて可変設定されることをその要旨とする。
【0019】
フィルタには、潤滑油に由来する成分であって上述した再生処理による燃焼が困難なアッシュが堆積していく。なお、このアッシュとしては、例えば潤滑油の添加剤等に含まれる成分(Zn、Ca、Mg、Na等の金属成分など)が挙げられる。そして、再生処理が終了した直後の上記圧力差は、アッシュの堆積量によっても変化する。そこで、同構成では、上記圧力差が所定の範囲外の値であるかどうかを判定するための上記上限差圧値と上記下限差圧値とを、フィルタのアッシュ堆積量に応じて可変設定するようにしている。従って、分散板の異常判定を行うか否かの判定精度を高めることができるようになる。
【0020】
なお、アッシュ堆積量が多くなるほど上記圧力差は大きくなるため、同構成においては、アッシュ堆積量が多くなるほど上限差圧値及び下限差圧値を大きくすることが望ましい。
【0021】
アッシュ堆積量は、車両の総走行距離が長くなるほど多くなる。そこで、フィルタのアッシュ堆積量に応じて上記上限差圧値及び下限差圧値を可変設定するに際しては、請求項5に記載の発明によるように、前記内燃機関が搭載された車両の総走行距離が長いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される、といった構成を採用することができる。
【0022】
また、アッシュは、再生処理での微粒子の燃え残りでもあるため、再生処理の実行回数が多いほどアッシュ堆積量は多くなる。そこで、フィルタのアッシュ堆積量に応じて上記上限差圧値及び下限差圧値を可変設定するに際しては、請求項6に記載の発明によるように、前記再生処理の実行回数が多いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される、といった構成を採用することもできる。
【0023】
また、上述したように、アッシュは、再生処理での微粒子の燃え残りでもあるため、フィルタに捕集された微粒子の積算量が多いほどアッシュ堆積量は多くなる。そこで、フィルタのアッシュ堆積量に応じて上記上限差圧値及び下限差圧値を可変設定するに際しては、請求項7に記載の発明によるように、前記フィルタに捕集された微粒子の積算量が多いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される、といった構成を採用することもできる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項3〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記再生処理が終了した直後の前記圧力差が前記上限差圧値と前記下限差圧値との間の値ではなく、かつ前記NOx浄化率が前記所定値以下のときには、前記フィルタに異常ありと判定することをその要旨とする。
【0025】
再生処理が終了した直後の上記圧力差が上記上限差圧値よりも大きいときには、フィルタを通過する排気の量が少なくなっているため、NOx浄化触媒に流入する排気の流量が減少し、これにより同NOx浄化触媒に供給される単位時間当たりの還元剤の量が不足してNOx浄化率が低下するおそれがある。また、再生処理が終了した直後の上記圧力差が上記下限差圧値よりも小さいときには、フィルタを通過する排気の量が多くなっているため、NOx浄化触媒に流入する排気の流量が増大し、これにより同NOx浄化触媒に貯留される還元剤の量が不足してNOx浄化率が低下するおそれがある。つまり、NOx浄化率が所定値以下に低い場合であって、上記圧力差が上限差圧値と下限差圧値との間の値ではないときには、フィルタに異常が生じていると判定することができる。そこで、同構成では、再生処理が終了した直後の前記圧力差が前記上限差圧値と前記下限差圧値との間の値ではなく、かつ前記NOx浄化率が前記所定値以下のときには、前記フィルタに異常ありと判定する、という構成を備えるようにしている。従って、分散板の異常のみならず、フィルタの異常をも判定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置の第1実施形態について、これが適用される内燃機関及びその周辺構成を示す概略図。
【図2】同実施形態にて実行される異常判定処理の手順を示すフローチャート。
【図3】第2実施形態で実行される異常判定処理の手順を示すフローチャート。
【図4】第3実施形態で実行される異常判定処理の手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態において上限差圧値及び下限差圧値と走行距離との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、この発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0028】
図1に、本実施形態にかかる排気浄化装置が適用されたディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」という)、並びにそれらの周辺構成を示す概略構成図を示す。
エンジン1には複数の気筒#1〜#4が設けられている。シリンダヘッド2には複数の燃料噴射弁4a〜4dが取り付けられている。これら燃料噴射弁4a〜4dは各気筒#1〜#4の燃焼室に燃料を噴射する。また、シリンダヘッド2には新気を気筒内に導入するための吸気ポートと、燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a〜6dとが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。
【0029】
燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9に接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は燃料タンク内の燃料を吸入するとともにコモンレール9に高圧燃料を供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから気筒内に噴射される。
【0030】
吸気ポートにはインテークマニホールド7が接続されている。インテークマニホールド7は吸気通路3に接続されている。この吸気通路3内には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁16が設けられている。
【0031】
排気ポート6a〜6dにはエキゾーストマニホールド8が接続されている。エキゾーストマニホールド8は排気通路26に接続されている。
排気通路26の途中には、排気圧を利用して気筒に導入される吸入空気を過給するターボチャージャ11が設けられている。同ターボチャージャ11の吸気側コンプレッサと吸気絞り弁16との間の吸気通路3にはインタークーラ18が設けられている。このインタークーラ18によって、ターボチャージャ11の過給により温度上昇した吸入空気の冷却が図られる。
【0032】
また、排気通路26の途中にあって、ターボチャージャ11の排気側タービンの下流には、排気を浄化する第1浄化部材30が設けられている。この第1浄化部材30の内部には、排気の流れ方向に対して直列に酸化触媒31及びフィルタ32が配設されている。
【0033】
酸化触媒31には、排気中のHCを酸化処理する触媒が担持されている。また、フィルタ32は、排気中のPM(粒子状物質)を捕集する部材であって、多孔質のセラミックで構成されている。このフィルタ32には、PMの酸化を促進させるための触媒が担持されており、排気中のPMは、フィルタ32の多孔質の壁を通過する際に捕集される。
【0034】
また、エキゾーストマニホールド8の集合部近傍には、酸化触媒31やフィルタ32に添加剤として燃料を供給するための燃料添加弁5が設けられている。この燃料添加弁5は、燃料供給管27を介して前記サプライポンプ10に接続されている。なお、燃料添加弁5の配設位置は、排気系にあって第1浄化部材30の上流側であれば適宜変更するも可能である。
【0035】
フィルタ32に捕集されたPMの量(以下、PM堆積量PMsmという)が所定値を超えると、フィルタ32の再生処理が開始されて燃料添加弁5からはエキゾーストマニホールド8内に向けて燃料が噴射される。この燃料添加弁5から噴射された燃料は、酸化触媒31に達すると燃焼され、これにより排気温度の上昇が図られる。そして、酸化触媒31にて昇温された排気がフィルタ32に流入することにより、同フィルタ32は昇温され、これによりフィルタ32に堆積したPMが酸化処理されてフィルタ32の再生が図られる。そして、PM堆積量PMsmが所定の再生終了値PMe以下にまで減少すると、燃料添加弁5からの燃料噴射が終了されて、再生処理は終了される。
【0036】
また、排気通路26の途中にあって、第1浄化部材30の下流には、排気を浄化する第2浄化部材40が設けられている。第2浄化部材40の内部には、還元剤を利用して排気中のNOxを浄化するNOX浄化触媒として、選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)41が配設されている。
【0037】
さらに、排気通路26の途中にあって、第2浄化部材40の下流には、排気を浄化する第3浄化部材50が設けられている。第3浄化部材50の内部には、排気中のアンモニアを浄化するアンモニア酸化触媒51が配設されている。
【0038】
エンジン1には、上記SCR触媒41に還元剤を供給する還元剤供給機構としての尿素水供給機構200が設けられている。尿素水供給機構200は、尿素水を貯留するタンク210、排気通路26内に尿素水を噴射供給する尿素添加弁230、尿素添加弁230とタンク210とを接続する供給通路240、供給通路240の途中に設けられたポンプ220にて構成されている。
【0039】
尿素添加弁230は、第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26に設けられており、その噴射孔はSCR触媒41に向けられている。この尿素添加弁230が開弁されると、供給通路240を介して排気通路26内に尿素水が噴射供給される。
【0040】
ポンプ220は電動式のポンプであり、正回転時には、タンク210から尿素添加弁230に向けて尿素水を送液する。一方、逆回転時には、尿素添加弁230からタンク210に向けて尿素水を送液する。つまり、ポンプ220の逆回転時には、尿素添加弁230及び供給通路240から尿素水が回収されてタンク210に戻される。
【0041】
また、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路26内には、尿素添加弁230から噴射された尿素水をSCR触媒41の上流で分散させることにより同尿素水の霧化を促進する分散板60が設けられている。
【0042】
尿素添加弁230から噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアとなる。そしてこのアンモニアがNOxの還元剤としてSCR触媒41に供給される。SCR触媒41に供給されたアンモニアは、同SCR触媒41に吸蔵されてNOxの還元に利用される。なお、加水分解されたアンモニアの一部は、SCR触媒41に吸蔵される前に直接NOxの還元に利用される。
【0043】
この他、エンジン1には排気再循環装置(以下、EGR装置という)が備えられている。このEGR装置は、排気の一部を吸入空気に導入することで気筒内の燃焼温度を低下させ、NOxの発生量を低減させる装置である。この排気再循環装置は、吸気通路3とエキゾーストマニホールド8とを連通するEGR通路13、同EGR通路13に設けられたEGR弁15、及びEGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15の開度が調整されることにより排気通路26から吸気通路3に導入される排気再循環量、すなわちEGR量が調量される。また、EGRクーラ14によってEGR通路13内を流れる排気の温度が低下される。
【0044】
エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが取り付けられている。例えば、エアフロメータ19は吸気通路3内の吸入空気量GAを検出する。絞り弁開度センサ20は吸気絞り弁16の開度を検出する。機関回転速度センサ21はクランクシャフトの回転速度、すなわち機関回転速度NEを検出する。アクセルセンサ22はアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル操作量ACCPを検出する。外気温センサ23は、外気温THoutを検出する。車速センサ24はエンジン1が搭載された車両の車速SPDを検出する。イグニッションスイッチ25は、車両の運転者によるエンジン1の始動操作及び停止操作を検出する。
【0045】
また、酸化触媒31の上流に設けられた第1排気温度センサ100は、酸化触媒31に流入する前の排気温度である第1排気温度TH1を検出する。差圧センサ110は、フィルタ32の上流及び下流の排気圧の圧力差である差圧ΔPを検出する。第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26にあって、尿素添加弁230の上流には、第2排気温度センサ120、第1NOxセンサ130、及び圧力センサ150が設けられている。第2排気温度センサ120は、SCR触媒41に流入する前の排気温度である第2排気温度TH2を検出する。第1NOxセンサ130は、SCR触媒41に流入する前の排気中のNOx濃度である第1NOx濃度N1を検出する。圧力センサ150は、分散板60よりも上流の排気圧である背圧Pを検出する。第3浄化部材50の下流の排気通路26には、SCR触媒41で浄化された排気のNOx濃度である第2NOx濃度N2を検出する第2NOxセンサ140が設けられている。
【0046】
これら各種センサ等の出力は制御装置80に入力される。この制御装置80は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0047】
そして、この制御装置80により、例えば燃料噴射弁4a〜4dや燃料添加弁5の燃料噴射量制御・燃料噴射時期制御、サプライポンプ10の吐出圧力制御、吸気絞り弁16を開閉するアクチュエータ17の駆動量制御、EGR弁15の開度制御等、エンジン1の各種制御が行われる。また、上記フィルタ32に捕集されたPMを燃焼させる上記再生処理等といった各種の排気浄化制御も同制御装置80によって行われる。
【0048】
また、制御装置80は、排気浄化制御の一つとして、上記尿素添加弁230による尿素水の添加制御を行う。この添加制御では、エンジン1から排出されるNOxを還元処理するために過不足の無い尿素添加量が機関運転状態等に基づいて算出され、その算出された尿素添加量が尿素添加弁230から噴射されるように、同尿素添加弁230の開弁状態が制御される。なお、NOx還元のための上記尿素水添加は、機関運転中は継続して行われ、機関運転が停止されると停止される。
【0049】
ところで、上述したように、分散板60に変形などの異常が生じると、尿素水の霧化状態が変化するようになる。そのため、SCR触媒41に供給されるアンモニアの量が変化し、その結果、浄化されるNOxの量、つまりNOx浄化率が低下するようになる。
【0050】
そこで、制御装置80は、図2に示す異常判定処理を所定周期毎に実行することで、NOx浄化率が低下する原因の一つである分散板60の異常を特定するようにしている。
本処理が開始されるとまず、第1NOx濃度N1及び第2NOx濃度N2からNOx浄化率Rが算出される(S100)。ここでは、次式(1)からNOx浄化率Rが算出される。なお、本実施形態では、第1NOx濃度N1及び第2NOx濃度N2をセンサにて検出するようにしてもよいが、機関運転状態等に基づいて推定してもよい。
【0051】

R=(N1−N2)/N1 …(1)
R:NOx浄化率
N1:第1NOx濃度
N2:第2NOx濃度

次に、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいか否かが判定される(S110)。そして、NOx浄化率Rが浄化率判定値α以上であるときには(S110:NO)、NOxの浄化が正常に行われていると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0052】
一方、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいときには(S110:YES)、分散板60の上流の排気圧である背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値となっているか否かが判定される(S120)。この上限背圧値Pmaxは、予め定められた上限圧力値である。より具体的には、分散板60の変形や分散板60への異物付着等による圧力損失の増大に伴い、背圧Pが異常に高くなったときの圧力値が設定されている。
【0053】
また、下限背圧値Pminも予め定められた下限圧力値である。より具体的には、分散板60の変形や分散板60の破損等による圧力損失の低下に伴い、背圧Pが異常に低くなったときの圧力値が設定されている。
【0054】
そして、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっているとき、つまり「Pmin<P<Pmax」が成立するときには(S120:YES)、分散板60が正常であると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0055】
一方、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっていないとき、つまり「Pmin≧P」または「P≧Pmax」が成立するときには(S120:NO)、分散板60に異常有りと判定されて(S130)、本処理は一旦終了される。なお、ステップS130にて、分散板60に異常有りと判定された場合には、警告灯の点灯等を行うことで車両の運転者に異常の発生が報知される。
【0056】
次に、本実施形態の作用を説明する。
分散板60に異常が生じると、当該分散板60の圧力損失が変化するため、分散板60よりも上流の排気圧である背圧Pは、正常時とは異なった異常な値となる。ここで、背圧Pの異常値は、排気系を構成する他の部材での圧力損失が変化した場合にも生じる。例えば、フィルタ32のPM堆積量PMsmの変化や、排気通路26の内壁に対する異物付着等によっても圧力損失は変化する。しかし、分散板60の異常とNOx浄化率Rの低下とは高い関連性があるため、NOx浄化率Rの低下と背圧Pの異常値とがともに生じているときには、分散板60に異常が生じている可能性が非常に高い。
【0057】
そこで、上記異常判定処理では、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも低く(ステップS110での肯定判定)、かつ背圧Pが予め定められた上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値ではない異常値のときには(ステップS120での否定判定)、分散板60に異常ありと判定される。従って、NOx浄化率Rが低下する原因の一つである分散板60の異常を特定することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも低く、かつ背圧Pが予め定められた上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値ではない異常値のときには、分散板60に異常ありと判定するようにしている。従って、NOx浄化率Rが低下する原因の一つである分散板60の異常を特定することができるようになる。
(第2実施形態)
次に、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第2実施形態について、図3を参照して説明する。
【0059】
フィルタ32が上記圧力センサ150の上流に設けられている場合、フィルタ32でのPM堆積量が圧力センサ150で検出される背圧Pに影響を与える。従って、背圧Pに基づく分散板60の異常判定を行うに際して、PM堆積量の影響による背圧Pの変化を、分散板60の異常による背圧Pの変化であると誤って判定するおそれがある。
【0060】
そこで、本実施形態では、こうしたPM堆積量が分散板60の異常判定に与える影響を抑えるようにしており、第1実施形態で説明した異常判定処理に対して、図3に示すように新たなステップS200及びステップS210の処理を追加するようにしている。
【0061】
そこで、以下では、第1実施形態との相異点を中心にして、本実施形態における異常判定処理を説明する。
図3に示す本実施形態の異常判定処理も、制御装置80によって所定周期毎に実行される。なお、図3において先の図2で説明した処理ステップと同じ処理ステップには、同一のステップ番号を付している。
【0062】
本処理が開始されるとまず、第1NOx濃度N1及び第2NOx濃度N2からNOx浄化率Rが算出される(S100)。
次に、フィルタ32の再生処理の終了直後であり、かつPM堆積量PMsmが判定値Aよりも少ないか否かが判定される(S200)。なお、通常であれば、再生処理が終了した直後のPM堆積量PMsmは十分に少なくなっている。しかし、再生処理の終了が、同再生処理の中断等によるものであった場合には、再生処理が終了した直後のPM堆積量PMsmは十分に少なくなっておらず、PM堆積量PMsmの減少が不完全な状態になっているおそれがある。そこで、上記判定値Aとしては、PM堆積量PMsmが十分に少なくなっていることを判定できる値が設定されており、例えば本実施形態では上記再生終了値PMeと同じ値が設定されている。なお、PM堆積量PMsmと判定値Aとの比較は、必ずも行う必要はなく、適宜省略することもできる。
【0063】
そして、フィルタ32の再生処理の終了直後ではない、またはPM堆積量PMsmが判定値A以上であるときには(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
一方、フィルタ32の再生処理の終了直後であり、かつPM堆積量PMsmが判定値Aよりも少ないときには(S200:YES)、フィルタ32の上流及び下流の排気圧の圧力差であって、フィルタ32の再生処理の終了直後における差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっているか否かが判定される(S210)。
【0064】
この上限差圧値ΔPmaxは、予めの実験等を通じて定められた値である。より具体的には、フィルタ32のPM堆積量PMsmが過剰に多いときや、エンジン1からの微粒子排出量が過剰に多いとき、あるいは上記再生処理が十分に行われていないときには、フィルタ32の圧力損失が過剰に高くなるため、差圧ΔPが過度に大きくなる。このように差圧ΔPが過度に大きいときの値が、上限差圧値ΔPmaxとして設定されている。
【0065】
また、下限差圧値ΔPminも予めの実験等を通じて定められた値である。より具体的には、溶損等の発生によりフィルタ32の圧力損失が過剰に低くなると、差圧ΔPが過度に小さくなる。このように差圧ΔPが過度に小さいときの値が、下限差圧値ΔPminとして設定されている。
【0066】
そして、差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっていないとき、つまり「ΔPmin≧ΔP」または「ΔP≧ΔPmax」が成立するときには(S210:NO)、NOx浄化率R及び背圧Pに基づいた分散板60の異常判定を行うことなく、本処理は一旦終了される。つまり、ステップS210にて否定判定されるときには、分散板60の異常判定が禁止される。
【0067】
一方、差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっているとき、つまり「ΔPmin<ΔP<ΔPmax」が成立するときには(S210:YES)、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいか否かが判定される(S110)。そして、NOx浄化率Rが浄化率判定値α以上であるときには(S110:NO)、NOxの浄化が正常に行われていると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0068】
一方、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいときには(S110:YES)、分散板60の上流の排気圧である背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値となっているか否かが判定される(S120)。なお、このときの背圧Pは、ステップS200にて肯定判定されているため、フィルタ32の再生処理の終了直後における背圧Pとなっている。
【0069】
そして、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっているとき、つまり「Pmin<P<Pmax」が成立するときには(S120:YES)、分散板60が正常であると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0070】
一方、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっていないとき、つまり「Pmin≧P」または「P≧Pmax」が成立するときには(S120:NO)、分散板60に異常有りと判定されて(S130)、本処理は一旦終了される。なお、ステップS130にて、分散板60に異常有りと判定された場合には、警告灯の点灯等を行うことで車両の運転者に異常の発生が報知される。
【0071】
次に、本実施形態特有の作用を説明する。
本実施形態の異常判定処理では、ステップS200にてフィルタ32の再生処理の終了直後であるか否かを判定するようにしている。そして、ステップS120にて背圧Pを比較判定するときには、フィルタ32の再生処理が終了した直後、つまりPM堆積量PMsmが非常に少なくなっているときの背圧Pを用いて比較判定が行われる。そのため、分散板60の異常判定を行うに際して、PM堆積量の影響を極力抑えることができ、これにより分散板60の異常判定の精度が高まるようになる。
【0072】
また、フィルタ32でのPM堆積量が過剰に多いときや、エンジン1からのPM排出量が過剰に多いとき、あるいは上記再生処理が十分に行われていないときには、フィルタ32の圧力損失が過剰に高くなるため、上記差圧ΔPが大きくなる。一方、溶損等の発生によりフィルタ32の圧力損失が過剰に低くなると、上記差圧ΔPは小さくなる。
【0073】
こうしたフィルタ32の圧力損失の変化は、フィルタ32の下流にある圧力センサ150の検出値に影響を与える。そのため、フィルタ32の圧力損失の異常による背圧Pの過度な上昇、あるいは過度な低下を分散板60の異常と誤判定してしまうおそれがある。この点、本実施形態の異常判定処理では、再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値ではない、つまりフィルタ32の圧力損失が過剰に変化しており異常があるときには、背圧P等に基づく分散板60の異常判定が禁止される。そのため、分散板60の異常判定を行うに際して、フィルタ32の圧力損失の異常による悪影響が極力抑えられ、分散板60の異常判定の精度が高くなる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、さらに次の効果を得ることができる。
(2)フィルタ32の再生処理が終了した直後の背圧Pに基づき、分散板60の異常判定を行うようにしている。そのため、分散板60の異常判定を行うに際して、フィルタ32のPM堆積量の影響を極力抑えることができ、これにより分散板60の異常判定の精度を高めることができる。
【0075】
(3)フィルタ32の再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値でないときには、分散板60の異常判定を禁止するようにしている。そのため、分散板60の異常判定を行うに際して、フィルタ32の圧力損失の異常による悪影響を極力抑えることができ、これにより分散板60の異常判定の精度を高めることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した第3実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。
【0076】
上記第2実施形態では、差圧ΔPが所定の範囲外の値であるかどうかを判定するために上記上限差圧値ΔPmaxと上記下限差圧値ΔPminとを設定するようにした。
ここで、フィルタ32には、潤滑油に由来する成分であって上述した再生処理による燃焼が困難なアッシュが堆積していくことが知られている。なお、このアッシュとしては、例えば潤滑油の添加剤等に含まれる成分(Zn、Ca、Mg、Na等の金属成分など)が挙げられる。そして、再生処理が終了した直後の上記差圧ΔPは、アッシュの堆積量によっても変化する。従って、こうしたアッシュ堆積量による差圧ΔPの変化を考慮して、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとを設定することが望ましい。そこで、本実施形態では、フィルタ32のアッシュ堆積量に応じて上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとを可変設定するようにしている。
【0077】
以下、第3実施形態との相異点を中心にして、本実施形態における異常判定処理を説明する。
図4に示す本実施形態の異常判定処理も、制御装置80によって所定周期毎に実行される。なお、図4において先の図2や図3で説明した処理ステップと同じ処理ステップには、同一のステップ番号を付している。
【0078】
本処理が開始されるとまず、第1NOx濃度N1及び第2NOx濃度N2からNOx浄化率Rが算出される(S100)。
次に、フィルタ32の再生処理の終了直後であり、かつPM堆積量PMsmが判定値Aよりも少ないか否かが判定される(S200)。
【0079】
そして、フィルタ32の再生処理の終了直後ではない、またはPM堆積量PMsmが判定値A以上であるときには(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
一方、フィルタ32の再生処理の終了直後であり、かつPM堆積量PMsmが判定値Aよりも少ないときには(S200:YES)、エンジン1を搭載した車両の総走行距離TRに基づいて上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminが算出される(S300)。ここでの上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは、第2実施形態で説明した上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminに準じたものである。ただし、本実施形態では、フィルタ32のアッシュ堆積量による差圧ΔPの変化を考慮して、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは可変設定される。
【0080】
ここで、アッシュ堆積量が多くなるほど上記差圧ΔPは大きくなるため、アッシュ堆積量が多くなるほど上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminを大きくすることが望ましい。そして、アッシュ堆積量は、車両の総走行距離TRが長くなるほど多くなる。そこで、図5に示すように、総走行距離TRが長いほど、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは大きくなるように、同総走行距離TRに基づいて可変設定される。
【0081】
こうして上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminが設定されると、フィルタ32の再生処理の終了直後における差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっているか否かが判定される(S210)。
【0082】
そして、差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっているとき、つまり「ΔPmin<ΔP<ΔPmax」が成立するときには(S210:YES)、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいか否かが判定される(S110)。そして、NOx浄化率Rが浄化率判定値α以上であるときには(S110:NO)、NOxの浄化が正常に行われていると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0083】
一方、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいときには(S110:YES)、分散板60の上流の排気圧である背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値となっているか否かが判定される(S120)。なお、このときの背圧Pは、ステップS200にて肯定判定されているため、フィルタ32の再生処理の終了直後における背圧Pとなっている。
【0084】
そして、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっているとき、つまり「Pmin<P<Pmax」が成立するときには(S120:YES)、分散板60が正常であると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0085】
一方、背圧Pが、上限背圧値Pmaxと下限背圧値Pminとの間の値になっていないとき、つまり「Pmin≧P」または「P≧Pmax」が成立するときには(S120:NO)、分散板60に異常有りと判定されて(S130)、本処理は一旦終了される。なお、ステップS130にて、分散板60に異常有りと判定された場合には、警告灯の点灯等を行うことで車両の運転者に異常の発生が報知される。
【0086】
先のステップS210にて、差圧ΔPが、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値になっていないと判定されるとき、つまり「ΔPmin≧ΔP」または「ΔP≧ΔPmax」が成立するときには(S210:NO)、ステップS310にて、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいか否かが判定される。このステップS310での処理は、ステップS110での処理と同一である。そして、NOx浄化率Rが浄化率判定値α以上であるときには(S310:NO)、NOxの浄化が正常に行われていると判断されて、本処理は一旦終了される。
【0087】
一方、NOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも小さいときには(S310:YES)、フィルタ32に異常有りと判定されて(S320)、本処理は一旦終了される。
次に、本実施形態特有の作用を説明する。
【0088】
本実施形態の異常判定処理では、フィルタ32の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値でないときは、分散板60の異常判定を行わないようにしている。ここで、上述したように再生処理が終了した直後の差圧ΔPは、アッシュの堆積量によって変化する。従って、こうしたアッシュ堆積量による差圧ΔPの変化を考慮することなく、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminを設定すると、分散板60の異常判定を行うか否かの判定精度が悪化するようになる。
【0089】
そこで、本実施形態の異常判定処理では、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminをフィルタ32のアッシュ堆積量に応じて可変設定するようにしている。従って、分散板60の異常判定を行うか否かの判定精度が高くなる。
【0090】
また、再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxよりも大きいときには、フィルタ32を通過する排気の量が少なくなっているため、SCR触媒41に流入する排気の流量が減少し、これによりSCR触媒41に供給される単位時間当たりの還元剤の量が不足してNOx浄化率Rが低下するおそれがある。また、再生処理が終了した直後の差圧ΔPが下限差圧値ΔPminよりも小さいときには、フィルタ32を通過する排気の量が多くなっているため、SCR触媒41に流入する排気の流量が増大する。このようにして排気流量が増大すると、還元剤を含んだ排気がSCR触媒41を速やかに通過してしまうため、SCR触媒41に貯留される還元剤の量が不足してNOx浄化率Rが低下するおそれがある。つまり、NOx浄化率Rが所定値以下に低い場合であって、差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値ではないときには、フィルタ32に異常が生じていると判定することができる。
【0091】
そこで、本実施形態の異常判定処理では、再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値ではなく(ステップS210の否定判定)、かつNOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも低いときには(ステップS310での肯定判定)、ステップS320にて、フィルタ32に異常ありと判定される。従って、分散板60の異常のみならず、フィルタ32の異常も判定することができる。
【0092】
以上説明したように、本実施形態によれば、第2実施形態の効果に加えて、さらに次の効果を得ることができる。
(4)フィルタ32の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値でないときは、分散板60の異常判定を行わないようにしている。そして、上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとをフィルタ32のアッシュ堆積量に応じて可変設定するようにしている。より詳細には、アッシュ堆積量と相関する車両の総走行距離TRが長いほど、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは大きくなるように可変設定している。従って、分散板60の異常判定を行うか否かの判定精度を高めることができるようになる。
【0093】
(5)再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値ではなく、かつNOx浄化率Rが浄化率判定値αよりも低いときには、フィルタ32に異常ありと判定するようにしている。従って、分散板60の異常のみならず、フィルタ32の異常も判定することができるようになる。
【0094】
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・第2実施形態において、先の図3に示したステップS210の処理を省略する、つまり差圧ΔPの比較判定処理を省略してもよい。この場合でも第2実施形態で説明した(2)の効果を得ることができる。
【0095】
・第3実施形態では、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminの可変設定に際して、車両の総走行距離TRとアッシュ堆積量との相関を利用するようにした。この他、アッシュは、再生処理での微粒子の燃え残りでもあるため、再生処理の実行回数が多いほどアッシュ堆積量は多くなる。そこで、先の図5に示すように、フィルタ32の再生処理の実行回数が多いほど、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは大きくなるように可変設定するようにしてもよい。なお、この変形例は、フィルタ32の再生処理の実行回数を制御装置80に記憶しておくことにより、容易に実施できる。
【0096】
また、上述したように、アッシュは、再生処理での微粒子の燃え残りでもあるため、フィルタ32に捕集された微粒子の積算量、換言すれば再生処理によって処理された微粒子の総量が多いほどアッシュ堆積量は多くなる。そこで、先の図5に示すように、PM堆積量PMsmの積算値が多いほど、上限差圧値ΔPmax及び下限差圧値ΔPminは大きくなるように可変設定するようにしてもよい。
【0097】
・第3実施形態では、再生処理が終了した直後の差圧ΔPが上限差圧値ΔPmaxと下限差圧値ΔPminとの間の値ではなく、かつNOx浄化率Rが浄化率判定値α以下のときには、フィルタ32に異常ありと判定するようにしたが、これらの各処理を省略してもよい。この場合でも、第3実施形態で説明した(4)の効果を得ることができる。
【0098】
・還元剤として尿素水を使用するようにしたが、この他の液状の還元剤を使用するようにしてもよい。
・NOx浄化触媒として、選択還元型NOx触媒とは異なる触媒を用いてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…エンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…燃料添加弁、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホール、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…吸気絞り弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…絞り弁開度センサ、21…機関回転速度センサ、22…アクセルセンサ、23…外気温センサ、24…車速センサ、25…イグニッションスイッチ、26…排気通路、27…燃料供給管、30…第1浄化部材、31…酸化触媒、32…フィルタ、40…第2浄化部材、41…選択還元型NOx触媒(SCR触媒)、50…第3浄化部材、51…アンモニア酸化触媒、60…分散板、80…制御装置、100…第1排気温度センサ、110…差圧センサ、120…第2排気温度センサ、130…第1NOxセンサ、140…第2NOxセンサ、150…圧力センサ、200…尿素水供給機構(還元剤供給機構)、210…タンク、220…ポンプ、230…尿素添加弁、240…供給通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤の供給によりNOxを浄化するNOx浄化触媒と、還元剤を排気通路内に供給する還元剤供給機構と、排気通路内に設けられて前記NOx浄化触媒よりも上流で還元剤を分散させる分散板とを備える内燃機関の排気浄化装置において、
前記分散板よりも上流の排気圧を検出する圧力センサを備え、
前記NOx浄化触媒でのNOx浄化率が所定値以下であって、かつ前記排気圧が予め定められた上限圧力値と下限圧力値との間の値でないときには、前記分散板に異常ありと判定する異常判定を行う
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記圧力センサの上流には、排気中の微粒子を捕集するとともに再生処理が行われるフィルタが設けられており、
前記再生処理が終了した直後の前記排気圧に基づいて前記異常判定を行う
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記フィルタの上流及び下流の排気圧の圧力差を検出する差圧センサを有しており、
前記再生処理が終了した直後の前記圧力差が予め定められた上限差圧値と下限差圧値との間の値でないときには、前記異常判定を禁止する
請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記上限差圧値及び前記下限差圧値は、前記フィルタのアッシュ堆積量に応じて可変設定される
請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記内燃機関が搭載された車両の総走行距離が長いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される
請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記再生処理の実行回数が多いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される
請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記フィルタに捕集された微粒子の積算量が多いほど、前記上限差圧値及び前記下限差圧値は大きくなるように可変設定される
請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記再生処理が終了した直後の前記圧力差が前記上限差圧値と前記下限差圧値との間の値ではなく、かつ前記NOx浄化率が前記所定値以下のときには、前記フィルタに異常ありと判定する
請求項3〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−100729(P2013−100729A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243698(P2011−243698)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】