説明

内視鏡

【課題】オートクレーブ処理の際にステンレス鋼材表面のクロム酸化膜が破壊されないようにして、内視鏡の内部空間に配置されているステンレス鋼材の腐食を防止することができる内視鏡を提供すること。
【解決手段】内視鏡の外装部材によって囲まれた内部空間に、ステンレス鋼により形成された部材が内蔵されて、外装部材の外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなると内部空間内の空気が外部空間に排出されるように構成された内視鏡において、酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材12を内部空間内に配置して、内部空間内の空気が外部空間に排出されたときに、酸素貯蔵材12から内部空間に酸素が放出されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を使用したあとの滅菌処理として、近年はオートクレーブ(高温高圧蒸気滅菌)処理を行うのが最も望ましいとされており、それに対応して、内視鏡は外装が気密に構成されている。
【0003】
しかし、高温高圧の蒸気は内視鏡の外装材やシール用のOリング等から内視鏡の内部空間に侵入して内部に水分が蓄積されてしまう場合がある。そこで従来は、内視鏡の内外を連通する連通路に換気手段を設けて、内部空間の換気を行うことができるようにしていた(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−130323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡各部を構成する構造材の多くは耐蝕性の優れたステンレス鋼で形成されている。ステンレス鋼は表面に不動態膜であるクロム酸化膜等が形成されることで優れた耐蝕性を得る特性を有している。即ち、ステンレス鋼は酸素と触れ合うことで耐蝕性が生成されている。
【0005】
しかし、オートクレーブ処理に先立って内部空間が真空に近い状態にされるとクロム酸化膜が破壊され、そこに蒸気の侵入が加わると、クロム酸化膜が再生されないうちにステンレス鋼材に錆が発生してしまう。そして、その後になって内部空間の換気を行っても錆が消えることはないので、ステンレス鋼材が次第に腐食されてしまっていた。
【0006】
本発明は、オートクレーブ処理の際にステンレス鋼材表面のクロム酸化膜が破壊されないようにして、内視鏡の内部空間に配置されているステンレス鋼材の腐食を防止することができる内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡は、内視鏡の外装部材によって囲まれた内部空間に、ステンレス鋼により形成された部材が内蔵されて、外装部材の外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなると内部空間内の空気が外部空間に排出されるように構成された内視鏡において、酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材を内部空間内に配置して、内部空間内の空気が外部空間に排出されたときに、酸素貯蔵材から内部空間に酸素が放出されるようにしたものである。
【0008】
なお、酸素貯蔵材が交換自在に配置されているとよく、外装部材に開閉自在な蓋が設けられていて、酸素貯蔵材が蓋の内側位置に配置されていてもよい。その場合、蓋が、閉状態においては外部空間と内部空間との間を気密にシールするシール性を備えているとよい。
【0009】
また、酸素貯蔵材が炭素系の材料であってもよく、外装部材が、外部空間と内部空間との間を気密にシールするシール性を備えていて、外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなると開いて外部空間と内部空間とを連通させる逆止弁が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材を内視鏡の内部空間内に配置して、内部空間内の空気が外部空間に排出されたときに、酸素貯蔵材から内部空間に酸素が放出されるようにしたことにより、内視鏡の内部空間に配置されているステンレス鋼材表面のクロム酸化膜がオートクレーブ処理の際等に速やかに再生されて、ステンレス鋼材の腐食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
内視鏡の外装部材によって囲まれた内部空間に、ステンレス鋼により形成された部材が内蔵されて、外装部材の外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなると内部空間内の空気が外部空間に排出されるように構成された内視鏡において、酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材を内部空間内に配置して、内部空間内の空気が外部空間に排出されたときに、酸素貯蔵材から内部空間に酸素が放出されるようにする。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は内視鏡を略示しており、可撓管状の内視鏡の挿入部1の先端面2に、図示されていない観察窓や照明窓等が配置されて、その内部に、対物光学系や照明用ライトガイドの射出端部等が内蔵されている。
【0013】
挿入部1を形成する可撓管は、ステンレス鋼細線を編組して形成された網状管がステンレス鋼帯材製の螺旋管に被覆されて、その外装部材である外皮は可撓性の合成樹脂材で形成されている。また、ステンレス鋼製の操作ワイヤ等が挿入部1内に挿通配置され、挿入部1の先端で対物光学系等を支持する先端部本体にもステンレス鋼が使用されている。
【0014】
挿入部1の基端に連結された操作部3には、操作部1の先端付近に形成された湾曲部を遠隔操作で任意の方向に任意の角度だけ屈曲させる操作を行うための湾曲操作機構等が内蔵されている。操作部3を外装する操作部ハウジングは合成樹脂材で形成されており、湾曲操作機構等を構成する部材の多くはステンレス鋼で形成されている。
【0015】
操作部3の背部から延出する可撓管状のユニバーサルコード4の先端には、図示されていないビデオプロセッサに接続されるコネクタ部5が設けられている。ユニバーサルコード4は、挿入部1の可撓管と同様の構成になっている。
【0016】
コネクタ部5も、外装部材であるコネクタハウジングは合成樹脂材で形成され、内部には多くのステンレス鋼部材が用いられている。6は、照明光を受けるための照明用ライトガイドの入射端部が配置されたライトガイドコネクタ、7は、撮像信号等の授受を行うための接続端子等が配置された電気コネクタであり、各々コネクタ部5から突出して配置されている。
【0017】
このような構成を有する内視鏡の内部空間(外装部材の内側の空間)は、全体として一つながりに連通している。そして、各部の外装部材は、外部空間と内部空間との間を気密にシールするシール性を備えていて、内視鏡が全体として気密に構成されている。
【0018】
ただし、コネクタ部5の外装部材には、外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなった時だけ開く逆止弁8が配置されていて、外部空間の気圧が内部空間の気圧より低くなると内部空間内の空気が逆止弁8を通って外部空間に排出される。
【0019】
また、コネクタ部5の外装部材に形成された開口部9に開閉自在な蓋11が設けられていて、酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材12がその蓋11の内側位置の内部空間内に配置されている。
【0020】
蓋11は、閉状態においては外部空間と内部空間との間を気密にシールするシール性を備えており、蓋11を開けば、開口部9が開口して酸素貯蔵材12を任意に交換することができる。
【0021】
酸素貯蔵材12としては、特開2006−221993等に酸素吸着材料について解説されているが、構成資源が豊富で軽量な炭素系の材料である例えば活性炭、活性炭素繊維、ナノカーボン材等を用いるとよい。ただし、その他の酸素吸着材料であってもよい。その形態は、粉末状、繊維状、粒状、又はペレット状等多様な形態で使用することができ、単位面積あたりの吸着量が可及的に大きいものが望ましい。
【0022】
コネクタ部5内には酸素貯蔵材12を配置するためのスペースが、空気を十分に通過させる網状又は多孔状その他の形状の通気隔壁13で仕切られて形成されている。したがって、通気隔壁13が配置されている空間は内視鏡内の全内部空間と連通している。
【0023】
このような構成により、オートクレーブ処理に先立って、内視鏡が置かれているオートクレーブ滅菌槽内(即ち、外部空間)の気圧が低下して内視鏡の内部空間内の空気が逆止弁8を通って外部空間に排出されたとき等には、酸素貯蔵材12から内視鏡の内部空間に酸素が放出されて、内部空間に数多く存在するステンレス鋼製の部材の表面にクロム酸化膜が速やかに再生され、ステンレス鋼製の部材に錆が発生しない。
【0024】
そして、オートクレーブ滅菌処理が繰り返されて酸素貯蔵材12から酸素が十分に放出されない状態になったら、蓋11を開いて酸素貯蔵材12を新しいものに交換し、ステンレス鋼の防錆機能を持続させることができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば図2に示されるように、酸素貯蔵材12を操作部3内に配置する等、多様な実施態様をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施例の内視鏡の略示図である。
【図2】本発明の第2の実施例の内視鏡の略示図である。
【符号の説明】
【0027】
1 挿入部
3 操作部
5 コネクタ部
8 逆止弁
9 開口部
11 蓋
12 酸素貯蔵材
13 通気隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の外装部材によって囲まれた内部空間に、ステンレス鋼により形成された部材が内蔵されて、上記外装部材の外部空間の気圧が上記内部空間の気圧より低くなると上記内部空間内の空気が上記外部空間に排出されるように構成された内視鏡において、
酸素を吸着貯蔵した酸素貯蔵材を上記内部空間内に配置して、上記内部空間内の空気が上記外部空間に排出されたときに、上記酸素貯蔵材から上記内部空間に酸素が放出されるようにしたことを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
上記酸素貯蔵材が交換自在に配置されている請求項1記載の内視鏡。
【請求項3】
上記外装部材に開閉自在な蓋が設けられていて、上記酸素貯蔵材が上記蓋の内側位置に配置されている請求項2記載の内視鏡。
【請求項4】
上記蓋が、閉状態においては上記外部空間と上記内部空間との間を気密にシールするシール性を備えている請求項3記載の内視鏡。
【請求項5】
上記酸素貯蔵材が炭素系の材料である請求項1ないし4のいずれかの項に記載の内視鏡。
【請求項6】
上記外装部材が、上記外部空間と上記内部空間との間を気密にシールするシール性を備えると共に、上記外部空間の気圧が上記内部空間の気圧より低くなると開いて上記外部空間と上記内部空間とを連通させる逆止弁が設けられている請求項1ないし5のいずれかの項に記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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